アナストロゾール(商品名 アリミデックス)とフルベストラント(商品名 フェソロデックス)はともに閉経後のエストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者さんに適応のある治療薬です。現在はまだこの2剤を併用することはエビデンスがなかったため推奨されていません。
アナストロゾールはアロマターゼ阻害剤(AI)の1つです。アロマターゼは脂肪細胞でアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲンに変換する酵素で、閉経後の女性の体内ではこの働きによって微量のエストロゲンを作っています。ER陽性の乳がん細胞の周囲ではこのアロマターゼ濃度が増加することがわかっています(つまりがん細胞が自分で自分が増殖しやすい環境を作っているということ)。AIはこのアロマターゼの働きを阻害してエストロゲンの産生を抑制します。
一方、フルベストラントはタモキシフェンと同類の抗エストロゲン剤の1つですが、タモキシフェン(選択的エストロゲン受容体調整剤:SERM)と異なり例えば骨や子宮などに対するエストロゲン様作用を有していない、純粋な抗エストロゲン剤です。また、その作用はエストロゲンが受容体に結合するのを阻害するだけではなく、受容体そのものの数を減らすことによって発揮されます(このため、”選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター:SERD”と言われています)。
この2剤は作用が異なっているために併用すると効果が増強するのではないかと期待されていました。今回、NEJM誌(2012年8月2日号)にRita S. Mehta氏らが発表した第3相無作為化臨床試験の解析によると、ER陽性転移性乳がん(無治療症例)に対する治療効果は、アナストロゾール単剤の群(1群)に比べるとフルベストラントを併用した群(2群)の方が有意に無増悪生存期間(中央値 1群13.5ヵ月、2群15.0ヵ月)と全生存期間(中央値 1群41.3ヵ月、2群47.7ヵ月)が優れていたという結果だったそうです。全生存期間は1群でクロスオーバー(増悪後にフルベストラントを使用すること)を許されていたにもかかわらず有意差が見られたというのは少し驚きです。
この結果を踏まえて、いつから併用が可能になるのかはまだわかりません。また、他のAI剤(エキセメスタン、レトロゾール)との併用は許可されるのかどうかも不明です。高価な薬剤ですので併用する場合は治療費がネックになりますが、アナストロゾールは近々ジェネリックが発売されると思いますので多少は負担が軽減されると思います。
問題点としては、例えば術後にAI剤が使用されていた場合にも同様の上乗せ効果があるのか(この場合はむしろフルベストラントに対するAIの上乗せ効果)が不明な点です。今回の検討は初診時に遠隔転移を伴っていた4期乳がん患者さんが対象のようですので、術後ホルモン療法を受けていた再発患者さんに対する効果については別の臨床試験で検討しなければならないと思います。
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