2011年11月2日水曜日

局所進行乳がん…相変わらず多いです…

7月にも少し触れましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/07/blog-post_16.html)、最近、残念なことにかなり進行した状態で受診される患者さんが増えています。

一般的に「局所進行乳がん」というのは、StageⅢA-ⅢCの状態を意味します。つまり遠隔転移は明らかではありませんが、腫瘍が5cmを超えていてリンパ節転移を伴っていたり、皮膚や胸壁に浸潤していたり、リンパ節転移が高度な場合の患者さんですので、外科的治療のみで治癒させるのはなかなか困難です。手術と化学内分泌療法、そして放射線治療を含めた集学的治療が必要になります。

特に最近ではいきなり手術をするのではなく、術前化学療法(時に内分泌療法)を行なうことが推奨されています。診療ガイドラインでも「局所進行乳がんに対しては、薬物療法(化学療法)を施行したのち、外科療法、放射線療法といった集学的治療の施行が勧められる」が推奨グレードB(科学的根拠があり、実践するよう推奨する)となっています。

ここ数ヶ月ほどの間に経験した患者さんの中では、自覚症状が出てから1ヶ月くらいで急速に大きくなった1例を除いて、ほとんどが自覚症状が出てからかなり長い間経過をみています。手術や化学療法が嫌だった(怖かった)から何もせずに経過をみていた方が大部分で、あとは補完代替療法をしていて増大した方が1人、乳腺炎だと思って経過をみてしまった方が1人いらっしゃいました。自覚症状が出た時点で受診していたらこんなに大変な治療を受けなくても良かったのに…と思うことが多いです。

とは言っても今から後悔してもしかたありませんので、なんとか治療を前向きに受けていただけるように、十分に時間をかけてお話をお聞きするようにしています。もともと受診したくない、または受診できないような理由があったわけですから、病院での治療に対して大きな不安や恐れ、不信、抵抗があるはずです。まずはなぜ受診が遅れてしまったのかを傾聴することから診察を始める必要があります。そして一方的にエビデンスを押し付けて今までの経過を責めたり批判したりはしないように心がけています。最初のコミュニケーションがうまくいかないとこのような患者さんたちは心を開いてくれなくなるからです。

幸い、うちの乳腺センターのG先生もN先生も、患者さんとの話し合いに時間をかけることを嫌がりません。私もできるだけ時間をかけるようにしていますが、彼らは私以上に時間をかけて診療しています。外来が延びてしまうと看護師さんたちには残業を強いることになってしまいますが、彼女たちも嫌な顔一つせずに最後まで対応してくれていますので非常に助かっています。

病院が嫌で我慢しても、痛みや出血、悪臭などで結局ほとんどの患者さんはいつか受診することになってしまいます。受診を嫌がった理由をきちんと把握することは、乳がん検診受診率の向上にもつながるのではないかと思います。近いうちに過去の局所進行乳がんの患者さんの受診が遅れた背景に関する情報を集めて学会で報告したいと考えています。

6 件のコメント:

  1. はじめまして。

    先生のブログはとても勉強になります。
    また、患者と向き合って伝えて下さる姿勢に、いつも励まされております。ありがとうございます!

    ステージについてお教えください。
    ステージは検査結果を基に決まるようですが、
    手術の結果で変わるのでしょうか?
    (ステージや術後の病理検査の結果等、知らせてもらえませんでした。)
    手術でセンチネルリンパ節に1個転移が見つかり、腫瘍は5㎝以上、自分ではⅢAになったと思っています。

    お忙しい中申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします。

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  2. >すももさん
    はじめまして。
    現在の乳癌取扱い規約における病期(ステージ)は、原則的に術前の病期を用います。ですからセンチネルリンパ節に転移があっても変わりません(国際的なUICC分類では術後の病期は別にあります)。すももさんの場合はT3N0M0でStageⅡBのままです。
    実際には、今の考え方ではがんの生物学的な特性(ホルモンレセプター、HER2、Ki-67など)によって術後の補助療法を決定しますので病期は重要ではなくなっています。あまりⅡB期かⅢA期かにこだわらなくても良いのではないかと思いますよ。

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  3. 丁寧なお返事をありがとうございました。

    ステージが変わっても今の状況が変わるわけではないので、ステージや生存率等の数字にはもうとらわれなくなっています。
    ただ、自分の病状が分からず、ずーっともやもやした感じがありました。
    教えていただいてすっきりしました。
    ありがとうございました。

    自分の病気のことをきちんと知りたいので、いろいろ学んで、主治医の先生にお聞きしたいと思っています。
    (でも会話は殆どなくて。。hidechin先生の病院とは大違い。。涙。。)

    このブログに巡り合え、過去にさかのぼって読んでいるところです。
    これからもどうぞよろしくお願いいたします。

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  4. お久しぶりです。
    本当に受診しないでがんを進行させてしまわれる方が多いのに驚きます。昨年の乳がん学会でどなたかが、最初の受診まで平均6か月かかっていると発表されていたような記憶があります。
    仕事されている方は、万が一がんだったら仕事をやめなくてはならないから、と受診しなかったり、会社にかくして治療していた後輩もいました。
    早く見つけて適切な治療を受ければ、仕事にも復帰できるのに....
    来年2月に札幌でがんと就労のイベントが計画されています。私も裏方で参加予定です。
    またご案内させてくださいね。

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  5. >すももさん
    いろいろご心配になるお気持ちは十分に理解できます。
    きっと主治医の先生は、何も聞かれなければ疑問や不安はないと思っているのかもしれませんよ?お聞きしたい内容をメモにしておいて受診時に看護師さんにあらかじめ渡しておくとスムーズに説明してくれるのではないでしょうか?
    長いおつきあいになりますので、率直になんでも聞けるような関係が築けると良いですね。
    それではお大事に!

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  6. >リリーさん
    受診が遅れた患者さんの理由は様々だと思います。ここをきちんと把握して対応しなければ、いくら乳がん検診を呼びかけても効果は不十分になりますよね。
    2月のイベントについては知りませんでした。詳細についてお報せいただければここでも情報を提供したいと思いますのでよろしくお願いいたします。

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