今日、札幌市医師会主催の乳がん・子宮がん検診普及啓発講演会に行ってきました。
数年前にも一度依頼を受けて医療相談の担当をしたことがあるので今回は2回目でした。講演は、乳がん、子宮がんそれぞれのがん検診の現状と今後の話を中心にわかりやすくお話しされていました。乳がん罹患者数は2017年の予測が9万人に達する見込みのようです。その一方で検診受診者の増加は頭打ちで、これでは乳がん死亡を減らすことは難しい状況です。
最近、乳がん検診は無意味であるとの報道を目にした方もいらっしゃるかと思います。実際スイスでは、死亡率の低下が明らかではないとして対策型のマンモグラフィ検診を取りやめることになったようです。
確かに今の乳がん検診にはいくつかの問題があります。これにはマンモグラフィ検診が導入された時から私は危惧していたことも含まれています。いま問題になっているのは主に以下の点です。
①高濃度乳腺に対してはマンモグラフィの有益性は低い。
②乳腺濃度が高く、マンモグラフィの信頼性が低い症例に対しても読影者は異常なしか要精検かのどちらかの判定をしなければならず、なおかつ乳腺濃度が高いことを被検者に知らせるすべがない。従って被験者には信頼性の低い検診結果であることが伝わらない。
③マンモグラフィ検診を導入することによって、もしかしたら一生命に関わらないかもしれないようなおとなしい非浸潤がんを多く診断し切除している可能性がある。また、そのようなおとなしいがんを発見しようとするあまり、多くのがんではない被検者に侵襲のある検査を受けさせてしまっている。
このような状況になってしまった要因はいくつかあると思いますが、私見を述べるのは差し控えます。ただ乳がん検診を推進する方法にも少し問題があったのではないかと思っています。
それでは今後、乳がん検診はどうなっていけば良いのでしょうか?
①②に関しては、日本で行われた40歳代に対する超音波検査の上乗せ効果を検証する臨床試験(J-START)の結果が一つのきっかけになるかもしれません。ただ、エビデンスに縛られる今の医療システムではおそらく本当に有効な乳がん検診が普及するのはまだまだ先ではないかと思っています。
なぜならこの臨床試験でがん発見率の増加が確認されたのは40歳代という年齢による対象のみだからです。これは40歳代では”乳腺濃度が高い人が多い”ということが影響しているのは明らかだと思われるのですが(高濃度乳腺のためにマンモグラフィで見落とされた腫瘤を超音波検査で拾うことができたということ)、おそらく検診に超音波検査が導入されるとしたら、”乳腺濃度”ではなく”40歳代という年齢”で線引きされと思われるのです。
何を言いたいかと言いますと、マンモグラフィに超音波検査を併用する方が良い人たちというのは、年齢のみで決まるわけではなく、乳腺濃度が高いか低いかで決めるべきではないかということなのです。つまり、50歳以上でも高濃度乳腺であれば超音波検査を併用すべきで、40歳代でも脂肪の比率が高ければマンモグラフィのみで良いというようにすべきなのではないかと個人的には考えているということです。ただエビデンスに縛られるときっとこのような方針にはならないだろうなと思っています。
③に関しては、学会でもhotな話題になっていてなかなか難しい問題ではあります。なぜなら、一生悪さをしない非浸潤がんなのか、近い将来に浸潤がんになって生命を脅かすがんなのかを100%診断することは現在の医療レベルでも困難だからです。ですから生検でがんと診断されれば乳がんとして根治術を行わざるを得ないのです。
一部の報道では、検診で見つかったがんのほとんどが過剰診断だから検診なんて受ける必要はないというような論調のものもありますが、これは正しくないと思っています。例えば壊死型の石灰化(comedo型)で発見された非浸潤がんは、おそらく近い将来浸潤がんになって生命を脅かす可能性が高いと考えられるものです。このタイプは増殖が速いために乳管内のがん細胞が栄誉不足で死んでしまった部分にカルシウムが沈着したものですから浸潤がんになる危険性は非常に高いと考えられます(実際非浸潤がんだと思って手術をしたら何箇所も浸潤していたケースは稀ではありません)。ですから壊死型の石灰化で発見された早期乳がん患者さんは検診を受けたことによって命を救われた可能性が高いと推測できるのです。
ただ過剰診断、過剰診療を減らす努力はすべきだと思っています。例えば微小円形の石灰化の集簇(カテゴリー3)の場合には約10%程度がんが含まれていますが、このうちの一部は非常に進行が遅い可能性があります。実際、石灰化が指摘されてから5年くらいたって、わずかに数が増加したということで精査して悪性と診断されたのですが、手術をしたらまだ非浸潤がんのままだったという経験をしたことがあります。このようながんはもしかしたら一生命に関わらなかったのかもしれません。
一般的にこのようなタイプは超音波検査に写らない、MRをしても造影されないというタイプが多いように思います(もちろん診断する側の力量にもよりますが)。ですから私はカテゴリー3の石灰化で、超音波検査に写らない場合は、経過観察とするか、少し気になる(区域性に近い集簇や密度が高い場合など)時はMRを追加して、造影されたらステレオガイド下生検、造影されなければ経過観察というようにしています。もちろん経過観察をする場合は、患者さんには十分な説明をした上で必ず定期的に来院していただくようにしています。このようにすれば、過剰診断、過剰診療と非難されることは少なくなるのではないかと思います(欧米で過剰診療が問題になっているのは、超音波検査やMRではなく、ステレオガイド下生検のやりすぎが原因ではないかと思っています)。
乳がん検診が本当の意味でもっと質の高い有用なものになり、”乳がん検診なんて受けるな”ということを公言する人がいなくなる時代が早く来て欲しいと願っています。
4 件のコメント:
そうなんですね。。こんな時間にすみません。石灰化かどうか聞いていませんが(検査結果さえ聞けない、聞くと怒鳴られました。。)カテゴリー3ということで、経過観察がなく、悩みに陥っています。何もカテゴリー1とか、マンモでもエコーでも何も写っていません、というのなら、納得しますが、症状もあり、画像でも写っていて、でもそのまま、というのが恐怖を駆り立てます。「あの時、こうしていれば」ということを先々思いたくないので(誰でもそうですよね)、過剰診断を求めているわけではなくて、ただ経過観察でも、次の検査を受けるでもいいのに。これからどうやって別の医療機関を探そうかと、毎日、そんなことで悩んでいます。カテゴリー3でそのままということはあるのでしょうか?カテゴリー3でまた気になったらとか、2年後どこかで検診を受けてくださいとかってあるんでしょうか?そういうケースもあるのでしたら、私はそうなのかな?って思えるかな、って今、自分に問うています。
>匿名さん
初めまして。
まず、”カテゴリー3ということで、経過観察がなく、悩みに陥っています”の文がよくわからなかったのですが、結局カテゴリー3と言われたけど経過観察も必要ない、ほっといていいと言われたということでしょうか?
これはどういうカテゴリー3だったのかによると思います。例えば局所性非対称性陰影(FAD)によるカテゴリー3の場合は、超音波検査で異常なければ最終判定は異常なしになることがほとんどです。石灰化によるカテゴリー3の場合は吸引組織生検をしない場合はしばらくフォローすることがほとんどです。
症状があるということですので、納得できなければ再度説明を受けるのが良いと思います(どのようなカテゴリー3なのか、精査またはフォローが不要とした根拠は何か)。もしもう一度説明を求めても怒るようでしたら医師としての対応に問題がありますのでセカンドオピニオンまたは他の施設での再検査を受けても良いかと思います。以上です。
>rose angelさん
こんばんは。
個人情報はこのような場所には載せない方が良いです。
申し訳ありませんが、コメントは非表示にさせていただきました。
コメントを投稿