2016年2月7日日曜日

”ワーキング・サバイバーズ・フォーラム2016〜がんと仕事〜”開催!

先日告知しましたように、本日京王プラザホテル札幌で”ワーキング・サバイバーズ・フォーラム2016〜がんと仕事〜”が開催されました。



全国的にインフルエンザが流行していますが、札幌も今月に入ってから急速に罹患数が増えているようです。私たちの病院職員もインフルエンザでの欠勤が目立つようになってきました。実は私も金曜日から咳と頭痛と倦怠感が続いていたのですが、昨日37.4℃という微妙な発熱をしたため、もしかしたら…と心配しましたが今朝には解熱していたため、予定通り参加してきました。

今回のイベントでは、まず日本対がん協会常務理事の関原健夫さんによる「がん六回 人生全快」というご講演がありました。ご自身が若くして大腸がんになり、その後も再発手術を繰り返しながら仕事もばりばりこなしてきたご経験を語って下さいました。

関原さんは、5年生存率20%と宣告されたときに知人の乳がん患者さんから「残り少ないかもしれない時間を何もせずに過ごすのはもったいない」と言われ、仕事を続ける決意をしたそうです。その後の再発手術の時も要職についていながら手術をしてからまたすぐに仕事に復帰するということを繰り返し、すでにがん告知から31年くらい経過しています。もしあの時に仕事をやめてしまっていたら、きっと関原さんのその後の人生は大きく変わってしまったでしょう。とても考えさせられるお話でした。

そのあとにはパネルディスカッションが行われました。乳腺外科医のO先生、企業側の代表として、そしてがん患者でもあるTさん、NPO法人キャンサーサポートの乳がんサバイバーであるSさん、行政側として北海道保健福祉部のTさん、そして講演をして下さった関原さんが壇上に並び、ご自身の経験や現在の企業や行政の問題点、がんになった時に仕事をどう考えるべきかなどについてディスカッションが行なわれました。まだまだ課題が多く、がんになった時に仕事を続けるのはなかなか難しい問題がありますが、社会、そして企業が温かく支援してくれるような世の中になってくれることを祈るばかりです。

フォーラム終了後には、立食で懇親会が行われました。この会に参加して一番驚いたのは、私たちの病院の外来で数年前まで働いていた看護師のKさん(今は対がん協会でお手伝いをしているようです)と偶然再会したことです。懇親会では久しぶりに話ができてうれしかったです(笑)。また戻っておいでよって話しましたが来てくれるかなあ…。とりあえずまた外来の仲間と飲みに行く約束をしました(笑)。

なんとか参加できて良かったですが、結局フォーラムの途中からだんだんまた具合が悪くなり、懇親会を途中で抜けて帰ってきました。今日は早めに休みます!

2016年2月1日月曜日

術前化学療法で乳がんが消えなかった場合どうするか?という課題に対する1つの回答(CREATE-X試験)

最近では一昔前に比べて乳がんに対して術前化学療法を行なうケースが増えています。ただなんでも術前化学療法をすれば良いというものではないことは以前、ここでも触れたことがありました。

その理由の一つが、”pCR(がんが化学療法で完全に消失していること)になっているかどうかで予後が予測できるから”という術前化学療法を推奨する医師の説明は、患者さんに必ずしも利益をもたらさないからです。なぜならpCRになった人は良いですが、pCRにならなかった人は予後が悪いという事実を突きつけられるだけで(しかも必ず再発するわけではないのに)、それに対する対応がなにもなかったからです。つまり、pCRにならなかった場合は、この治療を追加する、という指針がなかったのです。

その問題に対する一つの回答が昨年、日本と韓国合同で行なわれた臨床試験結果として世界に向けて発信されました(日本人と韓国人900人が参加)。この臨床試験は、CREATE-X(Capecitabine for Residual Cancer as Adjuvant Therapy)という試験で、アンスラサイクリンとタキサンによる術前化学療法を行なったのちに切除したHER2陰性乳がん患者さんのうち、pCRにならなかった患者さんを8サイクルのcapecitabine(ゼローダ®)を追加する群と追加しない群に分けて無病生存期間(DFS)と全生存期間(OS)を比較したものです。

結果は、主要評価項目である5年無病生存期間は、経口capecitabine併用群が、capecitabineを併用していない対照群よりも優れており(74.1% vs.67.7%、ハザード比[HR]:0.70、p=0.00524)、5年全生存率も、capecitabine併用群のほうが、対照群より優れている(89.2% vs.83.9%、HR:0.60、p<0.01)というものでした。この臨床試験の対象者は、トリプルネガティブだけではなく、ER陽性乳がんも含まれていました。

有害事象に関しては、SABCS 2013での報告によるとGrade3以上の好中球減少症および下痢の頻度は、capecitabine併用群で有意に高く、また、白血球減少症、好中球減少症、貧血、血小板減少症、肝酵素の上昇、総ビリルビン、食欲不振、下痢、口内炎、および疲労の各グレードの有害事象の発生率も、capecitabine群のほうが対照群より高いという結果でしたが、それを上回る効果があったということになります。

ただこの臨床試験結果を実臨床に活かす上での一番の問題は、capecitabine(ゼローダ®)は再発乳がんに対してしか保険適用がないことです。つまりこういう結果が出たとしてもいますぐ術後の患者さんに使用することはできないのです。先日製薬会社の担当者にも話しましたが、なんとか少しでも早く適用を通してもらいたいものです。