2012年12月31日月曜日

大晦日

いよいよ今年もあと数時間です。紅白の合間で久しぶりにブログを更新しています。

前回ブログを更新してから親戚に不幸があったりしてばたばたしていました。今年を振り返ると、とても良いことは特にありませんでしたがとても悪いこともなかった、という1年だったなあと思います。乳腺センターの病棟移動、N先生の研修などでG先生にもかなり負担をかけながら夢中になっているうちにあっという間に過ぎてしまいました。とりあえず、スタッフが大病を患うこともなく元気で過ごせたことがなにより良かったと思います。N先生不在で危惧されていた手術症例数も目標をクリアできました。

来年はいよいよ新病院に移動になります。長年の念願だった放射線治療ができるようになり、ステレオガイド下生検も可能になります。4月に戻って来るN先生も一緒に更なる発展を目指して頑張りたいと思います。研修医の中には、乳腺外科を考えている先生もいるそうです。仲間が増えればやりたいことはまだまだたくさんあります。また夢が広がりそうでうれしい限りです!

それではみなさん、1年間お疲れさまでした。良い新年をお迎え下さい。

2012年12月24日月曜日

メリークリスマス(イヴ)!

今日はイヴですね。みなさん楽しくお過ごしでしょうか?私は年々クリスマスのウキウキした感じがなくなってきてなんとなくさみしいです(泣)

病院は土、日、月と3連休でしたが、G先生は22日の当直だったため22日と今日の回診は私でした。幸い病棟は術後患者さんも再発患者さんも落ち着いていて平穏な回診でした。クリスマスや正月を病院で過ごさなければならない患者さんたちは本当に気の毒です。来年まで待てない手術患者さんや、体調不良で入院してしまった再発患者さんたちですのでやむを得ないのですが、せめて気分だけでも、ということで病院では入院患者さんにちょっとだけいつもと違った食事が出たはずです。

明日は緩和ケア病棟ではクリスマス会が行なわれます。私は関連病院の外来があるので見に行けませんが、最近ちょっと元気をなくしている私がずっと外来で診ていた患者さんが少しでも元気になってくれたらと思っています。

それにしてもこれからの日本は心配です。福祉や医療、経済、原発、憲法、領土問題…あまりにも複雑な世の中になってしまったためにすべての人が幸せになるのはなかなか難しいですよね。人間の本質というのは善なのか悪なのか…そんなことを最近よく考えています。私は政治的なことをここに書くつもりはありませんが、ただただすべての人が健康で幸せな暮らしを送れるように祈っています。さだまさしの「遥かなるクリスマス」という曲を聴きながらふとそんな気持ちになりました。

それでは良いイヴをお過ごし下さい。

メリークリスマス!

2012年12月21日金曜日

乳癌の治療最新情報34 低用量エストロゲン療法

3年ほど前に「乳癌の治療最新情報6 ”エストロゲン”療法」(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2009/09/blog-post.html)の中でも書きましたが、内分泌療法(抗エストロゲン剤、アロマターゼ阻害剤)に抵抗性になった患者さんに少量のエストロゲンを投与すると腫瘍が縮小することがあることは以前から報告されていました。前回の報告は米国からのものでしたが、今回の報告は日本での臨床試験(フェーズ2)の中間報告です(第50回日本癌治療学会学術集会)。

概要は以下の通りです。

対象: 2010年10月から2012年2月までに登録したER陽性・HER2陰性で、内分泌療法(化学療法も含む)に無効となった閉経後乳がん患者15人。

方法: エチニルエストラジオール(EE2)を1日に3mgもしくは6mg投与(3mg投与3例中2例で効果が見られたため途中からは3mgの単独アームに変更)。主要評価項目は臨床的有効率(CBR)で、副次評価項目は有害事象、奏効率(ORR)、無増悪生存期間(PFS)、全生存期間(OS)など。

結果: 観察期間中央値 8.5カ月、年齢の中央値は63才(58-83才)。3例は内分泌関連症状のために早期中止。
4週間以上のEE2投与が可能だったのは12例で、PR(部分奏効) 53.3%、SD(不変) 20.0%、PD(増悪) 6.7%だった。治療開始4週間後には、血清エストラジオール濃度が上昇したほか、卵胞刺激ホルモン(FSH)濃度の低下が確認された。PRと、SDまたはPDにおけるホルモン環境に大きな違いは見られなかった。4週間以上投与できた患者12例中11例において、乳頭・乳輪の色素沈着、子宮内膜肥厚が確認された。グレード3以上の有害事象はなく、グレード2の悪心・嘔吐、膣分泌・出血が見られた。


通常、エストロゲンはER陽性乳がん細胞の増殖を促すため女性ホルモン剤の投与は禁忌とされています。今のところなぜ低用量エストロゲン療法がこのような患者さんたちに有効なのか、その作用機序は明らかになっていません。一定期間のエストロゲン枯渇療法後では腫瘍の遺伝子発現プロファイルが変化し、エストロゲンに対する反応が変化している可能性などが推測されているようです。

今後さらに症例を蓄積して低用量エストロゲン療法が有効な治療法であることが証明されると良いですね!

2012年12月20日木曜日

特殊型(b3) 浸潤性小葉がん…ホルモン治療抵抗性とレトロゾールの効果

乳がんの特殊型の中で比較的頻度が高いタイプの代表が、この浸潤性小葉がんです。乳腺内の小葉(乳管の一番奥=母乳を作るところ)から発生するがんですが、この組織型にはいくつかの特徴があります。

①欧米では比較的多い…以前は欧米では5-10%、日本では1-2%と言われていましたが、最近では日本でも増加傾向で、4-5%となっています。

②両側、多発傾向がある…乳房温存術の適応に関しては慎重に考える必要があります。

③乳腺内を微慢性に進展することが多く、しこりとしての自覚症状が出にくい(超音波検査でも乳腺症と診断されることがある)、乳房の縮小で発見されることがある、などの特徴があり、診断された時にはかなり進行していることも多い(見落としやすい組織型の一つ)と言われています。

④消化管への転移、がん性腹膜炎などの腹腔内転移は他の組織型では非常に稀ですが、浸潤性小葉がんは比較的起こしやすいと言われています。

⑤ホルモンレセプターの陽性率が高い…しかしその割にホルモン療法抵抗性の場合も多いと言われてきました(pseudo-positive=偽のER陽性 と言っていたDrもいました)。


今年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで、⑤に関連した浸潤性小葉がんの治療治療に関する報告がありました。これは、BIG 1-98 trialというレトロゾール(フェマーラ®)とタモキシフェンの有用性を比較した臨床試験のサブ解析です。

この報告の概要は以下の通りです。

対象と方法:
BIG 1-98 trial対象症例(閉経後ホルモンレセプター陽性乳がん)の中からER and/or PgR陽性でHER2陰性の症例を抽出し、浸潤性小葉がん(Lobular 2599例)と浸潤性乳管がん(乳頭腺管がん、充実腺管がん、硬がん)(Ductal 324例)の予後を比較(その他の組織型や中央病理診断でER/PgR、HER2、Ki-67が不明だった症例は除く)。

結果:
・サブタイプの比率は、LobularがLuminal A(一番おとなしいタイプ) 73.1%、Luminal B(HER2-)が26.9%、DuctalがLuminal A 55.3%、Luminal B(HER2-)が44.7%とLobularでLuminal Aの比率が高かった。
・無再発生存率、全生存率はレトロゾール群ではDuctalとLobularの間で差は見られなかったが、タモキシフェンではLobularの方が悪かった。

この結果は、つまり浸潤性小葉がんはER陽性率が高く、しかも一見おとなしいLuminal Aが多いけれど、タモキシフェンに対しては抵抗性を持っている(レトロゾールはどちらに対しても有効)ということを意味しています。やはり以前から私たち乳腺外科医が感じていた印象(浸潤性小葉がんにはホルモン療法が効きにくい…当時は術後ホルモン療法のほとんどはタモキシフェンでした)は正しかったということになります。

問題は、閉経前の患者さんにはレトロゾールは使用できないということです。LH-RH agonist(ゾラデックスやリュープリン)にアロマターゼ阻害剤を併用する臨床試験は、いまだになかなか良い結果が出てきませんが、浸潤性小葉がんに限定して行なえばもしかしたら非常に有益な結果が得られるのかもしれません。今後の研究に期待したいところです。

2012年12月19日水曜日

乳腺線維症(fibrous disease)

先日乳がん検診で要精検となって受診された患者さんですが、なかなか興味深い症例でした。

この患者さんは、マンモグラフィで2cm大くらいの腫瘤(大きさの割に中心濃度がさほど高くなく、一部脂肪を含むようにも見えたのでFAD(局所性非対称性陰影)とも取れる)を指摘されて受診されました。

注意深く触るとマンモグラフィの指摘部位に明らかな腫瘤を触れました。超音波検査では、その部位に一致して後方エコーの減弱(影を引く状態)を伴う病変を認めたのですが、超音波技師さん(今年から乳腺の研修を始めた若手のMさん)の診断は、腫瘍ではなく「乳腺線維症(fibrous disease)」というものでした。後方エコーの減弱を伴うがんの代表は硬がんや浸潤性小葉がんですが、たしかにそのいずれも典型的とは言えない画像でした。

しかし、触診とマンモグラフィであまりにも明らかな腫瘤像を呈していたため、念のために針生検を行なうことにしたのです(細胞診ではおそらく診断がつかないと考えて最初から針生検にしました)。で、その結果は…Mさんの診断通り、「乳腺線維症」でした!お見事です(笑)

若手の技師さんでこのような診断名を思い浮かべるのはなかなか難しいのではないかと思うのですが、よく鑑別診断の中にこの疾患が浮かんだものです。彼女曰く、糖尿病性乳腺症を思い浮かべたけれど、糖尿病が既往になかったのでこの診断名にしましたとのこと。普段はタイミングが合わなくてなかなか技師さんを褒めてあげる機会がないのですが、今回はたくさん褒めてあげました(笑)これをきっかけに自信つけて、さらに実力のある技師さんに育って欲しいと願っています。

さて、この「乳腺線維症(fibrous disease)」ですが、「乳腺症(mastopathy、fibrocystic disease)」や「乳腺線維腫症(fibromatosis)」「乳腺線維腺腫(fibroadenoma)」などとは名前は似ていますがまったく異なる病変です。乳癌取扱い規約では、「Ⅵ 腫瘍様病変」の中に乳管拡張症や過誤種、女性化乳房、副乳などとともに分類されています(腫瘍ではありません)。糖尿病性乳腺症もこの疾患の中に含まれます。なお、「線維化(fibrosis)」というのは疾患名ではなく、状態を表す用語です。線維化は乳腺症の病変内にもよく見られます。

病理学的には、線維化(または硝子化)した間質内に萎縮した小葉、乳管が散在性に存在する良性病変で、リンパ球の浸潤を伴うことが多いようです。時に触診や画像検査でも腫瘤として認識され、浸潤がんのように見えることもあります。その本体はほとんどが線維と脂肪ですので、細胞診をしても「検体不適正」(もしくは正常乳線組織)と判定されてしまいます。確定診断のためには組織診が必要です。

2012年12月17日月曜日

タモキシフェン長期投与の新しい知見

このブログを読んで下さっている読者の方々から時々あるご質問にタモキシフェン(TAM)の投与期間に関するものがあります。これまでの標準的な考え方は、TAM2年投与より5年投与の方が成績は良く、5年以上投与では5年投与に比べると上乗せ効果に乏しく(NSABP B-14、Scottish adjuvant tamoxifen)、子宮体がんなどの有害事象が増加するため、乳癌診療ガイドラインにおいても投与期間は5年間が推奨されるというものでしたので私もそれに基づいてお答えしてきました。

ただその一方で5年以上投与の有用性を報告した論文もありました(Eastern Cooperative Oncology Group)。また、TAM 5年以上投与が否定された上記の比較試験は、症例数が十分でなかったり、ホルモンレセプター(HR)が陽性ではない症例も含まれていたりという問題点がありました。そこでHR陽性症例に限定したATLASとaTTomという2つのTAM長期投与の有用性を評価する大規模比較試験が行なわれてきたのです。

今日見えたAZ社のMRさんが、今年のサンアントニオ乳がんシンポジウムで発表されたATLASの結果と論文を持ってきてくれました。この結果によると、6846人を対象とした平均8年間の比較で、再発率、乳がん死亡率ともに5年投与に比べて10年投与の方が有意に低下していたそうです(特に投与開始後10年以上たってから有意差が出た)。心配された子宮体がんと血栓症による死亡率の絶対値の増加は5年投与に比べて0.2%に留まり、乳がん死亡率の減少効果(同3%)に比べるとはるかに少ないということです。この結果をEBCTCGのmeta-analysis(TAM 非投与 vs TAM 5年投与)と組み合わせると、TAMを10年投与した場合のTAM非投与に比べた投与開始後15年時点での乳がん死亡率の減少(12%)は、子宮体がん、血栓症による死亡率の増加(0.4%)の30倍と推定されるという結果でした。

簡単にまとめると、ホルモンレセプター陽性乳がんに対するTAMの投与期間を5年と10年とで比べると、子宮体がんなどによる死亡率はわずかに増加するが、乳がん死亡率の減少効果ははるかにそのリスクを上回るということです。

aTTom(以前の中間報告ではATLASほどの有益性は出ていなかったようですが…)の最終報告が出るのは来年のようです。おそらく来年のSt.Gallen 2013ではまだこの結果が反映されることはないと思いますが、その次のSt.Gallen 2015ではもしかしたらTAMの投与期間は10年が推奨されることになるかもしれません。ただ閉経期・閉経後の患者さんではTAM 5年→アロマターゼ阻害剤(AI) 5年、またはAI 10年が推奨される可能性もありますので、閉経前の患者さんやAIが使用できない患者さんが主な対象になるのかもしれませんね。古いけれど安くて良い薬剤としてタモキシフェンが見直される時期が来るのかもしれません。

2012年12月12日水曜日

家庭用医療機器の無料体験にご注意!

今日、乳がんの再発で通院中の患者さんから家庭用医療機器についてのご相談がありました。内容の概略は以下の通りです。

・ご家族の勧めで期間限定で無料で体験できる家庭用医療機器のデモを行なっている施設に通っていた。
・この器具をお腹に当てると血流が良くなる。
・自分は乳がんの再発治療中であることを販売員には話してある。
・その販売員は、印刷された体験者の紙を見せながら(店内に貼ってあるそうです)、”この方は某病院の看護師で、足の裏にがんができたがこの治療で消えた””この方は治療で血液のデータ(脂質など)が良くなった”などと説明し、”でも私の口からは○○に効果があるとは言えないんですよ、薬事法違反になるので…。”と話していた。
・一緒に体験している人たちは、”これで白髪が黒髪に変わった””膝の痛みが楽になった”と話している。
・この機器は、55万円と高価なのでどうしようかと迷っている。

というようなお話でした。私は”ネットで調べてみます”とお伝えして時間をいただき、その会社と製品について調べてみました。

その施設は、ある健康器具・医療機器販売会社の販売促進目的の無料体験施設で、それ自体はネットでも紹介してあり、怪しい印象はありませんでした。またその器具の製造会社も一定の歴史があり、治療院や病院にも機器を販売している実績のある会社で、その製品も医療機器の承認を受けたもので、いわゆるインチキ商品ではありませんでした。詐欺やインチキ商法との関連も調べてみましたが、はっきりした情報はありませんでした。ただ、”無料体験と称して客を集め、高額な商品を強引に売りつけるトラブルが起きているので注意が必要”という記載はありました。

この製品の効能は、”疲労回復、血行を良くする、筋肉のコリをほぐす、神経痛・筋肉痛の痛みの緩解、胃腸の働きを活発にする、筋肉の疲れをとる”と書いてあります(同じような内容を別の効果のように書いている印象を受けますが…)。もちろん、”がんに有効”とか”血液データを改善する”などの効果についての記載はありません。

一般的な健康器具は、薬事法の制限を受けます。基本的には”体内変化についての効能を記載することは薬事法に抵触する”ので、”肩こりに効く、痛みが軽減する、血液をさらさらにする、血流を良くする”などの文言は健康器具には表示できません。しかし、この製品のように承認を受けた医療機器の場合は、このような認可された効能を書いても問題はありません。

しかし、今回のケースの一番の問題点は、”商品の効能に記載されていない効果をさりげなく示唆し、購買意欲をかきたてている”ように思えることだと思います。つまり、製造会社や商品自体は問題ありませんが、製品の紹介・販売方法に問題があるのではないかと思うのです。

”この製品は、このような効能しか書いておらず、血液データの改善はもちろん、がんの治療として期待できるようなものではありません。もし、腰痛などの治療目的として55万円払っても良いのであれば購入するのはかまいませんが、がんの治療効果を期待して買うことはお勧めできません。”とその患者さんにはご説明しました。

美顔器や水道水の浄化装置、磁気まくら、磁気ネックレスなど、健康関連グッズはいま大変人気です。しかし、これらはすべて法の管理の元にあり、効能の表示には制限があります。医療機器の承認を受けていない健康器具なのに効能をうたっていたり、表示を許可されている以外の効果(動物実験レベルでも)を口頭やポスター、チラシ(体験談など)などで説明しているような場合は信頼できないと考える方が無難のようです(特に法外な値段の場合は怪しいケースが多いです)。

2012年12月11日火曜日

特殊型(b11) 浸潤性微小乳頭がん

乳がんの特殊型の中で悪性度が高いタイプの1つと言われているのが、”浸潤性微小乳頭がん(Invasive micropapillary carcinoma:IMP)です。このようなタイプは以前からあったのですが、規約上は特殊型の中には分類されておらず、ようやく前回(第16版)の乳癌取扱い規約から新たに加わりました。

この組織型の特徴は、偽乳頭状あるいは微小腺管構造を示すがん細胞の集塊が間質の隙間に浮いたような状態で見えることです。ちょっとわかりにくいと思いますので顕微鏡所見はhttp://nyugan.info/tt/qa/q2_07.htmlをご参照下さい。

また脈管侵襲(リンパ管や静脈内にがん細胞が入り込むこと)をきたしやすいため、臨床的な特徴として高率にリンパ節転移を伴うことが多く、術後の早期再発も多いということが挙げられます。ですから一般的には悪性度が高く、予後が悪いと言われることが多いのです。

しかし、検診や定期フォローの超音波検査などで比較的早い時期にIMPが診断されることも時々あります。浸潤径が2cm以下でリンパ節転移がなく、画像的に遠隔転移がない場合はⅠ期ですが、Ⅰ期のIMPと診断され、ホルモン受容体が陽性でHER2が陰性、Ki-67も高くない場合(いわゆるLuminal A)に術後補助療法をどうするべきか迷ったことがありました。

一般的にLuminal Aでリンパ節転移もなければ、ホルモン療法のみというのが今の標準的な治療方針です。ただ、悪性度が高く予後不良なIMPですので特別な判断が必要なのではないかという考え方もあるかもしれません。しかし、G病院のご高名なI先生に電話でお聞きしたところ、”IMPが予後不良と言われるのは高率にリンパ節転移をきたすからであって、リンパ節転移がないのであれば一般的な補助療法と同じ考え方で今のところは良いと考えられます”というお答えでした。

その後私の施設ではリンパ節転移のない、Luminal Aの患者さん2人に対してホルモン療法のみで経過観察中ですが今のところ再発はありません。今後症例を集積していけば、この組織型に対する適切な補助療法の考え方が確立されてくるかもしれませんが、今のところはIMPだからといって特別な治療を行なう必要はないようです。

2012年12月5日水曜日

2012年 がんの臨床成果トップ5(ASCO)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が、2012年のがん治療の向上に寄与した成果をまとめた年報“Clinical Cancer Advances 2012”を発行しました。この中に記載されている今年の主ながん臨床の成果トップ5のうち、2つは乳がんの新薬に関するものでした。概要は以下の通りです。

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その1>
閉経後HER2陽性乳がんに対するホルモン+化学療法(トラスツズマブ+ドセタキセル)へのpertuzumab上乗せによる無増悪生存期間の有意な延長を確認(N Engl J Med 2012, 366: 109-119)

<進行乳がんの進行を遅延させる新たな治療法その2>
“武装抗体(armed antibody)”または“smart bomb”と呼ばれる薬剤結合抗体(トラスツズマブDM1:T-DM1)。安定したリンカーによりトラスツズマブと化学療法剤DM1を結合した新しいタイプの薬剤。HER2陽性のがん細胞に届いて初めてDM1が放出されるため,他の細胞への影響が少ない。国際臨床第Ⅲ相試験の中間解析で対照群(カペシタビン+ラパチニブ)に比べ,生存期間中央値の延長が確認されている(N Engl J Med2012年10月1日オンライン版)

この2つに関してはこのブログでも取り上げましたが、やはり世界中の注目を浴びている新しい治療法と言えそうです。

また、ASCOの理事長であるSwain氏は,これまでのがん臨床の向上がもたらした成果について,
(1)米国では3人に2人はがんと診断されてから5年以上生存(1970年代には大体2人に1人)している。
(2)90年代以前は増加の一途をたどっていた全米のがんによる死亡の割合が同年代以降18%減少した。
(3)がんの症状コントロールや治療による有害事象が少なくなり、がん患者が活動的に生活できる機会が増加した。
という3点を挙げています。

(1)は、lead time bias(診断機器などの向上で早期に診断される機会が増えたために、見かけ上生存期間が延びているように見えるだけというbias)の可能性もありますが、(2)はこのbiasでは説明できません。喫煙率低下への取り組みなどのがん予防、早期発見・治療、そして治療法の向上がもたらした成果ではないかと思います(ただし、他の疾病による死亡の増加が関与している可能性もあるかもしれません)。また、(3)は、がんへの直接的な治療だけではなくQOLを重視することが患者さんへのmeritになっていることを示しています。

日本においても目標であるがん死亡率の低下を目指すためには何を改善すれば良いのか、私たち医療従事者、研究者が知恵をしぼりながら、国をあげて取り組まなければならない課題だと思います。

2012年12月3日月曜日

年末ラッシュ

最近、ちょっとあれこれやることが多くて、ブログはコメントへのお返事が精一杯な状況が続いています。今週一杯で少し楽になるかと思ったのですが、GセンターのT先生から依頼されていた臨床試験に関する件で、思っていた以上に重責のかかる仕事を頼まれてしまい、いま必死にそれをご辞退申し上げているところです。

そんなこんなで落ち着かない師走ですが、乳がん検診もここ1-2ヶ月ほど非常に増えています。クーポン持参者も増えていますが、企業検診、職員検診なども重なったようです。その検診受診者の中から最近立て続けに無症状の乳がんが見つかっています。検診を受けたきっかけはそれぞれですが、無症状のうちに見つかって本当に良かったと心から思います。

年内はこれらの患者さんの手術で埋まりそうです。年間件数もほぼ目標通りくらいかと思います。来年は新病院移転、N先生が研修から戻るということもあって、さらなる発展を目指せそうです。田舎の小さな病院ではありますが、もっと広い地域から多くの患者さんに来ていただけるような病院、乳腺センターになっていければいいなと思っています(ちょっと市内からの交通の便は悪いのですが高速道路のインターチェンジからはすぐなのです)。

2012年11月28日水曜日

乳腺術後症例検討会 23 ”年内最後”

今日は定例の症例検討会がありました。来月は年末にかかるということで今日が2012年最後の症例検討会ということになりました。

今回は3症例の提示・検討と先日の乳癌検診学会の報告を行ないました。

症例は、3例中2例は比較的典型的な乳がん症例、1例が微細石灰化(マンモトーム生検後)の経過観察中に対側に新たな病変が出現して非浸潤がんを疑いましたが乳腺症(duct papillomatpsis&adenosis)だった症例でした。

検診学会の報告は、発表したN技師さんが公休で不在だったため私が学会中に撮影した写真も追加して行ないました。体調が良ければもっと楽しめたのですが、それでも沖縄は暖かくて良かったです。ここ数日の札幌の悪天候を見ているとあの暑さが懐かしいです(泣)。

”豆腐よう”の味の印象については異議が続出しました(汗)私はおいしいと思うのですが、食べたことのある技師さんたちは、”先生は風邪を引いていて味覚がおかしかったからだ”などと主張していました。でも本当においしかったんです!店の名前は忘れてしまいましたがまた食べたいです。豆腐ようを食べた方がいらっしゃったら感想を募集します(もちろん沖縄の方のご意見も大歓迎です)!

来月はもし日程の調整がつけば少人数でも乳腺グループの忘年会をしたいなと思っています。関連病院の検査主任のEさん、よろしくお願いします!

2012年11月26日月曜日

デノスマブ(ランマーク®)投与患者さんへのカルシウム製剤提供に関する情報

以前から何度かここで取り上げていますが、骨転移治療薬のランマークが発売されてから重篤な低カルシウム血症の報告が続いたため、ブルーレター(注意喚起)が出されています。この中では、予防策として「少なくともカルシウムを500mg、天然型ビタミンDを400IU、毎日服用する」ように記載されています。

しかし、天然型ビタミンDは保険収載されておらず、いわゆるサプリメントとして薬局から購入しなければなりません。サプリメントはカルシウムやビタミンDの含有量がバラバラなため、実際は処方可能な活性型ビタミンD(アルファロールなど)が処方されているケースも多かったと思います。なぜ国内で処方できない天然型ビタミンDを推奨しているのかという理由は、臨床試験が天然型ビタミンDを併用して行なわれていたからです。

この矛盾を解決するために、ランマーク投与中の患者さんに必要量の天然型ビタミンDとカルシウムを含有する製剤(”新カルシチュウ®D3”)を発売元の製薬会社が無償提供することになったそうです。今日MRの方がその報告にいらっしゃいました。

保険診療を行なっている私たちが、保険外の一般用医薬品の服用を勧めるという何とも言えない違和感はありますが、患者さんの自己負担と利便性を考えると良かったのではないかと思います。ただ、現在ランマークを投与中で活性型ビタミンDの処方を受けてカルシウム値が安定している患者さんについては、この製剤に切り替える時にはより慎重に行なう必要があります。また、腎障害がある患者さんは活性型でなければ十分な効果が得られませんので保険で活性型ビタミンDの処方を受ける必要があります。

その後は新たな低カルシウム血症の報告は届いていませんが、実際どの程度の頻度なのか気になります。市販後の追跡調査の結果を待ちたいと思います。

2012年11月21日水曜日

乳癌の治療最新情報34 TDM-1

以前にもご紹介しましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/07/18adc.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/10/adc.html)、トラスツズマブエムタンシン(TDM-1)の臨床試験の結果についての続報が届きました。

トラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)は、HER2陽性乳がんに対してタキサン系抗がん剤と併用するのが第1選択ですが、この治療に抵抗性のケース(もしくは治療後に再発した場合)では、トラスツズマブにビノレルビン(商品名 ナベルビン)を組み合わせるか、ラパチニブ(商品名 タイケルブ)+カペシタビン(商品名 ゼローダ)を投与するかが一般的な次の治療法です。しかし、なかなか十分な効果を得られない場合も多く、ラパチニブは他剤との併用は認めていないこと、トラスツズマブとその他の抗がん剤との組み合わせについては十分なデータはないことから、手探りで治療を行なわざるを得ないのが現状です。

TDM-1は、抗体医薬品トラスツズマブと抗がん剤のDM1が結合した抗体薬物複合体(ADC)です。今回、カナダのEMILIA試験グループによるTDM-1の有効性と安全性を検討した第3相無作為化試験(国際多施設共同無作為化オープンラベル試験)の結果が、NEJM誌2012年11月8日号(オンライン版2012年10月1日号)で発表されました(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1209124)。概要は以下の通りです。


<EMILIA試験>

対象:2009年2月~2011年10月に、26ヵ国213施設から被験者を登録。トラスツズマブとタキサン系薬剤による治療歴のあるHER2陽性進行性乳がん患者991例を対象とし、TDM-1群とラパチニブ+カペシタビン群に無作為に割り付けた。

方法:主要エンドポイントを独立審査委員会が評価した無増悪生存期間、全生存期間、安全性、副次エンドポイントを試験担当医が評価した無増悪生存期間、客観的な奏効率、症状増悪までの期間とし、全生存期間中の中間解析は2回行った。

結果:
〜主要エンドポイント〜
①無増悪生存期間中央値 DM-1群 9.6ヵ月 vs ラパチニブ+カペシタビン群 6.4ヵ月(TDM-1群の増悪・全死因死亡ハザード比は0.65[95%信頼区間(CI):0.55~0.77、p<0.001])。
②全生存期間中央値(2回目中間解析時点) 有効性の中止基準を超えた30.9ヵ月 vs. 25.1ヵ月であった(全死因死亡ハザード比は0.68[95%CI:0.55~0.85、p<0.001])。
③安全性 グレード3または4の有害事象発生率はラパチニブ+カペシタビン群のほうが高かった(57%vs. 41%)。TDM-1群の発生が高率だったのは、血小板減少症、血清アミノトランスフェラーゼ値上昇で、下痢、悪心、嘔吐、手掌・足底発赤知覚不全発生率はラパチニブ+カペシタビン群で高率だった。

〜副次エンドポイント〜
客観的奏効率はTDM-1群のほうが有意に高く(43.6%vs. 30.8%、p<0.001)、試験担当医が評価した無増悪生存期間(p<0.001)、症状増悪までの期間(12.6ヵ月vs. 6.5ヵ月)などその他の副次エンドポイントもすべてTDM-1群のほうが良好だった。

これらの結果からは、安全性、有効性ともに進行・再発HER2陽性乳がんの新たな治療薬として十分に期待が持てそうです。もちろん、新薬ですので慎重に判断しなければなりませんが、このデータ通りなのであれば早く患者さんに使えるようになって欲しいものです。

2012年11月18日日曜日

日曜検診〜要精検で未受診でまた検診…

今日の札幌は午前は大雨と風、午後からはみぞれから雪に変わって雷も鳴る大荒れの天気でしたが、関連病院の乳がん検診に行ってきました。

一般検診と一緒に行なうため、受診者はあちこちまわるので乳がん検診に来るタイミングもばらばらでけっこう暇な検診でした。それでも悪天候にも関わらず。ほぼ予定通りの受診者数で昼前くらいに終わりました。

今日も1人いらっしゃったのですが、前回の検診で「要精検」と判定され、何度も電話やはがきで受診を促したにもかかわらず連絡がなかった方が、何ごともなかったかのように再び検診として来院されることがあります。

他の施設で精検を受けた場合は良いのですが(この場合は精検施設から結果が送られて来るはずなのですが来ないこともあります)、どこにも行っていないという方もいらっしゃいます。

”なぜ検査を受けに来なかったのですか?”

とお聞きすると、

「症状がなかったから何ともないと思った」
「自分の家系には乳がんはいないから大丈夫だと思った」
「以前も引っかかったけどなんともなかったので今回もそうだと思った」

というような返事が返ってくることがあります。

「ではなんのために検診を受けているのですか?がんではない、がんにはならないと思っていらっしゃっていて、精査が必要と判断されても検査を受けに来ないなら検診を受ける意味がないのではないですか?」

そうするとようやくご自分でも矛盾していることに気づいてくれて検査を受けることの意味を理解して下さいます。こちらは常識だと考えていることも、一般の方にとっては少しニュアンスが違うことがあるということをこういう時に思い知らされます。検診結果をお返しする時には、もっと丁寧な説明が必要なのかもしれないと今日も感じました。

2012年11月14日水曜日

米国では早期乳がんに対する乳房切除術が再増加傾向

Annals of surgical oncology誌オンライン版2012年11月8日号に発表された米国テキサス大学MDアンダーソンがんセンターからの報告によると、2005年以降の早期乳がんに対する乳房切除術の割合は、2000-2005年までの減少傾向から一転して増加しているということです(2000年 40.1%→2005年 35.6%→2008年 38.4%)。

いくつかの大規模な臨床試験において、乳房全摘術と乳房温存術(+乳房照射)の間で生存率に差がないことが報告されて以降、乳房温存術の割合は増加し、ぞの適応も拡大されてきました。乳房温存術の割合が高い病院が良い病院というマスコミの取り上げ方は日本においてもみられますが、おそらく米国においてもそのような傾向があったのでしょう。その結果、以前にここでも取り上げましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/02/blog-post_14.html)、乳房内再発率が非常に高くなってしまい、そのリスクを恐れて、また乳房温存術が減少して乳房切除術の割合が増えてきたということなのではないかと推測します。

日本では、まだそのことが大きな問題にはなっていないようですが、乳房温存術の普及が欧米より10年遅れたのと同様に、そのことが問題化するのも遅れるのかもしれません。なんでも温存すれば良いという考え方には私は同意できません。無理して温存するくらいなら、乳房全摘後に再建する方が根治の点でも美容上の点でも良いと考えるからです。やはり適応を守って、きちんと断端陰性になることを目指した手術を第1に考えるべきではないかと思います。

私たちは術式の説明の際に、”乳房温存術は乳房全摘術と比べると局所再発率は高いが、生存率には差がない”という表現をよく用います。これは臨床試験でも証明されていますので正しいです。では、”乳房内に再発しても全摘術を行なえば根治可能なのではじめから全摘するのと生存率は変わらない”という表現は正しいでしょうか?

これはある病院のHPに書かれていた内容です。一見上の説明と合致しているので正しいように思うかもしれませんがこれは正しいとは言えません。局所再発した患者さんたちだけを対象に見てみると、局所再発していない患者さんたちに比べると生存率が低下するという報告があるからです。局所再発した患者さんたちのすべてではありませんが、多くの患者さんは最初から全摘していれば局所再発はしなかった可能性が高いはずです。つまり、最初に全摘していれば局所再発しなかった→予後を悪化させなかった可能性がある、ということになります。

ではなぜ臨床試験では2つの術式に生存率の差が出なかったのでしょうか?それは臨床試験では、適応がきちんとしていたので、全体に占める局所再発の率が低かったからだと思います。局所再発しない患者さんの割合が多ければ、局所再発した患者さんが予後を少し悪化させてもその影響は非常に小さいものになりますので、全体を比べた場合には有意差となっては出てきません。それが全体の3割近く局所再発するような適応拡大と切除法(美容を重視しすぎるために起きる断端の不十分な確保)を行なえば、予後に影響が出る可能性は否定できません。

ですからなんでもやみくもに温存をすることはお勧めできないのです。断端陽性(非浸潤がんの遺残)でも放射線をかけちゃえば大丈夫、万が一再発したらその時に切除をすればいい、という安易な考え方は危険だと私は考えています。

また、最近さかんに行なわれている術前化学療法ですが、効果が見られると乳房温存術の恩恵を受けられると積極的に勧めている傾向が見られます。これにも注意が必要です。術前化学療法で効果が見られた場合、乳房全摘術の予定から乳房温存術に変更するのにもっとも適しているのは、膨張性発育をする充実腺管がんのようなタイプです。乳管内を進展する乳頭腺管がんのようなタイプは縮小してもがんの範囲自体はあまり変わらないことも多いので、超音波検査で見える縮小した腫瘤の範囲を指標に切除するとがんが残ってしまう可能性があります。こういう点に注意しながら温存術の適応を慎重に判断しなければ、局所再発率が高くなってしまうかもしれません。

もちろん、術前治療によって乳房温存術の恩恵を受けられるようになることは女性にとってうれしいことだとは思いますが、できる限りがんを残さないように切除するという慎重な姿勢を乳腺外科医が守らなければ10年後には日本でも局所再発率の増加が問題になってくるかもしれません。私はそのことを少し危惧しています。

2012年11月11日日曜日

第22回 日本乳癌検診学会学術総会 in 沖縄!


体調が悪かったためにちょっと大変でしたがなんとか無事に沖縄から帰ってきました。冬期間は札幌-沖縄直行便があるので移動自体は乗り継ぎに比べると楽でしたが(それでも3時間半くらいかかります)、鼻水・鼻づまり状態での気圧の変化はけっこうこたえました。

学会自体は、内容的にはとくに目新しいことはあまりなかったような気がします。G先生は、S社の超音波検査の新しい装置の機能に興味津々なようでした。G病院でお世話になった検査技師のSさんが司会をされた超音波検査の症例検討はなかなか興味深くて面白かったです。

私たちの施設から唯一発表した検査技師のNさんは、症例報告ではありましたが堂々とした良い発表でした。4年連続なのでかなり慣れてきたようです。座長の先生からも珍しい症例ですね、と言われました。来年はもっと多くの技師さんたちに参加してもらいたいと思っています。

せっかくの沖縄だったのですが日程的にはかなり厳しかったので、遠くまで観光に行く時間は取れませんでした。それでも初日の空き時間に会場から割と近い首里城まで行ってきました(写真)。

私自身は3回目の訪問ですが、初回の時もだったのですが、今回も首里城はあちこちで修繕工事中でした…(泣)。守礼門もネットがかけてあって残念な状態でした。本殿は普通に入れましたが、すぐ横でも工事をしていました。

また、学会会場の沖縄コンベンションセンターのすぐ裏側はビーチになっています。空き時間に行ってみましたが、海水浴は10月までということで泳いでいる人はいませんでしたが、北海道人なら問題なく泳げそうな陽気でした。G先生がビーチをバックに私の記念写真を撮ってくれました(笑)。



夜は毎晩沖縄料理を味わってきました。体調が悪かったのでうっちん茶やハブ酒も飲んでみたりしました(笑)。海ブドウやソーキそば、沖縄そば(この2つの区別が今回初めてわかりました)やチャンプルーは今までも食べていますが、今回の驚きは、”豆腐よう”でした(写真…ちょっと暗いですが…しかも食べかけ…笑)。

かなりくせがあるとお店の人にも言われていましたが、勇気を出して注文してみると…私ははまりそうな感じでした!瓶詰めの練りウニのような風味でもあり、泡盛が入っているせいかロイズのブランデーの生チョコみたいな味(表現が適切かどうかはわかりませんが)でした。また食べてみたいです!

あっという間に終わってしまいましたが沖縄はやっぱりいいです!お土産屋さんに行くと欲しい物がいっぱいあって困りました。毎年来れるものなら来たいです。その一方で、帰りに寄った那覇市歴史博物館で沖縄の歴史を詳しく知ることができ、中国や日本、そしてアメリカに翻弄されてきた琉球という場所に、とても複雑な思いも抱きました。沖縄という美しい場所が、いつまでも美しいままでありますように、そして心優しい温厚な沖縄の人々がいつも笑顔でいられますように、と心から願いながら帰ってきました。


2012年11月7日水曜日

明日から沖縄!〜第22回日本乳癌検診学会学術総会

こちらはすっかり寒くなってきました。おまけに雨続きで気分もうつうつします…(泣)。さらにいつまでたっても風邪は治らず…。不摂生のせいでしょうか?

明日からは日本乳癌検診学会学術総会で沖縄出張です。暖かいところに行ったら体調が良くなるのではないかと期待しています(逆に悪化するかもしれませんが…)。

さて今回の学会では、私は発表がありません。いつもこの学会は超音波技師さんや放射線技師さんたちの発表の場として位置づけています。昨年は発表が多かったのですが、今回は超音波技師のNさんの1題だけ…。ちょっとさみしいです。関連病院からの発表がないので参加するのは私とG先生とNさんだけです。

Nさんの発表は2日目の土曜日です。明日の到着は4時くらいですので那覇市内くらいは少し観光できるかもしれません。学会会場はホテルのある那覇市からシャトルバスで30分くらいのところにある宜野湾市の沖縄コンベンションセンターです。オスプレイの配備で問題になっている普天間飛行場はすぐ近くです。近くに観光できるような場所はなさそうですので、会場に行ってしまえばずっと中にいることになりそうです。

「乳がん検診」という狭いテーマなのになぜ学会として成立しているのか、昔から疑問に思っていました(でも学会としては乳癌学会よりも設立が早いのです)。乳がん検診に関する内容となれば画像診断中心の発表になってしまうので毎年どうしても似たようなテーマのセッションになってしまいます。ただ今回の乳癌検診学会では、ちょっと変わったセッションもあるようですので楽しみにしています。

それではしばらくブログはおやすみします!(ホテルでPCを借りれたら更新するかもしれませんが…笑)

2012年11月5日月曜日

患者会との懇談

今日、午後から患者会の幹事のみなさんと懇談の時間を持ちました。患者会では病院別館の会議室を月1回利用してお茶を飲みながら交流を深める場を設けています(”お茶懇”と呼んでいます)。いつも来るように言われているのですが、勤務時間内ということと月1回なのでついつい忘れてしまうということもあって、ごくたまにしか顔を出すことができていませんでした。

今回は、患者会のみなさんと話し合わなければならないこともありましたので私の方から時間を指定して集まっていただきました。先日の温泉旅行で何人かの患者さんとお話をしていた際にいくつか提案があったこと(これは私も以前から考えていたことと共通した内容でした)、来春の新病院移転を契機にして、患者会のさらなるステップアップの機会にして欲しいことなどを提案しました。

なかなか全員の前では話しにくい内容もあったのですが、皆さん熱心に耳を傾け、考えを述べてくれました。私や先日提起してくれた患者さんが考えていたことを同じような視点で捉えていてくれたようでしたのでほっとしました。そして、新病院のがんサロンの利用法なども工夫しながら、今後、どうしても受け身がちにならざるを得なかった患者会から、積極的に自分たち以外の人々へのアプローチ(まずは院内の新規乳がん患者さんたちからですが、いずれは院外の一般の人々への啓発活動などに発展して行くように)ができるような患者会に進化していってくれることをお願いしました。

懇談は1時間の予定でしたがいつの間にか2時間もたっていました。なかなか聞けない患者さんたちの思いを聞くことができてとても有意義な時間でした。これから新病院への移転に向けて患者会の皆さんと話し合わなければならないことはたくさん出て来ると思います。今後もできる限り”お茶懇”に参加しようと思っています。

2012年11月4日日曜日

乳がん学術講演会〜看護師、薬剤師の役割

昨日、市内某ホテルでS社主催の学術講演会がありました。

今回はS社製品の抗がん剤関連の多剤併用療法についての講演の他に乳がん看護認定看護師とがん専門薬剤師の方をお招きしてそれぞれの立場から役割と問題点についての講演がありました。

時間ギリギリに着いたら会場はびっしりでした。通常の研究会ではここまで埋まっていることは最近では少ないのですが、よく見ると圧倒的に看護師(おそらく薬剤師も)さんと思われる女性が多いことに気づきました。

一応、以前に化学療法室の看護師さんにこの会のお話はしたのですが、昨日は祝日だったのでしつこく誘いにくかったことと、看護師さんを連れて行っても良いのかどうかがMRさんに確認が取れていなかったため、そのままになってしまいました。しまった…。これならもっと強く誘えば良かったです(泣)。薬剤師さんには声をかけることすら忘れてました(汗)。

さて、その話の内容ですが、やはり看護師さん、薬剤師さんならではの視点でのお話を聞けて良かったです。

認定看護師さんからは、チーム医療の考え方や認定看護師のシステムなどのお話がありましたが、私が一番印象に残ったのは、最後の医師へのお願いのところで「看護師を褒めてあげて下さい」とおっしゃっていたことです。そういえば最近はあまり褒めてあげていなかったなあ。どうしても問題点ばかり目について、より良い医療を追求するがためについつい厳しいことしか言ってこなかったような気がします。心に余裕がないとどうしてもそうなってしまいます。明日からは心を入れ替えて褒めてあげるようにしよう!と思っています(笑)。

認定薬剤師さんのお話では、電子カルテ導入によってレジメンのオーダーミスがほとんどなくなると思っていたけれど、実際調べてみるとかなりの件数が発生していたことがわかった、これらを防ぐためには薬剤師が積極的にチェックしていくシステムが大切だとおっしゃったことが印象に残りました。医療ミスというのは、一つの間違いではほとんど発生しません。実際に起きた事例では、いくつものミスが重なって起きています。これはオーダーの電子化だけでは防ぐことは不可能で、やはり二重、三重以上の人間によるチェック機構が大切だということです。私の施設でも化学療法を施行する時には、オーダーする医師、調剤する薬剤師、投与する看護師(ダブルチェック)によってチェックしていますが、それでも細かいミスは起きてしまいます。その都度カンファレンスを行なって同じミスが起きないような改善を行なってきています。

ただ人が入れ替われば、また同じことが起きやすくなってしまいますので、こういう時にこそ、認定看護師や薬剤師さんたちが力を発揮して医療の質が低下しないようにしていっていただければと思っています。私たちも彼らと協力して医療の質をより高め、安全性を追求していけるようにチームとして努力していきたいと思っています。

2012年10月28日日曜日

患者会温泉旅行 in ニセコ 2012

ニセコの温泉旅行から今日、無事に帰ってきました。

今日は途中から雨が降ってしまいましたが、昨日は快晴で羊蹄山もとてもきれいでした(写真)。

紅葉の中山峠(ちょっと休憩)を越えて、車で移動していたG先生と真狩道の駅で合流。そしてダチョウ牧場に寄りました(写真)。

私は何度もニセコには来ていますが、ここは初めてでした。たくさんのダチョウが放牧されていて、売っていたエサをあげたのですが、大きなダチョウは食べ方も激しくG先生は指をかまれていました(汗)。幼鳥はつつき方もソフトでなかなかかわいらしかったです(笑)。患者さんたちも楽しめたようです。

そこからミルク工房に寄ってアイスを食べてから宿泊場所のニセコグランドホテルに到着しました。到着後に数人で近くを散歩していたら、温泉が吹き出している場所がありました。ここは温泉付きで土地を売っているようです。思わず欲しくなってしまいましたが、宝くじにでも当たらない限り無理そうです(泣)。

それからさっそく温泉に入りましたが、ここは2種類の泉質の源泉からお湯を引いてきているそうです。内風呂と露天風呂の1つは適温、もう1つの露天風呂はやや低めで、長い時間浸かっていられるような感じで私の好きなタイプの温泉でした(ニセコ薬師温泉もこんな感じです)。

夕食は宴会場で2時間飲み放題の会食でした(写真)。

牛乳の鍋が美味しかったです。最後の最後には、G先生がリクエストに応えて2曲を熱唱し(写真)、盛り上げてくれました(笑)。



夕食後には部屋に集まってカードゲームと罰ゲームで盛り上がったり、乳がんに関するまじめな話題についてゆっくり語り合ったりなど、充実した時間を過ごしました。部屋での2次会終了後には、もう一度温泉にゆっくり浸かってからお開きとなりました。

この時間の中で、これからの患者会の運営に関する前向きな提案をして下さった患者さんもいらっしゃいました。私もずっと考えていたことと同じでしたので、今後の患者会をさらに発展させていくきっかけになるのではないかと思っています。とても貴重な時間を過ごすことができたと思います。

翌朝は、寝る前の長風呂がたたったのか、ひどい頭痛に悩まされましたが、なんとか復活して帰路につきました。ニセコグランドホテルの温泉は、「若返りの湯」と言われています。最近ちょっと老化を感じていましたがこの2日間で2才くらい若返っていればいいなと思っています(笑)。

化学療法中の患者さんも3人参加されていましたが、幸い熱を出すこともなく、楽しい温泉旅行だったと思います。参加したみなさん、お疲れさまでした。そして今回残念ながら参加できなかったみなさん、来年は是非参加して下さいね!

2012年10月26日金曜日

明日から患者会の温泉旅行です!

一昨年から1泊になった毎年恒例の温泉旅行ですが、今年は明日からニセコの某ホテルに行ってきます。

昨年の旅行の後で今年は日帰りで、という話もあったのですが、結局1泊ということになりました。一昨年は定山渓、昨年は朝里、そして今年はニセコと徐々に遠くなっています(汗)入院患者さんの病状の変化も起こりえますので遠出は少し心配もあるのですが、幸い病棟は落ち着いていますのでなんとか私もG先生も行けそうです。

ニセコへの移動は送迎バスです。途中何カ所か止まって休憩するようです。ただここ数日道内は冷え込んでいますので、中山峠越えは少し心配です。今日も中山峠で大きな事故があったそうですので運転手さんには十分な注意をお願いしたいものです。

宿泊するホテルは何度か見かけたことはありますが泊まるのは初めてです。2種類の温泉が引いてあるそうですので楽しみです。最近ずっと体調があまり良くないので温泉効果で元気になれればいいなと思っています。宴会はきっとまた遅くまで盛り上がると思います(笑)。いつも診察室ではなかなかゆっくりお話ができないので、せっかくの年1回の機会ですから患者さんたちと交流を深めたいと思っています!

(明日はパソコンを見れませんのでコメントなどにはお返事が遅くなります)

2012年10月22日月曜日

昨日は、J.M.S!

毎年10月の第3日曜日に全国の賛同医療機関で行なわれているJ.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)の乳がん検診が昨日(10/21)行なわれました。

今年はG先生がJ.M.Sの検診担当でしたが、幸い受診者の中に視触診上明らかな乳がんの方はいらっしゃらなかったようです。私たちの系列病院でも旭川のI病院ではI先生が行なっているようですし、釧路のK病院では毎年当院から女性外科医(昨年はN先生、今年はS先生)が出張して、全てのスタッフを女性で構成して行なっています。

旭川の情報は入っていませんが、釧路ではかなり冷や汗もののアクシデントがあったようです。K病院ではいつも土曜日に職員検診(やはり女性外科医だと人気が高いようです)を行なって日曜日に一般患者さんの検診を行なうのですが、なんと土曜日の検診中にマンモグラフィ撮影機が故障してしまい、職員のマンモグラフィは後日撮影ということになってしまったそうです。なんとか業者を呼んで修理してもらって日曜日の本番には間に合ったそうですが、もし日曜日に故障していたら大変なところでした…(汗)。

マンモグラフィ撮影機は高価ですので一般の中規模病院では需要もないのに何台も置いておくわけにはいきません。万が一の際の対応は考えておいた方がよさそうです。とりあえず無事終わって良かったです。

ちなみにJ.POSHのHPによると、2012年10月4日現在、J.M.Sに賛同している医療機関は全国で340施設(北海道は10都市28施設)にまで到達しています。検診受診率を高めるためには、年に1日ではなく、こうした医療機関が連携して交代で日曜の検診がいつでも受けられるような体制を作るのが理想的ではないかと思います。ただ現実的はなかなか厳しいですね…。

2012年10月18日木曜日

第21回乳癌学会学術総会〜来年は厳しそう…そしてiPS…


来年の6/27-29に静岡県の浜松市で行なわれる第21回乳癌学会学術総会の演題募集要綱が先日届きました。

今回の締め切りは11/28。例年より早いことがわかって少し焦っています(汗)。

今回の学会の会長は、乳腺領域の腫瘍内科の第1人者、浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生です。渡辺先生はとても著名な先生です。そして私も何度も学会や講演会でお話を伺ったことがありますしブログも拝見していますが、大変厳格な先生です。今回の演題採択もきっと今までに比べると厳しくなるのではないかと思います。

正直、今までの乳癌学会の演題採択は比較的基準がゆるい印象でした。どうしてこんな内容で全国学会に発表するんだろう?と思うような内容もたまに見かけていました(自分の発表内容も偉そうなことを言えるほどのものではありませんが…)。今回は、さほど珍しくないような症例報告や、何を言いたいのかよくわからないような抄録を書くと落とされてしまうような気がします。気を引き締めて準備しなければまずそうです…(汗)。

学会発表と言えば、iPS関連の問題がマスコミで話題になっています。よりによってあんなトピックな話題で、しかも世界で初めてという発表に虚偽があればすぐにばれるということがどうして彼にはわからなかったのか不思議でしょうがありません。

今までもあれに近いような発表があったのかもしれないという疑念を持つ方がいらっしゃるかもしれません。実際あれほどのトピックな話題でなければ嘘の発表をしても簡単にはばれないかもしれません。しかし、われわれ医療に携わるほとんどの人間は、自分の名誉や利益のためではなく、真実を探求するため、そしてそれが将来の患者さんのためになると考えてこのような研究や学会発表、論文作成を行なっていると私は信じたいと思います。

このような事件が原因で山中教授の偉大な研究に疑念を持たれたり、iPSを用いた今後の臨床研究に悪い影響が出ないことを心から願っています。そして山中教授の研究とは比べようもありませんが、「ちりも積もれば…」ということわざもありますので、今回の学会発表も頑張ってみようかと思います(もちろん、真実の”ちり”でなければ山にはなりませんが…)。

2012年10月14日日曜日

札幌乳癌カンファレンス

昨日、市内某ホテルでAZ社主催の「札幌乳癌カンファレンス」が行なわれました。この会は昨年から始まった研究会で、G病院病理部のA先生をお招きして、診断困難症例のカンファレンスと乳腺病理のご講演をお聴きする会です。今回はG病院で研修していたご縁で私が司会を務めることになりました。慣れない任務なので前日からちょっと緊張していましたが、なんとか無事に終えることができました(途中いくつかアクシデントがありましたが…汗)。

今回はSession1として、現在北海道からG病院に研修に出ている私たちの施設のN先生と旭川から病理の研修に行っているS先生から、G病院での研修についてのご紹介をしてもらいました。最近の研修システムについて知ることができ、これでまた研修に出たいと思う若手医師が増えればG病院と北海道のパイプが強まるのではないかと思います。

Session2は、A先生による「乳がん術前薬物療法の病理」のいう演題のご講演でした。これは私からのリクエストに答えて下さった内容で、期待していた通りというか、それ以上のお話でした。病理医の目から見た、術前化学療法のメリットの有無と問題点について、G病院の豊富な症例の検討と教訓症例を提示していただきながら学ぶことができました。詳細は割愛しますが、一般的に言われている術前化学療法を行なう意義、特に組織学的効果で予後推測をすることが本当に患者さんへのメリットになるのかという点については、私が以前から感じていたことでしたのでA先生も同じお考えでいらっしゃったことがわかり、とても心強く感じました。

Session3は3施設から提示された症例検討でした。いずれも最終診断はがんではなく、非上皮性腫瘍と考えられる症例でした。1例目は系列病院のI先生が提示した症例で、病理診断としては難しくはなかったのですが、画像診断がちょっと難しい(典型的ではない)悪性リンパ腫の症例でした。2例目と3例目(当院症例)はともにA先生も頭を悩ませるくらい診断が難しい症例でした。いずれも明らかな悪性とは言えないけれどもちょっと異型を伴っていて境界病変に近いような病変でした。あの短時間で病理診断を出せるのはA先生くらいのレベルの先生でなければできない技ですが、ざっと見ただけでその病変の特徴を的確にピックアップして診断に近づけるというのは神業です。突然画像の読影を指名されるという緊張感の中にもA先生の軽妙なトークを交えながらのアットホームな楽しい会であっという間に予定時間になってしまいました。

その後会場で懇親会を1時間ほど行なってから、G病院の3人の先生方とI先生、G先生と私の6人ですすきのの地酒と北海道料理が美味しい店へ2次会に行きました。全員A先生にお世話になった(お世話になっている)医師ですので、会話も盛り上がりとても楽しい時間を過ごさせていただきました。今日は乳がん検診の担当でしたからセーブしようと思っていたのですがついつい飲み過ぎてしまい、あやうく二日酔いで乳がん検診をしなければならないところでした(汗)

来年もまたこのような会が開催されるとうれしいです。A先生のお話はとても勉強になります!

2012年10月12日金曜日

被爆者とマンモグラフィ検診

私が勤めている病院、特に関連病院の外来には、被爆者の方がよく受診されます。乳がんで手術を受けた方も2人通っていらっしゃいますし、被爆者検診として定期的に検診に来られている方もいらっしゃいます。

ご存知の通り、被爆者というのは、広島・長崎で原爆による放射線障害を受けたと認定された方々です。中には母親の胎内で被曝された方もいらっしゃいますが、原爆投下後67年も経過していますので、そのすべてが高齢者です。

被爆者と認定されていると手帳が交付され、年1回の各種がん検診を受けることができます。女性の場合、その内容は、乳がん、子宮がん、胃がん、大腸がん、肺がん、多発性骨髄腫の6種類です。そのうち乳がん、胃がん、肺がんはレントゲンを使用するがん検診です。

この被爆者の方たちについてずっと前から気になっていたことがありました。被爆者の方々は、放射線というものに対しておそらくもっとも恐怖を抱いている方々だと思います。そういう人たちが、定期的にレントゲン検査で放射線を浴び続けることに抵抗はないのだろうか?ということです。私たち医療者は、必要性があると判断して行なった放射線検査による医療被曝はやむを得ないと考えています。しかし、被爆の影響による”発がん”を早期発見するためにさらに放射線を浴びなければならないという矛盾に私は戸惑いを何度も感じてきました。医師としては、”がん検診はがんの早期発見に有用と広く認められているのだから勧める”という立場がある以上、その疑問を被爆者の方々に投げかけることにものすごく抵抗を感じていましたので今までどうしても聞くことができませんでした。

先日見えた被爆者検診受診者は85才前後の方でした。高齢ではありますが、しっかりした方です。この年齢ではそもそもがん検診は必要ないという考え方もあると思います。実際、マンモグラフィ検診の対象年齢に上限がある国もあります。腰が曲がった状態で撮影するのも大変です。そういうこともあって、これから先の検診についてその方の思いをお聞きしてみたのです。

その結果、やはりがんは心配だけど、本当は放射線検査には抵抗があったということでした。この方もきっと長い間、検査のためにまた放射線を浴びなければならないということに対して不安があったのだと思います。もう何十年もそうして定期検査をしてきたわけですので今さら、という考えもあるかと思いますが、私はこの方と相談してマンモグラフィ検査は今回で終わりにすることにしました。

長期間の検診などによる医療被曝が悪影響をもたらすという十分な根拠はありません(低年齢者へのCT検査と発がんの論文なども出ていますが)。しかし、できるだけ放射線は浴びたくないというのは多くの人に共通している感情だと思います(中には放射線が体に良いと言っている方もいらっしゃいますが、これも実験レベルの話で一般論としては根拠がないと考えます)。ですから放射線を用いず、低侵襲でコストも安く、有用性の高い新たな検診方法の開発・確立を私は心から望んでいます。


*なお、誤解されないように追加しますが、乳がん検診としてのマンモグラフィの有用性は証明されています(若年者に対する問題点はありますが)。今回はエビデンスの話ではなく、心理面に関するお話であることをお断りしておきます。

2012年10月11日木曜日

遺伝性素因を持つ若年者のマンモグラフィ検診

現在、日本の「乳癌診療ガイドライン」におけるマンモグラフィ検診の推奨グレードは、50才以上でグレードA、40才台でグレードB、40才未満の若年者はグレードC1となっています。国内で行なわれたマンモグラフィ検診の臨床試験においても40才未満ではその有用性が証明できなかったこともあり、若年者に対する乳がん検診方法はいまだに確立されていません。

一方、BRCA1やBRCA2と言われるがん抑制遺伝子の異常を有する、いわゆる”遺伝性乳がん”が疑われる家系の女性に対しては若い年代からの検診が勧められてきました。ただ一般若年女性と同様に、どのような検診方法が良いのかという点についての結論は出ていません。MRが有用という報告が最近出始め、注目されているところです。

今回、そのような遺伝性乳がんの素因を持った若年女性に対するマンモグラフィ検診についての新たな知見が、オランダがん研究所のAnouk Pijpe氏らによって報告されました(BMJ 2012; 345: e5660  http://www.bmj.com/content/345/bmj.e5660)。この論文の概要は以下の通りです。


対象:GENE-RAD-RISKプロジェクト(欧州最大規模のコホート研究)に2006年から2009年まで参加した,オランダ,フランス,英国の変異型BRCA1/2保有者1,993例(18〜39歳)。

方法:初めて電離放射線検診(マンモグラフィ,胸部X線撮影,CT)を受けた年齢,20歳未満,20〜29歳,30〜39歳で受けた回数,最後に受けた年齢を調査し、電離放射線検診受診歴と発症リスクに相関があるのかどうかを調べた。

結果:
・30歳未満で一度でもなんらかの電離放射線検診を受けた場合,発症リスクは1.9倍(95%CI 1.2〜3.0)上昇した(30〜39歳で受けた場合は,リスクの上昇なし)。
・マンモグラフィに限ると,30歳未満で一度でも検診を受けると,発症リスクは1.43倍(95%CI 0.85〜2.4)増加した。


若年者に対するマンモグラフィの有用性を証明した臨床試験はありませんので、若年者に対してはマンモグラフィ検診はあまりお勧めできないと今まで何度かここにも書きました。ただ、遺伝性素因を持つ女性に対しては多少の有用性があるのかと私は思っていましたが(罹患率が高いと有用性が証明されやすいのです)、今回の報告はその推測とまったく逆の結果でしたのでちょっと驚きました。

もちろんこのコホート研究のみで放射線検査が遺伝性素因を持つ女性の乳がん発生率を上げると断定することはできませんし、遺伝性素因を持たない女性に対しての影響まで解析されているわけではありませんので、その点には注意が必要です。ただ、特に日本人には放射線という言葉に敏感な方が多いですので、放射線検査に頼らない有効な若年者に対する検診方法の確立が望まれるところです。

2012年10月5日金曜日

Cancer Board終了!

院内の多職種が集まったがん患者さんの症例カンファレンス、第3回「Cancer Board」が今晩行なわれました。前にも書きましたが、まだテストケースですので(2ヶ月に1回しか行なっていません)、本来の「治療方針に迷う症例をみんなで検討する」というカンファレンスにはなっていません。毎回各センター持ち回りで担当しながら、適宜症例があれば受け付ける形式にはなっていますが、今のところ予定外の症例提示はありません。まだまだこのCancer Boardが全体に普及していないということなのだと思います。医師以外の参加は結構あるのですが、残念ながら自分が当番の時以外に参加する医師がほとんどいません。残念なことです。

さて、今回の症例提示ですが、前にも書きましたが非常に経過が長い症例でした。乳がんについてあまりわからない職種の方も多いので、特徴的な再発患者さんを選んでみました。詳細は割愛しますが、再発後の経過が長いこと、最近悪化傾向になり状態は徐々に厳しくなっていること、経済的な困難があったこと、遠方に居住しているために今後の治療に工夫が必要なこと、どの段階で抗がん治療を中止するか判断が難しいこと、などについてお話しし、参加者から意見を述べてもらいました。

これが解決策、と言えるようなものではありませんが、緩和ケア科の先生や看護師さんから意見をもらったり、事務系の職員から居住地の医療状況を教えていただいたり、今後の治療方針決定にあたっての参考になりました。

乳がん患者さんの治療方針については、今までもこまめにカンファレンスをしたり、他科のDrに助言を求めたりしてきましたので、必ずしもこのようなカンファレンスは必要ないのかもと思っていましたが、自分自身もその症例の細かい振り返りができますし、普段カンファレンスに参加しない職員からの意見も聞くことができますので、けっこう有意義なカンファレンスではないかとあらためて感じました。これからはもっと多くの職員に参加してもらえるようになればいいなと思っています。

2012年10月3日水曜日

「秋の気配」& 祝 ファイターズ、パリーグ制覇!

いつの間にかすっかり日没が早くなり夜は冷え込むようになってきました。紅葉は遅れていたようですが、ここ数日で急速に進んでいるのではないでしょうか?

秋の気配を感じた途端、夏が急激に遠ざかったという感じです。「秋の気配」と言えばオフコース。ご存知ですか?この曲はまだオフコースがあまりメジャーではなかったころ、小学校高学年のころに偶然ラジオで聞いて録音した記憶があります。長渕剛も松山千春もオフコースもメジャーになる前は好きだったのですが、売れ出した途端、あまり興味がなくなってしまったのは私の性格なのでしょうか…。でもこの曲は今でも好きな1曲です。

秋と言えばまたまたイベントが目白押しです。今月は、10/5がCancer Boardの担当、10/13は、G病院の先生を招いての研究会の座長、10/14は関連病院の乳がん検診(前にJ.M.Sに重なっていると書きましたが勘違いで1週ずれていました)、10/21はJ.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)の検診、10/27-28は、患者会の温泉1泊旅行(今年はニセコ!)などなど。その他に10/6と10/21-22の関東での研究会のお誘いがあったのですが、こんな状況ですので残念ながらお断りしました。来月は乳癌検診学会も控えていますし、がんセンターのT先生から頼まれている研究のお手伝いも本格化します。なかなかゆっくり紅葉を楽しむ間もなく、雪が降ってしまいそうな感じです。

そう言えば、昨日北海道日本ハムファイターズが3年ぶりにパリーグ制覇を果たしました!長い間現場を離れていた1年目の栗山監督の指揮、ダルビッシュの退団など、開幕当初はその実力が不安視されていましたが、諦めない心と監督を中心とした団結力で素晴らしい結果を残してくれたと思います。誰がMVPかを決めるのがとても迷うほど、誰かの不調を他の誰かが支えるというような感じでチーム全体で勝ち取った優勝ではないかと思います。

優勝後の会見を聞いていて、栗山監督と選手たちの強い信頼関係を感じることができました。監督は選手をひたすら信じて使い、その結果が悪かったときは自分で責任を持つ、選手たちは監督に背中を押してもらった恩返しをしたいといっそう頑張る、というとても理想的なチームだったのではないかと思います。こういう関係は、もしかしたら医師と患者さんとの関係にも少しだけ共通するところがあるのかもしれないなと思いました。

ファイターズには、是非ともCSも順当に勝って、実力ナンバー1の巨人を倒して日本一になって欲しいと願っています!

(ピンクリボン運動にずっと協力して下さっている田中賢介選手ですが、残念ながら骨折でポストシーズンも出ることはできないようでとても残念です。少しでも早く回復して来シーズンこそ1年通して活躍してくれることを心から祈っています。)



2012年10月1日月曜日

風と風邪

今回の台風は風台風(秋に多い風の強いタイプの台風)だったようですね。各地に大きな被害をもたらしたようで、被災地の皆さんには心よりお見舞い申し上げます。北海道でも太平洋側ではけっこうな風と雨で避難勧告なども出たようです。幸い札幌は雨が時々降った程度ですみましたので良かったです。


先日「季節の変わり目に注意が必要です」とここで書いておきながら、自分自身がひどい風邪にかかってしまいました…。ここ2日連続で朝2時から4時くらいにかけて頭痛と咳と鼻水で起きてしまい、すっかり寝不足です。ティッシュの消費量も凄いです…(泣)まるでインフルエンザのような腰痛と関節痛もあります。熱は微熱程度ですがけっこうたちの悪い風邪のようです。みなさんもくれぐれも用心なさって下さいね。

今日は体調回復のために早めに休みます。今晩はぐっすり眠れると良いですが…。

ということで今回は「かぜ」についてのお話でした(笑)

2012年9月29日土曜日

「第3回 Cancer Board」

「Cancer Board」というのは、Wikipediaによると、「集学的治療や標準的治療等を提供する際に、手術、放射線療法および化学療法に携わる専門的な知識および技能を有する医師、画像診断、病理診断等を担当する医師やがん医療に携わる専門職等が職種を越えて集まり、がん患者の症状、状態および治療方針等を意見交換・共有・検討・確認等するためのカンファレンスのこと」と書いてあります。

私たちの病院は、将来的にがん拠点病院を目指していることもあり、今年の夏から院内のCancer Boardを定期的に開催するようになりました。ただ、今のところはこの馴染みのないカンファレンスを院内の多職種の人たちに浸透させることが目的ですので、各センターごとに持ち回りで担当してテストケース的に行なっています。来週はついに乳腺センターが担当になりました。

私たちの病院の症例で治療方針を決める場合は、センター内でも毎朝打ち合わせをしていますし、時間がないときは院内のメールで情報交換をしたりしています。また、病理科、緩和ケア科、精神科、整形外科などの科とも直接連絡を取り合って方針を立てていますので、実際に判断に困って大勢の中で治療方針を決めなければならないような症例はあまりありません。ですから今回の提示は、乳がんの患者さんの治療経過は他のがんの患者さんとは少し違うので、さまざまな判断が異なっているということを紹介することを目的にしようかと思っています。

いま考えている症例は、治療経過がとても長い患者さんです。乳がんの手術は今から25年以上前。再発したのは今から10年以上前です。その後、化学療法、内分泌療法をいろいろと繰り返して今までほとんどの時間を自宅で過ごしてきました。私は再発後からのおつきあいですが、自宅が遠いこともあって、治療方針の決定にはずいぶんと苦労しました。

今年に入ってからは、ちょっと深刻な状態になってきていて、治療はさらに複雑になってきました。でも時々入院はしますが、まだほとんど外来で治療を行なっています。普通なら、もう緩和治療にシフトしても良い時期なのかもしれませんが、患者さんは闘う意欲を見せていますし、毎回毎回治療を変更するたびに一定の効果を見せてくれますので、患者さんが望めばもう少し治療を頑張ってみようかと考えています。来週のCancer Boardでは、そんなお話をしようかと思っています。

2012年9月26日水曜日

完全予約制外来と待ち時間

最近頭を悩ませているのが、関連病院の外来の待ち時間の問題です。

以前は乳腺の専門外来ではなく、一般外来で予約制ではなかったため、かなり待ち時間が長くなってしまうこともありました。そこで数年前から予約制の乳腺専門外来(乳がん検診の患者さんと、完全予約制とは知らずに受診してしまった患者さんは別です)にしたおかげで待ち時間の問題はかなり改善されました。

ところが最近ではこのシステムがうまくいかなくなっています。本来は、30分単位で3人、9時から12時までで18人が基本ですが(検診の患者さんは別です)、この枠では最初からおさまらず、だいたい1日25人から30人程度の予約患者さんを診ていました。ただ、ほとんどの患者さんは、超音波検査やマンモグラフィを行なってから診察に入りますので9時に検査開始だと診察に戻って来られるのはどうしても遅くなってしまいます。結果的に診療時間の前半の診察予約は少なくて後半に集中してしまうことになっているのです。

現行の予約システムはトータルでの人数制限はありますが、時間単位(30分)あたりの人数制限はありません。ですから、最後の11時半から12時の時間枠に7人とか8人とかの予約が入ってしまうことになっています。30分でこれだけの人数はかなり厳しいですし、その前も遅れ遅れになっていますので、結局最後の予約患者さんを診察できるのは13時半とかになってしまっています。この予約患者さん以外に、あらかじめ時間がかかりそうな細胞診や病理結果をお話しする患者さんは別枠で12時からの予約枠を作っているのですが、これらの患者さんたちは1時間半以上、お待たせすることになってしまいます。これでは完全予約制の意味がありません。

原因は、
①電子カルテを7月から導入したばかりで、データの書き写しなどに時間を要しているために、以前より1人当たりに時間がかかっている。
②超音波検査の検査開始時間を早めることを以前から非公式に何度か打診しているが実現には至っていない。
③マンモグラフィの撮影機が1台しかないために検診の増加によって戻りが遅くなっている?
③H先生が診療所の助勤に行かされてしまったために、今までお願いしていた2診体制での検診の援助が得られなくなっている、H先生が検査オーダーした検査結果を聞きに来る(時間を要する)患者さんたちが私の外来に流れてきている。
などが考えられます。

最近あまりにも状況がひどいために私の機嫌は日に日に悪化しています(もちろん患者さんには遅くなったことをお詫びして、機嫌の悪さを見せないようにしていますが…)。私に予約の組み方の文句を言われる外来看護師には悪いと思っていますが、完全予約制だから待ち時間が少ないと思って来て下さっている患者さんたちを長時間お待たせしてしまうのは非常に申し訳ないと思いますし、自分自身もそれが大きなストレスなのです。

国内の有名病院ではもっと待ち時間の長いところもあると思います。大病院ほど患者さんが集中しますので、そういう病院のDrはもっと大変だと思います。中には、患者数が多いのだから待ち時間が長くなるのは当然だ、と思うDrもいるかもしれません。そういうDrはあまりストレスを感じないのかもしれませんが、私はどうしてもそういう心境にはなれません。なんとか良い解決方法を見つけ出さなければならないと感じています。


2012年9月24日月曜日

10/21はJ.M.S! 今年も日曜検診やります!

毎年、J.POSHの活動として行なっている、J.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)が今年は10/21(日)に全国のJ.M.S賛同医療機関で行なわれます。今回も私たちの施設でも参加していますが、できるだけ多くの方に受けていただきたいと思っています。

この活動は、J.POSHの主導で2009年に行なわれてから今回で4回目になります。今年の賛同医療機関は現時点で全国334施設にのぼっています。平日は仕事や子育てでなかなか受診できない女性が乳がん検診を受けれるようにと始まったこの活動ですが、受診希望者の感想は好評のようです。2010年の乳がん検診受診率は全国で24.3%と目標の50%の半分にも満たない状況ですが、このJ.M.Sを通じて少しでも検診受診者が増えてくれればと願っています。

今のところの問題は、10/21にG先生が不在だということです。実は今日、そのことに気づいたのですが、関連病院でも日曜検診があるために私一人では掛け持ちは当然無理ですので誰かに手伝ってもらわなければなりません。乳腺センターを手伝ってもらっているH先生にお願いしようかなと考えていますが…(汗)

このJ.M.Sに賛同している医療機関は、J.POSHのHPから見ることができますのでご参照下さい(http://jms-pinkribbon.com/)。今まで乳がん検診を受けたことがない方は、是非お友達も誘ってこの機会に検診を受けてみて下さいね!

2012年9月21日金曜日

季節の変わり目

食欲の秋、芸術の秋、スポーツの秋、そして天気が変わりやすい秋がやってきました。

今朝、Tシャツで外に出たら久しぶりにひんやりしました。夕方も6時にはかなり暗くなっていて、つい先日まで真夏日が続いて暑かったのが嘘のように急激に秋の気配を感じました…。私は夏が大好きです。汗だくになっても全然平気です。秋になるとすぐにあの嫌な冬がやってきます。吹雪の通勤を考えると憂鬱になります(泣)。

季節の変わり目は体調を崩しやすいとよく言われます。ネットで調べると季節の変わり目は気温が急激に変化するので自律神経の調子が悪くなるからだと書かれているものが多いようです。ふむふむ…。

それとは別に、低気圧などが近づくと関節痛などの痛みが悪化することは昔から知られています。気圧が下がることによって関節周囲の組織がむくむこと、それによって関節液がしみ出す量が増えることが原因である、と書いている情報もありますが、どの程度根拠があるのかは不明です。しかし、理屈は抜きにしてもアンケート結果などからは自覚症状的には間違いなく低気圧が近づくと痛みは悪化する人が多いようです。

こうやって考えてみると乳がん患者さんへの影響もありそうですね。乳がんの手術を受けた、再発を宣告された、抗がん剤治療で副作用に苦しんでいる、ホルモン療法で更年期症状が出ている、など、自律神経に悪影響を与える状況が起きやすい中で、季節の変わり目による影響が加わると体調は悪化しやすいかもしれません。また、アロマターゼ阻害剤を内服中の患者さんやタキサン系抗がん剤使用中の患者さんは関節痛を伴いやすいのでこの時期は要注意ですね。痛みが悪化するようなら鎮痛剤を少しの間でも併用するのが良いかもしれません。そのうち気候が落ち着いたら症状は軽快するかもしれませんから。

さて、秋が近づくとともに野球もいよいよ大詰めです。巨人ファンのみなさん、優勝おめでとうございます。でも個人的にはセリーグはどうでも良いです(笑)。ファイターズは今日は絶対勝って欲しかったのですが残念ながら吉川投手で勝ちを落としてしまいました(泣)。まあずっと頑張ってくれていた吉川投手ですから、たまにはしかたないですよね。明日からは総力戦でなんとか西武に勝ち越して優勝に近づいて欲しいものです(他チームのファンのみなさん、千葉ロッテファンのG先生、すみません…笑)。

今日はあまり乳がんと直接関係ない話が多くなってしまいました。いずれにしてもこれからの季節、体調管理には十分に気をつけましょう(”食欲の秋”にも要注意!)!

2012年9月18日火曜日

乳癌の治療最新情報33 エベロリムス2〜日本人のサブ解析結果

以前もここでエベロリムス(アフィニトール®)の臨床試験結果(BOLERO-2試験)について述べましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/10/27.html)、このたび日本臨床腫瘍学会において、日本人についてのサブ解析結果が報告されたそうです。BOLERO-2試験は、レトロゾールやアナストロゾールに抵抗または不応となったER陽性、HER2陰性の局所進行性または転移性の閉経後乳がん患者を対象にした二重盲検無作為化フェーズ3試験で、24カ国の189施設から日本人を含む724人の患者が登録されています。


結果の概要は以下の通りです。

対象:日本人患者106人(エベロリムス併用群(エベロリムス10mg/日+エキセメスタン25mg/日を併用する群)が71人、プラセボ群(プラセボとエキセメスタン25mg/日を投与する群)が35人。

追跡期間中央値: 11.1カ月。

結果:PFS(無増悪生存期間)中央値は、エベロリムス併用群が8.4カ月、プラセボ群4.1カ月(ハザード比0.59、95%信頼区間:0.35-1.01、p=0.0253)。客観的奏効率(ORR)はエベロリムス併用群が16.9%、プラセボ群が0%。臨床有用率(CBR)はエベロリムス併用群が43.7%、プラセボ群が25.7%。

副作用:主な有害事象は、口内炎(89%)、発疹(55%)、味覚異常(31%)。試験全体のデータと傾向が異なっていた有害事象は非感染性肺炎(間質性肺炎)の発生率で、日本人患者における非感染性肺炎の発生率は31.0%で、試験全体の15.6%よりも高値だった。しかし、グレード3、4に限ると、日本人患者は4.2%、試験全体は3.7%となり、大きな差は見られなかった。有害事象は治療の中断または投薬量の減少で管理可能だった。

結論:エベロリムス+エキセメスタン併用群では有意に無増悪生存期間が延長し、有害事象は管理可能だった。


この治療法が、ER陽性、HER2陰性(いわゆるLuminal type)の進行再発乳がんに対して有効な治療法の一つであることを日本人のデータとして示せたのは意義のあることです。ただ、エベロリムスの場合は、上に書いたように間質性肺炎が心配される有害事象です。腎細胞がんに対してすでに適応が通っていますが、発売後の調査において、間質性肺炎は17.4%の患者さんで見られたと報告されています(死亡率は0.7%)(http://product.novartis.co.jp/afi/ts/pms_kanshitsusei_20120116.pdf#search='%E3%82%A2%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%8B%E3%83%88%E3%83%BC%E3%83%AB %E9%96%93%E8%B3%AA%E6%80%A7%E8%82%BA%E7%82%8E')。今のところ、イレッサのように喫煙者が非常に高リスクとも言えないようですので、だれでも起きる可能性があるといことが懸念されるところです。

効果が大きくて副作用が少ない治療薬の開発はなかなか難しいものですね…。



2012年9月16日日曜日

乳癌学会地方会etc

昨日は乳癌学会の地方会でした。朝9:30から夕方18:00くらいまでびっちり発表と講演が入っていてほとんど休憩のない密度の濃い学会でした。

発表の方は、朝のセッションでしたが、なんとか無事終了しました。G先生もつつがなく発表を終えました。あとは他の先生方の発表を聞きながら時々質問したり(G先生はいつものように質問しまくり…笑)、参加人数は多くはなかったのですが、アットホームな雰囲気で進みました。

ランチョンセミナーは、出向研修中のN先生がお世話になっているG病院のI先生の「特殊型」についての講演でした。普通の病院では年間1例いるかいないかの珍しい組織型もG病院には多くの患者さんがいます。それらを集積して非常にわかりやすく特徴を話して下さいました。なかなか普段わからないような特殊型の画像の特徴や治療法についてとても勉強になりました。講演後には直接「浸潤性小葉癌の2つの画像タイプ(腫瘤を作るタイプとびまん性に這うタイプ)でリンパ節転移率が異なる」のは、自覚症状が出づらいためなのか、もともと生物学的悪性度が異なるためなのか、ということについて質問してみました。I先生の考えとしては後者なのではないかということでした。興味深いテーマなので私の施設の症例で確認してみようかと思います。

今回の学会の合間では、がんセンターのT先生から、先日手伝いを依頼されたJCOG関連の作業についてのレクチャー(というか一方的に質問しましたが…)を受けました。勘違いしていた部分もあったので、今日1日かけてなんとか第1弾の回答を完成してメールで送ったところです。今回の作業は手始めですのでこれからが大変みたいです。11月末の締め切りまで、いったいどんな仕事になるのか検討もつきませんが、かなり大変なのは確かです。英語の論文をかなり検索しなければならないようですので英語が苦手な私としては、時間もかかりますしものすごいストレスです(泣)。でもなかなかない機会ですので、できる限り頑張ってみようかと思います。

今年の札幌はなかなか暑さがおさまりません。私は暑い方が好きですので大歓迎ですが、ちょっと不思議な感じです。でもそろそろ暑さも終わりだと思います。こういう年は、暑さが終わった途端、急激に寒くなってあっという間に秋が来るような気がします。みなさん、体調を崩さないように気をつけましょう。

2012年9月12日水曜日

デノスマブ(ランマーク®)で国内2例目の死亡例

今年の4月に発売されてから、現在推定7300人に投与されているランマークですが、やはり以前書いたように(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/05/30.html)心配されていたような状況になりつつあるようです。

ランマークは非常に強い骨転移に対する効果がある一方で、低カルシウム血症の副作用がゾメタに比べて強いことは臨床試験からもわかっていました。しかし、4月の発売当時はその詳細は報告されていませんでした。ところが発売後に海外で3例の低カルシウム血症による死亡例が発生していたことが判明し、まず最初の注意喚起「適正使用のお願い」がメーカーから出されました。その後最近になって国内でも死亡例が1例発生したことが報告され、さらについ先日2例目が発生したことでようやく正式な注意喚起「安全性速報(ブルーレター)」の指示が厚生労働省からメーカーに出されたのです。

化学療法剤には副作用は残念ながらある程度は避けられません。しかし早い段階で正確な情報をつかむことによって、その影響は最小限で留められる可能性があります。逆に迅速なメーカーと国の対応がなされなければ、被害を拡大させてしまうことになります。せっかくの良い薬なのに、その情報が正しく迅速に伝達されなければ単なる怖い薬になってしまいます。それがとても心配です。

今までに私が知り得た、ランマークによる重篤な低カルシウム血症発生例に関する情報について以下に記します。

①低カルシウム血症の発生日は、初回投与後5-7日目くらいがもっとも多いが、数クール経過してから初めて発症した症例も複数ある。
②ビタミンD、カルシウム剤を予防的に内服していても発生した症例は複数ある。
③今までわかっている経過からは、重篤な症状(けいれん、心停止など)を生じる前にテタニー(口唇や指先のしびれなど)を必ずしも伴っていないようである。これは血液検査をしていなければ突然急変する可能性があることを示唆している。
④重篤な低カルシウム血症をきたしてから、カルシウム剤の静脈投与を行なってもなかなか回復できなかった症例がある。


現在ランマークを使用中の患者さんは上記の通り多いですし、重篤な低カルシウム血症の発生は、頻度からすると決して高いわけではないかもしれません(まだ報告されていない症例があるかもしれませんので正確な発生頻度は不明ですが)。実際問題としては、現在投与を受けている方のほとんどは今後も何も問題なく投与できるのだと思います。ランマークによる治療効果が現れていて今まで問題なく投与できている患者さんは、このような情報が出たからと言って直ちに治療を中止する必要はありません。詳しくは主治医の先生によくお聞きになった上でご判断下さい。

もしかしたらこのような情報をここに書くのは、不適切なのかもしれないと思い、国内1例目の発生例が報告された時には記事にしませんでした。しかし、正式に厚生労働省から注意喚起(メーカーに対して安全性速報を出すようにという指示)が出されましたので、この事実を広く周知すべきであると考えてアップすることにしました。もし現在ランマークを投与中で、私の記事が不安を煽るような結果になってしまった患者さんがいらっしゃいましたら大変申し訳ありません。しかし、この事実を知らずに万が一のことがこれからさらに増えてしまう方が大きな問題になると考えて書いたたということをどうかご了解下さい。

取り急ぎの対応策は、今回の安全性速報に書かれているように、カルシウム剤とビタミンDは高カルシウム血症がない限り内服すること、頻回の血中カルシウム濃度の検査を受けること(”頻回”がどのくらいなのかの記載はありませんが私は当面は週1回はチェックすべきだと思っています)、腎機能障害がある患者さんは、低カルシウム血症をきたしやすいので特に注意が必要なこと(最初のふれこみはゾメタと違って腎機能に影響を与えないから腎機能障害の患者さんにも使えるということでしたが…)などでしょうか。

以下に参考となる資料のURLを示します。

<参考URL>

①海外3例の死亡例報告を受けて、2012.5にメーカーから出された「適正使用のお願い」
http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201205_2.pdf#search='%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF %E5%9B%BD%E5%86%85 %E6%AD%BB%E4%BA%A1%E4%BE%8B'

②今回の国内死亡例2例を受けて厚生労働省からの指示で2012.9にメーカーから出された「安全性速報(ブルーレター)」
http://www.info.pmda.go.jp/kinkyu_anzen/file/kinkyu20120911_1.pdf#search='%E5%AE%89%E5%85%A8%E6%80%A7%E9%80%9F%E5%A0%B1 %E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%9E%E3%83%BC%E3%82%AF'

2012年9月10日月曜日

近況報告…

最近は時間の確保が難しく、なかなかブログも更新できません…。

今週末は乳癌学会の地方会があります。とりあえずなんとかスライドはほぼ出来上がったのですが、もう少し考察を熟成させようと思っています。

それに加えて副作用報告書が2件…。これがけっこう大変な作業なのです。内服していた薬剤が多いと、その服薬期間を調べるだけでかなり時間を要します。薬剤と副作用の因果関係も考察しなければなりません。今日、ようやく薬剤部に届けて製薬会社に提出する手はずが整いました。

そして外来で診ている患者さんたちの状態もいろいろ変化があったり、新たな乳がん患者さんへのご説明が続いたりで日中もかなり忙しいです。関連病院の外来から戻ってくるのも午後3時過ぎになったりして、あっという間に夕方になってしまいます。

さらにがんセンターのT先生から、ある研究作業のお手伝いを頼まれてしまいました。不慣れな作業のためお受けするかどうか迷っていますが、せっかくのご指名ですし、微力ながら乳がん診療のお役に立てればと思っています。ただ、諸事情で本当に協力可能なのかどうかもう少し検討してみたいと思います(すでに資料は送られてきてしまいましたが…)。

というわけでしばらくはブログもあまり更新できないかもしれませんが、とりあえず元気出して頑張ります!

2012年9月5日水曜日

抗癌剤の副作用20 口腔粘膜障害

口腔内の粘膜障害(口腔内アフタが代表的)は、抗がん剤の副作用としてはよく見られる症状です。投与のたびに繰り返すことはありますが、一般的には軟膏やうがいなどで対処可能です。

ただ時には非常に重篤になり、摂食はおろか、口を開けるのもままならなくなり、会話やうがいさえも困難になってしまうことがあります。白血球が減少する時期と重なれば、カンジダ(真菌)感染を併発してさらに症状が悪化したり、傷ついた粘膜から容易に細菌が侵入して敗血症の原因になったりしやすくなり、危険な状態になってしまうこともあります。

口腔内の粘膜障害に用いられる治療の基本は、
1.口腔内を清潔に保つ
2.口腔内を乾燥させない
3.薬物治療
の3つです。以下に主な治療法を書きます。

①軟膏…ステロイド系の軟膏(デキサルチン軟膏®、ケナログ軟膏®)が代表的です。通常のアフタ性口内炎(パンチ状に粘膜が白くなる状態)にはよく効きますが、なんとなくべとっとした感じが嫌な方も多いと思います。

②貼付剤…口腔内に貼るタイプです。抗炎症作用をもつトリアムシノロンアセトニドを主成分にしたアフタッチA®などが代表的です。最近はスプレー式のものやフィルム状の製剤もあるようです。

③徐放性口腔内崩壊錠…アズノールST錠®などがあります。口腔内に留めておくと、徐々に薬剤がしみ出して効果を発揮する製剤です。

③うがい薬…口腔内を清潔にする目的と、アズノールなどの抗炎症作用を期待して用いる場合がありますが、アズノールの場合は、さっぱりする場合もありますが逆にしみるように感じてしまう場合もあります。

④民間療法…昔からハチミツを塗ると口内炎によく効くと言われていました。科学的にもハチミツは殺菌作用と粘膜の保護作用があるので一定の効果はあるようです。ただ、かなりしみて激痛が走るとも言われていますので使用するには覚悟が必要かもしれません(私はまだ使用したことがないので詳細はわかりません)。

⑤口腔内の痛みが強い場合は、対症的に表面麻酔剤の塗布を行なったり、アセトアミノフェンなどの鎮痛剤の内服を併用する場合があります。

いま入院患者さんで口腔粘膜障害が強い患者さんがいらっしゃいます。痛みが強くて口も開けられないので薬を含むこともできず、うがいもうまくできない状態です。表面麻酔剤の併用が必要かもしれません。早く回復して食事が摂れるようになれば良いのですが…。

2012年9月3日月曜日

副作用情報

発売後の薬剤の使用で重大な副作用が発生した場合、緊急情報として製薬会社からレターが届きます。本来、安全性に関しては臨床試験で十分に確認されていなければならないのですが、実際問題としては発売後に数多くの症例に投与して初めて判明する重篤な副作用もあります。ですからそういう場合にこのような情報が私たちに届くのです。

以前もある肺がん治療薬(分子標的薬)で間質性肺炎の死亡例が多数発生して問題になりました。製薬会社側としては、長い年月と開発費をかけて発売までこぎつけた薬剤をできるだけ多く売りたいと考えるのは自然なことです。そして私たち医療者側としてもできるだけ効果のある薬剤を患者さんに使用してあげたいと考えます。もちろん、進行・再発がんで苦しんでいる患者さんにとっても効果の高い新薬を待ち望んでいるのは当然です。しかし、それは安全性が担保されている、または副作用のリスクが判明しているというのが前提です。

最近はネットの情報が満ちあふれています。医療情報についても同様です。ここに書く内容も医療関係の情報を元にしているケースがよくあります。その中には副作用情報も含まれています。ただ、このような情報は、当然ですがネット配信される前に製薬会社側としては把握しているはずです(そもそも情報元は製薬会社ですので)。

最近、ある薬剤の重篤な副作用情報が出されました。しかし、私が得た情報は、①ネットからの定期配信される情報②病院の薬剤師からの情報③製薬会社のMR(医薬情報担当者)からのメール(詳細は面談で報告)という順番でした。これはおかしな話です。一番最初に情報を把握している製薬会社側から直接薬剤を使用している医療関係者に情報を提供すべきではないかと私は思います(配信されるネット情報は全ての関係医師が見ているわけではありませんし、そのために私個人のメールアドレスもMRに教えています)。今日、そのMRが見えたのでその旨を伝えました。

一般的に良い情報(○○に対する効果が認められた、××よりも効果があったなど)は、論文になる前からでも提供されますが、悪い情報に関しては提供に時間がかかる傾向があるのかもしれません(十分に因果関係を確認するためかもしれませんが、良い情報に関しては十分なエビデンスのない学会発表レベルのものまで提供されることがあります)。特に新薬の場合は、患者さんの安全性を第一に考えて出来るだけ迅速な副作用に関する情報提供をお願いしたいものです。

2012年8月31日金曜日

再発治療の研究会

今日は不定期に行なわれているAZ社主催の再発治療の研究会でした。

この研究会は、今までは毎回参加者が治療方針に迷うような症例を提示して少人数で検討するアットホームな感じの研究会です。毎回私たちの病院からも症例を提示して検討してもらってきましたが、今回もG先生が症例を提示する予定でした。結局残念ながら手術が長引いてしまったために、G先生は参加することができませんでしたが、道内の乳腺MRの第1人者のT先生の講演はとても勉強になりました。

今日のT先生のお話は、いつもの乳腺MRについてではなく、再発診断における画像検査の特徴と選択についてのお話でした。局所再発、肺胸膜再発、肝転移、骨転移、脳転移など、それぞれの臓器別にどのような検査法を選択すべきかとか、その画像検査のpitfallとかについてわかりやすく教えて下さいました。

今回お聞きした中で印象的だった内容は以下の通りです。

①骨シンチはMRで写る30%くらいしか骨転移を検出できない。全身をdiffusionという方法で3DのMR撮影をすると骨転移のスクリーニングが可能で骨シンチより有用(短時間で可能なので乳腺MRのついでにできる)。
②胸水のない胸膜転移を見つけるために胸部CTは造影で行なった方が良い(私たちの施設では胸部のCTは通常造影はせずに撮影しています)。
③肝転移は単純CTでは見えるのに造影するとかえって見づらくなることがあるので、全身CTを造影で撮る場合は肝臓のみ単純撮影をしておくほうが良い(造影を1 phaseしか撮影しない場合)。
④肝転移の診断にはGd-EOB-DTPAを使用したMRがもっとも診断しやすい。
⑤PETは全身を見る上ではやはり有用だが、写らない場合もある。PET-CTならPET陰性でもCTで診断できる場合もある。他の臓器の悪性腫瘍の検出にも有用な場合があるが(特に大腸がんなど)、早期胃がんなどではあまり役立たない。良性疾患でも写ることがあるので、良悪の確定診断としては役立たない場合も多い。
⑥温存術後の乳房内再発の検査は、マンモグラフィと超音波検査だけでは判断が難しい。MRが有用なのは確かだが、造影で時間がかかって高額なので実際にはほとんど行なっていない。diffusionだけでもある程度の検出は可能で短時間ですむので考えても良いかもしれない。

今日のお話を聞いて、ずっと同じだった術後の定期検査を少し変えてみようかと思うようになりました。私たちの施設ではPETができませんので、CT/MR/シンチ/超音波検査/マンモグラフィなどをうまく組み合わせて、より良い術後検査の組み合わせを考えてみようかと思っています。

2012年8月26日日曜日

ピンクリボン in SAPPORO 2012 ”ピンクリボンロード”無事終了!






昨日からTVでは「24時間テレビ」が行なわれており、今日の午前中からは札幌市街で「北海道マラソン」が行なわれているという、イベント盛りだくさんの今日の日曜日でしたが、年1回の乳がん関連のイベント、「ピンクリボン in SAPPORO 2012 ”ピンクリボンロード”」も大通のホコテンで開催されました。

毎年夏に行なわれるイベントですが、札幌は好天に恵まれとても暑かったです。かなり多くの聴衆が集まっていて日射病になるのではないかと心配しましたが、体調を崩す方も発生せず無事終了しました。

今日のイベントはまず「ハーラウ・フラ・オ・ナーレイヒバ」によるフラダンスから始まりました(写真)。おそらく幼稚園児くらいの子供さんからベテランの中高年の女性までさまざまな年代でのフラを披露して下さいました。フラダンスと言っても明るい曲調の速いテンポのものから情緒豊かなスローなものまで様々なものがあることがわかりましたし、生まれつき下肢に障害を持つ方の座ったままでのフラもとても表現力が豊かで感動的でした(写真)。

次に行なわれたのは、札幌ドームのファイターズ戦でもおなじみの「KiKi&ピンクリボンクワイア」によるゴスペルライブ!(写真)もう3年くらい前から活動していますが、年々そのパフォーマンスは洗練されてきていて、素晴らしいライブでした。やはりプロのKiKiさんがずっと指導して下さっていることと、ピンクリボンクワイアの皆さんの熱意と努力による成果なんでしょうね。ホコテンの歩道には人だかりができていて大盛況でした(写真)。

最後は、これもここ数年恒例になっている「もえぎ色女学院」によるピンクリボンパフォーマンス(写真)。いつも彼女たちの元気のよさには驚きます(笑)これからもピンクリボン運動普及の担い手としてパフォーマンスを続けていって欲しいと思っています。ただ、女性だけの集団だったはずですが、いつの間にか男性が1人参加していたのにはびっくりでした(笑)。

また、特設テント内のブースでは今回初めて「ピンクリボンボディジュエリー」という、肌に描いた下絵の上に糊を塗って、その上にキラキラした砂のようなものを載せてきれいなアートをペイントしてくれるイベントが行なわれていました。座ったままのフラを披露してくれた女性は右腕にピンクリボンのアートを描いてもらっていましたが、とてもきれいでした!

個人的にはイベントが始まってからはほとんど何もすることはなく、最後に実行委員の1人として挨拶したのと終了後の後片付けをしたくらいでしたが、スタッフの皆さんの下準備はいつも大変だろうと思います。暑い中、お疲れさまでした。このイベントが、今まで乳がん検診に無関心だった方々の検診を受けるきっかけになってくれることを心から願っています!

2012年8月23日木曜日

乳腺術後症例検討会 22 ”ついに60回!”

月1回行なっている乳腺の症例検討会(病理検査を行なった症例のうち数例を提示)が、ついに今回60回目を迎えました。人間で言うと還暦?です。よくここまで続いたものです。

今回も症例は4例でした。病理診断名としては特に珍しい症例はありませんでしたが、生検痕付近に発生した非浸潤がんの症例は、針生検の組織に炎症所見と非浸潤がんがあったために超音波所見とMRの広がり診断が難しく、非常に興味深く勉強になる症例でした。

今回60回目を迎えたということで、今年(?)60才になって来年定年となるベテラン技師のNさんから、今までの活動を冊子にまとめたいとの提案が出されました。これは少し前にも個人的に打診されていた内容でした。このような活動のまとめは以前から私も考えていて、DVDにでもして技師の教育用に使えないかと考えていたことでした。ただ、具体的に考えるとなかなか簡単ではありませんので棚上げにしていたのです。紙で作るとなると、費用の面などでまた別の問題が発生しますが、なにか良い方法で活動をまとめられたらいいなと思っています。技師さんたちは熱意を持って取り組んでくれそうなので応援したいと思っています。

2012年8月19日日曜日

病院内での盗難にご注意!

今日は日曜特診の乳がん検診でした。朝8時から診察ですので平日と同じ時間に出勤しました。

最近の日曜検診は繰り返し受診者が多く、先日も書いたように平日でも受診できそうな高齢者が多い傾向がありましたが、今回は40才台前半の比較的若い方が多く見えていました。40才でマンモグラフィが初めての方も数人いらっしゃいましたが、いずれもがんを疑う触診所見の方はいらっしゃいませんでした。

日曜特診は、内科や婦人科の検診も兼ねて受診される方が多く、みなさん貴重品などの手荷物を持ちながら診察室や検査室を回ります。ところが今日乳がん検診にいらしていた中の一人が手ぶらで診察室に入って来られたのです。

「手荷物は?」とお聞きすると「待合室に置いています」とのこと。きっと決して他人を悪く思わない良い人なんだなあと思いつつ、「盗難事件も発生していますので貴重品は必ず持ち歩いて下さい」とお話ししました。

まさか病院で盗難なんて、と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、案外病院内での盗難は多いのです。待合室に置きっぱなしというのはあまりにも無防備ですが、入院中の患者さんに対しても盗難事件は発生しています。病院に来院する方、特に入院中の方はけっこう多額の現金を持っていることがあります。盗難のプロはそういうところを狙っています。患者さんの家族になりすまして病室に入ったりして金品を盗むようです。いくつもの病院をまわって病院専門に盗難を繰り返している人もいると聞いたこともあります。

病院には体調が悪い患者さんだけではなく、様々な人が出入りしていることを覚えておく必要があります。病院に行く際は(どこででも同じですが)、貴重品は必ず持参するかロッカーがあれば入れておくようにしましょう。

2012年8月18日土曜日

第9回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会〜終了

何回かお報せしてきましたが、今日は「第9回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会」が札幌医大研究棟大講堂で行なわれました。

今回のテーマは「もっと多くの情報を!」ということで、お役立ち情報コーナーでは、乳がんの最新情報やネットの活用法、補完代替療法、リンパ浮腫セミナーについてのミニレクチャーがありました。とてもわかりやすい内容でしたが、それぞれの持ち時間が短かったのが少し残念でした。参加した患者さんたちはもっといろいろと聞きたいことがあったのではないでしょうか?

参加者グループワークはここ数年行なわれていますが、進行の補助的な役割を私たちスタッフが行なっています。基本的には患者さん同士がそれぞれの思いを話し合うのが目的なのですが、スムーズな進行はなかなか難しいです。どうしても参加者の発言に偏りが出てしまったり、医師への質問コーナーになってしまったりということが起きてしまいます。いつもうまく進行できなかったことに自己嫌悪してしまいます。発言できた患者さんは良いのですが、自分が話し合いたいと思っていたことが言えなかった患者さんもいらっしゃるかもしれません。個人的にはむしろ質問コーナーと位置づけてもらったほうが気が楽なんですが…。

特別講演は「明日からできる!からだにいい生活習慣」という演題でT医大のK先生が講演をして下さいました。患者さん自身ができる食事と運動、そして補完代替医療について、ガイドラインに沿ってエビデンスを交えながらわかりやすく解説して下さいました。

今回のこのイベントには、いつも来て下さるG病院時代の恩師のK先生、そしてG病院関連で知り合いの沖縄のM先生、今もG病院で勤務するM先生、千葉でクリニックを開業されているN先生などたくさんの道外の先生方が参加して下さいました。いつもはるばる北海道まで来ていただきありがたいと思っています。

いつもは少し長く感じるこのイベントですが、今回は短く感じました。それはG病院研修時代に苦楽を共にした名古屋のK先生が初めて参加され、いろいろ話ができたからかもしれません。今や名古屋だけではなく、全国的にも名前の知れた先生ですが、プライベートでも非常にフレンドリーなナイスガイです。今回は夏休みを兼ねてご家族も一緒に北海道旅行をされるとのこと。子供さんたちにとっても良い思い出になればいいなと思っています。


2012年8月16日木曜日

乳癌の治療最新情報32 アナストロゾール+フルベストラントの併用療法

アナストロゾール(商品名 アリミデックス)とフルベストラント(商品名 フェソロデックス)はともに閉経後のエストロゲン受容体(ER)陽性乳がん患者さんに適応のある治療薬です。現在はまだこの2剤を併用することはエビデンスがなかったため推奨されていません。

アナストロゾールはアロマターゼ阻害剤(AI)の1つです。アロマターゼは脂肪細胞でアンドロゲン(男性ホルモン)をエストロゲンに変換する酵素で、閉経後の女性の体内ではこの働きによって微量のエストロゲンを作っています。ER陽性の乳がん細胞の周囲ではこのアロマターゼ濃度が増加することがわかっています(つまりがん細胞が自分で自分が増殖しやすい環境を作っているということ)。AIはこのアロマターゼの働きを阻害してエストロゲンの産生を抑制します。

一方、フルベストラントはタモキシフェンと同類の抗エストロゲン剤の1つですが、タモキシフェン(選択的エストロゲン受容体調整剤:SERM)と異なり例えば骨や子宮などに対するエストロゲン様作用を有していない、純粋な抗エストロゲン剤です。また、その作用はエストロゲンが受容体に結合するのを阻害するだけではなく、受容体そのものの数を減らすことによって発揮されます(このため、”選択的エストロゲン受容体ダウンレギュレーター:SERD”と言われています)。

この2剤は作用が異なっているために併用すると効果が増強するのではないかと期待されていました。今回、NEJM誌(2012年8月2日号)にRita S. Mehta氏らが発表した第3相無作為化臨床試験の解析によると、ER陽性転移性乳がん(無治療症例)に対する治療効果は、アナストロゾール単剤の群(1群)に比べるとフルベストラントを併用した群(2群)の方が有意に無増悪生存期間(中央値 1群13.5ヵ月、2群15.0ヵ月)と全生存期間(中央値 1群41.3ヵ月、2群47.7ヵ月)が優れていたという結果だったそうです。全生存期間は1群でクロスオーバー(増悪後にフルベストラントを使用すること)を許されていたにもかかわらず有意差が見られたというのは少し驚きです。

この結果を踏まえて、いつから併用が可能になるのかはまだわかりません。また、他のAI剤(エキセメスタン、レトロゾール)との併用は許可されるのかどうかも不明です。高価な薬剤ですので併用する場合は治療費がネックになりますが、アナストロゾールは近々ジェネリックが発売されると思いますので多少は負担が軽減されると思います。

問題点としては、例えば術後にAI剤が使用されていた場合にも同様の上乗せ効果があるのか(この場合はむしろフルベストラントに対するAIの上乗せ効果)が不明な点です。今回の検討は初診時に遠隔転移を伴っていた4期乳がん患者さんが対象のようですので、術後ホルモン療法を受けていた再発患者さんに対する効果については別の臨床試験で検討しなければならないと思います。

2012年8月13日月曜日

肥満と乳がん術後の二次がん

乳がん発がんに関する肥満のリスクについては以前からいくつかのエビデンスもあり、広く認識されています。今回、フランスのDruesne-Pecollo N氏らがBreast Cancer Research and Treatment誌オンライン版に掲載した報告は、乳がん術後の他臓器の原発がん(乳がんの再発ではなくまったく別のがん)の発生率と肥満との関連について解析したもので非常に興味深いと思いましたので概要をご紹介します。

目的:乳がん患者における二次原発がん発生率とBMI(Body Mass Index)との関連の解析

方法:PubMedとEMBASEで検索を行ってヒットした2012年5月までの報告(前向き研究13報、コホート研究5報、ケースコントロール研究8報)の系統的レビューとメタ解析を行った。

結果:肥満により二次原発がんのリスクは有意に増加することが認められた。
*肥満による二次原発がん発生の相対リスク(RR)→対側乳房1.37、(同側)乳房1.40、子宮内膜1.96、大腸1.89
*用量反応メタ解析では、BMIが5kg/m2増加することにより、対側乳がんのRRは1.12、(同側)乳がんのRRは1.14、子宮内膜のRRは1.46と、それぞれ有意に二次原発がんのリスクが増加していた。

結語:今後、体重過多の乳がん患者において、正常体重への減量による二次原発がん発生率への効果を評価するための臨床試験が必要である。


これが乳がん術後の患者さんに特有の結果なのか、そもそも子宮内膜がんや大腸がんが肥満の人に多いことが関与していただけなのかはこの報告からはわかりません。しかし、少なくとも乳がんの手術を受けた患者さんにとっては、温存術後の同側乳房内異時多発がんや対側乳がんの発生は誰しも避けたいところですし、乳がんだけでも十分苦しみを味わっているのに他の臓器のがんの治療は受けたくないはずです。

もちろん肥満予防や肥満の治療を受けるだけで全てを避けられるわけではありませんが、少しでも発生率を下げられる可能性があるのでしたら、健康のためにも肥満の対策は考えておいた方が良さそうですね。肥満を避けることは、ある特定の食品を過剰に摂取したり、逆に一部の食品をまったく摂取しなかったりというのとは異なり、想定される有害事象はほとんどないと思いますので安心してチャレンジできるのではないでしょうか。

2012年8月12日日曜日

高校の同窓会


昨日は私の母校であるK高校の年1回の同窓会でした。K高校は戦前は庁立の女学校でした。今年開校110周年を迎えますので卒業生の数は膨大になります。今年はRホテルの大きな会場を貸し切って行なわれました。正確な人数は把握していませんが500人以上集まったのではないでしょうか。

私は卒業以来、一度もこの同窓会には参加したことがなく、今回が初めてでした。今回は私たちの期が当番だったため、会の開催準備から当日のセッティングや司会進行などをすべて担当したのでかなり大変でした。私自身は当日のみしか手伝えませんでしたが、3時間くらい入り口に立って会場の案内をしたり(写真で法被を着ているのは現在某コンビニの副社長をしている悪友H君)、ゲームのお手伝いをしたりしていましたので、同窓会自体はあまり見ることが出来ませんでした。

会場の案内をしていると庁立高女の卒業生の方々がかなり多く見えられました。みなさん80才以上で、90才以上の方もけっこういらしたのですが、みなさん本当にお元気でびっくりしました。そしてクラス担任だったST先生、バレー部の顧問だったTT先生の2人の恩師にもお会いすることができました。お二人とも卒業以来30年も経つのに私から何も言わなくても私のことを覚えていて下さいました。学校の先生の生徒を覚える記憶力ってすごいものなんですね!お二人とも75才くらいになられますが大変お元気で良かったです!

同窓会ですのでもちろん同期のD病院のE先生も来ていました。クラスが違うのであまりゆっくり話せませんでしたが、社交的な先生ですので忙しそうでした(笑)今度またゆっくり飲んで話したいと思っています!

そして今回、久しぶりに現在小樽で外科医をしているK先生とも会えました。札幌にいるころは患者さんをお願いしたりしていたのですが転勤されてからは年賀状だけの関係になっていました。小樽と余市には関連の診療所がありますので小樽方面から私たちの病院に来て手術を受ける患者さんもいらっしゃいます。術後の化学療法や検査などの連携についてお願いしてみたところ快く了解してもらえました。名刺ももらったので、今後小樽方面からの患者さんの治療の際には連絡してみようかと思っています。

今朝は回診当番だったので二次会までで帰りましたが、懐かしい人たちにたくさん会えてとても楽しい同窓会でした!

2012年8月9日木曜日

乳癌の治療最新情報31 エリブリン(ハラヴェン)とトラスツズマブ(ハーセプチン)の併用

今のところ再発乳がんの治療薬であるハラヴェンは単剤で使用するのが原則のため、HER2陽性乳がんに対して使用する場合は一度ハーセプチンを止めて投与することになっています。先日の研究会でそのことを知らずに併用している乳腺専門医がいたことにちょっとびっくりしましたが、ハーセプチンをやめたくないという心情は理解できます。

ハーセプチンの保険適応はタキサンとの併用の臨床試験を元に2001年4月に国内で認可されたわけですが、その当時の認可の制限はゆるかったため、併用抗がん剤は特に制限はありませんでした(心毒性が問題になるアンスラサイクリン系は除く)。ですから臨床試験の裏付けがなくてもタキサンとの併用効果がなくなれば他の抗がん剤に変更するということが実地臨床では行なわれてきたのです。

しかし最近は臨床試験でどのような薬剤の組み合わせで行なったのかが重要視されるようになったので、例えばタイケルブはゼローダ以外との組み合わせは保険では認められないというような制限が加わるようになりました。臨床試験の裏付けはもちろん重要ですし、その判断は尊重しますが、あとがない患者さんを目の前にすると非常に悩むこともあります。

今回、このようなジレンマに少し光が射す発表が臨床腫瘍学会で報告されました。

目的:エリブリンとトラスツズマブの併用療法の安全性を検討(フェーズ1試験)

対象:HER2陽性で、トラスツズマブとタキサン系抗癌剤による治療歴があり、左室駆出率(LVEF)が60%以上の進行乳がん患者(脳転移で積極的治療を有する症例は除く)6人。

方法:毒性はCTCAE ver. 4.0により判定。DLT(用量制限毒性)の定義は通常のフェーズ1試験と同様で、1サイクル目に、7日を超えて持続するグレード4の好中球減少、グレード3以上の発熱性好中球減少、グレード3以上の非血液毒性などが発現し、試験治療との因果関係が除外できない場合とした。
治療は3週を1サイクルとし、エリブリンは1.4mg/m2を2分から5分かけて1日目と8日目に投与。トラスツズマブは初回は4mg/kg、2回目以降は2mg/kgを90分以上かけて1、8、15日目に投与。

結果:
・年齢の中央値は64.5歳。
・ホルモン受容陽性の患者は2人で術前補助化学療法と術後補助化学療法を含む前治療のレジメン数では、3レジメンが2人、4・6・9・14レジメンが各1人だった。
・6人中1人は進行(PD)により投与中止となったが、5人は有用性が得られて投与を継続中で、このうち2人は5サイクルが投与されていた。
・DLTに該当する有害事象は認められなかった。多く観察された有害事象は好中球減少と白血球減少で、全グレードではいずれも83.3%、グレード3以上はそれぞれ66.7%と50.0%だったが、管理可能だった。グレード3以上の非血液毒性は発現しなかった。同試験の安全性プロファイルは、日本で行われたエリブリンの単剤療法のフェーズ2試験(E7389-J081-221試験)と同様だった。6人中1人に、投与後15日目にLVEFの軽度の低下(グレード2)を認めたが、22日目までに改善し、その後低下は認められなかった。
・エリブリンとトラスツズマブの血漿中濃度および薬物動態パラメータの解析が行なわれたが、同併用療法において薬物間相互作用は発生しないと考えられた。


つまり2剤の併用によって、それぞれの毒性が増強されることはなく、安全に投与できそうであるという結果です。症例数が少ないため、これで問題ないとは断言できませんが、とりあえずこの結果によってさらに臨床試験が進みそうです。実際エリブリンとトラスツズマブの併用療法については、長期の安全性や抗腫瘍効果などの評価も進められていて、3週毎投与を検討するフェーズ1試験も進行中でとのことです。早く結論が出て、ハーセプチンを止めずにハラヴェンと併用できるようになればいいなと思っています。

2012年8月4日土曜日

オリンピック効果〜祝 サッカー日本代表(男女)ベスト4!

連日ロンドンオリンピックの中継で盛り上がっていますが寝不足になっていませんか?私は睡眠時間はなんとか確保しながら見ています。今回は前回の北京と違って時差があるため真夜中の試合が多くて大変ですよね。

それにしてもサッカーは男女ともベスト4に進出できてうれしい限りです!なでしこジャパンはWCの実績もあるのである程度予想はしていましたが(それでも今回はいろいろな理由で厳しいかと思っていました)、この世代の男子は今まで前評判はあまり高くなく、辛口評論家のS氏もかなり厳しい評価をしていましたので今回の活躍はびっくりです!

きっと病室で乳がんと闘っている患者さんの中にも今回の日本選手たちのオリンピックでの活躍(柔道はちょっと残念な結果でしたが…)に勇気づけられた方は多かったのではないでしょうか?スポーツは特に何か物を作ったり売ったりするわけではなく、最低限生きて行くということに関しては不要なものかもしれません。しかし、長い間世界中の人に愛され、感動を与えているのにはやはり大きな存在意義があるからなのだと思います。

私もかなり幅広くスポーツを見るほうですが、自分自身の精神状態にけっこう影響を与えていることをよく実感します。ファイターズが勝つとやる気倍増です(笑)ただ、勝ち負けだけがすべてではなく、選手たちが一生懸命頑張っている姿を見るだけでも私たちは勇気づけられるものです。高校野球はその代表ですよね!

乳がんと診断されて落ち込んでいる患者さん、再発による症状で苦しんでいる患者さん、抗がん剤の副作用で体調を崩している患者さんに少しでも元気を与えるために、日本選手の皆さんたちにはこれからも一生懸命頑張っている姿をみせ続けて欲しいと思います。がんばれ日本!

2012年7月27日金曜日

第21回北海道乳腺診断フォーラム

今日は年1回の乳腺診断フォーラムでした。今晩は豊平川の花火大会がある日でしたが、かなり多くの人が集まりました。

症例はいつもの2例。旭川の2施設からの症例でした。最初の症例は結局紡錘細胞がんなのか扁平上皮がんなのかがはっきりしませんでしたが、進展形式が嚢胞内から外側に広がるような形態を示した珍しいタイプの症例でした。2例目は関連施設からの症例で、あまり嚢胞部分がはっきりしない嚢胞内がん(一部浸潤あり)でした。バコラという生検器具で診断をつけたようで、出血の危険性を避けるためのコツや針穴をどうしているのかなどを質問しました。私たちの施設でも来春の新病院移転後にはバコラを導入する予定ですので参考になりました。

症例検討のあとは、デジタルマンモグラフィとモニター診断についての講演がありました。こちらも来春から導入予定ですので勉強になりました。ただ上手に使いこなすのはなかなか大変なようですね。またもや講習会を受けなければならないとは…いろいろ考えるとちょっと気が重くなりました。

終了後は懇親会に参加して22時近くに帰宅しました。明日から水曜日までは夏休みです。今日は札幌も32.5℃くらいまで上がりました。まだまだ暑い日が続きますが、皆さん体調には気をつけましょう!

2012年7月25日水曜日

乳腺術後症例検討会 21 病理医との連携

今日は月1回の症例検討会でした。いつも夕食を食べに行く喫茶店が手術が終わってから行くともう閉まっていたのでコンビニで軽く食べてから参加しました(笑)

今日の症例は、画像的には明らかに乳がんを疑いましたが、針生検では「間質肉腫の疑い」、最終的には「乳腺線維腫症(fibromatosis)」という診断を得た症例、広範な乳管内進展を呈した乳がん症例、高齢者で非浸潤がんを疑った乳管内乳頭腫の症例、硬がん様の超音波画像でしたが、脂肪内の高エコーが著明で、最終的には「浸潤性微小乳頭がん(Invasive micropapillary carcinoma)」だった症例の4例でしたが、いずれも画像的にはなかなか判断が難しい症例でした。

今日のミニレクチャーは「乳腺線維腫症」についてでした。この疾患は基本的には良性ですが、局所再発をきたすことが2-3割あるという点と、低悪性度の肉腫との鑑別が難しいという点で注意が必要です。この症例はより正確を期すために、乳腺病理の権威である坂元記念クリニックの坂元吾偉先生にconsultationを行ないました。

私たちの施設では、乳腺外科医と病理医の連携がスムースです。病理科の科長のK先生(私と同期です)は、乳腺病理診断の難しさをよく理解してくれているので、診断に迷うケースは、私たちとカンファレンスを行なったり、積極的にconsultationに出してくれたりします。時間を要することにはなりますが、慎重な彼の判断と風通しの良さには大変助かっています。そして毎月行なわれるこの症例検討会の病理スライドの準備と当日の解説には毎回顔を出してくれます。そしてそういうK先生の姿勢のおかげで部下の病理医の先生方の参加も回を重ねるごとに多くなってきています。

病理医と乳腺外科医が密接に連携をとることが正確な診断につながり、結果的に患者さんに利益をもたらす(不利益を避ける)ということを私はG病院での研修で教わりました。これからもこういう良い関係を継続して行ければと考えています。

2012年7月23日月曜日

第9回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会〜続報

6月にも一度情報を流しましたが、正式に「第9回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会」のポスターが送付されてきました(写真)。

詳細な内容が決まりましたので概要を追加します。

テーマ:もっと多くの良い情報を!
日時:平成24年8月18日(土) 12:30~16:15
場所:札幌市中央区南1条西16丁目 札幌医科大学研究棟1階 大講堂

内容:
①開会の辞(With You あなたとブレストケアを考える会代表 霞富士雄先生)
②お役立ち情報コーナー(司会:市立札幌病院 大川由美先生)
『乳がん最新治療』(札幌医科大学第1外科 九富五郎先生)
『ネット活用法』(北海道大学病院 乳腺・内分泌外科 細田充主先生)
『補完代替医療』 (東札幌病院ブレストケアセンター 亀嶋秀和先生)
『リンパ浮腫セミナーを振り返って~「学ぶ」・「つながる」の大切さ~』(札幌医科大学寄付講座緩和医療学 岩本喜久子先生)
③参加者グループワーク(「手術後の不安・治療」、「再発の不安・治療(再発の方のみ)」、「リンパ浮腫」、補完・代替医療」、「ご家族のケア」、「緩和ケア」、「若年者乳がん」)+何でもコーナー(グループワークに参加されない方対象)
④パフォーマンス(フラメンコ)
⑤特別講演(司会:札幌医科大学第1外科 鈴木やすよ先生)
「明日から出来る!からだにいい生活習慣」(東京医科大学乳腺科 海瀬博史先生)
⑥各地のWith You報告
⑦閉会の辞

今年の私の担当グループワークは、病院の特性からあまり適任ではないような気もしますが、与えられた役割なので少し勉強して望みたいと思います。楽しくて実りある集まりになると良いですね。多くの方が参加されることを期待しています。

この夏も様々なイベントが盛りだくさんで忙しくなりそうです!





2012年7月22日日曜日

ちょっと二日酔いの乳がん検診

前回のピンクリボン in SAPPOROの記事がなぜか私のパソコンでは一瞬だけ表示されてから見れなくなる状態になっていましたが、皆さんは読めましたでしょうか?原因がよくわからないので、一度削除して作り直したらとりあえず読めるようになりました。

昨日は久しぶりにD病院形成外科のE先生と共通の友人Mさんと3人で飲みに出かけました。今回はすすきのではなく、石狩街道を挟んだ東側(テレビ塔の向かい側 南1東2)にある隠れ家的なワインバーに初めて行ってきました。

E先生に会うのは4ヶ月ぶりくらいでしたが相変わらずお元気で精力的に仕事をこなしているようでした。朝早くから2つの病院の入院患者さんの診察をして、外来診療のあとで手術を4件こなしてからワインバーに現れましたが、まったく疲れた様子もなく、たいした体力です(汗)さすが柔道部出身!私はバレー部でしたが体力が落ちる一方です(泣)そろそろ本格的に体力作りをしなければ…。


今日乳がん検診があるのでアルコールは控えめにしようと思っていたのですが、結局E先生とMさんとの話が楽しくてついつい0時まで3軒はしごしてしまい、ちょっと飲み過ぎてしまいました(汗)3人で白1本、赤2本空けて、その他にビールを3杯くらいでしたが、今朝起きたらまだちょっとふらふらしてました(泣)

それでも時間前にはきちんと出勤して乳がん検診を無事やり終えることができました。ただ検診受診者数が定数より少なかったのが残念です。しかもそのほとんどは休日じゃなくても受診できそうな高齢者ばかり…。

私たちの病院ではずっと前から2ヶ月に1回程度、日曜日に特別診療(特診)として検診を行なってきました。平日になかなか受診できない主婦や働く女性に検診を受けていただこうというのがその主旨です。30才以上が対象で、触診のみだった時代には、1回に100人近く来られることもありました。

それが40才以上が対象の隔年のマンモグラフィ併用検診になったころから日曜特診の受診者が減少傾向になっています。マンモグラフィを撮影できる数で制限が加わることもあるのですがその定数にも満たないことが最近目立っています。これはおそらく、ピンクリボン運動などの啓発活動が盛んになるとともに企業側の検診に対する意識が変化し、企業検診としての乳がん検診を平日に保障するケースが増えてきたことによるのではないかと思います。結果的に休日でなければ受けれないような比較的若い検診希望者が減ってしまったのではないでしょうか。もしそうなのであれば大変良いことであり、私たちが行なってきた活動はその役割を縮小する時期にきたのではないかと思っています。

(写真は2軒目の店で飲んだイタリア(シチリア)のワイン「il passo 2010」です。リーズナブルな値段の割にはとても香り高くて美味しかったです!)

ピンクリボン in SAPPORO 2012 ”ピンクリボンロード”

今年もさっぽろテレビ塔がピンク色にライトアップされます!

毎年夏に行なわれるピンクリボン in SAPPOROのイベントが、今年は8/26(日)の13:30-16:00までさっぽろホコテン(中央区南1西3)で開催されます。

イベントの内容は、
1.ピンクリボンフラ(「ハーラウ・フラ・オ・ナーレイヒバ」)      13:30〜
2.ゴスペルコンサート(これも恒例の「KiKi&ピンクリボンクワイア」) 14:00〜
3.ピンクリボンパフォーマンス(毎年恒例になった「もえぎ色女学院」) 15:00〜
4.ピンクリボンボディジュエリー(1回1000円で素肌にアート!)

札幌近郊にお住まいの方で、お時間のある方は、買い物ついでにでも是非お立ち寄り下さい。

*雨天時はさっぽろテレビ塔内に変更になります。


2012年7月16日月曜日

乳がん患者さんの労働環境の変化

私の患者さんの中にも乳がんと診断されてから仕事を辞めざるを得なくなったり、職場から嫌みを言われたりした方が何人もいらっしゃいます。このようながん患者さんに対する職場の理解と配慮の不足(職場にも事情はあるとは思いますが)、公的サポートの不足は日本だけの問題かと思っていましたが、海外でも同様の傾向がみられるようです。

Journal of Clinical Oncology誌オンライン版(2012年7月9日号)にスェーデンの研究者が乳がん診断後の労働時間や処遇の変化についてのコホート研究の結果を掲載しました。概要は以下の通りです。

対象: Regional Breast Cancer Quality Register of Central Swedenで登録された735例のうち、2回のアンケートを完了した女性505例(診断時63歳未満)。

方法: ベースライン時(診断後平均4ヵ月)およびフォローアップ時(診断後平均16ヵ月)にアンケートを行なった。未婚・既婚、子供の有無、学歴など社会人口統計学的因子に関する情報はベースライン時に、また自己申告による仕事に関わる情報はフォローアップ時に収集した。

結果: 
①労働時間→変化なし 72%、増加 2%、減少 15%、退職  11%
②化学療法は、退職や労働時間短縮の可能性を増加させる(オッズ比[OR]:2.45、95%CI:1.38~4.34)
*これらに影響した要因…診断前のフルタイムの仕事(OR:3.25、95%CI:1.51~7.01)、がんに関連した労働制限(OR:5.26、95%CI:2.30~12.03)、仕事に対する低い価値観(OR:3.69、95%CI:1.80~7.54)(化学療法を受けなかった患者では、年齢の高さ(OR:1.09、95%CI:1.02~1.17)と仕事に対する低い価値観(OR:5.00、95%CI:2.01~12.45)が影響)。

結論: サポートが必要な女性を識別するには化学療法とがんに関連する労働制限が重要な因子であり、さらに労働市場に参加することについての女性自身の価値判断を考慮することが重要である。


以上の報告は、乳がん患者さん自身の職場復帰に対する意欲(働かなければ生きて行けない状況なのかどうか、その職場における職責、労働内容への満足感などが関係しているものと思われます)と職場における理解と状況(復職の延期や労働制限を許容できる環境なのかどうか)が、乳がん患者さんの労働環境の変化に関係しているということなのだと思います。

病気による突然の欠員はその職場にも少なからず影響を与えます。そのような場合に備えて公的機関が臨時職員(様々な職種の退職者など)を登録しておく労働バンク的なシステムを作るなど、公的なサポートが必要なのではないかと思います。ただその場合、臨時職員に対する給与をどう捻出するかという問題が生じます。これは各企業で積み立てのような形で職員の給与から一定額を徴収しておくのが良いのか、企業として利益の中から捻出すべきなのか、それともそのようながん患者さんに対しての配慮を行なう企業に対する補助金として公的資金を予算化すべきなのか(今の国家財政では厳しいですが)なかなか難しいです。

現在の混沌とした政治を見ていると、このような細やかなことにまで目を向ける余裕はなさそうなのが残念です。なお、この問題はがん患者さんに限った話ではありません。突然の病気によって仕事を休まなければならなくなった時に企業と社会、政治がどうサポートするべきなのか、今の世の中はこのような問題に対してまだまだ未成熟なのではないかと思います。


乳管内乳頭腫のコメントについて

今まで書いた中で一番コメントが多いのは、2010.3.1に書いた「乳管内乳頭腫と乳癌」という記事です(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/03/blog-post.html)。現在までに返事も含めて155件のコメントがあり、書いてから2年以上たつにもかかわらず、いまだに時々書き込みがあります。

これはやはり乳管内乳頭腫という疾患の独特の特徴(がんとの鑑別が問題になる、血性乳頭分泌で不安が強い、確定診断に手術を要することが多いなど)によるものなのだと思います。

そういう患者さんの不安がわかりますので今までコメントに対してすべてお返事を書いてきましたが、これだけ多くの質問にお答えすると重複するような内容が増えてきます。前に同じことを書いたような気が…というケースが多いのです。

できれば今までのコメントのやり取りを読んだ上で、それでも疑問があればコメントを書き込むようにしていただければありがたいのですが…。最近、かなり前の記事へのコメントも多く、記事によっては結構時間を要することもあり、お返事に追われてしまうことが時々あります。

そういうこともあり、もちろん仕事の忙しさも加えてなかなか新しい記事を書けなくなっています…。このブログは私の楽しみでもありますのでできるだけこまめに更新したいと思っているのですが、最近はなかなか時間が取れなくて残念です。

仕事でいろいろなことがありストレスがたまりしぎているので、どこか温泉にでも行ってゆっくりしたいのですが、夏休みは細切れになりそうでどこにも行けそうもありません(泣)


2012年7月13日金曜日

脳転移〜全脳照射後の悪化に対する再照射

乳がんの脳転移は、他の臓器転移に引き続いて起こることが多いため、一般的に予後が不良です。単発で切除可能な場合は、手術後に全脳照射をすることによって、その後脳内に再発することを防げる場合もありますが、その場合でも他の臓器転移の悪化によって予後が規定されてしまう場合が多いため、脳転移が一度著明に改善したあとで再度局所治療が必要になるケースはそう多いことではありません。

しかし、最近の治療薬の進歩によって、脳転移以外の再発が長期にわたってコントロールできるケースも増えてきたため、脳転移の再発が予後を規定する場合も増えつつあるようです。

私たちの施設でも何人かそのような患者さんがいらっしゃいましたが、今までは全脳照射後に再度放射線治療を行なったケースはありませんでした。それは、神経細胞は一度ダメージを受けると再生しないため、放射線治療を2回行うことは今まではほとんど不可能と考えられていたからです。2回目の全脳照射を行なうと、高度の認知障害が起きやすく、脳壊死の危険性も増すと言われています。

ところが先日の乳癌学会総会において、国立がんセンターにおいて、過去に全脳照射後に19例(21照射)の再照射を行なった結果が発表されたのです。再照射の内容は、全脳照射38%、局所照射62%でした。

その結果全例において認知症や放射線壊死は認められず、その他の有害事象も軽度でした。放射線再照射後の生存期間の中央値は6カ月(1-9カ月)で、年齢65才未満、Performance status 0-3が予後良好の因子であり、ホルモン受容体、HER2、トリプルネガティブ、脳以外の遠隔転移、脳転移の個数、前回照射からの期間、照射方法、照射線量などはいずれも有意差がありませんでした。

神経症状改善効果については、RTOG神経機能分類という尺度を用いて評価しました。「仕事をすることができ、普通に生活できる。神経症状はないかあってもわずかである」というRTOG神経機能Class1まで改善した例が33%、RTOG神経機能が改善した例が33%、RTOG神経機能が不変だった例が29%、RTOG神経機能が増悪した例が5%と多くの症例で改善がみられました。

今、私たちの施設でも再照射を検討している経過のとても長い(全脳照射後7年)患者さんがいらっしゃいます。放射線科医はなかなか再照射を了解してはくれませんのでもう少し化学療法で粘ってみるつもりです。再照射はあきらめかけていましたが、このような報告を聞くと少し光が射してきたような気がします。

2012年7月11日水曜日

血清HER2が陽性のHER2陰性乳がん

最近経験した興味深い患者さんについてのお話です。

この患者さんは初回手術時の病理検査では、免疫染色でHER2(2+)→FISH法で陰性と判定されたため、HER2陰性乳がんとして治療、経過観察をしていました。

数年経ってリンパ節再発をきたしたため、生検を行なって再度検査をしたところ、今回もHER2(2+)でFISH法が陰性(つまりHER2陰性と判定されます)という結果でした。HER2(2+)でもFISH法で陰性と判断されれば、ハーセプチンの適応はありません。ところが、この患者さんは、FISH法の結果を待つ間に念のため血清HER2を調べておいたのですが、軽度ですが陽性という結果が出たのです。

血清HER2は腫瘍マーカーの1つでHER2陽性乳がんの再発状態の指標になります。しかし、血清HER2とハーセプチンの臨床効果との関係がはっきりしていないために、血清HER2が陽性というだけではハーセプチンの適応にはなりません。今まではHER2陰性の患者さんの血清HER2は調べたことがありませんので、どのくらいの偽陽性率なのかはわかりませんが、HER2(2+)だった患者さんですので単なる体質とかではなく病状を反映しての結果なのではないかと思います。

いま製薬会社に資料を問い合わせているところですが、ネットを検索してみると、「がんサポート情報センター」のサイト(http://www.gsic.jp/cancer/cc_18/mdc03/03.html)に、浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生の患者さんで私の患者さんとまったく同じケースでハーセプチンが著効した症例があると書いてありました。もちろん保険外的応にはなりますが、非常に興味深いと思いました。

HER2検査は、標本の作成方法(ホルマリンの濃度や浸ける時間など)、判定者の経験度などによってかなり結果にばらつきがあると報告されています。これが病理学的検査の結果と血清HER2の結果で乖離が起きた原因なのかどうかはわかりません。転移部位によって性質が違うことがあるということは今までもここで書いてきましたが、今回切除したリンパ節ではなく、他に隠れている再発部位を調べてみると病理学的にもHER2陽性なのかもしれません。また、もしかしたらHER2(2+)の症例の中にもハーセプチンが有効なケースもあるようですので、そのようなケースでは血清HER2が高値になっているのかもしれません。

ハーセプチンは効果がみられる場合は劇的に効きます。本来効果があるはずなのに適応外とされてしまう患者さんがいないのかどうか、もう少し情報が欲しいです(担当のOさん、よろしくお願いいたします)。この患者さんは現在ホルモン治療中ですが、病状の推移と血清HER2が相関するのかどうか、しばらく経過を追ってみようと思います。

2012年7月10日火曜日

うっかりミスに注意…

先日、乳癌学会の地方会の演題申し込みをしたと書きましたが、今日確認してみてびっくり…。なんと練習用の入力フォームに書き込んでいたために本登録されていなかったのです。

印刷までしましたし、練習用登録確認のメールも届いていてそれぞれに「練習用なのでまだ本登録されていません」と書いていたのにまったく気がつかず…。思い込みというのは恐ろしいものです(汗)この間、病院内外であれこれあったために頭がぼーっとしていたせいかもしれません。明日が延期された締め切り日なのでなんとかその前に気づいてよかったです。

今日の関連病院の午前外来も最後に複雑な検査結果の患者さんとご家族へのご説明があったため、終了したのはPM3:00近くでした。本院の方に用事があったためいつもよりさらに早くに家を出たこともあってほとんど朝食を食べずに外来に突入しましたので、途中でお腹は鳴るし話しすぎて声は枯れるしで終わった時にはまたもやぼーっとしてしまいました(汗)

移動中の車の中で運転しながらおにぎりを食べて本院に戻りましたが、細胞診検査には間に合わなかったのでG先生に替わってもらいました。ずっとぼーっとしていたので仕事で何か変なミスをしていないか不安ですが、今のところ大丈夫みたいです。明日は気合い入れて集中して頑張ります!

2012年7月7日土曜日

乳がんのMR診断

今日、N社の講演会に行ってきました。今回の講演は静岡がんセンターの植松孝悦先生による「乳癌診療におけるMRの役割」という内容でした。

上野先生は、放射線科医でありながら、乳腺の画像診断のみならず、画像ガイド下生検まで行なっていて、英文の論文を相当書いておられる先生です。同年代ですが、私の今までの仕事の内容とのギャップにショックを受けました(汗)

ご講演の内容は非常に興味深いものでした。私はMRの基礎的なことにはあまり詳しくありませんが、そんな私でもわかるようにお話しして下さいました。

3.0T(テスラー)のMR画像診断の特徴と問題点(プロトコールの改良によって改善)、画像のいくつかの特徴的な所見(clustered ring enhancementなど )と病理診断、閉経前女性の月経周期に伴うback ground enhancement(正常乳腺の非特異的な染まり)について、術前化学療法の効果判定と効果予測、T2画像の重要性について、MR所見と予後予測因子について、MRで描出された他の病変に対するsecond look US(MR撮影後の2回目の超音波検査)の有用性についてなど多岐にわたるお話でしたが、日常診療にすぐに役立つ内容でした。

講演後には、数人(G先生も含めて)から質問が相次ぎました。G先生は私も聞きたかった、MRで偶然写った副病変に対してどうすべきか?ということを聞いてくれました。最近、そのような患者さんが何人かいて、超音波検査で写っていない場合もありますし、あまりに小さくて多発している場合は全部超音波検査で探して細胞診をするのも現実的ではありませんので、小さな病変はフォローで良いのではないかという植松先生のお答えに安心しました。

MRはこれからも進歩し続ける画像診断法だと思います。今まで以上に様々な情報が得られるような改良を期待したいです。

2012年7月6日金曜日

中間期乳がんと自己検診

乳癌学会から帰ってからもずっと会議などで忙しく過ごしていました。乳癌学会の地方会の締め切りが近いのは知っていましたが、今日の昼までだということを今日の午後にG先生から聞きました(汗)幸い締め切りが延長になったため、先ほど抄録の登録が無事終了しました。

今回のテーマは全国学会での発表と少し関連づけて「中間期乳がん」についての検討にしてみました。

中間期乳がんというのは、乳がん検診を受けてから次の検診(2年後)までの間に自覚症状が出現して発見された乳がんのことです。検診を受けていた患者さんにとってはもちろんショックですし、「検診を受けていたのにどうして?」と思われる方も多いと思いますが、私たち検診に携わる者にとってもショックなものです。

中間期乳がんの原因はいくつか考えられます。

①検診時の見落とし→あってはならないことではあるのですが、マンモグラフィの判断は時に難しく、がんと判明してからマンモグラフィを見直して比較すれば指摘できるという場合もありますので、単純にミスとも言えない場合もあります。

②blind areaに発生した乳がん→マンモグラフィで撮影される部分は乳腺組織の全てではありません。どうしても一部は撮影範囲外になってしまいます(とくに乳房内側の上部)。これをblind areaと言います。ここにできた小さながんはマンモグラフィでも触診でも指摘できない可能性があります。私は検診時の触診の際は、特にこのblind areaを丹念に触るようにしています。

③薄い乳腺の部位(内側上部など)や非常に浅い部分にできた触知しやすい乳がん→検診時には指摘できるような大きさではなかったとしても、自己検診をきちんとしていると途中でこのような場所にできた小さな癌を発見できる場合があります。

④非常に増殖スピードが速いタイプのがん→これは2年に1回のマンモグラフィ検診では早期発見が難しいがんです。これを拾い上げるためには検診間隔を狭めるか、他の検査手段(超音波検査やMRなど)を併用するしかありませんが、大規模に行なう検診としては費用などの面からも難しい点があります。現時点ではある意味、やむを得ないタイプのがんです。


①はマンモグラフィ読影技量の向上によって減少させることができる可能性があり、②と③は定期的な自己検診によって大事に至る大きさになる前に発見できる可能性があります。問題は④ですが、これは現在の検診制度の限界でもあり、一定の確率で起きうることであります。今後の新たな検診手段の開発に期待するしかありません。

いずれにしてもどんなに私たちが技量を上げたとしても一定の確率で中間期乳がんは発生します。検診は100%の保障ができるものではありませんので、「検診を受けたから2年間は安心」だと思い込まないでください。乳がん検診の時に必ず言われるように、「自己検診も重要」なのです。

2012年7月2日月曜日

第20回日本乳癌学会学術総会 in 熊本





乳癌学会から帰ってきました。土曜日の夕方の便で羽田経由で帰ってきたため、自宅に着いたのは23時過ぎでした。昨日は私用で遅くなり、今日は会議で帰宅は22:00過ぎ…。結局報告はこんな時間になってしまいました。

学会発表は、私もG先生もG病院に出向研修中のN先生もつつがなく終了しました。学会の細かい内容はまた後日機会があれば触れますが、とりあえず今日は携帯で撮った写真をご紹介します。

1枚目は熊本市内どこに行っても見かけたゆるキャラの”くまモン”。かわいいのかどうかは別として大人気なようで(私は今回熊本に行くまで知りませんでした…)、くまモングッズであふれていました。観光客はすっかりその戦略に乗ってしまい、大量のくまモングッズをおみやげにしていたようです。私も最初は買うつもりはなかったのですがついつい…(笑)

2枚目は昼休みにG先生、看護師のWさん、G病院で一緒に研修した山梨のI先生と一緒に行ってきた熊本城です。この時だけは天気が良くて汗だくになりながら一番上まで登ってきました。熊本城の上から見る景色はなかなかなものでした(笑)。城自体もさすが日本3大名城と言われるだけあって立派でした。また、城には忍者もいて、G先生は大喜びで一緒に写真を撮っていました(笑)

3枚目は最終日にN先生とG先生と一緒に「紅蘭亭」で食べた熊本名物「太平燕(タイピーエン)」です(右は夏の太平燕、左は普通の太平燕)。春雨を使ったスープというかラーメンというか…。思いのほか具沢山でお腹がいっぱいになりました。

曇ったり小雨が降ったり時にはスコールのような豪雨になったりと天候には恵まれませんでしたし、会場が5カ所に分かれていてめちゃくちゃ歩きまくって疲れましたが、熊本はなかなか良い街でした。もちろん毎晩メンバーを替えての飲み会があり、天草周辺の海産物や名物の馬肉と焼酎も堪能しました(笑)

来年は静岡です!

2012年6月27日水曜日

乳癌学会に行ってきます!

明日(6/27)から熊本に行ってきます。6/28-30はいよいよ乳癌学会です。

今回はいろいろと忙しくてなかなかやる気が起きずにぎりぎりまでかかってしまいましたが、なんとか発表の形は整いました。けっこう重いテーマなのでよけいに準備が進まなかったんじゃないかと思います。無事発表が終わると良いのですが…。

出向研修中のN先生は早々に完成させていて準備万端なようです。今回は症例報告ですが、とてもよく調べているようでした。さすがに初期研修からきちんとしたトレーニングを受けてきただけあります。G先生はいまだにスライドを見せてくれていません…(汗)。彼のことですからきちんと形にしてくれるはずですがちょっと心配です。

抄録集はまだきちんと目を通していません。明日の飛行機の中でチェックしておこうと思います。せっかくの年1回のがっかいなのできちんと勉強して来なきゃと思っています。でも熊本は初めてなので熊本城の観光と馬刺だけはなんとか堪能してきたいと思っています。

というわけでしばらくブログはお休みです。行ってきます!

2012年6月26日火曜日

定期検査を受けると乳がんにならない??

以前からとても気になっていたことがあります。まさかと思っていましたし、私たちの間でも冗談めかして話すことはあるのですが、まさか本当にそう思っていたとは…。

なんのことかと言いますと、乳腺症や乳がん検診で定期的に検査を受けている患者さんが、何を思って(期待して)病院に来ているのか?というお話です。

今日いらした長年通院している乳腺症の患者さんに、
「定期検査を受けに来る患者さんの中には、検査を受けに来ると乳がんにならないと思い込んでいる方がいらっしゃるんですよね〜」
とお話ししたら、真顔で
「違うんですか?私もそう思っていました。私の周りの友達もみんなそう思っていますよ!」
とおっしゃるのです…。

「え〜っ!!」
と私と看護師さんはびっくりしました。

「検診は早期発見のために受けるもので、検査をするだけでがんにならないようにできるはずはないでしょう?なにも治療していないんですから…」
とご説明すると、

「それは医者としての感覚ですよ!」
と言われました…。

まさかこれがほとんどの方の考え方ではないと信じたいですが、たしかに思い当たることはあります。

ずっと定期検査を受けていた方に早期乳がんが発見されると、
「どうしてきちんと検査を受けていたのに乳がんになったんですか?!」
と言われたことが何度かあるのです。その都度、
「定期的に検査していたから早期に見つけることができたのですよ!」
とご説明するとほとんどの方はその考え方(検査すれば乳がんにならないという)が錯覚であったことに気づいてくれます。ただ、中にはどうしてもそれが納得できなくて転院を希望されたケースもあったのです。

私たちは神様ではありません。検査をすることで「がんにならないようにする」ことなどできるはずもないのです。冷静に考えると当然のことなのですが、このような思い違いは起きうることなのだということをあらためて感じさせられました。

2012年6月24日日曜日

「がんの補完代替医療ガイドブック 第3版」




先日私の外来に通院している患者さんから、「がんの補完代替医療ガイドブック 第3版」を1冊いただきました。これは厚生労働省がん研究助成金による「がんの代替療法の科学的検証と臨床応用に関する研究」班(主任研究者 玄々堂木更津クリニック 住吉良光先生)と独立行政法人国立がん研究センターがん研究開発費による「がんの代替医療の科学的検証に関する研究」斑(主任研究者 国立病院機構四国がんセンター 呼吸器外科 山下素弘先生)がまとめた冊子です。

この冊子には、補完代替医療の概要と注意点、情報収集の方法、主な補完代替医療の実態と問題点、最新情報などがわかりやすく書いてあります。ただ全ての補完代替医療について記載しているわけではありません。残念ながら以前問題になったホメオパシーについても記述はありません。しかし補完代替医療に対する正しい認識方法について詳しく書いてありますので、周りの人たちに勧められたり、雑誌や本、ネットやTVのCMなどで宣伝されているような補完代替治療を試す前に一度目を通すことをお勧めします。

がんセンターが携わっている内容ですので北海道がんセンターにもあるのかと思いましたが、その患者さんが確認したところ残念ながら置いていないようです。一般病院の外来にも置いているところはおそらく少ないと思います。もし読んでみたいと思った方は、直接下記に問い合わせるか、日本補完代替医療学会のHP(http://www.jcam-net.jp/topics/guidebook.html)からダウンロードして下さい。

問い合わせ先:
〒292-0014 千葉県木更津市高柳4737 玄々堂木更津クリニック
(E.mail: yosumisama@gmail.com)
〒791-0280 愛媛県松山市南梅本町甲160 国立病院機構四国がんセンター呼吸器外科
(E.mail: myamashi@ahikoku-cc.go.jp  TEL: 089-999-1111  FAX: 089-999-1100)

2012年6月20日水曜日

乳腺術後症例検討会 20 ”検診発見乳がんの悪性度”

学会発表準備や日常業務に追われてなかなかブログの更新ができませんでした。ようやく学会準備もほぼ終了し、今日の乳腺症例検討会で発表内容の概要を紹介してきました。

今日の症例は3例でしたが、いずれも比較的典型的で画像的にもあまり迷うことのない症例でしたのでスムーズに進行しました。今回は来週の乳癌学会の影響で通常よりも1週早く行なったために場所の確保ができず、超音波検査室を使用しましたのでちょっと手狭でしたが、かえって距離が近くてアットホームな雰囲気になったと思います。

私の今回の発表内容は以前も簡単にここでご紹介しましたが、検診発見乳がんの悪性度についての発表です。検診が無意味だと主張する人たちをこの発表のみで否定するつもりはありませんが、検診発見乳がんすべてがおとなしいがんではないということは今回の検討からは言えそうです。

もちろん今の検診で悪性度の高いがんすべてを拾い上げることはできないのも事実です。しかし、そのことだけを取り上げて”検診で見つかるがんは命に関わらないようなおとなしいがんだから検診を受ける必要はない”とか、”治らないがんは早期発見しても治らないのだから早期発見は無意味だ”などと無責任に主張することは正しいとは思いません。

今の検診に問題があるのであれば、それをどうやって改善し、どうしたらもっと多くの患者さんを救えるような効果的な検診ができるのかを考えるのが医療者として正しい姿勢なのではないでしょうか?今回の発表がそのような課題の解決に少しでも役立てば…と思っています。

2012年6月13日水曜日

アロマターゼ阻害剤による関節痛に対するストレッチ動画

以前もここでアロマターゼ阻害剤(AI)の代表的かつもっとも多く見られる副作用である関節痛予防のストレッチについて書いたことがありますが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/01/blog-post_27.html)、アリミデックスを販売しているアストラゼネカ社のHPでこのストレッチ法(関節痛体操)についての動画を見ることができるようになりました。

URL:http://med.astrazeneca.co.jp/arimidex/ari_stretch/index.asp?mlst=zpmlREAISIwP

ちょっと見てみましたがなかなかわかりやすいと思います。動画はストレッチの概要の解説、痛みがない方向けの予防的ストレッチ、痛みがある方向けの治療的ストレッチに分かれています。ご自身の状態に合わせて見てみると良いと思います。

AIによる関節痛は、結構よく見られます。朝のこわばりだけの初期症状から、徐々に痛みが加わり、ひどくなると一日中症状が継続するようになる場合もあります。ただ、多くの方はきちんと原因をご説明し、ストレッチを指導すれば内服の継続が可能です。副作用をいたずらに恐れずに、主治医に症状の経過を報告しながら服薬の可否についてご相談して下さい。

2012年6月11日月曜日

乳がん体験者コーディネーター養成講座第8期生募集中!

毎年書いていますが、今年もNPO法人キャンサーネットジャパンの第8期乳がん体験者コーディネーターBEC(Breast Cancer Experienced Coordinator)養成講座の案内が届きました。

第7期の養成講座には私たちの病院の患者さん(Nさん)が受講し、試験に無事合格しました(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/05/blog-post_25.html)。Nさんのそもそもの受講動機は、自分の病気についてもっと知りたいということだったそうです。実際に受講して得たものは大きかったようで、ただ単に自分自身が乳がんの知識を得るということだけに留まらず、がんサロンでの活動に協力して欲しいという私の要望にも前向きに考えて下さっているようでした。

講座と申し込み方法の詳細は、NPO法人キャンサーネットジャパンのHP(http://www.cancernet.jp/training/bec)をご参照下さい。けっこう高額ですし、前期はパソコンが必要、後期は東京や大阪まで2回行かなければならないという制約がありますので、誰でも気軽にというわけにはいきません。ただ後期の開催地は、人数が集まれば地方での開催も可能ということですので、受講者を集めて、開催場所(病院の会議室など)を確保できれば少し負担は減らすことができるようです。また5/7-7/31までに申し込むと前期分が割引になります(90.000円→80.000円)。

けっこうハードルが高いですが、もしご興味のある方はHPを覗いてみて下さい(それにしてももう少し安くならないものでしょうか?…)。

2012年6月10日日曜日

第9回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会~

今年もまた夏に「With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会」が行なわれます。5月にその打ち合わせがあったのですが所用で出席できませんでした。どうなったか気になっていたところ、先日その打ち合わせの概要のメールがH病院のK先生から届きました。

まだ正式なポスターになっていませんが、およその内容をお報せしておきます。


テーマ:もっと多くの良い情報を!
日時:平成24年8月18日(土) 12:30~16:15
場所:札幌市中央区南1条西16丁目 札幌医科大学研究棟1階 大講堂

主な内容:
①お役立ち情報コーナー(ミニ講演):『乳癌最新治療』『ネット活用法』『補完代替医療』 『リンパ浮腫セミナーを振り返って~「学ぶ」・「つながる」の大切さ~』
②参加者グループワーク
③パフォーマンス(フラメンコ)
④特別講演

①は初めての試みですね!興味深い内容が聞けるのではないかと思います。恒例になったグループワークは、今回は各テーマ別のグループに不参加の方たちを対象に「何でもコーナー」という場を設けるようです。今までこのグループワークがちょっと苦手で参加をためらっていた方たちもこれで参加しやすくなるのではないかと思います。特別講演は演者の先生は決まっていますが内容は仮題ですのでパンフレットが完成しましたらご確認下さい。乳腺診療の第1線で活躍されている先生ですので楽しみにしていて下さい!

今回で9回目となるこのイベントですが、最近少し参加者が固定化してきており、人数も少なくなってきたような印象です。すべての乳がん患者さんとご家族が対象ですので、札幌近郊(もちろん道内どこからでも)にお住まいの方は是非ご都合をつけてご参加下さい。お待ちしております。

2012年6月8日金曜日

今月末は乳癌学会!発表準備、いよいよ大詰め…

サッカー日本代表の試合、すごかったですね〜!久しぶりにすっきりする試合を見ました。このままの勢いでオーストラリア戦も勝って欲しいものです!

ついつい夢中になってサッカーを見てしまいましたが、乳癌学会があと3週間弱に迫ってきてしまいました。今回はなぜかなかなか学会準備に集中できなくて例年より完成が遅れています。先週末から今週初めは統計ソフトがうまく動いてくれず、簡単な統計処理ができなくて足踏み状態でした。ようやくそれも解決していよいよこれから仕上げです!

今年の私の学会発表内容は検診発見乳がんの悪性度に関しての検討です。マンモグラフィ併用乳がん検診の有用性の検討については、今までは乳がん発見率や乳がん死亡率などについての疫学的研究や臨床試験を元に行なわれてきました。今回の私の発表はアプローチを少し変えて発見契機別に悪性度に違いがあるのかどうかを検討したものです。さて、マンモグラフィ検診で発見される乳がんは、”放っておいても命に関わらないようながんもどき”ばかりなのでしょうか?生物学的悪性度の面から推測してみたいと思います。

今回の乳癌学会は熊本です。札幌からは羽田などから乗り換えか福岡から新幹線で移動になります。移動するだけでけっこう大変そうです。でも初めての場所なので楽しみにしています。昨年の乳癌学会には初めて病棟看護師も同行しましたが、今年も1人一緒に参加します。他の施設でどのような乳がん診療が行なわれているのかを学んで今後に活かしてくれたらと思っています。そしてこいう経験を通して乳がん看護認定看護師の取得に前向きになってくれる看護師が出てきてくれれば乳腺センターはもっと飛躍できるのではないかと考えています。また、会場では久しぶりにN先生の顔も見れます。G病院での出向研修できっと一回り大きくなっていることと思います。研修話を聞くのが今から楽しみです!



2012年6月5日火曜日

高齢者の炎症性乳がん??

先日、乳房の皮膚の広範な発赤と痛みで受診された高齢の患者さんがいらっしゃいました。

初診は一般外来だったのでマンモグラフィと超音波検査を施行後に私の外来に受診されました。再診時には発赤と痛みは軽減していましたが、超音波検査もマンモグラフィも視触診上も皮膚の著明な肥厚を認めました。その他には腫瘤などの所見はありませんでした。

このような患者さんを診た時にまず第1に頭に浮かぶのは炎症性乳がんです。鑑別には虫さされなどによる炎症性の疾患が挙げられます。ただ、炎症性乳がんというのは皮膚のリンパ管ががん細胞によって閉塞して起きる浮腫がその本態ですので著明なリンパ節転移を伴っている場合がほとんどです。しかしこの患者さんにはまったくリンパ節の腫大が認められませんでした。皮膚生検をすると診断がつく場合がありますが、炎症性乳がんの皮膚生検の陽性率はさほど高くないため、そこにがん細胞が証明できないからと言って炎症性乳がんの否定はできないのです。MRも有用ではありますが、認知症がひどくて腹臥位で長時間じっとしていることは不可能と判断しました。

実は同じような高齢の患者さんを以前経験したことがあります。間違いなく炎症性乳がんだと疑いもしなかったのですが、高齢ということで経過を見ていたら自然に浮腫は消失してしまったのです。結局原因は不明でしたが、リンパ流を阻害するなんらかの原因があったのか、皮膚によくわからない炎症があったのかのどちらかだと思います。

そういう経験があったことと、90才近い高齢者では炎症性乳がんに行なうような強力な化学療法は不可能であること、患者さんのご家族も皮膚生検を望まなかったことから今のところ経過観察をしています。1ヶ月後の検査ではまったく不変でした。まだ炎症性乳がんを完全に否定はできませんが、なんとなく違うのではないかと思っています。

高齢者の場合には、予期せぬことで原因がんと紛らわしい場合がたまにあります。例えばご本人の記憶にはなくても乳房の打撲で知らないうちに小さな血腫になっていてそれがあたかも硬がんのような腫瘤を形成していたり、特発性の血腫(おそらく動脈硬化による血管の破綻)によって乳房全体に巨大な腫瘤を形成していたり…。

今回の患者さんも炎症性乳がんではなかったとしたら、何らかの高齢者特有の病態が炎症性乳がん様の所見を呈する原因だったということになります。乳腺疾患の診断はやはり難しいです。

2012年5月31日木曜日

ラジオ波焼灼療法(RFA)と局所再発

第112回日本外科学会定期学術集会において、高度医療評価制度のもとで現在進行中のラジオ波焼灼療法(RFA)の多施設共同研究(第2相試験)の中間報告が発表されたそうです。以下は医療関係のWeb情報を参考に書いています。

この臨床試験における対象は、腫瘍径1.0cm以下で限局型、リンパ節転移を認めない早期乳癌患者であり、これまでの39例に行なわれています。RFA治療後は、乳房照射と術後薬物療法を行った上で、術後12カ月間経過観察されました。

その結果、1年後の乳房の整容性はおおむね良好でしたが、39例中4例が、不完全な焼灼による局所再発をきたしたということです。RFA治療1年後時点の再発数ということなので、局所再発率は10.3%/年ということになります。これは放射線治療を併用しているにしては非常に高い率です。通常の乳房温存療法後の局所再発率は、放射線治療を併用して0.3-1.0%/年程度ですので、いかに高いかがおわかりいただけるかと思います。症例数がまだ少ないですので、今後問題点を解決して慎重に臨床試験を継続して欲しいものです。

適応や治療方法が厳格に決まっている臨床試験ですらこのくらいの再発をきたすというのがRFAの現状です。ましてや放射線治療も併用しない、腫瘍径の大きな患者さんにまで行なっているような施設でのRFAはもっと高率に局所再発をきたすと考えた方が良いと思います。

メスを入れないがん治療は理想ではありますが、まだまだその治療成績は不十分なようです。マスコミも安易に「メスを入れない夢の最先端治療」などと持ち上げないようにして欲しいと思いますし、繰り返しになりますが臨床試験であっても慎重に研究を進めて行って欲しいと私は思っています。

2012年5月30日水曜日

乳腺術後症例検討会 19 ”毛芽腫&キューバの医療”

今日は定例の症例検討会が行なわれました。

1例目は血性乳頭分泌で受診され、分泌物細胞診がClassⅡ(良性)、穿刺吸引細胞診がClassⅣ(悪性疑い)、乳管腺葉区域切除術で微小浸潤がんと診断された症例、2例目は、大きな境界明瞭な腫瘍で超音波検査では嚢胞内がんのように見え、細胞診でも悪性を強く疑った毛芽腫(毛根の細胞由来の良性腫瘍)の症例、3例目は比較的急速に増大し、MRでは悪性のパターンを呈した乳腺症型線維腺腫、4例目は比較的小さな境界明瞭な腫瘤で検診発見された充実腺管がんの4症例でした。

2例目は細胞診を見直しても皮膚由来の腫瘍であることを考えなければ悪性と診断せざるを得ない症例でした。乳房の厚みのほとんどを腫瘍が占めており、乳腺発生の腫瘍であることを疑いもしなかったため、この病理結果には大変驚きました。乳房に発生して乳がんとの鑑別が困難だったという報告は聞いたことがないので非常に珍しい腫瘍だったと思います(毛芽腫は顔や頭に多いと言われています)。

症例検討のあと、関連病院のH医師が先日医療交流でキューバを訪問してきた写真のスライドを見せていただきました。キューバは医療システムが進んでいるという話を聞いていましたが、実際の病院内の設備は非常に古く、レントゲン写真は何十年も昔のような現像機を使用しており、外に出てフィルムを手で振って乾かしていたのには一同びっくりでした。ただ、予防接種の積極的普及によって乳児死亡率は激減し、医大の数も急速に増加しているそうです。平均寿命は77才(何年の統計かは不明)とのことで、必ずしも最新医療設備や治療の普及が寿命を延ばすことにつながるわけではないのだと感じました。

2012年のWHOの統計による平均寿命は、日本が83才で1位、米国は79才で29位、キューバは78才で35位ですので、先進国の代表である米国とレントゲンフィルムを人力で乾燥させるキューバの寿命はほとんど変わらないということになります。医療の進歩が寿命の延長に直結していないのか、医療以外の生活の変化(飽食、運動不足、化学物質の摂取過剰、晩婚、少子化など)によって結果的にプラスマイナス0になっているのか、非常に興味深いところですね。

2012年5月27日日曜日

骨転移治療の研究会

昨日ヒルトン名古屋で「第1回 Bone Management Consensus Conference」が行なわれました。この研究会は乳がんに限らず、各領域のがんの骨転移に対して、どのような治療方針が最適なのかを整形外科医、放射線科医、乳腺外科医、泌尿器科医、呼吸器内科医、腫瘍内科医などが集まって討論する初めての試みです。

まったく普段関わりを持っていない腎がんや前立腺がんの話もあるので当初はどんな会になるのか疑心暗鬼でしたが、結論から言えばとても勉強になりましたし、興味深かったです。

第1部は「症例ディスカッション」で前立腺がん、多発性骨髄腫、乳がん×2、腎がん、肺がんの骨転移症例についての症例検討でした。印象に残った内容を箇条書きにしてみます。

①がん種によって放射線治療の効果は異なり(腎がんは放射線が効きにくい)、そのために手術の適応、判断が異なることを初めて知りました。
②最近では単発の脊椎転移に対して根治的な切除法である脊椎全摘術(Total en bloc spondylectomy: TES)を行なう施設も増えてきているようです。
③金沢大学ではTESに加えて、摘出した脊椎を液体窒素で凍結した後に粉砕して元に戻す治療を行なっているそうです。がん細胞は液体窒素で死滅しますが、腫瘍抗原は残るので免疫治療にもなるようです(今度もう少し詳しく勉強します)。その治療を受けた患者さんの術前術後の廊下を歩く姿の変化にはびっくりしました。術前は手すりを使って歩くのもやっとの状態だったのに、術後には駆け足というかまるでスキップをするような感じにまで改善していたのです!
④TES後にゾメタを併用するかどうかについては意見が分かれました。肉眼的には骨転移がなくなった状態で予防的にゾメタを投与することが骨転移の再発や予後の改善に効果があるのか?という問題はなかなか難しいところです。
⑤整形外科医の中にはそのがん種についての知識が不十分なために、予後が十分見込める患者さんに対しても手術は適応外だと決めつけてしまう場合もあるようですし、担当医側においても骨転移診断時には積極的に整形外科医に相談しに行かず、結局症状がひどくなってから手術の依頼に行くケースがあるなどの問題点もあるようです。
⑥いずれの発表からも共通して言えることは、整形外科医や放射線科医との密接な連携をとることが骨転移治療においては非常に重要だということです。

第2部は京都府立医科大学の田口哲也先生の「乳癌治療におけるゾレドロン酸の可能性」についての講演でした。集まっているのが乳腺外科医以外が多いため、乳がんの基礎的な事柄から最新の知見までわかりやすくお話して下さいました。知識の整理をする上でもとても良かったです。

研究会の終了後には、美味しい味噌カツや手羽先などを堪能して、今朝の便で札幌に帰ってきました。今までにないタイプの研究会でしたが、参加して良かったです!

2012年5月25日金曜日

ついに乳がん体験者コーディネーター誕生!




昨年ここでご紹介した、NPO法人キャンサーネットジャパンが行なっている「乳がんコーディネーター養成講座」に私の患者さんのNさんが受講し、先日認定されました。

第7期の講座を受講(前期 昨年7-12月、後期 本年1-3月)したのですが、後期は東京まで行かなくてはなりませんし、お金もかなりかかったと思います。Nさんは60才代後半ですが、非常にお元気で行動力があります。今回の受講も私には内緒で受けていたようで、認定証が送られてきてから初めて連絡があり、今日の受診時に認定証と登録証を見せていただきました(写真 ご本人のご希望にて一部消してあります)。

来春には新病院が開院になり、がんサロンもできます。がんサロンをどのように活用するかは現在検討中ですが、乳がん患者さんの利用できる時間帯にはできるだけNさんに来ていただいて、せっかく得た知識を活かしていただけたらと思っています。乳がんと診断されて不安な患者さんや再発でショックを受けている患者さんたちが、ここに立ち寄ることで少しでも気持ちが楽になれるように私たちスタッフとNさんとで協力しあいながらより良いがんサロンを作っていけたらうれしいです。

明日からは1泊で名古屋に行ってきます!

2012年5月24日木曜日

第37回日本超音波検査学会 in Sapporo

来週(6/1-3)、札幌コンベンションセンターで第37回日本超音波検査学会が開催されます(http://laboinfo.med.hokudai.ac.jp/US/JSS37/)。今回の主催者は西田 睦先生(北海道大学病院 検査・輸血部/超音波センター)です。

地元での開催ということもあり、私たちの施設からも技師たちも参加するようです。関連施設のベテラン技師、Tさんは、札幌の技師会に長く関わってきた経過もあって今回の学会では自分の発表以外に座長も務めることになりました。発表のスライドに関しては目を通しましたが、座長に関してはどうなることやら…ちょっと心配です。

残念ながら学会自体には参加できるかどうか微妙ですが、せっかくの機会なので頑張って欲しいと思っています。もし仕事の調整がついたら、G先生とTさんの晴れ姿(?)を見に行こうかと思っています。

なお、6/3(日)には市民公開講座「乳がん早期発見のための切り札〜超音波検査の取り組み」があります(http://laboinfo.med.hokudai.ac.jp/US/JSS37/public.html)。時間は15:00~16:00 (開場 14:30)で、場所は札幌コンベンションセンター 1F特別会議場です。興味のある方は是非ご参加下さい。

2012年5月22日火曜日

ホスピス&緩和ケア〜適切な判断の重要性と難しさ

ここでも何度か書いてはいますが、ホスピスや終末期医療について書くのはなかなか勇気が必要です。おそらく再発治療を頑張っている方が多くご覧になっているはずですので、その方たちに対して誤解を与えてしまったり、闘う気力を失わせたりしてしまうのではないかと思ってしまうからです。でもそのような考え方は逆にホスピスや緩和ケアに対する間違った認識を与えることになるのではないかとも思いますので避けないで書くことにします。

昨年あたりから、最後の時間をホスピスで過ごす患者さんが増えてきました。もともとは乳がんの場合は、ぎりぎりまで積極的治療を行なうことが多いため、結局外科病棟で最後の時を迎える患者さんが多いのが現状でした。結果的にはホスピスに転科するタイミングを逸したことになりますが、患者さんがホスピスに行くことに対して抵抗感があることと、医療者側としてもかなり状態が悪くても治療の変更によって劇的に改善して退院したりする患者さんを見ているとなかなか積極的治療を終了する決断ができないということなどがその理由でした。大学病院のホスピスで研修してきた看護師の話を聞くと、乳がん患者さんでホスピスに入院する方は他のがん患者さんに比べると非常に少ないということでしたので、私の病院だけの話ではないようです。

しかし、外科病棟での療養環境は必ずしも患者さんにとって満足のいくものではありません。一方今までにホスピスにお世話になった患者さんとご家族からは、”ここに来て良かった”と必ずと言っていいほど感謝されます。そういう経験を繰り返しているうちに、私たち自身の考え方も少しずつ変わって来たのかもしれませんが、最近では抗がん治療の終了と緩和医療へのシフトが比較的スムーズにいくようになったような気がします。これはまだ積極的治療を行なっている段階から早めに緩和ケア医につながるようになったことが大きいのかもしれないと思っています。そのことによって患者さんとしても緩和ケアというものに対して以前ほどネガティブな気持ちが起きにくくなってきたのでしょうか。

再発患者さんにとって、苦痛を取り除くということはがんを小さくすることと同じくらい、場合によってはそれ以上に重要なことです。”治療のためには仕方ない…”と苦痛を我慢することがないように、緩和ケアスタッフとの連携をうまく取っていくことが、再発患者さんのQOLの改善とホスピスへの抵抗感や誤解をなくすことにつながるのではないかと考えています。

先日、外来で10年近く再発と闘っていた患者さんがいよいよ治療が困難となり、外科病棟経由でホスピスに入院となりました。もともと入院が好きではなく、できるだけ自宅でと頑張っていた患者さんでしたが、病状が厳しくなり症状緩和が必要になったのです。かなり心配された状態でしたが、ホスピス転科後の緩和ケア医の治療のおかげで表情はかなり穏やかになりました。経口摂取も厳しくなっていたのですが、会いに行くといつも笑顔で迎えてくれました。残念ながらその後症状は悪化してしまいましたが、ご本人のご希望で最後のわずかな時間を自宅で穏やかに過ごすことができました。

以前も書きましたが、再発治療の判断は、何年医師をしていても難しいです。特に乳がんは治療手段が多くあり、効果が見られる場合はとても長く元気で過ごせることもありますのでいまだに完璧な判断はできません。しかし患者さんから教えていただいた経験を元に少しずつ改善できているように思います。もちろんすべての患者さんに対して最適なタイミングで判断できるわけではありませんが、緩和ケアのスタッフとの連携を密にして、患者さんがより快適な時間を長く過ごせるように今後も努力していきたいと考えています。


2012年5月16日水曜日

乳癌の治療最新情報30 デノスマブ(骨転移治療薬)③

先日発売になったデノスマブ(商品名 ランマーク)ですが、さっそく1人の患者さんに投与を開始しています。

皮下注射を4週に1回ということで手軽に投与できる治療薬で、ゾメタより有効性も高い(これは以前にもここで書きました)ということもあって、他の施設で骨転移治療薬を全面的にランマークに変更したところもあるようです。しかし私自身はぞういうつもりは当面ありませんでした。初期投与はゾメタで十分に有効性がみられていること、ランマークのほうが高価であること、新薬のため、安全性に若干の不安があることなどがその理由です。しばらくはゾメタ使用中に悪化してしまった患者さんに限定して投与するつもりで考えていました。


発売して間もないのですが、5月に入ってやはり心配していた副作用の情報が入ってきました。米国においてランマーク投与後に低カルシウム血症によって3人が亡くなっていたことが判明し、製薬会社からあらためて注意喚起の文章が出されたのです(http://www.info.pmda.go.jp/iyaku_info/file/kigyo_oshirase_201205_2.pdf)。発売時(4月)の添付文書には低カルシウム血症の発現に注意する旨の記載はありましたが、死亡例発生に関しての記載はありませんでした。

低カルシウム血症の初期症状は、唇のしびれ、指先のしびれ、突っ張り感です。ひどくなると全身のけいれん、不整脈、意識混濁を起こします。私自身は死に至るまでの低カルシウム血症を起こした患者さんの経験はありませんが、ランマーク使用時には厳重な注意が必要なようです。血中カルシウム値の定期的なチェックももちろん大切ですが、上に書いたような初期症状が出たら早めに受診して対処してもらうことが最も重要だと思います。

2012年5月11日金曜日

乳がん進行・再発治療症例の検討会

昨年の夏にも行なわれた進行・再発治療の勉強会がまた今晩開かれました。

今回も4つの施設から乳腺外科医5人だけ(今回はG先生も参加)の小規模の勉強会でした。人数が少ない分、自由に発言できるのでとても濃厚な討論ができました。

前回同様、今回もまずK乳腺クリニックのM先生から、術前化学療法(FEC-ドセタキセル)で悪化した症例と奏効した症例の提示がありました。FEC4回が奏効したのにドセタキセル2回投与後に増大(嚢胞様の変性を伴って)してしまった症例では、FECに戻すかもう少しドセタキセルを続けるべきか、という質問がありましたが、私なら手術に踏み切るか、再度針生検をして組織学的な効果を見てみると答えました。もう1例はFECは無効でしたがドセタキセル4回終了時点で有効(腫瘍は残存)だったケースで、さらにドセタキセルの投与を追加するべきかどうかという質問でした。私はスケジュール通り手術をするという選択を考えましたが、効果があるならもう少しという考え方も理解できました。ただ、このようなケースで追加投与中に再増大した経験もありますので、自分ならやはり切除可能なら手術を行なって、病理学的に検索してから補助療法を検討するのではないかと思いました。

その後、G先生に私たちの病院の患者さんの相談症例を提示してもらいました。詳細は諸事情にて割愛しますが、参加した先生方から有益なご意見をいただきました。

正式な研究会ではありませんが、このような小規模の集まりは、生きた情報が得られるので講演を聴くより勉強になることもあります。また参加したいと思っています。

2012年5月9日水曜日

セカンドオピニオンについて

乳がんと診断された方が、他の施設での診断や治療を希望されることがあります。紹介・転院を希望される場合は良いのですが、セカンドオピニオンについては、まだ十分理解をされていない方が多いようです。

mixiなどのSNSでは、「がんと診断されても一つの病院で判断しない方がいい。セカンドオピニオンを受けるべきだ。」というような書き込みをよく見かけます。しかし、その内容を読むと、それはセカンドオピニオンではないでしょう?と思うことがしばしばあります。このようなネットの影響を受けている方が多いためか私自身も何度かセカンドオピニオンに関しての患者さんの誤解に困惑したことがありました。

例えば、術前検査も終了し手術予定まで組んでいた乳がん患者さんから突然外来に電話が入り、「○○病院にセカンドオピニオンに行ってきて、結局そこで手術をすることになったから入院予約をキャンセルして下さい。」と言われたケースや、乳がんの告知の際にセカンドオピニオンの希望があればおっしゃって下さいという話をしていたにも関わらず黙って△△病院に受診して、その病院の外来から「セカンドオピニオンに来たら紹介状が必要だと言われたのでこれから取りに行くので今すぐ手紙を書いて資料も下さい。」という電話が入ったケースなどがあります。


セカンドオピニオンの概要について以下に書いてみます。

①セカンドオピニオンというのは、「前医での診断や治療方針が妥当かどうか、他の治療方法などはないのか、ということについて他の専門医の意見を聞きにいくこと」です。

②したがって、セカンドオピニオン目的で受診した病院では検査はしませんし、そこで治療を受けることを前提に行くわけでもありませんから、とりあえずセカンドオピニオン後には最初の医師の元に一度は戻るのが原則です。その上でセカンドオピニオン先での治療を希望する場合は改めて最初の医師から紹介をしてもらうようにして下さい。

③セカンドオピニオンは、基本的には保険外診療ですので、値段と時間はその施設によって異なります。中には通常の診療時間内でセカンドオピニオンを受け入れている病院もありますが、一般外来の中では十分な質問の時間は確保できないと思って下さい(外来をしている側の立場からも一般外来内でのセカンドオピニオンはあまり好ましいことではなのです)。

④セカンドオピニオンの際に必要なものは、紹介状と検査データ(検査所見用紙、画像のフィルムまたはCD-R、細胞診または組織診などの病理検査標本など)です。通常、セカンドオピニオンは予約が必要で、あらかじめ医療連携室などを通して連絡を入れます。

⑤④の準備のためには少し時間が必要です(ですから上に書いた2例目のケースは非常に困りました)。後日あらためて資料などを取りに行って予約を入れることになることもあると思います。もし外来受診時ではなく、帰宅後にセカンドオピニオンを受けたいと思われた場合は、あらかじめ外来の看護師にその旨を電話で伝えて、資料を取りに行く日を相談しておく方が二度手間にならなくてすみます。


一生懸命診断し、治療方針を立てた患者さんからセカンドオピニオンの希望を出されることは、医師にとって決してうれしいことではありません。しかし、突然の告知に戸惑い、不安になる患者さんのお気持ちはよく理解できます。ですから私はセカンドオピニオンが一般に認知されてからは、セカンドオピニオンの希望があればおっしゃるように告知の際にあらかじめ患者さんにご説明しています。

繰り返しますが、セカンドオピニオンは、「最初の診断医の判断が妥当かどうか他の医師の意見を聞く」ことが主目的ですので、私個人としては、最初の診断医との関係が良好で、セカンドオピニオンでの判断と違いがないのであれば最初の診断医の元に戻って治療を受けて欲しいと思っています。もちろんセカンドオピニオンの結果が異なっていて、そちらの意見に賛同する場合は紹介・転院を希望されるのはまったくかまわないと思います。

なお、もし最初の医師との関係に問題がある、もしくは有名な病院や医師に治療してもらいたいと最初から思っている場合はセカンドオピニオンの対象外ですので、最初から紹介してもらった方が経済的にも時間的にも有益だと思います。いずれにしても患者さんも医師も同じ人間同士ですので、良好な関係を保つためにお互いルールを守るようにしましょう。

2012年5月5日土曜日

連休も終わりますね…

このブログを管理するBloggerのシステムが新しくなってから、投稿した文章の改行がまったく反映されなくなってしまいました。とっても見づらくなっていてすみませんでした。

ようやく変更の方法がわかりましたのでもう大丈夫だと思います。

さて、GWもあと1日となりましたが、皆さんはリフレッシュできましたか?私は結局娘の部活があったために毎日送り迎えで追われてしまい、温泉には行けそうもありません。

ただ昨日、ずっと音信不通だった(商社に勤めているため海外勤務が長かったようです)高校時代の友人の一人が札幌に戻ってきていたため5人で集まって飲みに行ってきました。3軒飲み歩いて、ビール、ワイン、ウイスキーと飲みまくったため、今日は久しぶりに二日酔いでふらふらでした(泣)ようやく少し復活してきたところで、久しぶりにブログを書いています。


連休が明けたら待機していた乳がん患者さんたちの手術を一気にこなさなければなりません。4月はちょっと手術件数が少なめでしたが、今月は多くなりそうです。相変わらず進行がんで見つかった化学療法施行中の患者さん、再発患者さんも多いため、G先生は大忙しです。呼吸器外科のH先生も手伝ってくれていますが、経過の長い患者さんはG先生が持っているため、しばらくは多忙な毎日が続きそうです。

最近、マンモトーム生検で紹介する患者さんが増えています。私たちの病院にはまだマンモトームやバコラなどの機器がないため、マンモグラフィでしかわからないような微細石灰化病変の確定診断は、ステレオガイド下生検ができる施設に紹介しなければならないのです。患者さんたちには大変ご迷惑をおかけしていると思います。

来年完成する新病院にはステレオガイド下生検ができるような設備を導入するつもりです。私は16年ほど前にG病院で研修していた時に少し経験があるくらいですので、N先生が研修から帰ったら全面的にお任せしようと思っています。N先生も元気に研修しているようです。学会で会えるのを楽しみにしています。

2012年5月1日火曜日

外国人の患者さんと英会話の能力…

今日は連休合間のメーデー。私は関連病院の外来で通常勤務でした。

予想通り予約患者さんは少なく、久しぶりに余裕のある外来だったのですが、しこりを自覚して来院した外国人女性がいるので診て欲しいとの連絡が受付から入りました。 英会話の苦手な私はとたんに緊張しまくり…(医者は英語が堪能だと思ったら大間違いです…笑)。

日本語がまったくわからなかったらどうしようかと思っていましたが、幸い片言の日本語はしゃべれるとのこと。 患者さんはアフリカの某国から留学している20才代前半の女性でした。母国の公用語は現地の言語と英語ですが、留学して1年ほどのわりには日常会話はほぼ通じるくらい日本語が堪能でしたのでよかったです!ただ病気に関する言葉(乳腺症や女性ホルモンの刺激、腫瘍、悪性・良性、妊娠・出産など)はわかりませんでしたので専門用語のみ英語を混ぜたへんてこな会話と身振り手振りでなんとか乗り切りました(汗)

問題の自覚症状については、触診上はかなり気になったのですが、マンモグラフィと超音波検査上は悪性所見がなかったため経過観察としました。もし悪性だったら母国に戻らなければならなかったですし、若い未婚女性でしたので本当に良かったです! それにしても外国から来ている方たちをみていると日本以外の人たちは外国語を覚えるのが早いということをつくづく感じます。大陸に住んでいる人たちは昔から他民族との交流や侵略などがあったため、必然的に他国語を覚えなければならなかったからでしょうか?同じアジア人でも中国や韓国の方は英語がとても堪能ですし、日本語も比較的早くに覚えるような印象があります。島国でもともと他民族との交流が少なかったことと鎖国の影響で日本人は母国語以外の言語を習得する能力が減少してしまったのかもしれません…なんて英語が苦手な私だけの問題なのかもしれませんが…(泣)

誰か私に英会話を教えてくれませんか?(笑)

2012年4月28日土曜日

今日からGW!

今日からのGW、皆さんはいかがおすごしですか?

連休と言っても病院には入院患者さんがいらっしゃいます。正月もそうですが休日の回診当番が必要です。昨年はN先生がいましたので3人で分担しました。今年はN先生が出向研修中なのでどうなることかと思いましたが、呼吸器外科のH先生が1年間、乳腺センターで手伝ってくれることになったので連休中の回診当番も3人で分担することになりました。

結局G先生が3日間、私とH先生が2日間で4/28-30と5/3-6の7日間を分担しました。私は4/29と30なので後半の連休はフリーです!でも今年は娘の部活の関係で結局どこにも行けそうにありませんのでだらだらしていることになりそうです。前半は病院関連の新聞の原稿を完成させて、後半は学会の準備でもしようかと思っています。でもこんなときに限って札幌はとても良い天気でずっと暖かくなりそうです(泣)やっぱりちょっとどこかに出かけてこようかな…。

2012年4月25日水曜日

乳腺術後症例検討会 18 ”炎症性偽腫瘍”

今日は月1回の乳腺症例検討会がありました。院内外の乳腺外科医、病理医、超音波技師、放射線技師などが集まって定例で行なっていますが、最近ちょっと参加者が少ないのが気になっています。特に院外からの参加者が少ないのです。今までは冬で交通の問題があったせいかと思っていましたが今日は晴天だったにもかかわらず院外からの参加者は0でした。なにか開催内容や方法に問題があるのではないかととても気になっています…。

今日も症例は4例。非浸潤がんを疑ったけど炎症性偽腫瘍だった症例、短期間の内分泌療法で病理学的に変化が現れた可能性のある症例、線維腺腫の石灰化のように見えた非浸潤がんの症例、扁平上皮がんの成分を有していて急速に増大した症例の4例でした。画像的に特にすごく問題になるような症例はありませんでしたが、3例目は石灰化がなければ超音波での描出は難しそうな症例でした。 ミニレクチャーは1例目の炎症性偽腫瘍についてで、担当の超音波技師のスライドを用いた説明と病理医の英文の文献を用いた解説がありました。今回の症例はどのような経過でできたのかは不明ですが、MRで拡張乳管が写っていたため、乳管拡張症をベースにして発症したのかもしれません。

もともとは病院内のごく一部で始めたこじんまりした検討会でしたが、技師さんたちの熱心な努力によって年月をかけて徐々に広めてここまできました。来年の春には新病院が完成し移動になります。私はこれまで乳腺センターの活動をもっと病院内(関連病院も含めて)や地域に認知してもらうためにもこの症例検討会を発展させたいと思ってきました。そのためには、この会の開催形式をきちんとすべきです。今までは”乳腺チーム”という、正式ではないぼんやりした集団としての活動でしたが、新病院ができるのに合わせて当院の乳腺センターとしての正式な活動に位置づけようと考えたのです。それは病院HPなどでの対外的な広報上の意味もあり、病院内の案内や時間外勤務の扱いなどのシステム上もその方がすっきりするからです。ただいろいろな問題もあって簡単ではないようです。今まで以上に発展させるためのシステム作りだと思っているのですが…。

2012年4月23日月曜日

保険外適応の抗がん剤が混合診療で使用可能に…

「抗がん剤に保険適用拡大 臨床研究も促す 」という見出しの記事が日本経済新聞に掲載されました。

これは誤解されやすい書き方ですが、「保険外適応の薬剤」に保険が適応されるようになるわけではありません。 今までは例えばシスプラチンやカルボプラチンという薬剤をトリプルネガティブの再発乳がんの治療に用いようとした場合、本来保険が利くはずの入院費や他の薬剤費などの全てが保険外となっていた(つまり全額自己負担)のを保険外適応の薬剤のみ自由診療(全額自己負担)としてその他の費用は保険でまかなえるようにするということです。これはつまり「混合診療」を認めるということです。

混合診療に関しては様々な意見がありますのでWikipedia(http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%B7%B7%E5%90%88%E8%A8%BA%E7%99%82)をご参照下さい。

実際の診療で「混合診療が認められていたらこの治療ができるのに…」と感じることはないわけではありません。しかし個人的には…やはり反対です。いろいろな理由がありますが、混合診療を許すと必ずそれをいいことにエビデンスはもちろん有効性と安全性を完全に無視して金儲けに走る医師が出てくること、これをきっかけに今まで保険で認可されてきたような薬剤が認可されにくくなる可能性があること、治療を受ける患者さんの経済状況によって医療格差が生じてしまうこと、などがあるからです。

穿った考え方かもしれませんが、本来は混合診療を押し進めるよりエビデンスに基づいてすみやかな保険適応拡大を進めるべきなのに、あたかも患者さんのためであるかのような心地良い言葉を並べて世論を誘導し、医療費削減と経済界活性化のために患者さんの安全性を犠牲にして格差を増大させようとしているような気がしてならないのです。

この問題について詳細に書いているサイトを見つけました。ここに書いていることは私が感じていることに近いと思いますが、全て正しいと押し付けるつもりはありませんし、表現に多少疑問を感じる部分もあります。あくまでも参考までに掲載します。 「患者本位の混合診療を考える会」(http://kongoshinryo.jpn.org/static/) なお、私の考えとは少し違う考え方もあります。 少し古いですが「NPO法人 がんと共に生きる会」のHPにはこのような見解が掲載されています。 http://www.cancer-jp.com/report/data/archive/545.html

どちらが正しいとはなかなか言えない部分もありますし、この内容に共感できる部分もあります。またその患者さんの状況によっても受け取り方は違うのかもしれません。 厚生労働省は来年4月にもこの抗がん剤に対する混合診療を認める方針のようです。一見良いことのように見える今回の改正には、いずれにしても冷静な国民の監視の目が必要です。

2012年4月20日金曜日

アバスチン初使用と独特な副作用

先日遅ればせながらようやく初めて乳がんの胸膜再発の患者さんにアバスチン+パクリタキセルを投与しました。

アバスチンは使い慣れない副作用があるのと高額であることなどから、比較的若くて元気な患者さんを1例目に選びました。投与後数日たちましたが今のところパクリタキセルによると思われる倦怠感があるくらいでお元気です。

アバスチン(一般名 ベバシズマブ)は、がん細胞が分泌するVEGFという血管新生を促すタンパクに結合して腫瘍に栄養を送る血管の新生を阻害する分子標的薬です。つまりがんを兵糧攻めにして増殖を抑えるということです。さらに異常な構造になった腫瘍血管を正常化する働きもあるため抗がん剤が腫瘍に到達しやすくなるとも言われています。単独では効果が不十分なため、抗がん剤(乳がんではパクリタキセルのみ適応)を併用します。

一般的な抗がん剤の副作用(白血球減少、嘔気、脱毛など)はほとんどありませんが、出血、血栓症、消化管穿孔、創傷治療の遅延、血圧上昇、蛋白尿などの副作用があるため、いつもとは違った注意が必要です。出血しやすいため、腫瘍が露出している場合や、抗血小板剤、抗凝固剤などを内服している患者さんには原則お勧めできません。

アバスチンは、米国においてFDAの判断で認可取り消しになった経過などがあり、国内での承認はどうなることかと思いましたが、思いのほかスムーズに認可されました。このあたりの経過はhttp://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2011/09/blog-post_30.htmlをご参照下さい。その後、徐々に使用症例も増えているようです。今後市販後の調査でどのような成績が出るのか注目していますが、とりあえず今使い始めた患者さんには重篤な副作用なく、劇的な効果がみられることを願っています。

2012年4月16日月曜日

「乳がん〜再発してもうまく付き合う〜」 4/21にEテレで放送

今日面談した製薬会社の方が上記放送の案内を持ってきて下さいましたのでご紹介します。

放送日時:
2012.4.21(土) PM2:00-2:59
放送チャンネル:
NHK教育(Eテレ)
番組内容:
女性のがんフォーラム第1回「乳がん〜再発してもうまく付き合う〜」
2012.3.20に東京で開催された上記フォーラムの内容です。
出演者:
中村清吾氏(昭和大学教授 乳腺専門医)
向山雄人氏(がん研有明病院 緩和ケア科部長)
内富庸介氏(岡山大学院教授 精神腫瘍専門医)
金井久子氏(聖路加国際病院 乳がん看護認定看護師)

ご興味のある方はご覧になって下さい。私は録画しておこうと思います。