今年の4月に発売されてから、現在推定7300人に投与されているランマークですが、やはり以前書いたように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/05/30.html)心配されていたような状況になりつつあるようです。
ランマークは非常に強い骨転移に対する効果がある一方で、低カルシウム血症の副作用がゾメタに比べて強いことは臨床試験からもわかっていました。しかし、4月の発売当時はその詳細は報告されていませんでした。ところが発売後に海外で3例の低カルシウム血症による死亡例が発生していたことが判明し、まず最初の注意喚起「適正使用のお願い」がメーカーから出されました。その後最近になって国内でも死亡例が1例発生したことが報告され、さらについ先日2例目が発生したことでようやく正式な注意喚起「安全性速報(ブルーレター)」の指示が厚生労働省からメーカーに出されたのです。
化学療法剤には副作用は残念ながらある程度は避けられません。しかし早い段階で正確な情報をつかむことによって、その影響は最小限で留められる可能性があります。逆に迅速なメーカーと国の対応がなされなければ、被害を拡大させてしまうことになります。せっかくの良い薬なのに、その情報が正しく迅速に伝達されなければ単なる怖い薬になってしまいます。それがとても心配です。
今までに私が知り得た、ランマークによる重篤な低カルシウム血症発生例に関する情報について以下に記します。
①低カルシウム血症の発生日は、初回投与後5-7日目くらいがもっとも多いが、数クール経過してから初めて発症した症例も複数ある。
②ビタミンD、カルシウム剤を予防的に内服していても発生した症例は複数ある。
③今までわかっている経過からは、重篤な症状(けいれん、心停止など)を生じる前にテタニー(口唇や指先のしびれなど)を必ずしも伴っていないようである。これは血液検査をしていなければ突然急変する可能性があることを示唆している。
④重篤な低カルシウム血症をきたしてから、カルシウム剤の静脈投与を行なってもなかなか回復できなかった症例がある。
現在ランマークを使用中の患者さんは上記の通り多いですし、重篤な低カルシウム血症の発生は、頻度からすると決して高いわけではないかもしれません(まだ報告されていない症例があるかもしれませんので正確な発生頻度は不明ですが)。実際問題としては、現在投与を受けている方のほとんどは今後も何も問題なく投与できるのだと思います。ランマークによる治療効果が現れていて今まで問題なく投与できている患者さんは、このような情報が出たからと言って直ちに治療を中止する必要はありません。詳しくは主治医の先生によくお聞きになった上でご判断下さい。
もしかしたらこのような情報をここに書くのは、不適切なのかもしれないと思い、国内1例目の発生例が報告された時には記事にしませんでした。しかし、正式に厚生労働省から注意喚起(メーカーに対して安全性速報を出すようにという指示)が出されましたので、この事実を広く周知すべきであると考えてアップすることにしました。もし現在ランマークを投与中で、私の記事が不安を煽るような結果になってしまった患者さんがいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。しかし、この事実を知らずに万が一のことがこれからさらに増えてしまう方が大きな問題になると考えて書いたたということをどうかご了解下さい。
取り急ぎの対応策は、今回の安全性速報に書かれているように、カルシウム剤とビタミンDは高カルシウム血症がない限り内服すること、頻回の血中カルシウム濃度の検査を受けること(”頻回”がどのくらいなのかの記載はありませんが私は当面は週1回はチェックすべきだと思っています)、腎機能障害がある患者さんは、低カルシウム血症をきたしやすいので特に注意が必要なこと(最初のふれこみはゾメタと違って腎機能に影響を与えないから腎機能障害の患者さんにも使えるということでしたが…)などでしょうか。
以下に参考となる資料のURLを示します。
<参考URL>
①海外3例の死亡例報告を受けて、2012.5にメーカーから出された「適正使用のお願い」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201205_2.pdf#search='%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF %E5%9B%BD%E5%86%85 %E6%AD%BB%E4%BA%A1%E4%BE%8B'
②今回の国内死亡例2例を受けて厚生労働省からの指示で2012.9にメーカーから出された「安全性速報(ブルーレター)」
http://www.info.pmda.go.jp/kinkyu_anzen/file/kinkyu20120911_1.pdf#search='%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%80%A7%E9%80%9F%E5%A0%B1 %E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF'
6 件のコメント:
temariです。いつも有益な情報をありがとうございます。
新薬には、市場に出てからの様々な副作用の報告はある程度想定されているのかもしれませんが、死亡報告となると衝撃的ですね。良い情報は嬉しいのですが、良くないものには反応が鈍くなってしまいます。発信者も同じでしょうか・・・今後のあらゆる方面での対応が進んでいくことを願います。
私自身のデノスマブ投与は先送り状態になっています。(ゾメタもストップしています)先週確認したところ抗がん剤の治療を優先するとのこと。やはり白血球値、好中球値が慢性的に低いので・・・
いずれにせよ、自分の病気にマッチする治療法と出会い、なるべく長く付き合っていきたいものです。
普段にまして随分とお忙しいようですね。お身体に気をつけてください。ブログ更新は気長に待っています。
>temariさん
こんばんは。ご心配いただきありがとうございます。
期待していただけにこの間のランマークの副作用報告は残念でなりません。私の施設でもランマーク投与中の患者さんがいらっしゃいます。今回の情報で中止することは考えていませんが、より慎重に経過観察をしなければと考えています。
抗がん剤治療は骨髄機能がネックになってしまいますので主治医の先生もきっといろいろ苦慮しながら方針を立てていらっしゃることと思います。順調に治療が経過すると良いですね。それではお大事に!
初めまして、ひまわりといいます。
私は20年前に全摘出手術をうけた患者です。
5年前に骨転移がみつかり、ゾメタ、アロマシンで治療をしてきました。
2年前にマーカーの上昇でアロマシンをフェマーラに変えて治療をしましたが、先月からランマークとフェソロドックスに変えて治療をしています。
両方とも筋肉注射ですが、両方つかう必要があるのかどうか…経口に変える事はできないのでしょうか?
ご意見をお聞かせください。
よろしくお願いいたします。
>匿名さん(ひまわりさん)
はじめまして。
骨転移治療薬(ゾメタやランマーク)は他の全身治療薬(ホルモン剤や抗がん剤、分子標的薬)とは異なり、骨にのみ特異的に作用します。全身の他の転移巣には作用しませんが(ゾメタには他の臓器転移にも抗腫瘍効果があるとも言われていますが)、骨折や麻痺、高カルシウム血症などの骨関連事象を抑制する効果があります。ですから骨転移がある患者さんには他の全身治療薬と併用して投与することが多いのです。ひまわりさんの場合は、ゾメタを投与していてわざわざランマークに変更したのですから、骨転移に悪化の傾向があったのではないですか?それであればランマークの併用はやむを得ないのではないかと考えます。ただ副作用の発生には十分に注意してもらって下さい。なお、骨転移治療薬の経口剤は残念ながら今のところありません。
フェソロデックスは筋肉注射で嫌だとは思いますが、毎日飲む必要がないという考え方もできると思います。出来る限りホルモン療法で治療したいと主治医の先生はお考えなのだと思います。もし術後にタモキシフェンを使用していたのであれば、私もフェソロデックスをお勧めすると思います。次の手としては、フェアストンの高用量という治療もありますし、肥満の問題はありますが、ヒスロンHというステロイド系のホルモン剤も使用できます。ホルモン剤の使用順序は、今までの治療歴と薬剤の副作用を考えて主治医の先生が選択してくれていると思います。もし、疑問があれば直接お聞きになってみて下さい。それではお大事に!
こんにちは、ひまわりです。
お返事ありがとうございました。
主治医にいろいろ相談はしているのですが、あいまいな返事と、こちらからの質問に対しても先生がわからない事が多くて、逆に不安になってしまいます。
でも、このようなHPがあって不安に思っている事に相談にのって頂けるだけで少し気持ちも軽くなります。
本当にありがとうございます。
>ひまわりさん
少しでもお役に立てたならうれしいです。
それではお大事に!
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