2011年1月31日月曜日

雪まつりのピンクリボンイベント


札幌医大第1外科の大村東生先生からメールが届きました。

今年の第62回さっぽろ雪まつり(2/7-13)の会場にピンクリボン関連の雪像を作ることになったそうです。With You北海道とピンクリボンin Sapporo関係者の有志で2/1-2/5の間に作成します。テーマは「ミミのピンクリボン」(写真)です。

場所は大通り西12丁目の99番ですので、雪まつりに来られる方は是非見にいらして下さい!

乳腺術後症例検討会8 異時対側乳がん

少し書くのが遅くなりましたが、先週の水曜日に月例の症例検討会がありました。

今回は4例中2例が異時対側の乳がんでした。2例とも似たような症例で、初回が進行がんで対側は定期フォローの超音波検査で見つかった非浸潤がんでした。

注目すべき点は、2例とも病理学的には壊死を伴ったcomedo型の非浸潤がんだったのですがともにマンモグラフィでは写っていなかったことです。通常、comedo型のがんはマンモグラフィによく写る(多形性や微細分枝状の石灰化で)からです。

一般的に微細石灰化で発見される乳がんは、非comedo型のものは超音波検査で写らないことが多いのですが、comedo型は超音波検査でも病変の指摘が可能であることが多いのはわかっていました。しかし、石灰化が主体ですのでやはり病変の描出はマンモグラフィのほうが早いものだと思っていました。

しかし少なくとも今回の2例は、マンモグラフィで微細石灰化を指摘する前に超音波検査で病変を指摘し得たことになります。

もしこれが他の症例にも当てはまるのであれば、超音波検査の乳がん検診への併用をさらに後押ししてくれるような気がしています。極端な話、超音波検査に写らないような非comedo型微細石灰化の非浸潤がんは非常に進行が遅いおとなしいがん(これをがんもどきと呼ぶべきかどうかは意見が分かれると思いますが…)のことが多いですので、超音波検査で発見できなくてもすぐに大事に至ることはあまりありません。ですからcomedo型のがんさえ超音波検査で描出可能であれば、もともと浸潤がんの描出に優れ、被爆のリスクもない超音波検査のみの乳がん検診も(特に若年者の)オプションとして非常に期待できると思います。

なお、この2症例は半年ごとの検査で早期発見されました。半年前には超音波検査で写るような病変はなかったのです。悪性度の高いがんですので、定期検査していなければ、あと半年か1年後にはたちの悪い進行がんになっていた可能性は十分にあります。こういう症例を数多く診ていると、「乳がんには早期発見も早期治療も必要ない」という考え方がまったく的外れであることがよくわかります。

2011年1月29日土曜日

乳がん患者会 新年会



今日の午後、遅ればせながら患者会の新年会が市内のMホテルで行なわれました。

参加人数は職員を含めて38人、小さめのレストランは貸し切りでした。今日のメニューは和洋折衷のランチコース。エビと湯葉の前菜、刺身の盛り合わせ、白身魚のムニエル、牛ヒレステーキ、真たちポン酢、天ぷら、寿司とお吸い物、アイスとシフォンケーキのデザートとコーヒー、という感じでした。極端な和食と洋食の組み合わせですが、全然違和感なく美味しくいただきました!

昨年の専門店でのかに料理、一昨年のホテル最上階での鉄板焼きも良かったですが、今日もなかなか良かったです。毎回、患者会の幹事さんたちが下見をして場所を決めてくれます。2回も同じ料理を食べることになって気の毒ですが、そのおかげでいつも美味しい料理を食べることができます。コレステロールが高い患者さんや糖尿病の患者さんもいますので本当はちょっとまずいのですが、今日だけはOKということにしています(笑)。

ここ数年で急に参加人数が増えて、若い患者さんも入会してくれるようになってきました。これからますます発展していければいいなと思っています。

2011年1月27日木曜日

ホルモン療法の副作用7 関節痛2




「ホルモン療法の副作用1 関節痛1」でも書きましたが、アロマターゼ阻害剤を内服した場合に最もよく見られる副作用が関節痛です。

運動療法が症状の緩和に役立つと言われており、製薬会社側でも症状緩和のためのストレッチグッズを用意しています。

写真1枚目はアリミデックスを販売しているアストラゼネカ社のボール状のものです。やや大きめですが球形で比較的柔らかい素材でできています。以前学会会場に置いてあったものを数個いただいてきましたが、あと1個しか外来にはありません。担当者に確認したところ、もうないとのこと…。高頻度に見られる副作用ですので、処方する患者さん全てにサービスであげて欲しいとその担当者にはお願いしました。

写真2枚目は最近いただいたフェマーラを処方しているノバルティス社のピンクリボンの形状をしたものです。握りやすい大きさですが、やや硬めな印象です。また、どう握るのがベストなのかは不明です(笑)。今のところ担当者からは必要な分だけ用意しますと言っていただいています。まあいつまで在庫が持つのかはわかりませんが、ずっと作り続けて欲しいものです。

これらのグッズは外科外来と外来化学療法室に置いてあります。彩りも良いので私のお気に入りになっています。暇な時にはときどき意味もなく握ってます(笑)

写真3枚目は、ストレッチ用のボールと一緒に置いてあったアストラゼネカ社の患者さん用のストレッチのDVDです。これも非売品のようですので手に入れるのは難しいかもしれませんが置いてある病院もあるかもしれません。

もし興味のある方は病院、もしくは製薬会社に問い合わせをしてみて下さい。

2011年1月25日火曜日

閉経後乳がんは身体活動量の増加とHRT回避で3割が予防可能?

先日ドイツがん研究センター(DKFZ)講師のKaren Steindorf氏らは,「閉経後に生じる乳がんの約30%は,身体活動量を増やし,ホルモン補充療法(HRT)を回避することで予防できそうだ」と発表しました。

この手の疫学研究はバイアスがかかるため、参考程度に考えるべきですし、報告者のSteindorf氏も言っているように、これはドイツ人にのみ言えることかもしれませんが興味ある内容です。

今回の研究の内容は以下の通りです。

研究の概要:2002〜05年にライン・ネッカー・カールスルーエ地域とハンブルク近郊の住民を対象に実施されたMARIE(Mammakarzinom-Risikofaktoren-Erhebung)研究のデータを活用した症例対照研究。

対象と方法:閉経後に乳がんを発症した3,074例。これまでの研究で乳がん発症の危険因子の可能性ありとされていたHRT,身体活動量,過体重,飲酒の4項目に的を絞って同地域の女性6,386例と比較検討した。また、個々の危険因子,ないしは複数の危険因子の特定の組み合わせに起因すると考えられるがんの割合をPAR(population-attributable-risk)を用いて解析した。

結果:HRTと身体活動不足が乳がん発症リスクの上昇につながっていることが示された。その一方で,飲酒と過体重が乳がん発症リスクに与える影響は相対的に小さかった。閉経後に発症した浸潤性乳がんで見ると,HRTのPARは19.4%,身体活動不足のPARは12.8%であった。この2つの危険因子がともに存在しない場合には,閉経後の浸潤性乳がんの29.8%,受容体陽性乳がんの37.9%を回避できることが示唆された。

HRTについては以前書きましたので省略します。
過体重より運動不足がリスクを上げるというのはなかなか興味深いですが、多分検討の方法や地域、人種が違えばまた異なる結果が出るような気もします。いずれにしても、運動を適度に行なうことや肥満を予防することは、みんなが健康的だと納得できることですし、お金もかからずにできることですので、奨励してもなんら問題はないと思います。このへんは、詐欺まがいのサプリメントや偏った食事療法を強要するのに比べるとずっと受け入れやすい自分でできるがん予防だと思います。

2011年1月23日日曜日

抗癌剤の副作用14 薬剤漏出性皮膚障害


先日も書きましたが、私たちが抗がん剤を使用するのに非常に神経を使う理由の一つがこの副作用(合併症)です。抗がん剤は基本的には通常の組織には有害ですので、点滴漏れを起こすと重い障害を引き起こすことがあります。ですから抗がん剤の投与中には、頻回に点滴の落ち具合いや挿入部位に腫れがないかをチェックしたり、安全のためにCVポートを挿入したりするのです。

しかし、十分に注意していても施行する側も人間ですし、点滴される側も様々な条件を持った患者さんたちですので、このような合併症を起こしてしまうことはあり得ます。

薬剤漏出の原因は、
①不適切・不十分な血管確保
②患者さんの体動による留置針の逸脱
③血管の脆弱性(高齢など)
④CVポートの破損や閉塞状態での圧入
などです。大部分は十分注意すれば防げるのですが、それでも起きてしまうことがあります。

薬剤が漏出した場合に、皮膚や軟部組織の障害を起こすかどうか、そしてその程度がどのくらいかは漏出した薬剤の種類と量によって異なります。抗がん剤は皮膚障害を起こすリスク別に、少量でも炎症を起こし壊死をきたしやすいビシカントドラッグ(アドリアマイシンやエピルビシン、マイトマイシン、ナベルビンなど)と多量に漏れると炎症を起こすイリタントドラッグ(ドセタキセル、パクリタキセル、、ジェムザール、5FUなど)、漏れても炎症を起こしにくいノンビシカントドラッグ(メソトレキセートなど)に分けられます。

抗がん剤が漏れた場合の症状は、以下のとおりです。
漏出直後:無症状あるいは、軽い発赤・腫れ・痛みの皮膚症状が出現
数時間~数日後:水泡→潰瘍→壊死形成へと移行
→さらに重症化すると瘢痕(はんこん)形成、ケロイド化し、漏出部位によっては運動制限をきたして外科的処置(手術)が必要になる

万が一ビシカントドラッグや多量のイリタントドラッグが漏れた場合には迅速な処置が必要となります。当院で行なっている手順は以下の通りです。

①直ちに抗がん剤の投与を中止。ラインは抜去せず薬剤名・量を確認し、 シリンジで出来るだけ同一ラインより薬液を吸引除去する。
②漏出が大量であれば、外科的処置を検討する。
③ 漏出部位は圧迫しない。保冷することの効果のエビデンスはない。ただしナベルビンは患部を保温すると良いと言われている。
④ ステロイド剤の局所注射
⑤ステロイド軟膏外用(症状消失まで)。アクリノール湿布は急性期の冷却効果のみしかなく、皮膚障害予防のエビデンスはない。
⑥翌日には外来受診をしていただき、患部の観察を行なう(できれば漏出直後から写真を撮影しておいて経過を見るのが望ましい)。

写真は漏出範囲のマーキングをしてステロイドの局所注射をしたところです。ジェムザールが漏出しましたが障害は発生しませんでした。

患者さんとして注意すべきことは、点滴中は必要以上に動かないこと(特に点滴している部位に気をつける)、もし痛みや腫れ、違和感があった場合はすぐに看護師に言うことです。対処が早ければ大事に至らない可能性が高くなりますから。

2011年1月22日土曜日

最近巷で噂の理論について

このブログには、前にも触れたように個人的な批判などを書くつもりはありません。しかし最近また首をひねりたくなるような内容の論調がマスコミを賑わしており、その影響がすでに患者さんにも及んでいる状況ですのでここで触れないわけにはいかなくなりました。

私は疫学の専門家ではなく、乳腺以外の領域の化学療法全般についての知識が豊富なわけでもありませんので、昨年末に文藝春秋に掲載された「抗がん剤は効かない」という論説全体に対して全面的な批判や反論をするつもりはありません。これに対しては週刊文春や週刊現代などでその筋の第一人者の先生が反論を載せていますし、ネット上でもこの執筆者(近藤誠先生)に対する反論は見ることができます(今回だけに限らず、1996年からたびたび話題になった論説に対する反論も含めて。下記をご参照下さい。)。

ブログ「がん治療の虚実」 …近藤誠氏の「抗がん剤は効かない」に対する反論(http://ameblo.jp/miyazakigkkb/)
→消化器がんの化学療法をされている先生のブログ。数回に分けてコメントされています。
掲示板「チームオンコロジー」 …近藤誠医師のがんもどき理論について(http://www.teamoncology.com/bbs/thread_dtl.php4?coid=1&cid=10&pg=&tid=1529)
→MD Anderson Cancer Centerの上野先生が質問に答えています。
雑誌「胃と腸」(1997年5月号 Vol.32,No.6)…早期胃癌から進行癌への進展(http://www.geocities.co.jp/HeartLand/2989/itotyou.html)
→「がんもどき」理論に対する癌研内科丸山雅一先生らの反論です。
いいかげんにしろ 近藤誠君!珍説の再登場と『文藝春秋』の無責任(http://www.soiken.or.jp/pdf/iikagennishiro.pdf)
→2002年に発表した丸山先生の論説です。


近藤先生の理論は、今までの医学会における問題点を追求したという点においては評価すべきだと思いますし、実際に様々なデータを提示されており、納得できる内容もあります。

しかし、話題性を求める周囲の思惑なのかもしれませんが、あまりに極論すぎるのです。
特に「がんもどき」に関しては「検診で見つかるような早期がんは放っておいても命には関わらない」という考えを否定する症例をほとんどの臨床医は経験しているのです。もちろん放っておいても一生悪さをしないがんや、まれに自然治癒するがんもあると思います。しかし、現在の医学ではそれをすべて予測することはできません。ほとんどのがんは放っておくと大きくなり遠隔転移率も高くなると考えられています。

すべてのがんがそうであるかは、通常はがんと診断した時点で治療をしますからわかりません(当然ですが…)。不運にも検診で見逃されてしまった場合や患者さんが治療を拒否して経過観察した場合にのみその事実が明確になるのです。
私自身もそのような症例を経験しています。高齢であるために手術を拒否し、内視鏡で経過観察していた胃がんの患者さんは、粘膜内がんから立派な進行がんになっていきましたし、民間療法に走った乳がんの患者さんは数年の間に確実に大きくなり、結局手術を受けました。

基本的に例外を除いて画像で捉えられる大きさになったがんは放っておけば必ず大きくなります(甲状腺がんなどのようにきわめて進行が遅いがんもあるのは近藤先生がおっしゃるように事実ですが…)。そしてほとんどのがんは大きくなるにしたがって予後が悪くなるのも間違いのない事実です。こう書くと「大きくなるのには時間がかかるのだから、その成績の違いは見かけ上の問題だ(lead-time bias)」とおっしゃるかもしれません。本当にそうでしょうか?

例えば1cmの乳がんを検診発見された2人の女性がいたとします。Aさんはすぐに治療を受け、Bさんは5年間放置した後に4cmのしこりを手術しました(本当はダブリングタイムは約100日と言われていますので1cmのがんは約2年ちょっとで4cmになります)。近藤先生の理論によれば検診発見後の10年生存率は同じはずです。

癌研の腫瘍径別全生存率データによると、
1cmの場合→5年 97.0% 10年 93.1%
4cmの場合→5年 85.7% 10年 72.9%
です。Bさんの場合、5年間なにもしていなかったので5年後の生存率はAさんの5年生存率よりは少なくとも良くはありません。手術しなかったために再発して命に関わった可能性を近藤先生の理論にしたがって0%と仮定すると、5年後の生存率はAさんと同等なので97.0%です。この時点でBさんのがんは4cmになっていますのでここから手術したあとの5年後の生存率は85.7%です。最初の5年で生存していることが条件ですから、発見時から10年後の生存率は0.970×0.857=0.831(83.1%)ということになります。
つまり最初に手術したAさんの10年生存率(93.1%)に比べると明らかに低下しています(もちろんこれは非日常的な状況ですので正確な10年生存率ではなく机上の概算です)。

この例を見てわかるとおり、time-lead biasを考慮しても早期に手術した方が良いということになると私は思うのですが、皆さんはどう思いますか?

(参考資料:http://www.jfcr.or.jp/hospital/conference/cancer/about/breast.html)

2011年1月18日火曜日

高額な治療費と病院収入、そして抗がん剤批判

抗がん剤は実はがんにはまったく治療効果がないとか、医師が抗がん剤を勧めるのは製薬会社と一緒になって金儲けをするためだと主張している人たちがいます。だいたいこういう人たちは標準治療を否定して、エビデンスのない食事療法やサプリメントを勧める傾向にあります。また最近は抗がん剤の効果を否定するだけ否定して(しかもその根拠は専門家の目から見れば彼らにとって都合の良いデータだけを集めたもの)、がんで苦しむ患者さんになんの解決策も提示しない人までいます。

分子標的薬などの新薬が高額なのは、製薬会社にとってはその開発費用を回収しなければならないことと、次の新薬開発の原資にするためだと思います。新薬はいくつもの薬剤を基礎から長い間研究して、そのごく一部しか実際には販売までこぎつけることができません。販売に至らなかった薬剤の開発費用はどぶに捨てるようなものなんです。高額な薬価が、本当に適切なものなのかどうかは外部の私にはわかりませんが、単純に金儲けのために高額になっているわけではないのは確かです。

それでは一方の病院側は高額な薬剤を多数の患者さんに投与することで莫大な利益を得ているのでしょうか?

病院が純粋に薬剤で得る収益は、薬価から納入価を引いた値段です。正確にはこれに前投薬の費用や注射手技料、外来化学療法加算などが加わった保険点数のうちの自己負担分を患者さんは窓口で支払います。


例としてハーセプチンを調べてみました。

ハーセプチンの薬価は1バイアルあたり150mg製剤で56110円、60mg製剤で23992円です。再発で使用する場合の量は、初回4mg/kg、その後2mg/kgです。仮に体重50kgの人であれば、2回目以降は100mgずつ週1回投与となります。この場合、60mg製剤を2バイアル使用しますので薬価は23992×2=47984円(自己負担3割なら約14395円)となります。

一方の納入価は、販売元と病院の間の交渉で決まりますので、病院によって多少の違いはありますが、およそ1バイアルあたり150mg製剤で51000円、60mg製剤で22000円程度です。ですから上の例で言うと、納入価で約44000円かかりますから、病院にはわずかに4000円程度しか入らないことになります。

診察料や手技料などでその他の収益はありますが、医師の診察、薬剤師の調剤、そして2時間くらい看護師が経過観察をしなければならないことを考えると時間単価は決して高くはありません。むしろ検診や外来で数をこなす方が収益的には良いと思います。

さらにDPCという制度を採用している病院(大きな病院のほとんどはこのシステムです)の場合は入院病名で1日当たりの入院費が決められており、入院中にかかった手技や検査、薬剤費用のほとんどは保険請求することができません。ですから入院で抗がん剤を使用した場合には、分子標的薬などを除くと薬剤の費用を請求することができないのです。つまり高額な抗がん剤を使用すればするほど病院の持ち出しが増えてむしろ損をするということになります。

また抗がん剤を投与する場合には、通常の他の薬剤に比べるとリスクを伴いますので看護師も薬剤師も医師も非常に神経を使います。患者さんにとってだけではなく、私たち医療従事者にとっても抗がん剤というものは使わなくてすむものなら使いたくないものなのです。

以上のように、一部の人たちが主張するような、医師が金儲けのために抗がん剤を多用することは普通あり得ません。抗がん剤のメリットもその怖さも知らない人たちが、抗がん剤のもつ有害な面とその価格だけをみて、一方的に抗がん剤や抗がん剤を使用する医師を批判することに私は疑問を感じています。

2011年1月16日日曜日

チーム医療と人事異動

そろそろ春からの人事が決まりつつあるようです。私の職場は関連病院が多く、それぞれが人事採用しているわけではないので関連病院内での移動が定期的にあります。医師は全道(外科は札幌以外は釧路と旭川)、技師や看護師は主に道央内の病院や診療所への転勤があるのです。それぞれの病院・診療所を守るために、そして遠隔地に同じ人を長く留めないようにするためには移動はやむを得ません。現地での採用ができれば一番良いのですが、地方ではなかなか簡単ではありません。

診療所への技師の派遣については個人的には異論があります。病診連携が求められているいま、診療所の検査技師の固定配置はなくしていくべきだと思っています。診療所を守るためにこれから専門的な研修をすべき若い技師が2年間も技術研修や学術活動を中断するのはレベルを向上させるためには望ましくありません。この間ずっと会議で発言し続けてきましたが、まだそういう方向にはなっていないようです。

先日私のところに検査部の管理者から打診があった話も個人的には非常に残念な人事異動でした。

私の所属している病院はいわゆるセンター機能を持った病院です。各種の認定施設や修練施設であり、もちろん乳癌学会の認定施設でもあります。そして2年後の新病院では、今以上にがん医療に力を入れる方針で計画が動いています。そのためのチーム医療の充実も重要視されています。

しかし、今のように中心となるメンバーでさえもころころと定期的に移動してしまう状況は、乳腺診療の安定したレベルを維持するためには支障になります。もちろん残る他のメンバーも十分な力を持っていますし、新しく移動してくるメンバーも信頼できる乳腺診断レベルを持っています。またそういうことが起こりうることも視野に入れて症例検討会を行ない、レベルの底上げをしてきました。

しかし、それでも新病院に向けてのチーム医療の充実を考えるとその技師さんは残るべきだと私は今でも思っています。技師さんたちにも移動に関するいろいろな事情がありますから、乳腺だけの要望を押し通すことはできませんが、2年後の新病院開院時にはその技師さんを戻して欲しいと管理者には強く主張しておきました。

病院や医療機器などのハードを新しくするのはお金さえあれば簡単です。しかしソフト(技師などの医療従事者)の技術レベルを維持していくのは時間も労力もとてもかかるものです。こういう点について責任者がどう考えてくれるかによって病院の将来が決まると私は考えています。

2011年1月15日土曜日

乳がん検診で驚いたこと

今日は関連病院の乳がん検診の日でした。ここのところの悪天候のためか、今日の受診者数は20人以下でのんびりした検診でした。

20年以上もこの仕事をしていると、外来や検診でいろいろな患者さんに出会い、いろんな経験をしました。

うれしかったこと、感動したこと、悲しくなったこと、社会の理不尽さに憤りを覚えたこと、そして…思いがけない患者さんの行動にびっくりしたこと…。

今日もちょっとびっくりしたことがありました。

通常、検診の際はブラジャーをはずして検査着を羽織ってもらい、まずは電動ベッドの上に横になってもらいます。私が腰を痛めないくらいの適切な高さにベッドを調整したのち、検査着の紐をはずし前を開けて臥位での触診後、ベッドに腰掛けてもらって乳房の視触診と頸部の触診を行ない、電動ベッドを下げて降りてもらい診察は終了です。

今日いらした40歳代の患者さんは、検査着の前を開けるとブラジャーをつけたままでした。乳がん検診の触診でブラジャーをしたまま、というのもびっくりしますが、たまにあることなのでこれだけでは驚きません(笑)。しかし、”このままでは触診できないので外して下さい”とお話ししたところ、ベッドに腰掛けてブラジャーを外しかけたのですが、背中だけ外すのかと思っていたら高く上げていた電動ベッドから、突然飛び降りたのです!

以前高齢の方で電動ベッドが下がりきる前に降りてしまってつまづいた方がいらっしゃいましたので、いつもはベッドを下げる際には、間違って下がりきる前に降りないように手を軽く肩に置いて、”少しお待ち下さい”とお話するのですが、まさかブラジャーを外すために飛び降りるとは思いませんでした(汗)。幸い若い方でしたし、高いことを知っていて降りたので問題ありませんでしたが、びっくりしました。

他に今までの乳がん検診で驚いたことは…

・検査着の前を開けると乳房に内出血の跡があり、触ってみると明らかなしこりがありました。無症状ということで検診を申し込んでいましたが、実は前医で乳がんと診断されたことが納得できないため、そのことを隠してもう一度検診を受けたとのこと…。こういう医師を試すようなことはやめて下さいね!

・診察しようと振り向くと下も脱ごうとしていたおばあちゃんがいました(今まで数人)。どうやら乳がん検診は婦人科だと思ったらしく、引き続き内診もすると勘違いしたようです(汗)。

・乳房が赤くなっていたので、ぶつけたんですか?と聞くと、”これはキスマークです!”と堂々と教えてくれた若い女性がいました。聞いた私が赤くなってしまいました…(汗)。

などなど…。

乳がん検診がどんなものか、初めての方はおわかりになっていないことがあります。意外な行動、言動に出ることがありますので気をつけなければなりませんね(笑)。

2011年1月11日火曜日

胸の痛みの原因は…?


何か症状があって患者さんが乳腺外来を受診する際に、一番多く訴えるのは「乳房痛」です。

そのほとんどは痛みの状態と経過を聞くと原因の推測が可能です。

①生理前に特に痛みが増す、両側(特に外上部)の張ったような痛み
→乳腺症であることがほとんど
②授乳期に起きる熱感(・発赤)を伴う局所痛、時に痛みが強くて触れることもできない
→乳腺炎
③大きく息を吸ったり、腕を上げたり、物を持ち上げたりすると痛みが出る
→筋肉痛(大胸筋、前鋸筋、肋間筋など)や肋間神経痛、打撲、肋骨の骨折などによる筋・骨・神経症状

乳がんで乳房痛のみで診断されるケースはまれです。だいたいは痛みがあって触ってみたらしこりがあった、という場合がほとんどです。これは痛み自体は乳腺症によるもので偶然しこりを発見しただけなのです。また、たまたま乳房痛で検査をしたら、まったく痛みと関係しない小さながんが見つかることはあります。

さて、③の場合、明らかに打撲や激しい運動、重いものを持った、などの既往があれば、より説得力がありますが、はっきりしない場合もあります。で、この時期たまにいらっしゃるのが、「雪かきのやりすぎによる胸の痛み」の患者さんです。重い雪をスコップなどで何度も投げると大胸筋に痛みが残っても不思議はありません。

今年は特に私が住んでいる地域は雪が多く、今日積雪1mを超えてしまいました。これから雪かきによる胸の痛みで受診される患者さんが多そうです。

写真はここ数日の間に降った大量の自宅前の雪を積み上げた雪山です。昨日、ついに私の背丈くらいになってしまいました。今朝排雪していったのでようやくすっきりです!

2011年1月10日月曜日

ホルモン療法の副作用6 更年期障害1

更年期障害というのは、卵巣機能の低下によるエストロゲン(特にエストラジオール)の欠乏に基づくホルモンバランスの崩れによって起こる症候群です。通常、50才前後で迎える閉経期にみられますが、その症状の強さには個人差があり、まったく気にならない人から日常生活に支障をきたす人まで様々です。

主な症状は、
動悸(頻脈)、血圧の変動(立ちくらみ)、腹痛、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ)、多汗、頭痛、めまい、耳鳴り、肩こり、不眠、疲労感、口の渇き、のどのつかえ、息切れ、下痢、便秘、腰痛、しびれ、知覚過敏、関節痛、筋肉痛、性交痛、生理不順や精神症状(情緒不安定、不安感やイライラ、抑うつ気分)など
ですが、症状の強弱には精神的要素が大きくかかわってくると言われています。

さて、本題ですが、ホルモン療法(タモキシフェン、トレミフェンなどの抗エストロゲン剤やフェマーラ、アリミデックスなどのアロマターゼ阻害剤)の副作用として、この更年期障害が現れることがあります。

その発症機序は、次の通りです。
アロマターゼ阻害剤は閉経後の患者さんに投与する薬です。閉経後では脂肪組織などでアロマターゼの働きによってわずかにエストロゲンが作られています。アロマターゼ阻害剤はこの酵素を阻害しますので、エストロゲンがさらに減少し、「第2の更年期」をきたすために生じるものと推測されます。
一方、抗エストロゲン剤はエストロゲンを減少させるわけではなく、エストロゲンが、正常組織(細胞)や乳がん細胞に結合するのを妨げる薬剤です。このようにエストロゲンの作用を減弱させることによって腫瘍の増殖を抑えるのですが、正常組織にもエストロゲン欠乏症状を生じてしまうのです。ただ、タモキシフェンなどの抗エストロゲン剤はSERMと言われるタイプですので、一部の組織(骨、子宮など)にはエストロゲンと同じ作用を呈します。

いろいろな患者さんのブログやSNSのコミュニティへの書き込みを見ていると、けっこう副作用で継続できなかった、という経験談が載っており、そこにさらに書き込まれるコメントも同様の経験談だったり、というケースをよく見かけます。これから治療を受ける患者さんが読むと、ホルモン療法はとても副作用が強く、怖い治療だという印象を受けてしまうような内容です。

これはネット上の情報を見る上で気をつけなければならない点の一つだと思いますが、この手の情報に書き込まれるのは実際に副作用が出てしまった患者さんによる経験談がほとんどです。なんともなかった患者さんや副作用が許容範囲内だった患者さんは書き込まないことがほとんどです。ですから、情報に大きなバイアスがかかっているのですが、見た人はそれに気づきません。結局、自分にも副作用が起きるんじゃないか?とか、どうしてこんな危険な薬を飲まなければならないんだろう?などと思いながら治療を受けることになります。その結果、上にも書いたように更年期症状などは特に心理的な影響を受けやすいため、起こらないかもしれない副作用を引き起こしてしまう可能性が生じてしまうのです。

実際、副作用で継続を断念するケースはあります。でも私自身の経験では、「たまに」なのです。

ほとんどの患者さんは、多少の副作用はあっても耐えられないほどではなく、きちんと5年間内服を継続できます。
ですから、

①この治療が再発予防(再発率、死亡率低下)に有効であることは科学的に証明されている。
②軽微な副作用は、時間とともに慣れて気にならなくなることも多い。
③命に関わるような副作用や後遺症が残るような副作用はまれである。

ということを正しく理解することが重要です。

2011年1月6日木曜日

乳腺領域の放射線治療の有害事象について

日本は世界で唯一の被爆国であるためか、放射線に対するアレルギーが強い国でした。実際、昔は放射線治療による有害事象が多くみられたため、敬遠する患者さんたちも多かったようです。

その後、CTの導入や治療機器の改良によって、以前に比べると格段に安全に治療できるようになり、また、放射線治療の効果が科学的に立証されてくるにしたがって、人々にも受け入れられるようになってきています(今でもがんの三大治療の一つとして悪者扱いする人もいますが…)。

このように進歩してきた放射線治療ですが、もちろん弊害がまったくないわけではありません。東京の研修先の病院では、消化器内科で有名な先生がバリウム撮影のやりすぎで皮膚がんになったという話も聞いています。同じ部位に繰り返し多量に浴びれば原爆と同様に発癌の原因にもなります。ただ、通常の治療量では、発癌のリスクよりも治療効果のベネフィットの方が上回ると考えて良いと思います。

乳がんに関連する放射線治療の主な有害事象は以下の通りです。

①皮膚炎…ほとんどの部位の照射で起きます。その程度はかける放射線量によります。特に術後の乳房に照射する場合は、手術による影響が残った皮膚に放射線の影響が加わりますのでけっこう強い皮膚炎が出る場合があります。
軽い場合は、照射範囲に一致した発赤程度ですみますが、時にひどい日焼けのように皮がむけてただれてしまうこともあります。黒っぽく浮き上がったような皮膚がしばらく残ることがありますが、数ヶ月かかったあとで取れてきれいになります。皮膚炎に対しては、アズノール軟膏やステロイド軟膏を塗布します。

②間質性肺炎(放射線肺臓炎)…乳房照射や所属リンパ節(腋窩、鎖骨上、胸骨傍)、縦隔の再発巣に対する照射の際には、肺に放射線がかかります。現在では施行前にCTを撮ってできるだけ肺にかからないように治療計画をたてますので、以前に比べるとかかる範囲は狭くなりましたが、やはり軽い間質性の変化はよく見られます。ほとんどは無症状で、術後の胸部CTで偶然発見される程度ですみますが、まれに咳や呼吸困難などの症状を呈することがあります。ただ、私の経験上では乳房温存術後の乳房照射ではこのような症状を呈した患者さんはほとんど記憶がありません。

③肋軟骨壊死・骨折…肺と同様に乳房やリンパ節の照射の際には肋骨や肋軟骨にも放射線がかかります。軟骨は血流が悪いため、放射線の影響を受けると壊死(組織の細胞が死んでしまうこと)に陥りやすく、骨折も起こしやすくなります。しかし、これも乳房照射では今まで1例も経験はありません。以前、大胸筋も切除していた時代に乳房全摘後の胸壁照射を行なったあとには時々みられていたようです。壊死が生じた場合には骨髄炎を併発することがありますので切除が必要になります。

④心不全(心膜炎、心筋障害)…通常の乳房照射で心臓に影響が出ることはきわめてまれです。症状を呈することはほとんど経験しませんが、可能性は0%ではありません。もともと心臓が悪い方や心筋毒性のある抗がん剤使用後の患者さんに対しては配慮がいります。縦隔に照射する場合には心臓にもかかりますので心不全の発症には注意が必要です。治療は通常の心不全と同様です。

⑤食道炎…乳房照射では起きませんが、頸部(鎖骨上リンパ節再発や頸椎転移)、縦隔や胸椎に照射した場合に起きます。けっこう長期間続く食べ物のつまり感や焼けるような痛みを伴います。治療は粘膜保護剤の内服を行ないます。

⑥リンパ浮腫の悪化…特にリンパ節郭清をした患側の腋窩や鎖骨上に照射する場合には、細々としたリンパ管を介してようやく流れていたリンパ流が、放射線による組織の線維化によってさらに流れが悪くなってしまうためにリンパ浮腫が悪化しやすくなります。治療は、以前書きましたのでご参照下さい(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.com/2009/09/blog-post_3370.html)。

⑦放射線酔い…本当に放射線治療のせいなのかは判断が難しい場合がありますが、放射線治療中にからだのだるさを訴える患者さんがいます。特に広範囲にかけた場合には起こりうるそうですが、乳房照射くらいではほとんど起きないはずです。治療は特にありません。

⑧骨髄抑制…乳房温存術後の乳房照射くらいではほとんど起きません。脊椎や胸骨、骨盤などの骨転移巣に広範囲に照射を行なった場合や抗がん剤投与後に、骨にかかるような照射(鎖骨上・胸骨傍・縦隔リンパ節、胸壁再発など)を行なった場合には白血球の低下や貧血が長引くことがあります。治療は抗がん剤の場合と同様ですが、貧血に対しては輸血を要することがあります。

2011年1月4日火曜日

2011年 仕事始め!

正月休み明けの今日は、いきなり大雪との格闘から始まりました。なぜか札幌市内で私の自宅近辺だけ3倍くらい雪が積もっていて昨日から4回も除雪して関連病院に出勤しました。

おかげですっかり腰痛をぶり返して老人のように腰を曲げながら外来診察をしていました(汗)
今日は幸い予約が18人と少なく(+飛び込みで2人)、なんとか無事に外来を終えることができました(笑)

今日、H先生から相談を受けた症例…トリプルネガティブのⅣ期の乳がんで、FEC→ドセタキセルで経過をみていましたが、悪化傾向とのこと。次に何をしたらいいか、ということでした。

候補は、
①パクリタキセル
②ナベルビン
③ジェムザール
④メソトレキセートを含むレジメン(CMFかMM療法)
⑤XC療法(ゼローダ+エンドキサン)
でしょうか。

本来は、プラチナ製剤(シスプラチン、カルボプラチン)とジェムザールの併用をしたいところですが、プラチナ製剤はまだ乳がんには保険適応外です。また期待されているPARP1阻害剤も未承認です。

この候補の中ではナベルビン単剤では弱いような気がします(私の今までの経験では奏効期間が短い印象があります)。パクリタキセルはドセタキセルの直後には使いにくい(同じタキサン系のため)ですし、ジェムザールとの併用に取っておきたい気もします。XC療法は、内服なので効果が弱い印象がありますが、恩師のY先生の講演によると案外トリプルネガティブにも効くとのこと。迷いましたが、今回は、メソトレキセートとマイトマイシンの併用(MM療法)を行なうことにしました。以前、トリプルネガティブで、他の抗がん剤はまったく無効だったのにこの治療だけが非常に奏効した経験もありますし、ともにDNA合成阻害剤ですのでトリプルネガティブには有効な薬剤なのです。

さっそく治療を開始するようですが、新薬の承認まで落ち着いていてくれることを祈っています。

2011年1月2日日曜日

抗癌剤の副作用13 骨髄抑制〜発熱性好中球減少症

骨髄抑制については前回総論を書きましたが、その中でも一番先に抗がん剤の影響を受けやすいのは白血球、特に好中球です。好中球は細胞性免疫という、細菌を直接攻撃する免疫機能をもつ細胞です。ですから好中球が減少すると容易に細菌感染を引き起こし、発熱をきたします。こういう状態を発熱性好中球減少症(febrile neutropenia; FN)と言います。

①定義:
現在日本では主に「発熱性好中球減少症治療ガイドライン」(2004年)による定義、「好中球数が1000/μl未満で500/μl未満になる可能性がある状況下で,腋窩温で37.5℃以上もしくは口腔内温で38℃以上の発熱」を用いています。

②予防:
現在、好中球減少、またはそれに伴う発熱に対して、G-CSF(骨髄の好中球などの顆粒球の元になる細胞に作用して顆粒球を増員させる薬剤)と抗生物質の予防投与が実診療において行なわている場合があります。この適応についてはある程度の基準はありますが、実際は施設ごとに若干異なります。

抗生物質の予防投与は、全例に行なうことを推奨しているガイドラインはないと思います。ただ、高率にFNを引き起こすレジメンの場合や一度FNを起こした場合の次にクールで投与する施設はけっこうあるようです。問題点としては、広い範囲で強力に効く抗生物質をやみくもに投与すると耐性菌が増える可能性があることと、抗生物質を投与していて発熱した場合には、血液培養などで原因菌が特定しにくい場合があることです。

一方、G-CSFは抗生物質と違って、耐性菌の問題はなく、根本的な治療になりますので合理的のように思えます。問題点は、非常に高価であること、日本の場合は自己注射ができませんので、毎日のように通院しなければならないことです。また、この薬剤による副作用もあります(発熱、骨痛、間質性肺炎など)。
ASCO2006において改訂されたG-CSFの投与基準の概要は以下の通りです。

・基本的には発熱を伴わない好中球減少症(AFN)に対してG-CSFを使用すべきではない
・発熱性好中球減少症のリスクが20%以上で、かつG-CSFを必要としないで同様の効果が期待できるレジメンがない場合やdose denseレジメンを行なう場合には、G-CSFの一次予防投与は許容される。
・ハイリスク患者(65才以上、PSが悪い、低栄養、活動性感染症を有する、広範囲の放射線治療の既往、化学放射線療法中、腫瘍による骨髄障害があるなど)にはFNのリスクが20%以下でもG-CSF投与が適切である場合がある。
・二次的予防投与については、1コース目に発熱性好中球減少が起こった場合で,2コース目の抗悪性腫瘍薬の減量が適切でないと判断される場合はG-CSFの使用が推奨される。

③治療:
スコアリングインデックス(MASCC Score)を用いてリスク分類を行ない、治療方針を決めます(Low Risk群:21点以上、High Risk群:20点以下)。治療の基本は適切で強力な抗生物質の投与です。リスクを評価して、原因菌の推定を行ない、初期治療を行ないます。3-5日後に再評価を行ない、原因菌の培養結果も合わせた上で、追加の治療を判断します。
一度発熱してしまった場合には、G-CSFは抗生物質の補助としてルーチンに使用すべきではないとされています。ただし、感染に対する合併症のリスクが高い場合(発熱が10日以上持続、好中球数100未満、65才以上、原疾患のコントロール不良、肺炎、低血圧、多臓器不全、深在性真菌症、発熱による入院など)、あるいは治療結果が不十分な徴候がある場合には投与を考慮すべきであると言われています。


私たちの病院では一昨年くらいから、比較的若い患者さんに対してはFECの量を増やしました(FEC75→FEC100)。それ以降、どうもFEC100施行後に発熱する患者さんが多いと感じていましたが、昨年末にまとめてみると、なんと67%の患者さんでFNをきたしていました。同時期にFEC75以下の量で行なった患者さんではFNの率は0%でしたので明らかに高率になっていました。興味深いのは、どちらの群も好中球がgrade4(500以下)になった割合は83%と同じだったことです。おそらく、好中球の最低値というより、grade4の期間が長かったことが発熱につながったようです。昨年までは予防的な抗生物質の投与もG-CSFの投与も行なってきませんでしたが、これだけ高率であればなんらかの対応を考えなければならないと感じています。 

2011年1月1日土曜日

抗癌剤の副作用12 骨髄抑制〜総論

抗がん剤の副作用の中で、もっとも頻繁に起こりうるものの一つが、骨髄抑制(白血球、血小板、赤血球の減少)です。

骨髄抑制はほとんどの抗がん剤で共通にみられ、時に命に関わるほど重篤な状況を引き起こす可能性があります。この中でも白血球は免疫に大きく関係しているため、抗がん剤を悪者にしている人たちは、
「抗がん剤は免疫力を落とすため、かえって有害である」
「免疫力が落ちるため、その後の生活に悪影響を及ぼし、死期を早める」
などと主張しています。しかし、抗がん剤は確かに免疫力を低下させるため一定のリスクはありますが、適切に使用すれば、ほとんどが安全に投与を終了でき、免疫力の低下も一時的なもので、その後の生活にずっと悪影響を与えるということはありません。いたずらに不安になるのではなく、正しい認識を持つことが大切です。

①機序:
がん細胞は、細胞の分裂(cell cycleと呼びます→http://ja.wikipedia.org/wiki/細胞周期)が速いのが特徴です。一方、正常の細胞のほとんどは分裂がゆっくりで、その大部分は間期にあります。ですから、細胞分裂を頻回に繰り返すがん細胞の合成期と分裂期を狙って作用する薬剤は、がん細胞のみに影響を及ぼしやすいと考えて、抗がん剤の開発が行なわれてきました。しかし、正常な細胞の中には細胞周期が速いものもあります。それが骨髄細胞や消化管粘膜細胞などなのです。ですから、合成期・分裂期に作用する薬剤であっても、これらの正常細胞にも影響を及ぼしてしまい、それが副作用として現れるのです。

②原因薬剤:
ほとんどの抗がん剤で起こりえます。

③症状:
白血球減少…白血球の中の好中球が500/μl以下になると非常に細菌感染を起こしやすくなります。細菌感染を起こすと容易に敗血症を引き起こしやすく、多臓器不全から死に至る場合もまれにあります。発熱しない限りは無症状ですので、白血球の減少を自覚症状で判断することはできません。発熱した場合は、早めの適切な対処が必要です(発熱性好中球減少症については後日また書きます)。 
赤血球減少…貧血症状(息切れ、疲労感、めまいなど)。 
血小板減少…出血しない限りは無症状。

④治療:
白血球(好中球)減少に対しては詳細は後述。赤血球減少に対しては程度が強い場合には輸血を考慮します。鉄剤は通常無効です。血小板減少に対しては、3万以下では血小板輸血を考慮します。

あけましておめでとうございます!

いつも私のブログを読んで下さっているみなさん、昨年は大変お世話になりました。ありがとうございました。

昨年は無理せず、月10回くらいのペースで書こうと思ったのですが、思いのほか書くことが多かったようです。これは昨今の乳がん治療の進歩が早く、インターネット経由のニュースが多かったのと、ピンクリボン関連の乳がん検診啓蒙のイベントが多かったことなどが原因だと思います。

今年も無理せず書いていこうと思います。もし、こんなテーマを書いて欲しいというご要望がありましたら、コメントでお寄せ下さい。すべてにはお応えできないかもしれませんが、参考にさせていただきたいと思います。

いま乳がんと闘病中の方も、ご家族として支えていらっしゃる方も、乳がんになるのではないかと心配されていらっしゃる方も、全ての方が幸せな1年を過ごされますようにお祈りいたします。今年もよろしくお願い申し上げます。