2011年1月10日月曜日

ホルモン療法の副作用6 更年期障害1

更年期障害というのは、卵巣機能の低下によるエストロゲン(特にエストラジオール)の欠乏に基づくホルモンバランスの崩れによって起こる症候群です。通常、50才前後で迎える閉経期にみられますが、その症状の強さには個人差があり、まったく気にならない人から日常生活に支障をきたす人まで様々です。

主な症状は、
動悸(頻脈)、血圧の変動(立ちくらみ)、腹痛、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、多汗、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、不眠、疲労感、口の渇き、のどのつかえ、息切れ、下痢、便秘、腰痛、しびれ、知覚過敏、関節痛、筋肉痛、性交痛、生理不順や精神症状(情緒不安定、不安感やイライラ、抑うつ気分)など
ですが、症状の強弱には精神的要素が大きくかかわってくると言われています。

さて、本題ですが、ホルモン療法(タモキシフェン、トレミフェンなどの抗エストロゲン剤やフェマーラ、アリミデックスなどのアロマターゼ阻害剤)の副作用として、この更年期障害が現れることがあります。

その発症機序は、次の通りです。
アロマターゼ阻害剤は閉経後の患者さんに投与する薬です。閉経後では脂肪組織などでアロマターゼの働きによってわずかにエストロゲンが作られています。アロマターゼ阻害剤はこの酵素を阻害しますので、エストロゲンがさらに減少し、「第2の更年期」をきたすために生じるものと推測されます。
一方、抗エストロゲン剤はエストロゲンを減少させるわけではなく、エストロゲンが、正常組織(細胞)や乳がん細胞に結合するのを妨げる薬剤です。このようにエストロゲンの作用を減弱させることによって腫瘍の増殖を抑えるのですが、正常組織にもエストロゲン欠乏症状を生じてしまうのです。ただ、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤はSERMと言われるタイプですので、一部の組織(骨、子宮など)にはエストロゲンと同じ作用を呈します。

いろいろな患者さんのブログやSNSのコミュニティへの書き込みを見ていると、けっこう副作用で継続できなかった、という経験談が載っており、そこにさらに書き込まれるコメントも同様の経験談だったり、というケースをよく見かけます。これから治療を受ける患者さんが読むと、ホルモン療法はとても副作用が強く、怖い治療だという印象を受けてしまうような内容です。

これはネット上の情報を見る上で気をつけなければならない点の一つだと思いますが、この手の情報に書き込まれるのは実際に副作用が出てしまった患者さんによる経験談がほとんどです。なんともなかった患者さんや副作用が許容範囲内だった患者さんは書き込まないことがほとんどです。ですから、情報に大きなバイアスがかかっているのですが、見た人はそれに気づきません。結局、自分にも副作用が起きるんじゃないか?とか、どうしてこんな危険な薬を飲まなければならないんだろう?などと思いながら治療を受けることになります。その結果、上にも書いたように更年期症状などは特に心理的な影響を受けやすいため、起こらないかもしれない副作用を引き起こしてしまう可能性が生じてしまうのです。

実際、副作用で継続を断念するケースはあります。でも私自身の経験では、「たまに」なのです。

ほとんどの患者さんは、多少の副作用はあっても耐えられないほどではなく、きちんと5年間内服を継続できます。
ですから、

①この治療が再発予防(再発率、死亡率低下)に有効であることは科学的に証明されている。
②軽微な副作用は、時間とともに慣れて気にならなくなることも多い。
③命に関わるような副作用や後遺症が残るような副作用はまれである。

ということを正しく理解することが重要です。

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