以前から一部の医師が、「乳がん検診は無意味なので受ける必要がない、なぜなら検診で発見された非浸潤がんのほとんどは放っておいても悪さをしないからだ」と言っていました。確かに一部の非浸潤がんは非常におとなしいため、すぐに切除しなくても良いものもあるのは確かであり、最近国内でも低悪性度の非浸潤がんを拾いすぎないようにという方向に変わりつつあります。
しかし一番の問題は、どの非浸潤がんを放っておいて良いのかが十分にわかっていないことです。非浸潤がんのすべてをがんもどきとして放置して良いというわけではないということを示す内容が第17回米国乳腺外科学会(ASBS)で報告されました(http://www.medscape.com/viewarticle/862025)。
概要は以下の通りです。
対象:非浸潤がん(DCIS)と診断された非照射の720例。
方法:切除断端との距離(マージン)が1mm未満であった124例(断端不適切群)とマージンが1mm以上だった596例(断端適切群)の局所再発率を比較。
結果:平均腫瘍サイズは17mm、平均年齢は55歳、平均追跡期間は79ヵ月。断端不適切群の10年局所再発率は低悪性度(Grade1/2)で51%、高悪性度(Grade3)で70%、断端適切群では、低悪性度で13%、高悪性度で35%。断端適切群の低悪性度症例の浸潤がんでの再発率”わずか”5%。
この結果は、断端が陽性だった場合は高率に再発することを示しており、適切な手術が行なわれたかどうかが予後に影響する可能性があることを警告しています(入手した内容からは、断端不適切群の全体の浸潤がん再発率が不明ではありますが、一般的には約半数が浸潤がんで再発すると言われています)。
この報告の発表者は、断端不適切群の患者は、非浸潤がんの”無治療経過観察群”の”代役”と考えられるので、そのような判断を望む患者さんに対する教訓になる結果であると述べています。
なお、結果で述べた断端適切群の”浸潤がん”再発率がわずか5%となっていることについてですが、日本における乳房温存療法ガイドライン(最近遵守されなくなってきたような印象を受けています)では、断端陰性の基準は5mm全割標本において断端から5mmあることとなっています。この基準を守れば非照射であっても10年局所再発率は約3%程度と言われています(私たちの施設でも3%以下でした)。これは浸潤がんのみならず非浸潤がんも含めた数値です。この研究における1mmという距離でも不十分であることがおわかりになるかと思います。
もちろん安全を過大に考えすぎると整容性が保てなくなります。広く切除すれば良いというものではありません。しかし非浸潤がんだからたいしたことはない、断端陽性でも放っておいて良いということにはならないということは言えます。
どのようなタイプの非浸潤がんが、断端陽性もしくは無治療でも放っておいて良いのか(浸潤がんにならないのか)がわかるのが理想的です。しかし今の医学ではまだここまではわかりません。浸潤がんのほとんどは、最初はみな非浸潤がんだったのです。ですから非浸潤がんであっても慎重な判断が必要になると私は思っています。非浸潤がんを放置して良いという考えを持つ人の思考過程が私にはよくわかりません。
26 件のコメント:
はじめまして。
つい最近、非浸潤の乳がんと診断されたものです。
情報を探していたら、今日このブログにたどり着きました。
乳腺外科の先生が書かれているようなので、興味深く読ませていただきました。
大変なお仕事、お疲れ様です。
私は現在手術待ちの身ですが、主治医や他のスタッフの方ともあまり合わず、
ここで手術をして本当にいいのだろうかと悩む毎日。
かといって他の病院へ行っても、うまく行くとも限らないし半ば諦めの境地。
いっそ放置して、もう病院へ行くのをやめてしまいたい思いにかられてしまうことも。
今回の記事を読むと、たとえ非浸潤癌でも放置はするべきでは無いとのこと。
どう進行するのかは判らないのですから当然ですよね。
放置したい気持ちは何とかおさめて、治療に専念するしかないですよね。
ただ、どんな心持ちで治療へのモチベーションを保っていけば良いのか。
こんな思いを打ち明ける場所もないので、ここで吐き出させてもらいました。
>匿名さん
はじめまして。
おっしゃる通り、今の段階ではどの非浸潤がんが放置しても大丈夫かということがわかっていませんので手術するしかありません。また術前に針生検などで非浸潤がんという診断でも切除して全割した標本を細かく検索すると浸潤部分があることも良くあるケースです。
ですから非浸潤がんという診断がついてしまった以上、手術を受けることをお勧めします。
乳房にメスを入れるのはたしかに大きな決断だとは思いますが、気づかすに進行した浸潤がんで見つかるよりはるかにラッキーなのですよ?そのように気持ちを切り替えて前向きに治療を受けられることをお勧めします。
なお現在の医療機関との折り合いが悪く、納得して治療を受けることが難しいということでしたらセカンドオピニオンや紹介してもらって転院という選択肢もあります(私は積極的に勧めるわけではありませんが、説明や治療方針などに納得できない場合は放置するよりずっと良いと思います)。よくお考えの上でご判断下さい。
>hidechinさま
一か月近く前の記事へのコメントにも関わらず、ご返信ありがとうございます。
お忙しい毎日かと思いますが、そんな中でのご助言に感謝の気持ちでいっぱいです。
乳がんの告知から、前向きに頑張ろうという気持ちと投げやりな気持ちの繰り返しの毎日でしたが、この段階で見つかったことが幸運だったとあらためて認識して手術を受けようと思います。
セカンドオピニオンのことも選択肢にいれながら、自分にとって納得できる選択ができればと思っています。
ブログというツールは、日常では接点を持つことが無い方とやり取りができることで、一人で病気と戦わなくてはならならなくとも、こうして力をもらうことができるんですね。
本当にありがとうございます。
>匿名さん
匿名さんのより良い判断に少しでもお役に立てたなら良かったです。
それではお大事に!
非浸潤で検索していてこちらにたどり着きました。
こちらでこのような質問をして宜しいかよく分かりませんが、もし宜しければ先生のご意見をお聞かせいただけたらと思いました。
これまでマンモグラフィー、超音波、超音波下マンモトーム検査を受け、非浸潤がんと診断されたものです。
診断を受けた病院は、通いにくい立地で温存手術後の5週間の放射線治療通院が困難であるため通いやすい病院に直ぐに転院しました。
本日転院先病院で超音波、MRIを撮ったところ、元々5mm程度のしこりが一つあったのみでしたが、マンモトーム検査により全て採取され、見えなくなっていました。
紹介状によるとマンモトーム検査では5回針を刺して採取したそうです。
また、マンモトームからMRIまで1ヶ月程経過しており、現在は針の通った跡さえもなくなっています。
しこりの場所がはっきり分からないので、この範囲ならば元のしこりをカバーするであろう範囲を大き目に切除し、切除したものを調べて、ガンがあれば切除できて良かった、無い場合はマンモトームで全てガンが取りきれていたことが分かり良かった、と進めていくことを提案されました
(切除部分があまり小さいと元のしこりがあった場所とは異なる場所を切除した疑いが払拭できない、とのことです。)
MRIより確認がしやすいものにPETがあるが、PETで場所が特定できることは過度に期待しない方が良いと言われましたが、取り合えす検査を受けてみるかどうしようか、悩んでします。
また、既にガンが目で見えないのなら、乳房は切除したくない気もしますが、やはり切除するしか方法はないのでしょうか?
しこりのあった場所は乳房下やや内側ですので、扇型で切除するのなら同時再建の方が良いか、とも思いますが、この程度で全摘はもったいないと主治医に言われ、更に悩んでいます。
もしお時間がありましたら、宜しくお願いします。
宜しくお願い申し上げます。
>匿名さん
はじめまして。お返事遅くなりました。
大変悩ましいケースですね。マンモトームの際にマーカーを留置していれば場所の同定ができるのですが、エコーでもMRでも病変が見えないとなるとなかなか厳しいです。MRで写らない病変に対してPETで病変の範囲の同定を行なうことは困難だと思います。
治療の考え方としては私も主治医の先生に同意します。原則的には生検した部位を切除して遺残がないかどうかを確認する必要があるからです(おとなしいがんの場合、MRでは写らないこともあります)。
全摘は、部分切除を行なっても断端陽性だった場合に考慮すれば良いのではないかと思いますが、たしかに内下領域を広範囲に切除すると変形が強くなります。もしかしたらがんが全く残っていない可能性をきちんと理解した上であれば、全摘+再建も選択肢には入れても良いとは思います。
以上です。
7/8にご質問した者です。お忙しいところお返事有難うございました。
取り敢えず、あまり期待はせずに明日PEMで調べ(PEMのみだと保険適用にならないのでPETも受けるということでした。)、今までの検査を総合して部分切除していただこうと思っております。
有難うございました。
>匿名さん
そうですか。良い経過をお祈りしています。差し支えなければ私自身の勉強のために、落ち着いてからで良いですのでPEMと病理の結果を教えていただければと思います。
それではお大事に!
PEMの結果、やはり病変は認められませんでした。
また、現在の主治医がプレパラートを取寄せ、顕微鏡で細胞を確認したところ、生検で採取された5本の組織全てから非浸潤癌が発見された、ガン細胞の周りにリンパ球が集まってガンの増大を防いでいる、とのことでした。
その結果、主治医から3つの案が提案されました。
1.手術により60度位の扇型に切除
2.手術無しで経過観察
3.手術無しで抗ホルモン剤服用(ホルモンが原因の癌のため)
現在のところ、2.の経過観察にしようかと考えております。
実は、前の病院は混雑が激しく検査が進まないため、2年前に乳がん検診で異常なしの診断を受けた乳腺クリニックに、健診のマンモグラフィー画像を持参し、エコーで診察を受けていたのですが、クリニックの医師は2年前の画像と比較し、全く変化していないので、経過観察と診断していました。クリニックの医師は元大学病院の外科部長で乳腺専門医、乳がんに関する著作もあります。
(健診を受けた病院からは市立病院に紹介状を作成頂き予約も取っていたので、その後、市立病院でマンモグラフィー、エコー、マンモトームを受け、確定診断を受け直ぐに、現在の病院に転院しました。)
家系に乳がんはゼロです。
以上のことを考えても、経過観察で、ガンが見える程度に大きくなったら切除手術をすれば良いような気がして来たのです。
ただ非浸潤癌の局所再発の半分程度が浸潤癌となることを考えると怖い気もします。
恐れ入りますが、先生に質問です。今後しこりが3mm程度で発見されても、それが浸潤癌であり、リンパ節に転移していて、既に遠隔転移している可能性はあるのでしょうか。
お忙しいところ恐縮ですが、よろしくお願い申し上げます。
>匿名さん
まずお聞きした内容から私が言えることは以下の通りです。ただし実際に標本も画像も見ていませんのであくまでも参考意見としてお聞き下さい。
①採取された標本5本全てに非浸潤がんを認めたということはがんが遺残している可能性は極めて高いと推測されます。
②慎重な経過観察をしていたとしても局所再発した浸潤がん全てを3㎜以内で発見できる保障はありません。また浸潤がんである以上、3㎜であってもリンパ節に転移している可能性は数%ありますし、遠隔転移(術後の再発も含めて)も0%ではありません。
③選択肢で挙げられた3つの中に放射線治療を加えたものがないのはどうしてでしょうか?仮に温存手術で取りきれていたとしても放射線治療を行なうのが原則です。ましてやマンモトームのみでおそらくがんは残っている状況で放射線治療をしないで経過観察という選択肢は個人的にはあまりお勧めできません。
私の個人的見解は以上です。なお乳腺外科医の中にはさまざまな考えを持った医師がいます。おとなしいがんであれば今回のようなケースは放射線治療もせずに経過観察をして局所再発した時点で考えれば良いという医師もいるでしょう。おそらく大部分の患者さんはそれでも予後への大きな影響はないと思います。ただ自分の家族であったとしたらその医師は同じ選択をするでしょうか?担当医に一度お聞きになってみて下さい。先生の奥さんならどうしますか?と。ちなみに私なら切除を勧めると思います。以上です。
有難うございます。
担当医も2.の選択肢はかなり少数派の意見であるとおっしゃっていました。
本来であれば小さな切除で済んだはずが、大きめに切除しなくてはならなくなったことが私自身非常に悔しいため、2を選択しようとしていました。
担当医は、通常は確実に病理検査を行ない断端陰性にし、放射線を照射しない方針の医師です。
しかし今回、放射線治療が提案されない点については私も疑問に思っていました。また、放射線治療をしないため、切除の場合、余計に大きめの切除になるのでしょうか。
各選択肢のリスクについて担当医に再度確認し、場合によってはセカンドオピニオンも受けて決めたいと思います。
>匿名さん
放射線治療をしない方針であれば十分な断端からの距離を確保するためにどうしても切除は大きめになります。ただ追加切除もせずに非照射の判断は、やはり私なら提示しません。
セカンドオピニオンは良い考えだと思います。納得した治療を受けられることをお祈りいたします。
乳がんの診断を受け、勉強して前向きに治療に取り組もうと思っています。
初めて質問させていただきます。
ブログを拝読しましたが、いくつかわからないことがあるので教えていただけないでしょうか。
①大学病院や有名病院のHPでは「非浸潤癌=しこりのないがん」「非浸潤がんの段階を超えるとしこりとして現れ、浸潤がんと言われます」などと書かれていることがあります。
Hidechin先生のコラムを読むと、しこりを作る非浸潤がんもあるということでしょうか。
②非浸潤がんがしこりを形成するというのが正解なら…。
乳管は細いのに、なぜ直径1センチ2センチもあるしこりが乳管を破らない非浸潤癌として存在できるのか。
細い蛇がネズミを飲み込んでその部分だけ膨らんでいるイメージでいいのでしょうか。
③
乳管の中をがんがはってきた跡が石灰化であり(がんの壊死したもの?)、がんの人の石灰化部分にはすべてがんがあるということでしょうか。
これは浸潤ではなく、乳管内進展という理解でいいんでしょうか
私は超音波で石灰化が周囲にある11ミリのしこりが見つかったので主治医に
「ということは浸潤癌ですよね」と質問すると
「いやいや、非浸潤癌というケースは多いよ」と返ってきたので、ちょっと不思議に思いました。
④
生検前でしたが、主治医が画像を見ながら「良性の可能性はない」「しこりが小さく非浸潤癌であったとしても周囲に石灰化が広範囲に広がっているので全摘は免れない」という説明は
とても納得できるものでした。
画像だけではがんなのか良性なのか、浸潤か非浸潤か、リンパ節転移があるかどうかなども確定できないのだと思いますが
先生のコメントを読んでみても、主治医の言葉を聞いても、読影のトレーニングを積んだ人は(組織検査以前に)画像である程度わかってしまうのかなという印象を受けました。
画像の精度が上がったこともあるかと思いますが、経験のある先生はアタリがついてしまうものなのでしょうか。
>匿名さん
はじめまして。ご質問にお答えします。
①多くの非浸潤がんはしこりとして触れないですので、わかりやすく説明するためにこのように説明されることが多いのです。ただ時に硬結(境界の非常にわかりにくいしこり)として触れたり、嚢胞内がんの場合は境界明瞭な腫瘤として触れる場合もあります。
②非浸潤がんがしこりを作る場合は、上で述べたように嚢胞内にがんが発生した嚢胞内がんの形態をとる場合と、乳管内にがんが増殖した非浸潤がん(必ずしも1本1本が太いわけではありません)が多数集まってしこりを形成する場合がほとんどです。1本の乳管が太く拡張してしこりとして触れるケースはほとんどありません。
③”がんに伴う石灰化”であれば石灰化のある範囲内には少なくともがんは広がっていると考えられます。ただ乳腺症などの良性疾患に伴う石灰化が混在している場合は判断が難しいことがあります。がんの石灰化のほとんどは基本的に乳管内に発生します(粘液がんや扁平上皮がんなどの特殊な組織型ではない場合)。ですから石灰化のある範囲内は少なくとも乳管内進展があるということになります。匿名さんの場合、しこりの部分には石灰化がないのであれば、ここは非浸潤がんではなく浸潤がんである可能性はあると思いますが、画像を見ていないのでなんとも言えません。
④画像検査だけでがんの確定をすることはありません。ただ、例えばcomedo型と言われる典型的な壊死型の石灰化がある場合や、とげ状の突起を伴いエコーで腫瘤周囲に白っぽい帯状の衣をまとったような腫瘤の場合などは、ほぼ間違いなくがんであると判断できることもあります(それでも必ず細胞や組織を確認します)。実際はがんの可能性が高いという程度で細胞診や針生検に進むことも多いのです。ある程度わかるかどうかと言えばそれはわかることが多いです。それでもすべてのケースでわかるわけではありません。良性の可能性が高いと思っても生検でがんと診断されることも珍しくはないのです。
以上です。
2016年7月25日に最後の投稿をした者です。
先生のアドバイスに従い、別の病院を受診したところ、直ぐにエコーで病変が確認できました。
その病院で部分切除手術を受け、今日から放射線治療が始まりました。
ご参考までに病理結果は以下の通りです。
Non-invasive ductal carcinoma,right breast.
Maximum non-invasive tumor size,46mm;Histologic type,ductal carcinoma(non-comedo type,low grade):Histologic grade,1;Nuclear grade,1;Structural atypia score,1;Nuclear atypia score,2;Number of mitotic figures,<5/10HPF;
先生のお心のこもったアドバイスが無ければ、そのまま経過観察を選んでいたかもしれません。
癌と診断されて受診したのに病変が見えなくなったと診断されることがあるなんて、しかも46mmもあったのに、本当に恐ろしいことです。
非浸潤で悪性度も低く、断端陰性ということで一安心です。
この度は本当に有難うございました。
>匿名さん
納得のいく治療を受けることができて良かったですね。
匿名さんの場合のようにおとなしいタイプの非浸潤がんはMRでも写らないことはよくあります。ですから46㎜あったとしても私はまったく驚きません(マンモトームの検体全てにがんが認められたことからも当然相当量の非浸潤がんが残っていると予測されます)。
ただこの結果であったとしても経過観察という方針を支持する医師はいると思います。non-comedo type,low gradeであればもしかしたら相当長い間浸潤がんにならなかったのではないかというのがそういう考え方をされる医師たちの見解です。ただ本当にそうなのか、途中で悪性度が変わらないのかなどわかっていないことも多いですので私は現時点では追加切除をして良かったのではないかと思います。
それではお大事に!
海外で乳房温存手術を行いました。その後セカンドオピニオンを受けて非常に困惑しています。
もしこのコメントに気づいてもらえましたら、先生の見解(アドバイス)を参考にさせて頂きたいと思い書き込ませて頂きます。
【がんタイプ】
組織型:乳管癌(浸潤性がんと非浸潤性がん混合)
腫瘍サイズ:1CM
組織学的悪性度:グレード3
核グレード:グレード3
最も近い浸潤性マージン距離:0.1mm
最も近い非浸潤性マージン距離:0.6mm
原発腫瘍:pT1b
ルミナルB(HER2-)
■エストロゲン受容体:陽性(26-50%) 弱い (ER+)
■プロゲステロン受容体:陰性 (PR-)
■HER2:陰性 (HER2-)
困惑しているのは、マージンの大きさと治療法についてです。
専門医の見解ではマージンは問題なく、温存も全摘も再発率は変わらない。抗がん剤も必要なく放射線治療とホルモン治療だけで構わない。とのことでした。
海外でも最低でも2mm以上、日本では5mm以上のマージンを(再発防止のため)必要としていると思いますが、このまま温存で放射線治療に入ることを考えると、ハイグレードのこともあり、再発リスクが大きいのではないかと怖くてたまりません。
(オンコタイプDXの結果が近々返ってくるのですが、その結果により治療法も変更となるかもしれませんが信用できるでしょうか)
どうかご意見をお願いいたします。
>匿名さん
初めまして。
まず、切除断端と追加治療に関しては乳腺外科医によって多少の意見の相違があることをご理解ください。以下に私の見解を述べます。
切除断端に関してはやはり幅5mmで切り出した場合は5mmの距離で考えるべきだと思います。理由はここで簡単に説明することは難しいのですが、乳房温存療法ガイドラインに記載されています。匿名さんのように1mmの場合はがんが遺残している可能性が非常に高いと思います。それ以上に心配なのは浸潤がんで断端までの距離が0.1mmしかないということです。非浸潤がん(乳管内がん)であればそれ自体は直ちに予後に影響するものではありませんが(それでも年月がたつと浸潤がんになる可能性はあります)、浸潤がんで残ってしまって放射線治療が効かない場合は予後に影響します。
そもそもその専門医の言う”マージンは問題なく、温存も全摘も再発率は変わらない”と言う考え方は完全に正しいわけではありません。おそらく、「全摘をしても温存をしても生存率は変わらない、温存は断端陽性になる場合もあるし、乳房内再発することもある、それでも予後に差がないのだからがんが断端陽性で遺残しても予後に差は出ない」と言うことを仰りたいのだと思いますが、これは真実ではありません。
乳房温存術が世界的に認知されるようになったのはアメリカとイタリアで大規模な比較試験を行って乳房全摘術と温存術で生命予後に差が出なかったからです。ただ、この時の臨床試験は適応をきちんと絞って適切な治療を行なったために全体に占める局所再発率が低かった(特にイタリア)から予後に差が出なかったとも推測できます。適応を守らず、断端の確保もいい加減にやったとすると局所再発率が上がります。そうなった場合には両群に生存率の差が出る可能性があります。なぜなら局所再発した場合にはその約半数は浸潤がんで再発しますし、実際局所再発した人としなかった人を比べると局所再発した人の方が予後が悪かったと言う臨床試験結果も報告されているからです(これはアメリカのNSABP B06の照射併用と非併用の結果と少し矛盾します)。数字のトリックのような話ですが、つまり、切除断端をきちんと確保しようと切除し続けることによって初めて2つの術式で予後の差がなくなるのではないかということなのです。切除断端なんてどうでも良い、がんが残っても局所再発しても予後に差は出ないということではないのです。お分りいただけましたか?
ちなみにNSABP B06の臨床試験結果が報告されて以降、アメリカでは急激に乳房温存術を行う症例が増えました。その結果どうなったかというと、局所再発する症例が急増して社会問題となってしまったため、最近では訴えられることを避けるために温存術は減少して全摘+再建術が増加していると言われています。日本はアメリカのこの教訓や上で述べたような数字のトリックを理解していない医師が結構多いのです(専門医の中にも)。
最後に匿名さんが私の患者さんであった場合、最初の切除がどの程度だったかにもよりますが、整容性が保てるならまずは追加切除を考えます。それでも完全切除できそうもないような拡がりが術前MRや切除標本で推測できる場合は全摘+再建も考慮します。追加切除できるのにこのまま放射線治療ということは患者さんがどうしても納得されない場合以外はお勧めしません。以上です。
1/20投稿の匿名です。
大変お忙しい中、私のコメントに早急に応えて下さり、丁寧で真摯なアドバイスを本当に有難うございます。
出来ることなら先生に診て頂きたけたら良かったのに・・と本当に思います(セカンドオピニオン専門医も海外、しかもアメリカです。諸事情のため早急に日本で手術・治療が出来ません。)
先生の見解は、私の不安と医療関係の知人の意見を上手に後押しして下さる結果となり、乳がん専門医に早速、マージンと再発率の調査記事を送り、「切除した腫瘍とMRI判定を踏まえて5mm以上の追加切除、または全摘をお願いします」とリクエストをさせて頂きました。回答はまだですが、どちらになるか、オンコタイプDXの結果待ちとなるかもしれません。
>切除断端をきちんと確保しようと切除し続けることによって初めて2つの術式で予後の差がなくなるのではないか
臨床結果を調べて下さっている先生の見解によって、私の懸念を専門医に的確に伝えることが出来ました。本当にありがとうございます。
専門医は「もしも全摘することになったら、放射線治療は必要ない」と私に言いましたが、調べてみると「全摘の後で放射線治療をしなかった場合、温存療法で放射線治療をした場合よりも再発率が高くなった」という調査結果が出ていました。
専門医がもし部分追加切除を拒否した場合、またもし全摘を選択した時に放射線治療を拒否する場合、他の専門医に(見つかるかどうか不安ですが)あたってみることにします。
重ね重ね、本当に親身になって回答を下さり有難うございました。
>匿名さん
お役に立てたなら良かったです。
オンコタイプDXは、化学療法の上乗せ効果があるかどうかの判定のために行います(特に匿名さんのようなLuminal B(HER-)の場合)。追加切除をするかどうかの判断には関係ありません。
なお、全摘後の放射線治療に関しては、リンパ節転移が陽性であった場合(特に4個以上の転移があった場合)や腫瘍径が大きかったり皮膚や大胸筋に浸潤していたような場合に有用性があると言われています。リンパ節転移がない早期がんに対しては通常行いません。匿名さんが見た報告もリンパ節個数のことについて書いていたのではないですか?もしリンパ節転移がなくても放射線治療を行った方が良いという報告でしたらそれは世界的にコンセンサスが得られている論文ではありません。通常リンパ節転移のない早期がんで局所再発をきたすことは極めて稀です。ですから私たちも全摘後のリンパ節転移陰性の早期がん患者さんには放射線治療は行っていません。それが世界的に標準的な治療方針だからです。以上です。
非浸潤性乳管癌の放射線治療について調べていましたら先生のブログにたどり着きました。
とても勉強になります。
9月末に非浸潤性乳管癌の温存手術をしました。腫瘤は3×3×6mm、悪性度1でした。マージンは2センチはとれて
主治医からは放射線治療を進められています。
ただ放射線治療の副作用が心配です。できればやりたくありません。
肺炎などが重い場合はステロイド治療を数か月単位で行わないといけないそうですね。痛みや息苦しさの症状も怖いです。
仕事もフルタイムでしているため、それも困ります。
局所再発率が1/3に下がると聞きました。
局所再発率は低いと言われましたが、再発も心配です。また再発時に非浸潤癌での再発も心配です。
再発率と放射線治療の副作用を天秤にかけている状態です。
先生のところでは放射線治療をされない患者さんはいらっしゃいますか。
全摘すれば無治療となるところ、温存したため悩んでいます。でも手術の時には全摘の選択ができませんでした。
ガイドラインでも放射線治療は進められていますね。
今は自分で選択して治療していく時代で悩んでしまいます。
>匿名さん
はじめまして。
その大きさで十分に断端の距離が得られたのでしたら温存手術の選択は正しかったと思いますよ。
温存術後の放射線治療の合併症のほとんどは皮膚障害です。それも時間とともに軽快します。確かに放射線肺臓炎は注意しなければならない合併症ですが、治療を要するような肺臓炎は非常に稀です。それよりも温存乳房内の再発を予防することの方がより重要ではないかと思います(高齢者なら別ですが)。
もちろん断端が十分に陰性の場合は非照射の選択が全く許容されないわけではありません。ガイドラインが出る前は私もそのような症例には放射線治療はしていませんでした。最終的には多発がんの予防をどうお考えになるかということになるかと思います。
以上です。
10/26にコメントした者です。
大変早い返信ありがとうございます。びっくりしたと同時に嬉しさでいっぱいです。
放射性肺臓炎で治療を要する副作用は稀なのですか。主治医は肺臓炎になる確率は5%程度とおっしゃっていました。(症状の軽いものも含まれているかも知れませんが)稀ということは1%程度なのですか。
先生のコメントを読むと日本でも断端陰性、マージン5ミリの基準をクリアしていれば10年での局所再発率は約3%とのこと・・・。
3%というのを自分の中で許容できる範囲かどうかということですね。
そもそも全摘でも再発率は3%前後という記事も読みました。
多発がんの予防とは術後の乳房に複数の癌が発生するのを防ぐということでよろしいでしょうか。
もし、癌の芽のようなものが現状存在した場合それを照射により無くすことができるのですか。
照射により浸潤癌は効果があるが、非浸潤癌には効果がないという記事も読みました。
私の患部は、左胸内側下部の乳輪と皮膚の境目くらいの場所です。乳輪の下までくりぬいてあるそうです。
乳頭が近いこともあり乳頭での再発も心配です。
再発時に全摘すれば最初から全摘したのと予後は変わらないという事でしょうが、浸潤癌での再発、転移もゼロではないでしょうからやはりそこなのでしょうね。
やはり再発率を下げることが大事なのでしょうかね。
再発時の全摘は覚悟しています。ただ浸潤癌での再発、転移、抗がん剤というのは一番避けたいところです。
今と同じルミナールAで再発するとは限らないのですよね。
なんだかまとまらない文章で申し訳ありません。
30日には放射線治療の有無を主治医に伝えなくてはならないため、焦っていろいろ調べています。
放射線治療は術後2か月以内くらいに開始しないといけないらしいです。
大変お忙しいとは思いますが、もしお時間が許しましたら上記の質問に少しでもお応えいただけると幸いです。
でも先生から返信をいただき、温存手術も間違いではなかったととても気持ちが楽になりました。
自分で選択した温存手術ですので、今回も放射線治療についてしっかり考えて答えを出したと思います。
>匿名さん
同時にいくつものご質問をいただくとお答えするのがなかなか難しいのですが、可能な限りお答えします。
残存乳房照射で治療を要する放射線肺臓炎が5%というのは高すぎるように思います。放射線肺臓炎(おそらく多くは治療を要した)の発症率は1-2%という報告が多いようですが、私自身の経験でも治療を要したのは1%前後だと思います。
断端陰性の場合の乳房内再発率に関しては国内でも施設によってかなりばらつきがあります。3%というのはかなり厳密に切除し、断端検索した場合の数値で報告の中では低い部類に入ります。最近では整容性を重視する切除が多くなっていますのでこれよりは高いと思われます。世界的に見ても非照射の乳房内再発率は相当のばらつきがあり、これは切除方法と断端検索の正確さによる差異なのです。なお全摘で局所再発率3%はあり得ないほど高い数値です。何かの間違いではないでしょうか(対象が局所進行乳がんのみとか)?
多発がんの予防に関してはご理解されている通りでよろしいです。本来乳房温存術後の照射の意義は、切除断端のがんの遺残から再発する断端再発と最初の切除とは無関係の多発がんの両方の予防にあります。十分な断端距離を確保できれば前者の可能性は非常に低くなりますので後者の予防が一番の目的となります。先ほど述べましたように断端距離を十分に確保した場合の非照射の乳房内再発率が一般に言われている非照射の乳房内再発率(10%/10年)よりかなり低いのはこのためです。
照射は確かに浸潤がんの方が効果が高く、乳管内にとどまっているおとなしいがんには効きにくいという報告はあります。それでも乳房内再発率を下げているのですから非浸潤がんに対しても一定の効果はあると考えて良いです。
乳房全摘と乳房温存術の予後に差がないのはいくつもの臨床試験で確認されています。ただし、これはきちんと基準を守って、乳房内再発率が許容範囲内であった場合の結果です。多くの症例の中で局所再発する症例が少なければ、仮に局所再発が予後に多少影響を与えたとしても全体で見ると有意な差が出ないということかもしれないのです。ですから基準を守らずに高率に局所再発させてしまうと全体の予後に差が出るしまう可能性はあります。これは理解が難しい内容かもしれません。統計学の落とし穴かもしれないということです(仮に局所再発したら全て命に関わるとして、10000人に1人しか局所再発しなければ全体の予後にはたぶん影響しませんよね?でも1000人局所再発したら予後に差が出る可能性がありますよね?そういう意味です)。ですから「局所再発したって予後に差が出ないから断端陽性になってもいいからどんどん温存手術した方がいい」という考え方は乱暴だと思いますし、私は賛成できません。
話が少しそれましたが、お聞きになりたい”局所再発した場合でも再手術すれば最初から全摘した場合と予後が変わらないか”というご質問に対する正確なお答えは難しいです。局所再発した症例としなかった症例では予後に差はあるという報告がありますが、局所再発して予後に影響が出るようなケースはもともと予後不良なタイプも多く含まれているとも言われますので。ただ実際は多発がんの多くはきちんと検査していれば早期で発見されますので、再手術すれば治癒できる可能性が高いとは思います。多発がんは確かに全摘すれば出なかったがんではありますが、それを言い出すと対側の乳腺からも5%の確率で発生しますからそれと同じように考えれば良いのではないでしょうか?胃がんが怖いからと言って胃を予防的に全摘はしませんよね?遺伝性乳がん以外では対側乳房の予防的切除もしませんよね?
もちろん多発がんが発生した場合にどのようなサブタイプか、非浸潤がんで見つかるか浸潤がんで見つかるかはわかりません。もちろん抗がん剤が必要なサブタイプが発生することもあります。また、どんなに細かく検査しても全ての乳がんを非浸潤がんで発見することは今の医学では困難です。非浸潤がんで見つけやすいがんと見つけにくいがんがあるからです。
私がお答えできるのは以上です。それではお大事に。
こんにちは。
超音波の検査で、非浸潤乳管ガンの疑いがあると言われました。マンモやっていません。
左胸の上に大きめなしこりがあります。筋肉痛のような痛みがします。またいくつか小さいしこりもあるようにかんじます。これまでほっと置いてました。
私には5歳と2歳の子がいます。2歳の子は3ヶ月目の時から母乳を飲んでくれなくなりました。
怖くて仕方ないです。
どのような可能性がありますでしょうか?
>Unknownさん
初めまして。
まず投稿からすでに1ヶ月以上も経過してしまったことをお詫び申し上げます。
投稿があった場合、メールが届くことになっているのですが、サイト上の問題でメール通知がなかったのとと新規の記載を中止していたこともあって、このコメントを読んだのは本日となってしまいました。
もう遅いと思いますがお答えします。
超音波検査で非浸潤がん疑いとされる可能性のある病変として、がん以外に考えられるのは、乳腺のムラ、脂肪、古くなった嚢胞、線維腺腫、乳腺症などたくさんあります。最終的には疑いがあれば細胞診または組織診ということになるかと思います。以上です。
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