2010年1月31日日曜日

乳癌の治療最新情報13 ハーセプチンの自己投与製剤

ハーセプチンを製造販売しているスイスのロシュ社が、自己接種できるタイプのハーセプチンの開発に目処がたったということで製造ラインへの設備投資を発表しました。このタイプの製剤とデバイスはすでに第3相臨床試験中とのことです。

ハーセプチンはHER2陽性乳癌に対する非常に有効な薬剤ということで、現在、進行再発乳癌、乳癌術後の補助療法として投与されています。問題は高額なことと、特に進行再発乳癌に対しては週1回投与しか保険では認められていないため、毎週通院しなければならないということです。そういう意味では患者さんの負担が大きな薬剤でした。

今回の製剤が認可されれば、例えば4回分を処方してもらえば月1回の通院ですみます。外来で毎週長々と待つ必要もありません。

自己接種(インスリンと同様の皮下注のようです)の手技の問題と安全性の問題がこの臨床試験でクリアできれば、患者さんにとっては大きな恩恵になると思います。

販売はまだまだ先かもしれませんが、待ち遠しいですね。

2010年1月29日金曜日

非浸潤癌と術式

先日ある乳癌関係のサイトを見ていたところ、非浸潤癌で乳房全摘を受けた患者さんのコメントに対して、
”0期(非浸潤癌)で全摘をされたなんておかしいのではないか?0期なら温存手術ができるはず”
という書き込みがありました。

同じような話は何度か耳にしたことがありますが、”非浸潤癌(つまり非常に早期な状態)”であることと、”温存術が可能である”ことは、別の次元の話です。

非浸潤癌は、転移能力を持っていない超早期の状態の癌ではありますが、広がりが広ければ温存術は適応外です。場合によっては、乳房全体に広がっていることもあるのです。例えば、悪性の微細石灰化が広い範囲で見られる場合は、ガイドライン上でも適応外となっていますし、超音波で非浸潤癌による不整な乳管拡張が広く確認される場合やMRで広範囲に造影される病変が見られる場合も温存術はできません。

早期に見つかったのだから乳房を残してあげたいと私たちも思うのですが、癌の性質によってはあまりしこりを作らずに非浸潤癌のまま広く広がってしまうタイプがあるのです。

もちろん乳房温存術で取りきれる非浸潤癌もあります。しかし、もし非浸潤癌で切除断端に癌が残ってしまった場合には、より慎重な対応が必要になります。なぜなら非浸潤癌は、完全切除(全摘)してしまえば本来100%治る癌だからです。

通常、温存術で乳管内進展した癌(非浸潤癌)がわずかに遺残してしまった場合は、放射線治療の追加(電子線)で経過をみる場合がほとんどです。しかし乳房温存術全体で見ても、年率1%くらいの局所再発は起こります。このうち約半数は浸潤癌として再発すると言われています。つまり、最初に全摘してしまえば100%治癒したはずのものが、遠隔転移のリスクを背負うことになるのです。

浸潤癌は最初からある程度の遠隔再発リスクを背負っていますから、局所再発によるリスクの上乗せはさほどでもないかもしれませんが、非浸潤癌の場合は遠隔再発率0%が0ではなくなるのですから意味合いは大きく異なります。

ですから広い非浸潤癌に無理して乳房温存術を行なうことはあまりお勧めできません。美容的にも無理に温存するより再建したほうが、ずっときれいになります(お金はかかりますが…)。

非浸潤癌はすべて全摘すべきだと言っているわけではありません。私の患者さんの中にも非浸潤癌で乳房温存術で経過をみている患者さんはたくさんいます。問題は、美容的に許容できる範囲内で完全切除できる見込みがあるかどうかなのです。そして、手術の結果で癌の遺残があった場合には、浸潤癌で再発するリスクを背負っても温存術のままで経過をみたいかどうかをよく考えて再手術するかどうかを判断すべきであるということです。


少し話がそれましたが、”早期癌(非浸潤癌)なら温存術を選択するのが当然”という考え方が正しくないことが理解できましたでしょうか?

2010年1月26日火曜日

化学療法センター視察


新病院建設に向けて、化学療法室の視察のため、1/24から1泊で某大学病院に視察に行ってきました。メンバーは私も含んだ医師2名、看護師2名、薬剤師1名、事務1名の6人という大所帯でした。

化学療法センター、薬剤部、緩和ケア病棟、腫瘍内科病棟を見学させていただいて、プロトコール委員会にもオブザーバー参加させていただきました。センターの先生方、看護師長さんはじめ看護スタッフのみなさん、薬剤部のみなさんはとても熱意を持って仕事をしておられました。また、私たちのような小規模の病院職員に対しても、とても親切に対応してくださいました。視察は9:30-18:00までびっちりでハードでしたが、とても貴重な経験をさせていただき、感謝の気持ちでいっぱいです。

この病院は国立大学病院の中で病床数が一番多いだけあって、設備もスタッフも私たちとは比べものにならないほど充実していましたが、多くのことを学んできました。また、17階の緩和ケア病棟からみた景色も最高でしたし、病院全体に絵画や植物が飾られていたり、エレベーターに椅子が設置してあったり、患者さんに対する心遣いが感じられる病院でした。

化学療法センターは間取りが広く、明るい雰囲気でアメニティも充実していました。安全対策やスタッフの教育システム、カンファレンスの徹底など、すぐにでも参考にしたいことがたくさんありました。資金的な制限がありますからまったく同じようにはできませんが、今回の経験をこれからの化学療法室づくりに生かしていきたいと思っています。

緩和医療も札幌とはかなり違っていました。ここでは在宅で緩和医療をしてくれる開業医が充実しているため、22床という少ない病床数でも対応可能だということです。地域との連携がとてもうまくいっている印象でした。うちの病院でも在宅での緩和ケアは行なっていますが、札幌全体でみるとまだまだ不十分なようです。

昨日は自宅に帰って来たのが23:15でした。今朝は6:00起きで雪かきをして猛吹雪の中、出勤してさすがにばてました…。
でも病院からの派遣のため、レポート提出の義務があるのでさっきまで書いていたところです。でもまだ終わりません…。今週中が期限なので頑張ってまとめます。

写真は日曜日に現地で飲んだ美味しいお酒です。地元の名産(有名な○タンや○キ)も食べてきました。ハードだったけど充実した楽しい2日間でした。

2010年1月23日土曜日

乳癌患者さんの慢性疼痛と新たな治療法

乳癌患者さんが疼痛に悩まされるケースは、

①局所進行乳癌(胸壁浸潤した場合など)
②乳癌術後の神経痛(症状が強く、長引く場合は、乳房切除後疼痛症候群と言います→http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/04/postmastectomy-pain-syndromepmps.html参照)
③乳癌の再発(骨、リンパ節、局所など)

などがあります。

通常、痛みの治療としては、症状の原因となる病態の治療(手術、放射線治療、化学内分泌療法など)を第1に考えますが、同時に鎮痛剤を併用します。骨転移に対してはビスフォスフォネート(ゾメタ)が有効です。
鎮痛剤には、大きく分けて下記のような種類があります。

①消炎鎮痛剤(NSAIDS):ロキソニン、ボルタレンなど。副作用として胃腸障害、腎障害には注意が必要です。
②アセトアミノフェン:消炎作用のない鎮痛剤です。小児の解熱剤にも用いるくらい安全な薬剤です。胃腸障害は起こしません。
③医療用麻薬:弱オピオイド(リン酸コデイン)と強オピオイド(モルヒネ、オキシコドン、フェンタニルなど)に分けられます。癌性疼痛一般に用いられますが、神経痛には効果はあまりありません。

乳癌患者さんを悩ませる慢性疼痛の中でも神経痛はなかなか治療に難渋することが多いです。現在の標準治療は、抗うつ剤やケタミンという麻酔薬の一種、ガバペンチンなどの鎮痛補助薬です。これでもコントロールできない場合には、局所麻酔薬などを用いた神経ブロックを行なうこともあります。

先日、セント・ジュード・メディカル(SJM)社は、脊髄に弱い電気を流すことで、慢性的な痛みを緩和させる体内植込み型脊髄刺激(SCS)装置”ジェネシス”を発売したと発表しました。

この製品は、脊髄周囲の硬膜外にリードを留置し、リードの先端電極から脊髄神経に微弱電流を送ることで脳へ痛みの信号を伝わりにくくする埋め込み型の機械です。国内では背、腕、脚の慢性疼痛管理が適応となっています。メドトロニック社の”アイトレル3システム”がすでにSCSとして販売されていますが、アイトレル3システムが定電圧刺激なのに対してジェネシスは定電流刺激のため、より患者の痛みの感覚がより緩和できるとともに、カバーできる痛みの範囲も大きいと期待されているそうです。

機械を体内に留置する煩わしさや手術・合併症のリスクの心配はありますが、難治性の疼痛に対しての有効な手段になるかもしれません。

2010年1月19日火曜日

40歳代のマンモグラフィ検診問題についての厚労省の見解

先日ここでも書いた、米国のマンモグラフィ検診の論争が、国内でもかなり関心を呼んでいるようです。そもそものきっかけは、昨年11月,USPSTFが40~49歳の女性のマンモグラフィによる定期検診を推奨しないとする勧告(Ann Intern Med 2009; 151: I44)を発表したことでした。これに対して米国内の専門家達が猛反発をしているというお話でした。

厚生労働省は、これらの問い合わせを受けて、このたび公式な見解を発表しました。

要旨は次の通りです(厚労省の回答ページ http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/gan_situmon.html)。

1.米国内でも専門家による反対意見が相次いでいる。米国政府セベリウス保健福祉長官も「この作業部会は政府の外部独立委員会であり、政府の政策を決定する機関ではなく、今回作業部会が新たな勧告を示したものの、米国政府の乳がん検診に関する方針は現行どおりで、検診対象者を変更しない」というメッセージを発表している。
2.米国では日本と異なり60歳以上の乳がん患者が多く,今回のUSPSTFの勧告を反映するのは妥当ではないとする専門家の意見がある。
3.現時点においては,日本におけるマンモグラフィを用いた定期的な乳がん検診の対象年齢を変える必要はないが、引き続き動向を見ていく。

したがって、日本の乳がん検診は今まで通りで当面行なうということです。しかし、数年後に、現在行なわれているJ-STARTの臨床試験結果が発表されれば、40歳代以下の乳がん検診は超音波検査が主体になっていくかもしれません。今後の動向に注目しています。

2010年1月17日日曜日

決死の覚悟の日曜特診


今日は日曜特診がありました。
8時開始なので6時に起きて新聞を取りに行くと
”?”
玄関フードが開けられないくらいに雪が積もっていました…。それからとりあえず車を出せる程度に2回に分けて除雪をして7時半前に出発したところ、歩道も車道も除雪がまだ入っておらず、大雪で視界が悪い中、2車線の車道を人が歩いています!しかもちょっと横にずれると吹きだまりで埋まってしまいそうになります…。

とても危険な状態で、このまま走り続けると埋まるか事故を起こす感じだったので、一度コンビニに停めて病院に電話をしました。

しかし、患者さん達はすでに来ており、特診は予定通り行なうとのこと…。運悪く、今日は外科医の人手がない日だったので誰かに頼むわけにも行かず、やむを得ず病院に向かうことにしました。

私の家は札幌の北のはずれの住宅街です。病院までは距離で10km、いつもなら15分で着きます。

しかし、幹線道路(3車線)に右折した途端、もうだめだ、と思いました。

かろうじて1車線分除雪されていたようですが、すぐ横にボンネットくらいの高さの雪が吹きだまっていているんです。大雪+地吹雪でほとんどどこを走っているのかわからず(先頭を走っていたので目印になるテールランプもなし!)、何度か吹きだまりに触れるとハンドルは取られるし、大量の雪がボンネットの上に吹き上がってきて、ますます見えなくなるような状態でした。万が一、止まってしまったら後ろの車に追突されてしまいます。冷や汗をかきながら奇跡的に3km先の渋滞している交差点までたどりつきました。

そこからは埋まっている車あり、除雪車両ありで時間がかかりましたが、なんとか30分遅れで到着できました。

検診自体は20人ちょっとで特に問題なく終わりました。やはり私の自宅方面の方たちはキャンセルされたようです。終了後は道路の除雪が終わるまでゆっくり昼食を食べて、同じ道を通って帰りました。雪の降り方も弱まり、除雪もされていたので、帰りは楽でした。

しかし、ようやく帰った家の周りはまたもや雪が積もっていて、3回目の雪かき…。

写真は家の前に一日で積み上げた雪の山です。先に見える軽自動車の2-3倍くらいの体積でしょうか?その後ここに積み上げることもできなくなったので、向かいの遊歩道に坂を作ってさらに雪を捨てているので実際はこれよりも多い量の雪が一日で家の前に積もったことになります。たぶん、10数年前以来の積もり方だったのではないでしょうか…。

日曜だというのにとっても疲れました。おかげでせっかく買っていたレラカムイの観戦チケットが無駄になってしまいました(泣)。

今日はほとんど乳癌の話からはずれてしまってますね…。すみません。

2010年1月13日水曜日

マンモグラフィ検診の有用性に関する論争

最近、40歳代以下のマンモグラフィ検診が有用か否かに関する、相反するガイドラインがアメリカから発表されています。

まず、2009.11に米国予防医学特別作業班(USPSTF)が発表した内容では…

『50歳になるまで乳癌検診のためのマンモグラフィ(乳房X線検査)を受ける必要はない。50歳以降は1年おきに受ければよい』

そして、2010.1に米国放射線医学会(ACR)と乳房画像診断協会(SBI)が、米国放射線医学会誌「Journal of the American College of Radiology」1月号において合同で掲載、発表した新ガイドラインでは…

『ほとんどの女性では年1回の乳がん検診を40歳から開始し、リスクの高い女性ではさらに早い25~30歳で開始すべきである』

またこのガイドラインにおいては、乳癌のスクリーニングにマンモグラフィやMRI、超音波検査などの画像診断法の適切な使用も提案されています。

このような論争は今回に始まったことではありません。USPSTFの勧告の根拠はあまり明確ではありませんが、早期発見の有益性と、偽陽性による不利益を秤にかけた結果ということになっています。一部では、費用節減のためではないか、との反論も出されていますがUSPSTFは否定しています。

また、マンモグラフィ検診自体に対して有用性を否定している医師もいます。国内においても有名な某Drがマンモグラフィ検診は受けるべきではないと主張しています。

マンモグラフィ肯定派の根拠は、今回のACR乳房画像診断委員会議長Carol H. Lee博士も述べているように、
『マンモグラフィ検診は、約50万人を対象とした無作為化試験のメタアナリシスにおいて、乳癌死亡率を26%低下させるという明確なエビデンスがある』
ということによります。

一方、マンモグラフィ否定派の根拠は、
『マンモグラフィ検診は、乳癌死亡率を低下させるとしても、放射線による有害反応によって他病死が増えるため、全死亡率は低下しない(全死亡率が低下するというエビデンスに乏しい)。全死亡率が低下しなければ、検診に有用性があるとは言えない』
というふうに論じています。

乳がん検診否定派の意見を封じるためには、①マンモグラフィ検診受診者において、非受診者に比べて、乳癌死亡率だけではなく、全死亡率が低下することを示すか、②放射線のような有害反応が考えにくい検診方法(超音波検査、MRなど)で検診の有益性を証明するか、のどちらかが必要です。今回の米国放射線医学会(ACR)と乳房画像診断協会(SBI)の報告においては、サマリーしか読んでいないので確かなことは言えませんが、全死亡率の低下に関しては述べられていないようです。

抗癌剤の有用性を説けば、製薬会社との癒着を疑われ、マンモグラフィの有用性を説けば、マンモグラフィ関連会社(撮影機、フィルムなど)との癒着を疑われるのが、今の世の中です。本当に有用であることを、誰の目からみても矛盾しないように証明しなければなりません。この問題に関する結論をきちんと出して、早く受診者の不安をなくして欲しいと願っています。

荻野吟子と女性乳腺外科医

荻野吟子という女性をご存知ですか?

荻野吟子(1851年 - 1913年)は、日本で最初の女性の医師です。

吟子は16歳のときに結婚。しかし19歳で夫に淋病をうつされ、順天堂医院に入院。、男性の医師たちに囲まれて診察を受けた屈辱的な経験から、女医を目指した人です。当時は女性が医師になるという制度がなく、数々の差別と困難に遭いましたが、長年にわたる努力と優秀な成績によって女性医師第1号となったのです。医師免許取得後、産婦人科を開業し、多くの女性患者さんたちの診療にあたりました。そしてその後の女性達が医師を目指せるように、道筋を作った偉大な女性です。

私が荻野吟子の存在を知ったのは、大学時代によく読んでいた渡辺淳一の小説の一つ、”花埋み”を読んだことがきっかけでした。もし興味のある方は新潮文庫から出版されていますので読んでみて下さい。

さて…なぜこんな話を書いたかというと、ふと日本で初めての乳腺外科医は誰なのか?という疑問がわいたからです。

これは調べるのは困難です。なぜなら、”乳腺外科”という科が標榜できるようになったのはつい最近だからです。以前は、乳腺だけ診療している外科医というのはきわめてまれでした。癌専門病院でさえ、10数年前まで乳腺グループに所属していても他の手術にも入っていたのです。何をもって最初の女性乳腺外科医と言うかによって答えは変わってきます。

最初に乳癌の手術をした女性外科医? 誰かは存じませんが、その後乳癌を専門にしていたかは不明です。
最初に乳腺だけを診るようになった女性外科医? たぶんどこにも資料はないのではないでしょうか?
最初に乳腺専門医を取得した女性外科医? おそらく複数いるはずです。

というわけで結局不明です。どなたかご存知であれば教えて下さい。もしかしたら、非常に博学なK先生ならご存知かもしれません。今度学会でお会いしたときにでも伺ってみます。

現在においても、乳腺専門医を取得するためには、外科系の場合は外科専門医を持っていなければなりません。ですから一般外科を何年も研修する必要があります。

体力的に男性に比べてハンディがあり(まったく同等の方もいらっしゃいますが…)、結婚・出産・育児で仕事に制限が出てしまう可能性のある女性にとって、外科医を続けるということはかなり大変なことです。ですから、女医さんが外科専門医を取得して、さらに乳腺外科医になった、というだけで、私は頭が下がります。

私の病院でもそうですが、外科医になりたいと思って外科に入っても、病院や科にそういうハンディを支えてあげるだけの余力がないために、結局外科医を断念せざるを得ないケースがけっこうあるのが実情です。

乳がん検診をしていると、特に若い女性からは、
”乳がん検診はやっぱり恥ずかしいです。女医さんだとかかりやすいんですけどね…。”
という意見をよく耳にします。

荻野吟子の時代とは比べようもありませんが、こういう要望を持っている女性は多いはずです。志を持った女性外科医が乳腺専門医まで到達できるような外科の体制づくりを考えていかなければならないと感じています。

2010年1月12日火曜日

抗癌剤の副作用7 白質脳症

5FU系の抗癌剤、特に内服の薬(UFT、フルツロン、ゼローダ、TS-1など)を長期に内服したときに起きる、重篤な副作用の一つに、白質脳症があります。一般的には内服の抗癌剤は副作用が軽いという印象があるため、最初は副作用だと気づかずに症状が進行してしまうことがあるので注意が必要です。

主な症状を示します。

1.歩くときによろけたりころびやすい(歩行障害)
2.ちょっとしたことを思い出せないことがある(健忘)、意識がぼんやりする(意識障害)、物事がきちんと判断できなくなる(指南力低下)
3.眼球が上を向く、舌やあごが勝手に動く、思うように動けなくなる、手のふるえ(錐体外路症状)
4.ろれつがまわらない、はっきり話せない(構音障害)
5.手足のしびれ(知覚障害)
6.尿をもらす(尿失禁)

私の患者さんの中にもこのような症状を呈した方が数人います。

今日もDMpC療法(フルツロン、ヒスロンH、エンドキサンPの3剤内服)を開始して4ヶ月くらいの患者さんが、手のふるえとしびれ、足がもつれる、という症状を訴えて来院されました。何度か経験があるのと、先月の脳MRで異常がなかったので、すぐに副作用だと判断して、フルツロンの内服を中止しました。

添付文書には、発生頻度は不明、または0.1%未満、などと書いていますが、実際は数%は見られるような気がします。
これらの5FU系の薬剤を内服中の患者さんは、手足症候群、下痢だけではなく、白質脳症にも注意が必要です。

2010年1月7日木曜日

抗癌剤の副作用6 腫瘍崩壊症候群

腫瘍崩壊症候群は、抗癌剤治療などによる急激かつ大量の細胞死によって、大量の核酸、カリウムイオン、リン酸が血中に流出し、高尿酸血症などを引き起こす状態のことを言います。核酸の代謝により高尿酸血症が悪化すると急性腎不全を引き起こし、致死的な結果をもたらすこともあると言われています。

この症候群は、血液系の悪性腫瘍(急性骨髄性白血病、急性リンパ性白血病、バーキットリンパ腫、マントルリンパ腫)や神経芽細胞腫、横紋筋肉腫といった、細胞数が非常に多く、増殖の速い腫瘍に多くみられます。

乳癌で引き起こされることはまれで、私には経験がありませんが、増殖スピードが速いトリプルネガティブ乳癌や分化度の低い化生癌などでは起こりうる副作用です。特に最近では術前化学療法が盛んに行なわれています。術後の補助療法とは異なって、癌細胞の多い状態で投与するため注意が必要かもしれません。

このような状態が起きた時、以前は、高尿酸、高カリウムを改善するため大量の点滴を行っていました。しかし、大量の水分負荷は心臓に負担をかけ、心不全を起こす危険性があります。また、通常の高尿酸血症の薬では即効性がなく、効果も不十分でした。

最近国内で認可された、ラスブリカーゼ(商品名 ”ラスリテック” サノフィ・アベンティス社)という尿酸酸化酵素製剤は、この腫瘍崩壊症候群による高尿酸血症を水分負荷をかけることなく予防・治療できる注射薬です。2003年以降ASCOガイドラインで認められていた製剤で、ようやく国内で使用可能になりました。ただ、異種蛋白の遺伝子組換え製剤ですから、アナフィラキシーを起こす可能性がありますので注意が必要です。

2010年1月6日水曜日

アルコールと乳癌罹患の関係

昨年末、アルコール摂取と乳癌罹患に関する、厚生労働省研究班によるコホート研究(JPHC Study)の報告がありました。

新聞でも取り上げられていたのでご存知の方も多いと思います。欧米では以前からアルコールは乳癌の発生を促すのではないかと言われていましたが、無関係とする報告もあり、少なくとも日本人における検証は十分になされていませんでした。

今回、国立がんセンター予防研究部から発表された報告は、新聞報道だけからは、飲酒量と乳癌発生率の関係を論じるのに食生活や肥満度の評価がされていないのではないかと感じました。

つまり、”飲酒する女性は、おつまみなどで高脂肪食を摂取しやすく、肥満にもなりやすい傾向があるので、アルコール自体ではなく、これら(高脂肪食、肥満)が発生率を高めた要因ではないか?”という疑問です。

しかし、予防研究部のHPに掲載されている報告の要旨(http://epi.ncc.go.jp/jp/jphc/alcohol_bc/)を読んでみると、

”尚、分析にあたっては、乳がんに関連する飲酒以外の要因(年齢、体重、喫煙、初潮年齢、妊娠回数、閉経年齢など)が結果に影響しないよう考慮しました”

と書いてありますので、少なくとも肥満度についての影響は考えなくて良さそうです。食生活については、何度も書いているように、長期間の正確な摂取量を調査するのは困難ですので、今回の検討では評価していないようです。

以上から、今回発表された、

”アルコール摂取量が多い人(およそビールで大瓶1本、日本酒で1合、ワインで2杯、ウイスキーでダブル1杯以上)は、全く飲まない人に比べると、およそ1.75倍の乳癌発生リスクがある”

という結果は、それなりに信憑性が高いデータではないかと思います。ただ、上記の量以下の飲酒量の女性では、まったく飲まない女性とほぼ同じリスク(1.06倍)ですので、適量のアルコールであれば、あまり心配しなくて良いのかもしれません。

アルコールが乳癌発生を促す原因としては、エタノールの分解産物である、アセトアルデヒドの影響が示唆されていますが、確かなことはわかっていません。今後の解明が待たれます。

2010年1月5日火曜日

今年の目標

昨日から仕事が始まり、今日は関連病院の外来がありました。

例年同様、この時期は受診を避ける人が多く、珍しく余裕で時間内に外来を終えることができました。幸い、問題のある患者さんもいなくて順調でした。病棟もまずまず落ち着いていて、平和な一日でした。

昨年末から会議が急に増え、これからずっと続きます。ぼーっとしてると何もせずに終わりそうなので、今年の目標を立てることにしました。

1.新病院建設に向けての準備に積極的に関わっていく…まあ黙っていても会議があるんですが…。化学療法室の計画を中心にかなり準備しなければならないことがあります。とりあえず、今月末に東北の大学病院の化学療法センターの見学に行く予定です。

2.論文を書く…できれば二編書きたいと思っています。書くテーマはもう決まっています。あとは…やる気の問題ですね。

3.ピンクリボン運動にさらに積極的に取り組む…イベントにはできるだけ参加して、いろいろな方と交流を深めたいと思っています。また、今年もママチャリレースに参加(応援?)して、ピンクリボン運動のアピールをするつもりです。

4.後継者対策…数年後に女医さん1人の目処は立ちましたが、もう一人は経験者を確保したいと思っています。そういう意味でも魅力ある新病院にしていかなくてはなりません。

5.院内外の学術活動をさらに発展させる…現在行なわれている症例検討会もマンネリ化しないような工夫が必要です。マンモグラフィとエコー画像のアトラス作りにも取りかかりたいと思っています。引き続き、技師さん達の学会参加のバックアップもしていきたいと思います。


こんなところでしょうか。全部できるかどうかわかりませんが、できないことではないので、なんとか積極的に取り組んでみたいと思っています。

2010年1月2日土曜日

新年あけましておめでとうございます!

札幌は年末から天候が大荒れで、吹雪いたり、雨が降ったり、雷が鳴ったりして道路はびちょびちょです。

そんな中、病院で年越しをした受け持ち患者さんが二人いるので、元日以外は毎日回診に出かけてます。これで3年連続年末年始の病棟通いが続いています。閑散とした病棟に顔を出すのはけっこう好きなので苦ではありませんが…。幸い、受け持ち患者さんの病状は安定しているのでお顔を見てお話するくらいで帰れています。

この時期は例年けっこう臨時入院があります。胃潰瘍の穿孔や急性虫垂炎、魚骨による腸管穿孔などなど…。今年は今のところ病棟全体が落ち着いているようです。

明日も朝回診に行きます。落ち着いているようなら、久しぶりに大学時代の親友とすすきので会う予定です。