マンモグラフィが乳がん検診に導入されて以来、その検査については一般に広く認知されるようになりました。そしてもし乳がんがあればマンモグラフィで簡単に診断できると思われているのではないかと思います。
しかしマンモグラフィを正確に読影することは一般の方々が想像するよりもはるかに難しいものなのです。本来はあってはいけないことですが、実際には検診の見逃しということは起こりうることですし、そういうフィルムばかりを集めて読影試験をすると経験豊富な乳腺外科医でもやはり見落としてしまうことがあるのです。微妙な所見に対して精密検査とすべきかどうか意見が分かれることもよくあります。
見落としを恐れすぎると要精検率が上がりすぎてしまいますし、拾いすぎないようにしようと思うと見落としが増えてしまいます。それほどマンモグラフィの所見は微妙な場合があるのです。マンモグラフィ検診の適切な精度管理のためには、がん発見率が一定以上でありながら要精検率が一定以下であるということが要求されますのでなかなか難しいのです。
こうした見落としを防ぐためには、個人的にトレーニングし続けるのはもちろんですが、それでも限界はあるので工夫が必要です。
私たちがマンモグラフィ検診を始めた時にまず行なったのは、見落としを防ぐための”ダブル・チェック”でした。これは2人の読影医がお互いの所見がわからないようにしながら判定し、どちらかが”カテゴリー3以上”の場合に「要精検」とする方法でした。
しかしこの方法だと、拾いすぎてしまい、要精検率が高くなってしまうことが後にわかりました。そこで2人の意見が分かれた場合に3人目の読影医の判定を加えて判断することにしたところ、がん発見率は低下させずに要精検率を低下させることができました。現在は、関連施設も含めた2つの病院で検診を行なっているため、私とG先生がそれぞれの病院の第2読影医になり(第1読影医は乳腺以外の読影資格を有する外科医)、意見が分かれた場合はお互いにトリプル・チェックにまわすようにしています。
先日、FUJI FILMから、「AMULET」というデジタルマンモグラフィの機械に直接接続できる、コンピューター乳がん検出支援システム(CAD)「デジタルマンモグラフィCAD MV-SR657EG」が発売されました(http://fujifilm.jp/business/healthcare/mammography/products/mammo_cad/index.html)。
今まで他社製のCADも発売されていましたが、「AMULET」の画素は50μmと世界最小で、同製品に対応する新しいCADはアルゴリズムの最適化により高い検出精度を実現しているとのことです。また、このCADはマンモグラフィを読影するモニターで確認できるため、診断作業の効率化や低コスト導入も図れます。価格は370万円(税別)とのことです。
もしCADが導入されたら読影の負担は軽減できそうです。現在の第1読影医の代わりをCADにしても良いですし、現行のままCADを併用するのも良いかもしれません。より精度が高く、かつ効率的な診断ができるように新病院ではCADを導入したいものです。
6 件のコメント:
乳がん検診への呼びかけが高まる今日この頃、私が常々懸念するのは、検診を受けたことで安心してしまうことでした。
まわりにも沢山、見落としの経験者がいます。誰が悪いのでもなく、人の目で見ることなので限界があること、これを理解してほしいと常々思っておりました。
自分の身体は自分で守るーこれが基本にあっての検診だと思います。触診の効能についてアメリカではあまり評価が高くないようですが、個人的には自己触診は大事だと思っています。私の場合は人間ドックで5ミリのがんを超音波検査で見つけてもらいました。40分くらいかかったと思います。あとでその技師さんの技術の高さを皆さんほめておりました。
日々の診察に加えての検診業務、大変なご苦労かとお察しします。先生がたのこうした努力が沢山の患者の命を救っているんですね。改めて感謝です。
>リリーさん
そうですね。どんなに注意深く読影しても人間の目で判断することですので見落としや判断の誤りは起きます。私たち医療従事者がそういう認識を持ってできるだけそういうリスクを減らす努力を続けることが大切だと思っています。
また、今後はマンモグラフィにどのような検査をどのような対象者に加えていくかを判断することが検診の精度を上げるためには必要だと感じています。
乳腺超音波検査に従事する検査技師です。
乳がん検診について教えていただきたいことがあり、コメントさせていただきます。
よろしくお願いします。
日本の乳がん検診における要精査率、癌発見率などの、目標値あるいは期待値について知りたいのですが、ご教示ください。
検診の精度管理に関わることだと思うのですが、関連学会などで、公に示されている目標値などがあるのでしょうか?
>匿名さん
はじめまして。
厚生労働省「今後の我が国におけるがん検診事業評価の在り方について」報告書(がん検診事業の評価に関する委員会、平成20年3月 http://www.mhlw.go.jp/shingi/2008/03/dl/s0301-4c.pdf)による目標値は、要精検率 11.0%以下、がん発見率 0.23%以上とされています。これは平成17年のデータ(マンモグラフィ検診が本格実施された最初の年)をもとにしているため参考値とされています。
一応、これが公的な指標になっているのではないかと思います(調べた限りではこの目標値の更新は確認できませんでした)。
回答ありがとうございました。
参考になりました。
厚生労働省のHPもみてみます。
>匿名さん
自施設のデータを取ることは、とても大切なことだと思います。私たちの施設でも検診のまとめをしたことによって要精検率の高さに気づき、トリプルチェックの導入を検討し改善することができました。
匿名さんもより良い検診を目指して頑張って下さい。
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