2011年2月4日金曜日

乳腺肉腫の若年患者さんの記憶

まだ乳腺外科の専門研修に行く前、今から17年ほど前になりますが、20才の乳腺肉腫の患者さんを受け持ったことがあります。

この患者さんの腫瘍はきわめて珍しい5cmほどの肉腫でした。乳腺原発は文献検索した限りでは世界で初めての症例でした。診断のための摘出手術では明らかな遺残はなさそうでしたが、国立がんセンターと癌研附属病院にconsultationをして、確定診断と治療方針の決定を行ないました。きわめて悪性度が高く、生存例が少ないこと、局所再発率が非常に高いことから、残存乳房の全摘と強力な化学療法を勧められ、患者さんとご家族にご説明し、治療を行ないました。

20才の乳房を切除するのは手術する側としてもとてもつらいものですが、救命が第一と考えて、説得しました。
手術後の切除乳房には病理学的には明らかな肉腫の遺残はありませんでした。微小な悪性細胞が病理検索していない部分にある可能性は否定できませんし、肉腫の場合は一見完全切除に見えても局所再発しやすい傾向がありますので手術する必要がなかったわけではありませんが、ご本人にはずいぶん恨まれました。抗がん剤の副作用も強く、ずっとつらい思いをさせてしまいました。

また、非常に珍しい腫瘍ということもあって、「どうせ私は実験台だと思っているんでしょう?学会に報告しようと思っているんでしょう?」とも言われました。私はそれを否定し、患者さんが学会報告を望まないなら決して報告はしないことを約束しました。ですからいまだにこの貴重な症例は報告していません。

そんな彼女もその後医療関係の仕事に就き、今も再発なく元気に暮らしています。私が転勤したことなどもあって現在は他の外科医の外来に通院中ですが、もう大丈夫だと思います。

もちろんあの時の乳房切除は、再発を防げたという結果からも正しい判断だったと思っていますが、20才の女性の乳房を切除しなければならなかったこと、そして彼女に深い悲しみを与えてしまったことは今でも忘れることができません。

2 件のコメント:

はっこ さんのコメント...

いつも読ませていただいてます。
以前癌肉腫について相談させていただいきました。今回肉腫の話で興味深かったのでコメントさせていただきます。乳腺肉腫とも、若年性でもないですが~・・・。私は癌肉腫という珍しいものと言われましたが、トリネガとのことで今も無治療です。定期健診では傷の近くに術跡でできた肉芽がるそうですが、悪いものでもない腫瘤と言われました。
セカンドオピニオンも考えましたが、地理的関係を考えるとそこまでしなくてもいいか・・・思ってしまい今に至ってます。特に違和感もなく生活してるのでガンだということも忘れています。なかなか同じ症例の方に会わないので、ちょっと似たような話で読ませてもらいました。ありがとうございました

hidechin さんのコメント...

>はっこさん
こんにちは。癌肉腫も珍しいですよね。
頻度の低い組織型に対しては標準的な治療が当てはまるのかどうかわからないところもありますのでなかなか難しいですよね。
はっこさんも再発なく経過されることをお祈りしています。