2010年11月30日火曜日

乳房再建の講演後〜外来での変化

11/6にE先生に乳房再建の講演をしていただいてから約1ヶ月が経ちました。

講演を聴きにきていた患者さんの一人(30才代)がさっそく再建を希望されたのでE先生の外来に紹介しました。今のところ紹介状を書いた患者さんは他にはいませんが、講演を聴いて興味を持った方は数人いるようです。

この前の講演会は、決まってからの日数が少なかったため、患者会に入っていない患者さんのうち、3ヶ月以上受診していない方の多くには伝わっていませんでした。ですから、そういう患者さんには、外来でお話しするようにしています。比較的若い患者さんはやはり興味を持っているようです。

でももう手術からずいぶん時間が経っていたり、高齢だったりすると、乳房再建なんて考えていないという方も多くいらっしゃいます。

先日診察に来た患者さんもそうでした。年齢は60才代後半。再発なく5年経過しています。

最初に、

「乳房再建について考えてはいないのですか?」

とお聞きすると、

「もう年だし、誰に見せるわけでもないから。日常生活は何も困っていないし…。」

と答えていたのですが、一応、講演会の内容をお話しして、高齢の方も乳房再建を受けていることや、今は保険が利くようになったこと(自己組織の場合)などをご説明して、

「もしそういうお気持ちになったらご紹介しますからいつでもおっしゃって下さいね!」

とお話ししたところ、

「そうですね〜。もしおっぱいができたら今まで知らず知らずのうちに我慢して来たことができるようになりますよね…。温泉とかも気にしないで入れるようになるし!」

と前向きになってくれたのです。

とてもうれしいと思うと同時に、今までこういう患者さんの心の底にある思いを十分に聞き出せていなかったのだなあということを思い知りました(前は保険外診療で高額だったので勧めづらかったということもありますが)。

これからは乳房再建の希望者が札幌でも増えて行くような気がします。患者さんにも私たち医療者にも乳房再建を考えるきっかけを与えて下さったE先生に感謝の気持ちでいっぱいです。

2010年11月29日月曜日

再発の治癒が期待できる可能性

乳がんの術後に再発すると、もうだめではないか?と感じてしまう方が多いと思います。実際、再発した患者さんを完全治癒に導くのは容易ではありません。しかし、幸いなことに再発が治癒したと考えられる患者さんがいるのもまた事実です。ですから画一的に「再発したら完全に治癒させることはできないのだから、治癒を目指して積極的な治療をするのは間違いだ」と言い切る考え方には同意できません。前にも書きましたが、今あるエビデンスは、もうずいぶん前の臨床試験から導き出されたものです。ハーセプチンもアロマターゼ阻害剤もゾメタもない時代のものです。

乳がん術後の再発は3つに分けられます。

①局所再発…全摘後は稀ですが、温存術後は10年で10%くらいで起こりえます。
②リンパ節再発…腋窩、鎖骨下、鎖骨上、胸骨傍など。
③遠隔再発…初再発部位で多いのは、肺、骨、肝。

集学的治療(局所療法と全身療法の組み合わせ)で治癒させられる可能性は、①>②>③の順です。

①は、乳房温存術と乳房全摘術の間で局所再発率は乳房温存術のほうが高いのにもかかわらず、両者で生存率に差が出なかったように、乳房内の局所再発は早めに治療すれば十分に治癒が期待できます。

②は、不十分な郭清(センチネルリンパ節生検による偽陰性も含めて)によるもの(腋窩リンパ節再発)であれば、再郭清と補助療法の追加で治癒を目指せる可能性があります。所属リンパ節ではありますが初回手術では通常郭清しない、胸骨傍や鎖骨上下のリンパ節再発でも、局所治療(手術または放射線治療)と全身療法の併用で治癒が期待できます。

③は、この中では一番治癒させるのが困難です。ただ、単発から数個までの肺転移は手術と全身療法で治癒した症例を数例経験しています。また、肝転移は一般に予後不良と考えられていますが、化学療法で完全に治癒していた症例、化学療法の動脈内注入とアロマターゼ阻害剤で今のところ5年以上再発していない症例を経験しています。


再発を治癒させれるかどうかは、上に述べた再発部位や再発臓器数が大きな因子になりますが、生物学的な要因も大きいです。ER陽性またはHER2陽性であればターゲットがありますので、治療手段も豊富ですし、反応も良好です。局所治療と組み合わせることができれば、うまくいけば治癒を目指せる可能性もあります。

最近、貴重な経験をしました。
術後早期に鎖骨上リンパ節に再発した患者さんなのですが、再発後にパクリタキセルを投与し、放射線治療とハーセプチンを投与してきたところ、CR(画像上、完全に再発が消えた状態)を5年維持できたために治療を終了できたのです。再発後にハーセプチンを投与して、5年以上CRを維持できて治療から離脱できたのは私自身は初めてでした。

この患者さんが、もし20年前に再発していたら…おそらくこうはならなかったでしょう。ハーセプチンという薬剤の登場が治療の選択肢を増やすだけではなく、予後も大きく変えたのです。このような治療の変化を考慮に入れずに、古いエビデンスだけにとらわれ、再発をひとくくりにして治療の可能性を狭めるのは医療の発展を妨げ、患者さんに不利益を与えることになるかもしれないことを再認識させられた経験でした。

2010年11月25日木曜日

シリーズ〜女性のがん 「乳房再建」

11/6に私たちの病院でD病院の形成外科医、E先生に乳房再建についての講演をしていただいた模様が、昨日のuhbのスーパーニュース内で放送されました。

今回は「シリーズ〜女性のがん」として放送されてきた特集の10回目にあたります。E先生が乳房再建に力を入れ始めたきっかけのお話や遠方から手術を受けにきた患者さんの辛かった経験や乳房再建にかける思い、そして実際の手術の模様など、時間は短かったのですがとても充実していたと思います。キャスターの松本裕子さんを始めとしたスタッフの皆さんのこの特集にかける強い思いが伝わってくる番組でした。

ただちょっと残念なのは、せっかくのシリーズなのに番組HPで見ることができないことです。時間帯的に仕事を持っている人にはこの番組を生で見るのはなかなか難しいと思います。せっかくの特集ですので、HPでいつでも見れるようになるとうれしいですね。

それにしても今回の特集は、私がE先生と飲んでいるときに、

「なかなか乳房再建に踏み切れない患者さんが多いんですよね…。うちの患者会で再建の話をしてくれませんか?」

とお願いしたことがきっかけなんです。それがブログを介してまさかTV放送にまでつながるとは…。ネットってすごいですね!

2010年11月23日火曜日

抗癌剤の副作用8 心筋障害



原因薬剤の種類が限定されており、頻度もそう高くありませんが、注意すべき抗がん剤の副作用の一つが心筋障害です。

乳がん領域においては、特にFECやACに用いるエピルビシン(商品名 ファルモルビシンなど)やドキソルビシン(商品名 アドリアマイシン)などのアンスラサイクリン系の薬剤やトラスツズマブ(商品名 ハーセプチン)をよく使用するため時々問題になります。

抗がん剤による心筋障害の概略は以下の通りです。

原因薬剤:                                
①アンスラサイクリン系抗がん剤(ダウノルビシン、エピルビシン、ドキソルビシンなど)→不可逆性、用量依存性。ハイリスクは、高齢者、心血管疾患や糖尿病、高血圧の合併、ハーセプチンの併用、放射線照射の既往など。           
②トラスツズマブ(ハーセプチン®)→可逆性(ただし約20%は不可逆性)、用量非依存性(治療開始後数週間から数ヵ月以内に発現)。ハイリスクはアンスラサイクリンの併用

検査:                                       
心毒性を持つ化学療法剤の投与前には必ず心機能の評価(UCG)を行なう。治療中も3ヶ月に1回程度、UCGでフォローする。血中トロポニン値を測定が有用とも言われている。

治療:                                   
原因薬剤を中止する。トラスツズマブは中止によって2 ~ 4 ヵ月で心機能が回復する可能性が高い。アンスラサイクリンによる心筋障害は中止しても改善しない。心不全の治療は、通常の対応と同様。


今から10年以上前に呼吸困難を主訴に受診した、がん性胸膜炎(悪性胸水)を伴う4期の進行乳がん患者さんがいました。

すぐに抗がん剤(CAF療法)を行なって3回で腫瘍は縮小し胸水も消失したため原発巣を切除。その後合計6回の予定で化学療法を行なっていたところ、5回目の投与で重症の心不全を発症したのです。

内科的に治療を行ないながらタモキシフェンのみの投与を行なったところ、10年近くの長期にわたってCR(完全寛解)を継続できました。しかし、心機能は改善しないため、心不全の入院を繰り返し、QOLを著しくて以下させてしまうことになりました。

この患者さんに言われた言葉が忘れられません。

「お金がかかって主人にも迷惑がかかるし、こんなに苦しい思いをして生きるくらいなら、乳がんなど治さないであの時に死なせてくれれば良かったのに…」

医師としてがんを治すだけでは患者さんを幸せにすることはできない場合があるということを教えていただいた症例でした…。

写真はアドリアマイシン心筋障害の胸部レントゲン写真です(左が安定期、右が心不全発症時)。

2010年11月21日日曜日

乳癌の治療最新情報22 ハラヴェン(一般名 エリブリン)

エーザイ社製の乳がん治療薬「ハラヴェン」(一般名 エリブリンメシル酸塩)を米食品医薬品局(FDA)が承認しました(http://www.eisai.co.jp/news/news201064.html)。

この薬剤はアントラサイクリン系およびタキサン系抗がん剤を含む少なくとも2種類のがん化学療法による前治療歴のある転移性乳がん患者において、単剤で統計学的に有意に全生存期間(OS)を延長した世界で初めてのがん化学療法剤です。国際共同第III相試験「EMBRACE」におけるエリブリン投与群のOSは13.12カ月で、治験医師選択療法群との比較で2.5カ月の延命が確認されています。

エリブリンは、クロイソカイメンから単離された天然物「ハリコンドリンB」の合成類縁化合物です。新しい作用機序(細胞分裂装置の主体となる微小管の短縮には影響を与えずに、微小管の伸長を阻害することで、抗腫瘍効果を発揮する)を有する非タキサン系微小管ダイナミクス阻害剤で、2−5分の静脈投与で行えますので外来投与に適している可能性があります。水溶性が高く、溶解補助剤も不要です。

気になる副作用ですが、高頻度(頻度25%以上)に認められた有害事象は、無気力(疲労感)、好中球減少、貧血、脱毛症、末梢神経障害(無感覚、手足等のしびれ)、吐き気、便秘で、特に重篤な有害事象として報告されたのは好中球減少(発熱を伴う症例が4%、発熱を伴わない症例が2%)でした。またハラヴェン投与中止に至った主な有害事象は末梢神経障害(5%)だったということです。

米国では近日中に発売予定だそうです。日本や欧州でも承認申請中なので来年にでも認可されるかもしれませんね。

北海道の乳がん検診webサイト

製薬会社のMRさんから「乳癌検診についてのサイトが新しくできた」とのご連絡をいただきました。

このサイトには、乳がん検診についての総論、道内各地の乳がん検診を受けられる施設のリンクや専門医のお話、マンモグラフィについての説明が書いてあります。「命と乳房を守るWEBサイト実行委員会」が作成したサイトの北海道版のようです。

道内在住の一般女性には役に立つサイトだと思います。

第20回乳癌検診学会総会終了!


今日、福岡から帰ってきました。

今回は私たちの病院と関連病院から3題の演題を発表してきました。内容の概略は以下の通りです。

医師(放射線技師から演者変更)…検診発見乳癌症例のマンモグラフィ所見と二重読影の有用性
超音波技師…マンモグラフィで微細石灰化のみだった非触知乳癌症例に対する超音波検査の診断能
放射線技師…無料クーポン券導入前後の受診者状況の比較と今後の課題

観光は昼休みを利用して太宰府に少しだけ行ってきました(写真は「飛梅」…もちろん花はありませんでした(泣))。時間がなかったので、昼ご飯(肉そばともちろん梅ヶ枝餅&抹茶セット)を食べてお参りをするだけになってしまいました。本当はまた宝物殿や国立博物館にも行きたかったのですが残念です。

「乳癌検診学会」というのは研究範囲が非常に狭い学会です。毎年演題を発表するのはなかなか大変です。でも乳がん検診の内容は年々変化してきていますので、参加していないと流れについて行けなくなります。毎回学会に参加して刺激を受けながら、来年の発表はこんな内容はどうかな、とか考えています。

来年は岡山で行なわれます。先日講演をしてくれた岡山のDrから演題を4題は出して欲しいと言われました(汗)。春以降は体制がどうなるか、私もここにいるのかもわかりませんが、下地作りはしておこうと思っています。

2010年11月17日水曜日

CVポート学習会終了


関連病院での学習会(講演)がようやく終わりました!

夕方6時から1時間半くらいの予定で始まりました。参加者は、関連病院内の医師、薬剤師、看護師など約30人くらい。内容はCVポート(抗がん剤などを投与するための植え込み器具)の仕組みと取り扱い、関連合併症についてと、抗がん剤の副作用一般についての話でした。

(写真は内頸静脈内のカテーテル周囲に生じた血栓)

全部話すには時間が足りなかったので抗がん剤の副作用は少し省きましたが、おおむね予定通りの時間で終わりました。

フロアからは、日常感じている疑問などについてけっこう質問があり、結局終了は予定を過ぎてしまいました。参加者の感想は聞けませんでしたが、今回のスライドを作るに当たって自分自身も知識の整理ができて良かったです。今度機会があれば、職場でも話をしたいと思っています。

これで少し肩の荷が下ります。明日からは福岡で勉強してきます。

2010年11月16日火曜日

第20回乳癌検診学会総会(in 福岡)


2010.11.19-20に福岡で第20回乳癌検診学会総会が行なわれます。

この学会には毎年参加していますが、主に技師さんたちに発表してもらっています(私たち乳腺外科医はバックアップに徹しています)。

今回も超音波技師が1題、放射線技師が2題発表予定だったのですが、放射線技師の一人(女性)のおめでたが発覚!!
初産でもあり、ちょうど大事な時期に重なってしまうため、今回の発表は断念して代わりに乳腺外科医のG先生に発表してもらうことになりました。せっかく準備してきたのに残念ですが、おめでたいことですので是非元気な赤ちゃんを産んで欲しいものです!

結局今回の福岡出張は、乳腺外科医2人、超音波技師1人、放射線技師1人の4人で参加することになりました。日程がけっこうきついので、残念ながらあまり福岡観光はできそうもありません。太宰府は宿泊するホテルがある天神からすぐなので、できればまた行ってみたいと思っているのですが…。以前行ったときは4月で、梅は終わっていましたが(飛梅で有名!)桜が満開でとてもきれいでした。今回は晩秋ですので花は咲いていないと思いますが紅葉が楽しみです。そして池のほとりのお茶屋で抹茶を飲みながら梅ヶ枝餅が食べたい!前に食べた味が忘れられません!(写真)

まあ本来の目的は勉強ですが、せっかく九州まで行くのでちょっとの時間でも観光ができたらいいなと思っています。

さあ、明日は関連病院でのCVポートの勉強会です。スライドは69枚!どこまで話せるか時間との闘いです!

2010年11月15日月曜日

化学療法中のインフルエンザワクチン接種時期

化学療法中の患者さんからよく聞かれる質問の一つに、インフルエンザワクチンを受けた方が良いのか?受けるならいつがいいのか?というのがあります。

その答えは、「乳癌診療ガイドラインー1 薬物療法 2010年版」の中に書いてあります。要旨は以下の通りです。

1.化学療法施行前または施行中に、インフルエンザ不活化ワクチンの接種が望まれる(推奨グレードB)。
2.化学療法前に接種する場合は、初回投与の2週間前までに接種することが望ましい。
3.すでに治療中の場合は、治療日は避ける。できれば投与後7日以降の接種が望ましい(化学療法後7日以内だと抗体産生能が劣るという報告あり)。

化学療法中のワクチン接種の場合、問題になるのは、抗体の産生能と副作用の重複です。
証明はされていませんが、化学療法剤と同時に投与することが多いステロイドの投与が抗体の産生に影響を及ぼす可能性は否定できません(ステロイドが抗体産生に及ぼす影響はなかったとの報告もありますが…)。
また免疫機能が下がっている時にはあまりワクチンを打ちたくないものです。もしこの時期に接種して発熱した場合、好中球減少に伴う細菌感染なのか、ワクチンの副作用なのかがわからなくなるからです。

ですから私は、例えばFEC療法の場合は、抗がん剤投与2週後以降の骨髄機能が回復する時期に接種するように勧めています。しかしこのころに骨髄抑制のピークを迎えることも多いのが実情です。次のクールを1週ずらして接種するのも一つの方法かもしれません。問題はパクリタキセルをweekly投与している場合ですが、ステロイドも投与しますので3週連続投与1週休薬の場合は、休薬する週に接種しています。しかし、この時期はパクリタキセルでも免疫機能が一番下がっている可能性もあるのでなかなか悩ましいです。この場合も骨髄抑制が強い場合は次のクールを1週遅らせるのが良いかもしれませんね。

以上を考えると、インフルエンザワクチンはできれば化学療法開始前に接種しておくのがベストだと思います。

2010年11月12日金曜日

両側乳がん流行中?

関連病院に通院中の乳がん術後の患者さんに立て続けに対側の乳がんが見つかってしまいました。2週間でなんと3人!

いずれも1cm以下で非浸潤がんの疑いですので幸い早期発見することができました。私は乳がん術後の患者さんの乳房検査は年1回のマンモグラフィと半年に1回の超音波検査を基本にしています。ただ、10年以上たったある程度高齢の患者さんの場合は年1回で診ることも多いです。乳腺症があったり、乳腺濃度が濃い方については、自己検診で発見しにくい場合もありますから、半年ごとの超音波検査を私はお勧めしています。

今日、細胞診の結果をお話しした患者さんは、50代後半の方でした。最初の乳がんはけっこう進行した状態で見つかりましたが、抗がん剤とホルモン療法で再発なく経過していました。今回の超音波検査では、4㎜の古い嚢胞様の腫瘤が指摘されましたが、前回(半年前)までは嚢胞を指摘されていませんでした。技師さんが要フォローと記載してくれたため、細胞診で非浸潤がんの診断に至りました。やはり経時的に変化をみていくことは早期発見のためには重要なことです。ちなみにこの患者さんの場合はマンモグラフィに病変は写っていませんでした。経験的にはやはり、超音波検査は早期がんの発見に非常に有効だと思っています(もちろん技師さんの技量にもよりますが…)。

両側乳がんの頻度は5%と言われています。通常、第1癌より第2癌のほうが早期に発見されると言われていますが、これは定期検査を受けていることと、乳房に関心を持つようになったことが理由と考えられています。できることなら自覚症状が出る前に検査で発見してあげたいといつも思っています(中にはそううまくいかない場合もありますが…)。

2010年11月11日木曜日

がん患者さんの経済的負担

マスコミでがん患者さんの治療費の負担が厳しいことが報道され、世の中の関心も少しずつ集まるようになってきました。

私たちの病院にも経済的困難を抱えた患者さんがたくさんいらっしゃいます。黙って通院を中断したり、検査を受けたがらなかったり、薬を間引きして飲んでいたり…。気をつけないとそういう患者さんの困難に気づかないことがあります。

経済的困難を抱えていることがわかったら、私たちは院内の医療福祉課へご紹介します。働きたくても働けず、本当に生活に困窮している方には、ここで生活保護の申請をお勧めし手続きのお手伝いをします。また生活保護の対象にはなりませんが、所得が少なくて医療費の支払いが厳しい場合には、無料低額診療制度を利用していただきます(これには、細かい所得の規定があり、また特定の条件を満たした病院でしか受けられない制度です)。またすべての患者さんに適応になるのが高額医療費制度です。所得によって限度額がありますが、その限度額を超えた分はあとで償還されます。その他にも医療費の貸付制度などがありますので、その患者さんにもっとも適した制度をご紹介してもらうようにしています。

2002年から2007年の「がん医療費」の伸びは21.7%で、「国民医療費」の伸びの10.3%と比較すると約2倍にもなります(「国民所得」の伸びは2003年から2008年の間にわずか1.8%!)。

先日の日本癌治療学会において、全国の癌診療施設の約1万8000人の患者の医療費負担についての報告が発表されました。
その結果の概要は以下の通りです。

1.自己負担額の平均:101万円
   直接費用〜入院52万円(該当割合74%)、外来18万円(同100%)、交通費5万円(同94%)
   間接費用〜健康食品・民間療法22万円(同57%)、民間保険料25万円(同85%)、その他14万円(同43%)

2.償還・給付額:平均62.5万円〜高額医療費28万円(該当割合53%)、医療費還付9万円(同23%)、民間保険給付102万円(同45%)

3.治療法別の自己負担額と償還・給付額:化学療法(1150人)→133万円と75万円、分子標的治療(59人)→125万円と74万円、粒子線治療(388人)→420万円と116万円

4.経済的な理由で治療を変更・断念した患者:約3%(継続的な受療者が152万人とすると、4.5万人が癌の経済難民に該当)

医療費、特にがん医療に関する医療費の増加には、いろいろな問題、課題があります。その解決策も、ただ薬価を下げれば良いということではありません。

例えば高い確率で有効だと考えられる症例を厳密に選んで薬剤を投与すれば奏効率は上がりますが、投与人数が減るため製薬会社が開発費を回収するためには薬剤単価を上げざるを得ません。逆に適応をゆるくすれば対象患者が増え、薬価は下げりますが、多くの患者さんたちに無益な治療を行なうことになってしまいます。適応を厳密にして薬価を下げるのが理想ですが、そうすると製薬会社は開発費が回収できなくなってしまいますので、どこも研究に手を出さなくなってしまいます。これは医学の進歩を止めてしまいます。

また、いま問題になっている臨床試験のさまざまな課題や混合診療の是非の問題も解決されていません。やはり国がこの問題にもっと積極的に関わっていかないと、解決はしないと思います。

2010年11月9日火曜日

韓国人の患者さん

3ヶ月前に血性乳頭分泌で受診された患者さんがいました。母国は韓国です。3年ほど前から仕事で単身、日本に来られていました。韓国人に限らず、外国人は日本語を覚えるのが早いです。ほとんど日常会話は日本語でOK!非常に助かりました。

この方は細胞診で乳管内乳頭腫と診断されました。血性乳頭分泌もありますし、乳癌の合併もたまにあるので切除をお勧めしましたが、家族が誰もいないということで、手術するなら母国でしたいということでした。急ぐ必要はありませんので、長期に韓国に戻るときに紹介状を書いてお渡しすることにしました。

でも、韓国の医師には何語で手紙を書けば良いのでしょうか?ハングルはまったくわからないですし、パソコンでも打てません…。英語がわかるかどうかも微妙です(おそらく韓国人は日本人より英語がわかるはずですが…)。

そんなことを患者さんとお話ししていて思い出しました。

私が14年前に研修していた東京のG病院で一緒に研修していた韓国人の女医さんがいたんです。李先生という方で、この先生は英語より日本語の方が堪能でした。とても気さくな先生で、ご主人と息子さんと一緒に相撲観戦にも行った記憶があります。

私がG病院から札幌に戻るときに李先生も韓国に戻られましたが、その後乳癌学会でお会いしたことがあります。その時に、名刺をいただきましたが、帰国後、彼女は乳腺クリニックを開業したそうです。それまでは韓国にはほとんど乳腺専門病院はなかったということです。

そのとき以来、お会いしていませんので、今もこのクリニックで働いているのか不明ですし、彼女が日本語をまだ覚えているのかわからないので連絡を取るのに少しビビっています…(汗)。でもこの患者さんが帰国する前にはなんとか連絡を取ってみようと思っています。

2010年11月8日月曜日

化学療法の院内学習会〜CVポートの管理



先月、週2回外来に行っている関連病院の薬剤部から、講演を頼まれました。テーマは「安全な化学療法の施行について〜CVポート管理を中心に〜」ということでした。

私は乳腺外科医ですが、諸事情で現在主に外来化学療法を担当しています。腫瘍内科の研修を受けたわけではないのでまったくの独学ですが、室長という名ばかりの肩書きをもらっています。

CVポートというのは以前にもここで書きましたが、安全に抗がん剤などを繰り返し投与するために、体内に埋め込むカテーテルに接続した器具です。これを留置すると、毎回血管を探すために何度も針を刺す必要がなくなりますし、注意しなければならない抗がん剤投与中の合併症である、抗がん剤漏れのリスクを減らすことができます。

しかし、このCVポート自体にも注意しなければならない合併症があります。今回はそんな話をする予定です(写真左はフィブリンで内腔が閉塞して摘出したCVポート、右は屈曲して穴が開いたカテーテル)。ついでに抗がん剤の副作用一般についてもスライドを作っています。あれこれ追加していったら、いつの間にかスライド枚数が70枚に達してしまいました(汗)。講演時間は1時間くらいなので全部話すのはちょっと厳しそうです。抗がん剤一般の話はまた今度にしようかと思っています。

今回の学習会は院内(職員対象)だけですので院外からの参加はできませんが、せっかく作ったスライドなので、今度別の機会にでもまた話ができればと思っています。

2010年11月6日土曜日

乳房再建講演会

乳がん患者会主催の乳房再建の講演会が今日開催されました。

講師はD病院の形成外科部長E先生。かなり前から外来や患者会を通じてご案内をしていましたが、いったい何人の方が集まって下さるのか内心不安でした。でも開演時には用意した席数を超える多くの方が病院内外から集まって下さいました!(正確にはまだ聞いていませんが50人ほどはいらしていたのではないでしょうか?)

ご講演の内容は、①形成外科一般のお話 ②乳房再建のお話 の2部構成になっていて写真や動画をふんだんに使ったとてもわかりやすいお話でした。

①では、外科→形成外科の歴史と形成外科で取り扱う疾患とその治療法の説明がありました。やけどや外傷など、ちょっとショッキングな画像もありましたので、気絶する方もいらっしゃるのではないかと心配しましたが、E先生の上手な語りでみなさん、どきどきしながら興味深そうに聞いていました。

②は今回のメイン・テーマです。乳房再建の種類(一期的vs二期的、自己組織を使う方法vs人工物を使う方法)、それぞれの特徴、実際の症例、巨大乳房や乳房下垂の際の工夫、実際にかかる手術時間や入院日数、費用などについても詳しく教えて下さいました。

今日の講演会の様子の一部は、Fテレビ系列のローカル局で11/24の夕方のスーパーなニュースの中で「シリーズ〜女性のがん」として放送されます(わかる方にはわかりますよね?)。

E先生はとてもきさくで患者さんからの信頼も厚い方です。今日のお話はとてもわかりやすかったのではないかと思います。そして比較的乳房再建に消極的な北海道の患者さんたちにも乳房再建を考えるきっかけになったのではないかと思います。

私は司会をしていた関係で残念ながら講演会の様子を写真に残すことができませんでした。残念…。
これからE先生とワインで懇親を深めに行ってきます!

2010年11月4日木曜日

”腫瘤”と”腫瘍”と”がん”と”癌”

私たちは時に医学的な用語を一般の人もわかっているだろうと思い込んでいて、とんでもない勘違いを引き起こすことがあります。

最近こんなことを経験しました。

ある患者さんがマンモグラフィ検診で陰影を認め、”腫瘤疑い”として精密検査にいらっしゃいました。精密検査でマンモグラフィの再検査と超音波検査を行ない、その陰影は正常な孤立性乳腺(または過誤種という良性腫瘤)と判断し、精密検査は”異常なし”なので1年後に超音波検査を予約して帰られました。

しかし、きちんとご説明したつもりだったのですが、自宅に帰ってから娘さんに検査結果をお話ししたところ、
「がんなのに1年後でいいなんておかしい!他の病院で診てもらったほうがいい!」
と言われたそうです。ご本人もわかっていたはずなのに混乱したのか、
「たしかにおかしい。検診結果には”がん疑い”と書いてあったはずなのに…」
と思ってしまい、他院への紹介状を希望されて再来院したのです。

この経過を看護師から聞いた私は、ピンときました。
たまにいらっしゃるのです。”腫瘤”=”がん”だと思ってしまう患者さんが…。ただ通常はそのような方はその場で聞いてくるので、すぐにその違いをお話しして理解していただけるのですが、今回のケースは自宅に帰ってから起きた勘違いだったのでので大事になってしまったのです。

”腫瘤”は、いわゆる”しこり”で、この中には腫瘍はもちろん、乳腺症や乳腺炎の硬結や切除後の瘢痕などの腫瘍ではない病変も含みます。
”腫瘍”は、ある細胞が「自律性」に(つまり勝手に)無制限の分裂、増殖をなし、量的に増大するもののことを言います。
”悪性腫瘍”は、”腫瘍の中でも、浸潤性に増殖し転移するなど悪性を示すもののことを言います。一方、ゆっくり増大し、転移や浸潤を来さない腫瘍を良性腫瘍と言います。
”がん(癌)”は、悪性腫瘍のうち、上皮細胞(皮膚、食道などの扁平上皮や胃、大腸、膵、乳腺などの腺上皮)が悪性化したものを言います。脂肪、筋肉、神経、骨などの非上皮細胞由来の悪性腫瘍は”肉腫”と呼びます。
なお、最近ではひらがな表記で”がん”と書く場合は、「癌と肉腫を合わせたもの=悪性腫瘍」の意味で用いられることが多いようです(Wikipediaによる)。これは日本だけの概念ですし、紛らわしいので私は”癌”と”肉腫”は区別してご説明しています(なお私が最近のブログで”乳がん”と書いているのは、癌という漢字が難しい字ですし、文字が小さいと見づらいことがあるからで、肉腫を含むという意味ではありません)。

この患者さんには、再度上記の用語についてお話しし、ご説明が不十分で誤解させてしまったことをお詫びしました。結局納得していただき、他院への受診は見合わせることになりました。

このようなちょっとした誤解や説明不足がトラブルや不信感の原因になることをあらためて教えていただきました。わかっていただいているつもりでも、そうではないこともありますので、もっと丁寧なご説明をしなければなりませんね。反省です…。

2010年11月1日月曜日

mucocele-like tumor(MLT)

境界明瞭な腫瘤に細胞診をした際、粘液が引けることがあります。このような場合には細胞診の結果が良性であっても注意が必要です。

粘液を伴う悪性腫瘍の代表が粘液がんです。粘液がんは乳がんの組織型の中では特殊型に分類されており、その頻度は全乳がんの約1-4%程度と言われています。粘液がんはさらに全てが粘液がんからなる純型(pure type) と乳管がんの成分を有する混合型(mixed type) に分けられます。比較的予後が良いタイプと言われており、特に純型は予後良好です。

そして粘液を伴う良性の代表がmucocele-like tumor(MLT)です。MLTは嚢胞や拡張乳管内に貯留した粘液が破綻して間質内に漏れ出て粘液湖を形成したものです。マンモグラフィで多形性の石灰化集簇(丸みがあって大きめなのが特徴)を呈したり、超音波検査で点状の内部エコーや隔壁を伴う嚢胞様病変として描出されます。

MLTは良性ですので普通に考えると何もしなくて良さそうですが、この腫瘤の問題点は、周囲に非浸潤がんや粘液がんを伴うことがあるということです。ですから粘液が引けた場合は、たとえ良性の細胞しか引けていなくても、摘出して周囲にがんを伴っていないか確認した方が良いという意見が多いようです。

ただ、周囲と言ってもどのくらいの範囲まで切除して確認すべきなのかまでは言及されていません。通常は腫瘤の周囲に正常乳腺を少しつけて切除しますが、石灰化を伴なう場合は石灰化のある範囲はできる限り切除して病理検索したほうが良いということになります(この場合切除範囲が広くなることもあります)。MRで悪性を疑う所見が認められず、細胞診でも悪性所見がなければ厳重な経過観察ということも選択肢の一つとして考えることも可能かもしれませんが、がんの合併については十分な注意が必要であることを説明する必要があります。

私たちの病院でもMLTはたまに経験する病変です。経過観察をしている患者さんもいますが、今までのところ悪性疾患の合併はみられていません(注 その後切除症例で1例がんの合併例を経験しました)。

いずれにしても細胞診で粘液が引けた場合には、そのことをきちんと依頼書に記載することが、治療や経過観察をする上でとても重要なのです。