2011年3月31日木曜日

乳腺術後症例検討会9 送別会

昨日、第44回乳腺症例検討会を行ないました。

今回も4症例。超音波画像上は浸潤がんのように見えた非浸潤がんの2例と非浸潤がんのように見えた4㎜の浸潤がん(乳頭腺管がん)の1例、前回のマンモグラフィでまったく異常を指摘できなかったのに9ヶ月後の無料クーポン券で再度受けたマンモグラフィで多形性微細石灰化を伴う腫瘤が出現して診断された進行の速い硬がんの1例でした。

特に最後の1例は無料クーポン券が来なければ自覚症状が出現して中間期乳がんとして診断されたと思われる症例です。背筋に冷たいものを感じました。乳がんにも進行の遅いもの、速いもの、様々です。適切な乳がん検診の間隔と検診手段とはなんなのか考えさせられる1例でした。

今回は年度内最後の症例検討会でした。この会を長い間中心となって支えてくれた超音波技師のEさんが4月から関連病院に転勤になりますので、症例検討会終了後に病院近くの居酒屋で送別会が行なわれました。Eさんは、症例検討会の案内のビラ作り(非常に面白いので病院内の他科の医師などから好評でした)や他施設への連絡、スライドの準備、当日のシャウカステンやパソコンの準備に司会、ママチャリレースの企画など、乳腺グループの活動の中心として引っぱってくれました。本当に心から感謝しています。関連病院に行っても引き続き症例検討会には参加してもらいますが、今度は新たな役割もありますので元気に頑張って欲しいと思っています。

新年度は乳腺グループとして、また新たな活動に取りかかる予定です。4/11からは乳腺センターもスタートします。症例検討会においては、ミニレクチャーを充実させるつもりです。夏にはニセコのロッジで合宿も企画しようと思っています。アイデアを結集して、魅力ある、そして実りのある活動を続けていきたいと考えています。

2011年3月28日月曜日

大震災被災地の乳がん患者さんの受け入れについて

私の病院では、大震災発生直後から被災地に医療スタッフを交代で派遣しています。今日の会議でも当面の医療支援が確認されました。

札幌に搬送、避難されて来られた患者さんの受け入れも表明していますが、入院、外来ともに徐々に増えてきているようです。乳癌学会においても、認定施設の受け入れ状況の調査が開始しました。私の病院ももちろん認定施設なのですが、なぜか手違いでFAXが届かず、本日学会本部に確認してメールで手続きを行ないました。

札幌まで来るのは大変だと思いますが、もし来ていただけるのでしたらきっと温かくお迎えできると思います。被災地の方々に何かしてあげたいと思っても、遠く離れているためになかなか直接お役に立つことができずにもどかしく感じていました。私たちの病院が乳がん患者さんを受け入れることで少しでもお役に立てるのでしたらとてもうれしいです。札幌の中でも田舎なので不便はおかけしますが、多くの患者さんに来ていただければと思っています。

2011年3月27日日曜日

魔法の言葉

ACの「あいさつの魔法」(魔法の言葉で 楽しい仲間が ぽぽぽぽーん♪)が話題になっていますが…。それとは関係ありません。
こんな記事を目にしました。

「大丈夫」の一言が特効薬=前向きな被災者に感銘-「陸の孤島」で診察・NGO医師(http://www.jiji.com/jc/eqa?g=eqa_date1&k=2011032700100)(時事ドットコム)

被災者の診察に赴いた医師が「大丈夫だよ!」と声をかけると、みんな生き返ったように表情が和らいだということです。やはりこういう状況で生活するだけでもつらいのに、十分な医療を受けれていなかったことで大きな不安を抱えていたのでしょう。

きっと、乳がんであることや再発を告知されたとき、患者さんも同じ気持ちなんだと思います。
私もいつもそういうときに「大丈夫ですよ!」と患者さんに言ってあげたいと思っています。実際は全てのがん患者さんにそう言ってあげるのはなかなか難しいことですし、今はエビデンスとインフォームド・コンセントが重視される時代ですので、安易に「絶対大丈夫」とは言えません。しかし表現は違っても患者さんに安心感を少しでも与えられるような言葉をかけてあげなければ、とあらためて感じました。

2011年3月26日土曜日

喫煙と乳がんの関係〜最近の知見

喫煙が乳がんのリスクファクターになるかどうかについては以前から様々な疫学研究が報告されており、その結論も”関係あり”とするものもあれば、”無関係”とするものもありました。これは、対照の”非喫煙者”をどのように定義するかが影響していたと言われています。つまり、”関係なし”とされた研究では、”非喫煙者”の中に、以前喫煙していた人や受動喫煙環境にあった人を多く含んでいたために差が出なかったのではないかということです。


最近、このことに関する報告が2つありました。

一つ目は、米国のウエスト・バージニア大学Mary Babb RandolphがんセンターのJuhua Luo氏らによる前向きコホート試験「Women's Health Initiative Observational Study」の報告です(BMJ誌2011年3月5日号、オンライン版2011年3月1日号)。

50~79歳の女性7万9,990例(1993~1998年)を対象にしたこの報告によると閉経後女性における喫煙と浸潤性乳がんリスクとの関連について、能動喫煙者では有意なリスク増大(ハザード比1.16)が認められました。中でも喫煙本数が多く、喫煙歴も長い能動喫煙者、また喫煙開始年齢が10代であった人における乳がんリスクが有意に高かったとのことです。
また非喫煙者の中の受動喫煙者においても、間接喫煙曝露が最も多かった人(子どもの時に10年以上、成人後家庭内で20年以上、成人後職場で10年以上)の乳がんリスクは、間接喫煙曝露がなかった人に比べて32%のリスク増加が認められました。

もう一つの報告は、米国のRoswell Parkがん研究所(ニューヨーク州バッファロー)健康行動部門による研究で、「Tobacco Control」オンライン版に3月12日掲載されました。

この研究は、家庭や職場での禁煙率と、州別の乳がんの発症および死亡率を比較したもので、受動喫煙の乳がん発症率に与える影響を疫学的に推測、検討したものです。その結果、特に閉経前の若年女性では、禁煙の家庭や職場の数が多い州ほど乳がんによる死亡が有意に少なかったとのことです。研究グループは、乳がんによる死亡率の変化の約20%が家庭や職場の禁煙よるものだと推定しているそうです。


いずれの報告も喫煙(能動、受動ともに)が乳がんを増加させる可能性を示唆しています。疫学研究ですので様々なバイアスもかかっているかもしれませんが、他にも肺がんや心血管障害などの健康被害を引き起こしますので喫煙は避けるに越したことはないようですね。

2011年3月22日火曜日

更年期症状と女性ホルモン値に対する鍼治療の効果

「ホルモン療法の副作用8 更年期障害2」にも更年期症状に対する鍼治療について書きましたが、「Acupuncture in Medicine」に鍼治療による更年期症状の緩和効果に関する小規模試験の結果が掲載されました。

内容の概要は以下の通りです。
(abstract→http://aim.bmj.com/content/29/1/27.abstract)

対象:閉経後女性53人

方法:27人に中国式鍼治療、それ以外の26人の被験者には疑似鍼治療を週2回施行。更年期症状(Menopause Rating Scale (MRS))の変化、ホルモン値などについて10週後に評価した。

結果:鍼治療を受けた群は、疑似鍼治療を受けた群に比べ、顔面紅潮および気分変動の程度が有意に軽減した(p=0.001)。膣乾燥および尿路感染症については、両群間に差はみられなかった。

研究グループによると、鍼治療の有益な効果は、ホルモン値の変化によるものではないようだとのことですが、原文のabstractを読むと、鍼治療群においては疑似鍼治療群に比べて有意にエストロゲン(E2:エストラジオール)値が高かったと書いています(LHは低く、FSHは有意差なし)。
「In the acupuncture group LH levels were lower and oestradiol levels were significantly higher than sham group (p=0.046 and p=0.045, respectively) after treatment, but there was no difference in FSH levels.」

Care Net.comのニュースには、ホルモン補充療法(HRT)を受けられない女性やHRTを受けたくない女性にとっての代替法になる可能性が示唆されたと書いてありましたが、エストロゲン値が上昇するのであれば残念ながら乳がん患者さんには適していないかもしれません。

この報告は小規模であり、症状緩和効果の持続期間についての観察も不十分ですのでさらなる検討が必要です。もしエビデンスが得られ、エストロゲンの上昇をきたさないのであれば、乳がん術後の患者さんにおけるホルモン療法の副作用緩和の選択肢の一つになるのですが…。

2011年3月21日月曜日

アブラキサンの説明会〜その効果と副作用について

2011.3.16(水)に病院の「がん化学療法委員会」において「アブラキサン」の説明会が行なわれました。アブラキサンについては、2010.7.28の「乳癌の治療最新情報19 アブラキサン認可!」でも報告しましたが、投与対象症例がいなかったことと、製薬会社の担当者が変わった関係もあって今まで製薬会社からの情報提供がされていませんでした。

アブラキサンは、パクリタキセルをヒトアルブミンに結合させた抗がん剤です。パクリタキセルはもともと非常に水に溶けにくい性質を持っています。このため従来製品のパクリタキセルは投与する際に溶解を助けるためのポリオキシエチレンヒマシ油(アナフィラキシーなどの過敏症を起こしやすい)とエタノール(過敏症の原因になりうる、酒気帯び運転になる可能性あり)の添加が必要でした。

アブラキサンは、パクリタキセルにヒトアルブミンを結合させることにより、溶解を容易にしました。また過敏症予防の前投薬も必須ではなくなり、投与時間も30分と短いという利点があります。またこのことにより、より多くの量を投与できるようになったということです。

問題点としては、生物製剤のヒトアルブミンを使用するため、未知の感染症のリスクは0ではないこと、調剤に時間がかかることです。

承認の根拠になったのはCA012-0という転移性乳がん患者をアブラキサン群(260mg/㎡)とパクリタキセル群(175mg/㎡)に分けてその抗腫瘍効果と安全性を比較した臨床試験です(ともに3週に1回の投与)。

その結果は、奏効率(24.0% vs 11.1%)と無増悪期間(23.0週 vs 16.6週)において2群間に有意差を認めました、しかし、生存期間においては有意差を認めませんでした(65.0週 vs 55.3週)。

副作用の発現率は98.7%で、主なものは、骨髄抑制、神経障害、脱毛、疲労感、悪心・嘔吐、下痢、関節痛、筋肉痛とパクリタキセルと同様でしたが、重篤な白血球減少はパクリタキセル群に、神経障害と悪心・嘔吐はアブラキサン群に多い傾向を認めました。

この結果を見て気になったことは、両群とも奏効率が低いということです。この試験においてパクリタキセルは3週に1回投与ですが、現在の国内ではweekly投与(週1回、3週連続投与、1週休薬)が主流です。比較試験においてもweekly投与の方が3週に1回投与より奏効率が高く、奏効期間が長いことが証明されています(CALGB 9840)。ですからもしアブラキサンとweekly投与のパクリタキセルを比較したら違う結果になっていたのかもしれません。

ただ、通院の利便性を考えると3週に1回のほうが患者さんにとっては楽だと思います。アレルギー反応が起きにくく、投与時間が短いというのも魅力的です。ですから是非アブラキサンとweekly投与のパクリタキセルとの非劣性比較試験を行って欲しいと思っています。また、weekly投与同士の比較試験結果も興味深いところです。

2011年3月20日日曜日

ブログ再開のお知らせ〜被災地の現況に思うこと

ブログ休止後、たくさんの皆さんから励ましのコメントとメッセージ、メールをいただきました。本当にありがとうございました。

あらためて医師としての高い情報判断力の必要性とネットの怖さを感じました。ブログの閉鎖も考えましたが、皆さんのメッセージを拝見し、このブログが少しでも皆さんのお役に立てているのなら…と考え、継続を決意しました。これからはさらに情報の内容をよく吟味して慎重な情報提供を心がけたいと思います。

今日現在、原発の方ではようやく沈静化に光が見えてきたような気がします。昨日から行なっている放水が一定の効果があったようで本当によかったです。しかし、根本的な解決はまだまだ時間がかかりそうですね…。思いもよらなかった二重、三重の災難に遭われた福島県民の皆さんには心からお見舞い申し上げます。一日も早く原発問題が解決して、町が復興されることをお祈りいたします。

それにしてもこの間の自衛隊、消防隊、警察、現場の東電職員の皆さんの命をかけた任務遂行には本当に頭が下がります。誰かがやらなければならない任務ではありますが、誰もやりたくはないはずです。ご家族にも十分に話し合う時間もないままこのような任務に向かうのは精神的にも相当きつかったはずです。私が言うのもなんですが、本当にありがとうございましたとお伝えしたいです。

そして被災地では、日々死者数が増加するなど辛いニュースも多いですが、心を温かくしてくれるニュースも増えました。甲子園に向かう直前までボランティアを続けた東北高校野球部の選手たちをはじめ、子供たちが自主的に避難所内で手伝いをしている姿をみて、この国はきっとまた立ち直ることができると思いました。最近の子供たちは、メールやツィッター、ネットゲームやDSに夢中になり、人と人との付き合いができなくなっているのではないかと危惧していましたが、今回大変辛い思いをした中で得た経験は、きっと子供たちの人間形成にプラスになると私は信じています。もちろん、辛い経験をしたことに対する心のケアは大切です。国と医師、心理療法士、教師が連携して、長期にわたって目配りと気配りをしなければならない問題だと思います。


私は乳腺外科医ですから、やはり被災地の乳がん患者さんたちがどうされているのかが大変気になっています。
被災地で乳がんの手術待機中だった方や治療中だった方もいらっしゃると思います。手術を控えていた方は気を揉んでいらっしゃるのではないでしょうか?抗がん剤治療中の方で免疫機能が落ちている時に被災された方もいらっしゃると思います。寒く、衛生状況が必ずしも良くない避難所で熱など出していないでしょうか?ホルモン療法中の方で薬がなくなって、再発の不安が増してしまっている方もいらっしゃるでしょう。

なにかお手伝いをしたいと思いますが被災地の病院では、医薬品の不足やライフラインの途絶により医療状況は芳しくないようです。もし札幌まで来れるのでしたらいくらでも診させていただくのに、何もできないことが大変もどかしいです。物流が改善して患者さんたちの不安が一日でも早く解消されることを願っています。

2011年3月15日火曜日

前回の記事についてのお詫び

3/13にアップした内容には、イソジンガーグルによる体内被曝の予防についての記載をしましたが、放医研からうがい薬を飲まないようにとの勧告が出たようですので記事全体を削除させていただきました。

茨城県薬剤師会のホームページの内容(現在は削除されています)に「市販のルゴール液で代用可能」と記載があり、他にも同様の記載があったため情報を提供いたしましたが、うがい薬の種類によっては不純物などが含まれていて有害な可能性があること、有効性の根拠がないこと、などから今回の「市販のうがい薬を飲まないように」との勧告になりました。

正しい情報を提供するというブログの主旨に反することであり、この記事をここに残すのは不適切と判断いたしました。不確かな情報に基づく記事を掲載したことを深くお詫び申し上げます。

先の記事にコメントをいただいた陽さんには大変ご迷惑をおかけしました。お手数ですが妹さんに訂正していただければ幸いです。また、Marthaさんには、適切なご指導をいただきありがとうございました。一度記事を訂正し、コメントを書きましたが、記事全体を削除し、改めてお詫びするほうが良いと考えました。

このたびは多くの皆様にご迷惑をおかけしたのではないかと深く反省しております。一人でも多くの命を守りたい、という気持ちからとはいえ、不確実な情報を提供してしまった事実は消せません。当面ブログを休止し、今後の継続の是非についてブログの閉鎖も含めて考えてみたいと思います。



最後になりましたが、一人でも多くの被災者の命が救われ、被災地の皆様が一日も早く平穏な生活に戻れますように心よりお祈り申し上げます。

2011年3月9日水曜日

乳腺センター開設準備中!

2年後の新病院開設に向けて、一足早く4月からセンター化が導入されます。今まで内科、外科がばらばらだった病棟編成を変更し、消化器、循環器、呼吸器、運動器などのように臓器別に内科と外科系をワンフロアにまとめるようになるのです。

乳腺はもともと外科しかなかったため、センターと呼ぶかどうかで意見が分かれていました。個人的には今まで乳腺外科が乳腺内科的な役割もになってきたこと、病棟と外来、化学療法室、放射線治療部、薬剤部、リハビリ室などと協力して機能的な療養環境を提供することなどを考えると、乳腺はセンター化すべきだと主張してきました。

そしてようやくこの主張が通り、4月から乳腺センターとして稼働することになったのです。病棟は呼吸器センターと同じフロアですので運営はなかなか大変です。今からその準備に取りかかっているところです。

乳腺センターとしてこれから導入したいことはいろいろあります。

①化学療法の積極的な外来への移行
②病棟と外来、化学療法室の定期的なカンファレンス開催による情報の共有とスムーズな患者さんの移行
③4月から来る女医さんへの計画的な研修指導、さらなる専門研修医師の受け入れ
④検診活動の拡大(出張検診も含めた)
⑤地域での積極的な乳がん啓蒙活動
⑥患者会活動の拡大、患者会や地域住民向けの講演会や学習会の定期的な開催
⑦近隣の形成外科とのさらなる連携強化
⑧乳がん看護認定看護師の研修派遣
⑨乳腺グループとしての学術活動の発展
⑩緩和ケア病棟とのスムーズな連携
⑪地域からの紹介を増やすための工夫
⑫乳腺クリニックなどからの術後化学療法や再発治療の受け入れ
⑬臨床試験への積極的な参加
⑭検査機器の更新・新規購入(懸案のマンモトーム導入…今までは他院に依頼してました)

などなど。まだまだ他にもやりたいことはたくさんあります。

新病院開院までの間に少しずつ準備していかなければなりません。何より患者さんのプラスになるような乳腺センター作りを心がけていきたいと思っています。

2011年3月7日月曜日

マンモグラフィの正確な読影とCAD

マンモグラフィが乳がん検診に導入されて以来、その検査については一般に広く認知されるようになりました。そしてもし乳がんがあればマンモグラフィで簡単に診断できると思われているのではないかと思います。

しかしマンモグラフィを正確に読影することは一般の方々が想像するよりもはるかに難しいものなのです。本来はあってはいけないことですが、実際には検診の見逃しということは起こりうることですし、そういうフィルムばかりを集めて読影試験をすると経験豊富な乳腺外科医でもやはり見落としてしまうことがあるのです。微妙な所見に対して精密検査とすべきかどうか意見が分かれることもよくあります。

見落としを恐れすぎると要精検率が上がりすぎてしまいますし、拾いすぎないようにしようと思うと見落としが増えてしまいます。それほどマンモグラフィの所見は微妙な場合があるのです。マンモグラフィ検診の適切な精度管理のためには、がん発見率が一定以上でありながら要精検率が一定以下であるということが要求されますのでなかなか難しいのです。

こうした見落としを防ぐためには、個人的にトレーニングし続けるのはもちろんですが、それでも限界はあるので工夫が必要です。

私たちがマンモグラフィ検診を始めた時にまず行なったのは、見落としを防ぐための”ダブル・チェック”でした。これは2人の読影医がお互いの所見がわからないようにしながら判定し、どちらかが”カテゴリー3以上”の場合に「要精検」とする方法でした。

しかしこの方法だと、拾いすぎてしまい、要精検率が高くなってしまうことが後にわかりました。そこで2人の意見が分かれた場合に3人目の読影医の判定を加えて判断することにしたところ、がん発見率は低下させずに要精検率を低下させることができました。現在は、関連施設も含めた2つの病院で検診を行なっているため、私とG先生がそれぞれの病院の第2読影医になり(第1読影医は乳腺以外の読影資格を有する外科医)、意見が分かれた場合はお互いにトリプル・チェックにまわすようにしています。

先日、FUJI FILMから、「AMULET」というデジタルマンモグラフィの機械に直接接続できる、コンピューター乳がん検出支援システム(CAD)「デジタルマンモグラフィCAD MV-SR657EG」が発売されました(http://fujifilm.jp/business/healthcare/mammography/products/mammo_cad/index.html)。
今まで他社製のCADも発売されていましたが、「AMULET」の画素は50μmと世界最小で、同製品に対応する新しいCADはアルゴリズムの最適化により高い検出精度を実現しているとのことです。また、このCADはマンモグラフィを読影するモニターで確認できるため、診断作業の効率化や低コスト導入も図れます。価格は370万円(税別)とのことです。

もしCADが導入されたら読影の負担は軽減できそうです。現在の第1読影医の代わりをCADにしても良いですし、現行のままCADを併用するのも良いかもしれません。より精度が高く、かつ効率的な診断ができるように新病院ではCADを導入したいものです。

2011年3月6日日曜日

がん情報サイト 「Cancer Channel」

製薬会社の方から以前教えていただいたサイトを覗いてみました。がん情報.netで提供している「Cancer Channel」というサイトです(http://www.cancerchannel.jp/)。

これはがん一般に関するイベントやニュースを掲載しているものですが、乳がんに関してももちろん情報が得られます。特に「ビデオ」をクリックして”乳癌”で検索してみるとけっこう興味深い内容の講演のビデオが無料で視聴できるので便利です(http://www.cancerchannel.jp/posts/category/video/breast-cancer)。

いま現在で視聴できるのは以下の通りです。いずれもその筋の第1人者の先生方のお話ですのでとても勉強になると思います。

2009/09/27 
「最近の臨床試験の成果:臨床試験が私たちにもたらすもの」
2009/11/22 
「乳房の再建 自家組織再建(筋皮弁)」
「乳房の再建 自家組織再建(穿通枝皮弁)」
「乳房の再建 インプラント再建」 
「乳がんの病理のこと」 
「乳がんの外科治療の最新事情」
「乳がんの薬物治療の最新事情」
「今後期待される乳がん治療 放射線療法の役割(有用性)、加速乳房部分(APBI)」
2010/04/17
「転移・再発乳がんとは?」
「転移・再発乳がんに対するホルモン療法」
「転移・再発乳がんに対する化学療法」
「転移・再発乳がんに対する分子標的治療」
2011/01/21
「乳がんに対する新治療と臨床試験のこと」

いくつか視聴してみましたが一般向けの講演内容ですので、医師以外の医療従事者はもちろん、患者さんが見てもわかりやすいと思いますので興味のある方は一度覗いてみて下さい。

2011年3月4日金曜日

マイクロチップでがんの迅速診断〜マイクロNMR

穿刺吸引細胞診で得られた検体を用いて迅速にがんの診断が可能な検査法が「Science Translational Medicine」2月23日号に掲載されました。

「マイクロNMR」と呼ばれるこの方法は、磁性ナノ粒子を用いて腫瘍内の蛋白やその他の化合物を測定するもので、このマイクロチップはスマートフォンに取り付けることができるため、ベッドサイドで検査を行なってデータを読み取ることができ、1時間以内に診断が可能だそうです。

胃がん患者を用いた試験では、50例中44例のがん患者を測定した9 種類 のタンパク質マーカーのうち4 種類に絞り込むことで、マイクロ NMR チ ップの診断精度を 96%まで上げ、免疫組織化学的検査の精度である84%を上回ることができました。

スマートフォンに接続するというのは、どうもイメージがわきませんが、このツールが市販されれば、1チップにつき数ドルの安価なものになる見通しとのことです。安価で現行の診断法より精度が高く、しかも早く結果が出るというのは魅力的です。さらなる検証を重ねて臨床に活かされるようになれば、病理医の負担も軽減するはずです。

2011年3月3日木曜日

Paget病について



Paget(パジェット)病は、1874年に英国の外科医Sir James Pagetが報告した比較的まれなタイプの乳がんです。乳がん全体の約0.5%を占めます。

その特徴は、
①乳頭(から乳輪)にびらん(ただれ)を呈する
②明らかな乳房内の腫瘤がない
③ほとんどが非浸潤がんで予後は良好
④比較的高齢者に多い
というものです。

病理学的な特徴は、乳管から乳頭の表皮内に進展したPaget細胞という大型のがん細胞がみられることです。がん細胞は乳管内にも広がり、時に乳管外にも浸潤しますが軽度のものだけを”Paget病”と呼びます。一方、浸潤がんが乳頭まで乳管内進展してびらんを呈したものは”Pagetoidがん”と呼びます。

Paget病の進行は一般的に遅く、病変の表皮内の進展速度は1年間に半径3.6mmと言われています。私たちの病院でもかなり長い経過で、広範囲な病変を呈した(乳輪を超えていました)Paget病の症例を経験しましたが、この症例でも浸潤は認めませんでした。

Paget病の治療は以前は単純乳房切除術で良いとされていたようですが、微小浸潤を伴うことがあるため現在ではセンチネルリンパ節生検を併用した乳房切除が標準術式となります。病変が限局している場合には、乳頭乳輪を含めた乳房温存術+放射線治療を行なう場合もありますが、変形しやすいため適応は慎重に判断する必要があります。以前、研修中の病院で温存手術をトライした患者さんがいらっしゃいましたが、残念ながら広範な乳管内進展があったため、再手術となりました。形成外科がある場合には、乳房切除+同時再建も考えて良いと思います。

2011年3月2日水曜日

副作用の個人差〜つわりと抗がん剤投与後の嘔吐

久しぶりに化学療法後の嘔気・嘔吐のコントロールがつかなくて苦悩しています…。

吐き気が出てから制吐剤を使っていた時代にはCAFなどの治療では頻回に嘔吐が見られていましたが、予防的に制吐剤を使用するようになってからは、実際に嘔吐するのはまれになってきました(10%程度)。また、嘔吐したとしてもほんの数回で回復することが多かったのですが今回は投与後数時間で出現し(急性嘔吐)けっこう回数も多く長引いています。

この患者さんは出産するまでずっとつわりがひどかったとお聞きしていたので心配はしていましたが、予想以上に重症です。

急性嘔吐の予防として、FEC投与直前にグラニセトロン(5-HT3受容体阻害剤)とデキサメタゾン(ステロイド)の静注をいつも通り行ないました。翌日からはデキサメタゾンとドンペリドンの内服をしています。しかし、何度も嘔吐してしまい、食事をほとんど摂取できないため、ついに補液まで必要になってしまいました。

遅延性嘔吐に対しては、最近ではアプレピタント(NK1受容体拮抗剤)やパロノセトロン(5-HT3受容体阻害剤)などの制吐剤の出現によって進歩がみられてきました。しかし、急性嘔吐に関しては、ほとんどがデキサメタゾンとグラニセトロンでコントロール可能になっているためか、これらでコントロールできない場合には難渋します。

次回のクールは、グラニセトロンをパロノセトロンに変更し、アプレピタントを併用する予定です。制吐補助剤として、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬(ワイパックスなど)や抗ヒスタミン薬(レスタミンなど)を併用するのも有効と言われていますので投与を検討するつもりです。

パロノセトロンやアプレピタントは非常に高価な薬剤ですので全例には初回から投与はしていません。経験上、FEC療法においては大部分の患者さんは上記の制吐剤の投与で対処可能だからです。

一番困るのは、患者さんが副作用を恐れて抗がん剤をやめたいと思ってしまうことです。できるだけ副作用を出さないようにしたい、と考えてはいるのですが、やはり副作用には個人差がありますので今回のようなケースは起きてしまいます。つわりがひどかった患者さんには最初から最大限の制吐剤を投与するという配慮も必要なのかもしれません。

2011年3月1日火曜日

乳房再建〜講演会後の変化と再発治療中の再建

昨年D病院から形成外科のE先生をお招きして講演していただいて以来、私たちの病院の乳がん術後患者さんのうちすでに4人、E先生の外来に受診されました。

内訳はもともと乳房再建を予定していた患者さんが2人、今回の講演をお聞きして決意した患者さんも2人です。さらに手術直後の患者さんで乳房再建を念頭に入れている方もいらっしゃいますので今後さらに増えそうな勢いです。

北海道は東京に比べてもともと乳房再建の希望は少なかったように感じます。それは北海道人の気質なのか、経済的に厳しい人が多い上に乳房再建に保険が適応されていなかったからなのか、乳房再建に取り組んでいる病院が少なかったからなのかはわかりません。私自身、患者さんに乳房再建のお話はしてきましたが、経済的負担を強いることになることを考えると、あまり積極的にはお勧めはできませんでした。

自家組織を用いた乳房再建が保険で可能になっても、なかなかご紹介する乳房再建専門の病院がなかったため今までは乳房再建症例はほとんどありせんでした。しかし、E先生がD病院で乳房再建に取り組まれていることをお聞きし、講演をしていただいたおかげで、安心して患者さんに乳房再建をお勧めすることができるようになったのです。こちらが自信を持ってお話ししなければ、患者さんも積極的には考えられないものなんだということが今回あらためて実感しました。

突然紹介が増えるとE先生も大変だと思います。自家組織を使った再建はけっこう時間のかかる手術です。特にE先生が得意としている血管吻合を用いる遊離深下腹壁動脈穿通枝皮弁は大変です。好きなワインも飲めないくらい忙しくされているのではないかと心配しています(笑)。

今日は他院で手術後、胸骨に再発し、放射線治療と抗がん剤+ホルモン治療で寛解して10年たった患者さんにも乳房再建の希望があるかお聞きしてみました。胸骨周囲に放射線治療をしていることから人工物は困難ですし、内胸動静脈に血管吻合する遊離深下腹壁動脈穿通枝皮弁も難しいかもしれませんので、広背筋皮弁か有茎腹直筋皮弁になるのではないかと思いますとお話ししました。

その患者さんも再発して以来ずっと乳房再建は考えてもみなかったようですが、10年も再発が消えた状態を継続できているので少し気持ちに余裕ができてきたようです。
「そう言えば温泉に入りたいのを無意識に我慢していたのかもしれません。」
とお話ししていました。

再発していても状態が落ち着いていて、再建をすることで精神的な安定が得られるなら、積極的に乳房再建を考えても良いのではないかとその患者さんとお話ししていて感じました。