2012年12月31日月曜日

大晦日

いよいよ今年もあと数時間です。紅白の合間で久しぶりにブログを更新しています。

前回ブログを更新してから親戚に不幸があったりしてばたばたしていました。今年を振り返ると、とても良いことは特にありませんでしたがとても悪いこともなかった、という1年だったなあと思います。乳腺センターの病棟移動、N先生の研修などでG先生にもかなり負担をかけながら夢中になっているうちにあっという間に過ぎてしまいました。とりあえず、スタッフが大病を患うこともなく元気で過ごせたことがなにより良かったと思います。N先生不在で危惧されていた手術症例数も目標をクリアできました。

来年はいよいよ新病院に移動になります。長年の念願だった放射線治療ができるようになり、ステレオガイド下生検も可能になります。4月に戻って来るN先生も一緒に更なる発展を目指して頑張りたいと思います。研修医の中には、乳腺外科を考えている先生もいるそうです。仲間が増えればやりたいことはまだまだたくさんあります。また夢が広がりそうでうれしい限りです!

それではみなさん、1年間お疲れさまでした。良い新年をお迎え下さい。

2012年12月24日月曜日

メリークリスマス(イヴ)!

今日はイヴですね。みなさん楽しくお過ごしでしょうか?私は年々クリスマスのウキウキした感じがなくなってきてなんとなくさみしいです(泣)

病院は土、日、月と3連休でしたが、G先生は22日の当直だったため22日と今日の回診は私でした。幸い病棟は術後患者さんも再発患者さんも落ち着いていて平穏な回診でした。クリスマスや正月を病院で過ごさなければならない患者さんたちは本当に気の毒です。来年まで待てない手術患者さんや、体調不良で入院してしまった再発患者さんたちですのでやむを得ないのですが、せめて気分だけでも、ということで病院では入院患者さんにちょっとだけいつもと違った食事が出たはずです。

明日は緩和ケア病棟ではクリスマス会が行なわれます。私は関連病院の外来があるので見に行けませんが、最近ちょっと元気をなくしている私がずっと外来で診ていた患者さんが少しでも元気になってくれたらと思っています。

それにしてもこれからの日本は心配です。福祉や医療、経済、原発、憲法、領土問題…あまりにも複雑な世の中になってしまったためにすべての人が幸せになるのはなかなか難しいですよね。人間の本質というのは善なのか悪なのか…そんなことを最近よく考えています。私は政治的なことをここに書くつもりはありませんが、ただただすべての人が健康で幸せな暮らしを送れるように祈っています。さだまさしの「遥かなるクリスマス」という曲を聴きながらふとそんな気持ちになりました。

それでは良いイヴをお過ごし下さい。

メリークリスマス!

2012年12月21日金曜日

乳癌の治療最新情報34 低用量エストロゲン療法

3年ほど前に「乳癌の治療最新情報6 ”エストロゲン”療法」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2009/09/blog-post.html)の中でも書きましたが、内分泌療法(抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤)に抵抗性になった患者さんに少量のエストロゲンを投与すると腫瘍が縮小することがあることは以前から報告されていました。前回の報告は米国からのものでしたが、今回の報告は日本での臨床試験(フェーズ2)の中間報告です(第50回日本癌治療学会学術集会)。

概要は以下の通りです。

対象: 2010年10月から2012年2月までに登録したER陽性・HER2陰性で、内分泌療法(化学療法も含む)に無効となった閉経後乳がん患者15人。

方法: エチニルエストラジオール(EE2)を1日に3mgもしくは6mg投与(3mg投与3例中2例で効果が見られたため途中からは3mgの単独アームに変更)。主要評価項目は臨床的有効率(CBR)で、副次評価項目は有害事象、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)など。

結果: 観察期間中央値 8.5カ月、年齢の中央値は63才(58-83才)。3例は内分泌関連症状のために早期中止。
4週間以上のEE2投与が可能だったのは12例で、PR(部分奏効) 53.3%、SD(不変) 20.0%、PD(増悪) 6.7%だった。治療開始4週間後には、血清エストラジオール濃度が上昇したほか、卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度の低下が確認された。PRと、SDまたはPDにおけるホルモン環境に大きな違いは見られなかった。4週間以上投与できた患者12例中11例において、乳頭・乳輪の色素沈着、子宮内膜肥厚が確認された。グレード3以上の有害事象はなく、グレード2の悪心・嘔吐、膣分泌・出血が見られた。


通常、エストロゲンはER陽性乳がん細胞の増殖を促すため女性ホルモン剤の投与は禁忌とされています。今のところなぜ低用量エストロゲン療法がこのような患者さんたちに有効なのか、その作用機序は明らかになっていません。一定期間のエストロゲン枯渇療法後では腫瘍の遺伝子発現プロファイルが変化し、エストロゲンに対する反応が変化している可能性などが推測されているようです。

今後さらに症例を蓄積して低用量エストロゲン療法が有効な治療法であることが証明されると良いですね!

2012年12月20日木曜日

特殊型(b3) 浸潤性小葉がん…ホルモン治療抵抗性とレトロゾールの効果

乳がんの特殊型の中で比較的頻度が高いタイプの代表が、この浸潤性小葉がんです。乳腺内の小葉(乳管の一番奥=母乳を作るところ)から発生するがんですが、この組織型にはいくつかの特徴があります。

①欧米では比較的多い…以前は欧米では5-10%、日本では1-2%と言われていましたが、最近では日本でも増加傾向で、4-5%となっています。

②両側、多発傾向がある…乳房温存術の適応に関しては慎重に考える必要があります。

③乳腺内を微慢性に進展することが多く、しこりとしての自覚症状が出にくい(超音波検査でも乳腺症と診断されることがある)、乳房の縮小で発見されることがある、などの特徴があり、診断された時にはかなり進行していることも多い(見落としやすい組織型の一つ)と言われています。

④消化管への転移、がん性腹膜炎などの腹腔内転移は他の組織型では非常に稀ですが、浸潤性小葉がんは比較的起こしやすいと言われています。

⑤ホルモンレセプターの陽性率が高い…しかしその割にホルモン療法抵抗性の場合も多いと言われてきました(pseudo-positive=偽のER陽性 と言っていたDrもいました)。


今年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで、⑤に関連した浸潤性小葉がんの治療治療に関する報告がありました。これは、BIG 1-98 trialというレトロゾール(フェマーラ®)とタモキシフェンの有用性を比較した臨床試験のサブ解析です。

この報告の概要は以下の通りです。

対象と方法:
BIG 1-98 trial対象症例(閉経後ホルモンレセプター陽性乳がん)の中からER and/or PgR陽性でHER2陰性の症例を抽出し、浸潤性小葉がん(Lobular 2599例)と浸潤性乳管がん(乳頭腺管がん、充実腺管がん、硬がん)(Ductal 324例)の予後を比較(その他の組織型や中央病理診断でER/PgR、HER2、Ki-67が不明だった症例は除く)。

結果:
・サブタイプの比率は、LobularがLuminal A(一番おとなしいタイプ) 73.1%、Luminal B(HER2-)が26.9%、DuctalがLuminal A 55.3%、Luminal B(HER2-)が44.7%とLobularでLuminal Aの比率が高かった。
・無再発生存率、全生存率はレトロゾール群ではDuctalとLobularの間で差は見られなかったが、タモキシフェンではLobularの方が悪かった。

この結果は、つまり浸潤性小葉がんはER陽性率が高く、しかも一見おとなしいLuminal Aが多いけれど、タモキシフェンに対しては抵抗性を持っている(レトロゾールはどちらに対しても有効)ということを意味しています。やはり以前から私たち乳腺外科医が感じていた印象(浸潤性小葉がんにはホルモン療法が効きにくい…当時は術後ホルモン療法のほとんどはタモキシフェンでした)は正しかったということになります。

問題は、閉経前の患者さんにはレトロゾールは使用できないということです。LH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)にアロマターゼ阻害剤を併用する臨床試験は、いまだになかなか良い結果が出てきませんが、浸潤性小葉がんに限定して行なえばもしかしたら非常に有益な結果が得られるのかもしれません。今後の研究に期待したいところです。

2012年12月19日水曜日

乳腺線維症(fibrous disease)

先日乳がん検診で要精検となって受診された患者さんですが、なかなか興味深い症例でした。

この患者さんは、マンモグラフィで2cm大くらいの腫瘤(大きさの割に中心濃度がさほど高くなく、一部脂肪を含むようにも見えたのでFAD(局所性非対称性陰影)とも取れる)を指摘されて受診されました。

注意深く触るとマンモグラフィの指摘部位に明らかな腫瘤を触れました。超音波検査では、その部位に一致して後方エコーの減弱(影を引く状態)を伴う病変を認めたのですが、超音波技師さん(今年から乳腺の研修を始めた若手のMさん)の診断は、腫瘍ではなく「乳腺線維症(fibrous disease)」というものでした。後方エコーの減弱を伴うがんの代表は硬がんや浸潤性小葉がんですが、たしかにそのいずれも典型的とは言えない画像でした。

しかし、触診とマンモグラフィであまりにも明らかな腫瘤像を呈していたため、念のために針生検を行なうことにしたのです(細胞診ではおそらく診断がつかないと考えて最初から針生検にしました)。で、その結果は…Mさんの診断通り、「乳腺線維症」でした!お見事です(笑)

若手の技師さんでこのような診断名を思い浮かべるのはなかなか難しいのではないかと思うのですが、よく鑑別診断の中にこの疾患が浮かんだものです。彼女曰く、糖尿病性乳腺症を思い浮かべたけれど、糖尿病が既往になかったのでこの診断名にしましたとのこと。普段はタイミングが合わなくてなかなか技師さんを褒めてあげる機会がないのですが、今回はたくさん褒めてあげました(笑)これをきっかけに自信つけて、さらに実力のある技師さんに育って欲しいと願っています。

さて、この「乳腺線維症(fibrous disease)」ですが、「乳腺症(mastopathy、fibrocystic disease)」や「乳腺線維腫症(fibromatosis)」「乳腺線維腺腫(fibroadenoma)」などとは名前は似ていますがまったく異なる病変です。乳癌取扱い規約では、「Ⅵ 腫瘍様病変」の中に乳管拡張症や過誤種、女性化乳房、副乳などとともに分類されています(腫瘍ではありません)。糖尿病性乳腺症もこの疾患の中に含まれます。なお、「線維化(fibrosis)」というのは疾患名ではなく、状態を表す用語です。線維化は乳腺症の病変内にもよく見られます。

病理学的には、線維化(または硝子化)した間質内に萎縮した小葉、乳管が散在性に存在する良性病変で、リンパ球の浸潤を伴うことが多いようです。時に触診や画像検査でも腫瘤として認識され、浸潤がんのように見えることもあります。その本体はほとんどが線維と脂肪ですので、細胞診をしても「検体不適正」(もしくは正常乳線組織)と判定されてしまいます。確定診断のためには組織診が必要です。

2012年12月17日月曜日

タモキシフェン長期投与の新しい知見

このブログを読んで下さっている読者の方々から時々あるご質問にタモキシフェン(TAM)の投与期間に関するものがあります。これまでの標準的な考え方は、TAM2年投与より5年投与の方が成績は良く、5年以上投与では5年投与に比べると上乗せ効果に乏しく(NSABP B-14、Scottish adjuvant tamoxifen)、子宮体がんなどの有害事象が増加するため、乳癌診療ガイドラインにおいても投与期間は5年間が推奨されるというものでしたので私もそれに基づいてお答えしてきました。

ただその一方で5年以上投与の有用性を報告した論文もありました(Eastern Cooperative Oncology Group)。また、TAM 5年以上投与が否定された上記の比較試験は、症例数が十分でなかったり、ホルモンレセプター(HR)が陽性ではない症例も含まれていたりという問題点がありました。そこでHR陽性症例に限定したATLASとaTTomという2つのTAM長期投与の有用性を評価する大規模比較試験が行なわれてきたのです。

今日見えたAZ社のMRさんが、今年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたATLASの結果と論文を持ってきてくれました。この結果によると、6846人を対象とした平均8年間の比較で、再発率、乳がん死亡率ともに5年投与に比べて10年投与の方が有意に低下していたそうです(特に投与開始後10年以上たってから有意差が出た)。心配された子宮体がんと血栓症による死亡率の絶対値の増加は5年投与に比べて0.2%に留まり、乳がん死亡率の減少効果(同3%)に比べるとはるかに少ないということです。この結果をEBCTCGのmeta-analysis(TAM 非投与 vs TAM 5年投与)と組み合わせると、TAMを10年投与した場合のTAM非投与に比べた投与開始後15年時点での乳がん死亡率の減少(12%)は、子宮体がん、血栓症による死亡率の増加(0.4%)の30倍と推定されるという結果でした。

簡単にまとめると、ホルモンレセプター陽性乳がんに対するTAMの投与期間を5年と10年とで比べると、子宮体がんなどによる死亡率はわずかに増加するが、乳がん死亡率の減少効果ははるかにそのリスクを上回るということです。

aTTom(以前の中間報告ではATLASほどの有益性は出ていなかったようですが…)の最終報告が出るのは来年のようです。おそらく来年のSt.Gallen 2013ではまだこの結果が反映されることはないと思いますが、その次のSt.Gallen 2015ではもしかしたらTAMの投与期間は10年が推奨されることになるかもしれません。ただ閉経期・閉経後の患者さんではTAM 5年→アロマターゼ阻害剤(AI) 5年、またはAI 10年が推奨される可能性もありますので、閉経前の患者さんやAIが使用できない患者さんが主な対象になるのかもしれませんね。古いけれど安くて良い薬剤としてタモキシフェンが見直される時期が来るのかもしれません。

2012年12月12日水曜日

家庭用医療機器の無料体験にご注意!

今日、乳がんの再発で通院中の患者さんから家庭用医療機器についてのご相談がありました。内容の概略は以下の通りです。

・ご家族の勧めで期間限定で無料で体験できる家庭用医療機器のデモを行なっている施設に通っていた。
・この器具をお腹に当てると血流が良くなる。
・自分は乳がんの再発治療中であることを販売員には話してある。
・その販売員は、印刷された体験者の紙を見せながら(店内に貼ってあるそうです)、”この方は某病院の看護師で、足の裏にがんができたがこの治療で消えた””この方は治療で血液のデータ(脂質など)が良くなった”などと説明し、”でも私の口からは○○に効果があるとは言えないんですよ、薬事法違反になるので…。”と話していた。
・一緒に体験している人たちは、”これで白髪が黒髪に変わった””膝の痛みが楽になった”と話している。
・この機器は、55万円と高価なのでどうしようかと迷っている。

というようなお話でした。私は”ネットで調べてみます”とお伝えして時間をいただき、その会社と製品について調べてみました。

その施設は、ある健康器具・医療機器販売会社の販売促進目的の無料体験施設で、それ自体はネットでも紹介してあり、怪しい印象はありませんでした。またその器具の製造会社も一定の歴史があり、治療院や病院にも機器を販売している実績のある会社で、その製品も医療機器の承認を受けたもので、いわゆるインチキ商品ではありませんでした。詐欺やインチキ商法との関連も調べてみましたが、はっきりした情報はありませんでした。ただ、”無料体験と称して客を集め、高額な商品を強引に売りつけるトラブルが起きているので注意が必要”という記載はありました。

この製品の効能は、”疲労回復、血行を良くする、筋肉のコリをほぐす、神経痛・筋肉痛の痛みの緩解、胃腸の働きを活発にする、筋肉の疲れをとる”と書いてあります(同じような内容を別の効果のように書いている印象を受けますが…)。もちろん、”がんに有効”とか”血液データを改善する”などの効果についての記載はありません。

一般的な健康器具は、薬事法の制限を受けます。基本的には”体内変化についての効能を記載することは薬事法に抵触する”ので、”肩こりに効く、痛みが軽減する、血液をさらさらにする、血流を良くする”などの文言は健康器具には表示できません。しかし、この製品のように承認を受けた医療機器の場合は、このような認可された効能を書いても問題はありません。

しかし、今回のケースの一番の問題点は、”商品の効能に記載されていない効果をさりげなく示唆し、購買意欲をかきたてている”ように思えることだと思います。つまり、製造会社や商品自体は問題ありませんが、製品の紹介・販売方法に問題があるのではないかと思うのです。

”この製品は、このような効能しか書いておらず、血液データの改善はもちろん、がんの治療として期待できるようなものではありません。もし、腰痛などの治療目的として55万円払っても良いのであれば購入するのはかまいませんが、がんの治療効果を期待して買うことはお勧めできません。”とその患者さんにはご説明しました。

美顔器や水道水の浄化装置、磁気まくら、磁気ネックレスなど、健康関連グッズはいま大変人気です。しかし、これらはすべて法の管理の元にあり、効能の表示には制限があります。医療機器の承認を受けていない健康器具なのに効能をうたっていたり、表示を許可されている以外の効果(動物実験レベルでも)を口頭やポスター、チラシ(体験談など)などで説明しているような場合は信頼できないと考える方が無難のようです(特に法外な値段の場合は怪しいケースが多いです)。

2012年12月11日火曜日

特殊型(b11) 浸潤性微小乳頭がん

乳がんの特殊型の中で悪性度が高いタイプの1つと言われているのが、”浸潤性微小乳頭がん(Invasive micropapillary carcinoma:IMP)です。このようなタイプは以前からあったのですが、規約上は特殊型の中には分類されておらず、ようやく前回(第16版)の乳癌取扱い規約から新たに加わりました。

この組織型の特徴は、偽乳頭状あるいは微小腺管構造を示すがん細胞の集塊が間質の隙間に浮いたような状態で見えることです。ちょっとわかりにくいと思いますので顕微鏡所見はhttp://nyugan.info/tt/qa/q2_07.htmlをご参照下さい。

また脈管侵襲(リンパ管や静脈内にがん細胞が入り込むこと)をきたしやすいため、臨床的な特徴として高率にリンパ節転移を伴うことが多く、術後の早期再発も多いということが挙げられます。ですから一般的には悪性度が高く、予後が悪いと言われることが多いのです。

しかし、検診や定期フォローの超音波検査などで比較的早い時期にIMPが診断されることも時々あります。浸潤径が2cm以下でリンパ節転移がなく、画像的に遠隔転移がない場合はⅠ期ですが、Ⅰ期のIMPと診断され、ホルモン受容体が陽性でHER2が陰性、Ki-67も高くない場合(いわゆるLuminal A)に術後補助療法をどうするべきか迷ったことがありました。

一般的にLuminal Aでリンパ節転移もなければ、ホルモン療法のみというのが今の標準的な治療方針です。ただ、悪性度が高く予後不良なIMPですので特別な判断が必要なのではないかという考え方もあるかもしれません。しかし、G病院のご高名なI先生に電話でお聞きしたところ、”IMPが予後不良と言われるのは高率にリンパ節転移をきたすからであって、リンパ節転移がないのであれば一般的な補助療法と同じ考え方で今のところは良いと考えられます”というお答えでした。

その後私の施設ではリンパ節転移のない、Luminal Aの患者さん2人に対してホルモン療法のみで経過観察中ですが今のところ再発はありません。今後症例を集積していけば、この組織型に対する適切な補助療法の考え方が確立されてくるかもしれませんが、今のところはIMPだからといって特別な治療を行なう必要はないようです。

2012年12月5日水曜日

2012年 がんの臨床成果トップ5(ASCO)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が、2012年のがん治療の向上に寄与した成果をまとめた年報“Clinical Cancer Advances 2012”を発行しました。この中に記載されている今年の主ながん臨床の成果トップ5のうち、2つは乳がんの新薬に関するものでした。概要は以下の通りです。

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その1>
閉経後HER2陽性乳がんに対するホルモン+化学療法(トラスツズマブ+ドセタキセル)へのpertuzumab上乗せによる無増悪生存期間の有意な延長を確認(N Engl J Med 2012, 366: 109-119)

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その2>
“武装抗体(armed antibody)”または“smart bomb”と呼ばれる薬剤結合抗体(トラスツズマブDM1:T-DM1)。安定したリンカーによりトラスツズマブと化学療法剤DM1を結合した新しいタイプの薬剤。HER2陽性のがん細胞に届いて初めてDM1が放出されるため,他の細胞への影響が少ない。国際臨床第Ⅲ相試験の中間解析で対照群(カペシタビン+ラパチニブ)に比べ,生存期間中央値の延長が確認されている(N Engl J Med2012年10月1日オンライン版)

この2つに関してはこのブログでも取り上げましたが、やはり世界中の注目を浴びている新しい治療法と言えそうです。

また、ASCOの理事長であるSwain氏は,これまでのがん臨床の向上がもたらした成果について,
(1)米国では3人に2人はがんと診断されてから5年以上生存(1970年代には大体2人に1人)している。
(2)90年代以前は増加の一途をたどっていた全米のがんによる死亡の割合が同年代以降18%減少した。
(3)がんの症状コントロールや治療による有害事象が少なくなり、がん患者が活動的に生活できる機会が増加した。
という3点を挙げています。

(1)は、lead time bias(診断機器などの向上で早期に診断される機会が増えたために、見かけ上生存期間が延びているように見えるだけというbias)の可能性もありますが、(2)はこのbiasでは説明できません。喫煙率低下への取り組みなどのがん予防、早期発見・治療、そして治療法の向上がもたらした成果ではないかと思います(ただし、他の疾病による死亡の増加が関与している可能性もあるかもしれません)。また、(3)は、がんへの直接的な治療だけではなくQOLを重視することが患者さんへのmeritになっていることを示しています。

日本においても目標であるがん死亡率の低下を目指すためには何を改善すれば良いのか、私たち医療従事者、研究者が知恵をしぼりながら、国をあげて取り組まなければならない課題だと思います。

2012年12月3日月曜日

年末ラッシュ

最近、ちょっとあれこれやることが多くて、ブログはコメントへのお返事が精一杯な状況が続いています。今週一杯で少し楽になるかと思ったのですが、GセンターのT先生から依頼されていた臨床試験に関する件で、思っていた以上に重責のかかる仕事を頼まれてしまい、いま必死にそれをご辞退申し上げているところです。

そんなこんなで落ち着かない師走ですが、乳がん検診もここ1-2ヶ月ほど非常に増えています。クーポン持参者も増えていますが、企業検診、職員検診なども重なったようです。その検診受診者の中から最近立て続けに無症状の乳がんが見つかっています。検診を受けたきっかけはそれぞれですが、無症状のうちに見つかって本当に良かったと心から思います。

年内はこれらの患者さんの手術で埋まりそうです。年間件数もほぼ目標通りくらいかと思います。来年は新病院移転、N先生が研修から戻るということもあって、さらなる発展を目指せそうです。田舎の小さな病院ではありますが、もっと広い地域から多くの患者さんに来ていただけるような病院、乳腺センターになっていければいいなと思っています(ちょっと市内からの交通の便は悪いのですが高速道路のインターチェンジからはすぐなのです)。