2009年6月30日火曜日

こんなところにもピンクリボンが…




職場の同僚が美容室で見つけたトリートメントです。「シュワルツコフ プロフェッショナル ヘンケルジャパン株式会社」製の”フォルムクア プラス ヘアマスク”という商品です(http://schwarzkopf.co.jp/)。

ピンクリボンの箱に入っていて、中には乳がん検診のすすめや自己検診のやり方などが書かれているそうです。幅広い年齢層が来店する美容室にこのような商品があれば目を引きますよね。こんなところにもピンクリボン運動が広がっているなんて感動です。もっといろいろな商品にこのようなパッケージをつけてくれるといいですね!

2009年6月29日月曜日

乳癌と間違いやすい良性病変

乳腺疾患の診断は、実はとても難しいんです。

画像で明らかに悪性だと思ったら良性だったり、良性だろうと思ったら悪性だったり、というのはよくあります。通常、悪性の可能性を疑えば細胞診をしますが、細胞診でも間違いは起きます。以前は、ClassⅠ-Ⅴで判定していました(Ⅰは正常、Ⅱは明らかな良性、Ⅲは境界病変、Ⅳは悪性疑い、Ⅴは悪性)。でもClassⅤで良性だったということも経験したことがあります。注射針にばらばらになって引けてきた細胞をもとに、元の病変が良性か悪性かを人間の目で推測するわけですから、わずかな確率でも間違いは起きるのです。さらに言えば、針生検という、細胞診より太い針で組織を切り取って来る診断方法でも間違えることがあるくらい、乳腺疾患の診断は難しいんです。

良性を悪性と判断されやすい病変の代表を挙げてみます。
①線維腺腫(特に乳腺症型)
②乳管腺腫(ductal adenoma)
③乳管内乳頭腫
④乳腺症(硬化性腺症)
⑤乳頭部腺腫

診断する側として重要なのは、このようなこと(診断の誤り)が起こりうるということを知っていること、画像診断と細胞診断(推定組織型)が一致しているかどうか確認すること、が大切です。
私が経験した症例で、画像診断が境界明瞭な腫瘍で、良性なら線維腺腫、悪性なら粘液癌か充実腺管癌が推定されるのに、細胞診はClassⅤ(推定組織型は”硬癌”)という結果が返ってきたことがありました。画像的にはどう見ても硬癌には見えなかったため、針生検をしたところ、最終診断は良性の線維腺腫でした。

乳腺疾患の診断は慎重を要します。専門的な知識と十分な経験をもった医師が最終診断を下したかどうかがとても重要です。画像検査で言っていた話と細胞診の結果が著しく異なっている場合は、その診断が画像検査と矛盾しないのか再度医師に確かめることをお勧めします。

2009年6月27日土曜日

Humanity Based Medicine

聞き慣れない言葉ですが、今回の日本乳癌学会総会のメインテーマです。EBM(Evidense Based Medicine)に対する造語だそうです。

EBMを基本としつつもいかに心温かい医療が提供できるか…、これは、いつも私が感じていたこと、そのものです。EBMはとても大切です。以前はEBMを無視して、好き勝手な思いつきの治療を行なっていた時代や施設もありました。結果として、患者さんに不必要な苦痛を強いたり、適切な利益を与えることができなかったりということも起きていました。きちんとした臨床試験の裏付けのある標準的な診断や治療を世界中どこの施設でも行なえるようにする、EBMという概念は今もこれからも医療の基本となるのは間違いありません。

しかし、きちんとしたEvidenseがない医療行為は、まだたくさんあります。そしてEvidenseの元になった臨床試験は、今から10年以上前の医療状況のもとで行なわれたものである場合もあるということにも配慮しなければなりません。そしてEBMにこだわりすぎてしまうと、いつの間にか医師と患者さんという人間同士の関係が、理論と患者さんという関係になってしまいがちです。

Evidenseを熟知しながら、一人の患者さんと人として向き合い、一緒に検査や治療を考えていく…。当たり前のことのはずですが、そうではない対応をされた患者さんの話をよく耳にします。癌治療の専門家と言われる医師の中にもそのような対応をする人がいるというのは非常に残念なことです。

2009年6月24日水曜日

乳癌術後の乳房検査

以前、乳癌術後の検査でエビデンスがあるのは年1回のマンモグラフィだけ、ということを書きました。これは、乳癌患者さんは、反対側の乳房にも非常に乳癌が発生しやすいことに由来します(約2-8%)。
では、この検査はいつまで必要なのか?が今回のテーマです。実は今日の術後症例検討会のミニレクチャーで話した内容です。

去年、ある学会でこのことに関して発表をしました。通常、乳癌で手術した患者さんに対側乳癌が発生した場合、第2癌は第1癌より早期で見つかることが多いと言われています。それは、乳癌の手術を受けたということで、自分で気をつけているということと、術後の定期検査を受けているということが原因と思われます。

しかし実際は、非常に進行した状態で第2癌が見つかることがたまにあります。これはどうしてなのかを検討したのが、去年の学会発表でした。

結果は、術後10年以上経過した患者さん、高齢の患者さんなど、定期検査を中断してしまった方に進行例が多いということでした。つまり、”もう年だから…”とか、”10年たったからもう治った。通院する必要はもうない”と思って病院に来なくなってしまうと発見が遅れてしまう可能性があるということです。当院の症例では、最長44年の間隔で第2癌が発生している患者さんもおり、何年経っても、何歳になっても定期的な乳房検査は必要であるというのが結論でした。

遠隔転移は確かに10年が一つの目安です(まれにそれ以上たってから再発することもありますが…)。しかし、乳房の検査は一生であるということを覚えておいて下さい。

2009年6月21日日曜日

激走!ピンクリボンチーム!〜MAMA Cyari 2009





あいにくの空模様の中、4時間のママチャリ耐久レースに参加してきました。
今回は職場関連で3チーム(ピンクリボンチーム、AED普及チーム×2)エントリーしました。それぞれ10人ずつでチームを編成し、1周約4kmのコースを1周交代でリレーしていく耐久レースでした。

病院の院長先生と事務長さんのご理解のおかげで、各チームおそろいのTシャツをつくっていただき、かなり目立つピンクの集団になっていました(写真下)。ピンクリボンチームのTシャツには、”受けよう 乳がん検診”の文字と大きなピンクリボンのマークがかかれており、啓蒙活動を中心に参加したはずでしたが、いざ出場するとみんなゴールしたあとで倒れるほどの激走をみせてくれました(写真上は、2年連続で好タイムを出してくれた病理のK先生)。特に、最高齢(55才?)の外科のH先生は、今回初参加にも関わらず、3周中、2周でただ一人8分台をたたき出す活躍ぶりでした。さすがに毎年フルマラソンに参加しているだけあります。

今日は強風が吹きまくっていたため、かなり消耗が激しく、ピット近辺での激しい接触事故が多発!救急車で運ばれる人も出るほどの激しい闘いでした。私たちのピット前で起きた、接触事故の際にはすぐさま近くにいたピンクの集団が救護にあたったため、大会スタッフから拡声器で名前を呼んで感謝の言葉をかけていただき、少しだけピンクリボンが目立つことができました。

結局、順位は今ひとつでしたが(405チーム中、337位… 注 7/1訂正しました)、大会後のバーベキューも盛り上がって楽しい一日でした。
来年も参加したいと思っています!

2009年6月16日火曜日

第17回乳癌学会総会

今年も7/3-4に東京で乳癌学会総会があります。

乳腺外科医になってから、体調を壊した1回を除いて毎年演題は出すようにしています。今年も症例報告ですがポスター発表をすることになっています。いつもある程度構想をまとめたら、ついつい先延ばしになってしまい、結局直前にばたばたとしてしまうので、今年こそは早めに仕上げようと思っていたのに、やっぱりのんびりしてしまいました。でもあとは考察だけなのでゆっくり(?)仕上げます。

さて、今年の乳癌学会では、何か目新しいトピックが聞けるでしょうか?また化学療法の第1人者のW先生と、私の恩師である、御高名な乳腺外科医のY先生の熱いバトルを聞いてみたいです。それぞれの立場から、信念を持った意見をぶつけ合うのは、大変勉強になります(時々熱すぎて笑いも起こります!)。

久しぶりに一緒に研修した仲間のDrと話ができるのも学会の楽しみです。彼らから刺激を受けると、職場に戻ってからのモチベーションにつながります。学会に参加する一番の意義は、もしかしたらそこにあるのかもしれません。

2009年6月12日金曜日

Oncotype DXによる術後再発予測と抗癌剤

先日触れたSt,Gallenのレポートでも記載されていた、早期乳癌術後の再発危険度を予測する遺伝子解析は日本でも検査依頼が可能です。その一つがOncotype DXです。

適応は、以下の通りです。
①初めて乳がんと診断された患者さんで、主治医の先生と術後の化学療法を受けるかどうかを相談・検討している方。
②ステージⅠまたはⅡの浸潤性乳がんと診断された患者さん。
③エストロゲンレセプター陽性(ER+)の乳がんの患者さん。
④リンパ節転移が無い(陰性)の乳がんの患者さん。
*閉経後でリンパ節転移があり、ホルモンレセプターが陽性の患者さんも適応になりました。

これは検査受託会社の資料に書かれている内容です(http://www.oncotypedx.com/ja-JP/Breast/PatientCaregiver/IsOncotypeRight)。実際は、HER2陽性の場合は化学療法は必須なので除外されるはずです。
つまり、再発危険度を癌細胞の遺伝子検査で判定し、術後の補助療法として、ホルモン療法に化学療法(抗がん剤)を上乗せするメリットがあるかどうかを調べる目的で行なう検査です。

問題点は、今のところ検査材料(手術標本の一部)をアメリカに送らなければならないため、約45万円ほど費用がかかることです。簡単に出せる値段ではありませんので私は未だにこの検査を依頼したことはありません。道内でも今までほとんど依頼はないそうです。

ただ、もしこの検査で化学療法は不要と判定されたら、不必要な化学療法の副作用を避けれるし、化学療法にかかる費用もかからずにすむわけですから、これからは検査依頼が増えるかもしれません。

皆さんはこのような患者さんの立場だったら、45万円払ってでも検査を受けたいですか?
私が患者だったら…、お金があれば受けたいですね。でも高い…。

2009年6月9日火曜日

今年もテレビ塔がピンク色に染まります!

今日、ピンクリボン in SAPPOROの打ち合わせに行ってきました。

去年も新聞などでピンクに染まったテレビ塔が紹介されていましたが、今年も8/7にピンクのイルミネーションでライトアップされます。大通2丁目のホワイトロックというドームもピンクになるそうです。

このドームでは昼から、親子のイベントやジャズ演奏、トークショー、”Mayuーココロの星”の上映など、楽しめるイベントが予定されています。また、医療相談や患者会のブースもつくる予定です。

参加費は大人800円、子供200円で、プレイガイドなどで購入できます。出入りは自由です。映画鑑賞込みでこの値段はお得です。一部の病院にもチラシを置く予定です。

平日ですが近くにお住まいの方で、ピンクリボン運動に興味のある方は是非ご参加下さい!

2009年6月5日金曜日

抗癌剤の副作用1 味覚障害1

抗癌剤投与後に、味覚障害が出ることはしばしば経験します。ほとんどは抗癌剤終了後、数週間から数ヶ月で軽快しますので、患者さんには、”そのうち良くなるからね”とお話ししてきました。

ところがごくまれに長期にわたって症状が持続する患者さんもいます。今日、相談を受けた患者さんもそうでした。ドセタキセル投与中から、”何を食べても味がしない、砂を食べているみたい”という症状が持続。現在、ドセタキセル終了後1年がたちますが、いまだにラーメンの味もカレーライスの味もほとんど感じないそうです。

前にご紹介した、SURVIVORSHIP.jpのサイトを見せてあげて、レシピや食べ方の工夫についてご説明しました。ただ、ここに紹介されている内容は急性期の対処法で、これだけ長期にわたる症状の治療は簡単ではなさそうです。昔、「ザ・シェフ」というマンガの中で、難治性の味覚障害の女性の治療のために、主人公の味沢匠が、舌のそれぞれの味覚を感じる部位に、少しずつ刺激を与えるような食事を作って食べさせていたのを思い出しました。案外、有効なのかもしれません。

帰宅後、ネット検索してみたところ、今年の臨床腫瘍学会で、”胸部悪性腫瘍患者の味覚障害に対して亜鉛製剤が有用”という報告が出されていました(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/jsmo2009/200903/509965.html)。ポラプレジンク口腔内崩壊錠75mg(商品名:プロマック錠)の1ヶ月の投薬で、14人中、13人で改善がみられたとのことです。さっそく、その患者さんにも投与を検討しようと思います。

2009年6月4日木曜日

ASCO2009レポート2 ホルモン剤と認知機能

ホルモン療法(タモキシフェン)によって認知機能が影響を受けるという報告があります。
今回、BIG1-98試験におけるタモキシフェン投与群とレトロゾール(商品名フェマーラ)投与群の認知機能の比較解析結果が報告されました。 今回の解析は、5年間の治療後の認知機能の程度を、精神運動機能の速度や視覚的注意、作業記憶(ワーキングメモリ)、言語性記憶や学習の能力のスコア化で解析したものです。
 結果は、治療開始前の認知機能が測定されていないという解析上の欠点はあるものの、術後治療としてレトロゾールを投与した乳癌患者は、タモキシフェン治療を受けた患者に比べて、認知機能が維持されていた、ということでした。
私には、タモキシフェン投与後の患者さんが明らかに認知力が低下したという経験はありませんが、タモキシフェン投与中の患者さんがうつ傾向になることがあるのと関係があるのかもしれません。
最近は閉経後の患者さんには最初からAI剤(レトロゾールなど)を処方しています。高齢者の場合、骨粗鬆症が問題になりますが、ビスフォスフォネート製剤を併用することで一定予防できます。認知機能の低下があるのであれば、高齢者であってもタモキシフェンよりAI剤のほうが良いのかもしれませんね。

2009年6月3日水曜日

ASCO2009レポート1 トリプルネガティブ乳癌の新たな治療法

6/2まで開催されていた第45回米国臨床腫瘍学会(ASCO)で乳癌治療に関する新たな知見が次々と発表されています。その一つをご紹介します。

「PARP阻害剤BSI-201とゲムシタビン/カルボプラチン(G/C)の併用で転移性トリプルネガティブ乳癌患者の生存期間が延長(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/asco2009/200906/510980.html)」

再発した場合に治療に難渋するトリプルネガティブ(ホルモンレセプター陰性、HER2陰性)乳癌に関する新たな治療法の報告です。米国ではトリプルネガティブ乳癌に対してゲムシタビン(ジェムザール)とプラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)の併用がよく使用されています(日本ではともに乳癌に対しては保険適応外)。今回は、この治療に、分子標的薬の一つである、PARP阻害剤を上乗せした効果をみる臨床試験の報告です。

結果は、臨床的有用率(6カ月以上の完全寛解、部分寛解、不変の合計)は、G/C群の21%に対して、BSI-201併用群では62%(p=0.0002)、奏効率(完全寛解+部分寛解の合計)はそれぞれ16%、48%であり(p=0.002)、いずれもBSI-201併用群で大きな改善を認めた、というものでした。

まだフェーズ2という臨床試験の段階ですが、生存期間の有意な延長(3.5ヶ月)も確認されており、今後のフェーズ3の結果に期待が持てる内容だと思います。