いまHER2陽性乳がんの再発患者さんの治療で悩んでいます。
この患者さんは合併症をたくさん抱えているためにかなり全身状態が悪く、使用できる薬剤に制限があります。ですから今までは他院でホルモン療法を中心に治療を行なってきました。しかし骨転移と胸膜転移が徐々に悪化して来たために総合病院である当院に紹介となったのです。
合併症の中で特に問題となるのは糖尿病とそれによる重度の腎機能障害です。吐き気止めやアレルギー予防として用いるステロイドは糖尿病を悪化させますのでできるだけ避けたいと考え、まずはハーセプチンにアブラキサン(パクリタキセルと成分は同じですがステロイドは不要)を併用してみました。しかし、今回のCT検査では効果は見られておらず、治療方針の変更を迫られています。骨転移に対して広範囲に放射線治療を行なっているために骨髄抑制の強い抗がん剤の併用を避けたいということも選択肢を狭める要因となっています。
当初次の手段として、タイケルブ+ゼローダを予定していたのですが、よく調べてみると”重度の腎機能障害には禁忌”となっていました。タイケルブは国内ではゼローダとの併用しか認められていません。海外での臨床試験では、ハーセプチン+タイケルブの有効性が報告されているのですが(http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/20124187、http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/22257673など)、国内では使用している施設はほとんどないようです(保険診療として認められずに査定される可能性があるためと思われます)。
製薬会社の方に聞いてみたのですが、返答は微妙でした。ハーセプチンは併用する薬剤のしばりはありません。抗がん剤は何でもOKですし、今までホルモン剤との併用でも査定されたことはありません。ですから、ハーセプチンの保険適用が認められないことはないと思います。問題はタイケルブです。タイケルブは、ゼローダとの併用が保険適用上は必須です。ただし、途中で副作用が現れた場合は、ゼローダを中止しても問題はないと聞いたことがあります。
では、タイケルブ+ゼローダにハーセプチンを併用した場合はどうなるのでしょうか?ハーセプチンはまず大丈夫でしょう。タイケルブもゼローダを併用していれば問題ないはずですが…。添付文書に”ハーセプチンとの併用は認めない”と書いているわけではありませんから(ゼローダ以外の薬剤との併用の安全性と有効性は確立していないというよくある微妙な表現)、併用したっていいのではないかと考えてしまいますが、ハーセプチンもタイケルブも高価な薬剤ですので目を付けられて査定される可能性は完全には否定できません。
患者さんの状態を考えると、ゼローダは避けてハーセプチン+タイケルブで治療したいところです。しかしタイケルブにゼローダ併用のしばりがあるためにとても悩んでいます。ごく少量のゼローダを併用して3剤での治療を今のところ第1候補に考えていますが、「ハーセプチン+タイケルブ」もしくは「ハーセプチン+タイケルブ+ゼローダ」の治療を受けた患者さん、もしくは治療を行なったDrがいらっしゃったら情報をお待ちしています。
2 件のコメント:
いつも拝見させていただいております。
色々な情報をありがとうございます。
私は再発を繰り返しており、発病してから10年目となります。
昨年にタイケルブ+ゼローダの治療をして
おりましたが、数値も正常値に入り、治療を中断しておりました。
しかし、また再燃です。腫瘍マーカー等上昇につき、タイケルブ+ゼローダ再開です。
今の段階では、ハーセプチン+タイケルブは
保険適用になる見込みはありませんか?
タイケルブ+ゼローダの治療は、副作用が辛いです。
>匿名さん
はじめまして。
ターケルブ+ゼローダは下痢や手足症候群などの副作用が辛いですよね…。
残念ながら今のところまだハーセプチン+タイケルブが保険適用になったという連絡は入っていません。製薬会社側からはあまり積極的に動いている様子は感じられません。
もしまた新たな情報が入ったらお知らせします。
それではお大事に。
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