2013年3月18日月曜日

乳がんとPTSD(心的外傷後ストレス症候群)

乳がんと診断された患者さんの4人に1人がPTSDを発症していることが米国のコロンビア大学内科・外科学部教授でMailman公衆衛生学部教授のAlfred Neugut氏らによって報告されました(「Journal of the National Cancer Institute」オンライン版)。

PTSDは、日常とはかけ離れた強烈なストレスによって、心に深い心的外傷を負った後に発症する心の病気です。地下鉄サリン事件などの凶悪事件を目撃、または被害にあった方に発症したことで日本の一般の方々にも徐々にこの病気が認知されてきたと思いますが、かつてベトナム戦争帰りの米国の若者たちに同様の症状が見られたことがこの疾患概念の確立のきっかけになったとされています。

症状としては、精神的不安定による不安、不眠などの過覚醒症状、トラウマの原因になった障害、関連する物事に対しての回避傾向、事故・事件・犯罪の目撃体験等の一部や、全体に関わる追体験(フラッシュバック)などがあげられ、これらが1ヶ月以上継続する場合に、PTSDと診断されます。

このPTSDが乳がんと診断された患者さんにも発生するというのが今回の報告です。今回の研究では、1100人強の20歳以上の乳がん患者さんから聞き取りを実施した結果、23%が診断後2-3カ月以内にPTSDの症状を経験していたということです。しかし、その後3カ月で症状は軽減したとのことですので、事件や事故によるPTSDとは少し異なるような印象を受けます。これは、がん告知を受けた患者さんを数多く見ているとなんとなく理解できます。がん告知を受けた時のショックはもちろん大きいのですが、検査を受けているうちに徐々にですが自分の状況を冷静に見ることができるようになり(がんという言葉に対する漠然とした不安が少し解消するのだと思います)、手術や治療が終了すると少し安心感が出てくる(もちろん再発の不安はありますが)というように、時間とともに状況が変化していくというのが、事件や事故を目撃、経験した方たちとは違うからではないかと私は思っています(もちろんかなりの個人差はありますが…)。

なお、若い女性は高齢女性よりも高い比率でPTSDの症状がみられ、人種ではアジア人と黒人の女性は、白人女性よりもPTSDリスクが50%高かったということです。このあたりは、生活環境、人生観や宗教観なども関係しているかもしれません。いずれにしても、中途半端だったり、一方的な告知、患者さんの心情を理解しないような不適切な告知を行なうと、時間が解決してくれるはずの心の傷が癒されず、回復に時間を要するPTSDになってしまう可能性はあると思います。私たち医療従事者は、そういうことにも細やかな心配りをしなければならないということを警鐘する点でも意味のある研究なのではないかと思いました。

8 件のコメント:

tajisan さんのコメント...

hidechin先生こんにちは。
以前放射線治療の件で質問させていただいた際には本当にありがとうございました。

最近DCISでも数年後に再発転移を起こすことがあるという記事を読みました。原因はがん幹細胞というものが関与してるとのことです。がん幹細胞は放射線や抗がん剤も効きにくいとも書かれていました。
私の場合は温存手術と放射線治療のみを受けましたが、DCISは完治すると主治医から聞いていただけにショックを受けました。
乳がんの説明ではよくたんぽぽの種に例えられますが、そのメカニズムとがん幹細胞が休眠状態から目覚めることとは、関係があるのでしょうか?

hidechin さんのコメント...

>tajisan さん
がん幹細胞に関する研究は現在かなり進んでいますので様々な報告はあるかと思います。ただDCISの再発の原因ががん幹細胞にあるという報告は私はまだ見ていませんので正確なご返答はできません。しかし、個人的にはその考えには賛同できません。
なぜなら真のDCISであれば、幹細胞がどうであれ、がん細胞は乳管の中に存在しているわけですから、物理的に転移できないからです(転移の原因となるリンパ管や静脈は乳管の外にあります)。
DCISと診断されたはずの患者さんが再発することは確かに0%ではありません。しかしその原因のほとんどは、その診断(DCISという)に誤りがあったからだと推測されています。つまり、本当はDCISではなく、浸潤がんであったのにDCISと診断されてしまっていたということです。これは全てが誤診と言えるわけではありません。なぜなら通常は切除した組織を切り出して標本にする場合、細かく切っても5mm程度の間隔だからです。ですからその標本を作製した割面の間に3㎜くらいの浸潤がんが挟まっていても診断できない可能性が理論的にはあるのです。通常はそのくらいの浸潤がんであれば転移率は低いですので問題はないのですが、きわめてまれには悪性度の高いがんであれば転移することもあり得ます。もし切り出す間隔が広い場合は、なおさら浸潤がんを見落としている可能性が高くなります。ですからどのくらいの間隔で切り出してDCISと診断しているかによってその再発率は変わると推測されます。
ちなみに私の施設ではDCISを疑う場合はできるだけ細かく(できるだけ5㎜)切り出して診断するように病理医に依頼しています。ですから今のところDCISと診断された患者さんの中でリンパ節や他の臓器に再発した患者さんは開院以来28年間で1例もいません。
私がお答えできるのは以上です。

tajisan さんのコメント...

hidechin先生
こんばんは。

お忙しい中、また、お仕事でお疲れにもかかわらず、しかもこんなにも早く詳しい説明をしていただき、どうもありがとうございました。

私は手術後2年目の検診を目前に迎え、不安な毎日を過ごしていましたが、hidechin先生のご説明に納得がいき、頭の中のモヤがスッキリ晴れました。
最近がん幹細胞の報道等に触れることが多くあり、新しい発見があったのかと思う一方、今までのことが否定されてしまうかのような受け止め方をしてしまい、誰にも相談できずに悩んでいました。
hidechin先生ならきっと分かりやすく教えて下さると思いましたが、やはりそのとおりでした!
それにしても病理診断の正確さが担保されていることが重要なんだなあと改めて思いました。
hidechin先生の温かいご説明を励みにして、これからも頑張っていきたいと思います。
本当にありがとうございました。

hidechin さんのコメント...

>tajisan さん
お役に立てたなら良かったです。
それではお大事に。

匿名 さんのコメント...

先生こんばんは

MRI・CT・エコー・触診で 乳頭の上6cmあたりの中央よりのしこり(1cm前後 薄め・皮膚に近い)を見逃されることってあるのでしょうか?
ちなみにターゲットの乳がんは乳頭の横あたりでした。(こちらがメインです)

で、このメイン乳がんを手術する前に、なんかあるな?くらいのしこりがありましたが、気になるしこりはマンモではちょうど挟めない位置ではあります。
どの検査もかからず、手術を終え10日ほどして、鎖骨から麻痺があったのですが(鉄板をいれたような感じですた)それも日に日にマシになってきたところで、前より大きくなったしこりを触ってしまいました。

明らかにほかの部位の硬さとは違う気がしました。(脂肪がない胸の部分なので余計感じてしまうのでしょうが)

病院は大きくて、チーム医療だそうです。
手術もベテラン先生ではありませんでしたが、2人入ってくれてたようです。


先生曰く、乳頭上部の乳腺を持ってきて、できるだけ凹むのを軽減してくれたそうで、乳頭の上部は麻痺がまだのこってます。
気になるしこりの1cmくらい下が、その寄せてきた乳腺の場所なので もってかれて空洞になり水も溜まってたり、腫れてたり、まだ感覚がなく皮膚もつっぱています。


先生いわく ステージ1のルミナールA 迅速病理でリンパ転移なし だったそうですが 病理検査の結果はあと3週間先です。


やっと手術が終わったのに、こんなことで不安になるなんてと・・・心的にけっこう参っています。(転移があると予後が全然変わってきますので) 過呼吸になったり、泣けて来たり、不安だったりで、心的にきつい状態です。


病院に電話しても、手術の後だから、腫れるでしょ?的なお返事なので、見て頂けません。
(軽い乳がんだ思うと、わりとほっとかれます)
でも、気になるので外来がある日に、予約なしで行ってみようと思いますが、それまでの間も苦しくて・・・

なので、ぶしつけではありますが 先生に このように お伺いした次第です。

一般的に考えて、見逃されることがあるのでしょうか? 良性で、手術によってちょっと腫れてるだけ?とかならいいのですが、とりのこし・・・なんてオチは、立ち直れそうもなく。
  直接的にはそのしこりの部分は手術では触ってなく、その下の部分までが、寄せてくる手術の対象だったように痛みと傷から思われます。


こんな大きな見逃しってあるものなのでしょうか?(なんでも0とはいえませんが・・・)
乳がんが1つあった時点で、肺や肝臓の転移も調べて OKだったのですが、それでもスルーされることってあるのでしょうか?

私の思いすごしだといいのですが。




hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
残念ながら画像を見ていない以上、主治医の先生以上の見解をここで述べることはできません。
一般的にはマンモグラフィで挟めない位置でも超音波検査ではチェックしているがずです(ただかなり離れていると見逃すことはあり得ます)。またMRでは通常は乳腺組織のある範囲は全て撮像されているはずですので、そこに写っていなければ腫瘍ではないと考えるのが普通です。
そてでもご心配でしたらやはりもう一度気になる部分を超音波検査で確認してもらうのが一番安心できると思いますので主治医の先生にお聞きになってみて下さい。
何ともなければ良いですね。
それではお大事に!

匿名 さんのコメント...

ありがとうございました。

電話したら、急にしこりなどできないから、来なくても大丈夫といわれましたが、無理にいれてもらってエコーをしてもらってきました。

切って寄せてるから、乳腺が変形してるとこ多々あるので、ほかにも出てくるかもしれないけど、全部乳がんに結び付けなくていいからと言われました。(でも、つい結び付けてしまいます)

エコーして乳腺だというなら、そうなんでしょうね? (私にはエコーの画像を見せてもらっても、白黒の砂漠のようにしか見えないので、何が何かよくわからず)

術後のとりこぼしや、再発、転移でないというので、それを信じることにいたします。

先生、アドバイス、ありがとうございました。
おかげで昨夜はよく眠れました。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
結果が問題なくて良かったですね。エコーもしたのでしたら診断を信じるしかないと思いますよ。そこが信じれなければ医師との今後の信頼関係にも影響が出てしまいます。念のためときどきご自分でもチェックして、また次回の受診の際にでも診てもらって下さい。
それではお大事に。