2014年1月6日月曜日

アロマターゼ阻害剤の乳がん発生予防効果

ハイリスク女性に対する薬剤による乳がん発生予防に関しては、タモキシフェンの有用性が以前から報告されていますが(
過去の研究の統合解析では乳がん発生率を38%減少)、アロマターゼ阻害剤(AI)に関する研究は不十分です。今までに報告されているのはエキセメスタンとプラセボの二重盲検ランダム化比較試験のみで(National Cancer Institute of Canada(NCIC)MAP.3 trial)、エキセメスタン群で有意な浸潤性乳がん発症リスクの軽減効果が認められています〔ハザード比:0.35(95%CI:0.18-0.7)〕。

今回、乳がんのリスクが高いと判定された閉経後の女性に対して、代表的なAI剤のアナストロゾール(商品名:アリミデックスほか)の予防投与が乳がんの発症を大幅に抑制し、有害事象も許容範囲内であることが、ロンドン大学クイーンメアリー校のJack Cuzick氏らが実施したIBIS-II試験で示されました(Lancet誌オンライン版2013年12月12日号)。

概要は以下の通りです。

目的・試験デザイン:乳がん高リスクの閉経後女性に対するアナストロゾールの乳がん予防効果およびその安全性の評価を目的とする国際的な二重盲検プラセボ対照無作為化試験。

対象:年齢40~70歳の閉経後女性。45~60歳の場合は相対的な乳がんリスクが一般人口の2倍以上、60~70歳は1.5倍以上、40~44歳は4倍以上。

方法:被験者は、アナストロゾール1mg/日またはプラセボを5年間投与する群に無作為に割り付けた。主要評価項目は組織学的に確証された乳がん(浸潤性乳がんまたは非浸潤性乳管がん)の発症とし、intention to treat解析が行われた。

結果:登録期間は2003年2月2日~2012年1月31日で、アナストロゾール群に1,920例(年齢中央値59.5歳、閉経時年齢中央値50.0歳、経産婦83%)、プラセボ群には1,944例(59.4歳、49.0歳、84%)が割り付けられた。
①乳がん発症数…アナストロゾール群が40例(2%)、プラセボ群は85例(4%)であり、アナストロゾールによる有意な予防効果が確認された(ハザード比[HR]:0.47、95%信頼区間[CI]:0.32~0.68、p<0.0001)(フォローアップ期間中央値5.0年)。
②死亡数…アナストロゾール群で18例(1%)、プラセボ群で17例(1%)認められた。乳がん死はアナストロゾール群の2例(<1%)のみで、他がん死がそれぞれ7例(<1%)、10例(1%)であり、いずれかの群に特異的に多い死因はみられなかった(p=0.836)。
③有害事象…アナストロゾール群が1,709例(89%)、プラセボ群は1,723例(89%)に認められた。総骨折数や特定部位の骨折数には、両群間に差はみられなかったが、関節の痛みやこわばり、手足の疼痛などの筋骨格系の有害事象[1,226例(64%)vs. 1,124例(58%)、RR:1.10、95%CI:1.05~1.16]およびホットフラッシュや寝汗[1,090例(57%)vs. 961例(49%)、RR:1.15、95%CI:1.08~1.22]は、アナストロゾール群で多かった。

以上の結果から、「アナストロゾールは、乳がんのリスクが高いと判定された閉経後女性において乳がんの発症を抑制した」と結論づけています。

ただ確かに乳がん発生率は低下させていますが平均フォローアップ期間はまだ5年と短く、総死亡率の低下は証明されていません。健常者に対してこのような薬剤を予防投与する場合、目的のがんの発生を抑えることは大切ですが、予防投与に伴う有害事象によって総死亡率が増加してしまえば意味がありません。AI剤による予防効投与の真の有益性を証明するためにはもう少し時間がかかりそうです。

なお、日本人女性に対する乳がん発生リスクの予測モデルは存在しないことと、ホルモン剤の予防投与は保険適用ではないこともあり、日本国内での実用はまだまだ先になります。

8 件のコメント:

匿名 さんのコメント...

いつも最新情報ありがとうございます。
リンパ節再発で、抗ガン剤効いたときもありますが喜ぶと又、腫れてきて今回、6種類目の【パクリタキセルとアバスチン投与】を開始する予定です。
先生の記事で、この抗ガン剤についてではありますか?  
ありましたら、いつ頃か教えていただくと幸いです。 よろしくお願いします。

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
ご質問の意味がちょっとわかりにくいのですが…。私のブログの中にアバスチン+パクリタキセルの治療に関する記事があったら教えて欲しいということでしょうか?
ブログの中ではあまりまとまった形では書いていません。以下の記事くらいです。
http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/04/blog-post_20.html
再発の治療中とのことですがお大事になさって下さいね。それでは。

リンダ さんのコメント...

先生お久しぶりです。
この記事は予防投与ですか?健康な方に服用した場合の乳がんに罹患する割合が少ないというデータですよね?
私は乳がん患者で、アリミデックス6年飲んでいます、(プラス1年は自分から申し出て)「主治医はプラス3年で8年は飲んでみては」と言いますが、この1月で飲むのをやめようかと思っていたですが、記事読んでゆれてます。
(辞める理由は、最近股関節を痛めて、間接にこの薬は良くないのかと自己判断。また薬を服用しない自分の自然な身体に戻ってみたいから、骨粗しょう症などのりクスもあるため)
リンダ

hidechin さんのコメント...

>リンダさん
お久しぶりです。
リンダさんがおっしゃる通り、この報告は乳がんのリスクが高い(遺伝性素因があるなど)健常人に対する発生予防効果のデータです。
乳がんの患者さんが、5年以上継続するかどうかは別の問題です。徐々に長期投与の報告が出てきていますがまだ最終結論は出ていません。個人的にはおそらく再発リスクが高い患者さんは10年投与を勧める方向になるのではないかとは思っていますが…。いずれにしても現段階においては有害事象(関節痛や骨粗鬆症の悪化など)が現れた場合は、中止を考慮して良いと思います。以上です。

匿名 さんのコメント...

先生、初めまして。

3年前1期乳がんと診断され、全摘。センチネルにて1個リンパ節転移が確認され、術後抗がん剤治療、その後ホルモン治療(タスオミン)を行っています。

ホルモン治療を初めて半年後、抑うつ状態になり薬を休むかで精神科にかかり、結局タスオミンを続けながら、少量のSSRIを半年ほど飲みました。

先日ドクターより「骨密度が低下しているので半年後から骨剤を飲んでもらおうと思う。歯科治療をしておいてください」と言われました。
がんになって骨粗しょう症の早期発見の機会を得られたと思ってますが、先生のブログを見ていると、ホルモン剤をやめるもありなのかと思います。

お忙しいところ恐縮ですが、先生のご意見をいただけたらと思います。
よろしくお願いします。

ひかり

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
はじめまして。
まず、タスオミン(一般名 タモキシフェン)はアロマターゼ阻害剤とは異なり、骨に対しては促進的(骨粗鬆症を予防する方向)に働きます。ですからタスオミンを内服しているから骨粗腫症になったわけではありません。
ただ抗うつ剤のSSRIは、タモキシフェンの効果を減弱させるため、基本的には併用を避けるべきです(もうやめたなら良いですが…)。
うつの状態が落ち着いていてSSRIを内服しなくても良い状況であれば今のままタスオミンを継続すべきだと思います。もしタスオミン内服継続が困難で匿名さんが閉経後なのであればアロマターゼ阻害剤に変更して骨粗鬆症の治療を併用するのもやむを得ないのではないかと考えます。以上です。

匿名 さんのコメント...

先生、お返事ありがとうございます。
現在も精神科にかかってますが、眠剤の処方のみです。

骨粗しょう症はタスオミンの服薬と関係ないのですね。乳がんを見てもらっている病院で年1回骨密度の検査をするので、関係があるものと思ってました。

先生にまたご質問させていただきます。

それでは骨剤を服用するのは、万が一骨転移したときの予防の側面もあるものですか?。

あとタスオミン服用後膣乾燥に悩み、内科の先生に伺ったところ「プラセンタ」を勧められました(乳がんであることは伝えてあります)。
内科の先生は問題なしというお話でしたが、乳腺の主治医からは「やめた方がいい」と言われました。
先生のご意見はいかがですか?

お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願いいたします。

ひかり

hidechin さんのコメント...

>匿名さん
骨粗鬆症治療薬(ビスフォスフォネート製剤 ボナロンなど)は、乳がんの再発を予防したり、治療したりという効果は確認されていません(骨転移に使用するゾメタというビスフォスフォネート製剤にはそのような作用があるのではないかと推測されていますが、確実ではなく、ましてや効果の劣る骨粗鬆症の薬では期待できません)。
プラセンタについては、明らかに乳がんに悪影響を与えるという証拠はありませんが、影響がないという証拠もないのではないかと思います。ただ、逆にそうであれば(女性ホルモン様の効果がないのであれば)膣の感想には効果がないのではないかと思うのですが…。個人的にはあまりお勧めはできません。潤滑ゼリーなどの使用を婦人科のDrとご相談なさる方が良いのではないかと思います。以上です。