今日は院内のCancer boardがありました。Cancer boardについては以前もここでご説明しましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/06/cancer-board.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/10/cancer-board.html)、今回の担当は消化器センターでした。直接乳がんとは関係ありませんがいろいろ感じるものがありましたので少し触れてみたいと思います。
患者さんは、診断時にすでに肝転移を伴っていたⅣ期の進行胃がんでした。手術適応はなかったため、標準的な化学療法を行ないましたが、間もなく悪化がみられ、非常に厳しい状態でした。患者さんは会社を経営しており、まだ比較的お若いこともあって、可能な限りの治療を受けたいという意志を持っていたそうです。
主治医は標準的な治療以外の可能性を追求し、原発巣と肝転移に対する放射線治療、肝転移に対するラジオ波治療や動注療法などを行ないました。その効果があって5年後には原発巣はほとんど確認できない状態となり、肝転移もずっと縮小したまま不変の状態となりました。ただ抗がん剤による副作用が強くなってきたため、その時点で治療を一度中止することになったのですが、その後2年間、落ち着いた状態で過ごすことができました。最終的には初診から7年たった時点で急速な肝転移の悪化をきたし、治療の再開にも反応せずに亡くなってしまいましたが、Ⅳ期の胃がんでここまで生存できたのは、患者さんの辛い治療に耐えてでも少しでも長生きしたいという強い意志と主治医の患者さんの思いに応えたいという思いがあったからではないかと思います。
乳がん領域においてもエビデンスが十分ではない治療を学会で発表すると、フロアからは、”なぜそんなエビデンスのない治療をするのか?”外科医の自己満足ではないのか?”という意見が必ず出ます(乳腺外科医より腫瘍内科医から出ることが多いです)。たしかにそういう面もあるのかもしれませんが、ほとんどの医師は、目の前の患者さんをなんとかしてあげたいという気持ちから精一杯治療を考えている結果だと私は思います。そして実際の医療の中で、確固としたエビデンスのある治療や検査というのはむしろ少ないのが現実です。エビデンスは重要ですが、エビデンスに縛られて身動きできなければ、医学の進歩はないですし、目の前の患者さんにエビデンスだけを突きつけることは人間的だとは思いません(異論はあると思いますが)。
少なくとも今回の患者さんに対して、エビデンスのある治療だけを行なったとしたらここまで生存することはできなかったでしょう。抗がん剤中断後の2年間の平穏な生活を送ることもできなかったと思います。目の前の患者さんをなんとかしてあげたいという主治医の強い思いが、この奇跡を起こしたのだと私は思うのです。
2 件のコメント:
非常に同感いたします。自分も消化器外科も昔してましたし、外科医の血が流れているためか、どうしても時には軌道より外れたことをしてしまうこともあります。今回の先生が書かれた例はたまたまうまくいったかもしれない例であり、ほとんどはharmであると、腫瘍内科の先生はおっしゃられるでしょう。(おおむね、どの先生がおっしゃられることかは、先生もご存知かと思います(笑))自分も実際、乳癌の肝メタ(単発)を切りに行ったけど、結局2-3か月でレチした経験もありました。だけども、患者さんからすれば、藁をもすがる気持ちだと思います。
腫瘍内科に押されている乳腺分野ですが、外科医魂も残していきたいと思います。
関西の乳腺専門医
>匿名さん(関西の乳腺専門医さん)
そうですね。
本当は乳腺外科医と腫瘍内科医が反目しあうのではなく、お互いに理解しあうことが大切だと思うのですが、どうも自分の考えは絶対だという信念を持ちすぎているために議論が発展しないように感じています。
私は腫瘍内科医の先生方がおっしゃりたいこともよく理解できます。ただ、そのようなエビデンスのない治療を試みる外科医がなぜそのようにせざるをえないのかというところで根本的な誤解があるように思います。”外科医はすぐ切りたがる、自己満足のために治療を押し付けている”という…。
そのような外科医は一部だと私は信じています。これからも目の前の患者さんのために乳腺外科医としてできることを一生懸命頑張りましょう。
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