2012年10月11日木曜日

遺伝性素因を持つ若年者のマンモグラフィ検診

現在、日本の「乳癌診療ガイドライン」におけるマンモグラフィ検診の推奨グレードは、50才以上でグレードA、40才台でグレードB、40才未満の若年者はグレードC1となっています。国内で行なわれたマンモグラフィ検診の臨床試験においても40才未満ではその有用性が証明できなかったこともあり、若年者に対する乳がん検診方法はいまだに確立されていません。

一方、BRCA1やBRCA2と言われるがん抑制遺伝子の異常を有する、いわゆる”遺伝性乳がん”が疑われる家系の女性に対しては若い年代からの検診が勧められてきました。ただ一般若年女性と同様に、どのような検診方法が良いのかという点についての結論は出ていません。MRが有用という報告が最近出始め、注目されているところです。

今回、そのような遺伝性乳がんの素因を持った若年女性に対するマンモグラフィ検診についての新たな知見が、オランダがん研究所のAnouk Pijpe氏らによって報告されました(BMJ 2012; 345: e5660  http://www.bmj.com/content/345/bmj.e5660)。この論文の概要は以下の通りです。


対象:GENE-RAD-RISKプロジェクト(欧州最大規模のコホート研究)に2006年から2009年まで参加した,オランダ,フランス,英国の変異型BRCA1/2保有者1,993例(18〜39歳)。

方法:初めて電離放射線検診(マンモグラフィ,胸部X線撮影,CT)を受けた年齢,20歳未満,20〜29歳,30〜39歳で受けた回数,最後に受けた年齢を調査し、電離放射線検診受診歴と発症リスクに相関があるのかどうかを調べた。

結果:
・30歳未満で一度でもなんらかの電離放射線検診を受けた場合,発症リスクは1.9倍(95%CI 1.2〜3.0)上昇した(30〜39歳で受けた場合は,リスクの上昇なし)。
・マンモグラフィに限ると,30歳未満で一度でも検診を受けると,発症リスクは1.43倍(95%CI 0.85〜2.4)増加した。


若年者に対するマンモグラフィの有用性を証明した臨床試験はありませんので、若年者に対してはマンモグラフィ検診はあまりお勧めできないと今まで何度かここにも書きました。ただ、遺伝性素因を持つ女性に対しては多少の有用性があるのかと私は思っていましたが(罹患率が高いと有用性が証明されやすいのです)、今回の報告はその推測とまったく逆の結果でしたのでちょっと驚きました。

もちろんこのコホート研究のみで放射線検査が遺伝性素因を持つ女性の乳がん発生率を上げると断定することはできませんし、遺伝性素因を持たない女性に対しての影響まで解析されているわけではありませんので、その点には注意が必要です。ただ、特に日本人には放射線という言葉に敏感な方が多いですので、放射線検査に頼らない有効な若年者に対する検診方法の確立が望まれるところです。

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