2010年11月11日木曜日

がん患者さんの経済的負担

マスコミでがん患者さんの治療費の負担が厳しいことが報道され、世の中の関心も少しずつ集まるようになってきました。

私たちの病院にも経済的困難を抱えた患者さんがたくさんいらっしゃいます。黙って通院を中断したり、検査を受けたがらなかったり、薬を間引きして飲んでいたり…。気をつけないとそういう患者さんの困難に気づかないことがあります。

経済的困難を抱えていることがわかったら、私たちは院内の医療福祉課へご紹介します。働きたくても働けず、本当に生活に困窮している方には、ここで生活保護の申請をお勧めし手続きのお手伝いをします。また生活保護の対象にはなりませんが、所得が少なくて医療費の支払いが厳しい場合には、無料低額診療制度を利用していただきます(これには、細かい所得の規定があり、また特定の条件を満たした病院でしか受けられない制度です)。またすべての患者さんに適応になるのが高額医療費制度です。所得によって限度額がありますが、その限度額を超えた分はあとで償還されます。その他にも医療費の貸付制度などがありますので、その患者さんにもっとも適した制度をご紹介してもらうようにしています。

2002年から2007年の「がん医療費」の伸びは21.7%で、「国民医療費」の伸びの10.3%と比較すると約2倍にもなります(「国民所得」の伸びは2003年から2008年の間にわずか1.8%!)。

先日の日本癌治療学会において、全国の癌診療施設の約1万8000人の患者の医療費負担についての報告が発表されました。
その結果の概要は以下の通りです。

1.自己負担額の平均:101万円
   直接費用〜入院52万円(該当割合74%)、外来18万円(同100%)、交通費5万円(同94%)
   間接費用〜健康食品・民間療法22万円(同57%)、民間保険料25万円(同85%)、その他14万円(同43%)

2.償還・給付額:平均62.5万円〜高額医療費28万円(該当割合53%)、医療費還付9万円(同23%)、民間保険給付102万円(同45%)

3.治療法別の自己負担額と償還・給付額:化学療法(1150人)→133万円と75万円、分子標的治療(59人)→125万円と74万円、粒子線治療(388人)→420万円と116万円

4.経済的な理由で治療を変更・断念した患者:約3%(継続的な受療者が152万人とすると、4.5万人が癌の経済難民に該当)

医療費、特にがん医療に関する医療費の増加には、いろいろな問題、課題があります。その解決策も、ただ薬価を下げれば良いということではありません。

例えば高い確率で有効だと考えられる症例を厳密に選んで薬剤を投与すれば奏効率は上がりますが、投与人数が減るため製薬会社が開発費を回収するためには薬剤単価を上げざるを得ません。逆に適応をゆるくすれば対象患者が増え、薬価は下げりますが、多くの患者さんたちに無益な治療を行なうことになってしまいます。適応を厳密にして薬価を下げるのが理想ですが、そうすると製薬会社は開発費が回収できなくなってしまいますので、どこも研究に手を出さなくなってしまいます。これは医学の進歩を止めてしまいます。

また、いま問題になっている臨床試験のさまざまな課題や混合診療の是非の問題も解決されていません。やはり国がこの問題にもっと積極的に関わっていかないと、解決はしないと思います。

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