2012年7月11日水曜日

血清HER2が陽性のHER2陰性乳がん

最近経験した興味深い患者さんについてのお話です。

この患者さんは初回手術時の病理検査では、免疫染色でHER2(2+)→FISH法で陰性と判定されたため、HER2陰性乳がんとして治療、経過観察をしていました。

数年経ってリンパ節再発をきたしたため、生検を行なって再度検査をしたところ、今回もHER2(2+)でFISH法が陰性(つまりHER2陰性と判定されます)という結果でした。HER2(2+)でもFISH法で陰性と判断されれば、ハーセプチンの適応はありません。ところが、この患者さんは、FISH法の結果を待つ間に念のため血清HER2を調べておいたのですが、軽度ですが陽性という結果が出たのです。

血清HER2は腫瘍マーカーの1つでHER2陽性乳がんの再発状態の指標になります。しかし、血清HER2とハーセプチンの臨床効果との関係がはっきりしていないために、血清HER2が陽性というだけではハーセプチンの適応にはなりません。今まではHER2陰性の患者さんの血清HER2は調べたことがありませんので、どのくらいの偽陽性率なのかはわかりませんが、HER2(2+)だった患者さんですので単なる体質とかではなく病状を反映しての結果なのではないかと思います。

いま製薬会社に資料を問い合わせているところですが、ネットを検索してみると、「がんサポート情報センター」のサイト(http://www.gsic.jp/cancer/cc_18/mdc03/03.html)に、浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生の患者さんで私の患者さんとまったく同じケースでハーセプチンが著効した症例があると書いてありました。もちろん保険外的応にはなりますが、非常に興味深いと思いました。

HER2検査は、標本の作成方法(ホルマリンの濃度や浸ける時間など)、判定者の経験度などによってかなり結果にばらつきがあると報告されています。これが病理学的検査の結果と血清HER2の結果で乖離が起きた原因なのかどうかはわかりません。転移部位によって性質が違うことがあるということは今までもここで書いてきましたが、今回切除したリンパ節ではなく、他に隠れている再発部位を調べてみると病理学的にもHER2陽性なのかもしれません。また、もしかしたらHER2(2+)の症例の中にもハーセプチンが有効なケースもあるようですので、そのようなケースでは血清HER2が高値になっているのかもしれません。

ハーセプチンは効果がみられる場合は劇的に効きます。本来効果があるはずなのに適応外とされてしまう患者さんがいないのかどうか、もう少し情報が欲しいです(担当のOさん、よろしくお願いいたします)。この患者さんは現在ホルモン治療中ですが、病状の推移と血清HER2が相関するのかどうか、しばらく経過を追ってみようと思います。

18 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

そうなのですか、私は術前の病理検査ではハーツが陽性の疑いがあったのに、術後の病理検査では陰性でした。
「主治医は最初の検査が間違いだった」と後で濁しましたが。
もしかして、陽性の可能性も捨てれませんね。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
匿名さんのケースは内容がわかりませんのでなんとも言えませんが、一般的にはHER2の結果が術前(針生検など)と術後の病理検査で結果が異なる場合があるのはいくつか理由があります。
①採取部位による違い:針生検は腫瘍の一部しか見ていません。腫瘍細胞はすべて均一ではありませんので、HER2を測定する部位によって違う結果になることがあります。
②術前治療(化学療法、ホルモン療法、ハーセプチン)の影響:感受性のある細胞が死滅することによる変化
③組織検体の取り扱いによる違い(ホルマリンの濃度や浸けるまでの時間と浸す時間など)

その他、HER2は見る病理医によってかなり結果のばらつきがみられるとも言われています。
以上、ご参考までに。

匿名 さんのコメント...

her2陰性で、ホルモン治療を1年しています。
去年の8月に血清her2が20,1と数値が高く、一ヶ月後の9月に検査しましたら14,9でした。
12月に再度検査をしましたら、15,7です。
ceaは、0,5イカ
ca15ー3は、9,6〜11,6です。

her2の数値が高いのは、体質的なものでしょうか?

her2の数値が高いと癌になりやすくなるのでしょうか?
とっても心配です。

また、12月に胸のmriでは、再発は無しで
リンパ節腫大無しでした。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
ところでなぜ主治医の先生はHER2陰性なのに血清HER2を調べているのでしょうか?今回の私の患者さんの場合は原発巣も再発巣もHER2(2+)だったのでFISHを待つ間に念のため調べてみたら高かったというだけで通常はHER2陰性なら血清HER2は調べません。
HER2陰性の場合の血清HER2測定の意義、正常者の血清HER2のデータについては不明な点が多いと思います。
匿名さんの場合に、例えば隠れた転移巣があってそれがHER2陽性に変化しているという可能性も完全には否定できませんが、1ヶ月後の再検査で下がっていたのでその可能性はきわめて低いと思います。なんらかの測定上の誤差や体質?なのかもしれませんね。

匿名 さんのコメント...

お忙しいなか、返答ありがとう御座いました。

私自信her2陰性なのになぜ検査するのか、
疑問に思ってました。
主治医の先生に、なぜ検査するのか?とか、
怖くて質問できないです。。。
蓋をあけたら血清her2も検査していて、
検査結果も数値が高かったのです。

主治医の先生がいうには、her2陰性なので通常はありえないとの事です。
ただ、転移の可能性もあるかも知れない。
(血清her2が20,1時の回答)
検査の数値もどんぶり勘定的な所もあるとの事と、手術時の一年前からのデーターが無いので、なんとも言えないが元々数値が高いタイプなのかも知れないと言われてます。

別の病院の放射線科の先生にも相談しましたが、her2は乳がん以外の別の癌にもあるので、(初めて知りました。)
数値が高くなるようなら検査をして下さいと
言われました。

正直なところ、こんなに恐怖とストレスを感じるなら血清her2検査はしてほしくなかったです。





hidechin さんのコメント...

>匿名さん
結果的にはそう思ってしまうかもしれませんね。
たしかに胃がんでもHER2が陽性になることはあります。今後の検査、異常値の判断については主治医の先生とよくご相談下さい。
それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

2013年2月右乳房全摘及びリンパ郭清をしました。術前検査にてHER2陽性、5FEとハーセプチンを併用しました。3月の検査にて血清HER2が軽度上昇していました。上昇率はどの程度までが境界線ですか?NCCST439は1、0でした。
今後生活で注意することはありますか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
血清HER2は正常の人でも5%程度正常値(カットオフ値は15.2ng/ml)を上回ることがあるようです。ですから少し正常値を超えたとしても直ちに異常とは断定できません。
どの程度までが境界線かという問いに正確にお答えすることは困難です。重要なのは増加傾向が続くのか、横ばいまたは正常値との間を上下するのかということです(これは他の腫瘍マーカーにおいても同様です)。画像的に異常なければ推移を見て増加傾向があれば再度画像検査(PET-CTなど)を追加するかどうか判断するのが普通だと思います。
なお生活で注意することは特にありませんが、普段と何か変わった症状(背骨や腰、骨盤、股関節の痛みなど)があった時は早めに受診することが重要です。以上です。

匿名 さんのコメント...

お忙しい中、わかりやすく回答していただ
きありがとうございます。
今まで、あまり気にせずマイペースと笑顔でここまでやってきましたが、初めて深く考えました。今まで通りにマイペースで今後も生活していきます。
検査をして目安がわかり良かったです。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
自然に正常化すると良いですね。それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

血清HER2は、私はよく利用しています。病理結果や治療対象とは異なる解釈が必要で、これを基にHerceptinの対象とするかは判断していません。病理はあくまでも治療対象となるかどうかを判断するために陰性と陽性を識別していますが、殆どの細胞でHER2蛋白の発現は認められています。それを0/1+/2+/3+と表現しています。0の場合を除いて、HER2蛋白の発現はあり、血中にも反映されていると解釈してください。血清HER2はHER2の発現強度にも影響しますが、主に治療による腫瘍ボリュームの変動に合わせて変動しています。1+の腫瘍も多ければ血清HER2がカットオフを超えることは当たり前のことです。
さらにCA15-3やCEAよりも化学療法・ホルモン療法・抗HER2療法治療効果による変動がダイレクトで見やすいので好んで使っています。多くの場合、患者個人の基礎値から10程度上昇した場合に転移を疑いますが、最初っから15程度にあるだけで変動がなければ、転移を心配する必要はありませんよ。
腫瘍マーカーとして、

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
貴重なコメントをありがとうございます。大変勉強になりました。

この患者さんには後日談があります。最終的には局所コントロール目的で鎖骨上リンパ節と胸骨傍リンパ節の郭清を行なったのですが、今回はついに免疫染色でHER2(3+)という結果が出たのです。この結果をもって現在ハーセプチン+パージェタ+ドセタキセルの化学療法を行なっています。ホルモン療法に抵抗性を示し、血清HER2が再発時に高値になったこともこの結果と無関係ではないのかもしれません。今は血清HER2は正常化しています。
現在NSABP B-47でHER2弱陽性の乳がんに対する術後補助療法としてのハーセプチンの有効性を検証していますが、とても興味深く見守っています。

今後とも御指導のほどよろしくお願いいたします。

匿名 さんのコメント...

はじめまして。
確定診断を行う際に生検を行い、その結果、HER2偽陽性と出ました。
その後、FISH法で陽性(2.58)と診断されました。
摘出した腫瘍の病理検査では、HER2は0という結果が出ていて、
大変戸惑っております。
(術前にハーセプチンや抗がん剤を使用したわけではありません)
そういうことは、あるのでしょうか?
ちなみに腫瘍の病理検査の依頼文には、HER2(+)と記されていて、評価をお願いしますとありました。
検査をされた方もそれを見ているとは思うのですが、
それを見てもなおHER2を0との結果を出したということですよね?
結局私はどちらを信用してこれからの治療を選択すればいいのでしょうか?
たまたま切り取った場所にHER2がなかっただけで、遺伝子レベルで調べたFISH法を信用するべきなのですか?
何かアドバイスをいただければありがたいです。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
なかなか判断が難しいケースですね。
もしかしたら腫瘍細胞がモザイク状になっていて、計測した部位によって異なる結果が得られるのかもしれません。また、ホルマリン固定の時間によっても結果が変わる場合もあります。違う部位で再度検査をしてみるか、針生検の結果を重視するか、切除標本の結果を重視するか、判断は医師によって異なるかもしれません。結果に乖離があった原因をどう考えているのか主治医にお聞きになってみてはいかがでしょうか?
私ならまずは別の部位でHER2を再度調べてもらいます。それで陰性だった場合は、患者さんと相談の上で判断することになりますが、患者さんに不利益が生じないようにという立場で考えると、ハーセプチンを投与する方が良いのではないかというスタンスでお話しすると思います。以上です。

匿名 さんのコメント...

血清 HER2 濃度測 定の臨床的有用性についての文献を見つけました。
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jamt/65/2/65_15-68/_pdf
この文献は、HER2陰性患者となっていますが、陽性でも当てはまるのではないかと思います。
陰性であっても陽性の場合もあるとのことなので、難しいと感じます。
術後の補助療法においては、薬が効いているかどうかはわかりません。
血清HER2値を持って状態を把握することができるのでしょうか?
ハーセプチン投与しても、効いているのかどうかの判定に使えるのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
HER2陽性の再発患者さんにおいても必ずしも血清HER2が強陽性になるわけではありません。再発の状態が血清HER2の変化と一致するなら有用なマーカーになりますが、必ずしもすべてそういうわけではありません。
また血清HER2の上昇した私が経験したHER2陰性患者さんは抗HER2療法はまったく効きませんでした。免疫染色でのHER2陽性と血清HER2陽性は必ずしも相関せず、抗HER2療法の効果予測においても必ずしも効果を発揮するものではないようです。まだまだわからないことが多いですね…。

匿名 さんのコメント...

再発防止を目指しております。
術後だと、ハーセプチンを投与しても、腫瘍がないので効いているのかどうかわかりません。
治療効果を判定するのはどうしたらいいのでしょうか?
マーカー値は目安にしかならないのはわかっていますが、
血清HER2の値が低くなれば効いているというふうな具合にはならないのでしょうか?

ハーセプチンやパージェタにはADCC効果があります。
効かないとか詐欺とか言われることもある、免疫療法のNK細胞を併用すれば効果があると思うのですが、
どうでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
術後補助療法というのは効果判定できるターゲットがありません。ですから効いているのかいないのか、その場でわかるわけではありません。あくまでも臨床試験による比較で投与した方が再発率または死亡率が低かったというデータを元に投与しているわけです。個々人の効果について現時点で推測できるわけではありません。しかし、投与した方が再発率、死亡率が低いのは明らかなのですからそれを信じて治療を受けるのが良いと思います。

匿名さんはずいぶん勉強されているようですが、免疫療法はまだまだ十分に実用化されてはいません。匿名さんのようなアイデアは研究者によって山ほど検証されてきていますがいまだにその効果は未確定です。いつか実臨床で使えるような治療法が確立されることを私も祈っています。