乳がんの特殊型の中で悪性度が高いタイプの1つと言われているのが、”浸潤性微小乳頭がん(Invasive micropapillary carcinoma:IMP)です。このようなタイプは以前からあったのですが、規約上は特殊型の中には分類されておらず、ようやく前回(第16版)の乳癌取扱い規約から新たに加わりました。
この組織型の特徴は、偽乳頭状あるいは微小腺管構造を示すがん細胞の集塊が間質の隙間に浮いたような状態で見えることです。ちょっとわかりにくいと思いますので顕微鏡所見はhttp://nyugan.info/tt/qa/q2_07.htmlをご参照下さい。
また脈管侵襲(リンパ管や静脈内にがん細胞が入り込むこと)をきたしやすいため、臨床的な特徴として高率にリンパ節転移を伴うことが多く、術後の早期再発も多いということが挙げられます。ですから一般的には悪性度が高く、予後が悪いと言われることが多いのです。
しかし、検診や定期フォローの超音波検査などで比較的早い時期にIMPが診断されることも時々あります。浸潤径が2cm以下でリンパ節転移がなく、画像的に遠隔転移がない場合はⅠ期ですが、Ⅰ期のIMPと診断され、ホルモン受容体が陽性でHER2が陰性、Ki-67も高くない場合(いわゆるLuminal A)に術後補助療法をどうするべきか迷ったことがありました。
一般的にLuminal Aでリンパ節転移もなければ、ホルモン療法のみというのが今の標準的な治療方針です。ただ、悪性度が高く予後不良なIMPですので特別な判断が必要なのではないかという考え方もあるかもしれません。しかし、G病院のご高名なI先生に電話でお聞きしたところ、”IMPが予後不良と言われるのは高率にリンパ節転移をきたすからであって、リンパ節転移がないのであれば一般的な補助療法と同じ考え方で今のところは良いと考えられます”というお答えでした。
その後私の施設ではリンパ節転移のない、Luminal Aの患者さん2人に対してホルモン療法のみで経過観察中ですが今のところ再発はありません。今後症例を集積していけば、この組織型に対する適切な補助療法の考え方が確立されてくるかもしれませんが、今のところはIMPだからといって特別な治療を行なう必要はないようです。
8 件のコメント:
初めまして。一昨年告知を受けたものです。
去年左乳房を全摘して、今はホルモン療法で治療中です。
腫瘍が大きかった割には、転移がなかったのが幸いです。
今までの記録をまとめてありますので、よろしかったらご覧下さい。
関係ない記事がほとんどですが(;・∀・)
http://ameblo.jp/tei-kun
>みさきさん
はじめまして。時々拝見させていただきます。ありがとうございます。
約1か月に右乳房乳頭温存皮下全摘手術を受けたものです。術前診断では非浸潤性乳管がんでしたが、術後病理結果では5mm浸潤性乳管がん、微小乳頭がんと診断されました。主治医の先生からは微小乳頭がんの説明はなくエストロゲン、プロゲステロン共に陽性のためタモキシフェンの5年間服用を進められました。Her2陰性、
mib1発現率25%、リンパ節転移なしです。
昨日病理結果をきいて自分で調べていたところ、微小乳頭がんが再発転移をおこしやすく予後不良と知って眠れませんでした。がんの大きさは関係なく再発転移の可能性は高いのでしょうか?2週間後にホルモン療法開始予定です。微小乳頭がんの場合、早期再発しやすいのであればすぐにでもホルモン療法をはじめたほうがいいのではないか、不安が一杯です。お忙しいと思いますが返信をよろしくお願いいたします。
>カオリナさん
はじめまして。
浸潤性微小乳頭がんの予後が不良なのは、高率にリンパ節転移をきたすからです。リンパ節転移がなかった場合は、通常の浸潤性乳管がんとそれほど差があるわけではありません。治療法も特別変わることはありません。
ですから主治医の先生の方針は間違っていないと思います。ただMIB1が少し高値ですので抗がん剤は考慮に入れても良いかとは思いますが、浸潤径が5㎜であれば、再発率は低いので行なわない場合が多いと思います。
なおホルモン療法開始の時期は、そんなに慌てることはありません。2週間でどうこうなるようなものではありません。
以上です。それではお大事に。
hidechin先生
お忙しいなか、返信いただきありがとうございました。お礼が遅くなり申し訳ありません。
ホルモン療法、2週間後でも大丈夫とのこと、安心しました。
私の場合、脈管浸襲の有無をきいていませんが、もしあった場合は通常型よりもやはり再発率は高くなるのでしょうか?早期再発しやすいということが書いてありましたが、浸潤性微小乳頭がん自体、勢いのある、攻撃性のあるもの(表現の仕方が間違っているかもしれません)なのでしょうか?MIB1との関係性もよくわかりません。できましたらまた返信をよろしくお願いいたします。
>カオリナさん
脈管侵襲の有無は特に高度の場合は再発リスクが高くなる傾向があります。しかし、それ単独で治療方針を決めることはなく、参考所見の一つです。ですからカオリナさんの場合は、Ki-67(MIB-1)や浸潤径、ホルモンレセプターの陽性率などを見て総合的に判断されます。詳細は主治医にご確認下さい。
浸潤性微小乳頭がんが攻撃性のあるものかどうかについては前回お答えした通りです。早期にリンパ節転移しやすいという点において、悪性度が高い(攻撃性がある)ということであり、結果的にリンパ節転移がなかったということは、その前に手術できていたということです。ですから浸潤性微小乳頭がんだからと言って組織型単独で治療方針を決めるわけではなく、リンパ節転移のない、他のがんと同様に判断して良いということに現時点ではなっています(今後治療方針の変化はあるかもしれませんが)。MIB-1は組織型に関わらず、その腫瘍の増殖性を現す指標と考えられており、浸潤性微小乳頭がんかどうかより、こちらの方が治療方針の判断によく用いられています(Luminal AかBかの判断に用います)。
最終的にカオリナさんの場合に抗がん剤を上乗せするかどうかは、これらの結果を踏まえた上でのご相談になると思います。もし、この説明でも不安や納得できない部分があるようでしたら、直接主治医の先生とご相談なさって下さい。
それではお大事に。
hidechin先生
詳しくご説明いただきありがとうございました。浸潤性微小乳頭がんということで、パニックになってしまい、出てくるのは不安ばかりで色々と質問をしてしまいました。悪いことばかり考えてなかなか心が立ち上がれずにいます。また主治医の先生と話をしてみます。お世話になりました。続けてご返事に大変感謝しております。
>カオリナさん
一日も早く不安がなくなり、お元気になられることをお祈りしています。それではお大事に!
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