2012年2月29日水曜日

乳腺術後症例検討会 16 ”浸潤性微小乳頭がん(Invasive micropapillary carcinoma)”

今日は月1回の症例検討会がありました。G先生はセミナー参加、N先生は当直のため、乳腺外科医は私一人で少しさみしかったです(泣)また、冬という季節のためか、院外からの参加者が非常に少なかったことも残念でした。もっと魅力ある症例検討会にしていかなければならないと反省しています。

今日も症例は4例でした。

超音波検査とMRでは限局しているように見えましたが、広範囲な乳管内進展を伴っていた微小浸潤がん、典型的な硬がんかと思ったら限局した浸潤性小葉がんだった異時対側乳がん症例、良性もしくは圧排性増殖を示すがんのような境界が比較的明瞭で縦横比に低い楕円形の画像を呈した硬がん、そして超音波画像では硬がんを強く疑う像を呈した浸潤性微小乳頭がん(invasive micropapillary carcinoma)の4例でした。詳細は省略しますが最後の症例は、腫瘍のほぼ全体をこの組織型が占めておりMR画像がとても興味深かった症例でした。

invasive micropapillary carcinomaは最近、乳癌取扱い規約に掲載された比較的珍しいタイプの乳がんです。リンパ節転移を高度に伴いやすいため、予後が悪いタイプと言われています。この患者さんのがんは乳がん検診のマンモグラフィで1cm以下の大きさで発見されたため、リンパ節転移は認めませんでした。ER陽性、Ki-67陰性という結果だったため、本来ならホルモン療法のみで良いのですが、悪性度の高い組織型ということでG病院のI先生に電話でご相談したところ、リンパ節転移がなかったなら通常の組織型と同様に判断して良いということでしたのでホルモン療法のみで経過をみています。乳がん検診が非常に有効だったと考えられる症例でした。

症例検討に集中していたためか、来月の乳腺センターの総括のスライドに使う写真を撮ろうと思っていたのに撮り忘れてしまいました(泣)しかたないので古い写真を探してみます…。

終わったのは8時過ぎでしたが、毎月一生懸命に準備してくれる技師さんたち、遠くから参加してくれる参加者の皆さんに感謝しています。これからさらにミニレクチャーや講演会なども取り入れて魅力ある症例検討会を継続していきたいと思っています。

2012年2月26日日曜日

香水とアロマテラピー

香りというのは不思議です。とても快適に感じる場合もありますし、強烈すぎて不快になる場合もあります。同じ匂いでも相手によって感じ方が違う場合もあるかもしれません。また、化学物質過敏症(この中には真の過敏症ではない人も多く含まれている可能性がありますが…)の方の中には非常に体調を悪くしてしまう方もいらっしゃるようです。

私が診察しているときも時々香水の匂いで困る場合があります。過剰につけていらっしゃる方のあとはその匂いが診察室に充満してしまい、しばらく残ってしまいます。私は過敏症ではありませんし、多少の強い匂いでも大丈夫ですが、時に咳き込んでむせてしまいそうになることがあります。これは明らかにつけ過ぎだと思います(汗)

先日の患者会の時にある患者さんから情報をいただきました。昨年末に超音波検査を受けた時に技師さんの香水の刺激で咳が出そうになって指示通り呼吸を止めるのが大変だったということです。私の記憶では技師さんたちの中で気になるほどの強い香水をつけている人は記憶にないのですが、検査する場所はかなり狭い場所なので香りがこもってしまったのかもしれません(前の患者さんの香水の匂いが残っていた可能性もあります)。

*追記*
その後超音波検査室に確認しましたが、その時の担当技師をはじめ、全員香水はつけていないということでした。やはり前の患者さんの香水が残っていたものと思われ、そのような場合には換気を行なうように対応することにしました。


医療従事者の身だしなみとして、香水はつけてはいけないと言われる場合が多いのですが(患者さんに不快感を与えたり、病気によっては過敏反応を起こす場合があるため)、実際は控えめなものをつけていることも多いと思います。私もオーデコロンを使っています。今まで不快だと言われたり苦情が来たことはありませんが、仮に大部分の人には心地よい香りであっても不快に感じて我慢している人もいるということに注意しなければならないとあらためて感じました。

一方、アロマテラピーは香りを治療として用います。私も詳しくはありませんが、香りの種類によって鎮静、抗うつ、鎮痛、リフレッシュ、免疫改善などに効果があると言われています。化学療法室を開設した当時、アロマテラピーを取り入れようかと考えたことがありました。しかし、化学療法中の患者さんは味覚だけでなく嗅覚にも変化を生じやすく、中には不快に感じる患者さんもいるかもしれないと思って取りやめた経過がありました。

香りというはとても魅力的で治療効果がある場合もありますが、時と場合によっては周囲に不快感を与えてしまいます。なかなか難しい問題ではありますが、医療従事者としては気をつけなければなりませんね。

2012年2月24日金曜日

乳がんと同時に見つかった他臓器がん(重複がん)

乳がんと診断された時に同時に他の臓器のがんが見つかることがあります。最近もまた1例経験しました。

このようなケースには2つのパターンがあります。

1.乳がんの術前検査中に他の臓器にがんが見つかる場合…今まで私が経験したのは肝臓がん、膵がん、肺がんなど。
*術前検査は主に胸部CT、腹部超音波検査、(骨シンチ)をしますのでこれらのがんが見つかる可能性があります。
2.他のがんの転移検査中のCTなどで偶然乳がんが見つかる場合…同上、胃がん、大腸がん、子宮体がんなど。
*様々ながんの術前検査で胸部CTを撮影するため、偶然に乳房腫瘤を指摘されることがあります。

だいたいは、乳がんの方が進行が遅いため、他の臓器のがんの手術を先行させてから乳がんの手術をします。それで今までは急激に進行してしまった患者さんは1人もいません。みなさん、無事に二つの手術を終えて退院されています。

ちなみに乳がん術後に見つかる他臓器がんや肉腫も様々です。記憶にあるだけで、肺がん、胃がん、大腸がん、肝がん、胆管がん、膵がん、甲状腺がん、子宮体がん、卵巣がん、腎がん、悪性リンパ腫、脳腫瘍(グリオーマ)、皮膚がんなど非常に多彩です(検診を勧めていますがなぜか子宮頸がんは私は経験していません)。この中で多いのは、大腸がん、肺がん、胃がん、子宮体がんでしょうか。つい最近も胃がんと肺がんが見つかった方がいらっしゃいました。

胃がんは最近減少傾向ですが、肺がんと大腸がんは非常に増加しています。ですから私は乳がん術後の患者さんには再発検査の他に胃がん、大腸がんと子宮がん検診をできるだけ勧めています。定期検査や検診で見つかったこれらのがんの多くは早期で治癒できています(ただし膵がんだけは真の早期発見が難しいです)。

2012年2月22日水曜日

乳腺センターの総括と今後

来月、新病院建設に向けてのセンター化1年の総括会議があるので、乳腺センターの活動内容のまとめをしていました。ようやくスライド24枚にまとめ終わったところです。

この1年間、医師数では少数派の乳腺センターを認知してもらうために様々な取り組みをしてきました。その内容はこのブログでも紹介してきましたが、主なものは以下の通りです。

1.ピンクリボン運動への取り組み…「J.M.S」の日曜検診参加、地域の健康相談会での「乳癌早期発見の啓蒙学習会」、「健康まつり」での外来看護師のポスターと触診モデルを用いた啓蒙活動、「ピンクリボン in SAPPORO」のイベントへの参加
2.学術活動…「乳癌学会」に初めて看護師が参加、乳腺外科医3人が学会発表、「乳癌検診学会」に技師が3人参加・発表、様々な講演会や研究会への参加、発表
3.乳がん患者さんとの交流と学習…「With you HOKKAIDO」への参加、患者会旅行と新年会

乳腺外科医も3人体制となり、昨年の手術件数、入院患者数ともに飛躍的に増加しました。しかしそのことが一つの大きな問題を引き起こしています。新病院では乳腺センターは呼吸器センターと同じフロアで展開する予定でした。しかし、乳腺の患者数が増加したことで病棟のベッド数が足りない状況になりそうなのです。現在は足りない分は隣の消化器外科のベッドを借りていますが、新病院では病棟の構成が変わるために簡単にベッドを借りるということにはならなくなります。それでいま 病棟の再編成を協議しているところです。

乳腺外科はずっと長く呼吸器外科と同じフロアで診療をしてきましたし、呼吸器外科のDrが昔手術した乳がん患者さんもけっこういますので患者会とのつながりもあります。乳腺外科医が 足りない時には呼吸器外科医に手伝ってもらったり、胸水のドレナージをお願いすることもありました。それを他の領域のグループとペアを組むことにするというのは個人的には非常に大きな抵抗を感じます。

しかし、将来的にはさらに乳がん患者さんは増加する可能性がありますので、10年後を見通した判断をするのであればペアの解消もやむを得ないのかもしれません…。悩ましいです。

2012年2月18日土曜日

乳がん患者会新年会




諸事情で2月になってしまいましたが、今日の午後、ようやく乳がん患者会の新年会が市内の某ホテル19階で行なわれました(写真)。着いた時は吹雪模様でしたが次第に晴れてきて19階からの市街の見晴らしは最高でした(写真)。

昨年と同様、35人ほどの患者さん、職員が集まり楽しい時間を過ごしてきました。食事は懐石のランチで、女性向きのヘルシーでおしゃれな感じでした(写真)。飲み物は持ち込みOKということでビールやソフトドリンクをいっぱい買い出しして用意してありましたが、私は仕事帰りで車だったため残念ながらアルコールは飲めませんでした(泣)。

今日の会では乳房再建中の患者さんから「インプラント(人工乳房)を使用した乳房再建にも保険適応を!」という厚生労働省に提出する嘆願書の署名活動の依頼がありました。手術後何年も経過した患者さんも多かったのですが、参加していた全員が賛同してくださり、快く署名をしてくれました。締め切りが近いのですが、外来・病棟の看護師も来ていたので職場でも集めることにしました。

以前は乳房再建の敷居は高く、特に北海道では土地柄なのかあまり強い要望も表立っては見られませんでした。しかし、乳がん患者の増加とそれに伴う若年乳がん患者の増加、そしてネットによる情報の普及によって最近では乳房再建への関心が高まっています(以前も何度かここで書きました)。今では自家組織を用いた乳房再建とティッシューエキスパンダーを挿入するところまでは保険が利くようになりました。しかし自家組織を用いた再建は手術時間がかかり、侵襲が大きいことなどの欠点もありますのでインプラントを使用することを希望する患者さんも多いのが現状です。患者さんのニーズに合わせた幅広い選択が可能になるように、是非インプラントを用いた再建も保険適応になってくれれば乳がんの治療を受けることへの恐れが少しでも軽減するのではないかと思っています。これからも私をはじめ、病院としてこの活動を応援していきたいと考えています。

医師は私とG先生、N先生、そして関連病院のH先生が参加してそれぞれ挨拶しましたが、N先生は患者会への参加は初めてでしたのでお披露目となりました(4月から東京に研修に出ますので旅立ちの挨拶にもなりました)。場所を変えて移動しながら歓談していたら2時間はあっという間でした。でもたくさんの患者さんとお話しできてとても楽しかったです(笑)。

2012年2月14日火曜日

米国における乳房温存術後の再切除率

JAMAの2012.2.1号に米国における乳房温存術後の局所再発に関する報告が掲載されました(http://jama.ama-assn.org/content/307/5/467.short)。

概要は以下の通りです。

報告者:米国・ミシガン州立大学のLaurence E. McCahill氏ら
対象:2003~2008年に、米国4ヵ所の医療機関で浸潤性乳がんで部分切除術を受けた2,206人
方法:対象者における再切除率とリスク因子について観察研究を行なった
結果:局所再発に対する再切除→全体の22.9%(509人)…再切除1回 454人(89.2%)、2回 48人(9.4%)、3回 7人(1.4%)
   初回手術時の切除断端と再切除率→(+)…85.9%、1.0mm未満…47.9%、1.0-1.9mm…20.2% 、2.0-2.9mm…6.3%
   術者・医療機関と切除断端陰性における再切除率のばらつき→術者別…0-70%(執刀外科医の手術件数と再切除率との関連性はなし)、医療機関別…1.7-20.9%

以前も同様の報告を見たことがありますが、やはり米国の局所再発率は高率です。
米国の切除断端陰性の判断は日本とは異なります(日本では通常断端から5mmの間にがん細胞がなければ断端陰性と判定しますが、米国ではがん細胞が露出していなければ陰性と判断するようです)。切除の方法も乳房の大きな欧米人と日本人とでは若干異なります。つまり乳房温存術の際にがんから十分距離を置いた切除方法を取らないためにがんが遺残している確率が非常に高いということになります。放射線治療をすれば問題ないという安易な考え方の結果がこの高い再切除率の数字にあらわれているのだと私は思います。

日本においても美容を重視するあまり最近では米国にならった考え方(ぎりぎりで切除しても放射線治療しちゃえば大丈夫!というような…)で乳房温存術を行なっている医師が多くなってきている可能性があります。従来適応外であった症例に対して温存を勧めたり、術前化学療法後に遺残がん細胞に対する十分な配慮もなく温存術を行なう場合もあるようです。

米国のこのような結果を私たちは教訓にしなければなりません。実際最近の米国ではあまりに局所再発が多いために乳房切除術を選択するケースが増えていると以前耳にしたことがあります。乳房温存術が乳房切除術と生存率が同じなのは、きちんと適応を守った場合なのだということをきちんと理解しなければなりません。つまり局所再発する症例が乳房温存術群に多く含まれる場合には2つの術式の間に生存率の差が出る可能性は十分にあるのです(局所再発した症例としなかった症例との間には生存率に差があると報告されています)。やみくもに乳房温存術をすれば良いというわけではありませんし、放射線治療をすれば全ての局所再発を防げるわけでもありません。がんに対する慎重な考え方とがん治療における謙虚な気持ちを忘れるといつか痛いしっぺ返しをくらってしまうことになるのではないかと最近の日本の乳がん治療の姿勢を見て心配しています。

2012年2月12日日曜日

日曜特診と昨夜のワインと乳房再建



今日は関連病院の日曜特診(休日に行なう健診)がありました。心配していた天気もまずまずで良かったです。

残念ながら数人キャンセルが入って受診者数は予定よりも少なく、とても楽な検診でした。しかも全員が繰り返し受診者でしたので特に気になる方もいませんでした。私たちの病院の乳がん検診は同時併用形式を採用していますので同じ施設内で視触診とマンモグラフィを撮影します。ただマンモグラフィの読影は視触診の時には行なわず、後日2人の医師によるダブルチェックを行なっています。しかしあまりに暇なので撮影されたマンモグラフィは全部その場で読影してきました。いつも火曜日、金曜日の外来の日の朝早くに読んでいるので明後日は時間的に余裕ができて良かったです(笑)

実は昨日、D病院の形成外科のE先生と共通の友人M君の3人で雪まつりで賑わうすすきのにワインを飲みに行ってきました。今日は朝早くから検診なので深酒しないように気をつけながら、それでも美味しいワインを3本空けてきました。最初に行った店は、南3西3の都ビル5Fにある「vineria OZAWA(ヴィネリア・オザワ http://vineriaozawa.jp/)」というお店でした。ここは私は初めてでしたが、なかなか静かで落ち着いた雰囲気のお店でした。イタリア料理とイタリアワインが中心で価格も比較的お手頃なのがうれしかったです。ここで飲んだ2本目のワイン("TOLOS" MONTEPULCIANO d'Abruzzo 2006 写真)は今まで飲んだ中で一番濃厚でパワフルな味わいでびっくりしました。

2軒目は前にE先生に連れて行ってもらったことがある南5西2 TONFU 0520ビル 9F 10Fにある「Premier Cru(プルミエ・クリュ http://www.premier-cru.jp/index.html)」に行きました。ここは眺めの良い個室があり、男3人で来るにはちょっともったいない感じのお店で雰囲気は最高です。E先生は4日連続で来ているそうで、最近お気に入りのスペインのワイン(EL LINZE "TINTO VELASO SYRAH" 2008 写真)を飲んでみましたがとても果実味の強い、どう表現して良いかわからない美味しいワインでした。値段もお手頃でした。

E先生と飲みながら乳房再建のお話や形成外科医の世界の様々な裏話を聞くことができました(ちょっとここではご紹介できないのが残念なのですが…汗)。E先生は話題が豊富なので、一緒にいるととても楽しい時間を過ごすことができます(笑)

そう言えば今日の検診受診者の中にE先生に乳房再建をしていただいている患者さんのお母さんがいらっしゃいました。その方からは娘さんの治療に対する私へのお礼とE先生をご紹介したことへのお礼を言っていただきました。この患者さんはこれから最後の仕上げ(乳頭乳輪の作成と形の微調整)をする予定ですが、とてもきれいな仕上がりになりそうで患者さんも私も楽しみにしています!

2012年2月9日木曜日

新しい再発リスク判定法 「細胞周期プロファイリング(C2P)法」〜”C2Pブレスト”

現在、早期乳癌の再発予測因子(抗がん剤の上乗せ効果判定を含む)としてホルモンレセプター、HER2、Ki-67や核異型度などが用いられていますが、最近新しい再発予測因子検査法がシスメックス社によって開発され、検査受託サービスが開始されました(http://www.sysmex.co.jp/news/press/2012/120130.html)。

この検査法は、細胞周期プロファイリング(C2P)法と言います。この検査では、がん細胞が分化・増殖する周期に関連する2種類のサイクリン依存性キナーゼ(CDK)のCDK1、CDK2の発現量と活性を測定します。そして発現量に対する活性の程度(比活性)を算出し、この数値をもとにスコア化し再発リスクを判定します。詳細は同社のHP(http://lifescience.sysmex.co.jp/ls/products/c2p/index.html)をご参照下さい。

サービスはすでに1月末から開始されていて、医療機関から提供を受けた患者さんの検体(乳がん組織)を、シスメックスの神戸にある研究施設で検査します。検体受領から2~3週間で再発リスクを「H(高)」「I(中間 Mと書いてある情報もあります)」「L(低)」「判定結果得られず」のいずれかに判定し医療機関に報告します。「L」判定の5年生存率は97%、「I(M)」は84%、「H」は74%というデータが得られているそうです。価格は1検査あたり20万円とのことです。

この検査法に関しては、大学病院などとの共同研究によって性能評価を行ったとのことです。参考文献は上記のHPに出ています。この結果がどのように術後治療方針(抗がん剤併用の上乗せ効果判定など)や、抗がん剤の種類を決定する個別化医療に役立てられるのかはまだ不明な部分もあります。今後の研究報告を待ちたいと思います。

2012年2月8日水曜日

抗癌剤の副作用18 間質性肺炎

化学療法に伴う注意すべき重篤な副作用の一つに間質性肺炎があります。普通の細菌性などの肺炎は気管支から肺胞内に発生する(肺胞性肺炎…気管支肺炎、大葉性肺炎)のに対して、間質性肺炎というのは気管支や肺胞の外側の支持組織(間質)に発生する炎症です。


原因:抗がん剤や分子標的薬、漢方薬などの薬剤、放射線、ウイルス(サイトメガロウイルス、インフルエンザウイルスなど)、膠原病など原因がはっきりしている場合と原因不明な場合(特発性)があります。

自覚症状:軽度の場合は無症状ですが、悪化すると進行性の咳(痰を伴わない乾いた咳)、息切れ、呼吸困難が出現します。間質性肺炎が慢性的に進行すると肺線維症という状態になり、肺が硬くなってガス交換の能力が低下します。治療が奏効しなければ呼吸不全から死に至ることもあります。

検査所見:聴診で特徴的なVelcroラ音という音が聴こえ、胸部CTでスリガラス状の陰影や蜂巣状の陰影を認めればほぼ診断可能です。血液検査では、CRP、KL-6、SP-A、SP-D、LDHが活動性の指標になります。

治療:薬剤性の場合は原因薬剤を中止します。重症例では大量のステロイドを用いたステロイドパルス療法を行ないます。低酸素血症に対しては酸素を投与します。


昨年後半からFEC→DTX(ドセタキセル)の治療中に間質性肺炎を併発する患者さんが立て続けに発生しています。1例はステロイドの使用を要しましたがあとの3人は軽かったので無治療で経過をみています。ステロイド使用例も改善がみられて幸い大事に至った患者さんはいませんが、間質性肺炎はイレッサで社会問題になったように時に致死的な副作用となりますので厳重な注意が必要です。

以前は乳がんの化学療法中に間質性肺炎を発症したのは数えるほどしかいませんでした。いずれも大事には至っていません。なぜ最近になって続いているのかは不明です。この2年くらいの間の変化と言えばFECの量が100mg/㎡で投与する患者さんが増えたこと、制吐剤の内容が少し変化したこと(グラニセトロンがジェネリックに変わった、イメンドとアロキシを投与するケースがある)くらいですが、これらの症例に共通している事象はありません。

この4例はいずれも術前化学療法の患者さんですので、もしかしたらこまめに効果判定のCTを撮っていたために偶然軽い間質性肺炎が見つかってしまったのかもしれません。術後補助療法として化学療法を行なう場合はあまり高頻度にCTは撮影しません(私は術後半年から1年後くらいに初回の胸部CTを撮ることが多いです)。今までも軽い間質性肺炎は発生していたけれどCTを撮影するまでの間に自然治癒したために気づかなかっただけなのでしょうか?引き続き他の化学療法中の患者さんたちにも注意を払って診ていきたいと思います。

2012年2月7日火曜日

胸水・腹水の治療とCART

乳がんの再発の一つに胸膜・腹膜への再発があります(がん性胸膜炎・腹膜炎と言うことが多いです)。頻度としては圧倒的に胸膜のほうが多いのですが、浸潤性小葉がんなどではたまに腹膜に再発することがあります。胸膜に再発すると胸水、腹膜に再発すると腹水がたまってきて症状を呈するようになります。

自覚症状としては、胸水がたまると呼吸苦や咳が出ますが少量では無症状のこともあります。腹水は多量になると腹部膨満感、食欲不振や食べ物の通過障害などが現れます。

治療は原疾患、つまりがんに対する治療(抗がん剤やホルモン剤など)が基本となります。胸水・腹水の量が少なくて治療に反応した場合は自然に減少することもあります。また利尿剤もよく使われます。

量が多い場合はドレーンという管を入れて排液を行ないます。胸水の場合は比較的早い段階で排液を行なうことが多いです。胸水の場合は一度抜くとしばらくたまって来ないこともありますし、癒着療法という治療が有効な場合もあります。しかし腹水の場合はなかなか簡単ではなく、抜いてもすぐにたまってしまうことが多い印象があります。

腹水の中には血液から漏出したタンパク質などの成分が豊富に含まれています。ドレーンを長期に留置したり繰り返し多量の排液を行なうと血液中のタンパク質が足りなくなって低タンパク血症になってしまい、そのことがさらに腹水を増加させる原因になってしまいます。ですから腹水の場合は簡単には穿刺排液はしません(検査目的で行なう場合はあります)。

しかし多量の腹水がたまった状態で過ごすのは患者さんにとっては苦痛なことです。一度抜いて楽になることがわかるとまた抜いて欲しいと思うのは当然の心理です。しかしそれを繰り返すと栄養分が失われて弱ってしまうのです。ここが今までの治療のジレンマでした。

最近、このジレンマを解決する手段が保険適応になって使えるようになりました。”CART(腹水濾過濃縮再静注法)"という方法です。これは排液した腹水を特殊なフィルター(腹水濾過器)を通すことによってがん細胞や細菌などを除去し、もう一つの装置(腹水濃縮器)で濃縮したあとで静脈から点滴で戻す方法です。これだと大切なタンパク質などの栄養分を回収することができます。先日入院患者さんに初めてこの装置を使ってみました。患者さんは大変楽になりましたし、今のところ体力や栄養状態の低下はないようです。とてもありがたい治療法です!

2012年2月5日日曜日

復活!

先週、某製薬会社から正式に社内勉強会の講演を頼まれました。4月に行なう予定です。内容は何でも良いとのことでしたので、再発治療、特に再発後長期生存症例を中心にまとめてお話ししてみようかと思っています。いまその下準備に取りかかっています。けっこうな数の症例を提示する予定ですのでその画像を集めたりするのが大変です(古い症例もありますので紙のカルテやフィルムを出さなければならなかったりするのです)。

けっこう前からこのお話は依頼されていたのですが、正直お受けすることにはあまり乗り気ではありませんでした。院内の製薬会社との関係を取り決めた規制に触れる可能性があることや準備がけっこう大変なことなどが理由です。しかし院長に相談したところ、きちんと書類を整備すれば問題ないと言われたことと、今回講演する内容をすっと積み残しになっていた再発治療研究会の内容とリンクさせれば効率的だと気づいたのでせっかくのありがたいお話なのでお受けすることにしたのです。


ようやくインフルエンザから回復して明日からは本格的に仕事に復帰します。解熱後48時間以上たったため、一応金曜から病院には行ったのですが、外来はすでに代わりの医師の手配は済んでいましたし、G先生からは念のため病棟には顔を出さない方が良いのでは?と言われたため医局でひっそりと仕事をしていました。土曜日は回診のみでしたのでやはり医局でのんびりしていました。明日からは通常勤務です!

2012年2月1日水曜日

ワクチン接種後の非典型的インフルエンザ

ついにやってしまいました…。十分に注意していたはずなのに昨日A型インフルエンザと診断され、いま自宅療養中です(泣)

今回の経過は非典型的でした。昨日診断されるまでに37℃以上の発熱はまったく認めず、関連病院の外来診察時に看護師さんに念のためにと勧められて検査したところ陽性と判明したのです。検査しなければインフルエンザだとはわからなかったかもしれません(検査指示を出してくれたN先生も絶対インフルエンザではないと結果が出るまで思っていたようです)。

インフルエンザワクチンを接種していた場合にはこのような経過をたどる場合もありますので参考までに書いておきます。

1/27 手術前から腰痛があったが持病の腰痛と判断。なんとなく倦怠感があるも発熱(-)。
1/28 朝から咳が出てきたため、札幌駅でマスクを購入。徐々に喉の痛がゆさ、倦怠感、関節痛、軽い悪寒が出現するも熱はなかった模様。だるかったが横浜でのBreast Cancer UP-TO-DATE Meetingに参加。
1/29 食欲なくホテルの朝食は食べずに帰路につく。機内で左耳の抜けが悪く耳痛出現。倦怠感強く、帰宅後に寝ようと思っていたが、あまりに雪が積もっていたたため1時間かけて除雪(泣)。やはり発熱は(-)。咳と頭痛が悪化。
1/30 倦怠感強く、咳は少し出ていたがやはり発熱はないのでマスク着用で通常通り勤務。夜から鼻水出現。
1/31 朝3時ころ左頬の強い痛みと鼻閉感で目覚める。アイスノンで冷却し鎮痛剤内服。ほとんど眠れないまま出勤。鼻水が悪化。体温は36.4℃だったが、他科のDrにもインフルエンザが出たからと検査を勧められ施行。インフルエンザA陽性!!にて外来を中断し隔離(泣)。タミフルを処方され帰宅。自宅でも隔離され布団にくるまっていたが悪寒がなかなかおさまらず。体温36.6℃。さらにもう1枚掛け布団と毛布をかけてようやく悪寒がおさまり少し寝たところ、ようやく37.7℃に上昇(布団蒸し状態の影響もある)。
2/1  鼻水と左頬の痛みは軽減。発熱なし。頭痛が続くも昨日よりはかなり倦怠感が軽減して現在に至る。

普通インフルエンザの場合は、上気道症状(咳、鼻水、咽頭痛)が出てから間もなく高熱(多くは38℃台後半から39℃台)が出るものですが、私の場合はおそらく発症は1/27または1/28でしたのでほとんど熱が出ないままインフルエンザとわかった非典型的なケースです。やはりワクチンの影響でしょうか…。重篤にならなかったのは良かったですが、結果的にインフルエンザ感染状態で横浜往復、そして月曜、火曜(患者さん1人ですが)の勤務をしてしまうことになってしまいました。月曜日は化学療法室で患者さんの診察をしていますし、病棟回診もしました。マスクはずっとしていたはずですが移してしまっていないか心配です…。また横浜行きにご一緒した同期のK病院のH先生には間違いなく移してしまったのではないかと思います(申し訳ありません…)。

今日発熱しなければ、金曜から勤務復帰です。
ワクチン接種後はこのような経過をたどることがありますのでみなさんも怪しければ検査を受けるようにしましょう。