2010年12月28日火曜日

乳腺外科1年のまとめ

29日は病院の仕事納めです。毎年この日に外科全体で1年間の総括を行なうので(乳腺は正式にはG先生がまとめてくれるはず…)、ちょっと今年の乳がん症例を調べてみました。


今年はついにここ数年のぎりぎり未達成だった目標手術症例数を超えることができました。開院以来、最高の症例数です!

これは、当院と関連病院の健診課、超音波検査技師、放射線技師、病理検査の医師、技師のみなさんの努力のおかげだと思っています。そして、患者さんから患者さんへのご紹介もけっこうあったと思います。これからもその信頼に応えて行かなければとあらためて感じました。もちろん、病棟で乳腺診療を一手に引き受けてくれているG先生にも感謝しています。

今年の症例をまとめてみて気づいたことを挙げてみます。

①両側乳がんが非常に多かった
なんと同時両側が手術症例の3.7%、異時両側が14.8%、合わせて18.5%もいました。普通は合わせて5%程度(2-10%)ですので今年は異常に多かったんです。異時両側乳がんのほとんどは定期検査の乳房超音波検査で早期発見されています。技師さんたちの努力と症例検討会の成果が発揮された結果ではないかと思っています。

②年齢構成
前にも書きましたが、当院は高齢者が非常に多い病院です。以前調べたデータでは、乳がん手術患者さんの3人に1人は70才以上でした。
今年のデータをみてみると、70才以上の方の割合は35.7%!やはり高齢者は多いようです。
印象としては、例年よりは若年者が多いような気がしていたのですが…。30才台はわずか3.6%でした。

③非手術症例
StageⅣで手術をせずに化学内分泌療法を行なっている患者さんや認知症が高度なために内分泌療法を行なった患者さんを含めて、今年乳がんと診断された患者さんのうちの5.3%は手術以外の治療を行なっています。ただ今年は例年よりもStageⅣ症例が少なかったような印象があります。

④発見契機
・無症状 39.7%…検診 10.3%、良性疾患定期検査 8.6%、乳がん術後定期検査 10.3%、その他(対側精査、CT発見など) 10.3%
・有症状 60.3%
いまだに2/3近くの方がしこりなどの症状を自覚してから受診し、乳がんの診断に至っていました。

⑤早期癌比率
Stage0(非浸潤がん)、StageⅠを合わせた早期がんの割合は、44.8%(非浸潤がんは12.1%)。④で書いたように今年は例年より有症状の患者さんが多く、T2(2-5cm)が多かったためだと思われます(StageⅡA+ⅡBで41.4%)。定期的に自己検診をしている場合は、2cm以下で発見される率が高いですので、これらの方たちは自己検診も定期的には行なっていなかったか、受診できない理由(乳がんと言われるのが怖い、経済的理由など)があったことが推測されます。


こうしてまとめてみると、定期的に検査や検診を受けている方は早期で発見できていることがわかります。ただ、その割合はいまだに低く、残念ながらこれだけマスコミなどを通じて啓蒙活動を行ったり、無料クーポンを配っても進行した状態で発見される方がまだ多いということがあらためてわかりました。

来年はさらに啓蒙活動を広めていかなければダメだと強く感じました。

2010年12月27日月曜日

乳がん転移巣に対する手術療法の適応について

乳がんの再発、特に遠隔転移は全身療法(抗がん剤、ホルモン療法、分子標的薬)が治療の主体となります。これは乳がん自体が最初から全身病であるという考え方が広まっていること、遠隔転移がある場合はたとえ一つの臓器であっても画像に写らないような微小な転移が他の臓器にある場合がほとんどであること、実際に再発巣に手術を行なっても予後が改善したという報告はほとんどないこと、などによります。

しかし、実際は再発巣に対して手術を行なう場合があります。その理由のいくつかを以下に示します。

①根治を目指すため

特にリンパ節の単独再発(腋窩や鎖骨下、胸筋間、胸骨傍、時に鎖骨上、対側腋窩)の場合は、リンパ節郭清(摘出)で根治できる可能性があります。これは、乳がんがまだ局所に留まっていることがまれにあるからです。全身療法を併用することによってその可能性は高まります。
問題は遠隔臓器(肺、肝臓、骨、脳など)の場合です。通常は根治は困難と考えられ、手術はすべきではないと言われています。これは前にも書いたように、手術療法が予後を改善するというエビデンスがないからです。しかし、このエビデンスのもとになった臨床試験は相当古いものです。アロマターゼ阻害剤もハーセプチンもなかった時代のものです。
また、遠隔転移は治らないと主張する人がいますが、本当でしょうか?術後補助療法の進歩で予後が劇的に改善したのは、原発巣を切除した上で微小な遠隔転移を画像に写るような大きさになる前に根絶したことによると考えられます。つまり、微小な転移は全身療法で治癒可能なのです。ただ、再発の場合は、術後補助療法を行なった上で再発したという点で異なりますのでまったく条件が同じわけではありません。しかし、完全切除可能な少数(単臓器、できれば単発)の粗大な転移巣を除去した上で、新しい薬剤を効果的に組み合わせることができれば、再発も根治できる可能性を示している一つの証明だと私は思っています。

②情報を得るため

前にもここで書きましたが、再発巣では原発巣とがんの性質(ホルモンレセプター、HER2)が変化していることがあります。特にホルモンレセプターの陰性化はよく経験します。治療方針を立てる上で、その情報を得ることは有益だと考えられます。

③QOL向上、症状緩和のため

骨転移は手術で根治するのはなかなか難しいのですが、骨折治療や疼痛軽減、麻痺の予防、治療のために手術を行なうことはあります。今年も骨転移による麻痺で初診、緊急入院となったStageⅣの患者さんに対して化学療法後に脊椎固定術を行ない、その後ホルモン療法で劇的に症状が改善したため、退院可能になったというケースを経験しました。また、症状を伴った脳転移に対しても単発(〜少数個)であれば手術を行なう場合があります。特に脳浮腫を伴っていて急を要する場合には放射線治療の前に手術で症状緩和をはかります。まれではありますが肺転移で喀血や閉塞性肺炎の原因になっている場合も手術の適応になる場合があります。

大雑把に書くとこのような感じです。手術なんて必要なくなればそれに越したことはありません。実際に再発のほとんどは全身療法のみで行なわれます。それが著効することもあります。しかし、大きな再発巣を化学内分泌療法だけで根治するのはいまだに力不足です。状況によっては局所療法(手術、放射線治療)を組み合わせることも必要になるのです。

2010年12月26日日曜日

ネットはすごいけど怖い…

このブログを始めてから2年弱、もしかしたら誰かを傷つけるようなことを書いていないか、小心者の私は時々ネットで自分のブログを検索しています。

見て下さった方がご自分のブログなどで好意的に紹介してくださっているのを見つけるととてもうれしくなります。ただ、思いがけない形で取り上げられていたりすることもあってびっくりしたこともありました。

例を挙げると、

①若年者に対するマンモグラフィは、有用性が証明されていないのでお勧めできないという内容のことを書いたら、2ちゃんねるの中で引用されていました。これは、ある映画の主人公になった女性を誹謗中傷する内容を書き込んでいるスレッドだったので、非常に不本意でした。

②やはり2ちゃんねるのある保険会社関連のスレッドで、私のブログの内容が間違った形(誤解を受けるような)で引用されていました。

③あるブロガー(乳がんは早期発見も早期治療も必要ないと主張している…)が自分のブログに私のブログのURLを貼り付け、内容に対して具体的になんの反論もなしに、否定した結論だけを書いていました。

④あるブログの中でここのブログが紹介されていて、「ブロガーは乳腺外科医らしいがなぜ本名を名乗らないのか?」「このような主張をするならどうしてM.K先生(がんと闘うなと主張している高名なDr)の主張に言及しないのか?」というような内容が書かれていました。

③に関しては実は今まで何度も所属施設と本名をプロフィールに書こうかと思ったことがあったのですが、決断ができずに今に至ります。本名を名乗らないのはいろいろ理由がありますが、一番は患者さんの個人情報保護のためです。ブログの中で自分の患者さんのことに触れることがありますので、特定されてしまう危険性があります。また、そのことで書く内容に制限を加えなければならないのもストレスです。それと名乗るほどの者ではない、というのも大きな理由です(笑)。

M.K先生の件については、この方が主張している意味がよくわかりません。必要に応じてブログに個人名を出すことはあるかもしれませんが、極力イニシャル(病院名も)程度にとどめるようにしています。私は誰かを個人的に批判したり、議論をすることが目的でこのブログを書いているわけではないからです。自分の経験や知識をもとに自分の乳腺疾患に対する思いを書いてみたり、最新情報の中で興味ある内容をご紹介することで、自分の考えを表現し、共感できる方々に伝えられれば、というのが主旨なのです。

ネットの情報は早いのでとても便利ですが、こちらの思いと違う内容で取り上げられることもありますのでちょっと怖くなりました。

2010年12月22日水曜日

FDAがアバスチンの乳がん適応申請を却下(続報)

以前ここでも書きましたが、2010.7にFDAの抗悪性腫瘍薬諮問委員会が進行性乳がんに対するアバスチンの承認を審議し、12対1で取り消しを可決した(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/search/label/乳癌の治療最新情報)のを受けて、今回最終的なFDAの方針が発表されました。

これによるとFDAはアバスチンについて、乳がん治療薬としての適応症を除外する方針を決めたとのことです。欧州でも乳がんに対しての処方選択肢が縮小(パクリタキセルとの併用のみ可)されるそうです。

いずれも治験で有意な延命効果や安全性を確立できなかったためですが、ロシュは米国での乳がん適応の取り下げには応じないようです。日本でも中外製薬が乳がんの効能追加を申請中ですが、今後の認可はどうなるのでしょうか?先日製薬会社に確認したところによると、今のところは承認申請の取り下げも却下もないようです。

再発乳癌に対する新しい薬は喉から手が出るほど欲しいですが、非常に高価ですし、消化管穿孔などの重篤な副作用もある薬剤ですので、効果が十分に上回らなければ認可すべきではないと私は考えています。

2010年12月21日火曜日

来年の学会参加予定

もう少しで2010年も終わります。今年の全国学会の参加は、結局6月の乳癌学会と11月の乳癌検診学会の2回だけになってしまいました。院内の規定では、論文を書けば年度内(4月から3月)に3回まで参加できるのですが、このままでは2回のまま終わりそうです。来年の2.11-12に東京で乳癌画像研究会があるのですが参加するかどうか迷っています。

来年度はもう計画を立てています。

1.日本乳癌学会総会 2010.6.30-7.2 仙台
2.乳癌最新情報カンファレンス 2011.8.5-8.6 熊本
3.日本乳癌検診学会 2011.10.21-10.22 岡山

乳癌学会の演題はすでに提出しました。仙台は何度も行っていますが、きれいな街で食べ物もおいしいです。発表もあるのであまり観光はできないと思いますが、行ったことがないところを少しでも見てみたいです。どこがおすすめなんでしょうか?

乳癌最新情報カンファレンスは、前から何度も参加したいと思っていた研究会です。熊本は九州で唯一行ったことがない県なので、楽しみです。できれば演題を持って参加したいと思っています。熊本城は是非見たいですね。馬刺しとからし蓮根も食べたいです!

乳癌検診学会は、たぶんいつも通り技師さんたちのサポートにまわると思います。今回は同じ系列の病院の医師が運営に関わるようなので、演題を多く出すように言われています。春から乳腺外科に参加してくれる女医さんにも発表してもらおうかと考えています。岡山と言えば「ままかり」!前に行ったときは毎食のように食べていました。すっかり病みつきになってしまいましたが札幌ではなかなかお目にかかれません。

こんなことを書くと、学会に遊びに行っているように思われるかもしれませんが、実際は日程がびっちりでほとんど観光の時間はないんです。昼に抜け出して行くのと夜くらいなのでなかなかゆっくりその土地の良いところを見てまわることができないのが残念です。

2010年12月20日月曜日

細胞診と針生検 その2

(**書き終わってから前にも似たようなことを書いたことに気づきました(汗)。これだけ書いていると何を書いたのかわからなくなります(泣)。とりあえずこのまま続編として残しておきます。)


乳腺腫瘤を診断するために必要なのは、
①視触診 
②画像検査(マンモグラフィ、超音波検査、(MRI)) 
③病理学的検査(細胞診、組織診=針生検・マンモトーム生検・開放生検)
です。

病理学的検査のうち、乳がんの確定診断にもっともよく用いられるのが、細胞診と針生検です。今回はそれぞれの特徴についてお話しします。

<穿刺吸引細胞診(ABCまたはFNAC)>
・22-23Gという細い注射針を腫瘤に穿刺して、注射器で陰圧をかけながら吸引することによって組織から細胞を採取する方法です。
・バラバラになった細胞を見て、元の組織がどういうものだったかを推定する検査法ですので、本来は確定診断ではありません。正診率は95%程度で、時に診断の誤りが起こりえます。十分な経験をもつ医師または細胞検査士でなければ、診断率はさらに下がります。ですから、細胞診単独ではがんの断定はしないほうが無難です。視触診、画像診断、経過と細胞診の結果が一致した時にのみ確定診断とするという慎重な姿勢が大切です。
・診断精度は針生検(組織診)より劣りますが、微小な病変、皮膚や筋肉に近い病変、嚢胞性病変の場合には細胞診のほうが有用であることもあります。また麻酔も必要なく簡単に何度でも行なえる手軽さが特徴です。

<針生検(CNB)>
・14-18Gの専用穿刺針で内筒と外筒の間に組織を切り取って採取する方法です。バネによる自動式のものが主流ですが、すべて手動で行なうタイプもあります。
・基本的には組織診ですのでこれで確定診断になります。しかし、まれに針生検で誤診をするケースもあると言われています。例えば乳腺症型の線維腺腫と硬がんや非浸潤がんなどです。これも画像と組織診が一致しているかどうかをよく検討すれば避けられる誤診ではありますが、実際には病理から”癌です”と組織診の報告が来たら信じてしまいがちです。人間の目で診断するものですから、針生検の診断も100%ではないことを理解しなければいけません。
・診断精度が高いことが特徴ですが、もう一つ、がんの特徴(ホルモンレセプターやHER2など)を知ることができるため、術前化学療法を行なう場合には必須の検査です。
・あまりに微小な病変の場合は命中が困難です(マンモトーム生検なら可能)。また嚢胞性病変の場合には、当たりどころによっては液体しか採取できずに診断不可能な場合があります。皮膚や筋肉に近い場合は距離と角度が取れずにうまく穿刺ができない場合があります。

最近では、細胞診の誤診を避けるために病理医がより慎重に診断する傾向が強くなったためか、明らかながんだと思って穿刺しても「鑑別困難(以前の基準ではClassⅢ)」という判定で帰ってくることが多くなったという話を聞くことあります。結局針生検をしなきゃならなくなるので最初から針生検をするようになった施設が多いようです。もちろん、昨今の術前化学療法の普及のせいもあるとは思いますが…。

ただ、私がG病院で研修していた時に夜遅くまで私たちのために細胞診診断を教えて下さった乳腺細胞診断士の第1人者であるIさんの熱いお話を思い出すと、安易に細胞診という診断方法を捨てたくはないと個人的には思うのです。Iさんからの教えは今でもノートに残っています。今はもうG病院をやめてしまわれましたが、私にとっては懐かしい大切な思い出です。

2010年12月19日日曜日

乳腺認定医と専門医について

乳腺疾患に携わる医師の認定資格の中で、もっとも基本になるのが、乳癌学会で定めている、乳腺認定医・専門医です。

その医師に乳腺診療の経験や知識がどのくらいあるのかは一般の患者さんにはなかなかわかりません。この資格制度はその一つの目安になるものです。以下に簡単にその受験資格を示します。試験は筆記と口頭試問で行なわれます。

<乳腺認定医>
・基本的領域診療科(外科など)の認定医または専門医であること
・継続4年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、学会が認定した認定施設(関連施設)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算2年以上の修練を行っていること
・40例の乳癌症例の診療実績があること
・乳腺疾患に関する業績を有すること

<乳腺専門医>
・乳癌学会認定医であること
・継続5年以上学会会員であること
・臨床研修医終了後、認定施設(関連施設を含む)において所定の修練カリキュラムにしたがい通算5年以上の修練を行っていること
・100例の乳癌症例の診療実績があること
・学会発表、論文発表業績が基準を満たすこと

これらはその医師の一定の評価にはなります。しかし、専門医を持っていれば手術が上手というわけではありません。また、この受験資格と試験では、その医師の人間性までは評価されません。ある程度の期間、認定施設で乳腺診療を行ない、ガイドライン中心に勉強しておけば、試験にはだいたい受かるのです。

結局、患者さんが納得いく医療を受けられるかどうかは、医師の知識と技量だけではなく、相性も含めた人間性が重要だと思います。しかし、これを評価するのはなかなか困難です。その病院で治療を受けた患者さんから直接話を聞くのが一番ですが、患者さんにもいろいろいらっしゃいますので、その患者さんにとっては良い医師でも、ご本人にとっては相性が悪いということもあります。結局直接会ってみないとわからないのが実情です。

なお、最近は様々な病院ランキングの本が出ていますが、これは参考程度にしておいたほうが良いです。もちろんここに出ている有名な乳腺外科医のほとんどは国内有数の実力を持つ医師です。しかしこういう本に出ていなくても、十分な実力を有する乳腺外科医もいますし、名前が出ているのに首を傾げたくなる医師も中にはいます。論文やマスコミで有名な医師が本当の名医とは限りません。患者さんの訴えに耳を貸さず、十分な説明もせずに上から目線で一方的に話をするような医師はどんなに有名であっても信頼に値しません。

代替補完療法8 鉱物関連

今から15年以上前のことですが、今でも強く記憶に残っている患者さんがいます。「代替補完療法2 一般的なお話」の中でも少し触れた方ですが、もう少し詳しく書いてみます。

この方は60才代で息子さんは国立大学の研究所に勤めているインテリジェンスのある女性でした。しかし、ずっと前にご自分でしこりを自覚していながら、手術などの治療が嫌で限界まで受診を我慢されていたため、来院時には切除できないほどの胸壁浸潤を伴った巨大ながん性潰瘍を呈していたのです。

乳がんの診断の後、まず抗がん剤の治療を始めることにしました。しかし最初から抗がん剤治療に対しては積極的ではなく、主治医の説得にやむを得ず受けているというような状況でした。

あるとき、その患者さんから、
「息子が大学の研究所でがんの研究をしています。いま鉱物を使った治療薬を息子が研究しているので使わせて欲しいんです。」
との申し出がありました。その薬剤の内容は研究中であることを理由に教えてもらえませんでした。静脈注射をしたいとのことでしたが、こちらとしては安全性の点から、何が含まれているかわからない薬剤を投与することはできない、とお断りしました。その後何度かやりとりがありましたが、なかなか納得してもらえませんでした。結局抗がん剤を拒否してその治療をしたいという患者さん側との折衷案として、霧吹きで潰瘍部分に対して外用することのみ許可を与えました。

それから霧吹きでその鉱物から抽出したものを病巣に吹きかけつつ、抗がん剤治療を行なっていました。しかしそれから間もなくのある日のこと、その患者さんの部屋は個室だったためモニターがついていたのですが、たまたま見ていた看護師がその患者さんのご家族が点滴ボトルに注射器を使って鉱物抽出液を注入しているところを目撃したのです。

ただちにご家族、ご本人にお聞きしたところ、前から注入していたことを認めたため、このまま続けたいのであればここで治療をするわけにはいかないとご説明しました。標準治療を受けることを再度強く説得しましたが結局聞き入れてもらえず、ご家族がこの鉱物治療を受け入れてくれる病院を探し出してきたために転院することになったのです。

その患者さんは結局転院先で2ヶ月後くらいに亡くなりました。ご本人だけでなく、ご家族ぐるみで標準治療を拒否されると説得はなかなか困難です。非常に残念な思いをしましたが、ご家族やご本人はそれで納得していたのかもしれないと思うと非常に複雑でした。

最近、私たちの病院でも代替補完療法を信じて標準治療を拒否される患者さんが散見されます。前に書いた波動療法の患者さんは結局増大したため手術を受け、現在は化学療法中です(一時的に波動療法で縮小したように見えたのは、ホルモン補充療法を乳がんと診断された際に中止したことによる一時的な変化だったことが判明しました)。その他に、ホルモン療法を拒否して玄米療法を選択した患者さん、食事療法で手術を拒否し経過観察中の患者さんなどを経験しています。

いろいろな代替補完療法の全てを否定するつもりはありません。しかし、少なくともこれらの治療を信じて標準治療を完全に拒否した患者さんの中で治癒した人を私は一人も知りません。

2010年12月16日木曜日

乳癌の治療最新情報23 HER2陽性乳がんに対する新たな補助療法

現在、HER2陽性乳がんの術後(術前)治療は、ハーセプチンとアンスラサイクリン系抗がん剤(+タキサン系抗がん剤)の併用が基本になっています。今回、サンアントニオ乳癌シンポジウム(SABCS)において新たなHER2陽性乳がんに対する治療法の可能性が2つ示されました。

①ペルツズマブ+ハーセプチン+ドセタキセル vs ハーセプチン+ドセタキセル
・初発の早期HER2陽性乳がんを対象とする術前補助療法の第2相治験
・pCR率(組織学的にがん細胞か完全に消えていた確率):46% vs 29%

②タイケルブ+ハーセプチン+パクリタキセルとの併用試験の中間データ
・pCR率:51%
・2剤併用のpCR率の比較:ハーセプチン+パクリタキセル群 30% vs タイケルブ+パクリタキセル 25%

この結果は、ハーセプチン登場によって劇的に改善したHER2陽性乳癌の予後をさらに改善する期待を抱かせる結果です。問題点は、ハーセプチンとタイケルブは既に市販されていますがともに高価なこと、そしてペルツズマブはまだ未承認で、おそらくこれも高価なことです。
しかし、このデータからは非常に有用である可能性が伺えますので、今後の動向に注目したいと思います。

2010年12月14日火曜日

ウエイトリフティングが乳がん術後のリンパ浮腫予防に効果!

JAMA12月8日オンライン版によると、乳がんで腋窩リンパ節郭清を行なった患者さんを無作為にダンベルによるウエイトリフティング運動を定期的に行なう群と行なわない群に分けて1年後のリンパ浮腫の発生率を調べたところ、ウエイトリフティング群で有意にリンパ浮腫の発生が低かったという結果が掲載されました。

乳がん術後の患者さんに対する体操やストレッチのような運動は可動域の維持に効果があるため、私たちもリハビリとして指導してきました。しかし手術をした側の腕には過度に負荷をかけないように指導しています。米国の臨床ガイドラインでも,浮腫防止策として重い荷物を持つことを制限しているそうです。

今回の研究の運動メニューは,背臥位でダンベルを側面や前面に持ち上げる,二頭筋,三頭筋を使って下げるなどで,1回90分間のウエイトリフティング運動を週2回1年間行うというものです。
腋窩リンパ節郭清を行なった乳がん患者154例をウエイトリフティング群77例(平均年齢54歳,平均リンパ節郭清数8),およびコントロール群77例(同56歳,9)にランダムに割り付けて検討しました。

その結果は、1年後の上腕における浮腫(乳がんに罹患していない方の上腕容積に比べ5%以上の増加)の発症率は,対照群17%に対しウエイトリフティング群では11%と有意に低かった(累積発症率比0.64,95%CI 0.28~1.45,P<0.003)ということです。

負荷のかけかたには十分な注意が必要だとは思いますが、今までの概念にとらわれずに積極的に運動することが効果的であるという今回の結果は、大好きだったスポーツを我慢してきた患者さんにとっては朗報ではないかと思います。もう少し検討を重ねて、どのような運動(体操、ストレッチ、ウエイトリフティング、スポーツ)が、リンパ浮腫発生に対して予防的に働くのか、または悪化の原因になるのかが解明されると良いですね!

2010年12月13日月曜日

肥満が乳がん生存率に影響!

肥満が乳がん術後の生存率に影響するという結果が先日まで行なわれていたサンアントニオ乳癌シンポジウム2010でUniversitats Frauenklinik(ドイツ)のPhilip Hepp氏らによって報告されました。

*肥満指数(BMI)=体重(kg)÷身長(m)の2乗
(例)身長150cm 体重60kg→60÷1.5の2乗=26.7
*標準体重=22×身長(m)の2乗
(例)身長150cm→22×1.5の2乗=49.5kg



概要は以下の通りです。

対象:ADEBAR試験(EC療法+ドセタキセル vs FEC療法の多施設共同フェーズ3試験)のデータを解析(リンパ節転移のある乳がん患者1502人中の1361人)。内訳は低体重(BMI<18.5kg/m2)は13人、標準体重(BMI 18.5-25kg/m2)は557人、過体重(25kg/m2<BMI<30kg/m2)は491人、肥満(BMI>30kg/m2)は300人。

結果:フォローアップ期間は60カ月。
①無再発生存率→低体重群では87.5%、標準体重群は70.4%、過体重群は70.7%、肥満群は58.6%。標準体重群の無再発生存期間は過体重群と有意差がなかったが、過体重群と肥満群では有意差が認められた(p=0.0075)。
②全生存期間→同様の傾向があり、過体重群と肥満群では有意差があった(p=0.0138)。
③FEC療法群とEC療法+ドセタキセル群の全生存期間→標準体重群、過体重群、肥満群のいずれの群でも有意な違いはなかった。
④多変量解析において、肥満(BMI>30kg/m2)が全生存期間に影響を与える因子であることが示された(ハザード比1.671、p=0.008)。

結論:肥満はリンパ節転移陽性乳がん患者の生存期間に影響を与える。減量も乳がん治療に加えることを検討すべきである。


やはり肥満はどんな病状に対してもあまり良いことはないようです。この結果からは、過体重(25kg/m2<BMI<30kg/m2)では有意差ががありませんので、あまり過敏になる必要はありません。しかし、肥満(BMI>30kg/m2)の方については要注意ということですので、主治医と健康的なダイエットについてご相談されてみてはいかがでしょうか?

2010年12月9日木曜日

乳がん治療の進歩で生存率が改善!

手術や化学療法、放射線治療を”がんの3大治療”と呼び、これを悪者扱いする人たちが未だにいらっしゃいます。彼らはこんなふうに主張し、3大治療を否定します。

”局所治療である手術では、全身病であるがんを治すことはできず、逆に後遺症で苦しむことになる”

”放射線治療は放射能を使う治療だから新たながんを発生させるので害にしかならない”

”抗がん剤は毒だから、副作用は苦しいし、免疫力を下げるのでかえって死期を早める”

もしこのような考え方が正しいのであれば、ここ数十年で飛躍的に進歩したこれらの治療によって、予後はかえって悪くなっているはずです(もちろん私たち現代医学を信じる医療従事者はそのようには考えていませんが…)。

その答えの一つが第33回サンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されます。

米国のテキサス大学MDアンダーソンセンターで治療を受けた過去60年間の乳がん患者さんの治療成績が報告されるということですが、シンポジウムに先立って、その内容が発表されました。

結論から言うと、「乳がんの治療成績は過去60年間で飛躍的に改善している」ということです!!
(まあ当然と言えば当然ですが…)

10年単位の患者さんをステージ別に分類し、その初回診察時からの生存率を解析してみると、5年生存率、10年生存率ともに、全ステージにおいて年代を経るごとに改善していたということです。

例としてステージ4(初診時に転移を有する乳がん)の10年生存率をみてみると…

1944-1954年  3.3%
1985-1994年  22.2%

と、約7倍に改善していたということです。

これは明らかに化学療法、内分泌療法、放射線治療、手術などの治療の進歩による成果だと考えられます(ステージ4に関しては放射線治療、手術療法の効果は限定的)。この進歩というのは、新規薬剤の開発だけではなく、志のある多くの医師と研究者が、これらの治療の適切な使い方を真摯に追求してきた結果なのだと思います。

もちろん、手術には後遺症(痛みやむくみなど)、放射線治療には副作用(間質性肺炎や皮膚炎など)、そして化学療法にも苦痛な副作用があるのは否定できない事実です。しかし、患者さんたちは、この治療を受けることによってがんを克服できる可能性が高くなると信じて頑張っているのです。今回はそれを証明した一つのデータだと思います。

こういう事実を見て、3大治療を否定しようとする人たちはどう反論するのでしょうか?

2010年12月7日火曜日

抗癌剤の副作用11 手足症候群

手足症候群は、手足の皮膚細胞が障害を受けることによって起きる副作用です。

症状によって、次のようにグレード分類されます(CTCAE V3.0 日本語訳 JCOG/JSCO版 手足皮膚反応のグレード判定基準)。

グレード1  疼痛を伴わない軽微な皮膚の変化または皮膚炎(紅斑など)
グレード2  機能障害のない皮膚の変化(角層剥離、水疱、出血、腫脹など)または疼痛
グレード3  潰瘍性皮膚炎または疼痛による機能障害を伴う皮膚の変化

発生機序:正確な発症機序は不明。皮膚基底細胞の増殖能の阻害,エクリン汗腺からの薬剤分泌などが原因として考えられています。

発症頻度:ゼローダにおいては、3週投与1週休薬(A法)で51.9%(グレード2以上は23.6%)と報告されています。

原因薬剤:5FU系(5FU注、ゼローダ、フルツロン、TS-1など)でよく見られます。他にタキサン系(ドセタキセル、パクリタキセル)、アンスラサイクリン系(ドキソルビシンなど)、メソトレキセートでも起きることがあります。また乳がんへの適応はありませんが、ソラフェニブやスニチニブなどの分子標的薬でも起きると言われています。

治療:確立した治療法はありません。グレード2以上では抗癌剤投与中止が望ましいと言われています。そのまま継続すると薬剤終了後も症状が続くことがあります。非薬物療法としては、手足の安静、挙上,冷却などがあります。薬物療法では、局所には保湿クリームの塗布、ステロイドの外用が有効です。内服治療としてはリン酸ピリドキサール(ビタミンB6)錠(ピドキサール®)を投与します。ゼローダ投与時には、私は予防的にこの薬を内服してもらっていますが、重篤な手足症候群はほとんどみられなくなりました。

日常の注意点:
①皮膚を清潔にし,乾燥を避ける→低刺激性石けん、保湿剤を使用
③過度の荷重や機械的刺激(熱、摩擦、ジョギングなど)を避ける→やわらかいパッドなどを患部に当てる


余談ですが…私の父は7年前に大腸癌で亡くなりました。肝転移を伴う進行癌で見つかったため、根治手術はできず5FUの持続点滴を行なっていましたが、途中からひどい手足症候群に悩まされていました。あのころはピドキサールの内服が有効であることも知らず、主治医の指示のまま治療を継続していたため、途中から痛みで歩くこともできなくなってしまいました。亡くなる直前までこの治療を自宅で受けさせてしまったことは今でも後悔しています。全身状態を考えると、もう少し早くに治療を中止して緩和医療に移行してあげれば良かったと思っています。患者さんに手足症候群のお話をするときにはいつも父の痛々しい姿を思い出してしまいます。

2010年12月6日月曜日

抗癌剤の副作用10 末梢神経障害(しびれなど)

末梢神経障害(しびれ、刺すような痛み、灼熱感、感覚異常、自律神経障害、味覚障害など)は、筋肉痛や関節痛と同様にタキサン系抗がん剤でよくみられる不快な副作用です。他にもビンカアルカロイド系抗がん剤(ナベルビンなど)でも生じます。この副作用は筋肉痛や関節痛と異なり、投与回数を重ねるごとに発症頻度が高くなります。

発症機序:前回書いたように、タキサン系抗がん剤は微小管の働きを妨げるため、神経細胞の軸索の働きを傷害することが原因と考えられています。

発症頻度:パクリタキセルの日本国内の第II相試験においては、65.1%と報告されています。外国の第II相試験においても末梢神経障害は59.2%と高率でした。

治療:冷浴しながらのマッサージ、保温、水とお湯に交互につける、ゴムまりを使った運動療法などの非薬物療法のほか、薬物療法として、漢方薬(牛車腎気丸7.5g/日、芍薬甘草湯7.5g/日、疎経活血湯7.5g/日…)やビタミン剤(VitB6、B12)、グルタミン(用量は筋肉痛・関節痛の記載を参照して下さい…2g/日から30g/日までかなり幅があります)、鎮痛剤(非麻薬性、麻薬性)、三環性抗うつ薬(トリプタノールなど)、抗てんかん薬(ランドセンなど)、COX2阻害剤(モービックなど)が投与されますが、効果がみられない場合もあります。

日常の注意点:知覚が低下しているためやけどには注意が必要です。スリッパを履いている時などはつまづきやすい場合もあります。

末梢神経障害の予防法は確立しておらず、確実に根治を期待できる治療法もありません。ほとんどは軽快し、日常生活に支障がなくなりますが、たまに長期にわたって症状を訴える患者さんもいらっしゃいます。ですから症状の早期発見、早期対応が重要なのです。

2010年12月5日日曜日

抗癌剤の副作用9 筋肉痛・関節痛

タキサン系抗がん剤(ドセタキセル、パクリタキセル)の特有の副作用として筋肉痛と関節痛があります。命に関わるような副作用ではありませんが、一度発症すると非常につらいようで、なかなか良い治療もないためやっかいです。症状は、タキサン投与後2-3日で発現し、数日でおさまると書いてある説明書もありますが、もっと長く続く場合もあります。この症状は毎クール出現することが多いようです。


原因:あまり詳しくはわかっていないようです。関節痛と筋肉痛が同じ機序によるものなのか不明ですし、しびれの原因とごちゃまぜになっている説明書もあります。一般にタキサン系のような微小管をターゲットにする抗がん剤は、その副作用として神経細胞の軸索の働きを傷害し、しびれや感覚障害や痛みなどの末梢神経障害の副作用を引き起こします。これが関節痛・筋肉痛の原因であるかのように書いているものもありますが、私が診ている限り、タキサンによる筋肉痛や関節痛は神経痛とは違うように感じます。
一方、筋肉内に多く含まれるL-グルタミンは筋肉の蛋白合成に強く関与していて、タキサン系抗がん剤使用時に筋肉内のL-グルタミンの消費が亢進し相対的に不足するとされています。これが筋肉痛の原因の一つかもしれません。関節痛の原因について明確に書かれている文献は私はまだ見たことがありません。

発症頻度:パクリタキセルの国内臨床試験成績によると、関節痛(40.3%)、筋肉痛(36.3%)と約3人に1人が発症していました(臨床試験によってはもっと少なく報告しているものもありますが、印象としてはこのくらいあると思います)。

治療:症状に合わせて消炎鎮痛剤(軽度では非ステロイド系鎮痛剤、中等度ではステロイド)を投与したり(薬剤投与後2-5日に予防投与するのも効果的)、芍薬甘草湯(薬剤投与2日前から7.5g/日を内服)もよく使用されますが、あまり効果がみられないことも多いようです。症状が強い場合(重度)では麻薬を用いることもあるようですが、私は今のところこの副作用に対して麻薬を投与したことはありません。ある施設では、L-グルタミン(胃薬のマーズレンSに含まれている)をパクリタキセルの翌日夕より内服開始し、1回量4g、1日5回で良好な結果が得られたと報告しています。もっと少ない量でも効果があったという報告もあります(1.5-30g/日)。これは筋肉痛に対してのみなのか、関節痛にも効いたのかについては不明です。

しびれやむくみとともに非常にわずらわしい副作用ですが、これらの副作用は通常、治療が終了すればおさまってきます。後遺症として残ることはほとんどありませんので、あまり心配しすぎないことも大切なことです。

2010年12月4日土曜日

待望の女性乳腺外科医!

乳癌学会の抄録、1時間で書き終えました。抄録を書くのは嫌いじゃないんです。今回は症例報告なのでささっと書いちゃいました。本格的な準備はまだ先です。

これから来春こちらに戻ってくる道東の関連病院の女医さんの分の抄録準備に取りかかる予定です。私はずっと長い間、女性の乳腺外科医が仲間になってくれるのを待っていました。

何度か可能性を期待したことはありました。

1度目は私より少し先輩の女医さんでした。外科所属だったのですが、途中で婦人科に転科してしまいました。
2度目は他の病院から移って来た女医さんでした。消化器外科医希望でしたが、職場に慣れずにかなり苦労していたため、負担の軽い乳腺外科への変更を勧めましたが、結局退職してしまいました。
3度目はやはり消化器外科に興味を持って入って来た女医さんでした。外科所属になった直後から乳腺にも興味を持っていて、マンモグラフィ読影医の資格試験を受けたり、乳癌学会に所属したりしていたため、乳腺外科に心が傾いてくれないかと期待したのですが、迷った末に結局初志貫徹で消化器外科(胃)の専門研修に出ることが決まりました。

そしてそうやく道東で外科研修をしていたN先生が来春から本格的に乳腺外科をやってくれることになったのです。これでようやく私の肩の荷が降ります。G先生の他にもう一人後継者を見つけたし、症例検討会も軌道に乗ってきたし、技師さんたちの技量も十分にアップしたし…もう私がここでやるべきことはなくなってきました。

さて、これから何をしようかな…。

2010年12月3日金曜日

第19回 日本乳癌学会総会 演題申し込み

乳癌検診学会が終わったばかりなのに、もう来年の乳癌学会の締め切りが21日に迫っています。

まだ抄録には手を付けていませんが、今回は少し楽をして症例報告にしようかと思っています。

来年の乳癌学会総会は、2011.6.30-7.2までの3日間、仙台で開催されます。今までは会期は2日間でしたが、参加者と演題数の増加により、今回から3日間に変更になりました。

仙台での乳がん関連の学会は比較的多くて、自分自身の参加は今回がたぶん4回目くらいになると思います。いつもなかなか時間が取れなくて、観光はほとんど行ったことがありません(青葉城資料展示館くらいです)。今回は3日目が午前で終わるようなので少し観光に行きたいなと思っています。仙台は、牛タン、牡蠣(時期ではありませんが)、笹かまぼこなど美味しいものがいっぱいあります。先日東北大学に視察に行った時に飲んだ地酒も美味しかったです。学会に参加するときは、その土地の名物を食べるのもとても楽しみです!

(会場の仙台国際センターに向かう時には広瀬川を渡ります。青葉城趾を見ながら橋を歩いていると自然にさとう宗幸の「青葉城恋唄」が頭に浮かんでくるのは私だけでしょうか?)

2010年12月2日木曜日

高齢者の手術はどこまですべきか?

私たちの病院は高齢の患者さんが多いため、乳がんで手術をする患者さんも高齢者の比率が高いです。以前調べてみたら、乳がん手術患者さんの3人に1人は70才以上でした。これはおそらく乳腺クリニックやがんセンターの比率とはかなり異なると思います。

一般的に高齢者に対しては過大な侵襲を避けるように心がけています。全身麻酔が危険なほど全身状態が悪い患者さんにはホルモン療法のみにしたり、多少大きくても局所麻酔で部分切除のみにしたりしています。全身麻酔可能であっても、リンパ節転移の可能性が低い場合には腋窩には手をつけない場合もあります。ただセンチネルリンパ節生検をするようになってからは、センチネルリンパ節生検まではすることが多くなっています。

私が外来で診ている患者さんで、いま80代半ばの方がいらっしゃいます。この患者さんは、初回手術のときに腋窩に明らかなリンパ節転移が1個ありました。この時すでに80才くらいで少し持病をお持ちだったため、腋窩リンパ節はLevel1までの”軽い”郭清にして乳房温存術を行ないました。しかし、2年もたたないうちに郭清した腋窩の奥にリンパ節再発をきたしたのです。

この患者さんはトリプル・ネガティブでした。ホルモン療法は無効です。しかし強い抗がん剤を投与するには年齢的に厳しいと考えたため、結局切除することになりました。全身麻酔で問題なく再郭清を行ない、その後内服の抗がん剤を2年服用し、再手術から3年、どこにも再発しておらず元気に通院されています。

結果的には初回手術の時に定型的な郭清をしていたら再手術はしなくてすんだ症例です。初回手術時の判断が完全に間違っていたとは思いませんが(年齢的にはこの間に他の病気で命を落とす可能性もあったため)、年齢だけで治療を決めつけてもいけないということを考えさせられました。

トリプル・ネガティブなのに内服の抗がん剤(フルツロン)のみで再発していない、というのも興味深いですね。前にある先生の講演で、内服の5FU製剤(UFTやフルツロンなど)が案外、トリプル・ネガティブにも効果があったという話を聞いたことがあります。暴れん坊のトリプル・ネガティブにマイルドな内服の抗がん剤が効くことがあるというのは不思議だけど本当なんですね!