2011年6月27日月曜日

乳がん術後の下着説明会

病院にもパンフレットを置いていたり、学会や講演会などのブースで目にした患者さんもいらっしゃると思いますが、乳がん術後の患者さんのための特殊な下着を扱っているメーカーは何社もあります。その中でもかなり以前から製品化しているワコール主催の患者さん向け相談会が今年も近くに取り扱い店がない全国8都市で開かれるという報道がありました(今年で19年目)。

相談会名:「装いと下着に関する相談会」
対象:がんなどで乳房を手術した女性
内容:ワコールが開発した下着シリーズ「リマンマ」の商品展示(乳房温存術後の患者さん向けのブラジャーや薄型パッドも)、専門アドバイザーによる選び方や着け方の相談会
場所・日時:
福井市(7月21~23日)
青森市(9月15~17日)
松山市(10月13~15日)
岡山市(11月3~5日)
盛岡市(11月16~19日)
前橋市(12月に予定)
宮崎市(2012年1月に予定)
熊本市(同2月9~11日)
参加方法:ワコール・リマンマ事業課(0120・037・056)に事前申し込み
製品URL:http://www.wacoal.jp/remamma/

近くに取り扱い店がないと、なかなか普段は実際に見たり触れたりする機会がありませんので、このような企画はそういう地域に住む方にとっては貴重だと思います。興味がある方はせっかくのチャンスですので、利用してみてはいかがでしょうか?

2011年6月25日土曜日

医師の病状説明と患者さんの理解度

私事ですが、義父が手術をしたので昨日の夜に釧路に行って、今日の夕方に戻ってきたところです。

今回の経過は、80才になる義父が体調不良(食欲不振、嘔気、体重減少で寝たきりになり声も出なくなった)で近医を受診したところ、胆のうが非常に腫大していて今にも破れそうな状態だから大きな病院を紹介しますと言われたと義母から連絡が入ったことから始まりました。

胆のうが腫大する原因は、胆石による胆のう炎以外に下部胆管の閉塞をきたす膵がんや胆管がんなどの悪性疾患も考えられます。最初の連絡では、強い腹痛も高い発熱もなかったとのことでしたので、悪性疾患ではないかと心配していました。そして入院後に胆のうか胆管にチューブが入ったと連絡がありました。黄疸があったかどうかはよくわからないということでした。

そして、手術前日の説明を聞いた義母からの連絡では、「手術はうまくいけば腹腔鏡で胆のうを取るだけの手術で2時間くらいで終わりますが、今まで見たことがないような病態なので、どうなるかわかりません」というような内容だったとのこと。

で、病名は?と聞くと「よくわからない…」??

膵がんや胆管がんであれば、膵頭十二指腸切除術になりますし、時間も5−6時間くらいかかりますのでどうやら違うようです。胆のうがんの疑いがあるのかどうかは不明ですが、胆のう摘出術だけで終わるような胆のうがんが、チューブを入れなければならないような病態になる可能性は低いですので、結局胆石胆のう炎の可能性が高いのではないかと思いましたが、義母からは胆のう炎という言葉は聞かれませんでした。

で、昨日手術が行なわれましたが、結局予想通りただの胆石胆のう炎だったようで、無事腹腔鏡下胆のう摘出術で1時間ちょっとで終わることができました。経過は良好で一安心です。

なぜこんな話をここに書いたかと言いますと、医師の説明が十分でなければ患者さんやご家族の理解はこんなものだということです。こちらが十分にお話ししたつもりでも、専門用語を使いながら、相手が当然わかってくれるつもりで話をしたらまったく伝わらないのです。

乳がんの病状説明においても、他の疾患と同様に専門用語を使いすぎると理解は難しくなります。ただ病態から治療方針までエビデンスを交えながら話をすると、話す内容が多すぎて聞いている患者さんたちは頭の中が飽和状態になってしまいます。なるべく難しい言葉を使わないようにとわかりやすく説明しようとすればするほど時間がかかりすぎてわからなくなってしまう場合もあるのです。

説明後には、よくわかりましたと言っていたのに、翌日にはすっかり忘れていて説明したことをもう一度聞かれることもよくあります。ですから私はなるべく細かくあらかじめ紙に説明内容を書いて用意しておくようにしています。書きながら説明すると、どうしても机に向かって話をする形になるので、患者さんたちの表情から理解度を読み取ることができません。説明する時は、患者さん側を向きながらご説明し、「今お話しした内容は、この紙にも書いてありますのでもう一度読み直しておいて下さい」とお話しするようにしているのです。それでも時間がたつと、「そんな話は聞いていない」とおっしゃる患者さんもいます。その時は、その説明用紙を読むと納得して下さいますが、一般の方が医療の内容を理解するというのは、本当に難しいことなんだということを実感します。

医師の説明がわかりにくい場合、それを医師は理解していないことが多いと思います。たいていは、この説明でわかるはず、と思って話しているのです。ですから、聞いていて理解できない場合は、遠慮しないで何度でも聞いた方が良いと思います。今回の義父の手術のように、どんな病気が考えられて、その対応にはどのようなことが予想されるのかがまったくわからないまま手術を受けるというのは望ましいことではありません。結果的に一番良い結果だったので良かったですが、悪い結果で大きな手術に変更になって、合併症でも起きたら双方にとって不幸な結果になります。

医師側は、専門用語をできるだけ避けて十分にわかりやすくご説明し、用紙に内容を残すこと、患者さん側は、わからないものをそのままにせず、理解できるまでしっかり聞いて確認すること、これがそのあとの診療を円滑に進めるためにはとても重要なのです。

2011年6月22日水曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合⑤〜構築の乱れ(Architectural distortion)


構築の乱れ(Architectural distortion)というのは、腫瘤は明らかではありませんが、正常の乳腺構築が歪んでいる状態のことです。

例として挙げると、
①コア(中心の高濃度陰影)を伴わない放射状の構造物(スピキュラ:spiculation)
②乳腺実質縁の局所的な引き込み(retraction)
③歪み(distortion)や乳腺の痩せ
などがあります。

この構築の乱れで発見される乳がんの代表は、浸潤性小葉がんです。浸潤性小葉がんは、乳腺を縮小させたり、伸びが悪くなったり、横方向に広範囲に広がっていることが多いため、腫瘤像は呈さずに構築の乱れをきたすことが多いのです。他に、非浸潤がんでも構築の乱れで発見されることがあります。また、硬がんでも中心のコアがはっきりせず、スピキュラのみが目立つ場合があります。

一方、良性で構築の乱れをきたす例は以下の通りです。
①傷跡(昔の生検のあと)
②放射状瘢痕(radial scar/complex sclerosing lesionまたはradial sclerosing lesion…写真)…乳腺症の部分症である腺症や乳管過形成などの管腔構造が中心の線維-弾性組織帯から放射状に配列したもの。異型乳管過形成や非浸潤がんを伴う場合があります。
③”何もない”…何もないのに乳房の挟み方の加減や単なる乳腺の生理的左右差を構築の乱れと取ってしまう場合があります。講習会や学会の読影テストで難しい構築の乱れを見せられると、異常はないのに構築の乱れではないかと気になって仕方なくなることがあります(汗)。

構築の乱れが明らかであれば、カテゴリー4になり、傷跡がなければがんの可能性を十分に考慮しなければなりません。微妙な場合は、”構築の乱れの疑い”としてカテゴリー3と判定します。乳がん検診の精度管理上、このカテゴリー3(構築の乱れの疑い)を増やしすぎないようにすることが、FADと同様に読影者側から見ると重要です。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月21日火曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合④〜微細石灰化

石灰化というのは、何らかの原因でカルシウムが沈着したものを言います。石灰化には良性の石灰化と悪性の石灰化があり、良性の石灰化が悪性に変わるということはありません。ただ、初期の悪性石灰化は良性の石灰化と区別がつかないことはあります。ですから、前回のマンモグラフィとの比較が非常に有用な場合があります。

一目見て良性と判断できる石灰化には、動脈硬化、嚢胞の石灰化、古い線維腺腫の石灰化などがあります(カテゴリー1または2)。

問題は良性か悪性化の鑑別が必要な石灰化です。これをカテゴリー2(良性)から5(悪性)までにカテゴリー分類するのですが、これは2つの要素を組み合わせて判断します。

1つ目は、石灰化一つ一つの形状です。微小円形→淡く不明瞭→多形性(ガラスを割ったかけらのような形)→微細線状・微細分枝状(木の枝のような形状)の順で悪性の比率が高くなります。

2つ目は石灰化の分布です。びまん性・領域性(乳管の走行=腺葉に一致しないぱらぱらとした分布)→集簇性(狭い範囲に集まっている)→線状・区域性(乳管の走行=腺葉に一致した分布)の順で悪性の可能性が高くなります。

例えば、微小円形の石灰化が、びまん性にあればカテゴリー2、集簇性にあればカテゴリー3、微細分枝状の石灰化が区域性にあればカテゴリー5、のように判定します。

カテゴリー5と判定された場合は、がんである可能性が非常に高いと考えます。カテゴリー4(例えば多形性、集簇)の場合は、がんの可能性が30-50%と言われています。カテゴリー3の場合は、良性の可能性が高いですが、5-10%くらいがんの可能性もあります。カテゴリー3以上は「要精検」となります。

基本的な判断基準は上に書いた通りですが、時に紛らわしい場合があります。以下に例を挙げます。

・線維腺腫の石灰化…石灰化ができ始めの時は、多形性・集簇性に見える場合があります(やや丸みを帯びているのでわかることが多いですが時に迷う場合があります)。
・温存術後に見られる異栄養性石灰化…時間がたつと大きな石灰化になっていくので良性とわかりますが、やはりでき始めの時には局所再発ではないかと心配する場合があります。
・MLT(mucosele-like tumor)の石灰化…少し変わった形をしているため悪性に見える場合があります。
・悪性の場合でも、微小円形石灰化で数が少ない場合は、カテゴリー3以上に取れない場合があります。経過を追うことによって数が増え、要精検となる場合がたまにあります。以前、研修でお世話になった病院で、3年以上経過を追って、石灰化が少し増えたのでマンモトーム生検をしたら非浸潤がんだった症例もありました。微小円形の石灰化(分泌型)はがんでも見られますが、多形性や微細分枝状の石灰化(壊死型)と異なり、進行がゆっくりなことが多いので、強く悪性を疑わない場合には、カテゴリー3でもマンモトーム生検までしないで経過をみる場合もあります。

患者さんの中には、検診で「微細石灰化」という結果が届いただけで「がんなんだ…」と思い込んで受診される方もいらっしゃいます。実際はカテゴリー3での「要精検」のケースが多いですので微細石灰化=がんではありません。微細石灰化で「要精検」となった場合は、通常、まず超音波検査で病変が見えるか確認します。見えれば細胞診、または組織診を行ないます。MRも診断の補助になりますので、超音波検査で見えない場合には特に判断のためには有用です。これらの検査結果を踏まえた上で、経過観察にするか、ステレオガイドのマンモトーム生検まで行なうかを判断します。超音波検査やMRで病変が確認できないような乳がんは一般的に進行が遅いおとなしいタイプですので経過観察も選択肢に入ります。慌てずに順序を追って検査を受けるようにして下さい。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月20日月曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合③〜局所的非対称性陰影(FAD)

おそらく「要精検」の中で一番多いのがこの所見だと思います。そして、読影する側から言うと、このFADをどの程度拾うかが、要精検率にも陽性反応的中度にも大きく影響してきます。ついつい拾いすぎてしまうと要精検率が上がり、検診精度としては好ましくない結果になってしまいます。

局所的非対称性陰影(FAD)は、「腫瘤」と言えるほどの濃度や境界を持たない左右非対称性の陰影のことです。

どんなタイプのがんでもFADとして判定される可能性はありますが、乳腺濃度が低い場合は、浸潤がん(硬がんや充実腺管がんなど)では腫瘤と認識できることが多く、非浸潤がんではFADと判定されるケースが多いような印象です。乳腺濃度が高い場合は、腫瘤の境界がよく見えないことがあり、浸潤がんでもFADとしか言えないことがあります。

一方、良性腫瘍でも乳腺と重なると境界がはっきりせず、腫瘤とは判断できずにFADとされることがあります。また、離れ小島のように存在している単なる乳腺組織や乳腺同士の重なりで濃くなった部分がFADと判定されることもよくあります。これをいかに区別するかが、読影医の悩みどころです。

「要精検」とされる所見で一番多いのはこのFADですが、その一方で異常がない可能性が一番高いのもFADかもしれません。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月19日日曜日

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合②〜腫瘤(疑い)

検診結果が「要精検」で、所見のところに「腫瘤(疑い)」または「mass」と書いていた場合、マンモグラフィに「しこり」のようなものが写っているということです。

このような判定の場合、「がん」の可能性があるのはもちろんですが、「がん」ではないのにこの所見になることがあります。そういう判定になる可能性があるのは以下のような場合です。

①良性乳腺腫瘍:
線維腺腫、嚢胞などの良性腫瘍の場合は、境界明瞭な腫瘤としてマンモグラフィに写ります。超音波検査で見ればだいたい良性とわかるこのような腫瘍でも、マンモグラフィの判定は「カテゴリー3」になってしまいます。

②皮膚腫瘤:
ほくろや粉瘤などの皮膚の腫瘤も挟み方によっては乳腺内のしこりのように写ってしまい、「要精検」と判定されることがあります。触診所見にきちんと記載してあれば除外できるのですが、書いていないと区別できないのです。

③腋窩リンパ節
腋窩リンパ節が乳腺に近い位置にあったり、乳腺が発達していて腋窩まで伸びている場合は、腋窩リンパ節と乳腺内の腫瘍とが区別できないことがあります。明らかに脂肪を含んでいたり、馬蹄形をしていればリンパ節と判断できるのですが、円形や楕円形で脂肪をあまり含まない場合は判断に迷う場合があります。

「腫瘤」と書かれると、とても心配になると思いますが、腫瘤=がんではないことがおわかりいただけたと思います。良性という可能性も十分ありますので、まずはきちんと再検査を受けるようにして下さい。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

乳がん検診の結果が「要精検」だった場合①〜はじめに

乳がん検診の結果が郵送されてきて、「要精検」と書いてあると「乳がんではないか?」ととても心配されると思います。もちろん、乳がん検診は乳がんの早期発見のために行なう検診ですので、乳がんの可能性があると判断した場合に「要精検」として結果をお返しするのは事実です。しかし、「要精検」とされた方のうち、実際にがんであった方の比率(陽性反応的中度)はそれほど高くないのが実際です。

ちなみに平成22年3月に発表された「がん対策基本法案答申」によると、乳がん検診における各指標の目標値は以下のとおりです。

要精検率 11.0%以下
がん発見率 0.23%以上
陽性反応的中度 2.5%以上

つまり、1000人の方が乳がん検診を受けると約100人が「要精検」と判定されますが、そのうちでがんである人は2-3人しかいないということです。残りの97-98人はがんではないのです。ですから「要精検」と判定されても「がん」だと決めつけていたずらに怖がるのではなく、きちんと検査を受けて疑いを晴らす、という考え方で良いと思います。

「要精検」と判定されるのは、判定が「カテゴリー3以上」の場合です。カテゴリーが3以上になる主な所見は、「腫瘤(疑い)」「微細石灰化」「局所的非対称性陰影(FAD)」「構築の乱れ(distortion)」です。

これからそれぞれについて数回に分けてご説明します。

*ご質問をされる前にhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/10/blog-post.htmlをご覧下さい。

2011年6月16日木曜日

キャンサー・ボード(Cancer Board)

キャンサー・ボード(Cancer Board)って聞いたことありますか?

今日、私が所属する「がん診療プロジェクト」の企画で、「キャンサー・ボード」の院内学習会が開催されました。講師はがんセンターの統括診療部長の先生でした。

キャンサー・ボードというのは、簡単に言うと、様々ながん診療に関わる医療関係者(医師…内科・外科・放射線科・腫瘍内科など、薬剤師、看護師など)が集まって、治療方針が難しい症例をみんなで意見を出し合って検討する会議のことです。なんとなくはわかっていましたが、具体的にどのようにしているのかわからなかったので興味深く拝聴しました。

がんセンターだけでなく、全国の各病院で行なわれている状況を紹介していただきましたが、病院の規模によっても内容が異なることがわかりました。私たちのような中規模の病院の方がかえって様々な科や職種が集まりやすいのかもしれないと感じました。

限られた人数で狭い範囲の中で治療方針を決めてしまうと、時に独りよがりになってしまうことがあります。広く意見を求めると視野が開けるものです。そういった意味でこのキャンサー・ボードという考え方はより良い治療方針を選択する意味でも有益なものだと感じました。

私たちの病院は「がん拠点病院」を目指しています。そのためにはキャンサー・ボードが行なわれているということが一つの条件ですので、その準備としてがん診療プロジェクトでこの学習会を企画しました。しかしどうせなら単に形だけ整えるのではなく、患者さんのためにより良い方針が出せるようなキャンサー・ボードにしていきたいものです。

2011年6月15日水曜日

ASCO2011レポート1〜局所(リンパ節)治療と予後

所属リンパ節への治療の有無と程度は乳癌の予後にどう影響するのか?という命題に対しては長い歴史の間に様々な知見を得ることによって考え方も移り変わってきました。

Halstedの時代以降、系統的に所属リンパ節を郭清することによって乳癌の治癒率が上がることを証明するとともに、一定以上の郭清をしても予後は向上しないという限界もわかってきました。また根治術後に予防的に胸壁や所属リンパ節に放射線治療をしても予後の改善はしないという報告が出され、術後の放射線治療は長く行なわれなくなりました。

そして1970年代に開始されたNSABP-B04試験によって、リンパ節郭清を最初にしても、放射線治療を代用しても、何もしないで再発したら郭清しても予後は変わらなかったとする報告が出されて以降、リンパ節郭清の意義については局所コントロールと進行度の判定目的のみという考え方が一般的になってきています。また最近の報告では臨床的にリンパ節転移がない患者さんに対しては、センチネルリンパ節に転移があっても局所コントロールも悪くないため郭清は不要という結果も発表されています(ただしこれは臨床的にリンパ節転移がなく、術後に乳房照射を行なった症例)。

その一方で、以前は完全に否定されたはずの術後の胸壁+所属リンパ節照射が、リンパ節転移数が4個以上の患者さんに対しては予後を改善するという報告が出されて以降、現在ではこれが標準的な治療法になってきています。そして、今回のASCO2011においてもNCIカナダから同様の報告が発表されたようです。時々拝見する渡辺亨先生のブログによれば、概要は以下の通りです。

対象:腋窩リンパ節転移1-3個陽性、または腋窩リンパ節転移陽性ハイリスク患者、約2000人
方法:乳房温存術後(A)乳房照射単独と、(B) 乳房照射+領域リンパ節(内胸リンパ節、鎖骨上下リンパ節)照射を比較
結果:生存期間ではBが良好な傾向、無再発生存期間, 局所領域無再発生存期間、遠隔臓器無再発生存期間すべて、Bが有意に良好であった。しかし、肺炎、皮膚障害、リンパ浮腫、がBに高率にみられた。
結論:今後は、リンパ節転移陽性なら、陰性でもハイリスクなら、乳房のみならず、領域リンパ節へも照射が必要である。

こうなると、いったい局所治療は予後を改善しないというデータはなんだったのかと思ってしまいます。私は、個人的には局所治療は予後を改善するのだと思っています。ただし、ある条件を満たす患者さんを選別した場合にのみ、有意差が出るのではないでしょうか。ですから例えばリンパ節転移率の低い人を多く含む症例を対象に放射線治療や手術を全例にしても、その恩恵を得ることができるのはごくわずかなために、有意差として現れないとか、化学療法の進歩によって、以前のデータとは状況が変化したなどの理由によって結論に変化が出ているのかもしれないと思っています。

2011年6月13日月曜日

雑務に追われています…

最近持ち帰りの仕事が多いです…(泣)

ここ数日は、N先生が来る前に見直そうと思っていてそのままになっていた、研修カリキュラムの作成をしていました。乳癌学会の認定施設になるためには、認定医、専門医の修練カリキュラムというのを作成しなければなりません。今までも毎回更新時に書いていましたが、実質研修医はいませんでしたので具体性に欠けていました。今回N先生が仲間に加わってくれたので実情に合うように修正を行ないました。

明日は病院HPに掲載する乳腺センターの紹介文章の更新をする予定です。これからはさらにたまっている新規採用の化学療法レジメンの説明承諾書作成、患者会の講演のスライド作り、9月の乳癌学会の準備、10月の乳癌検診学会の準備の手伝いなどなど、日常診療外の雑務?が続く予定です。

それに加えて私たちの病院は会議が多いです。研究会も毎週のようにあります。全部出ていたら体が持たないので間引いて参加しています(笑)。明後日の研究会はASCOのレポートなので聞きたかったのですが諸事情で参加できません。ネット情報で興味深いものがあればまたご紹介します!

2011年6月10日金曜日

乳がん体験者コーディネーター養成講座募集中!

昨年も書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/06/blog-post_07.html)、今年もNPO法人キャンサーネットジャパンの第7期乳がん体験者コーディネーターBEC(Breast Cancer Experienced Coordinator)養成講座の案内が届きました。

この講座は、自ら(家族)が乳がんを体験した方々を対象に、 乳がんの医療情報に特化した、人材養成講座で、乳がんを体系的に学び、自分の体験を見つめ直す、啓蒙活動に役立てる、乳がん患者のサポートをする、医師の診療のサポートをするなどの目的で行なわれており、今までに130人の修了生を輩出しています。

講座はほとんどがインターネットを活用した「オンデマンド講座」ですので、いつでもどこでも聴講できます。ただ、費用が前期80000円(7/31までに申し込みの場合)、後期60000円とけっこうかかります。また、ここで認定された資格は国家資格ではありません。ここで得られた資格が実際にどの程度役に立つのかは、身近に受講者がいませんのでなんとも言えません。一応、情報として提供しましたが、受講するかどうかはHP(http://cancernet.jp/bec.html)をよくご覧のうえ、御判断下さい。

2011年6月8日水曜日

無料クーポン券の本当の効果と課題

乳癌検診学会から届いたメールに掲載されていた小西 宏氏(公益財団法人日本対がん協会マネジャー)のコメントの一部を抜粋します。

国が2009年度に導入した「女性特有のがん検診の無料クーポン券」の効果について(日本対がん協会によるアンケート結果)
①クーポン券が配られた「40歳から5歳刻みで60歳まで」の受診者数は08年度の1.8倍に増えていた(回答28支部)。
②中でも「初めて検診を受けた人」は2.3倍とさらに顕著な増加ぶりであった(回答22支部)。
③調査の対象は07~09年度に続けて住民検診を受託した自治体での受診者数であり、40歳以上の受診者全体で割ると約2割の増加なので「本当の効果」は4倍ほど高かった。
④この政策をさらに効果的にするには、クーポン券を使わなかった人に理由を尋ねることが重要。09年度に使った予算は約140億円。これほどの国費をかけた政策の効果を検証して対策に生かすことが国と乳がん検診に携わる者に課せられたテーマである。


目標の検診受診率50%にはまだほど遠いですが、無料クーポン券の効果はみられたようです。乳がん検診に携わっている一人としてもそう実感してます。ただ、通常の自治体検診の年齢起算日が誕生日であるのに対して無料クーポンは4/1であること、自治体検診は偶数年齢(奇数年齢の地域もあるかもしれませんが…)なのに無料クーポンは45才、55才の奇数年齢が含まれており、場合によっては3年連続でマンモグラフィを受けることになること、クーポン券の配布はいつも遅れる(6-7月)ため、その前に受けた検診患者さんの取扱いが煩雑なこと、などの問題点もあります(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_19.htmlをご参照下さい)。予算が許せば、偶数年齢の全ての検診を無料にしてもらえば混乱を避けることができ、受診率アップにもつながるのですが…。

そういえば昨年、この無料クーポン券の制度の不備に偶然救われた患者さんがいらっしゃいました。春にマンモグラフィ検診(偶数年齢の自治体検診)を受けて異常なしと判定されたましたが、そのあとで無料クーポン券が届いたため、年末に無料クーポン券を持参して再度検診を受けたのです。

通常、1年以内に2回のマンモグラフィはお勧めしませんが、たまたまその患者さんはそんなことは知らずにマンモグラフィを受けたところ、半年ちょっと前には認めなかった多形性の微細石灰化の集簇を認め、精密検査にて乳がんと診断されたのです。もちろん前回のマンモグラフィには複数の医師で何度も確認しましたが、微細石灰化はありませんでした。

このような症例が、通常は中間期乳がん(検診と検診の間=2年以内に自覚症状が出て発見された乳がん)となるのだと思います。往々にしてこのようなタイプは悪性度が高い傾向がありますので、無料クーポン券のおかげで自覚症状が出る前に偶然発見できた例と言えます。

札幌市では今年はまだ無料クーポン券が届いていません。今年もこの制度は継続されるようですのでそろそろ届くと思います。最近では無料クーポン券の情報が広まったためか、クーポンが届く前のこの時期は検診数が少ないです。無料クーポン対象年齢以外の偶数年齢の方は今が検診のチャンスですよ!

2011年6月7日火曜日

第21回乳癌検診学会総会演題締め切り間近!

2011.10.21-22に岡山で行なわれる第21回乳癌検診学会総会の演題締め切りが明日に迫ってきました。

今年は関連病院も含めて3演題出す予定です。全て超音波検査技師が発表します。今日はその抄録のチェックに追われていました。

いつも検診学会は技師さんたちの発表の場に位置づけて、私はバックアップにまわっています。自分が発表するとなるとなかなか技師さんたちに十分な配慮ができないからです。彼女たちが独り立ちして自分たちで抄録や発表内容のチェックができるようになれば…と思っているのですが、まだ全国学会レベルに対する慣れが足りないようです。

今回は残念なことに放射線科(マンモグラフィ撮影技師)からの演題はありません。妊娠・出産、家庭の事情などの理由によるものなのですが、今日、妊娠中だった技師さんから無事女の子を出産したといううれしい報せが届きました!

育児をしながらの仕事は大変だと思いますが、貴重な女性技師ですので、早く職場復帰してくれることを願っています。体制が安定したら、また学術活動にも力を発揮してくれることと思います。

岡山は2度ほど学会で行ったことがあります。”ままかり”がとても気に入ってしまい、毎食食べたことを思い出します。今回も”ままかり”が食べられるのを楽しみにしています。

2011年6月5日日曜日

「乳癌カンファレンスin旭川」 大盛況で終了!

先日ここにも書きましたが、昨日旭川グランドホテルで乳癌の症例検討会が行なわれました。

私たちの病院からは札幌市内の関連病院も含めて、乳腺外科医3人、病理医1人、超音波技師4人の8人が参加しました。当初は全部で30人位を予定していたようですが、旭川の系列病院、近隣のK病院をはじめ、旭川市内からの参加者が非常に多く、全部で50人ほどが会場に集まり、大盛況でした。

まずSession1として、東京のG病院の病理部と乳腺科の先生方のご講演がありました。内容は「外科に知って欲しい病理医のこと」、「病理医に知って欲しい外科医のこと」というテーマで、それぞれの立場から見た現状と限界、注意点や配慮して欲しい点などについてわかりやすくお話ししていただきました。お互いの状況を正確に把握することで、理想と現実の乖離を少なくすることが大切ということがよく理解できました。

Session2はG病院、旭川の系列病院、K病院、そして私たちの病院の4施設で経験した症例検討が行なわれました。一見非浸潤がんが主体のように見えた非常に悪性度の高い局所進行乳がん、急速に増大し梗塞をきたした葉状腫瘍、数年の経過を追ったmucocele-like tumorに非浸潤がんが伴っていた症例、そして異時対側乳房に発生したradial complex lesionを伴った微小浸潤がんの4例でした。熱い討論で時間が押してしまい、最後の私の症例発表時には予定時間を15分以上オーバーしていたためゆっくり討論できなかったのは残念ではありましたが、私自身は非常に勉強になりました。

カンファレンス終了後は全体の懇親会がホテルで行なわれ、さまざまな病院、職種の方々と交流を深めました。その中で私が22年ほど前、旭川の系列病院で肝臓内科病棟の研修医として勤務していたときにお世話になった超音波技師の旧姓Hさんにも久しぶりに会うことができました。お互い年はとりましたが顔を見ただけですぐにわかりました(笑)。彼女が1研修医だった私のことを覚えていてくれたのにはびっくりしましたし、とてもうれしかったです。

その後は場所を変えて、G病院から来て下さった4人の先生方を囲んで楽しい時間を過ごさせていただきました。病理部長のA先生、乳腺センター長のI先生は私がG病院で研修させていただいた時にもお世話になりました。学会会場や飲み会でもいつも乳がんのいろいろなお話を聞かせて下さります。一緒にお話させていただくだけでとても勉強になります。病理のH先生、乳腺外科のM先生はお名前は存じ上げていましたが、私がG病院から戻ってからG病院に行かれたので直接お話したのは初めてでした。お近づきになれてうれしかったです。

A先生は日本酒がお好きですので向かいに座らせていただいた私も一緒に日本酒を飲ませていただきました。お話が楽しいとお酒も進みます。最近日本酒が残りやすくなっていたのでここのところは控えていたのですが、昨日はすっかり飲み過ぎてしまって、夜中には頭痛薬を2回のむことになってしまいました(汗)。でもとても楽しく充実した時間を過ごさせていただきました。

この会を企画して下さった旭川のI先生、主催のAZ社の皆さん、そしてはるばる東京から来て下さったG病院の4人の先生方に深く感謝申し上げます。またいつかこのような会が企画されることを期待しています。

2011年6月2日木曜日

第8回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会~

また今年も8月にWith You 北海道が行なわれます。少し早いですが簡単に概要をお知らせします。

With You 北海道は、東京などで行なわれていた「With You ○○」の北海道版として7年前に始まってから今回で8回目になります。このイベントは、乳がん患者さんとご家族、医療従事者が集まって、乳がんについての知識を深めたり、思いを話し合ったりして交流を深める活動です。

今回のメインテーマは、
手術後の腕のむくみ(リンパ浮腫)に向き合う
〜もっと、前向きに元気になろうよ〜

です。たしか第2回にも「リンパ浮腫」をテーマに行ないましたので、テーマが一周したことになります。患者さんも新しく入れ替わっていますのでちょうど良いのかもしれません。

概要は以下の通りです。

日程:平成23年8月20日(土) 12:30-17:00
場所:札幌市中央区南1条西16丁目 札幌医科大学 研究棟1階 大講堂
対象:乳がん患者さんとご家族、乳がん関連の専門家、医療関係者
参加費:1000円(今回から変更になっています)
主な内容:
・基調講演①「リンパ浮腫の原因、ガイドラインに基づく対処法」(旭川医大第1外科 北田正博先生)
・基調講演②「リンパ浮腫のケアの実際」(後藤学園附属リンパ浮腫研究所 佐藤佳代子先生)
・参加者グループワーク
・パフォーマンス
・教育講演「乳房再建の現状について」(札幌道都病院形成外科 江副京理先生)
申し込み・お問い合わせ:
・With You北海道実行委員のいる病院には申し込みハガキが置かれます(まだ準備中です)。
・お問い合わせは、TEL:011-611-2111(FAX:011-613-1678) With You事務局まで。

札幌近郊の方は予定を空けておいて下さいね!