以前から一部の医師が、「乳がん検診は無意味なので受ける必要がない、なぜなら検診で発見された非浸潤がんのほとんどは放っておいても悪さをしないからだ」と言っていました。確かに一部の非浸潤がんは非常におとなしいため、すぐに切除しなくても良いものもあるのは確かであり、最近国内でも低悪性度の非浸潤がんを拾いすぎないようにという方向に変わりつつあります。
しかし一番の問題は、どの非浸潤がんを放っておいて良いのかが十分にわかっていないことです。非浸潤がんのすべてをがんもどきとして放置して良いというわけではないということを示す内容が第17回米国乳腺外科学会(ASBS)で報告されました(http://www.medscape.com/viewarticle/862025)。
概要は以下の通りです。
対象:非浸潤がん(DCIS)と診断された非照射の720例。
方法:切除断端との距離(マージン)が1mm未満であった124例(断端不適切群)とマージンが1mm以上だった596例(断端適切群)の局所再発率を比較。
結果:平均腫瘍サイズは17mm、平均年齢は55歳、平均追跡期間は79ヵ月。断端不適切群の10年局所再発率は低悪性度(Grade1/2)で51%、高悪性度(Grade3)で70%、断端適切群では、低悪性度で13%、高悪性度で35%。断端適切群の低悪性度症例の浸潤がんでの再発率”わずか”5%。
この結果は、断端が陽性だった場合は高率に再発することを示しており、適切な手術が行なわれたかどうかが予後に影響する可能性があることを警告しています(入手した内容からは、断端不適切群の全体の浸潤がん再発率が不明ではありますが、一般的には約半数が浸潤がんで再発すると言われています)。
この報告の発表者は、断端不適切群の患者は、非浸潤がんの”無治療経過観察群”の”代役”と考えられるので、そのような判断を望む患者さんに対する教訓になる結果であると述べています。
なお、結果で述べた断端適切群の”浸潤がん”再発率がわずか5%となっていることについてですが、日本における乳房温存療法ガイドライン(最近遵守されなくなってきたような印象を受けています)では、断端陰性の基準は5mm全割標本において断端から5mmあることとなっています。この基準を守れば非照射であっても10年局所再発率は約3%程度と言われています(私たちの施設でも3%以下でした)。これは浸潤がんのみならず非浸潤がんも含めた数値です。この研究における1mmという距離でも不十分であることがおわかりになるかと思います。
もちろん安全を過大に考えすぎると整容性が保てなくなります。広く切除すれば良いというものではありません。しかし非浸潤がんだからたいしたことはない、断端陽性でも放っておいて良いということにはならないということは言えます。
どのようなタイプの非浸潤がんが、断端陽性もしくは無治療でも放っておいて良いのか(浸潤がんにならないのか)がわかるのが理想的です。しかし今の医学ではまだここまではわかりません。浸潤がんのほとんどは、最初はみな非浸潤がんだったのです。ですから非浸潤がんであっても慎重な判断が必要になると私は思っています。非浸潤がんを放置して良いという考えを持つ人の思考過程が私にはよくわかりません。