2013年3月29日金曜日

乳腺術後症例検討会 26 ”2012年度最後!”

今週の水曜日に今年度最後の乳腺症例検討会がありました。

今回は厳選した3症例。
1例目は、左乳がん、右葉状腫瘍の術前診断で手術をしたら、両側乳がん、両側葉状腫瘍だった症例でした。2例目は、区域性の微細石灰化を呈した粘液浸潤を伴う広範囲の非浸潤がん主体の乳がん症例、そして3例目は良性腫瘍の細胞が細胞診の際の針穴に播種したために針生検で浸潤がんのように見えた症例でした。

いずれも非常に珍しく、興味深い症例でしたので活発な意見の交換が行なわれました。

そして年度末という事でそのあと懇親会が某居酒屋で行なわれました。今回は病理の先生も2人参加してくれて楽しい時間を過ごす事ができました。

この症例検討会が終わってから私的な事情と新病院移転にからむ問題があってバタバタしていたため、報告が遅れてしまいました。GW明けには新病院がスタートします。そろそろ医局の荷造りにも取りかからなければなりません。しばらくの間はいつも以上に忙しくなりそうです。

2013年3月25日月曜日

がん性胸膜炎の治療

乳がん患者さんの再発形式の一つにがん性胸膜炎(胸膜の再発=胸膜播種によって胸水が貯留すること)があります。

胸水が貯留しても少量では無症状のこともよくあり、定期検査の胸部写真やCTで発見されたり、腫瘍マーカーの異常の精査で発見されることもあります。咳が続いて診断されることもありますが、時に呼吸困難になるほどの大量の胸水が貯留して初めて診断されることもあります。

がん性胸膜炎の治療は、基本的には他の再発と同様にサブタイプに合わせた全身治療がメインになります。しかし、量が多かったり呼吸困難がある場合は、胸腔ドレーンというチューブを胸腔内に留置して胸水を排液します。胸水を抜ききったら一度ドレーンを抜くことが多いのですが、胸水貯留を繰り返す場合は、胸膜癒着術という治療を行ないます。この治療は、胸腔ドレーンから薬剤(タルクという鉱物やピシバニールという免疫賦活剤、ミノマイシンという抗生物質など)を注入して、肺側の胸膜と胸壁側の胸膜を人工的に炎症を起こして癒着させ、胸水の貯留を防ぐ方法です。

この治療に関連する副作用や合併症としては、以下のようなものがあります。

①胸腔ドレーン挿入時の出血、気胸(肺のパンク)…慣れた医師が行なえば通常ほとんど起きませんが、胸水の量が少なかったり、もともと複雑に癒着していたり、胸膜のがん自体を穿刺してしまったりしたときには起こりえます。

②再膨張性肺水腫…長く貯留した大量の胸水を短時間で排液した時に起きることがある肺水腫。重症では呼吸困難、低酸素血症、ショックを起こし、命に関わることもあります。ですから大量の胸水が貯留している場合は、数回(数日)に分けて排液するほうが安全です。

③胸膜癒着術施行時の痛み、発熱、ショック…薬剤によって引き起こされる炎症が原因で起きます。あらかじめキシロカインなどの麻酔薬を注入しておいてから行ないますが、それでも起きることがあります。鎮痛解熱剤や輸液などで対処します。

④癒着後の再貯留時の気胸、血胸…癒着術を行なって部分的に癒着を形成したあとで胸水が再貯留すると癒着していた肺が裂けて気胸を起こすことがあり、時に出血を伴うこともあります。先日も軽い気胸を起こしていた患者さんがいらっしゃいました。

がん性胸膜炎は乳がん患者さんにとって厳しい状態であることは確かです。しかし呼吸困難がきっかけでがん性胸膜炎を伴うⅣ期の乳がんと診断されてから10年以上生存された患者さんや、がん性胸膜炎で再発してから10年以上生存中の方もいらっしゃいますので、長期の生存を期待できる場合もあります。少なくとも自覚症状を局所治療でうまくコントロールしながら全身治療で病状全体を安定させることで、良いQOLを保たせることは可能なのです。

2013年3月18日月曜日

乳がんとPTSD(心的外傷後ストレス症候群)

乳がんと診断された患者さんの4人に1人がPTSDを発症していることが米国のコロンビア大学内科・外科学部教授でMailman公衆衛生学部教授のAlfred Neugut氏らによって報告されました(「Journal of the National Cancer Institute」オンライン版)。

PTSDは、日常とはかけ離れた強烈なストレスによって、心に深い心的外傷を負った後に発症する心の病気です。地下鉄サリン事件などの凶悪事件を目撃、または被害にあった方に発症したことで日本の一般の方々にも徐々にこの病気が認知されてきたと思いますが、かつてベトナム戦争帰りの米国の若者たちに同様の症状が見られたことがこの疾患概念の確立のきっかけになったとされています。

症状としては、精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状、トラウマの原因になった障害、関連する物事に対しての回避傾向、事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験(フラッシュバック)などがあげられ、これらが1ヶ月以上継続する場合に、PTSDと診断されます。

このPTSDが乳がんと診断された患者さんにも発生するというのが今回の報告です。今回の研究では、1100人強の20歳以上の乳がん患者さんから聞き取りを実施した結果、23%が診断後2-3カ月以内にPTSDの症状を経験していたということです。しかし、その後3カ月で症状は軽減したとのことですので、事件や事故によるPTSDとは少し異なるような印象を受けます。これは、がん告知を受けた患者さんを数多く見ているとなんとなく理解できます。がん告知を受けた時のショックはもちろん大きいのですが、検査を受けているうちに徐々にですが自分の状況を冷静に見ることができるようになり(がんという言葉に対する漠然とした不安が少し解消するのだと思います)、手術や治療が終了すると少し安心感が出てくる(もちろん再発の不安はありますが)というように、時間とともに状況が変化していくというのが、事件や事故を目撃、経験した方たちとは違うからではないかと私は思っています(もちろんかなりの個人差はありますが…)。

なお、若い女性は高齢女性よりも高い比率でPTSDの症状がみられ、人種ではアジア人と黒人の女性は、白人女性よりもPTSDリスクが50%高かったということです。このあたりは、生活環境、人生観や宗教観なども関係しているかもしれません。いずれにしても、中途半端だったり、一方的な告知、患者さんの心情を理解しないような不適切な告知を行なうと、時間が解決してくれるはずの心の傷が癒されず、回復に時間を要するPTSDになってしまう可能性はあると思います。私たち医療従事者は、そういうことにも細やかな心配りをしなければならないということを警鐘する点でも意味のある研究なのではないかと思いました。

2013年3月13日水曜日

Mucocele-like tumorと乳がん

以前もここで書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/11/mucocele-like-tumormlt.html)、粘液を貯留した腫瘤であるMucocele-like tumor(MLT)は、基本的に良性なのですが、時に乳がん(非浸潤がんや粘液がん)を合併することがあると言われています。

私たちの病院でも何例か切除したことはありましたし、経過観察している方もいらっしゃいますが、今まではがんの合併を証明された方はいらっしゃいませんでした。ですから「MLTはがんの合併があるので細胞診で粘液が引けた場合は切除したほうが良い」と言われていても少し懐疑的な印象を持っていました。

しかしついに私たちの施設でもMLTという術前診断で切除した結果、がんの合併があった患者さんを経験しました。もともと検診施設で区域性の微細石灰化(典型的な壊死型の石灰化に比べると角が丸い多形性)ということで紹介を受けた患者さんだったのですが、診断にかなり頭を悩ませた結果、最終的には乳腺部分切除を行なってようやく乳がんという診断に至りました。

最近も同様の所見の患者さんがいらっしゃったので、これから手術を検討するところです。術前にがんの診断がついていない状況での手術は少しストレスですし(切除範囲の設定は難しいのです)、患者さんに理解していただくようにご説明するのも大変ですが、今回のようながんの合併症例を経験すると患者さんにも説得しやすくなるのではないかと自分では思っています。

2013年3月9日土曜日

連日の研究会〜神戸の研究会は断念しました…

昨日は、不定期に行なっている再発治療の研究会がありました。G先生は私用で欠席したので7人というこじんまりとした会でしたが、今回は「乳がん肝転移に対する動注療法」についての講演があり、活発なディスカッションが行なわれました。

肝転移に対する抗がん剤の動注療法は以前はよく行なわれていましたが、エビデンスがなく、合併症のリスクを考えると推奨されないというガイドラインの記載(推奨グレードD)がなされてからは、この治療法を行なう施設は減ったと思います。また、ここ15年ほどの間に次々に新たな抗がん剤が使用可能となり、以前は他に打つ手がなかった肝転移に対しても有効性が認められるようになってきたことも動注療法が行なわれなくなったもう一つの理由ではないかと思います。

しかし、私の施設でも肝動注療法と全身療法の組み合わせによって5年以上の長期にわたって肝転移の消失(CR)がみられた患者さんは3人ほどいますし、症例によっては劇的に効くことがあるのも事実です。今回講演して下さった先生は、かなり数多くの肝動注療法の経験がある先生で、合併症を防ぐコツや治療法の詳細、その治療成績についてわかりやすく解説して下さいました。もちろんランダム化試験ではありませんが、その治療成績が一般的な肝転移の治療成績に比べると非常に良好だったことに驚きました。また、ちょうど私の患者さんで肝動注療法を考えていた方がいましたので、その治療法について相談することもでき、大変有意義な会でした。

そして今日は神戸で「16th Breast Cancer UP-TO-DATE Meeting」が行なわれることになっていて、10:30の便に乗る予定でした。今朝は6時に起きたのですが、昨夜からの猛烈な吹雪の影響でかなりの積雪…。そして強い風が残っていました。フライト情報では新千歳空港からの便は欠航にはなっていないようでしたが、高速道路は通行止めになっていました。JRも微妙な状況であることと、今日は無事に飛んでも明日は先週並みの低気圧で猛吹雪になるという予報だったため、明日帰れない危険性があると判断し、非常に残念ですが参加を断念しました。月曜日は予定がいっぱい入っているのです。

いつも大変勉強になる研究会なので参加したかったです…。いつもいつもどうして週末ばかり悪天候になるのでしょうか…。もうとっくに3月だというのに本当におかしな天候が続きますね。

なお北海道新聞の夕刊を読んでみたら、JRが遅れたために関西空港行きの便に間に合わなかった方が10:30発の神戸空港行きに乗り換えることができたという話が掲載されていました。それは私のキャンセル分かも…。お役に立てて良かったです(笑)

2013年3月6日水曜日

人工乳房とティッシュエキスパンダー挿入に関する使用要件基準

2012.9.28に、ブレスト・インプラント(シリコンゲル充填人工乳房)とティッシュ・エキスパンダー(皮膚拡張器)が薬事承認されました。これに先立って設立された「日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会」がガイドラインを策定し、2013.2に日本乳癌学会と日本形成外科学会の承認を得ました。これによってようやく上記医療機器使用の保険適応承認が間近となったのです。

ところがこのガイドラインを読んでみると、これらの医療機器を使用するためにはけっこう条件があることがわかりました。

主な内容は、
①責任医師:乳腺専門医または形成外科専門医で、かつ同学会に所属し、同学会主催の講習会(3年に1回必要)を受講していること。
②実施医師:乳腺専門医または形成外科専門医、およびその指導下で研修を行なう医師で上記講習会を受講していること。
③実施施設:一次再建は、①を満たす形成外科医専門医が所属(常勤、非常勤)し、①を満たす乳腺専門医が1名常勤していること、二次再建は、①を満たす形成外科専門医が常勤し、乳腺専門医との連携が取れていること。
です。

詳細は「日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会」HPのガイドラインのページの中に(http://jopbs.umin.jp/guide.html)PDFファイルがありますのでご参照下さい。

このガイドラインを読んで、ただちに院長に掛け合って研修会の参加を認めてもらいました。
問題は、③です。私たちの施設には形成外科医がいません。二次再建は無理でもせめて一次再建ができるように非常勤でも良いので形成外科専門医を探さなければなりません。このままではN先生がせっかく研修してきたのに無駄になってしまいます。そこで院長の許可を得たのでさっそくD病院のE先生にメールで打診してみました。ただどの施設でも条件は同じなので、E先生をはじめ形成外科医の奪い合いになるかもしれません。間に合うと良いのですが…(汗)。形成外科専門医が少ない現状ではなかなか難しい問題ですね…。

2013年3月3日日曜日

暴風雪のあとの乳がん検診

昨日はまたもやひどい天気でした。午後から猛烈な地吹雪で雪が真横から降っているような状態でした。時折まったく視界がなくなるような状態で今にも電線がひきちぎれそうなくらいの強風でした。夕方から乳腺MRの研究会に行く予定だったのですが、あまりの悪天候で家から出れる状態ではなかったため断念しました。

今朝、オホーツク海側中心に8人も吹雪で亡くなるという痛ましいニュースが流れていました。若い方も命を落としたとのことで非常に悲しい暴風雪となってしまいました。もう3月だというのに今年の冬はなにかおかしいですね…。

そんな暴風雪明けの今日は関連病院での乳がん検診でした。吹きだまりにタイヤを取られて埋まってしまったためにあやうく遅刻しそうになりましたが、なんとか無事到着して検診を終えてきました。今日も触診でがんを疑う患者さんはいませんでしたが、3月になって駆け込みの無料クーポン利用者が増えているようです。

いつもこの時期に検診受診者が増えるのですが、無料クーポンがない年齢でも定期的な検診を受けていただけるように、来年度はさらに乳がん検診の啓発活動を頑張ろうと思っています。