2011年7月29日金曜日

第20回北海道乳腺診断フォーラム

今日、年1回の北海道乳腺診断フォーラムが市内某ホテルでありました。

内容は、症例検討2例と聖路加国際病院の角田博子先生のご講演でした。

症例検討では2回も司会の医師から当てられてしまいました。私はこの会の運営委員でもあります。運営委員が司会を順番で担当するのですが、私が司会担当のときは、できるだけ、医師ばかりではなく、レントゲン技師や超音波技師にも答えてもらうようにしています。参加者はたくさんいるのに、どうもこの会は毎回同じようなメンバーに担当の司会者が当ててしまう傾向があります。技師も含めてたくさんの人が参加しているのでもっといろいろな参加者から意見をだしてもらうべきだと思うのですが…。このようなやり方だといまひとつ盛り上がりに欠けてしまうような気がします。

角田先生は、超音波検査の最新情報(超音波検診の臨床試験の状況や最新機器の説明など)を中心にとてもわかりやすく解説して下さいました。講演の中に出てきた、”pseudo halo(造語だと思います)”について、質問したいことがあったのですが、時間になってしまい、質問は懇親会でということになりました。

ところが懇親会の途中で臨時手術の連絡が入ったため、早々に病院に戻ることになってしまい角田先生への質問は残念ながらできませんでした。でもなかなか興味深い情報を得たので、今度病理学的に確かめてみようと思います。

そう言えば今回のフォーラムには以前私たちの病院で講演をしてもらった岡山のI先生も参加していました。症例検討でも何度も意見を出していて、相変わらず積極的な先生でした。今度の乳癌検診学会でもまたお会いできるのを楽しみにしています(笑)

2011年7月27日水曜日

乳腺術後症例検討会 12 ”放射状瘢痕”



今日は月1回の乳腺術後症例検討会がありました。

今月の症例検討は、まるで皮膚病変か乳輪下膿瘍のように見えた硬がんの1例、ごく普通の典型的な硬がんの1例、そして画像上は小さな硬がんに見えた放射状瘢痕に発生したと思われる非浸潤がんの1例の計3例でした。

そして症例検討にもあった”放射状瘢痕”についてのミニレクチャーを今回は私が担当して行ないました。

放射状瘢痕(radial scar)は、中央部に線維-弾性組織からなる芯を有し、そこから乳腺症で見られるような乳管過形成や腺症を伴う管状構造が放射状に伸びる形態をとる良性複合性病変のことです。10㎜未満をradial scar、10㎜以上をcomplex sclerosing lesion(CSL)と呼ぶこともあります。Rosenという高名な病理医は両者を含めてradial sclerosing lesion(RSL)という用語の使用を勧めています。

画像的には、マンモグラフィにおける中心の高濃度部分を伴わないスピキュラ(硬がんでよく見られる刺状の構造)が特徴的です(写真2枚目)。これは超音波検査でも確認できることがありますが、硬がんと区別がつきにくい場合もあります(写真1枚目)。

この病変の一番の問題点は、しばしば非浸潤がんや異型乳管上皮過形成(ADH…前がん病変)を伴うことです。私たちの施設でも3例ほど経験があります。ですからこの病変を疑った場合は、採取組織量が多い生検方法(マンモトームなど)でがんの合併の有無を検索する必要があります。

マンモグラフィ検診が導入されてからは、この病変で精密検査にまわってくる方が増えているようです。精検をする側から言えば、けっこう神経を使う病変です。マンモトームの件数もこれからさらに増えるのではないでしょうか?

2011年7月24日日曜日

スギナと乳がんと外科治療


今日久しぶりに庭の雑草取りをしました。

札幌郊外のこの場所に住み始めて14年、ずっとスギナと戦ってきました。最初は裏庭は芝生だったのですが、雑草がどんどん増えてきて、特にスギナに占領されてしまっために6年ほど前にやむを得ず芝生からアスファルトに変えました。

スギナは根が長く、取っても取っても生えてきます。最初はできるだけ深く根を追いかけて抜いていましたがすぐに生えてきました。あるときどこまで伸びているのかスコップで掘ってみたら80cmくらいまで伸びていて塀の外まで達していました。これを見てからはスギナを手で抜くことを断念しました。

雑草を手で抜くのは外科治療に似ています。除草剤を撒くことは化学療法を行なうようなものです。根から入るタイプの除草剤は強力です。しっかり撒けば半年近く雑草は生えてきません。しかし、花や木の近くに撒くと、それらも枯らしてしまいます。まるで、抗がん剤が正常細胞を痛めつけてしまうようなものです。

スギナは言わば非常に悪性度の高い乳がんのようなものです。外科治療だけではすぐに再発してしまいます。砂利や単なる路地に生えたスギナなら試験管の中のがん細胞のようなものですから、強力な除草剤で退治できます。しかし、写真のように芝桜(花は咲いていませんが…)の中に生えてくると非常にやっかいです。外科的治療(草むしり)のみではすぐ再発しますし、化学療法(除草剤)を行なえば正常細胞(芝桜)も強いダメージを受けてしまいます。今日は結局外科治療のみであきらめました。ひと月もすればきっと元通りになってしまいます…。

外科的治療を一定間隔で繰り返すのが良いのか、副作用覚悟で化学療法を併用すべきか、判断は難しいです。一番良いのは、正常細胞(芝桜)にダメージを与えずにがん(スギナ)のみを退治してくれる治療が開発されることです。これは言わばハーセプチンのような分子標的薬に相当します。

そんなことを考えながら草むしりをしていました。乳がん領域の治療においても、正常細胞に影響を与えないような薬剤がもっと開発されるといいのに…とつくづく思いました。

2011年7月23日土曜日

腋窩郭清は不要? の続き

今日、北海道乳腺疾患研究会に行ってきました。進行再発乳癌とセンチネルリンパ節生検についてのセッションがあって、それぞれ基調講演と演題の発表がありました。

進行再発乳癌のセッションでは、G先生に私たちの病院の症例を発表してもらいましたが、プレゼンテーションの方法も良かったですし、興味深い症例だったのでフロアからの質問もあって成功でした。終了後の懇親会でも、乳腺クリニックの先生からお褒めの言葉をいただいて私としてもうれしかったです。

そしてセンチネルリンパ節生検についてのセッションでは、ACOSOG(Z0011)の報告について話題になりました。この臨床試験の結果は新聞でも報道されて話題にもなりましたし、このブログでも取り上げました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2011/02/blog-post_12.html)。この臨床試験は、簡単に書くと、センチネルリンパ節に転移があった患者さんに腋窩リンパ節郭清を追加してもしなくても、全生存率も局所再発率も有意差がなかったというものです。

問題はなぜこの臨床試験において、「全生存率だけではなく、局所再発率においても郭清した群としなかった群で有意差が出なかったのか?」ということです。なおこの臨床試験の対象は乳房温存術を受けて放射線治療を行なった症例です。ですから、乳房全摘術にセンチネルリンパ節生検を行なった場合(放射線は通常行なわない)においては、いまだにエビデンスはありません(これはけっこう一般的には勘違いされていることが多いです)。

私は、局所再発率に有意差が出なかった最大の理由は、乳房温存術後に行なった乳房照射が腋窩領域にも一部かかるからではないかと思っていました。しかし、今日参加していた2人の高名な放射線科の先生のコメントでは、通常の乳房照射では腋窩には治療に有効なほどの線量はかからないということでした。とすれば、局所再発率に差が出なかった理由は、米国の乳房温存術後の照射野が日本とは異なるのか、もしくは他に要因があるということになります。NSABP B-04では、乳房全摘術+腋窩リンパ節郭清、乳房全摘術+放射線治療、乳房全摘術のみの3群では、生存率に差はありませんでしたが、局所再発率には差があったのですから、本来なら、全生存率で差がなくても、局所再発率は差が出るはずだからです。

基調講演をして下さった先生は、この臨床試験の問題点として以下のような点を挙げています。

①当初の予定症例数に比べると実際に臨床試験に参加した患者数が少なく、エントリーさせにくい患者が意図的に主治医の判断で避けられていたのではないか?
②臨床試験中の脱落症例数が非常に多い(134/891)
③約60%が強力な化学療法(アンスラサイクリン+タキサン)を受けている
④ホルモンレセプター陽性症例の比率に比べると、実際にホルモン療法を受けた患者は46%と少ない

もし①②などのようなこの臨床試験のデザイン自体に問題がなくてもこの結果だったとしたら、最大の要因は③なのかもしれません。つまり微小な遺残リンパ節転移が強力な化学療法によって死滅したために局所再発に至らなかった症例が一定数いるということです。もしそうであるなら、センチネルリンパ節に転移があっても、強力な化学療法を行なう方針であれば乳房温存術か乳房全摘術かに関わらず、腋窩リンパ節郭清は不要ということになります。ただ、St.Gallen2011では、Luminal Aなら、腋窩リンパ節転移があってもホルモン療法のみという方向になってきていますので、この二つの方針を組み合わせることの問題点は検証しなければなりません(つまり、センチネルリンパ節生検でリンパ節転移があって郭清を省略した症例において、Luminal Aだと術後に判明した場合に本当にホルモン療法のみで局所再発を有意差がでないようにコントロールできるのか?ということ)。

考えれば考えるほどわからなくなります。臨床試験で証明されていることは、実際に起こりうる事象の一面を現しているだけにすぎません。真理はあるはずですが、全てのケースを証明することは本当に難しいことだと感じました。

2011年7月20日水曜日

肥満患者における乳房形成手術の術後合併症リスク

医学誌「Plastic and Reconstructive Surgery」オンライン版によると、待機的乳房形成手術を受けた肥満患者は正常体重の患者に比べて合併症が生じる可能性がほぼ12倍であることがわかったそうです。

ジョンズ・ホプキンス大学(ボルチモア)外科准教授のMartin Makary氏の報告の概要は以下のとおりです。

対象:2002~2006年に乳房リフティング(吊り上げ術)や乳房縮小、豊胸などの待機的乳房手術を受けた肥満患者2,403人と正常体重患者5,597人
結果:肥満患者群では18.3%に術後30日以内に1つ以上の合併症がみられ、非肥満患者群では2.2%であった(肥満患者では炎症が22倍、感染が13倍、疼痛が11倍)。

今回の報告は乳房の形成外科手術についてのものですが、乳がん根治術においても似たようなことが言えます。術後のリンパ液排出量は明らかに肥満患者さんに多い傾向があります。創部の壊死は最近では稀になりましたが、以前、皮弁を薄く作成していた頃はやはり肥満患者さんの方が起きやすい印象でした。腋窩リンパ節郭清をした場合の術後のリンパ浮腫も肥満患者さんのほうが起きやすい傾向があります。

乳がん根治術は大きな手術ではありませんので、命に関わるような術後合併症(肺炎、肺塞栓、心・脳合併症など)はほとんど起きませんから肥満患者さんでも安全に手術可能ですが、開腹手術や開胸手術の場合のリスクは上がります。最近、立て続けに肥満患者さんの手術がありましたが、やはり手術時間も多少長くなりますし大変です(汗)。できることなら肥満にならないようにしていただければと乳腺外科医の立場からは思ってしまいます(笑)。

2011年7月18日月曜日

乳がんに対するホルモン療法の種類と新薬

乳がんのホルモン剤には以下のようなものがあります(括弧内は商品名)。

①抗エストロゲン剤…閉経前、閉経後ともに有効(ただしトレミフェンの保険適応は閉経後のみ)。再発予防、再発治療ともに使用可。
「エストロゲンレセプターにエストロゲンが結合して増殖を促すのを阻害する薬剤」
例)タモキシフェン(ノルバデックス、タスオミン、アドパンなど)、トレミフェン(フェアストン)

②アロマターゼ阻害剤…閉経後のみ有効、。再発予防、再発治療ともに使用可。
「閉経後の脂肪細胞やがん細胞周囲に増えるアロマターゼ(男性ホルモンを女性ホルモンに変換する酵素)の働きを阻害する薬剤」
例)非ステロイド系:アナストロゾール(アリミデックス)、レトロゾール(フェマーラ) ステロイド系:エキセメスタン(アロマシン)

③プロゲステロン製剤…閉経前、閉経後ともに有効。通常は進行再発乳がんにのみ使用する。
「DNA合成抑制作用、下垂体・副腎・性腺系への抑制作用及び抗エストロゲン作用などにより抗腫瘍効果を発現すると考えられ薬剤」
例)酢酸メドロキシプロゲステロン(ヒスロンH、プロベラ)

④LH-RH アゴニスト…閉経前のみ有効。再発予防、再発治療ともに使用可。
「脳下垂体に作用してFSHの分泌を抑制し、エストロゲンの低下を引き起こして閉経状態にする薬剤」
例)ゴセレリン酢酸塩(ゾラデックス)、リュープロレリン(リュープリン)


以前に「乳癌の治療最新情報11」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/12/11.html)でも触れたことがありますが、上で述べた薬剤に加えて年末ころにさらにもう一つ新しいホルモン剤が使用可能になりそうです。

①の抗エストロゲン剤は、選択的エストロゲン受容体モジュレーター Selective Estrogen Recepter Modulator(SERM) と呼ばれるもので、子宮や骨などにはエストロゲン様作用(子宮体がんの増加、骨粗鬆症の予防効果)、乳腺(乳がん)などには抗エストロゲン作用を呈します。これに対して、年末に発売予定のフルベストラント(ファスロデックス)は、全てのエストロゲン受容体をブロックしますので子宮体がんの増加の心配はありません。ただし骨量の低下には注意が必要です。適応は閉経後の進行再発乳がんになりそうです。月一回の筋肉注射で投与しますが、かなりの量が必要なようです(痛いかも…)。進行再発乳癌に対する効果はアロマターゼ阻害剤より良好という報告もありますので期待したいところです。正式に発売が決まりましたらまたここでご紹介したいと思います。

エリブリン(商品名 ハラヴェン)7/19薬価収載決定!

7/4にもここで書きましたが、エリブリン(商品名 ハラヴェン)が13日の中央社会保険医療協議会(中医協)で7/19の薬価収載が承認され、発売開始が決定しました。エリブリンはクロイソ海綿から抽出した抗がん物質ハリコンドリンBの活性部位を合成した微小管阻害剤の1種です。

これに先立ち、先日製薬会社の方に来ていただき、臨床試験結果などの資料をいただきました。効果については、既報のとおり、アンスラサイクリンとタキサンが効かなくなった患者さんに対して、有意に全生存期間(OS)を延長した初めての抗がん剤ということですが、その細かい内容がわかりました。

<EMBRACE試験>
対象:アンスラサイクリン系、タキサン系両薬剤を含む治療歴を有する局所再発または転移性乳がん
方法:エリブリン群と医師選択治療群に無作為に割り付け、全生存期間(主要評価項目)、無増悪生存期間、奏効率、奏効持続期間、安全性(副次評価項目)について解析
結果:エリブリン群508例、医師選択治療群254例、前化学療法レジメン数の中央値は4レジメンであった。
   [全生存期間(OS)] 13.1ヶ月 vs 10.6ヶ月(p=0.041)→追跡調査で13.2ヶ月 vs 10.5ヶ月(p=0.014)
   [無増悪生存期間(PFS)] 3.6ヶ月 vs 2.2ヶ月(p=0.002 ただし独立評価委員会の評価ではp=0.137)
   [奏効率] 12% vs 5%(p=0.002)
   [有害事象] 無力症/疲労 54%、好中球減少症 52%、末梢神経障害 35%、悪心 35%、便秘 25%、脱毛症 45%など

多くの薬剤使用歴を有する再発患者さんの治療は容易ではありません。今回、エリブリンが示した奏効率は有意差があってもわずか12%であり、他の治療に比べて有意に延長したという生存期間も2.5ヶ月程度です。そして正式な薬価収載は明日ですが、情報によると薬価もかなり高額で1バイアル(1mg)が64070円もします。体表面積1㎡あたり1回1.4mg投与しますので通常2バイアルは使用します。これを週1回2週連続投与、1週休薬で1クールですので、1クール(3週間)あたり4バイアル=256280円、3割負担で76884円もかかります。

しかし、治療手段が限られた再発患者さんにとって、選択手段が増えることはうれしいことですし、平均2.5ヶ月でも貴重な時間を余分に確保できることは大きな意義を持つと思います。

エリブリンは肝機能が低下した患者さんで副作用(特に骨髄抑制)が強く出ることが報告されています。まだ使用経験の浅い薬剤ですので、特に最初の1年くらいは副作用に十分中止して投与しなければなりません。私たちの病院にももうすでに投与を予定している患者さんが数人いらっしゃいます。安全性を確保でき、予想以上の効果がみられることを期待しています。
   

2011年7月16日土曜日

当院における最近の乳がん患者さんの状況

今月は今までの月間最高乳がん手術症例数を更新しそうな勢いです。4-5月は少し症例数が減りましたが、6月を過ぎてから徐々に増えて7月は関連病院からの紹介も含めて続々と乳がんが見つかっています。

ただ、残念なことにここのところの症例は進行がんが多いようです。先週は術前化学療法を拒否した局所進行乳がん(1例は炎症性乳がん)の手術が2件ありました。術後の化学療法も今のところ同意が得られていないため、可能な限りの外科的切除を行ないました。久しぶりに一昔前のような拡大手術になってしまいました。

ぎりぎりまで我慢した上、化学療法を拒否されてしまうと、私たちは何もできない無力感に苛まされます。せめてもっと早く受診していたら手術だけで治ったかもしれない、術前化学療法を行なえばもっと侵襲の少ない手術で済んだのに…と思いますが、患者さんにはそれぞれそこに至った事情があるようですのでやむを得ません。でもとても残念に思います。病理結果が出たら再度化学療法に同意してもらえないか説得するつもりです。

私たちの病院では相変わらず高齢者や合併症を持った患者さんは多いですが、最近は若い患者さんも増えてきています。来週は20才台の患者さんの手術があります。30才台前半の患者さんもぽつぽついらっしゃいます。これからはもっと多くの若い患者さんたちに選んでもらえるような乳腺センターにしていきたいと思っています。今年は過去最高の手術件数になりそうですが、3人体制になったことですし、まだ余力はあります。近々近隣の検診施設に患者さんを紹介していただけるようにご挨拶に伺う予定です。

2011年7月13日水曜日

乳腺症 vs 非浸潤がん〜微妙な病変

最近、診断に苦慮する微妙な病変が連続しています。

乳腺症の一部のように見えますが前にはなかった所見ですとか、乳腺症のムラが局所的に目立つなどの所見が指摘されて、細胞診で「鑑別困難」(乳腺症 vs 非浸潤がん)という判定となることは今までもありました。

こういう場合、かなり前は悪性の疑いが一定以上あれば「Probe lumpectomy(試験的乳腺部分切除術)」を行なって診断的治療を行なっていましたが、最近ではまず針生検(コアニードル・バイオプシー:CNB)を行なって、だいたいは良悪の診断がついていたのです。ところが、ここのところの症例は、針生検を行なっても「鑑別困難(乳腺症 vs 非浸潤がん)」というケースが連続していて頭を悩ませています。ほとんどの病変が良性(乳腺症)なのですが、ごく一部の乳管内に非浸潤がんを思わせる病変が混在しているため、このような診断になっているのです(量的に十分な病変がなければ「非浸潤がん」と診断するのは困難な場合があります)。

超音波技師さんたちが必死に病変を探してくれるため、このような微妙なものが見つかってくるのだと思います。大変ありがたいことではありますが、悩ましくもあります。できるだけ太めの針で何本も検体を採取するのですが、本来はマンモトームで生検するほうが情報量が多いので、そろそろ針生検(CNB)に頼るのは限界なのかもしれません。

マンモトーム導入に消極的なG先生、そろそろ購入を検討してみませんか?

2011年7月10日日曜日

乳がん再発治療研究会2

乳がんの初期治療に関しては、手術、放射線治療、術後補助療法、そして術前療法とさまざまな研究が世界中で行なわれてきて、この20年の間に飛躍的な進歩を遂げました。

一方、再発に対する治療は未だに十分なガイドラインができているとは言えない状況です。そして、患者さんを含めた一般の人たちはもちろん、私たち自身も再発治療に関して様々な疑問を持っています。

例えば、

①再発したら治癒は不可能なのか?
②再発巣が消えて何年経過したら治癒と判断できるのか?
③治癒できる可能性があるとしたら、それはどのようなタイプでどのような再発形式なのか?
④再発に対する外科治療は、本当に外科医の自己満足だけで無意味なことなのか?
⑤延命効果は何ヶ月以上あれば有意義だと言えるのか?

などです。

これらの命題を解決するための検討は、一つの施設の症例だけでは困難な場合が多いのです。同じような経験を集積して検討しなければなりません。そのために多施設で検討できる場が欲しいと思っていました。

研究会の内容としては、例えば、各施設で再発治療後に治癒した症例を初再発部位別に集め、そのサブタイプなどのがんの性質や治療内容を検討する、同じような状況の再発患者さんに対して全身療法に局所治療を加えた群と加えなかった群の生存率、平均生存期間を比較する、この20年間の治療法の進歩で再発治療においても生存期間や生存率に進歩がみられたのか、などを考えています。

どのようなメンバーでどのように研究会を立ち上げていけばいいのか、少し時間をかけて考えてみたいと思います。

2011年7月8日金曜日

乳がん再発治療研究会1

私のライフワークの一つが乳がんの再発治療です。

一般的には乳がんがひとたび再発すると、治癒は困難と言われています。もちろん、実際多くの場合、完全に治癒させるのは難しいのはその通りです。しかし、中には再発治療後、まったく再発なく長期に経過している患者さんもいらっしゃるのです。私の経験上でも再発が治癒したと思われる患者さんは何人もいらっしゃいます。

そもそも遠隔転移したら治癒しないという考え方は正しくないと私は信じています。その根拠は、術後補助療法によって生存率が改善するという事実があるからです。このことは、手術時に存在していた微小転移(何もしなければ将来顕在化して生命を脅かした)を補助療法によって根絶できた患者さんが一定数いるということを意味しています。そうでなければ術後補助療法で生存率は改善しないはずだからです。

術後補助療法で微小転移を根絶できるのであれば、再発でもある条件を満たせば完治できる可能性があるのではないか?というのが、私が再発治療をライフワークに選んだ原点です。

新病院建設に向けて、私たちの病院も少しずつ変わりつつあります。その一つが積極的な学術研究活動へのバックアップです。今までは製薬会社との共催の研究会などに関しては消極的でしたが、最近では後押ししてくれるようになってきています。先日も院長から、乳腺センターで研究会を立ち上げてはどうだ?と言われました。

乳腺関連の小規模の研究会はたくさんあります。そのほとんどは、症例検討会などの診断に関するものや最新の医療機器や新薬の講演、ASCOなどの学会レポートなどが中心です。本当の意味での自分たちが中心になった研究会というのは少なく、特に再発治療に特化した研究会は少ないということに気づいたので、もし立ち上げるなら再発治療、特に長期延命や治癒を目指した研究会にしようと決めました。

製薬会社数社に声をかけてみましたが、好意的に考えてくれていますので実現できそうな雰囲気です。これから年内発足に向けて準備をしていこうと考えています。

2011年7月4日月曜日

エリブリン(商品名 ハラヴェン)続報

乳癌の治療最新情報22(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2010/11/22.html)でもお報せしましたが、いよいよエリブリン(商品名 ハラヴェン)が日本でも4月に認可され、7月中に発売になりそうです。

適応は、「アントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤での治療歴を含む化学療法施行後の手術不能または再発乳がん」とのことです。エリブリンは海外第Ⅲ相試験(EMBRACE試験)において、単剤で初めて、前治療歴のある進行または再発乳がんにおける全生存期間(OS)を有意に延長した薬剤です(エリブリン投与群 vs 主治医選択治療群の全生存率 13.2ヵ月 vs 10.5ヵ月、ハザード比:0.81、p=0.014)。
ただ、安全性については骨髄抑制が高頻度に認められており、とくに好中球減少が多く認められているため、注意が必要です。

この薬剤の特長として、投与時間の短さ(2-5分の静注または点滴)と簡便さ(過敏反応予防のステロイドなどの前処置が不要)が挙げられます。したがって投与ルート確保、投与、フラッシングまでを約30分で終えることができ、患者さんと看護師の負担を軽減できます。外来化学療法室での投与に非常に適した治療と言えると思います。

アンスラサイクリン、タキサン耐性乳がんの治療手段に新たな薬剤が加わることは、再発治療中の患者さんにとって、光明だと思います。私の患者さんの中にも待っている患者さんがいらっしゃいます。ただ、新薬ですので十分に注意して投与しなければなりませんね。

2011年7月3日日曜日

「健康まつり」と乳がん触診モデル




今日、毎年恒例の病院主催のイベント、「健康まつり」が行なわれました。ポスターなどを掲示して病気の予防などの啓蒙をしたり、職員や地域の方々が飲食物やスーパーボールすくいなどの出店や歌・踊りなどのステージ発表を行なったりして、多くの方々が集まるイベントです。

恒例とは言いつつ、まともに参加したのは久しぶりでした。今回は外科外来で乳がん検診の啓蒙活動をするということでしたので、看護師さんに自己検診法を指導してポスターを作成し、掲示しました(写真1枚目)。また、乳腺センターの備品申請で乳がんの触診モデル(写真2、3枚目)を2種類購入したので、それも活用してもらうことにしました。この触診モデルは、京都科学というメーカーで作成しているものです。箱に固定されたタイプと首からもかけれるタイプがあり、それぞれに、がんや良性腫瘍に似せたしこりを埋め込んであります。えくぼ症状を呈するしこりもあり、なかなか巧妙に作られています。ただ、若干乳房が硬いので触診に力が必要です。せっかく購入した触診モデルですので、今後いろいろな場所に積極的に出かけて乳がん検診の啓蒙活動に役立てようと思っています。

今日は少し風が強かったのですが、とても良い天気でなによりでした。入院患者さんも車椅子などで来て下さっていましたが、楽しそうに笑顔を見せてくれていました。ただ、屋内の啓蒙ポスターのエリアへの人の流れが少なかったように見えましたので、来年はこちらにも多くの人が注目してくれるような工夫が必要ではないかと感じました。来年はもう少し積極的に関わってみようかなと思いました。

2011年7月1日金曜日

アロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果

タモキシフェンによる乳がん発生の予防効果についての報告はかなり以前からあります。またタモキシフェンの仲間のラロキシフェンにも同様の作用があることが報告されています(http://www.medpagetoday.com/MeetingCoverage/AACR/19653)。しかし、閉経後の乳がん術後再発予防効果においてタモキシフェンより効果が高いと考えられているアロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果については今まで充分にされていませんでした。

今回ようやくThe New England Journal of Medicine 2011; 364: 2381-2391にエキセメスタンによる閉経後女性の乳がん予防効果が報告されました。概要は以下の通りです。

報告者:Paul E. Gossら(米マサチューセッツ総合病院がんセンター)

対象:2004年2月〜10年3月に登録された35才以上の閉経後女性のうち以下の条件を満たした4,560例。
(1)60歳以上,(2)乳がん発症リスクを推計するGailの5年リスクスコアが1.66%超,(3)異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がん,乳腺切除を伴う非浸潤性乳管がんのいずれかの既往—に1つ以上当てはまること。

方法:対象者を,エキセメスタン群2,285例(年齢中央値62.5歳)とプラセボ群2,275例(同62.4歳)にランダムに分類し、各患者群に,エキセメスタン25mg/日もしくはプラセボを最長5年間もしくは乳がん発症まで投与した。一次評価は浸潤性乳がん発症率とした。

結果:追跡期間の中央値35カ月におけるプラセボ群と比較した浸潤性乳がんの年間発症率は65%低下(0.19% vs 0.77% HR 0.35 p=0.002)、浸潤性+非浸潤性乳がんでは53%減少した(0.35% vs 0.77% HR 0.47 p=0.004)。
また,年間発症率は非浸潤性乳管がんでは0.16% vs 0.24%,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの3種を合わせた場合では0.07% vs 0.20%と,いずれもエキセメスタン群はプラセボ群に比べて低かった。
顔面紅潮,疲労感,不眠,下痢,関節炎などの副反応発生数はエキセメスタン群で高頻度だったが、心血管系イベント(106% vs 111%,P=0.78),臨床的な骨折(149% vs 143%,P=0.72),新規の骨粗鬆症(37% vs 30%,P=0.39),その他のがん(43% vs 38%,P=0.58)などの重篤な副反応に有意差は認めなかった。

結論:プラセボの投与に比べ,エキセメスタンの投与により,浸潤性乳がんの年間発症リスクは65%低下することが認められた。さらにエキセメスタンは,浸潤性乳がんの前駆病変である非浸潤性乳管がん,異型乳管過形成,異型小葉過形成,上皮内小葉がんの発症リスクも減少されることが分かった。


まだ観察期間が短いこと、対象者をどう選択するか、投与期間はどのくらいが適切か、などの課題はありますが、少なくともハイリスク症例に対する乳がん発生予防の選択手段の一つとして期待できそうです。