2009年9月8日火曜日

乳癌術後のがん検診の重要性

たぶん、乳癌と診断され、つらい治療を受けた患者さんは、”乳癌になったんだから、もう他の癌にはならないだろう。私だけ二つも三つも癌になるはずがない!”と思っておられるのではないですか?

お気持ちはすごくわかります。そんなに不幸が重なるはずがない、と思いますよね?でも乳癌になった人もなっていない人も他の癌になる確率は少なくとも同じなんですよ。乳癌は治る可能性が高い部類に入る癌です。そして比較的若い年代でもなります。乳癌治療後の人生は長いのです。だから、対側の乳癌だけでなく、他の臓器のがんについても十分に注意しなくてはいけません。

私の病院でのデータをお示しします。過去10年の間に乳癌の手術をした患者さんが、これまでに他のがんにどのくらいかかっているかをカルテから調べたものです(記載漏れがあるかもしれないので実際はもう少し多いはずです。乳癌の手術前に治療した他臓器がんも含みます。)。

対象:1999.8-2009.7までに乳癌の手術をした患者さんのうち、両側乳癌の患者さんを除いた原発性乳癌患者さん363人
結果:他臓器がん(+) 34人(9.4%)、他臓器がん(-) 329人(90.6%)
他臓器がんの内訳(重複あり):甲状腺 10人、大腸・胃 各5人、子宮頸部・肺 各3人、肝臓・子宮体部・悪性リンパ腫 各2人、卵巣・白血病・皮膚・舌・腎臓 各1人

なんと、およそ10人に1人は他の臓器のがんにかかっています!
観察期間が短いですから、一生涯に他臓器のがんにかかる確率はもっと高いはずです。


私は、患者さんの術後フォローをするときには、がん検診を受けるようにおすすめしています。胃がん(胃カメラ)、大腸がん(便潜血)、子宮がん(頸部の細胞診)については、検診効果が一定認められていますので年1回受けるようにお話ししています。肺がんについては、CTが有効だと思いますが、被爆の問題もあるので意見が分かれています。でも私は自分の患者さんには、再発チェックも兼ねて、年1回のCTを撮っています。甲状腺がんは、触診とリンパ節をエコーで見るときに一緒にチェックしてもらっています。他のがんについては、有効な早期発見法が確立していませんが、かなりのがんは、これでカバーできます。

乳癌を克服することはもちろん重要なことですが、他のがんに対しても注意が必要です。みなさんもがん検診を受けましょう!

10 件のコメント:

  1. こんばんは。
    リンダさんの紹介でこちらのブログを教えていただき、いつも興味深く拝見しています。
    わたしは乳がんの拡がり検査で、子宮筋腫(6×8センチ)と、頭に髄膜腫が見つかりました。よほど、できもののできやすいタチのようですが、今のところどちらも悪性腫瘍ではないのが救いです。今日の記事を拝見して、大腸がんなど、他の部位のがんも注意していかなきゃなと改めて感じました。

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  2. まみっちさんへ

    はじめまして!
    子宮筋腫と髄膜種ですか。どちらも良性で良かったですね!
    私の知っている患者さんで、最も多くの悪性腫瘍にかかった人は、両側乳癌、肺癌、直腸癌、悪性リンパ腫の4臓器5病変でした。他にも3臓器の方は数人います。
    いつまでも気は抜けないですね!

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  3. >私だけ二つも三つも癌になるはずがない!”と思っておられるのではないですか?


    ・・・なんの根拠もなく、私もそのように思っていた一人であったんだと、今回の記事を拝見して実感しました。
    なんて浅はかな甘えたいたんだろうとお恥ずかしいです。

    頭ではなんとなくわかっていたことでしたが・・・
    でもお示しいただいた数値を見て、愕然としてしまいました><
    なんと!1割の方が他の臓器のがんを併発していらっしゃるのですか??

    ・・・なんともいえません。

    ホルモン治療している以上、子宮系のがん(体がん、頸がん)については注意をしないといけないとは思っていましたが、他の臓器のがんになる確率もこれほど高いとは。。

    子宮頸がん検診は受けたことあるんですが、子宮体ガン検診は、とても、痛いと聞いておりますので、それすらも、検診を受けにいくのを躊躇していて・・・体ガン検診もやはり必要ですよね・・?

    現在、術後1年経過しましたが、他の臓器のガン検診はまだ受けていません。

    でも、このデータはなんと厳しい現実でしょう。

    ガンという病気の怖さ、治療の辛さがわかっている分、今、自分の乳がんの再発転移を心配するだけでも一生懸命なのに、他の臓器のガンまで注意しなくてはならない現実に、なんだか気持ちが折れそうになってしまいます><

    でも冷静になって考えればそうですよね。
    ひとつ臓器が、ガンになってしまっても、他の臓器にガンが発症しないなんて保証はありあませんものね。

    他の臓器についても、いつガンが発症するかわからない・・・
    同じように考えて納得するしかないですね。
    今でも、自分も、乳がんでの再発転移とういう爆弾を抱えて生きていってるのには変わりないんですから。

    今回の記事では、検診の重要性を再認識させていただきました。
    本当に大切なことを、ここにきて、気付かせていただいてありがとうございました<(_ _)>

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  4. kimity0115さんへ

    このブログが他の検診を受けるきっかけになってくれたら私もうれしいです。

    子宮体癌の検診は、もちろん受けた方が良いと思います。特にタモキシフェンの内服をした方は、発症率が上がりますので絶対に受けるべきです。ただ、月経があるうちは子宮体癌にはなりにくい(子宮粘膜が定期的に剝離するため)とも言われていますので婦人科医に相談してみてください。

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  5. はじめまして。
    乳がんの術後の検診について教えてください。
    私は非浸潤性乳管がんで両側皮下乳腺全摘、自家組織で再建しました。
    術後一年の検診では、簡単な触診のみで、検査はありませんでした。
    先生にそれでいいのか質問をすると、「浸潤がんでも検査はしません」という事。
    乳がん診療ガイドラインでも、健側の検診のみという事のようですが、病院によっては多くの検査をするという事です。
    全摘とはいえ、皮膚を残していますので、残った皮膚に再発することや、まれに転移する事ももあると聞きます。
    この先も全く検査がないのでは検診の意味がないように感じます。
    不安に思い、色々調べている中でhidechin先生の記事をみつけ、先生はどのような検査をされるのか教えていただければと思いコメントさせていただきました。
    人間ドッグで行われている一般的ながん検診は年に一度受けています。
    非浸潤がんでもこの記事でかかれているような検査をされるのでしょうか。

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  6. >Aさん
    はじめまして。
    非浸潤がんの場合、診断が正確であるのであれば本来はリンパ節や遠隔臓器への転移は起きないはずです。したがってCTや骨シンチなどは必要ないことになります。私自身は両側皮下全摘を施行した非浸潤がんの患者さんの経験はありませんが、私であれば乳房の超音波検査くらいはすると思います。マンモグラフィは皮下全摘したのであればしません。遠隔転移の検査は上に書いた理由で本来必要ありませんが、患者さんによっては年1回の胸部CT(喫煙者など)や腹部超音波検査(何か所見があった場合)を行なうことはあります。
    念のため付け加えると非浸潤がんと診断された場合の遠隔転移率は0%ではありません。これは病理検索した割面以外に微小な浸潤がんがあったからだと推測されています。ですからどのくらいの間隔で切り出して病理検索したのか(ひどい場合は1割面のみで非浸潤がんと診断している場合があります)によって信頼度が異なりますのでそれによって遠隔転移の検査の必要性も変わってくると思います。

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  7. hidechin先生、
    丁寧な回答をありがとうございます。
    私は乳がんの診断を受ける前に受診した乳腺専門病院で「異常なし」と言われました。その後、一年もたたずに乳がんと言われ、あの時の診断は何だったのだろう?という気持ちになりました。(最初に受診した病院とは別の施設です)
    そのためなのか、もともと疑い深い性格なのか、主治医の話も全て鵜呑みにする事が出来ず、色々調べて不安になっています。乳房やリンパへの超音波検査くらいしてくれたら少しでも安心できるのに、と思うのですが、やってもらえないものはどうしようもないです。
    「そんなに小さい事を気にしてもしょうがないでしょ」と言われますが、後から後悔するよりはきちんと調べてほしいと思うのですが。
    検診のやり方で納得いかない場合は、(今さら…ですが)転院するという事もできるのでしょうか。

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  8. >Aさん
    もちろんAさんが主治医の先生の説明に十分納得できず、やはり超音波検査をして欲しいと思うのでしたら転院することはかまわないと思います。ただ、本来であれば手術した施設でフォローしてもらうことがベストだとは思います。もう一度Aさんが不安に思っていること、して欲しい検査についてお話ししてみてはいかがですか?それでもどうしても納得できなければ転院を考えるということでいかがでしょうか?

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  9. hidechin先生
    検査は必要ないからやらない、という事でした。検査をするかしないかではなくて、きちんと説明をしてもらえない事に納得できないのだと思います。
    乳がんの知人は術後の検査があまりにも頻繁にあるので先生に聞くと「人それぞれなんだから、余計なことはいわないように!」と怒られたそうです。
    先生も色々な考え方の患者がいて大変でしょうが、先生を選べない患者側も大変です。
    次の診察は一年後ですので、転院についてはその時にもういちど考えてみようと思います。
    ありがとうございました。

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  10. >Aさん
    非浸潤がんであれば、皮下全摘後に局所再発する可能性があるとしたら、乳頭周囲のわずかに残った乳腺組織か皮下に遺残してしまった乳管内からの再発しかありません。主治医の先生は、皮下全摘によって皮下組織内には乳腺組織を絶対残していないという自信があるから局所再発の可能性は0だと考えておられるのだと思います。そして乳頭周囲にわずかに残る乳腺組織からの局所再発であれば、触診で診断可能だと判断されているのではないでしょうか?
    このお考えはきちんとした手術をしておればほとんど正しいと考えてよろしいかと思います。もちろん絶対ということはありませんので超音波検査を受けたいという希望があれば受けるのはかまわないとは思います。ただ、それを言い出すと通常の乳房全摘(乳頭乳輪を含めた)した皮下の再発(乳腺組織の取り残しから発生した)の可能性も0ではありません。しかし術側の胸壁を超音波で検査することは私の施設でも通常していません。
    年1回超音波検査を受けることも安心のために重要かもしれませんが、時々ご自分で皮下組織と乳頭周囲を自己検診することの方がもっと重要かもしれませんよ。
    それではお大事に!

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