2010年8月31日火曜日

乳癌の治療最新情報21 デノスマブ(骨転移治療薬)①

2010.8.25に第一三共株式会社がAMG162(デノスマブ)の国内製造販売承認申請を行ないました。

今のところ骨転移に対する化学療法剤はゾメタが代表的であり、優れた効果(骨折、痛みなどの骨関連イベントの減少、骨転移自体に対する増殖抑制効果、他臓器転移に対する付随効果など)が報告されています。実際ゾメタの登場により、骨転移の治療がずいぶん進歩しました。

今回承認申請したデノスマブは、「骨転移を有する進行性乳癌患者を対象としたデノスマブのゾレドロン酸(ゾメタ)対照ランダム化二重盲検多施設共同比較試験」において、有効性がゾメタを上回ったと報告されています。

デノスマブは、通常の生理的な骨吸収のメカニズムや骨代謝調整において非常に重要な役割を果たしているRANK-RANKL系のRANKLに特異的に結合する完全ヒト型モノクローナル抗体(分子標的薬)で、骨吸収を抑制するメカニズムを持ちます。

また、骨粗鬆症の治療薬としても国内第3相臨床試験を実施しており、アロマターゼ阻害剤による骨粗鬆症にも有効との報告もあります。リウマチに対する効果もあると言われており、今後さまざまな用途で用いられるようになるかもしれません。

これでまた乳がん再発治療の武器が増えました。骨転移は生命にはあまり影響しませんが、痛みや骨折など、QOL(生活の質)を著しく低下させます。デノスマブの登場は骨転移で苦しむ患者さんに新たな光を与えてくれそうです。

10/17(日)は乳がん検診(J.M.S)!

今年も10月の第3日曜日(10/17)はマンモグラフィが受けれる日曜日(ジャパン・マンモグラフィサンデー:J.M.S)です。

これは、NPO法人J.POSHが2009年から始めたイベントで、平日は仕事をしていたり、子育てでなかなか受診できない女性を対象に、全国の賛同施設に呼びかけて日曜日に乳がん検診を受けられるようにしたものです。

詳細はJ.POSHのHPに書いてあります(http://www.j-posh.com/jms.htm)。受診できる医療機関のリストもありますので、希望者は早めに申し込んで下さい。

ちなみに私の病院も賛同施設になっています。前日は乳がん患者会の温泉1泊旅行があるため、朝早くに戻らなければならないかもしれません(泣)。でも実際、平日の受診が困難な方は多いはずですので、せっかくのチャンスですから利用して欲しいものです。

2010年8月28日土曜日

第7回 With you Hokkaido報告


今日、札幌医大の講堂で第7回With you Hokkaidoが行なわれました。

以前にもタイムスケジュールを書きましたが、実際の内容と印象を報告します。

①基調講演1 「乳がん患者とコミュニケーション」保坂隆先生(東海大学医学部精神医学教授、聖路加国際病院ブレストセンター)

・がん患者さんの1/3はうつ病、適応障害などの精神疾患を併発する。がんの部位によっても有病率は違うが、乳がんは40%前後。なお、一般人のうつ病有病率は5%で、何らかの病気を患うと10%になり、入院を要する疾患にかかると20%に増加する。
・抑うつの症状には、①抑うつ気分(ゆううつ、気分が落ち込む、楽しくない、悲しい)、②精神運動性抑制(物覚えの低下、考えがまとまらない→「仮性痴呆症」、何もしたくない、おっくう)、③身体症状(食欲不振、体重減少、頭痛、肩こり、不眠など→「仮面うつ病」)などがある。
・抑うつの病前性格には、①メランコリー親和性性格(協調性が高い、ルールに従い、ルールに乗ることを好む→「いい人」)と②執着気質(完全癖が強く最後までやり通す→「真面目な人」)の二つがある。①は変化に弱いため、喪失体験(家族の死、リストラなど)があるとうつ病を発症しやすい。②は心身の加重(過重労働、成果主義など)が加わるとうつになりやすい。
・主治医には「自分の患者はうつになって欲しくない、うつのはずがない」という思いがあることと、「乳がんになれば気分が落ち込むのは当然だ」という正常反応の拡大解釈があるため、うつを正確に診断することは難しい。
・妻と死別した夫は、妻が生きている夫より4年生命予後が短い(男女逆の場合は1.9年だけ…)、特に死別後1年以内に病気になったり急死する率が高いというデータもあり、がん患者家族のケアも重要。
・集団精神療法やグループワークががん患者の生存期間を延長するかどうかははっきりしていない。1970年代のデータは有効という結果だったが1990年代の再検証では有意差が出なかった。これは近年ではこれらの治療を受けない群でも患者会やネットなどで精神的なストレスの軽減ができていたからかもしれない。したがって精神療法などの介入は無効とは言えない。
・医師に好かれる患者(協調性があり、おとなしく、あまり質問しない)の予後は悪く、嫌われる患者(予約通り受診しない、うるさい)は長生きするという傾向がある?→断れるものは断る、嫌なものは嫌だと言うようにしよう!
・抑うつ症状の発生予防法…①リラクゼーション(腹式呼吸、自律訓練など)②イメージ療法(がん細胞を免疫細胞が食べるイメージを思い描きながら寝る、など)
・「患者学入門」…医師は患者とのコミュニケーション法について勉強し始めたばかりだから、患者自らも勉強するべき。①知る責任もある ②病気、治療内容を熟知する ③メモを取る ④十分な説明を必要とする場合は診療時間外に医師にアポを取る ⑤重要な話には家族や友人を同伴する ⑥即決しない(1週間くらいかけて頭を冷やす)

・盛りだくさんでしたが、とても楽しく有意義なお話でした。


②基調講演2 「美しきコミュニケーションスキル」堺なおこさん(フリーアナウンサー)

ピンクリボン in Sapporoのイベントでご一緒させていただいたりS放送局のFM放送に出演させていただいた縁のある堺さんが、人とコミュニケーションを取るための注意点や秘訣を参加型のトークで教えて下さいました。
初対面の印象は最初の6秒で決まってしまい、そこで悪印象を与えると、回復するのに2時間を要する。そして最初に与えた印象は3年間持続する、とか、挨拶などは「ラ」の音階で話すと印象が良い、コミュニケーションを取る場合の座る位置は、ななめが良い、など、すぐに実行できそうな内容を教えて下さいました。

③グループワーク

今回は「手術後の不安・治療」のグループに入りました。いつもは患者さんからの質問コーナーのような形になってしまうのですが、今回は患者さん同士が自発的に体験談などを語ってくれてスムーズに時間が経過しました。

④癒しのフラ ピンクリボンフラダンサーズ(写真)

ちょっと出遅れてしまいましたが、今回もやはりG先生はフラをノリノリで踊りまくっていました。私の患者さんにもフラのサークルに入っている方がいます。リハビリにはちょうど良い運動量なのかもしれません。

⑤基調講演3 「乳がんの方が利用できる社会保障制度、乳がん診療における医療費」高橋由美子さん(札幌医大看護部師長)

高額な医療費は患者さんの家計を圧迫します。今までも何度も相談されたことがありますし、相談できずに通院を中断してはじめて経済的困難を抱えていることを知ったケースもありました。今回のお話は、高額療養費制度、高額療養費貸付制度、高額療養費受領委任払制度、障害年金制度、介護保険サービスなど、詳細は割愛しますが、知らないと損をしてしまう制度をまとめてわかりやすく紹介して下さいました(詳細はネットで検索するか、病院の相談窓口へ)。

長くなってしまいましたが、今回もとても充実した内容で勉強になりました。ただ、リレーフォーライフ(室蘭)と重なっていたためか、今回は参加者が少なかったのが残念でした。来年はもっと早くから宣伝して多くの患者さんや医療従事者に参加してもらえるように頑張ります。

2010年8月26日木曜日

乳腺術後症例検討会6 講演


今回の症例検討会は趣向を変えて、たまたま北海道の学会に来られた岡山のI先生に乳腺疾患の検査(MMG、US、MRI)についての講演をしていただきました。I先生は乳がん検診をはじめ、成人病検診などの検診活動や治療、疾病予防に積極的に取り組んで来られた先生です。

あらかじめ各方面にインフォームしたおかげで51名の参加者が集まり、会場はいっぱいでした(写真)。

講演内容は乳がんの基礎、疫学から各検査法のガイドラインや病理組織との対比など、幅広くお話をしていただきました。普段は個々の症例の診断が中心ですから断片的な情報共有が主になっています。今まで積み重ねてきた知識を整理するには良い機会だったのではないかと思います。

終了後はI先生を囲んで懇親会を開き、先ほど帰宅したところです。たまには他の病院の違う世界で仕事をしている方のお話を聞くのも勉強になります。また明日から新たな気持ちで診療に取り組みたいと思います。

2010年8月24日火曜日

代替補完療法6 ホメオパシー〜続報

やはり科学者はこの事態を無視はできませんよね…。

日本学術会議は代替療法「ホメオパシー」の効果について、「科学的な根拠がなく、荒唐無稽」とし、医療従事者が治療法に用いないよう求める会長談話を24日、発表しました(http://www.asahi.com/national/update/0824/TKY201008240373.html)。

まあ、そもそもこの治療を信じている人たちは現代医療を否定しないと言いつつ、非科学的な論理で効果を主張していますので、科学者が何を言おうと彼らの論理で否定するのでしょう。明日の日本ホメオパシー協会の反論に注目しています(http://www.jphma.org/)。

患者さんが個人的にこの治療を希望して服用する分には否定はしませんが、「効果がある」と他人に勧めるだけの根拠はないことを利用者も理解しなければなりません。また医薬品ではないのに、「癌に効果がある」などと効能を表示して販売を行なえば薬事法違反になります。

ただ、このへんは微妙ですね。おそらく公式見解では体質改善や健康増進目的、免疫力向上目的だと主張するのでしょうが、利用者の中には病気の治療目的でホメオパシーに頼っている場合も多いはずです。また、組織の末端の人たちは病気に対する効能を主張してレメディを勧めている可能性もあります。しかし仮にそれが発覚しても一部の誤った考えを持つ人間がやったことだと言えば組織的な責任は問われないのです。

この問題は歴史が長い分、一筋縄ではいかないような気がします。
もしホメオパシーを信じる方がこのブログの読者にいらっしゃるのでしたら、治療目的でホメオパシーを信じるのは個人の範囲内にとどめておくようにお願いいたします。

月経周期でコレステロール値が変動!

今回は乳がんとは直接関係ない話ですが、女性のとっては大切なトピックです。

エストロゲンはコレステロール上昇を抑制する効果があることは以前から報告されています。実際、患者さんの血液検査結果を見ると閉経後にコレステロールの上昇が見られることは多いのです。これは閉経前の乳がん患者さんにLH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)を投与した場合も同様です。

一方、閉経前女性のコレステロール値の変化についてはあまり報告を聞いたことがありませんでした。今回Eunice Kennedy Shriver米国立小児保健発育研究所(NICHD)のEnrique F. Schisterman氏らによる報告によると、月経周期中はエストロゲン値が上下するためコレステロール値が変動することが確認されたということです。女性のコレステロール値を正確に把握するには、医師は測定時の月経周期の時期を考慮し、2回の月経周期で各月の同時期に測定する必要があると述べています。


<研究の概要>
・対象:18~44歳の健常な女性259人

・方法:2回の月経周期において14回程度採血し、コレステロール値、トリグリセライド(中性脂肪)値とエストロゲン値とを比較。また、排卵を示すホルモンレベルを検出するため、自宅用排卵日検査薬を用いて月経周期の時期をグラフ化した。

・結果:
①大多数(94%)が2回の月経周期で14回以上測定した。ほとんどの女性は運動をしており、喫煙癖はなかった。
②コレステロール値が全ての測定において200mg/dLを超えた女性は5%のみであったが、19.7%は1回以上200mg/dLに達した。
③40歳以上の一部の肥満女性は他の女性に比べてコレステロール値の変動が大きかった。
④エストロゲン値が上昇すると、HDL(善玉)コレステロール値も上昇し、排卵時に最大となった。同時に総コレステロール値、LDL(悪玉)コレステロール値、トリグリセライド値は低下し、この低下はエストロゲン値が排卵で最高値になる2日後から始まり、月経開始直前が最も低かった。


これらの結果はある程度推測できた内容ではありますが、今まで証明されていなかったことなので参考になります。
乳がん患者さんにとっては直接関係はない話ではありますが、エストロゲンの変動がコレステロール値に影響を及ぼしていることがご理解いただけたのではないかと思います。

病院でコレステロール値を調べた際は、月経周期のどの時期だったかメモしておくと良いかもしれませんね。

2010年8月21日土曜日

札幌ドームにKiKi&ピンクリボンクワイヤ登場!


今日札幌ドームで行なわれた日本ハムファイターズvs埼玉西武ライオンズの試合開始前に、先日のピンクリボン in SAPPORO夏休みフェスティバルで素晴らしい歌声を披露してくれた、ゴスペルシンガーのKiKiさんと乳がんの患者さんや医療関係者などから構成されたピンクリボンクワイヤのステージが行なわれました。

今回はピンクリボンの特別プログラムとして、KiKiさんによる国歌斉唱の前に、KiKi&ゴスペルクワイヤがファイターズの勝利と世界中から乳がんで苦しむ人がいなくなることを祈って『VICTORY』を歌いました。また、始球式では、ピンク色のボールが使用され、田中賢介選手から始球式を行うシニアリトルリーグの選手に手渡されました。

このイベントを私は昨日知りました。S医大の先生方や小樽でピンクリボン運動に取り組んでいるCさんなど、知人も出演するので楽しみにしていたのですが…。

なんと今日の試合放送はスカパー!のGAORAのみで民放の中継はなし…。残念ながら見ることはできませんでした(泣)。

なおこの試合はアインズ薬局などでおなじみのアインファーマシーズのSPゲームでした。アインファーマシーズは、このたびピンクリボンを応援して下さることになり、今日からピンクリボンキャンペーンがスタート(写真 HPより転載)。道内各店舗での指定商品の売上げの一部がピンクリボンinSAPPOROに寄付されるそうです。また、指定商品を買った方の中から50組100名を11月のファンフェスティバル2010に招待して下さるそうです。詳しくはアインファーマシーズのHPをご覧下さい(http://ainz-tulpe.ainj.co.jp/contents/event/1010.html)。キャンペーンは10月10日(日)までです。

2010年8月20日金曜日

米国で思春期早発の女児が増加〜乳がんリスクが上昇する可能性

米国では、女児の性成熟の低年齢化が進んでいるようです。

2004年と2006年に米シンシナティ、ニューヨークのイーストハーレム地区、サンフランシスコの6~8歳の女児1,200人強を対象に、乳房組織の状態を触診により調べた結果、7歳では白人10.5%、黒人23.4%、ヒスパニック系15%、8歳では、白人18.3%、黒人43%、ヒスパニック系31%に乳房の発達が認められたとのことです。

10年前の研究では、白人では7歳時で5%、8歳時で10.5%、黒人では7歳児で15.4%、8歳時で36.6%に乳房発達が認められたという(ヒスパニック系のデータなし)ことですから、明らかに性成熟が低年齢化しています。

原因として関連があるのは過体重(肥満)で、思春期の発来に関係する脂肪細胞中のレプチン(http://ja.wikipedia.org/wiki/レプチン)というホルモンが増加するためではないかとシンシナティ小児病院のFrank Biro博士は述べています(ちなみに乳製品の摂取や化学物質との相関は指摘されていません)。

思春期の早期発来は、①生涯の乳がんリスクが増大する②男性からの性的な誘いなどの問題など、女児に心理的、社会的なストレスをもたらすとノースカロライナ大学のMarcia Herman-Giddens博士は述べています。


また、英国の8~14歳の女児を対象とした別の研究では、母親が12歳前に初経を迎えた女児、妊娠中に喫煙していた女児、あるいは第1子である女児は早熟の比率が高いことが明らかになったほか、母親が肥満であると娘も過体重となる傾向があることも判明しています。出生時の体重や身長による影響はありませんが、乳児期の急速なボディ・マス・インデックス(BMI)の増加は早熟との関連が認められているそうです。

以上の結果から、とりあえず自分の子供の乳がんリスクを増加させないためにも適切な栄養管理と運動を幼少時から行なっておくべきだということは言えます。乳製品だけを避ければよいということではなく、過体重にさせないように親として気をつけたいものです。

2010年8月18日水曜日

乳癌の治療最新情報20 ハイブリッドがんペプチドワクチン、北大で開発!

昨日の北海道新聞の夕刊、今日の朝日新聞朝刊などに、このニュースが大きく載っていました。

がんワクチンは以前にも書いたように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/10.html)、現在世界中(国内も含めて)で開発、臨床試験が行なわれています。様々なタイプがありますが、理論的には非常に効きそうに思えても、実際の人体はそう単純ではなく、なかなか十分な効果は得られていないようです。

今回北大遺伝子病制御研究所の西村孝司教授(免疫学)らの研究チームが開発したのは、がんを撃退する免疫細胞「ヘルパーT細胞」と「キラーT細胞」を同時に活性化させるという新しいタイプのがんワクチンです。

従来の研究では、がんに特有のペプチド(アミノ酸が数個結合したもの)を投与し、がん細胞を直接攻撃するキラーT細胞(リンパ球の1種)の活性化に力点が置かれていましたが、西村教授らは、免疫の司令塔であるヘルパーT細胞(同)に注目し、40個のアミノ酸を人工的につなぐことによって、ヘルパーT細胞とキラーT細胞を同時に活性化させるペプチド「H/K-HELP(人工ヘルパー/キラー-ハイブリッドがんペプチドワクチン)」を人工的に合成したということです。

北大病院や近畿大医学部などで臨床試験を行ったところ、一定の投与を終えた6人のがん患者のうち、4人にがんへの免疫反応の増強を確認。近畿大では乳がんから転移し、抗がん剤や放射線療法が効かなかったリンパ節のがんが消失した例もあったそうです。今のところ重い副作用は認められなかったということです。

まだまだ少数例での報告ですので、実用化されるかどうかはわかりませんが、がんワクチンの進歩につながる結果が得られると良いですね。北大は私の母校でもありますので、今回の報告はうれしいニュースでした。今後に期待したいと思います。

2010年8月16日月曜日

体験型乳がん検診イベント

東芝メディカル、財団法人・近畿健康管理センター、アストラゼネカの共催で、体験型乳がん検診イベント「マンモグラフィ検診OSAKA 10」を10/9-10の両日、大阪市の梅田スカイビルで開催するそうです。

対象は40歳以上の女性120人で費用は1500円。マンモグラフィ撮影のほか、乳腺専門医による予防法レクチャーや視触診などを実施するとのことです。

申し込みはインターネット(http://www.astrazeneca.co.jp/10_08mammography/index.html)から可能です。

通常の自治体検診とほぼ同じくらいの費用はかかりますが、今まで受けたことがない方の検診受診のきっかけになるのではないかと思います。今後、大阪だけではなく、全国で開催して欲しいものですね。

2010年8月11日水曜日

代替補完療法6 ホメオパシー

最近ニュースでこのような代替治療の存在を初めて知りました(http://www.asahi.com/health/feature/homeopathy.html、http://www.asahi.com/health/news/TKY201008100476.html)。ホメオパシーを信じて標準治療を拒否して亡くなった患者さんの関係者が「憂慮する会」を設立し、ホメオパシー療法家らに真相解明を求めて運動を始めたということです。

Wikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/ホメオパシー)によると、海外ではけっこう前から行なわれていたようです。その後、日本の団体でも財団法人日本ホメオパシー財団、下部組織の日本ホメオパシー医学協会などが活動をしているようです。

詳細はWikipediaに書いてありますが、そもそもこの治療法(と言えるか疑問ですが)は、ドイツ人医師Samuel Christian Friedrich Hahnemann,(1755年 - 1843年)によって始められ、さまざまな病原になりうるような物質(鉱物、植物、動物などの成分)を極端に希釈したものを砂糖粒にしみ込ませて(レメディ)服用させるという治療法です。体にとっての毒物を非常に少量体内に入れ、この毒物に対する体の抵抗力を意図的に引き出すことにより、自己治癒力を含む生命力を高め、肉体的、心理的、精神的な方向が本来あるべき方向へ修正するというのがこの治療の基礎となる理論です。

当初はイギリスなどの欧米で保険適応になるほど浸透した代替医療でしたが、次第にその根拠が理論的ではないこと、この治療を信じたために手遅れになったなどの事例が続出し、ほとんどの国で正当な治療法とはみなされなくなってきています(一見、アレルギーに対する減感作療法に似ていますが、病態がまったく異なりますのでアレルギーに対する治療と同じ効果は理論的に期待できません)。

何度も書いていますが、私は代替補完療法のすべてを否定するつもりはありません。標準治療を受けながら、または標準治療が無効と判断された場合に、有害ではなく、著しく高価ではなく(この判断は難しいですが…)、患者さんが望むのであれば試みるのはダメだとは思いません。しかし、この件における一番の問題点は、標準治療を拒否することによって本来きちんと治療できるはずのチャンスを逃してしまう危険性があることです(最終的にはその患者さんの自己責任なのかもしれませんが、標準治療を受けてはいけないと思わせるような雰囲気があるのでしょう)。

なお、朝日新聞の記事に対する日本ホメオパシー医学協会HPでの由井寅子会長の反論の中では、「標準治療は否定していないし、検査などを受けることも拒否しないように指導している」というような記述があります。しかし、会長の講演では、予防接種がアレルギーや癌の増加の原因だから受けるべきではない、とか、自閉症はワクチンに含まれている水銀化合物が原因だ、などと話すなど、現代医学の常識からはかけはなれた考え方を持っているのは事実です(ワクチン中の水銀と自閉症の関係は米連邦請求裁判所で否定されていますhttp://transact.seesaa.net/article/115960715.html)。しかもこの治療に理論的根拠はないと言って過言ではありません(Wikipediaを見るだけで理解できるはずですが…。しかし、ホメオパシー関係者はLancetに掲載されたホメオパシーは効果がないというメタアナリシスの結果を否定し、エビデンスレベルの低い論文を根拠に有用性を強調しています)。今回提起された運動をきっかけにして、この治療の正当性vs違法性をきちんと評価し、正しい知識の普及に役立つことを期待しています。

高齢者の乳がん治療

乳腺外科がある私の病棟は、胸部外科と内科(腎臓、リウマチ)の混合病棟です。最近は夏枯れで外科患者数は少なめで経過しています。
今朝の回診で、妙に高齢者が多いなと感じたので調べてみました。

結果は、全体の「平均」年齢は、71.1才!この中には90才代3人を含めて、80才以上が37.5%を占めていました。なんと3人に1人以上が超高齢者なんです。ちなみに外科だけでみてみると、平均年齢は68.5才とやや若めですが、それにしても一般の病院に比べると高齢です。

もともとうちの病院は市内の他の総合病院より高齢者は多いと思います。以前調べたときには、乳がん患者さんの3人に1人は70才以上でした。一般的には40-50歳代にピークがあることを考えるとやはり乳がんに限ってみても平均年齢は高いと思います。

高齢者が多いといろいろ気をつけなければならないことがあります。認知症の方も多いのでコールが頻回だったり、転倒事故が起きやすかったり、看護師さんの労働にはかなり負担がかかります。手術にしても、合併症を持っている患者さんが多いのでなるべく負担をかけないようにしなくてはなりませんし、術後の補助療法の適応も若い患者さんと同じには考えることはできません。

ただ、乳がんの手術は比較的侵襲が少ないので、高齢者の方でも根治手術が可能な場合が多いのです。ちなみに当院での最高齢は94才です。早期に発見できれば、全身状態があまり良くなくても場合によっては局所麻酔での部分切除で治癒させることも可能です。何歳になっても乳がんの早期発見は重要だと思います。

2010年8月6日金曜日

ピンクリボンin SAPPORO 夏休みフェスティバル!






今日はピンクリボンin SAPPORO 夏休みフェスティバルに参加してきました。

午前が外来だったので、仕事を終えてから3時くらいに会場に着きました。ちょうど「家族大発表会」の真っ最中で、民謡やフラダンス、ストリートダンスなどを鑑賞しました。その後、Sapporo5リボンズという、全国で初めて5つのリボン(レッド→エイズ患者への差別排除、理解と支援、パープル→女性への性暴力防止と被害者救済、ゴールド→小児がんの子供と家族の支援、オレンジ→子供の虐待に対する予防と救済、養育者への支援、ピンク→乳がんの早期発見、診断、治療の啓蒙活動)が協力して活動を行なっていることのアピールと、一般公募して選ばれた最優秀賞のロゴマーク(写真左上)の発表がありました。これで昼の部は終了。

そして6時から、ゴスペルシンガーのkikiさんのライブが始まりました。「ゴスペル」というのは、聖書の「福音書」という意味で、語源は、アングロ・サクソン語の god-spell (良い話)から来ているそうです。

kikiさんは、2003年にデビューし、札幌中心に活動しているプロのシンガーです。2004年に乳がんを発症し、その後も仕事に復帰していましたが2009年に再発。闘病中であることをまったく感じさせない、力強い歌声と前向きな明るさを持った素晴らしい女性でした。

kikiさんの歌声を聞いた人たちはみな共感すると思うのですが、シンガーとしての素晴らしさも、札幌近郊だけで活動するのはもったいないくらいの実力だと思います。そして、自分だけではなく、周りの人々に幸せを振りまいてくれる、まさに「ゴスペル」そのものといった感じでした。

kikiさんのライブを堪能したあと、このステージのために練習してきた、乳がんの患者さん、Dr、一般市民からなるピンクリボンクワイアとの競演を数曲披露してくれました(写真右上)。これもまた素晴らしかった!会場にいたすべての人たちに元気と勇気を与えてくれました。ピンクリボンクワイアのメンバーもたった5回の練習とは思えないほどの出来映えでびっくりしました。歌っている人たちすべてが明るくはつらつとした様子で歌っていたのがとても印象的でした。

最後に会場のホワイトロックがピンクにライトアップ(写真左下…あまりピンクに見えませんが…)されて8時過ぎに終了しました。テレビ塔は今回もライトアップされましたが、ピンクというより青紫という感じでした(写真右下)昨年の映画上映も良かったですが、今回のライブも最高でした。今日は32℃を超える猛暑の中、会場には座りきれないほどの観客も集まって大盛況でした。これでまた来年も盛り上がりそうです!

2010年8月5日木曜日

経口避妊薬はER「陰性」乳がんを増加させる!?

女性ホルモンと乳がんの関連については広く知られていますが、今回は意外なニュースです。

一般的には更年期障害に対するホルモン補充療法などの女性ホルモンの暴露によって増加するのは、ER陽性乳がんと言われています。理論的にも納得がいきますし、当然と言えば当然です。

しかし、今回のボストン大学スローン疫学センターのLynn Rosenbergらの報告によると、経口避妊薬を投与されていた女性で増加する乳がんのタイプは、むしろER陰性に多かったということです。今までも、経口避妊薬で乳がんが増加する可能性については警告されていました。経口避妊薬も女性ホルモンの合剤ですので、乳がんが増えるのならば、そのタイプはER陽性ではないかと考えるのが普通だと思いますが…。

この疫学研究の対象者はBlack Women's Health Studyの5万9,027人の参加者(21~69歳)のうち、ベースラインでのがん罹患者や,プロゲスチン製剤使用者を除いた5万3,848人でした。12年間追跡し、1,392例が乳がんを発症しました。その解析結果は以下の通りです。

①病理学的情報が得られた789例の乳がん発症例についてのホルモン受容体ステータス
ER+PR+(386例),ER+PR-(109例),ER-PR+(15例),ER-PR-(279例)

①経口避妊薬の使用経験がない場合と比べて,使用経験ありの場合の罹患率比(IRR)
ER+PR+  1.11 ER-PR-  1.65

②ER-PR-における,経口避妊薬の使用時期、期間との関連
IRRが最も高かったのは,現在の使用(最後の使用から5年未満)で,IRRは1.97
使用期間については,15年以上でIRR 2.25となり, ER-PR-のリスク上昇と有意に関連

④ER+PR+における、経口避妊薬の使用時期、期間との関連
現在の使用で10年以上使用の場合(IRR 1.66)と,最後の使用が5~9年前で5年未満の使用(IRR 2.13)で増加
10~14年の使用でIRR 1.45,15年以上の使用ではIRR 1.24

⑤経口避妊薬の使用経験がない場合と比べて最もリスクが高いカテゴリー
ER-PR-乳がんで,経口避妊薬の現在の使用かつ過去に10年以上使用経験がある場合→IRRは2.52

⑥全乳がん発症例(1,392例)について,経口避妊薬の使用経験がある場合をない場合と比べると,多変量IRRは1.09


以上から,経口避妊薬の使用はER+乳がんよりER-乳がんの発症により強く関連していて,現在の使用や長期の使用がリスクを高めるこという結果でした。

なぜ経口避妊薬の使用がER-乳がんの発症に、より影響するのかは解明されていません。
ER+PR+乳がんについても、最近および長期の使用で増加していたため、経口避妊薬と乳がん発生の因果関係については、異なる二つ以上の機序が関係しているのかもしれません。

2010年8月3日火曜日

インフォームド・コンセント

患者さんに病状や検査の内容、治療方針などを十分にご説明をし、検査や治療方針の同意を得ることを”インフォームド・コンセント(IC)”と言います。以前はドイツ語でムンテラ(Mundtherapie)と言っていましたが、Mund(=口)Therapie(=治療)という語源から、医師が一方的に患者さん(や家族)を口で言いくるめるかのような印象を与えるということで最近ではICと呼ぶことが多くなってきました。

医師の説明次第で患者さんが癒され、治療や病状にプラスになることもあるので、そういう意味で私は個人的には、ムンテラという言葉は嫌いではありません。同じ事実でも伝え方によっては、冷酷にも励みにもなるからです。医師の説明は患者さんの精神的な面も含めた治療の一つであるという(おそらくドイツ医学においてもそういう価値観でこの言葉ができたのでしょう)意味で私はこの言葉をよく用います。

しかし、ネットを通じて、または他院からの転院患者さんからのお話をお聞きすると、残念ながら悪い意味でのムンテラ(一方的に言いくるめる)がなされているケースが残念ながらけっこうあるようです。

最近、知人からお聞きしたケースをご紹介します。

この方のお父さんがかなり悪性度の高い肝臓の腫瘍と診断されました。最初の病院で肝動脈からのカテーテル治療(おそらく肝動脈塞栓術+抗がん剤注入)を行ないましたが、相当辛かったようです。体力的にもかなりダメージを受けていたときに、偶然今の病院を紹介され転院しました。そこでは手術を前提に検査を組まれ、造影CT(おそらく静脈ではなく肝動脈から造影剤を流して撮影)の検査の直前に家族に”今後もこの病院に治療をすべてまかせてもらえるか?”という確認が口頭でされたそうです。もちろん、患者さんの家族としてはそのつもりですので、同意したそうです。

しかし、その検査から帰った患者さんの様子は明らかに意識朦朧とした異常な状態で、翌日には激しい苦痛を訴えたそうです。この症状は前医でカテーテル治療を受けたときと同じでした。看護師に問いただしたところ、CTで手術不能と判断したために抗がん剤の注入(おそらくカテーテルから塞栓術と併用で)をしたとそのとき初めて知らされたのです。その後、医師にどういうことなのか抗議すると、”すべてうちにまかせるかどうか確認したじゃないか””本人には、CTを撮ったときに説明して同意を得た”と言われたそうです。しかし前投薬で患者さんは朦朧としている状態だったため、ご本人にはその記憶はまったくありません。

これはインフォームド・コンセントとは言えません。あらかじめ、CTで手術適応ではないと判断した場合には、そういう治療を直ちに行なうという説明はまったくなかったからです。緊急性がある場合には、ご本人の承諾のみで行なう場合もあり得ますが、意識が朦朧とした状態では正しい判断はできません。そもそもそういう治療が苦痛だったから転院したはずですので同意するわけはありませんし、そのことは担当医にも伝えていたそうです。

”この病院に治療をすべてまかせる”ということは、十分な説明なしに何でもやっていいということに同意したことにはなりません。

このケースは、真の意味でのICとは言えません。ましてや良い意味でのムンテラにはまったくなり得ません。残念ながらいまだにこのようなケースが多いようです。ICという言葉が一人歩きして、結局医師の勝手な判断でことがなされるなら、ICという言葉に言い換えても同じなのです。

私自身が経験したことではありませんし、治療内容や方針自体が間違っているわけではないと思いますので、私がその医師を評価するのは正しくはないと思いますが、実際患者さんとご家族がそう感じたのであれば、なにかその説明方法に間違いがあったのだと思います。ちょっとした言葉のあや、説明不足が、患者さんに誤解を招いたり、不安にさせてしまったり、憤りまで感じさせてしまうということを、私たち医療従事者は十分に認識して診療に当たらなくてはならないということを、あらためて感じさせられたケースでした。

この知人は、実は深い付き合いがある方ではなく、ちょっとした趣味を通してお知り合いになった方です。でも少ないおつきあいの中でも、とても知的で誠実な方だといつも思っていました。お父さんの状態は楽観できる状況ではありませんが、どうか治療がうまくいきますように心から願っています。