2011年4月18日月曜日

St.Gallen2011 サブタイプ分類と化学療法の適応

St.Gallen 2011が終了しましたが、震災後の自粛に伴い、講演会が次々と中止されたためになかなか情報が入ってきませんでした。最近ようやく少しずつ概要がわかってきました。以下渡辺亨先生のブログを参考にしました。

今回はまずその第1弾として、新しいサブタイプ分類(マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析に基づいたIntrinsic subtypeに近い分類)について少し触れます。

以前は、がんの解剖学的な進行度(大きさやリンパ節転移の有無や程度)に重きを置いて補助療法が決められていました。それが前回のSt.Gallen2009から、①内分泌療法の適応があるかどうか(ER) ②分子標的療法(ハーセプリン)の適応があるかどうか?(HER2) ③化学療法の適応があるかどうか?(大きさ、核異型度、Ki-67、ER、HER2、脈管因子、リンパ節転移の程度、遺伝子シグニチャなど)というように、がんの生物学的な性質に重きを置くように変わってきました。今回はそれがさらに顕著になるようです。

サブタイプ分類は、臨床試験によって若干定義が異なっていて、この間はけっこう混乱していました。St.Gallen2011では、Luminal A、Luminal B(HER2陰性)、Luminal B(HER2陽性)、Basal Like、HER2-richの5病型分類に統一されるようです。

その中で、一番注目されるのはLuminal Aの定義と治療法です。

今回の定義では、Luminal Aは、ER陽性(染色強度は関係ない)またはPgR陽性(同)、HER2陰性、Ki-67<14%となりそうです。また、Luminal Aの治療には、原則的に化学療法は行なわない、という治療指針になるとのことです。

おそらく大部分のLuminal Aに対しては、内分泌療法のみで良いのだと思います。化学療法を追加しても上乗せ効果が得られるのはわずかだと思います。

しかし…どうしても釈然としないものが残ります。

この指針に従えば、
「ER5%、PgR0%、HER2(-)、Ki-67 13%、リンパ節転移20個」
の症例でも内分泌療法のみで良いことになります。しかし、以前ここでも書きましたが、再発巣を切除したER陽性症例の病理学的な検討によると、一定の確率でERの陰性化が起きていると報告されています。私たちの検討では、ER陽性細胞率が低い(染色強度が弱い)症例の再発巣においては、ERの陰性化が起きやすいという結果でした。そうすると、上のような症例においては、ER陽性率が低いために転移したリンパ節のERが陰性化している可能性があるということで、微小遠隔転移巣においても内分泌療法が効かない細胞が存在している可能性があるということになります。

Luminal A全体から見ればこのような”化学療法をしておけば良かった…”という症例は多くはないため、化学療法をしなくても良い大多数の症例に埋もれてしまい、化学療法の必要性を論じる時の比較試験の有意差にはなってこないのではないかと思います(ちょっとわかりにくいでしょうか?)。

まだ最終的な合意が得られておらず、論文にもなっていませんので、これから若干の修正があるかもしれませんが、大筋はこういう扱いになりそうです。でも上のような症例を見たら、やっぱり化学療法の追加を考えてしまうのは私だけでしょうか?

最近では、化学療法の判断に迷うリンパ節転移陽性症例には、リンパ節転移巣のER染色を依頼して参考にしています。もしリンパ節転移巣がER(-)なら、微小な遠隔転移巣もER(-)である可能性があるので化学療法を行なう根拠になると思うからです。これからはER(+)HER2(-)のリンパ節転移陽性症例には全例リンパ節転移巣のER染色を依頼することになりそうです。

16 件のコメント:

pina さんのコメント...

hidechin先生、先日は私の質問に対し丁寧なお返事を下さいまして誠に有難うございました。今先生の記事を少しずつ読み進めている所ですが、私の質問の答えが過去の記事に既述されていたようなんです。にもかかわらず、こと細かくご回答頂きまして申し訳ない思いで一杯です。先生お忙しいのに本当にゴメンなさい!(失礼致しました)

St.Gallen2011については、私もW先生のブログを読んだのですがいまひとつ理解できませんでした。先生の今回の記事では具体的に症例が挙げられていましたので、わりとすんなり頭に入ったかな..と思います。タイトルとほとんんど関係のないコメントですみませんでした!!

hidechin さんのコメント...

>pinaさん
お気になさらないでけっこうですよ!
St.Gallen2011についてはきちんとした形で発表されるのにはもう少しかかります。その時にはまた記事にしますね。

rinko さんのコメント...

以前も一度ご相談させていただきましたrinko(32歳)と申します。
その節はありがとうございました。
全摘後、現在、ホルモン療法(リュープリン、ノルバデックス)を初めて3カ月が経ったところです。
最近、「抗がん剤をしていないこと」に大きな不安を感じております。
病理の結果は、乳頭腺管癌、浸潤部1.5cm、リンパ節転移なし、グレード1、ホルモン受容体陽性(ER95%、PgR100%)、HER2陰性、Ki67=6%、Ly1+、V-です。
乳がんを発症した多くの女性が抗がん剤をされており、私が将来の出産を強く希望したことで、本当はした方が良かった抗がん剤をしない方向になったのではないかという不安にかられています。
St.Gallenによると私はルミナールAになるのかなと思います。また35歳以下の発症ということも気になりますが、最近は年齢を考慮しないということも聞いています。
ただ、いろいろ変わるので、年齢のことなど、St.Gallenに当てはめて考える=安心になんだかなれません。

①私の場合、先生でしたら、抗がん剤はどうされますか?

②抗がん剤は命のことだけを考えたら、やった方がいいものなんでしょうか?0から+に作用しますか?(生存率1%の向上だとしても) それとも-に作用することもありますか?

③可能性としてお聞きしたいのですが、術後半年、ホルモン療法を初めて3カ月ですが、抗がん剤を今からスタートするということは可能なんでしょうか?

最近主治医が変わり、今の治療はやり過ぎでもやりなさ過ぎでもなくちょうどいいと言われました。抗がん剤をする人が多い不安を伝えると、「今できるすべての治療をするかどうかですから」と言われました。「今できるすべての治療」…、私はしなかったのかな~とか、完治を目指せるのは今だけだったのに…と、いろいろと考えてしまいます。

長くなって申し訳ございませんが、教えていただければと思います。

hidechin さんのコメント...

>rinkoさん
いろいろ後になってからご不安になるお気持ちは理解できます。ご質問にお答えいたします。

①rinkoさんの病理結果であれば私も化学療法をしません。St.Gallen2011はもちろん、St.Gallen2009においても内分泌療法のみの適応だからです。
②この条件をすべて満たした場合に化学療法で何%の生存率の上乗せ効果があるのかということは正確にはわかりません。Adjuvant! Onlineで上乗せ効果の数値を出すことはできますが、これではKi67や染色強度までを加味して数値を出してくれるわけではありませんし、対象は35才以上です。ですから推測でしかわかりませんが、おそらくあったとしてもごくわずかの上乗せ効果であると思われますし、化学療法によるリスクも0ではありませんから、demeritが上回る可能性もないとは言えません。
③通常は術後半年以内に化学療法を終了させることが望ましいと言われています。多少の延長はやむを得ないと思いますが、今から化学療法をするケースはほとんどないため、それが良いのかどうかはなんとも言えません。

取り急ぎ以上です。
ご心配されるのはわかりますが、抗がん剤が最強、最適の治療とは限らないといういうのが今の考え方です。また内分泌療法が弱い治療ということもありません。なんでもやれば良いというわけではないのです。その患者さんに最も適した治療を行なうことがもっとも大切であるということもよく考えた上で再度主治医の先生にご相談してみて下さい。
それではお大事に!

rinko さんのコメント...

こんばんは。
少し前にここでご相談させていただきましたrinkoと申します。
質問しっぱなしで、その後お礼のコメントもできておらず大変失礼致しました。
(ずっとお返事が気になっていたのですが、しばらくパソコンを見れない環境にいてごめんなさい)
多分、この場所へコメントさせていただいたような気がしますが見当たらず…。
個人的なご相談すぎた上、お時間が空いてしまい…。すみませんでした。

hidechin さんのコメント...

>rinkoさん
気になさらないで下さい。でもたしかにrinkoさんのコメントが確認できませんでした。どうして行方不明になってしまったのでしょうか…。すみません。
これからもよろしくお願い申し上げます。

rinko さんのコメント...

ありがとうございます。
行方不明ですよねぇ。
別の場所だったのかなぁと思ったりしています。
先生のお返事、もう一度ちゃんと読みたかったのでもう少し探してみます~。
ありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>rinkoさん
私ももう一度探してみます。どうもブログのシステムを熟知していないので何かミスをしてしまったのかもしれません(汗)
すみませんでした。

rinko さんのコメント...

こんばんわ。
先生への質問とそのお返事が出てきてます~^^
不思議ですが、嬉しいです。
ありがとうございます。

抗がん剤が最強・最適とは限らない。
この言葉に少し安心しました。

本当にありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>rinkoさん
どうもシステムのトラブルだったようで、ログインもできない状態でした。
結局ブラウザをSafariからGoogle Chromeに変更したらログインできるようになりましたので、それでコメントも復活したのかもしれません。不思議ですね!

いずれにしてもお気持ちが落ち着いたのでしたらよかったです!それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

hidechin先生

こんばんは。43歳 タムラと申します。
乳がんと診断され、手術を終え術後治療について悩んでいる時に先生のブログにたどりつき、患者のことをここまで考えている先生に相談したいと思いコメントさせていただきます。

左乳癌
1ヶ月前に手術を行い、術後病理結果は、乳頭腺管癌。主腫瘍結節は14×10×10mmだが、乳管内進展が目立ち、腫瘍径としては28×50×16。センチネルリンパ節転移はなく、stageⅡa。リンパ管侵襲なし、静脈侵襲なし、核グレード3、ER90%以上、PgR40%、HER2:1+、MIB-1:5%以下 でした。

主治医からは、「いわゆるルミナールAで、抗がん剤の上乗せ効果はほとんどないので、放射線治療にノルバデックス5年とリュープリン2年と言われました。
術前の針生検では1だった核グレードが3となったとこが引っかかり、抗がん剤治療もしたほうがいいのではないかと悩んでいます。

先生でしたら、抗がん剤治療はどうされますか。

ご回答いただけたら幸いです。よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(タムラさん)
はじめまして。
gradeとKi-67(MIB-1)は必ずしも一致するわけではなく、私も迷うことがあります。タムラさんの結果はgrade以外はまったく問題なく(浸潤径も小さく、リンパ節転移もなく、ERも強陽性でHER2も陰性、 Ki-67<14%)、抗がん剤の上乗せ効果は低いのではないかと思います。主治医の先生の判断で良いのではないかと思いますが、どうしても心配でしたらもう一度お聞きになってみても良いと思いますよ。納得した上で治療を受けるのが一番ですからね。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

hidechin先生

はじめまして。イシダと申します。
突然申し訳ございませんが、先生のブログを拝見しまして、先生の患者さんに対する姿勢にとても共感いたしました。治療方法について、相談させて頂けないでしょうか。

39歳。左乳がんで手術を終え、放射線治療中です。
術後の病理結果から、主治医からホルモン治療のみ10年を提案されておりますが
ki67のみが20〜30%と少し高めであるため、化学療法を追加するべきか非常に悩んでおります。
主治医はKi67が高め(ルミナルb)ではあるものの、腫瘍系も小さく
他の要素がすべて安心材料であるため、
化学療法は不要というのが基本的なお考えでした。
気になるようならオンコタイプDXを受けるよう提案いただいておりますが
化学療法はデメリットも大きく、私にとってやり過ぎである気がするのですが
同時にやらない事で再発率がとても上がってしまうのでは?という不安にもさいなまれております。
hidechin先生のお考えを教えて頂けないでしょうか。

組織型:浸潤性乳管癌、硬癌>乳頭線管癌
部位:左B
腫瘍サイズ:マクロ:10×9mm、ミクロ:10×9mm
脈管侵襲:ly0,v0(共に陰性)
リンパ節転移:Negative(0/1)(SN)なし
※センチネルリンパ節生検のみ実施
核グレード(NSAS-BC):Grade1
(nuclear atypic 2, mitotic counts 1).
断端:陰性
ER(+;100%, 強)
PgR(+;100%, 強)
HER2 0.
Ki-67陽性細胞;20−30%

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(イシダさん)
はじめまして。
病理結果からはER/PgRともに強陽性ですし、Ki-67が少し高い以外は良い結果だと思いますので、化学療法の上乗せ効果はあまり高くないと思います。それでもご心配でしたら費用はかかりますがOncotype DXの結果をみて判断するのも良いと思います。
Oncotype DXまではしたくないけどやはり不安ということでしたら、上乗せ効果がごくわずかかもしれませんが化学療法を行なう選択もないことはないと思います。そのあたりは最終的には患者さんとのご相談で決めていますが、私の患者さんだとしても抗がん剤はあまり積極的にはお勧めはしないと思います。

化学療法をしなかったから再発したのか、していても再発したのか、化学療法を追加したから再発しなかったのか、ホルモン療法だけでも再発しなかったのか、これらを個々の患者さんに対して治療前に正確に推測することは私たちにはできないのです。あくまでも確率で推測するしかなく、そのための参考がホルモンレセプターの陽性率やHER2、Ki-67や核異型度、そしてOncotype DXなどなのです。
もう一度イシダさんが感じている不安を主治医の先生に正直に話して、よくご相談なさって下さい。
それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

hidechin先生

イシダです。
お忙しい中、丁寧なお返事ありがとうございました。

先生も化学療法は積極的にお薦めはされないとの事で
ほぼ主治医の先生と同じお答えに少し安心いたしました。
元々、抗癌剤は極力受けたくないので
受けない方向で検討したいと思います。

とはいえ、再発予防を第一に考えますと、再発の恐怖と化学療法がチラついてしまいます…。
オンコタイプDXを受けたとして、結果がグレーでしたら、また悩んでしまうと思うので、敢えて検査を受けない、というのもありかと思いました。

本当に悩ましく、恥ずかしながら、
精神的にもかなりストレスを抱えた状態になってしまっております。

選択の余地がない方もいらっしゃるのに、私のように選択の余地がある者は贅沢な悩みかも知れません。
先生がおっしゃる通り、再発の確率は先生でも予測できない所ですから、ましてや私にわかるはずもありません。

最終的には、自分の納得の行く所で決断しなくてはいけませんね。
自身で決定できない事が歯がゆいですが、なんとか結論を出したいと思います。

お忙しい所、本当にありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん(イシダさん)
そうですね。きちんと納得して決めることが大切だと思います。
それではお大事に!