2009年4月30日木曜日

細胞診練習用キット

最近、新しい超音波検査技師さんが乳腺エコーの担当の仲間になりました。いま乳腺疾患のエコー診断の猛特訓?中です。
慣れてきたら、優しい症例から細胞診に入ってもらう予定です。

うちの病院の細胞診は、超音波ガイド下で穿刺するのを基本としています。超音波技師さんにエコーを当ててもらって、穿刺予定線を画面に出して目標に合わせてもらい、医師が針を刺して細胞を採取するんですが、簡単そうでこれがなかなか難しいのです。特にしこりが小さい場合は、ちょっとした装置の当て方で腫瘍から針がずれてしまいます。検査技師さんの当て方にコツがあるので、検査技師さんも穿刺する医師も十分な経験が必要なんです。

そこで、人体に初めて穿刺する前に練習できる模型があれば、技師さんも慣れない医師にとっても良いのではないかと考えて、練習用キットを作成してみることにしました!
でもいいモデルがないので、素材に悩みました…。超音波を通すこと、一定の柔かさがあり、かといってあまりふにゃふにゃじゃないもの…。100円ショップに行って1時間見てまわりました。

とりあえず第1作は、以下のように作ってみました。

①素材のメインは、家庭用のスポンジ。木目が細かく均一な柔らかい部分と硬めの薄い粗な繊維の2層からなるどこにでもあるスポンジです。これを2枚、柔らかい部分は1cm幅くらいに薄くします。
②腫瘤は、柔らかめの消しゴムを削って3種類の形を作りました。
③この腫瘤を2枚のスポンジの粗な面の間に置いて(少し削りました)、はさみます。
④粉の寒天を通常の2倍の濃度になるように熱湯で溶かします。
⑤合わせたスポンジをプラスチック容器の中に置いて、上から溶かした寒天を注ぎます。固まる前にスポンジを何度も押して空気を抜きます。
⑥冷蔵庫に入れて冷やして固まったらラップで包んで終了。

試作品は現在冷蔵庫の中。土曜日にエコーでどんな感じに写るか見てみます。問題は空気が完全に抜けているか(空気があると見えなくなります)、消しゴムがきちんとエコーで見えるかでしょうか?
まあたぶん失敗だと思いますが、何度でもチャレンジしてみたいと思います。

(ちなみに初めて寒天を溶かしてゼリーにしてみましたがなかなか面白かった!はまりそうです。)

2009年4月27日月曜日

乳癌の治療最新情報3 ”ラパチニブ承認!”

ついに正式にラパチニブが承認されました!発売は6月の予定です。

今回取得した適応は、癌細胞にHER2という受容体が過剰に発現している(HER2陽性)乳癌で、アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤(FECやECなど)、タキサン系抗悪性腫瘍剤(パクリタキセルやドセタキセル)、および、ハーセプチン(トラスツズマブ)による化学療法後の増悪または再発の患者に対するゼローダ(カペシタビン)との併用療法という限定したものですが、治療に難渋していた患者さんにとっては朗報です。

この薬剤の特徴は、脳転移にも有効なこと(ハーセプチンは無効なことが多い)、HER2だけではなくHER1(EGFR)という受容体にも作用するため、ハーセプチンとは作用機序が異なること、経口薬剤であること(毎週受診しなくていい!)、ハーセプチンと異なり心毒性が少ないことが挙げられます。問題点としては、ハーセプチン同様に高価であること、今のところゼローダとの併用でしか投与できないことです(販売価格は未定)。

今後は臨床試験を重ねて、早く他の薬剤との組み合わせも可能になって欲しいものです。

2009年4月24日金曜日

ピンクリボンチーム!

今年も6月某日、とある場所でママチャリレースがあります。

去年、初めてこのレースに参加しました。うちの病院では3チーム出場しましたが、私の参加したチームは、主に乳腺診療に関わっている乳腺外科医、病理医、検査技師などでメンバーを編成し、背中に「乳がん検診を受けましょう!」とマジックで書いたゼッケンをつけて出場しました。結果は自慢できるようなものではありませんでしたが、なかなか楽しかったです。

今年も参加するように誘われたので出場予定ですが、今回はもう少し目立つようにTシャツでもそろえて、ピンクリボンマークと啓蒙の文字を印刷してみようかなと思ってます。

成績は二の次。ローカルなピンクリボン運動のつもりで頑張ります!

2009年4月21日火曜日

体内時計とがんの増殖

ノースカロライナ大学ラインバーガー総合がんセンターから面白い研究発表が報告されていました。

今までは、体内時計を狂わせると発癌率が高くなると考えられていました。有名なものとして、日勤の看護師より夜勤の看護師のほうが乳癌の発生率が高いという疫学研究があります。

今回の研究は、発癌しやすいマウスの体内時計に関係する遺伝子部分を操作すると、発癌率は高くなるどころか、かえってマウスの寿命が延びたというものです。どうも体内時計に関係する遺伝子の変異は、癌細胞を排除する働きを強めるらしいです。このシステムを治療に応用すれば、新しい作用機序の薬が開発されるかもしれません。

遺伝子の世界はさまざまな可能性を秘めているらしいです。

2009年4月20日月曜日

十全大補湯の効果

以前、代替補完療法のところで漢方薬について書きましたが、私も時々、乳癌術後の患者さんに漢方薬を使うことがあります。

私から処方することがあるのは、骨髄抑制に対して加味帰脾湯、タキサン系抗癌剤による筋肉痛に芍薬甘草湯、などが代表的なものです。

一方、患者さんから希望される漢方の代表は、十全大補湯です。
免疫賦活作用があるという巷の噂で好まれているようです。効能書きには、適応症として、”病後の体力の低下、疲労倦怠、食欲不振、寝汗、手足の冷え、貧血”と書いています。東洋医学で言うところの虚証という、体力が弱った人が適応です。

今回は、患者さんの希望ではなく、私が判断して処方しました。
その患者さんは往診で診ている乳癌再発(骨、リンパ節)の92才のおばあちゃん。しっかりした方ですが、とても神経が細やかで心配性…。いろんなところに神経痛が出たり、吐き気がしたり、眠れなかったり、便秘したり、胸が苦しくなったり、いろいろな症状が出たり消えたりします。入院すると良くなるのでかなりメンタルな影響が大きいことはご本人も自覚されています。

そして、先日、その患者さんから、”背中が寒くて寒くてしかたがないので心配です…”と訪問看護ステーションに電話が入りました。
熱も風邪症状もないので、器質的な疾患ではなさそうでしたので、十全大補湯を試してみました。

その1週後に往診してみると、劇的に効いたとのこと。

よかった、よかった。

患者さんのつらい症状に効いてくれれば、それがなにより一番です。理屈ではありません。
また、同じような症状の方がいたら試してみようかなという気になりました。

2009年4月18日土曜日

オリビア・ニュートン・ジョンさん企画の検診パッド

今朝の道新スポーツを喫茶店で見ていると、オリビア・ニュートン・ジョンさんのことが大きく取り上げられていました。

オリビアさんと言えば私たちの世代では知らない人はいないくらいのメジャーなシンガーです。そのオリビアさんが、約20年前に乳癌の手術を受けていたということをこの記事で初めて知りました。その経験を生かし、自己検診用のパッドを開発して売り出したということです。簡易乳癌検査器具(触診用)「リヴエイド」というものです。自己検診用の模型は日本にもありますが、それとは違い、自己検診をしやすくするものみたいです。

それにしても芸能人の乳癌は多いように思いますが、皆さんはどう思われますか?
島倉千代子さん、平松愛理さん、樹木希林さん、宮崎ますみさん、山田邦子さん、アグネス・チャンさん、倍賞千恵子さん…。まだまだいます。

でもよく考えると20-25人に1人は乳癌になると言われている今、数多い芸能人の中でこれだけしかいないほうが不思議なのかもしれません。残念ながらこれからさらに芸能人の中で多くの乳癌患者は発生すると思います。ニュースや新聞、テレビで取り上げられればさらに身近な病気として認識されるようになるかもしれません。乳癌になったということは不運でつらいことですから、喜ぶことではないのですが、山田邦子さんのように、有名な方が啓蒙活動に力を貸して下さるのは大変ありがたいし、大きな影響がありますよね。

2009年4月15日水曜日

なぜここまで…受診が遅れた理由

乳がん検診の啓蒙活動がさかんに行われるようになり、早期乳がんの発見が増えている一方で、残念ながらいまだにかなり進んだ状態で受診される患者さんも少なくありません。

気づかないうちに大きくなっていたという方もたまにはいますが、しこりをかなり前に自覚していたというケースがほとんどです。

受診しなかった理由は様々ですが、主なものを挙げてみます。

①”がん”と言われるのが怖かった(漠然とした癌への恐怖心)
②乳がんの治療が怖かった(手術、抗がん剤)
③家庭の事情でなかなか受診できなかった(子供が小さい、受験があるなど)
④仕事が忙しくて休むことができないから(職を失う不安)
⑤経済的な不安

①②で受診を遅らせても、結局は腫瘍の増大による痛みや出血、臭いで受診することになります。きちんと説明されれば、治療はそれほど怖いものではありませんし、危険なものでもないのですが…。これらは早期発見の重要性を強調するだけではなく、乳癌の治療についても啓蒙活動を広げることによって解決できる問題かもしれません。
③④⑤は社会保障制度が不十分なことに起因する心理状態であり、現在最も憂うべきことです。特に最近では④⑤が増えているかもしれません。ただ、いまだに不十分な社会保障制度ではありますが、実際はある程度は何とかなるものです。役所や病院の相談窓口で話をしてみると意外と知らない制度があったりします。もし、悩んでいる方がいれば相談してみてください。

いろいろ不安になることもあると思いますが、乳癌を放っておいて良いことは何一つありません。しこりを自覚したらなるべく早く、乳腺外来に受診してください。

我慢して我慢して骨転移で動けなるまで我慢した患者さんがいました。ご家族も私たち医療従事者もとても無念です…。このような患者さんが少しでも減るようにこれからも活動していきたいと思っています。

2009年4月13日月曜日

乳房切除後疼痛症候群(Postmastectomy Pain Syndrome:PMPS)

乳癌の手術後に手術した側の前胸部から腋窩、上腕にかけて痛みが続くことがあります。たいていは手術の傷の痛み(創痛)であったり、腋窩リンパ節郭清に伴う肋間上腕神経を切除したことによる一時的な疼痛のことが多いのですが、患者さんは再発ではないかと心配されることも多いようです。

これらの痛みは通常、自然に改善することをご説明しておけばあまり気にならないようになるのですが、3ヶ月以上耐え難いようなヒリヒリ感やチリチリ感が続く場合は、乳房切除後疼痛症候群(PMPS)と呼ぶことがあります。この呼び方は、乳房切除しかなかったころにつけられたものですのであまり適切な病名ではありません。実際は乳房温存手術でも起きることがあります。

PMPSは、手術操作に伴なって肋間上腕神経が障害されることによって発症すると考えられていますが、なぜ痛みが長引く場合と改善する場合があるのかはよくわかっていません。痛みがひどい場合は下着を着けるのもつらいようです。PMPSの患者さんは、痛みと同時に硬い感じ、何かが挟まっている感じなどの違和感を持っていることが多いと言われています。

PMPSの危険因子は、肥満、若年、腫瘍径が大きい、腋窩リンパ節転移陽性、術後化学療法、放射線療法、術後の合併症(出血、感染など)、肋間神経の切除などが言われていますが、肉眼的に神経を残しても発症することがあります。

治療は、薬物療法(第1選択は抗うつ剤、他に抗てんかん薬や局所麻酔薬、漢方薬など)が中心となりますが、難治性の場合は、神経ブロックという処置をすることもあります。

外科医の中には、この疾患の存在を疑問視したり、軽視したりする人もいます。たしかによくわからない点もある疾患なのですが、重要なのは、患者さんご本人が納得しないまま主治医に痛みを放置されることが、症状を悪化、難治化させる可能性があるということです。
もし、主治医に相談しても納得いく説明が得られない場合には、ペインクリニックに紹介してもらうのが良いと思います。

2009年4月9日木曜日

同級生からの電話

今日、乳腺外来をしている最中に、中学校時代の同級生から突然電話がかかってきました。

”最近、おっぱいが痛いんだけど…。生理が終わってもずっと続いていて脇のあたりまで痛いし、すごく不安…。”
とのこと。

話を聞く限り、乳腺症でいいんじゃないかと思いましたが、かなり不安みたいなので、検査を予約できるように手配してあげました。

最初は、
”え〜っ!!○○(私のこと)君が触るの〜??”
と、やはり付き合いが長いと抵抗があるみたいでしたが、
”マンモグラフィとエコーで異常がなかったら触診はいいよ。”
と言ってあげるとほっとしたようでした。私としては全然気になりませんが、女性心理としては複雑なようです。

それにしても、もう自分の同級生の乳がんを心配しなきゃならない年齢になっていたんですね。これからは、その同級生を通じて、乳がん検診を同年代の人たちに広めてもらおうかなと思っています。

2009年4月5日日曜日

余命1ヶ月の花嫁

学会帰りの飛行機の中で、前から読みたいと思っていた”余命1ヶ月の花嫁”を読んできました。

最後まで前向きに頑張り抜く千恵さんの勇気、何とか残りわずかの時間の間で千恵さんの望みを叶えてあげようとする友人たちと恋人、そして余命告知をすべきか最後まで悩み抜く親しい人たち…。

深く感動するとともに、治療をする側の人間としていろいろ考えさせられる内容のドキュメントでした。日常診療で、できるだけ患者さんの声に耳を傾けるようにと意識はしてきても、きっと深いところまでは入り込めていないのではないか?ご家族の思いをわかってあげれていないのではないか?そんなことを思いながら読み終えました。

きっと彼女の最後の1ヶ月において、一番の治療になったのは、家族、恋人、友人たちの存在なんでしょうね。10年後ならもっと良い治療をしてあげれたかもしれないし、もっと長く生きられたかもしれない…。

がんセンターの先生方は、最善の治療と判断、努力をされたことと思います。でも現代医学はまだまだ力不足です。できるだけ早く乳癌を発見するために乳がん検診の啓蒙活動を広めること、再発率を下げるために患者さんそれぞれにとって最適の補助療法を提供すること、再発しても高い治癒率を目指せるような治療法を開発すること…。まだまだ課題は多いですが、今回の学会でも次々と新しい治療法の研究がなされているという報告が聞けました。諦めないで頑張ればきっといつかはそんな時代が来ると信じています。

2009年4月4日土曜日

抗がん剤・放射線治療中の料理レシピ

外科学会最終日です。
医療機器展示のブースで、抗がん剤や放射線治療中の患者さんの料理のレシピが検索できるサイトが紹介されていました。
http://survivorship.jp/
静岡がんセンターと日本大学短期大学部食物栄養学科で作成されたものです。ちょっと見てみましたが、症状別にレシピを検索できてなかなかよくできているようです。
興味のある方はごらんになってみてください。