1/4が仕事初めでしたが、外来はまだなんとなく正月気分が抜けないようなまったりした状況です。でもそろそろ忙しくなりそうです。手術の方は1/4からもう始まっています。
乳がんと診断されると、手術、術後補助療法、放射線治療と考える余裕もないまま医師の勧めるままに治療が進んでしまうことが多いと思います。初期治療については様々な臨床試験が行なわれ、St.Gallenの国際会議などで治療指針のガイドラインが出されていますので、きちんとした知識を持った乳腺外科医であれば、その勧めの通り行なっていればそう大きな問題はないですし、まったく異なる選択(たとえば手術をしないで薬剤のみで治療するなど)の余地はあまりないと思います。化学療法などは副作用がつらいものですが、いつまでも続けるわけではありませんし、期待できる効果に対するエビデンスもありますから、なんとか頑張って受けていただけるようにできる限りの説明を行ないます。
しかし、再発治療に関してはある程度の治療選択の幅があります。薬剤の使用順序やどこまで強力な治療を行なうか、放射線治療や再発巣の切除を行なうかなど、まだ十分にエビデンスがないことがたくさんあります。私たちとしては、効果(治癒→延命→症状緩和)が期待できるのであれば、可能な限りの治療を考えて提示します。しかし患者さんの立場としては、あまり苦しい治療をしたくないものです。病状にもよりますが、こちらが十分に治療内容と期待できそうな効果、副作用などについて説明した上で積極的治療を受けないことを選択するのであれば、それも尊重しなければなりません。人間にはそれぞれ生き方に対する価値観がありますからそのような選択も許容されるべきだと思っています。ただし、標準的な治療について正しく理解していることが前提ですが…。
私の経験の中でも途中から積極的治療を拒否したり、入院の勧めを断ってぎりぎりまで自宅での生活を選択された患者さんがいらっしゃいます。十分に治療について話し合いをした上でそのような選択をされた場合、私たちが考えるベストの治療ではなかったとしてもできる限りその患者さんが望む生活をサポートしてあげたいと考えています。最近もそのような事例がありましたが、ご自分の信念を貫き通すことはなかなかできることではありません。その生き様には私たちも多くのことを教えられるのです。
14 件のコメント:
新年初になります、temariです。
今週診察に行ったところ、診察はもちろん、採血、ケモ、放射線部(たまたまMRI検査がはいっていて)大変混雑していました・・・普段は予約時間通りに進むので、正月明けで仕方ないとはいえ疲れてしまいました。働いている方はもっと大変だったと思います。先生も今週はお忙しいのではないでしょうか。
再発治療の選択肢は幅がある分、色々と考え、自分の都合のいいようにわがままを言ってしまいがちです。やはり正しい知識と情報、客観的な判断力が不可欠で、そのうえで自分価値観をちゃんと持っていなければなりませんね。私の場合はなるべく普通に生活したい程度しか考えていませんが。(完治するのでなければ、行動規制や辛い治療で数カ月延命するより普通の生活をしたい。)
ついつい新薬・治療法が出ると気になってしまいますが、そのあたりは主治医もお見通しで、標準治療の有益性を説かれます。そのうえで私の全身状態に合わせてさじ加減を調整されているのでしょう。
このところまた骨の痛みがあるので、今回のMRIの結果も見て(骨シンチでは大きな変化がみられなかったので)いよいよランマーク変更!と放治も考慮されるようです。去年受けたストロンチウムは、化学療法中でし、もともと白血球値の低い私には、無理かもしれませんね。途切れ途切れにタキソールを始めて約半年、そろそろ次の薬も考えるようでしょうか。(こうやって先走るのもよくないのかもしれません)AC療法だと思いますが、今が結構楽なのでつらいのはいやだな(AC療法は入院して、と以前言われたので)・・・と取り越し苦労しています。とりあえず来週はランマークに備えて院内の歯科への予約が入れられ、治療方針を再考するようです。
こちらで色々な情報や助言を頂けるのは、再発治療中の私には大変心強いです。今年もどうぞよろしくお願いします。
>temariさん
今日の外来は忙しかったです。完全予約制なのに予約枠を12人オーバーしていたため、かなりの待ち時間が生じてしまいました。患者さんたちには申し訳なかったです(汗)
なるべく普通に生活したいというtemariさんの考え方はもっともだと思います。でも実際はなかなか難しい面もありますよね。新薬にも期待したいですが、効果が期待できる標準治療があるのであればそちらを優先するのが普通だと思います。新薬イコール標準治療より効果がある、というわけではありませんから…。
それでは今年もよろしくお願いいたします。
はじめまして
外科医の立場から病理のことや内分泌療法について
触れられている記事がとても勉強になり
先生のブログを拝読させて頂きました。
標題の治療の選択と価値観について
まさに考えています。
先日、術後の病理の結果を聞きに行ったところ
初期の浸潤がんで
浸潤径・脈管侵襲の有無・核異型度
を踏まえて
「経過観察」を勧められました。
ホルモンレセプターはともに+で
本人としてはホルモン治療が有効なのだから
内服や注射で治療していくものと
思っていました。
選択の余地があること
予想外のことでした。
主治医の先生はわたしの選択を尊重してくださるので
自分がどうしたいのか
見定めなくてはいけません。
経過観察だけだと不安というのが正直なところです
でも、副作用できることならば避けたい
先生は患者さんに術後の全身治療を行わないことがありますか?
あるとしたらそれはどんな場合ですか?
(たとえば妊孕性への配慮など)
または
全身治療を行わない選択はないでしょうか?
>匿名さん
はじめまして。
匿名さんの病理結果の詳細がわかりませんのでなぜ無治療(経過観察)を勧めたのかわかりませんが、もしかしたら微小浸潤がんだったのではないですか?微小浸潤がんであればほとんど非浸潤がんに近い予後なのでホルモン療法をしないという選択はあり得るかもしれません。
私が術後の全身補助療法を行なわない例は以下のようなケースです。
①ホルモンレセプターが陰性で化学療法が困難な高齢者や合併症を持つ方
②非浸潤がんで乳房全摘した方
③乳房温存術を受けたホルモンレセプター陽性の非浸潤がんの方で局所再発予防目的のホルモン療法追加を望まない方、もしくは乳房温存術を受けたホルモンレセプター陰性の非浸潤がんの方。
④早期の妊娠を希望されている方、もしくは妊娠中の方(ホルモン療法は出産後に行なうことを検討)
⑤その他…補助療法を拒否した方、副作用で継続困難な方など。
以上です。
ありがとうございます。
ご指摘のとおり
微小浸潤でした。
子どもがいない私にとって
ホルモン治療がないのは大変に魅力です
けれど
健側のこと、微小転移のことを思うと
数パーセントでも予防効果を期待して
治療したい気持ちがあります。
自分はどうしたいのか
もう少し考えてみます。
お忙しいなかで
すぐにお返事いただけたこと
とても感激しています。
本当にありがとうございました。
>匿名さん
主治医の先生とよくご相談の上でご判断下さい。
どちらが正解という事はないと私は思います。納得いく方針が出せると良いですね。それではお大事に!
はじめまして。匿名ですみません。
hidechin先生のブログをこのところ拝読させていただいて考えがグルグルしております。
高齢の母に乳がんが見つかりましたが、それと同時に慢性心不全も発覚して、投薬と食事、水分制限で心臓は落ち着きました。
そこで、陽性の癌だそうですが、リンパも腫れていて癌も二つあり、3センチ以上のものですが、手術もかなりのリスクではありますが、ガイドラインからはOKということになりました。
むしろ、治療ができないので手術が第一選択しであり、すべてでもあります。
今後、手術をしないと転移の仕方でどうなるかなど、丁寧にせつめいしていただき、いずれにしても苦しむことになるであろうと考えられます。手術も一種の賭けでもあります。
一応、一か月ほどの考える時間をいただきました。今は、体調が安定していて本人にとっては大変充実していますが、本人は癌の(今後どうなるかは理解していません)手術するか、しないかしか考えていません。また入院は嫌。10年も生きなくていいいと勝手に思っています。
正解がない分、悩みますね。
やはり、早期発見は意味のあることですね。
こうなると、本人だけの問題ではなく
自由に生きてきた自分も反省する次第です。
答えが出せないうちに、最悪な状態だけは避けたいものです。
だらだらと書き込み申し訳ありません。
また、寄らせていただきます。
>匿名さん
はじめまして。
高齢の方の場合は悩みますよね。私の病院は高齢者が多いため、80才以上、時に90才以上で乳がんと診断される方もけっこういらっしゃいます。手術できた方もいらっしゃいますが、リスクが高い場合は、ホルモン陽性であればまずはホルモン療法で経過を見た方も多いです(文中の”陽性の癌”というのはホルモンレセプター陽性という意味でしょうか?)。HER2陽性の場合はハーセプチン単独という方法もあります(ただし心不全があるのでしたら避けた方が良いと思います)。問題はトリプルネガティブ(ホルモンレセプター陰性、HER2陰性)の場合で、この時は高齢で化学療法が困難であれば切除に踏み切るか無治療かの選択をしなければなりません。
あまり良いアドバイスはできませんが、主治医の先生とよくご相談の上で納得いく治療法を選択して下さい。
それではお大事に。
hidechin先生
レスありがとういございます。
ハーセプチンの効くタイプですが、使用不可能です。85歳です。
やはりそうですか。
放射線も使えますが、説明も受けました。
外科の主治医は、癌の事を考えると切除ですが、リスクですね。
しかし、手術を勧めてきたことは、今後の癌の進行を踏まえると踏み切ったほうがいいのかなとも思えます。もう全身には回っているとは言われましたが、リスクだけではないのでしょうね。
やっと、歩くことができるようになって(今までは太っていて、動きませんでしたから)いい状態ですので、慎重に決めたいと思います
ありがとうございました。
>匿名さん
85才でHER2 typeなのですね。心不全があるとハーセプチンは使いにくいですね。手術よりも安全とは言えないかもしれません。難しい判断だと思います。
お母様にとって最適な治療が選択できることをお祈りいたします。それではお大事に。
はじめまして、匿名で失礼します。
現在放射線治療を開始するにあたって、非常に悩んでおります。
私は5ミリほどの、非浸潤乳ガンがみつかりました。段端も陰性で、切開生検で取りきれてるから、追加手術はなし、だけど、放射線治療はしておこうとなりました。私のような状態でも、放射線治療は必要でしょうか?必要のない治療は出来るだけ受けたくはありません…
二次癌がとても気になるのです…
どうぞよろしくお願いいたします。
>匿名さん
はじめまして。
乳がん診療ガイドラインにおいても、非浸潤がんの乳房温存術後の放射線治療は「推奨グレードA ”非浸潤性乳管癌に対する乳房温存手術後には,放射線療法が強く勧められる”」ということになっております。私の施設でも基本的に照射を行なっています。ですから放射線治療が必要かどうかという問いに対する答えは「必要です」ということになります。これはいくつもの信頼できる臨床試験のデータに基づいた推奨グレードなのです。
例外として、高齢者で十分な断端からの距離が確保できた場合は照射を省略することはあります。これは推定予後と、局所再発の予想リスク、放射線治療による有害事象を総合的に考えて省略する場合があるということであり、一般的に当てはまるわけではありません。匿名さんの場合は、どのような切除方法を行なったかの詳細は不明ですが、”切開生検(診断確定を主たる目的とした生検”の場合、十分な断端距離を確保できていないことはよくありますし、切除方法によっては切除断端の評価が正確に行なえない場合もあります(断端陰性と言っても切除方法と病理診断の方法や考え方によって多少の違いがあるのです)。そういうことも踏まえると、やはり乳房照射をしたほうが良いと私は考えます。ただ、実際に検査結果を見ていませんし、手術をしたわけでも病理結果を確認できるわけでもありませんから、最終的には主治医とよくご相談した上でお決め下さい。
なお、トップページの注意事項をご一読いただければ幸いです。それではお大事に。
お忙し中早々のお返事どうもありがとうございます。
先生のご意見とても参考になりました。
私は現在40才です。放射線治療によって、10年20年先に新たにガンが出来ないか、放射線治療をしなかった再発よりも放射線治療をした二次癌のリスクの方が高いんではないかと心配しておりまして…
明日から放射線治療が始まる予定なのですが、一度主治医の先生に相談しようかと思っています。
お返事どうもありがとうございます。
>匿名さん
よくご相談の上で納得いく結論をお出し下さい。
それではお大事に。
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