2009年5月31日日曜日

1ミリの癌を発見できる蛍光分子!?

今日のTVで特集をやってました。

東大薬学部の浦野泰照先生と米国立がん研究所(NCI)が昨年末にネイチャーに発表した内容です。
癌細胞に取り込まれると蛍光を発するような特殊な物質を結合させた抗体を、注射したり散布したりして観察すると、癌の有無や広がりを診断できる画期的な技術です。

もちろん、これが臨床応用されるにはまだ時間がかかりますが、術中の切除範囲や進行度の診断には有用だと思います。ただ、早期発見に応用できるのは、おそらく消化器癌や中枢型の肺癌などに限られるのではないかと思います。直接内視鏡で観察できない、乳癌、膵癌、肝癌などに対しては、もうひと工夫必要だと思います。

今のところ、この蛍光法を乳癌の領域で応用できそうなのは、乳頭分泌症例の乳管内視鏡時の乳管内伸展範囲の診断、乳房温存術時の切除断端の術中診断といったところでしょうか?現在行なわれている検査法以上の効果があるかどうかは不明ですが、これからの癌治療の進歩のきっかけになりそうな技術だと思います。

臨床医だけでなく、このような基礎医学に携わる研究者の方々の努力が医学の進歩に大きな役割を果たしているということをあらためて実感しました。

2009年5月26日火曜日

看護学校講義

昨日、看護学校の臨床講義に行ってきました。内容は、外科看護各論〜乳腺・甲状腺です。

甲状腺はプリントのみでさらっと(話すことがあまりないんです…)、乳腺はスライドを用いて講義してきました。
ところが、講義開始時にトラブル発生。私のMacをプロジェクターにつないでみましたが、全然写らないのです。別のプロジェクターに変えても同じ。事務員が来てくれて、あれこれ30分かかっても改善せず、諦めかけた時に自分でMacの接続部分を差し直してみると映りました!単に差し込み方が不十分だっただけみたいです。やれやれ…。

この間に、学生さんたちに、”余命1ヶ月の花嫁”を見たか聞いてみると、5人ほど映画館に見に行ってました。けっこう若い人たちにもインパクトがあったようです。映画を見た学生さんたちは、乳がん検診の重要性を理解してくれたようです。

そして、ようやく早口で講義を開始。けっこう写真をいっぱい使ったのであまり飽きずに聴いていてくれました(それでも机に伏せて熟睡してた学生もいましたが…)。最近の看護学生さんは昔に比べると授業態度は良くなったような気がします。そういえば浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生が、ブログの中で、大学に講義に行った時に態度の悪い学生がいたので激怒して講堂から出て行かせたと書いていました。気持ちはわかるような気がしますが、私には激怒したあとで、何事もなかったように講義する自信がないので、聞く気のない人は黙って寝かせておきます。結局、そういう姿勢は、看護師になった時に自分が困ることになるわけだし、何の得にもならないですからね。

来週もう1回、別のクラスで講義があります。まじめに聞いてくれるように魅力的な講義をしたいものです。

2009年5月24日日曜日

Breast Cancer Forum 2009〜St.Gallen 2009の報告

昨日、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催されたBreast Cancer Forum 2009という講演会に行ってきました。

プログラムは、①St.Gallen 2009の報告会、②スイスからの招待演者によるBIG1-98というタモキシフェンとレトロゾールの比較試験の報告、③「ホルモン感受性乳癌の標準治療を探る」というテーマのパネルディスカッションで、全国から800人以上の乳腺外科医が集まりました。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、St Gallen(ザンクトガレン)という国際会議は、それまでに集積された臨床試験結果をもとに、乳癌の再発リスク分類の方法を決めたり、初期治療の方法を話し合う会議です。最近では2年に1度行なわれています。

St.Gallen 2009のトピックを一部抜粋します。

①ホルモン感受性の判定基準が10%から1%に引き下げられ、より多くの症例にホルモン療法の適応を与えるようになった。HER2は、逆に10%から30%に引き上げられ、適応が厳密になった。
②再発リスクをリスク因子をもとに低リスク、中間リスク、高リスクにまず分けてから、治療法を提示する考え方から、治療法別にその患者さんに投与する妥当性があるかを検討する方法に変更された(これは簡単に説明するのは難しいです)。最終的に問題になるのはホルモンレセプター陽性、HER2陰性の乳癌で、この群に抗癌剤を上乗せするかどうかの判断は、ホルモンレセプターの発現程度や組織学的異型度、腫瘍径、リンパ節転移数、脈管浸襲の程度、増殖能(ki67など)で判断することになった。
③Mamma PrintやOncotype DXなどの多遺伝子発現解析が再発予測因子として認識され、今後の臨床応用に道筋ができた。
④センチネルリンパ節生検は標準的治療法と認定された。ただ、微小転移と取り扱いについては結論は先送りされた。
⑤トリプルネガティブ乳癌の治療については、現在臨床試験が進行中という報告にとどまった(イグザベピロン、プラチナ製剤、PARP阻害剤など)。

こんなところです。ちょっと難しいですね。
興味深かったのは、術前内分泌療法についての招待演者の先生のコメントです。St.Gallen 2009では、ホルモンレセプター強陽性、HER2陰性の乳癌に対しては、抗癌剤があまり有効ではなく、ホルモン療法の投与は妥当であるというvoting(観客がスウィッチを押して質問に答えて集計する方法)の結果であったにもかかわらず、実際の欧米の医師はほとんど術前内分泌療法を行なっていないという招待演者の先生のお話です。効果があるとわかってはいても、慣れ親しんだ化学療法を選んでいるというのが実態のようです。現在、日本で行なわれている術前内分泌療法の結果が出れば、世界的に考え方が一変するかもしれません。

1日だけの講演会でしたが、なかなか勉強になりました。
なお、NPO法人 がん情報局のHPにSt.Gallen 2009の論文の日本語訳が出ています(http://www.ganjoho.org/)。興味のある方は、ご参照ください。

2009年5月20日水曜日

術式の選択〜センチネルリンパ節生検について

つい数年前までは、乳癌の標準術式では腋窩リンパ節郭清が必須でした。理由は、切除して調べなければ微小な転移があるかどうかわからなかったからです。その結果、リンパ節転移が結果的にはなかったのに、後遺症のリンパ浮腫に悩まされる患者さんが多く発生していたのです。

そこで、最初に転移するリンパ節(見張りリンパ節=センチネルリンパ節)を手術中に調べて、転移がなければそれより先のリンパ節に転移はないだろうから腋窩郭清を省略しても良いのではないか、との仮説のもとで始められたのが、センチネルリンパ節生検です。後でも述べますが、色素や核種(放射性物質)を腫瘍周囲に注射して、最初にそれらが流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節として同定しました。この方法を多数の患者さんで検証した結果、良好な成績が得られたため、現在では標準的な手技として世界中で行なわれるようになったのです。

1.センチネルリンパ節生検の適応
腫瘍の大きさは施設によってまちまちですが、おおむね2-3cm以下を適応にしている病院が多いようです。
また、明らかなリンパ節転移がある場合は、適応外です。術前化学療法を行なった場合は、前回コメントの返事で書いたように、適応には注意が必要です。センチネルリンパ節に転移していた癌細胞は消えていて、他の転移リンパ節では生き残っている可能性があるからです。また、診断のために腫瘍を摘出してしまったあとにセンチネルリンパ節生検をしようとすると、傷によってリンパ液の流れが変わってしまっていて、別のリンパ節をセンチネルと誤認してしまう可能性があるため、原則的には適応外になってしまいます。

2.センチネルリンパ節の同定方法
①色素法…インジコカルミンなどの色素を腫瘍直上の皮膚や腫瘍の周囲、乳輪部に注入→腋窩を切開し、染まったリンパ管を探して、一番乳腺に近いリンパ節を同定する。利点は安価で簡便なこと、欠点は、リンパ管の同定が難しい場合があることや、センチネルリンパ節が2個あったり、腋窩以外にある場合に対応できないこと。
②RI法…核種(放射性物質)を色素法と同様に注入。ガンマプローブという放射線探知機で核種が集まったセンチネルリンパ節を同定する。利点はセンチネルリンパ節を見つけやすいため小さな傷ですむこと、センチネルリンパ節が複数あったり、腋窩以外でも同定できること、欠点は放射性物質のため、取り扱いが煩雑なことと高価なこと。

*私のところでは、色素法を行なっていますが、上記の欠点を補うために、術前日にCTリンフォグラフィという方法を併用しています。これは造影剤を少量、色素法と同様に注入してからCTを撮影する検査です。リンパ管やセンチネルリンパ節が明瞭に描出され、立体的な位置関係がわかります。センチネルリンパ節がどこにあっても複数あってもわかりますし、リンパ節の部位をCTを見ながらマークしておけば、翌日の色素注入時には簡単に見つけることが可能です。同定率はいまのところ100%です。

3.センチネルリンパ節生検の問題点
①もし転移があって、リンパ管を閉塞させていた場合には、流れが変わって別のリンパ節が染まってしまい、誤った判断をしてしまうことがある。
②色素法単独では、腋窩外(胸骨傍や鎖骨下)にある場合や複数ある場合にすべてを摘出できない場合がある。
③術中の病理検査の限界(微小な転移は少ない切片では診断できない場合がある)。

以上のような課題はありますが、現在までの報告では、臨床適応はほぼ問題ないと考えられています。この手技の確立により、多くの患者さんがリンパ浮腫の不安から解放されました。ただ、温存手術と同様に適応を拡大しすぎると、せっかくの素晴らしい手技に疑念を与える結果になりますので、慎重に考えていくべきだと思っています。

2009年5月16日土曜日

術式の選択〜乳房温存術か?乳房切除術か?

乳癌のコミュニティを覗いてみると、術式の選択で悩んでいたり、間違った知識を持っていたり、という状況をよく目にします。
そこで今回は、乳癌の術式とその特徴、選択基準について書いてみます。

乳癌の術式には、大きく分けて二つあります。乳房をすべて切除する、胸筋温存乳房切除術(簡単に乳房切除術とここでは書きます)と乳腺を部分的に切除する乳房温存術です。

まず、乳房温存術の主な適応ですが、大きさ3cm以下、1個(ないし一括して切除できる2個まで)であること、諸検査で癌が乳管内を広く拡がっていないこと、術後に放射線治療が可能なこと(重篤な肺合併症や皮膚疾患、膠原病などがない)、患者さんが希望していること、などです。リンパ節転移が多いと予測される場合は、炎症性乳癌型という厄介な再発をすることがあるので、避ける場合もあります。 拡がりは、通常、MRIまたはCTで調べて、温存術で切除可能か判断します。

これらの条件を満たさなければ、基本的には乳房温存術の適応外ということになります。ただ、癌の大きさが3cm以上でも、抗癌剤を先行させて(neoadjuvant chemotherapyと言います)、小さくしてから温存術をする場合もあります。

さて、これらの条件を満たし、温存手術可能と判断された場合は、乳房温存術でも乳房切除術でも選択可能です。乳房温存術の適応があっても乳房切除術を選択される場合もあります。それは、以下のようなmerit、demeritがあるからです。

1.乳房温存術
merit…美容上優れていること、通常のブラジャーの着用が可能であること。
demerit…放射線治療が必要であること。癌が残ってしまう可能性があること(約10-20%。この場合は、再手術または電子線という放射線の追加治療が必要です)。局所再発の可能性が少し高いこと(10年で約10%)。

2.乳房切除術
merit…1回の手術で終了し、放射線も原則不要であること。局所再発は極めて稀であること。
demerit…美容上劣ること(乳房再建術という方法もあります)。特殊なブラジャー(けっこう高価です)が必要になること。

つまり、乳房温存術のmerit、dmeritは乳房切除術のそれと正反対の関係にあります。 ちなみにどちらの術式でも適応を守れば、生存率に差はありません。また術後の合併症・後遺症も大きな差はありません。
患者さんの癌の広がり具合いや進行度、ライフスタイル、考え方に合わせて、最終的に術式を決めています。

乳腺の切除方法とは別に、腋窩のリンパ節を切除するかどうかも大きな問題です。これについてはまた別の機会に書くことにします。

2009年5月14日木曜日

代替補完療法3 フコイダン

フコイダン(フコダインと記載しているのは誤りのようです)は、海草類に含まれる硫酸多糖の一種です。
乳がんをはじめ、進行したがんに効くという評判が一部であるようですので調べてみました。

フコイダンは、1900年代前半に発見されましたが、特に1996年に日本癌学会で制癌作用が報告されてから注目されて研究されていたようです。動物実験では、免疫力に与える効果だけではなく、直接的に癌を自然死(アポトーシスと言います)させる作用があるため、一部の臨床研究者によって患者さんに投与され、その効果が報告されています。

NPO法人”日本がん代替医療情報センター”のHPにフコイダンのアピールが出ていました。吉田医院の吉田年宏先生が熱心に研究されているということです。そこには、学会発表で報告されているという宣伝がなされていますが、信頼できるエビデンスとは言えない、臨床報告のみです。吉田先生が治療されている”末期がん”3例についても、放射線・化学療法を併用した肺癌の症例、術後わずか2ヶ月の胃癌症例、抗癌剤の肝動脈注入を併用した肝臓癌症例であり、フコイダンの効果があると言えるような報告ではありません。

動物実験では、担がんマウスにMekabu Fucoidanを経口投与したところ、生存期間が延長し、正常マウスに投与するとナチュラルキラー(NK)活性やT細胞のIFN-γ産生が高まったという報告があります。しかし、動物実験で効果があったとしても、人間に対して効果があるという保障はまったくありません。動物実験で効果があったのに人間に効果がない、または副作用で臨床応用できない例は山ほどあるのです。
ちなみにフコイダンの人間に対する安全性・有効性についての臨床試験の文献は、調べた範囲内ではないようです。

以上から、現時点では、フコイダンが、乳がん、もしくは他の癌に対して効果があるという証明はなされていないということが言えます。もちろん、可能性はあるかもしれません。しかし、現在国内の一部の医師が投与しているようなやり方では、その効果の立証は不可能です。本当に効果があると考えるなら、なぜ臨床試験をしようとしないのか不思議です。

私は、患者さん、個人個人の判断で、フコイダンを試すのは否定しません。しかし、(人間の)癌に効くと宣伝するのは違法ですし、現在の標準治療をやめてフコイダンのみで治療するのも反対です。現時点では、標準治療がまったく効果がなかった場合であったり、標準治療に併用する形であれば許容されるかもしれません。しかし、安全性の保障もされていないことを考慮して判断して下さい。また、巧妙に患者を装って、mixiなどの乳がん患者さんのコミュニティに入り込んで来る業者もいますので注意しましょう。

2009年5月12日火曜日

訃報…

乳がん闘病記「おっぱいの詩」の著者で映画「Mayu-ココロの星-」のモデルでもある、大原まゆさんが5/9にご逝去されたというニュースを今朝見ました。
きっと、まゆさんの明るく前向きに生きる姿に励まされた乳がん患者さんはたくさんいたことでしょう。それだけに、この訃報のショックは大きいですよね…。

私は、イベントの準備会と講演で2回ほどお目にかかっただけですが、目がきらきらした、明るく素敵な女性でした。
21才で発症、26才という若さで天に召されてしまったまゆさん…、きっとつらいことがたくさんあったと思いますし、もっとやりたいこともいっぱいあったと思いますが、あまり表には出さずに乳がんと必死に闘い、明るく生き抜きました。そして若年者の乳がん啓蒙活動に大きな力を与えてくれました。その意志は、きっと多くの人に伝わったはずです。

まゆさん、本当にお疲れさまでした。心よりご冥福をお祈りいたします。

細胞診練習用キット〜第2弾!




連休前の失敗作を教訓に、技師さんにお願いして作ってもらった第2弾です。

写真2枚目は装置(?)の外観です。表面の白っぽい部分は、皮下脂肪に見立てた牛乳を混ぜた寒天(前回はスポンジに寒天をしみ込ませて失敗)、その下にあるピンク色の部分は、乳腺組織に見立てたスポンジに寒天をしみ込ませたものです。この部分に腫瘤に見立てた消しゴムを削った球を埋め込みました。

写真1枚目はエコーで見ながら穿刺針を刺しているところです。表面の真っ黒な部分が脂肪に相当する寒天、その下の白っぽい部分が乳腺組織のスポンジ、スポンジ内部にある真っ黒な塊が腫瘤のゴムです。
今回は、皮下脂肪内の針は明瞭に見え、乳腺組織部分もかなり実物に近くなりました。しこりはまるで硬癌のような影を引いています。ゴム内部の針先はまったく見えないため、少し改善が必要かもしれません。
今度はグミのしこりやこんにゃくゼリーのしこりなんかも試してみようかと考えています。

普段見ないいろいろなものがエコーでこんなふうに見えるということがわかって、なかなか面白かったです。もちろん、乳腺エコートレーニング中の技師さんに練習してもらい、感覚を覚えてもらいましたし、役に立ちました。
ただ、実用化するためには、寒天はもろいので耐久性を増すことと、生ものなので防腐の工夫が必要だと感じました。またいつかチャレンジしてみます!

2009年5月10日日曜日

ピンクリボン・デー

今日は、道内2カ所でピンクリボン関連のイベントがありました。
札幌ドームでは、日本ハムファイターズの田中賢介選手が中心となって企画、ピンクリボン in SAPPORO実行委員会と北海道対がん協会の協力で、抽選で50名に無料マンモグラフィ検診が行なわれました。試合中は選手たちがピンクリボンのリストバントを身につけ、TVを通して乳がん検診の啓蒙活動を行なってくれたようです。田中賢介選手は、試合の方でも活躍してお立ち台に上がりました!でも残念ながらインタビューでは、ピンクリボン運動については触れてくれなかったようですね…。
一方。小樽では、”ピンクリボン・ファミリー”主催の、「母の日」イベントがウィングベイ小樽で行なわれました。母の日にお母さんの健康を考えてみませんか?というテーマで行なわれたピンクリボン啓発運動です。残念ながら見に行くことはできませんでしたが、乳がんのリーフレットの配布や啓発グッズの販売、お母さんに「ありがとう」のポストカードを送るコーナー、小樽市保健所による健康相談など盛りだくさんのイベントだったようです。
去年は、「ピンクリボン in SAPPORO - さっぽろテレビ塔」の乳がん検診のお手伝いに参加しましたが、今年も諸事情が許せば、是非参加したいと思っています。

2009年5月6日水曜日

ゾメタと下顎骨壊死1

骨転移の治療薬である、ゾメタの有用性については前にも書きました。
今回は、ゾメタ投与時に一番問題になる、下顎骨壊死について書いてみます。

ゾメタに代表されるビスフォスフォネート製剤は、骨の中の破骨細胞という骨を溶かす細胞の働きを抑えて、骨転移した癌細胞が骨内で増大したり、骨折しやすくなったりする状態を改善します。しかし、一方で歯科治療、特に抜歯などの観血的治療をしたあとに、下顎骨の壊死、感染(骨髄炎)を起こすことがあります。私の患者さんでも一人発症した方がいましたが、ずっと頬の部分から排膿して、治療に難渋しました。

下顎骨壊死とゾメタの因果関係にはいろいろな説がありますが、最近では、破骨細胞の働きを抑えることが主たる原因ではなく、ゾメタが口腔内細菌を増やし、バイオフィルムという状態を作り出すことが深く関与していると考えられています。それは、壊死部に口腔内細菌が増殖していること抜歯前に口腔内清掃をしたり、予防的に抗生剤を投与すると下顎骨壊死の発生率が抑えられたというデータから推測されています。

また、ゾメタは血管新生抑制作用もあるため、抜歯後の創部の治癒を遅らせることも下顎骨壊死を起こしやすくする原因と言われています。喫煙者も同様の理由で起きやすいようです。

現在のところ、予防法は完全に確立しているわけではありませんが、とりあえず気をつけること、対処法は以下のとおりです。
①乳癌患者さんは、日常的に歯科で定期的なチェックをしておく。治療すべき歯は抜歯も含めて治療しておく。喫煙は、できるだけ避ける。
②骨転移治療中に抜歯が必要になった場合、休薬が可能な状態であれば、抜歯の3ヶ月前から抜歯後2ヶ月までゾメタを休薬する。実際は5ヶ月の休薬は困難な場合が多いが、可能な限り長く休薬する方が発症率が低いため、主治医と相談して休薬する。
③休薬が困難な場合、口腔内の十分な清浄化(イソジンのうがいなど)、前日からの予防的抗生剤投与の上で抜歯(抜歯創は縫合閉鎖)。

いずれにしてもゾメタ投与中の患者さんは、こういう副作用があることを十分に理解して、主治医と歯科医と口腔内の状態について、よく相談しておくことが重要だと思います。

2009年5月2日土曜日

細胞診練習用キット〜結果報告


これは、先日作成した、腫瘤を埋め込んだスポンジに寒天を吸い込ませて固めたものを横から見た写真です。
3層になっているのがわかりますか?
見た目はつやつやして綺麗だし、触り心地もぷにゅぷにゅしていてなかなかいい感じでした。技師さんの印象も悪くなく、期待しながらエコーを当ててみると…。

全然内部構造が見えません…。十分に抜いたつもりでも細かい空気が残っているためなのか、そもそもスポンジの構造のせいで超音波が散乱するためなのか、両方なのか…。かろうじて中に埋めたゴムの腫瘤は確認できましたが、これも真っ黒。硬癌には見えますが、良性腫瘍には適さないようです。
どっちにしても今回の試作品は失敗におわりました。

さっそく技師さんと、次作の計画を立てました。今度は技師さんに作成をお願いしました。第2作は、乳腺構造に柔らかいスポンジを使って、脂肪部分は寒天に何か混ぜ物(羊羹みたいに)を入れてみようかと思っています。一回の失敗くらいでめげないで頑張ります。