2015年12月14日月曜日

当然の結果ですが…”40才代の乳がん検診における超音波検査の上乗せ効果”〜J-START〜

マスコミにもこの臨床試験の結果はリリースされましたのでご存知の方は多いと思います。日本発のエビデンスとしてはかなりインパクトのある結果です。概要を以下に記します。

臨床試験名:J-START(Japan Strategic Anti-cancer Randomized Trial)(無作為化試験)
目的:がん検診における超音波検査の有効性を検証する
対象・方法:40~49歳の乳がん検診希望の日本人女性を対象とし、超音波検査+マンモグラフィ群(介入群)とマンモグラフィ単独の対照群に割り付けた(割り付け期間 2007-2011年)。
結果:36859例が超音波検査+マンモグラフィ群(介入群)、36139例がマンモグラフィ単独の対照群に割り付けられた。平均年齢は44歳。3344例(4.6%)が、第一度女性近親者に乳がんの既往歴があると報告し、また、917例(1.3%)が1回以上の良性乳房腫瘍の既往があった。
介入群の感度は、対照群と比較して有意に高い(91.1 vs.77.0%、p=0.0004)が、特異度は有意に低く(87.7 vs.91.4%、p<0.0001)、マイナス面として偽陽性が有意に多くなることを認めた。
対照群と比較して、介入群ではがんがより多く検出された(184 [0.50%] vs.117 [0.32%]、p=0.0003)。検出されたがんにおける浸潤がんの割合は、対照群で74%(117例中86例)であるのに対し、介入群では70%(184例中128例)であった。
対照群と比較して、介入群では、臨床病期がStage0とIのがんの頻度が高かった(144 [71.3%] vs.79 [52.0%]、p=0.0194)。2群間で、StageII以上の乳がんの頻度に有意差はなかった。
対照群の35例(0.10%)に対して、介入群では合計18例の中間期がん(0.05%)が診断された。したがって、超音波検査の使用は、中間期がんの0.05%の低下と関連していた。介入群における18例の中間期がんのうち16例(89%)、および対照群における35例のうち27例(77%)が浸潤がんであった。
要精検数は、対照群(3,153例)よりも介入群(4,647例)で多かった。 1回目のスクリーニング後に実施された生検数も、対照群よりも介入群で多かった。
(11月5日付Lancet誌オンライン版 )


簡単にまとめると40歳代の女性に対しては、マンモグラフィ単独より超音波検査を追加した方ががん発見率が高く、中間期乳がん(検診の間で発見される乳がん)を半減でき、早期がんの割合が高かったということです。問題点として特異度が低い(がんではないのに要精検とされる率が高い)という点はありますが、期待していた通りの良い結果でした。

そもそもこの結果は多くの乳腺外科医は予測できていたものです。若年者にはマンモグラフィだけでは不十分で超音波検査の方が描出されやすいとほとんどの乳腺外科医は日常診療の中で感じていたはずです。40歳代ですらこの結果ですからさらに低年齢になるほどこの傾向は顕著になります。しかし、ここには必ず”エビデンス”の壁が立ちはだかります。

私たちの施設でも学会で超音波検査の有用性は報告してきていますし、乳腺専門のクリニックの中には超音波検査の併用をほとんど全例に勧めている施設もあります。私は以前から若年者のマンモグラフィ単独の検診は感度の面で問題があると確信していましたので、触診で硬結が強い場合や前回のマンモグラフィで乳腺濃度が高かった場合などは”乳腺症(疑い)”として超音波検査を保険診療で行ない、フォローしてきました。その中でマンモグラフィでは写らない早期のがんが多数見つかっています。しかしあくまでも”エビデンスがない”ということで超音波検査の併用検診は自治体検診としてはできませんでしたし、積極的に超音波検査を勧める私たちのような施設に対する批判的な意見もあったようです。

超音波検査の追加が本当に有効かどうかは生存率の向上に寄与するかどうかを確認しなければ実はまだわかりません。その時点で切除する必要のないごく早期のがんを検出しているだけかもしれないからです。しかし、印象としては乳腺濃度が高い症例において小さな浸潤がんを見つけやすい超音波検査は生存率を向上させる可能性がきわめて高いと私は信じています。

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