2009年12月30日水曜日

1年間ありがとうございました!

今年もあと残りわずか…。

ふとしたきっかけで始めたこのブログですが、もう少しで満1年になります。思いのほか多くの方が読んでくださり、コメントまでいただいてとてもうれしかったです(さすがに年末ともなると皆さん、お忙しいようで、ここ数日すっかり過疎ってますが…)。

開設時から月10回の更新をノルマにしてなんとかここまで継続することができました。でも最近は新病院建設関連の会議が多くなって、さすがにきつくなってきました。来年からは少しペースを落としてぼちぼちやっていきます。もし、ブログにとりあげて欲しいテーマがありましたら、ここのコメントにでも入れていただければ取り上げていきたいと思います。

また、娘からは、”字ばっかりで読みづらい!!”と前から言われてましたので、可能な限り写真なども入れていきたいと思っています。ただ、著作権や個人情報の問題もありますので、どうしても文字ばかりの情報になってしまうんですよね…。なんとか工夫してみます。

それではみなさん、良いお年を!

2009年12月28日月曜日

乳がん検診受啓蒙ポスター


今日、いつも情報提供に来ていただいている、製薬会社のNP社の方が、乳がん検診啓蒙用のポスターをラミネート加工して持って来て下さいました。

さっそく外科外来と検診課に貼ることにしました。大きくてなかなか見やすくてgoodです!

最近では乳癌関連の製薬会社さんが、このような啓蒙活動に力を入れて下さっています。製薬会社側からすれば、早期発見、早期治療は、もしかしたら会社の利益には相反するかもしれません。極端な話、すべて非浸潤癌で見つかれば、抗癌剤はまったく必要なくなりますし、かなりの患者さんはホルモン療法も不要になってしまいます。

そのことを今日ポスターを持って来てくれた担当者にお聞きしてみたら、
”たしかにそういう面もありますが、会社としても社会貢献は大切な責務だと考えているのです”
と答えてくれました。

実際はそれだけではなく、会社のアピール(こちらの効果の方が大きいと思いますが…)や医療関係者との連携を深めるためなどの理由もあると思いますが、大企業の責務としてこのような社会福祉活動を考えて下さることは大変ありがたいことです。これからもいろいろな形で乳癌の早期発見や乳がん検診の啓蒙活動に力を貸していただければありがたいです!

乳がん検診無料クーポン券利用率6.7%???


今日の北海道新聞の朝刊に書いてありました。10月末時点の集計ですが、道内で配布された乳がん検診の無料クーポン券利用者が、対象者のわずか6.7%しかいないという結果だったそうです。

原因は事前準備の遅れでクーポンが送付されたのが9月以降にずれこんだ市町村が8割もあったこと、制度の周知が不徹底だったことなどだと新聞では報じています。札幌ではもう少し早くに送られて来た(8月?)ような気がしますので、影響は地方ほど大きかったのかもしれません。

また、札幌では検診可能な施設が多いにも関わらず、受け入れ人数の制限があるために、受けたくても受けれない人が多いようです。聞いた話では、ある施設では3ヶ月待ちと言われた人もいたそうです。おそらく地方ではマンモグラフィを受けれる施設が少ないはずなので、もっと厳しい状態なのかもしれません。それでなくても地方では外科医不足が深刻です。毎日外来を開けないところも多いと思います。少ない外科医が少ない単位数の外来で、一般外来を開きながら乳がん検診を行なうのは時間的にも人的にも限界があります。このあたりの状況がどうなっているのか知りたいところです。

少なくても札幌市内では、無料クーポンの効果は絶大です。受けたい人はいっぱいいるのに、受け入れが不十分な現状があるのは確かです。これからさらに受診率を上げようと考えるなら、検診施設側の受け入れ状況を把握した上で対応策を検討して行かなければならないと思います。

マスコミも受診する側だけの問題ではなく、受け入れ側の問題にも目を向けて欲しいものです。現状では検診受診率50%以上を可能にするだけの受け入れ側の余裕はないように感じます。放射線技師、読影医師ともに、計算上の数は足りているかもしれませんが、実際にフルで乳がん検診だけに従事できる人は少ないのです。実際、資格認定だけ取って、まったくマンモグラフィを読影していない医師もいます。また放射線技師は、一般撮影も兼務している場合も多いはずです。

私たちの病院では可能な限り、検診の申し込みに対応するようにしています。一般外来を2診行ないながら、別の枠で乳がん検診を受け入れています。それでもなかなか厳しくなってきています。

もちろん、多くの方に検診を受けていただくことは、乳癌死亡率減少のために絶対に必要なことだと思っていますし、病院としても大変ありがたいことです。なんとかもっと多くの方に検診を受けていただけるように、個人的にも、病院としても、地域としても努力していかなければならないと感じています。

2009年12月22日火曜日

乳癌の治療最新情報12 ハーセプチンとタイケルブの併用

現在のところ、HER2陽性乳癌に保険適応のある分子標的薬には、点滴投与のハーセプチン(トラスツズマブ)と経口剤のタイケルブ(ラパチニブ)があります。

ハーセプチンは、臨床試験ではパクリタキセルとの併用だけだったにもかかわらず、併用する抗癌剤の制限はありません。また単独でも投与可能です。ですから、パクリタキセルとの併用が無効になれば、パクリタキセルからドセタキセルやナベルビン、ゼローダなどに併用する薬剤を変更しながらハーセプチンを継続することが可能でした。

一方、タイケルブは、申請する際にゼローダとの併用ということで保険適応申請したために、他の抗癌剤との併用は今のところ認められていません。単独での投与も原則不可です。ですから、タイケルブ+ゼローダが無効になればタイケルブの継続もできなくなります。

今回サンアントニオ乳癌シンポジウムで発表された報告によると、タイケルブ単独投与とハーセプチン+タイケルブの投与との乳癌再発患者における比較試験において、併用群では全生存率が有意に改善し、死亡リスクが26%低減したということです。同じHER2陽性乳癌に対する子標的薬でありながら、作用部位が異なるため、併用によってより効果が増強することが証明されたということです。

どちらも高価な薬剤ですので、併用するとなるとかなり経済的な負担が大きくなるのが問題点ではありますが、新たな治療法が使用可能となれば、HER2陽性患者さんにとっては心強いことでしょう。これらの臨床試験の結果を一日でも早く、国内に導入して欲しいものです。

乳腺術後症例検討会3

院内外の超音波技師、放射線技師、乳腺外科医、病理医、研修医で月1回開催している、乳腺術後症例検討会がついに30回目を迎えました。

今日は雪のために開始時間が遅れてしまい、終了したのが8:40くらいになってしまいましたが、遅くまで熱い討論を交わしました。

一言で乳癌と言っても同じ症例はないというくらい検査所見は様々で、1例1例が本当に勉強になります。多くの症例に触れることによって診断精度は上がると信じて、この会を続けています。

今回は特にマンモグラフィの所見が難しい症例ばかりでした。4例中、ほとんどの人が気づくのは1例だけ、あと1例は半数くらい、もう1例は数人のみ、最後の1例はまったくわかりませんでした。

そんなに大きな病院ではありませんが、珍しい症例も時々あります。これからの課題は、これらの症例を組織型別に分類して、画像診断のアトラスを作成することです。その組織型の典型例、非典型例をデータベース化することによって、新人教育にも使えると考えているからです。来年度の目標として少しずつ準備していくつもりです。

自分たちが学ぶこと、そして後輩にその知識を伝えること、どんな領域の仕事でも同じだと思いますが、これらは共に大切なことですよね。

2009年12月20日日曜日

第25回 乳腺診断フォーラム

昨日、東京で乳腺診断フォーラムが行なわれ、参加してきました。

このフォーラムは、年2回行われます。うち1回は乳癌学会総会の中で行なわれますが、これはフリー参加のため、会場から人があふれるほどの人気があるセッションです。今回は、メンバー(2年交代)だけが参加するclosedのフォーラムでした。

通常の研究会とは異なり、このフォーラムは症例検討が中心で、指名されたメンバーが所見を読むというのを基本に進んで行きますので、とても緊張します。もちろん、ここに出される症例は、診断が難しかった症例を選んで提示していますので、簡単にはわかりません。

症例1 70歳代後半の女性 CTで見つかった境界明瞭なしこり
乳腺の裏側から押し上げるような腫瘤。マンモも合わせて乳腺外の軟部腫瘍を考えました。エコーがすごく特徴的で、腫瘤表面が高エコーになっていて、そこからかなり強い後方陰影を伴っていました。なんだろう??
→超音波診断の第1人者である、S病院のT先生が、断言しました。
”シリコン肉芽腫だと思います。典型的な像で他は思い当たりません。”
え?そんな既往の説明はありませんでしたが…。それに片側だけというのは変では?
”CTをよく見ると対側にも少しだけ異常があるように見えました。エコーも比較として出した対側の画像で少し気になるところがありました。”
→再度、スライドを見直して一同、”お〜っ!”。ご本人は最後まで豊胸術の既往を否定したそうですが、組織学的にシリコン肉芽腫と診断されたそうです。

症例2 30歳代女性 検診マンモで指摘された皮下脂肪内にある淡い石灰化の集簇を伴った低濃度腫瘤
エコーでは乳腺から突出するような低エコー内に石灰化が多発しています
→悪性なら非浸潤癌?粘液癌?、良性なら線維腺腫?
私はMLT(mucocele-like tumor:粘液を貯留する嚢胞、癌を合併することもある)かな?と思いました。
結果は、”乳腺症”。いろいろ意見が分かれて、稀な腫瘍も考えましたが、結果的にはありふれた疾患でした。微小な嚢胞内に石灰化が多発してこのような画像になったようです。乳腺疾患は奥が深いです。

症例3 50歳代女性 だるま状のしこり
時間がなくなったため、SがんセンターのT先生に答えていただく形で進行。エコー上は非浸潤癌部分が主体のようにも見えましたが、結果的にはinvasive micropapillary carcinomaという悪性度の高い癌で、皮膚に広範なリンパ管侵襲を伴っていた症例でした。

症例検討のあとは、癌研有明病院乳腺外科の岩瀬拓士先生による、珍しい&判断が難しい良性石灰化症例のマンモグラフィについてのお話を拝聴しました。岩瀬先生のご講演は、いつもわかりやすいお話で勉強になります。

このフォーラムもメンバーによる会は来年で終了するそうです。非常に勉強になる機会なのでもったいないような気もしますが、もうすでに全国各地で同じようなフォーラムが行なわれるようになったということで、役目は終了したとの判断だそうです。

北海道でも毎年夏に行なわれていますが、若手医師や技師だけでなく、ベテラン乳腺外科医にとっても貴重な勉強の場になります。これからもこのような機会は続けていって欲しいと願っています。

2009年12月18日金曜日

乳癌の治療最新情報11 フルベストラント

pure antiestrogen製剤であるフルベストラントは、タモキシフェンやアロマターゼ阻害剤に耐性となった進行再発乳癌に有効であることが、海外のいくつかの臨床試験ですでに証明されています。

今回、このフルベストラントの高用量製剤(500mg)が、従来の250mg製剤より、有効であることがアストラゼネカ社から米国の乳癌シンポジウムで発表になりました。

内容の詳細はわかりませんが、第3相臨床試験において、投与開始1年後に病勢の進行がなかった患者の割合は250mg群が25%だったのに対し500mg群は34%だったということです。また、有意差はありませんでしたが、500mg群は死亡リスクの低減でも良好な成績で、安全性上に問題はなかったそうです。

これでまた一つ新たな治療法が増えそうです。現在、国内では未承認ですが、500mg製剤を近日中に申請するとのことですので、近いうちに使用可能になると思われます。今後は、進行再発乳癌だけではなく、術後補助療法としての使い分けが気になるところです。

2009年12月14日月曜日

イソフラボン 続報

2009.12.8のJAMA(online版)に、”Soy Food intake and Breast Cancer Survival”という中国のXiao Ou Shu先生の論文が載っています(私のブログを読んでくれている製薬会社の方にいただきました)。以前書いたように、大豆に含まれるイソフラボンは植物エストロゲンの一種で、構造はエストロゲンに似ていますが、乳癌に対してはタモキシフェンと同じようにヒトのエストロゲンの働きを妨げるのではないかと推測されており、乳癌の発生や再発の予防効果があるのではないかと言われています。

今回のXiao Ou Shu先生の報告によると、上海の20-75歳の5042人の乳癌患者さんのコホート研究において、平均観察期間3.9年の時点で大豆タンパク摂取量が多い患者さん(15.31g/day以上)は、少ない患者さん(5.31g/day以下)に比べると生存率(HR=0.71…危険度が29%減少するという意味)と再発率(HR=0.68…危険度が32%減少するという意味)が有意に良かったということです。

あくまでも1施設の報告ですので、これが正しいかどうかは断定できませんし、何度も述べているようにこのような疫学研究は非常にバイアスがかかりやすいので、今後逆の結果が出ることもあるかもしれません。例えばこの研究では、乳癌の診断時に食生活の聞き取り調査を行なっていますが、その後もまったく同じ食生活を送ったかどうかはわからないのです。

また、厚生労働省研究班(倉橋典絵:国立がんセンター予防研究所)が今年の3月に発表した研究では、イソフラボンの過剰摂取は、肝癌の発生率を3-4倍高めるとのことです。これもあくまでも1施設の研究報告ではありますが、エストロゲンには肝癌発生の抑制効果があると言われていますので、理論的にはありうることです。肝癌のほとんどは、B型、C型肝炎ウイルスの持続感染をベースとして発症してきますので、これらによる慢性肝炎や肝硬変のある患者さんは念のため注意した方がよさそうです。

いずれにしても、このような食品やサプリメントについては、まだまだわからないことも多いので、過剰摂取も過少摂取もしないように、バランスよく食べるのがやはり一番良いのではないかと思います。

2009年12月9日水曜日

乳癌の治療最新情報10 がんワクチン

ここ数年、がんワクチンの研究報告が次々と発表されてきています。私もがんワクチンに詳しいわけではありませんが、分子標的薬に続く新しいタイプの化学療法剤として注目しています。なお、現在でも一部の医療機関でこの治療が行なわれていますが、いまだに国内臨床試験中の治療法であり、保険では未認可であることに注意が必要です。また金額も高額です。

がんワクチンは、簡単に言うとインフルエンザワクチンなどと同じように、癌細胞の一部を抗原として免疫細胞に認識させて攻撃する治療法です。自分の免疫細胞を活性化させて癌細胞だけ攻撃する、ということで期待されているのです。

現在国内で臨床試験が行なわれているのは、癌細胞のタンパクの一部(ペプチド)を合成して数回皮下投与し、これを抗原と認識したキラーT細胞に攻撃させるというペプチドワクチン療法です。HLAという白血球のタイプで投与可能かどうか判断します。

その他、HER2/neuというタンパクをターゲットとして顆粒球マクロファージ・コロニー刺激因子(GM-CSF)を同時に投与して効果を高めるペプチドワクチン療法や、免疫細胞の一種の樹状細胞を採取して、その患者さんの癌細胞を抗原として認識させて(その患者さん独自のオーダーメイド)再び体内に戻す樹状細胞ワクチン療法などがあります。

最近米国から報告された方法は画期的です。腫瘍特異的抗原を搭載した直径8.5mmのポリマーディスクを皮下に植え込み、腫瘍を攻撃する免疫システムを再プログラミングするという手法を用いて、悪性黒色腫に効果があったとのことです。一度植え込むだけで持続性に効果がみられるので、非常に有効で使いやすいと報告されています。

免疫療法は、古くは丸山ワクチンなど、いくつもの治療法が開発されては効果が否定されて実臨床からは消えていきました。
しかし、癌細胞のみを持続的に自分の細胞で攻撃するというワクチン療法は非常に魅力的です。ですから長年の間、この魅力に取り憑かれた研究者たちが熱心に研究をすすめてきたのです。そして今ようやく実を結びつつあるような気がします。

ただ、インフルエンザワクチンでも副作用が問題になったように、がんワクチン療法でも重篤な副作用が起こりえます。ですから、慎重に臨床試験を行なってから使用すべきだと私は思っています。また、実際の生体内の反応というのは、上に書いたような単純なものではありません。癌細胞も生き残るために必死に抵抗してきます。ですから、思うような結果が出ないこともあるようで、まだまだ工夫の余地はあるはずです。

これから続々と世界中の臨床試験の結果が報告されてくると思います。早く効果的で安全性の確立したがんワクチンを保険で使用できるようになることを期待しています。

2009年12月6日日曜日

友愛精神をピンクリボン運動に!!

連日マスコミをにぎわせている鳩山首相の偽装献金問題。そのお金の出所を探るとどうやら、一部は母親の安子さんからの献金(贈与?お小遣い?)だったらしいとのこと。

安子さんから、鳩山兄弟に渡ったお金はそれぞれ11億円づつ。毎月1500万円づつ振り込まれていたのですからすごいお小遣いです。母親からの純粋な愛情からくるお小遣い(この場合でも贈与税は発生するようです)なのかもしれませんが、ちょっと常軌を逸した金額です。まあ、目的がなんだったのか、違法性があるのか、については検察が判断するでしょうから、置いておいて…。

この毎月3000万もの余ったお金を(安子さんはブリジストン創業者の娘で株の配当金だけでこのくらいは入るそうです)、もしピンクリボン運動に回してもらったら…と考えてみました。

3000万あれば、マンモグラフィ装置なら、毎月1-2台購入できます。もし、検診の自己負担分(札幌なら40歳代1800円、50歳以上1400円→平均1500円として)に回したら、毎月約2万人分を無料にできます。年間では、24万人、2年間で48万人!!

対象者全員を無料に、というわけにはいきませんが、所得の少ない家庭を優先的に補助するだけでも、かなりの女性が喜ぶはずです。

下手すると罪に問われるような後ろめたいお小遣いを息子たちに渡すより、社会貢献にもなり、友愛精神の象徴として間接的に息子にとって大きなプラスに働くと思われるようなお金の使い方をする方が良いのではないかと思いますが、皆さんはどう思われますか?。

乳がん検診啓蒙&自己検診指導講演会

昨日、病院の外来待合室で、乳がん検診の啓蒙と自己検診のやり方を指導するというミニ講演会をしてきました。

まず、札幌で活動しているアカペラグループの歌声で癒していただいてから、スライドを使って約45分くらい、乳癌の疫学や症状、検査、治療、そして乳がん検診と早期発見の意義についてお話をしました。それから、自己検診のビデオを10分くらい流したあとで、自己検診指導用の模型を使いながら、触診のコツについてご説明しました。その後で質問を数人から受けたのでお答えして、約1時間半の講演を終了しました。

土曜日の午後なので、当初、そんなに集まらないのではないかと思っていたのですが、職員や乳癌患者会の人たちも聞きに来てくれたので、急きょ椅子を追加しなけらばならないくらいの状況で、ホールはほぼいっぱいでした。どうも患者会の人たちの中には、私やG先生がアカペラを歌うと勘違いしていた人もいたらしいです(笑)。また、比較的高齢者が多い病院であるにも関わらず、若い女性も少し参加して下さっていたのが印象的でした。

今回の講演会にあたっては、検診課が中心となって職員たちが精力的にお誘いのビラを配ってくれたり、広報に載せてくれたりしてくれましたし、友の会の人たちにも協力していただきました。中には配布する資料を対がん協会まで取りに行ってくれた方もいました。また、製薬会社のAZ社には、自己検診指導用の模型を2台も貸していただきました。

乳がん検診に対する関心の高さが感じられる講演会でしたが、いろいろな職種の職員、患者さんたち、地域の方々、医療関連企業の皆さんのご協力が必要だということをあらためて実感したイベントでもありました。

2009年12月4日金曜日

抗癌剤の副作用5 睡眠障害

あまり抗癌剤自体と睡眠障害を関連づけては考えたことはなかったのですが、実際に乳癌患者さんに化学療法を行なうと不眠を訴える方は多い印象は持っていました。

最近掲載されたJournal of Clinical Oncologyのオンライン版によると、化学療法を受けている癌患者の4分の3以上が不眠症および睡眠障害に悩んでいて、その比率は一般集団の3倍以上であったということです。

特に不眠症状が多かったのは、年齢では若年者、癌の種類では乳癌と肺癌でした。抗癌剤2クール投与後のアンケート結果では、37%に不眠症の症状があり、さらに43%に不眠症候群(週3回以上の入眠障害または睡眠持続障害)が見られたとのことです。

今回の報告では、睡眠障害が抗癌剤自体の副作用なのか、抗癌剤を受ける患者さんの心理的背景が原因なのかについての詳しい検証はされていないようです。乳癌の患者さんにおいては、ちょうど更年期前後の女性が多いですし、乳房にメスをいれるという非常にショックな治療の後であること、抗癌剤による脱毛などの美容上のショック、などが、精神的に大きな影響を与えていることは間違いありません。

長期の睡眠障害は、疲労感を増し、食欲低下なども来しやすいため、私は患者さんに早めに睡眠薬を処方するようにしています。睡眠薬は一度使うと癖になってしまうのではないかと心配される方もいますが、必ずしもそうでもなく、治療終了後にご自分からもういらないとおっしゃる患者さんも多いです。

ただ、もともとうつ傾向がある患者さんなどでは、なかなか軽い睡眠剤では症状が良くならない場合もあります。そういう場合には、私はあまり無理して自分で抱えずに、専門医にご紹介するようにしています。うつ病が基礎にある場合には、やはり専門家にフォローしてもらうほうが安心だからです。

もし、不眠症状がみられた場合には、まず主治医に相談してみてください。なかなか改善しない場合は、専門医(精神科、心療内科、メンタルクリニックなど)に紹介してもらうことをお勧めします。

2009年12月3日木曜日

モルヒネは癌細胞の増殖を促進する!?

なんとも信じられないような話ですが…。

最近、モルヒネやその他のオピオイド系鎮痛薬が癌細胞の増殖を促すというエビデンスが増えつつあります(私は知りませんでしたが…)。モルヒネは腫瘍細胞の増殖を増大させ、免疫系を抑制し、腫瘍に栄養を送る新しい血管の成長(血管新生)を促し、バリア機能を低下させる可能性があると言われているそうです。

今回これを支持する新しい研究が、「分子標的治療に関する」米国癌学会(AACR)・米国立癌研究所(NCI)・欧州癌研究治療機構(EORTC)国際合同会議で報告されました。

今回発表された研究では、μオピオイド受容体を持たないマウスでは肺癌細胞を注入しても腫瘍は発現しませんが、正常なマウスでは癌が発現することを示しました。また、オピオイド誘発性便秘の治療のために開発されたメチルナルトレキソン(日本国内未承認)という薬剤によって、正常マウスにおける癌細胞の増殖が90%低減することも示しました。

癌による痛み(癌性疼痛)を非常に効果的に軽減してくれる医療麻薬であるモルヒネが、癌細胞の増殖を促すというのは、かなりショッキングなことですが、動物実験と実臨床は異なります。実際、癌の終末期に積極的治療を行なった場合と緩和治療を行なった場合の予後は変わらないかむしろ緩和治療の方が良いと言われています。人間にとっては、疼痛を軽減するという効果は免疫系にプラスに働くために、癌を増殖させる効果よりも影響が大きいのかもしれませんね。

また、今回の研究結果はこのメカニズムを利用したチルナルトレキソンのような新たな治療薬開発に道を開くかもしれません。ネガティブなデータをポジティブに変換できるという人間の知恵はすばらしいですね!

2009年11月30日月曜日

スカラーシッププログラム〜がん患者さんの学会参加に助成金!

NPO法人キャンサーネットジャパンと日本イーライリリー株式会社が発表した内容です(http://www.lilly.co.jp/pressrelease/news_2009_30.aspx)。

2010年に日本で開催されるがん関連学会で、希望する学会への参加助成として、学会登録費全額、ならびに交通費・宿泊費の一部を助成し、各学会開催前および会期中を通じ、学会参加の具体的支援をおこなう、というものです。

今までも、乳癌学会や乳癌検診学会に顔見知りの患者さんが参加していたのを見かけたことがあります。今回、このような助成ができたということは、それでなくても高額の治療費に悩まされている患者さんたちにとっては大きな恩恵だと思います。このブログを見てくださっている患者さんで、学会でどんなことを討論しているかに興味をお持ちの方は是非この制度を利用されると良いと思います。

最近の学会は難しいことばかりではなく、けっこう身近な問題も討論されます。
来年の乳癌学会は札幌です。是非初夏の札幌にいらしてください!

2009年11月26日木曜日

乳がん早期発見の啓蒙活動で進行乳癌は減少しているのか?

12/5に病院の外来で患者さん向けの乳がん検診と自己検診についての講演をします。今その準備をしているところです。

患者台帳のデータをいじってみたところ、興味深い結果がわかりました。

過去35年間を5年ごとに区切って、乳癌患者さんの病期別の比率を調べてみたところ、早期癌(0-1期)比率は確かに増加していました。1975-1980年に35.0%だった比率が、1985-1990年には43.2%、1995-2000年には52.9%、2005-2009年では57.1%と、病院で取り組んできた啓蒙活動やマンモグラフィ・超音波検査の精度向上などの効果を確信できるデータでした。

しかし、進行癌(3A-4期)の比率をみてみると、1975-1980年30.0%、1985-1990年14.8%、1995-2000年11.7%、2005-2009年では13.7%と、1985年代からほとんど低下していないのです。

つまり、自己検診で発見可能な大きさの癌(2A-2B期の中期癌)が、画像検査などでより早期で見つかるようになった一方で、自覚症状がありながら、何らかの理由で受診しない患者さんの割合は変化していないということになります。

バブルの崩壊、そしてここ数年の不況、離婚率の増加、核家族化の進行など、受診できないような経済的・社会的要因がここに影響しているのではないかと思います。

乳がん早期発見の啓蒙活動も重要ですが、このような受診困難者をいかに検診に結び付けるかを行政が考えていかなければ、乳癌死亡率の低下にはつながらないのではないかと感じました。

2009年11月24日火曜日

「エポジン注」 がん化学療法による貧血に対する追加承認を申請!

がん化学療法による最も代表的な副作用の一つが骨髄抑制です。

骨髄は血球を作る臓器です。血球(白血球、赤血球、血小板)は、癌細胞と同様に分裂・増殖が盛んなため、抗癌剤で影響を受けやすいのです。影響を受けやすい順番は、白血球>血小板>赤血球で、乳癌の化学療法で一般的に問題になるのは白血球の減少です。血小板の減少はあまり問題になることは多くはありませんが(マイトマイシンなどではたまに起きます)、3万以下まで下がると出血の可能性が大きくなるため血小板輸血が必要になることがあります。

赤血球の減少は起きても軽度で、術後の化学療法ではほとんど問題になることはありません(もともと貧血がある人は別ですが)。しかし、再発治療で抗癌剤を繰り返し投与していると徐々に貧血が強くなってくることがあります。骨転移などで放射線治療を受けた方は特に起きやすいようです。

化学療法による貧血は、若い女性に多く見られる鉄欠乏性貧血とは違いますので、鉄剤を投与しても改善しません。ですから、息切れやめまいなどの症状が出るほど貧血が進行した場合は、輸血するしか手はなかったのです。

エリスロポエチンというのは、もともと生体内にある(主に腎臓で生成される)、赤血球の産生を促進するホルモンです。遺伝子組換えヒトエリスロポエチン製剤「エポジン注」という薬剤は、もともと腎性貧血や、手術時の自己血採取目的でしか保険適応はありませんでした。
今回、中外製薬から発表された報告によると、国内の第Ⅲ相臨床試験において、エポジン注を12週投与した患者さんでは、プラセボを投与した患者さんと比較して、理論輸血率(投与開始4週後以降に赤血球輸血を施行またはヘモグロビン濃度が8.0g/dL未満となる割合)の有意な低下が認められたとのことです(主な副作用は、血圧上昇・高血圧、便秘、下痢)。この結果をもとに、がん化学療法による貧血に対する追加承認を申請したということです。

新しい化学療法剤の開発とともに、このような副作用対策の新薬が次々と開発・承認されるのはありがたいことです。今すぐにでも使いたい患者さんが待っています。もちろん安全性の確認は必要ですが、今までほかの疾患で投与されてきた薬剤なので大きな問題はないはずです。一日でも早い承認が待たれます。

2009年11月22日日曜日

乳癌学会演題締め切り近づく!

来年の乳癌学会は札幌で行なわれます。今年の乳癌検診学会に続いて連続の札幌開催です。本州の先生方にとっては、初冬と初夏の北海道を堪能できることになりますね!

さて、その乳癌学会の演題締め切りが来月初めに近づいてきています。

私はいつも研究テーマが頭に浮かぶとメモをするようにしています。日常診療中に思いつくこともありますが、患者台帳の入力や予後調査の際に思いつくことが多いんです。こんな症例、前にもあったな…まとめてみよう、とか、こんなに進行していたのにまったく再発しないのはどうしてなんだろう?とか、逆にこんな早期だったのにどうして再発したんだろう?とか…。携帯のメモ帳にはそんなテーマがいくつも書いてあります(なかなか腰が重くて作業が進みませんが…)。

患者さんは私にいろいろなことを教えてくれます。ですから私は患者さんからいただいた貴重な示唆を臨床に活かせるような臨床研究をしなければならないと思っています。残念ながら規模の小さな病院ですからできることは限られていますが、今度の学会でも今後の治療に少しでもつながるような発表がしたいですね。

実はもう乳癌学会の抄録はある程度出来上がっています。でも、もう一つのテーマのほうが面白そうだと思っていて迷っています。そっちのテーマに取りかかると、病理検査室に仕事を頼まなければならないので、締め切りまでに間に合わなくなるかもしれません。ダメもとで両方準備してみようかな?

2009年11月18日水曜日

プラセボ(偽薬)効果について

このブログの中でも何度か書いてきたプラセボ効果ですが、皆さんはどういう意味かご存知ですか?

プラセボ(placebo)とは、現代では一般的には”偽薬”の意味で使われていますが、もともとラテン語のplaceboとは”喜ばせる”という意味で、19世紀に患者さんを喜ばせる目的で投与していた薬剤一般を意味していたそうです。

1955年にBeecherという人が解析したところ、手術の痛みや頭痛、狭心痛に対するプラセボによる効果は35%にもなることを報告しています。痛みやストレスの多いときにこのような心理的な介入をすることによって副腎の働きを活発にして、除痛効果を発揮するのではないかと考えられています。他にもプラセボによる心理的な影響が身体に働きかけて、薬剤を投与したときと同様の効果を与えることがあると考えられており、これらをプラセボ効果と呼んでいるのです。

ですから、ある薬剤が、本当に医学的な効果があるのかを正確に証明するためには、このプラセボ効果を明らかに上回る効果があることを証明しなければならないのです(余談ですが、プラセボでも吐き気や頭痛、便秘などの副作用も出るそうです)。現在、認可されている医薬品のほとんどは、このプラセボやすでに効果が証明されている薬剤との比較試験によって有効性が証明されているものです。

一方、民間療法のほとんどは、このプラセボとの二重盲検試験(患者さんも投与する医師も本当の薬剤か偽薬かわからない状態で投与する比較試験)を行なっていません。例えば、民間療法薬で癌が一時的に進行が止まった人がいたとしても、もしかしたらプラセボ効果なのかもしれないのです。進行が止まったのなら良いのではないか、という考え方もあるかもしれませんが、高額のお金を取るからにはきちんとした証明が必要だと私は思います。また、様々な研究でプラセボ効果がみられる頻度はそれなりに高いが、その効果の程度は少ない(痛みでは全長10cmのVASで6.5mm、肥満の軽減は3.2%、高血圧の改善は拡張期圧で3.2mmHg)と言われています。

2009年11月16日月曜日

乳癌の治療最新情報9 MRガイド下集束超音波手術

早期乳癌に対する局所治療は、乳房切除術から乳房温存術、そして将来的には非切除治療=焼灼療法(ablation)へと移り変わろうとしています。

焼灼療法は現段階では、まだ標準的な治療となっていませんが、国内でも試験的に導入されてきています。乳房にメスを入れない治療は、女性にとって非常に魅力的ですが、まだ様々な問題があり、施設によっては適応や治療内容に疑問を感じることもあります。標準治療が存在する早期乳癌に対して、このような先進的な治療を取り入れる場合には、患者さんに不利益を生じないように慎重に導入を検討すべきなのですが、なし崩し的に行なわれているケースがあるのが危惧されます。


焼灼療法にはいくつか種類があります。代表的なのは、ラジオ波焼灼療法、集束超音波療法などです。

このうち国内で最も多く行なわれているのが、ラジオ波焼灼療法(Radiofreequency Ablation:RFA)です。エコーで見ながらラジオ波で熱を発生するチップを癌巣内に挿入して癌を焼く方法です。もともと肝癌などに用いられてきた治療法で局所制御効果には一定の実績があります。しかし、乳癌に対する治療としては、まだエビデンスに乏しく、国内の臨床試験が開始されて間もない段階ですが、各施設ですでに臨床応用が行なわれている状態です。また、エコーガイドなので、MRの広がりの範囲と焼灼範囲のモニターが難しいなどの問題点があります。

一方、MRガイド下集束超音波手術(MRI guided Forcused Ultrasound Surgery:MRgFUS)は、2001年に米国で初めてFDAが臨床試験を認可したablationです。虫めがねで光を集めて熱を発する原理と同様に、超音波を1点に集めて熱を生じさせて癌を焼く治療法です。MRモニター下で行なうため、MR画像で焼灼範囲の計画を立てた通りに治療することが可能であり、治療データの保存が容易で温度のモニターもできます。画像の比較が容易なため、治療後の再発チェックのフォローもしやすく、万が一再発した場合の原因検討もRFAに比べると容易です。

MRgFUSは、治療後に切除して治療効果を評価する臨床試験(BC003)を終了し、現在FUS後に放射線治療を加えて非切除とする臨床試験中(BC004)です。国内では、ブレストピアなんば病院(宮崎)が、この臨床試験に参加しています。

適応は、大きさ2cm以下、広い乳管内進展がない、リンパ節転移がない、腫瘍が皮膚・肋骨から9㎜以上離れている、などです。現在は、粘液癌は癌巣内を超音波が素通りしてしまうため、効果が乏しく、適応からはずしているようです。

これらの焼灼療法の問題点は、
①切除しないため、治療範囲内に癌がおさまっているかどうかを確認できない(MRgFUSのBC003では、乳管内成分の治療範囲外の遺残率は34.5%)
②したがって、手術の場合、断端陽性の際に追加するブースト照射の適応が判断できない
③治療範囲内も100%の癌細胞が死滅するとは限らない(BC003では、熱凝固面積は96.7%)

などです。ですから、治療後の乳房内に癌細胞が残っている可能性は手術に比べると高いことが予想されますので、放射線治療は必須です。放射線治療を省略して良いという根拠はありません。しかし、一部の施設では非照射で治療が行なわれているようです。この場合、かなり高い率で局所再発をきたす可能性がありますので注意が必要です。

以上のように、今のところまだ標準的治療にはなっていませんが、将来的にはこのような非手術的な局所治療(ablation)が標準治療となる時代が来るのではないかと思います。そのためにもきちんとした臨床試験を行なう必要があります。ばらばらの治療を各施設で行なうと、せっかくの良い治療なのに、問題点だけが表面化してしまうからです。

早く、これらの治療が標準的治療法の一つになれば良いですね!

2009年11月12日木曜日

私が尊敬する超音波技師Sさんから学んだこと

私が学会に参加する楽しみの一つは、乳腺診療に携わる恩師、仲間や先輩たちと貴重な話ができることです。その恩師の一人が、Sさんです。

Sさんは医師ではありませんが、誰もが認める超音波検査技師の第1人者です。私がG病院で研修中だったときに、外来や病棟、手術室以外で一番多く出入りしていた場所が超音波検査室でした。そこでいつもSさんの仕事ぶりを見せていただき、貴重な教えをいただきました。

”スクリーニングは何十分も時間をかけちゃだめだ。見えない人はいくら時間をかけても見えないんだよ。”
”ドップラーで良悪の診断をするのは間違っている。Bモードを読めない技師がそんなものを使っても意味がない。まずはBモードで診断する訓練を十分に受けなければだめだ。”

などなど。部下の技師さんたちにとってはとても厳しいSさんですが、私にはこのような指導者のもとで学べる技師さんたちは幸せだと思った記憶があります。Sさんのすごいところは、乳腺に関する知識が超音波の枠を超えているところです。G病院では多職種が集まって症例検討を行っています。長年そこに指導的立場で参加してきたSさんは、マンモグラフィや病理の知識も医師の私よりずっと豊富でした。そういう知識が、日常の超音波診断にも反映されています。Sさんが書くレポートには、まるで顕微鏡で見てきたんじゃないかというような、癌の伸展範囲を詳細に表したシェーマが書いてあります。後に病理結果と比較してみると、まったくその通りだったりするので、その読みのすごさにはいつも驚きでした。このような記録は、仮に結果が違った場合でも、見直して学ぶための貴重な資料になります。

以前うちの病院で働いていたY技師さんが、ご主人の転勤で関東に転居したため、いまSさんの指導を受けています。Yさんも乳腺超音波の経験はけっこうあったのですが、Sさんから見ればまだまだひよっこです。Sさんは相変わらず厳しいようですが、充実した日々を送っていると思います。Sさんは学会発表の指導もかなり厳しいので何度もダメだしされて彼女はいつもへこんでます。でもこの前の発表は終わったあとで少しほめられたので、”初めてほめられた!”と喜んでいました。

Sさんは、経験の浅い技師であっても、学会発表するからには、きちんとした内容でなければだめだという考え方です。ある意味当然なのですが、初めてなんだから低いレベルの発表でも仕方ない、と思っている人もいるのです。でも、聞いている人にとっては、その発表者が初心者かどうかはわかりませんし、関係ありません。発表するからには言いたいことが伝わらなければ何にもならないのです。また、最初のうちにこのような訓練を受けていなければ、それでいいものだと思ってしまい、成長できなくなってしまいます。

私もそういうSさんの指導を見てきたので、うちの病院でもそのような環境をつくりたいと思ってきました。私は超音波検査の技術はありませんので技術指導はあまりできませんが、G病院でSさんに学んだ乳腺疾患診断に対する考え方や他の診断法(マンモグラフィなど)に対する知識の必要性、学会発表への取り組み方などを技師さんたちに伝える努力をしてきたつもりです。きっと少しは伝わったと思うのですが…。

田中賢介選手のトークショー&ピンクリボン運動

かねてからマンモグラフィ検診にファンを無料招待したり、ピンクのリストバンドをつけて試合に出るなど、ピンクリボン運動に協力してくださっていた日本ハムファイターズの田中賢介選手ですが、来月の7日、午後6時から道新ホールでチャリティトークショーを開催すると今朝の北海道新聞に出ていました。

主催は北海道がん対策啓発委員会(事務局・北海道新聞社)で、ピンクリボン運動の啓発目的で行なわれます。

主な内容:①今シーズンを振り返る ②田中賢介選手のバットやグラブ、チームメートが提供した品物のオークションなど。

入場は無料です。オークションの収益金はピンクリボン運動のPR活動に充てるそうです。

招待券の希望者は、はがきに郵便番号、住所、氏名、年齢、電話番号を明記し、〒060-0002 札幌市中央区北2西2 札幌ウイングビル5階 オールプロデュース内「田中賢介トークショー」係へ送ってください。応募は1人1通のみです。26日必着。定員500人。抽選の上、当選者に招待券を郵送するとのことです。

やはり芸能人やプロ選手がこのような社会福祉活動を行なってくれるというのは影響が大きいです。これからもこのような社会的影響力の大きい方々に協力していただきながら、ピンクリボンの輪を拡げていきたいものです。
(鳩山総理夫人にTVで呼びかけてもらったりするのも良いかもしれませんね!)

2009年11月10日火曜日

再発に対する外科治療は無意味?

一般的に乳癌が再発した場合に外科的切除が推奨されるケースはほとんどありません。

現在、乳癌の再発治療は、Hortobagyiのアルゴリズムにのっとって行なうことが基本になっています。このアルゴリズムは、簡単に言うと、ホルモンレセプター陰性の場合には抗癌剤、ホルモンレセプター陽性の場合には、生命の危機的状況がある場合には抗癌剤、危機的状況ではない場合には、ホルモン療法(無効になっても2次、3次のホルモン療法)という考え方です。

以前は肺転移や肝転移、鎖骨上や胸骨傍リンパ節再発などに対して外科的治療が積極的に行なわれていました。しかし、成績が思わしくないため、世界的にこれらの治療を積極的に行なうケースは稀になりました。現在、許容されているのは、脳転移(単発もしくはごく少数の場合で一定の条件を満たした場合)、単発性の肺腫瘤で肺転移か原発性肺癌か鑑別できない場合、診断目的の局所再発の切除、放射線や抗癌剤などに抵抗性のリンパ節再発や局所再発(局所コントロール目的)などです。

しかし、今でも症例を選んで(一つの臓器の転移で比較的侵襲が少なく切除可能な場合)手術を行なっている施設もあります。やはり外科的切除を行なった上で全身療法を行なう方が治癒(長期生存)を目指せるという考え方からです。しかし、学会でもときどき腫瘍内科医の激しい反論を浴びます。再発に手術などとんでもない!ということだそうです。

今回はこの論争に加わるつもりはありません。しかし、私たちもいろいろな理由で転移巣の切除を行なうこともあります。

こんな患者さんを経験したことがあります。

その患者さんは、乳癌で乳房切除術を行なった2年後に胸骨傍リンパ節に再発しました。原発巣はホルモンレセプター陽性だったためアロマターゼ阻害剤を投与していましたが、その内服中の再発でした。自覚症状はありませんでした。

Hortobagyiのアルゴリズムと腫瘍内科医の考え方からすると、まずホルモン剤の変更で経過をみる、ということになります。しかし、私は外科的切除を選択しました。理由は術後のホルモン療法が全く効いていなかったことと、増殖スピードが速かったこと、原発巣のホルモンレセプター陽性率が低かったことなどです。

切除したリンパ節の病理結果は、ホルモンレセプター陰性となっていました。

つまり、ホルモン療法を続けていても効くはずはなかったのです。これは切除して病理検索しなければわからなかったはずです。術後は抗癌剤を投与し、さらに局所に放射線治療を追加して経過観察中です。

このようなケースが存在することを考えると、Hortobagyiのアルゴリズムを盲目的に信じて効果がないのにホルモン療法を変更投与し続けるのはどうかと思ってしまいます。今回のケースのように、ホルモンレセプターの陰性化が起きている可能性も考えるべきですし、確認するための外科的切除も考慮しても良いのではないかと思います。特に原発巣のホルモンレセプター陽性率が低かった場合や最初のホルモン療法にまったく無効だったケースには何らかの病理学的な検索を行なうか、化学療法への変更を考えるべきだと思います。

ガイドラインやアルゴリズム、エビデンス、これらは盲目的に従うべきものではなく、最前の治療方針を導くための重要な参考書です。原則的には守るべきものですが、法律ではないと私は思っています。
(ただし、標準的な治療をせずに、民間療法だけ行なうことを推奨するのとはまったく意味合いが異なります。)

2009年11月7日土曜日

検診受診率の話のつづき

昨日の公開シンポジウムの続きです。

乳がん検診を受けなきゃ、と思いながらなかなかきっかけがなくて受けない人が多いことが問題で、いかにこういう人たちの背中を押してあげるかが課題だと言うお話でした。

一方で、ネットを見ていると、いまだに”乳がん検診は無意味だ”という人たちが存在します。個人攻撃はしたくないので、こういう論調を広めようとしている人物のことには触れたくありませんが、受診が遅れて、悲しい結果になった患者さんたちをたくさん見ている私たちから見れば、早期発見が無意味だという考え方は容認できません。乳がん検診受診率が75%を超える欧米諸国で、乳癌死亡率が低下しているのはまぎれもない事実です。乳がん死亡率が減少しても全死亡率は変わらない、ということをその理論の根拠にしていますが、これは最終的な結論は出ていないはずです。また、1−2年に1度のマンモグラフィが生体に及ぼす影響も問題ないとされています。

とにかく、こういう説をまともに信じてしまっている人たちがけっこう存在していることに驚きます。いったん信じ込んでしまえば、私たちがいくら乳がん検診の効果を説いても考えを覆すのはかなり困難です。前にも書きましたが、一部マスコミ主導の乳がん検診キャンペーンが効果が証明されていない若年者にマンモグラフィを勧めるという誤った認識のもとで行なわれていることが、こういう乳がん検診罪悪論者の主張を助長させてしまうのではないかと危惧しています。

乳がん検診を受けるつもりがある人に対するアプローチだけではなく、このようなネットやマスコミの情報で乳がん検診に対する疑念を持っているために検診を受けたくないと思っている人たちに対する対策も必要だと思います。乳がん検診について正しい認識を広めること、このような誤った情報を垂れ流しにすることに対して、乳癌検診学会がきちんとデータを示して論破することが必要だと思います。

(なお、乳がん検診が不必要だと考えていて私のこのブログの内容に反論したい方は、ここではなく、診療ガイドラインを作成している日本乳癌学会、または乳癌検診学会にお問い合わせください。)

第19回乳癌検診学会総会 2日目 乳がん検診受診率アップのために何をすべきか?

今日は午前、午後にうちの技師の発表があったので症例報告の口演を聞きに行きました。発表は二人とも無難に終了し、やっと肩の荷が下りました。

他には午前中にマンモグラフィのfilm readingという読影試験を受けて、ランチョンセミナーは友人のK先生の講演を聞きに行きました。

午後は、以前お世話になったN先生の特別講演を聞いてから、公開シンポジウム「札幌市民の声ー日本人女性は何故、乳癌検診を受けないのかー」を聞いてきました。

平成19年度の全国の乳がん検診受診率は14.2%、北海道は18.3%、札幌は17.9%です。一方、乳癌死亡率が低下してきている欧米の乳がん検診受診率は軒並み75%以上…。やはり乳癌死亡率を低下させるためには50%以上の受診率が必要です(ちなみにこれだけ明らかな早期発見の重要性のデータがあるにも関わらず、いまだに乳がん検診は意味がないとか、被爆で乳癌が増えるなどと言う人たちがいることが信じられません)。

11/3から行なわれていたピンクリボンウィークのイベントで調査したアンケート結果によると、乳がん検診を受けない理由の1位は自分は癌にならないと思っていること、2位は検診費用が高いこと、3位は検査が怖いことだったそうです。他には、時間がないとか恥ずかしいなどの意見がありました。一方で、ではこれらの課題がクリアされたとしたら、果たして本当に検診を受けるのだろうか?という疑問も出されました。結局、受けるか受けないかは、時間があるとかお金がかかるとかだけではなく、受診者の検診に対する意識の問題ではないだろうかという意見です。私も自分の周りの女性たちとの話からもその通りだと感じています。病院の職員も、これだけ乳癌患者さんを目の当たりにしていて、検診を受けなきゃだめだという自覚を持ちながらも、実際はなかなか受けていないのが現状です。

検診受診のきっかけになるためには、パネリストからも意見が出されましたが、例えば友人に誘われるとか、知人が乳癌になってしまって勧められたなどの周りからの後押しが必要だろうと思われます。アメリカのように生命保険会社が積極的に加入者に働きかけて検診を義務化するとか、低所得者には毎回全額補助を出して、積極的に誘うなどの努力も必要だと思われます。企業検診を行なっているところもありますので、国や自治体が企業に補助を出して、就労者全員に検診を義務化するのも良いでしょう。いずれにしても、受けた方がよいと思っている人たちの背中を押してあげる工夫が必要だと感じました。

学会終了後は、発表した技師さんたちの慰労会&反省会と今後の学術活動についての議論を交わしました。現状に満足していては進歩もないし、後輩も育ちません。自分が常に向上心を持って仕事に取り組んでいる姿を見せることが、後輩の育成につながり、ひいては病院のレベルの向上、そして何より患者さんに対してプラスになるということを確認し、これからも学術活動に積極的に取り組んで欲しいというようなお話をしました。これはいつも思っていることではありますが、昨日のK先生のご講演で思いを強くしたことです。人に言うからには自分も現状で満足してはいけない、とあらためて思いました。

2009年11月5日木曜日

第19回乳癌検診学会総会 1日目 恩師の講演

今日から検診学会です。

午前中は知人の超音波検査関連の発表を聞いていました。
ランチョンセミナーは今ひとつの内容だったので省略…。

午後からは、恩師のK先生のご講演がありました。演題は、「乳腺外科医としてのランニングをほぼ終えて」という意味深なものでした。もしかしたらそろそろ現役を引退されるのかな…と思いながら聞いていました。

内容は、K先生が東大医学部に入学されて、学生紛争のまっただ中で卒業、インターンを過ごされてから、G病院で乳腺外科医を志すにいたるまでのお話が中心でした。ご自分が医療や医学、患者さん、生と死にどのように対峙して来られたか、どう考えながら医師として過ごして来られたか、など含蓄深いお話でした。

研修中に実際に目の当たりにしたK先生の患者さんに対する思いやりと、どんなに疲れていても手を抜かない診療姿勢は、このような様々な経験をして、患者さんや病気に対する深い思いを感じて来たからこそ長い間やり通せているのだと改めて感じました。また、乳癌に対する飽くなき探究心、上に立つ医師が後輩に見せるべき姿勢など、私にとってとても耳が痛いお話を聞くことができ、自分を振り返る良い機会にもなりました。

お話の中では、まだ正式に引退表明はされていません。お話ししているお姿を拝見する限りはまだまだ現役でご活躍できるのではないかと感じました。でも探究心豊富なK先生ですから、何か新たなものにチャレンジしようとなさっているのかもしれません。これからもどんな形でも良いので乳腺医療に関わりを持ち続けて私たちをご指導いただきたいと思っています。

明日も朝から学会に参加してきます。

2009年11月3日火曜日

第19回乳癌検診学会総会 in Sapporo

2009.11.5-11.6に札幌で乳癌検診学会総会が行なわれます。

今回は、乳癌の予防についての教育講演やシンポジウムがあるのが特徴です。尊敬するK先生の特別講演も楽しみです!

超音波検診についてのパネルディスカッションも聞きにいくつもりですが、まだ臨床試験中なので、昨年と大きく変わった話は期待できないかもしれません。マンモグラフィ検診については、もう出尽くした感があって、ここ数年あまり面白い話題はありません。

私のところの施設からは超音波技師が2題演題を出します。私は今回はお手伝いだけでした。仕上がり具合は微妙なので、なんとか無事に終わると良いのですが…。この学会には最近は毎年、技師さんたちが演題を出しています。自分たちの仕事を振り返ってこれからに生かすためにとても貴重な機会になっています。

なお今回の学会に関連して、2009.11.7に「自分と家族を守るために学んで知ろう乳癌の話」という市民公開講座があります。14:00-16:30、場所は共済ホール(札幌市中央区北4西1)6Fです。往復はがきでの申し込みが必要みたいですので当日の参加は難しいかもしれませんが、興味ある方は直接問い合わせてみてください(http://www.kyosaihall.jp/event/img/091107.pdf)。

2009年11月2日月曜日

看護学校の試験問題づくり

この前、乳癌についての講義をしたので、試験問題を作らなくてはなりません。

いつも過去に作成した試験問題を参考にして作るのですが、先日PCが完全に壊れてファイルが消えてしまったため、今回は一から作り直しです。

再試の問題を作るのも大変なので、基本的には赤点を取らないような問題を私はつくります。学生たちも(私の時代も同じでしたが…)過去問をゲットしていて、だいたいの傾向は把握しています。ですから、実際、再試になる学生はほとんどいません。

しかし…今回は私が過去問をなくしてしまったんです!!

全員に点数を取らせる問題づくりは実はなかなか難しいんです。易しいと思って作っても全然できない学生が必ず数人いるんです。そういう子は講義中に、”ここは必ず出す!”って言ってもとんちんかんな答えを書くんです!

う〜ん…。わかりやすくて役に立つ問題をこれから頑張って考えます!

2009年10月28日水曜日

アメリカにおける乳房温存術後の局所再発率〜最新報告

最近JAMAという雑誌に発表された報告を読んで驚きました。

Memorial Sloan-Kettering Cancer CenterのMonica Morrow氏の報告によると、2005年6月~2007年2月の間に乳房温存術を受けた1,468人(全体の75.4%)の患者さんのうち、後に再手術を必要としたのは37.9%に上ったということです。内訳としては26.0%が乳腺腫瘤摘出術で、11.9%が乳房切除術だそうです。すべてが局所再発かどうかは不明ですが、最低でも乳房切除術を行なった11.9%は再発であると思われます。

今までに発表されていた乳房温存術の局所再発率は、欧米でも日本でもおよそ年率約1%(つまり10年で約10%)ということでした。切除断端陰性にした場合にはさらにその半分くらいの再発です。それと比べるといかにこの報告の局所再発率が高いかがわかると思います。

2-4年程度の観察期間で最低でも11.9%!!信じられない高率です。

なぜこんなに高い局所再発をきたしたのでしょうか?これは今の日本の乳腺外科治療にも共通する問題点のせいだと思います。

乳房温存術が標準手術となってから、もうかなり年月が経過しました。最初は慎重に症例を選び、完全切除を目指して一定の距離をおいて切除していました。その分、対象症例は限定され、切除範囲が広くなるために変形も強かったのです。

しかし、整容性が過度に重視されるようになったために切除範囲をぎりぎりにしたり、対象症例を増やすために、術前化学療法施行施行後に広がりの評価が不十分なまま温存手術に踏み切ったりということが増えているような気がします。また、放射線治療が局所再発の予防に有効であることを過信しすぎて、かなり癌が残っている可能性が高いのに乳房切除をせずに放射線治療で経過をみたりしていることも局所再発が増えた原因のような気がします。

この報告はアメリカに限った話ではないと感じています。アメリカ的な考え方に流されつつある、今の日本の乳癌治療に対する警鐘であるという認識をもって患者さんに向き合うべきではないかと私は思います。

2009年10月27日火曜日

ホルモン補充療法中の圧痛と乳癌発生リスク

Archives of Internal Medicineという雑誌に、ホルモン補充療法(HRT)中にみられる乳房の圧痛の出現は、乳癌の発生と相関があるということが発表されました。この報告によると、HRT開始後に乳房の圧痛がみられた女性は、そうでない女性に比べて、浸潤性乳癌が発現する可能性が48%高かったということです

この研究では、心臓発作、脳卒中、浸潤性乳癌のリスクが増大することが判明して2002年に中止された、女性健康イニシアチブ(WHI)のHRTのデータを使用しています。対象は、経口結合型エストロゲン(0.625mg/日)と酢酸メドロキシプロゲステロン(2.5mg/日)を投与したHRT群8,500人以上と、プラセボ群8,100人以上です。経過観察の方法は、年1回、マンモグラフィと視触診を実施したとのことです。

その結果、1年後、HRT群はプラセボ群に比べて乳房の圧痛を報告する可能性が3倍高く(約36%vs約12%)、5.6年間の追跡調査中、毎年、新たに乳房の圧痛を認めた女性の0.6%、圧痛を認めなかった女性の0.36%が、乳癌と診断されたということで、乳癌発生リスクの増加がみられました。

圧痛は乳房の細胞が急速に増殖している徴候である可能性があり、細胞増殖は癌の危険因子と推測されますので、この結果は十分に理解できるデータだと思います。ただ、この報告のみで、HRT中に乳房痛が出たら直ちに中止しなければならないとまでは断定できません。もう少し、追試が必要です。現段階では、HRT中に乳房痛が出た場合には、担当医と利益、不利益について再度相談してみることをお勧めします。

2009年10月25日日曜日

乳癌検診普及のジレンマ

無料クーポン券の影響なのか、最近乳がん検診受診者が急増しています。

私はいま二つの病院の外来に出ています。週2回、外来に行っている関連病院でこの2週間に読影した検診のマンモグラフィ数は141件。昨年のほぼ2倍です。土曜日(10/17)の検診単位が1単位(約20件)ありますが、この間の外来数(他の医師の一般外来も含めて)は、のべ10単位ですので、検診を除いても1単位あたり10件以上の検診が一般外来に含まれたことになります。予約患者さんの間に混ざることになりますので、こなすのはなかなか大変です。

うちの病院では、検診のマンモグラフィは私を含めた二人の読影医で2重読影で診断しています。ですから私はすべてのフィルムに目を通さなければなりません。これらのマンモグラフィは、週2回の外来日の朝に読影しています。外来にまだだれも来ていない7:45ころから、カルテ診(データチェックや手紙を書く仕事など)を終えたあとで読み始めるのですが、ここ2週間は外来の始まる9:00までに読み終えることができなくなってしまいました。結局、外来が終わったあとに残りを読んで、本拠地の病院に移動しています。

検診受診者数を増やしたい、と願って、ピンクリボン活動にも取り組んでいますが、これからさらに増えるのなら、本格的な対策を考えなければなりません。他の病院も同様だと思いますが、乳腺外来は飽和状態になりつつあります。受け皿(乳腺外科医、マンモグラフィ読影医)の確保を早めに検討しなければ、検診に何ヶ月も待たなければならない状態になりかねません。

後継者対策については、かなり前から院長にも外科の最高責任者にも伝えてありますが、外科全体、というより医師数全体が不足している中で、なかなか話が進んでいません。検診を増やしたいけど受け入れるのが難しくなっているジレンマと、多忙による見落としの恐怖に悩まされる今日このごろです。

2009年10月22日木曜日

乳癌とロイヤルゼリー

先日、ある乳癌術後の患者さんから、
”更年期症状の治療にロイヤルゼリーを内服したらずいぶん良くなったんですが、最近おりものが増えてきたんです。以前主治医から、ロイヤルゼリーだけは服用してはいけない、と言われたのを思い出して怖くなったんですがやめた方がよいですか?”
という内容の問い合わせがありました。

乳癌とロイヤルゼリーの関係については、相反する情報があります。

乳癌の再発を促すので、乳癌患者さんは服用してはいけないとする説と、乳癌の予防、治療になるという説です。

乳癌患者さんはロイヤルゼリーを内服しない方がよい、という話は、私がG病院に研修に行っていたときにも某先生から聞いたことがあります。たしか女性ホルモン様の作用があるからだめなんだという話でした。しかし、ネットを含めた最近の情報では、逆に乳癌の予防や治療につながるのではないかとの研究報告が多いように思います(http://www.agr.kyushu-u.ac.jp/biosci-biotech/syokuryo/bee.htmlなど)。ただ、これらはあくまでも動物実験や試験管レベルの話ですので、臨床的に、サプリメントとして服用するロイヤルゼリーが乳癌の予防効果や治療効果があるというエビデンスはありません。

また、ロイヤルゼリーによる更年期症状の改善効果を調べる国内の臨床試験において、エストロゲン投与と同様の効果がみられたという報告があります(http://www.rjkoutori.or.jp/rj/report/report08_5.html)。しかし、動物実験レベルでは、更年期症状に対するエストロゲン投与に比べると、まったく子宮重量の増加がみられなかったことから、エストロゲン作用とは別の機序で更年期症状を改善しているらしいと推測されています。その他の報告でも、ロイヤルゼリーがエストロゲン作用を持っていて、乳癌を増殖させる、という確かな証拠はないようです。

以上をまとめると、

1.ロイヤルゼリーが乳癌の発生や再発を促すという明らかな根拠はない。
2.ロイヤルゼリーが乳癌に対して抑制的に働くという、動物実験データはあるが、臨床的に人間に対して効果があるという証拠はない。

ということになりそうです。
なんとなく、乳製品や大豆製品(イソフラボン)の話と似ていますね。動物実験や試験管レベルの話から推測されることと、実際の臨床的効果は必ずしも一致せず、場合によっては逆の結果になることもあるということです。サプリメントや代替補完療法を考える場合には、盲目的に信じるのではなく、上に述べたようなことも考えながら判断するのが良いと思います。

2009年10月19日月曜日

乳癌の治療最新情報8 Avastin〜乳癌に対する効能の追加申請へ

現在、進行・再発大腸癌の治療に使用されている抗VEGF(血管内皮増殖因子)ヒト化モノクローナル抗体ベバシズマブ(遺伝子組換え)-販売名”アバスチン”の乳癌に対する適応申請がついに厚生労働省に提出されたそうです。

この薬剤については以前も触れましたが(乳癌の治療最新情報5)、今までの抗癌剤や分子標的薬とは作用機序が異なるため、併用投与によって無増悪生存期間の延長が期待できる薬です。欧米ではすでに臨床応用されており、その効果は確認されています。今回、国内での臨床試験でもその効果が確認されたということで追加申請に至ったようです。

いずれは申請されると思っていましたが、私の予想より早く使用できることになりそうで良かったです。また、この薬剤はトリプルネガティブ乳癌にも効果が期待できそうです。ただ、重篤な副作用(創の治癒が遅れる、腸管穿孔など)もあるので、他の抗癌剤と同様に注意が必要です。

すでに大腸癌に対して使用されている薬剤ですので、できるだけスムーズに保険適応が通ることを期待しています。

2009年10月18日日曜日

ジャパン・マンモグラフィーサンデー終了

今日はJMSの乳がん検診の日でした。平日は仕事などで乳がん検診を受けれない人のために、J.POSHが呼びかけて全国で行われた試みです。

私の病院ではもともと定期的に日曜検診を行っていましたので、それを利用する形で備えていました。
しかし、予約された数はもともとの友の会の対象者20人だけ。残念ながらJ.POSHの呼びかけに反応して検診を申し込んだ人はいなかったそうです。

JMSの協賛病院になっている市内のある病院の乳腺外科医(大学時代の私の同期)からも先日電話がありましたが、「せっかく日曜検診の体制をとったのに申し込みがほとんど来ないんだけど…」と言っていました。せっかくの良い取り組みなのに残念です。

来年に向けて、この活動を一般の人たちにもっと知ってもらうことが必要です。また、値段の設定が病院によってばらばらで、混乱を招く可能性があることが課題と思われました。病院によっては、自治体の補助を受けれる対象の人も自己負担7000円くらいを一律で設定していたケースもあったようです。自治体補助の対象外の人(40才未満や奇数年齢など)も受けれるようにするのが望ましいのですが、自己負担額をいくらにするのが適切かという問題は少し議論したほうが良いのかもしれません。

ちなみに今日の受診者の中では乳癌と思われる人はいませんでした。今回の試みを契機にさらなる啓蒙活動を続けていきたいと思っています。

2009年10月13日火曜日

閉経前ER陽性乳癌が急増?

先日開催された日本癌学会において、日本における閉経前のER陽性乳癌が、著しく増加しているとの報告が出されました。

この報告によると、ER陽性乳癌の占める頻度は,50歳以下においては,1982~91年が53.9%であったのに対し,1992~2001年では72.3%,2002~09年では85.6%と著しく増加していた(P<0.0001)とのことです。

以前は閉経前の乳癌には、ホルモン非依存性(ER陰性)のものが多いと言われていました。しかし、乳癌学会発表の2006年度のがん登録のデータでも同様の傾向があるため、現在の閉経前乳癌にはホルモン依存性のものが多いというのは事実のようです。

しかし、昔に比べてER陽性乳癌がこんなに増加しているのか、ということについては少し検討が必要です。なぜなら、現在のERの判定は免疫染色という手法を使って、顕微鏡的に染色される細胞の比率で判断しますが(IHC法)、少なくとも1990年代半ばくらいまでは乳癌組織の一部を採取してEIA法という方法で定量的に測定していたからです。

EIA法の場合、採取する場所によって異なる結果が出る可能性がありますし、陽性、陰性の判断基準も数値ですのでIHC法とは異なります。ですから、IHC法で測定していた時代のER陽性率とIHC法で診断したER陽性率とは単純には比較できません。正しくは、EIA法で測定していた標本をすべてIHC法で測定し直した上で比較しなければ正確なデータとは言えません。

私はこの発表を実際に聞いたわけではないので、IHC法で判定し直したデータかどうかはわかりませんが、もしIHC法で判定したデータなら、非常に興味深い報告です。やはり、生活環境の変化によって発生する乳癌の性質も変わってきているということですから。言い換えるなら、現在増加している乳癌は、この生活環境の変化によって生じた上乗せ分によるとも推測できるからです。

もちろん、”乳製品の消費量が増えたからだ”、と一部の人たちが主張しているような単純なものではないと思います。50年前と比較するならわかりますが、この間の乳製品の消費量はそれほど急増はしていないと思われるからです。インスタント食品やファストフードの増加、コンビニの普及、ますますの少子化、晩婚化、キャリアウーマンの増加、電子製品の増加による電磁波の影響…。この20年間にはさまざまな生活環境の変化があります。大切なのは、これらを正確に解析して、閉経前に乳癌になりやすいハイリスクグループを同定することだと思います。

温泉旅行行ってきました

今日、乳癌患者さんと職員合わせて26名で新篠津温泉に行ってきました。

天気は雨が降ったり急に晴れたりと不安定でしたが、仕事を休んでのんびりしてきました。

温泉の泉質は、ナトリウム-塩化物強塩泉で、源泉かけ流し。黄褐色の濁り湯です。女風呂はなぜか少し熱めだったようですが、男風呂は、ややぬるめでいくらでも浸かっていれそうな快適な温度でした。

ゆっくり温泉を楽しんだあとは昼食。前にも2回ほどこの温泉を利用したことがありますが、毎回驚かされるのが昼食の品数の多さです。刺身、鶏肉の中華揚げ、豚肉の鉄板焼き(小)、イカの塩辛、茶碗蒸し、白身魚の??、かに?団子のあんかけ、天ぷらそば(小)、デザート…。
完食するのはけっこうきついです!
そしてビールやジュースがついて入浴料込みで3500円でした(けっこうお得!)。

10年以上前に最初にこの旅行に参加したころは、患者さんたちに囲まれて質問攻めにされるのがけっこう恐怖?でしたが、最近は慣れたせいか毎回楽しんでいます。今回、同僚の乳腺外科医(G先生)が急に参加できなくなったのは残念でしたが、患者さんたちも私自身も有意義な時間を過ごすことができました。

私の方からは、病院HPに患者会のページを作ってもらって、その中に今までの患者会活動や行事予定、患者さん同士の情報交換の場などを作ってもらおうかと提案しました。うちの患者会は年齢層が少し高いので、PCユーザーは約半数くらいですが、今後のためにも検討していこうかと思っています。

また、患者さん側からは、来年は1泊でゆっくり行きたい、との希望が出されました。以前にも同様の話はあったのですが、値段が高くなることや、土日は出づらいなどの意見が出されて却下されました。しかし、今回の参加者からは否定的な声はまったくなく、賛同が得られたため、来年は土曜日の1泊で検討することになりそうです(平日に勤務を抜けて温泉に行くという密かな楽しみはなくなってしまいますが…笑)。

今日、関連病院の外来を休んでしまったので金曜日は混みそうです。検診マンモグラフィの読影もたまっているはず…。仕事を休んだツケは必ず自分に返ってきます(苦笑)。

2009年10月11日日曜日

予防的乳房切除

Cancerという医学雑誌のオンライン版に、ここ10年でニューヨーク州では乳癌患者が手術を受ける際に、対側の健康な乳房も予防的に切除するケースが5.6%から14.1%と約2倍に増えていると報告されていました。

乳癌の抑制遺伝子であるBRCA1やBRCA2などに遺伝子異常がある場合、予防的に両側の乳房切除を行なうケースは欧米では以前からかなりあり、その効果も報告されています。これらの遺伝子異常がある場合には、生涯における乳癌発生率がきわめて高く、なおかつホルモンレセプター陰性が多く、悪性度の高い乳癌が多いことが、この治療が許容される根拠であり、効果がある理由なのです。

一方、すべての乳癌患者さんの健康な対側乳房を予防的に切除することの効果は証明されていません。

一般的には、乳癌患者さんの対側に乳癌ができる確率は約5%程度と言われています。逆に言うと95%の人には乳癌は発生しないことになります。また、通常、異時対側乳癌の場合は、早期に発見されるケースが多いため、定期的なフォローアップで十分な可能性も高いのです。ですから、遺伝子異常のある人に行なう予防的乳房切除と同じような効果が、すべての乳癌患者の対側乳房の予防的切除で得られるかどうかは疑問です。

欧米の乳癌死亡率はマンモグラフィ検診の普及によって近年かなり改善してきていますが、もともとは予後が悪い病気であったために、乳癌に対する恐怖心が日本よりずっと大きいのではないかと思われます。ですからこのような正常な乳房に対する予防的切除を希望される患者さんが多いのではないでしょうか?

日本人ではこのような手術を希望する人はまれだと思います。なんとなく国民性が伺えるようなニュースでした。

2009年10月8日木曜日

予約外来と待ち時間

私の外来は、乳腺専門外来で完全予約制です。とはいっても週に1単位しかないため、本当は午後から18人(30分単位で3人)の枠なんですが当然おさまりません。18人はあってないような予約数で実際は25-30人ほど診察予約が入っています。

私の外来のポリシーは、なるべく患者さんをお待たせしない、看護師さんを残業させないように診療時間内で終わる、でも患者さんには十分満足していただけるような診療(正確な診療、わかりやすい、話しやすい外来)を行なう、ということです。実際はなかなか難しいですがこの時間を確保するために、いつも13:30からの診療開始時間を繰り上げて、13:00から診察を始めています。

でも、今日はなかなか思い通りにはならず、待ち時間が長くなった一人の患者さんを怒らせてしまいました…。

原因は、
①午前の他のDrの外来が遅くなり、二つある診察室が13:30すぎまで空かなくて開始時間が遅れたこと。
②13:30予約の患者さんに様々な問題が生じたため、その解決、手配にかなり時間がかかってしまったこと。
③その後も今日に限って、精密検査が必要な患者さんが続いてしまい、以前の写真と比較したり、検査のオーダーに時間を要してしまったこと。
④予約数が多めだった(27人)こと。
でした。

結局、その患者さんは15:30(〜16:00)の枠だったのですが、早めの15:00に病院に来院され、診察に入ったのは16:30少し前だったため、診察が終了したあとで、”こんなに待たされるならもう来ません”と怒って次回の予約をせずに帰られてしまったとのことです。予約票には、予約時間が15:30となっていますが、実際は15:30から16:00までの間の3-4人のうちの一人ですので、30分くらいの遅れだったのですが、予約時間よりも早く来院されたこともあって、すごく待たされた気持ちになってしまったのだと思います。

まったく休憩も無駄話もせずに夢中になって外来をしていても、このようなケースが起きてしまうととても落ち込みます。
きっとその患者さんが発していた怒りのサインに気づけなかったから、このような結果になってしまったのだと思います。看護師や私に、もう少し気配りがあれば違ったのかもしれません。いつもならお待たせしてしまった場合には、”お待たせしてしまってすみません”と言うようにしているのですが、この患者さんの場合は、細胞診の結果の説明の仕方に気を取られてしまって、声をかけれなかったのは確かでした。

自分では頑張っているつもりでいても、患者さんに伝わらなければなんにもなりません。
反省です…。

2009年10月6日火曜日

自動スキャン方式による乳腺専用超音波装置ABVS

乳癌の早期発見にマンモグラフィの弱点を補う意味でも超音波検査が有用であることは、今までも何度か触れました。

しかし、超音波検査を乳がん検診に導入するためにはまだ解決しなければならないいくつかの問題があります。

一つ目は、再現性の問題です。通常の超音波検査では、検査をした技師(医師)以外の人は、撮影された画像(動画で記録も可能ですが、通常は静止画)で判断しなければなりません。写真が悪ければ判断を誤る可能性があります。動画で保存しても、リアルタイムに位置関係がわからないので、あとで異常が見つかった場合に、どこにあったのかがわからなくなってしまい、過去の画像との対比も困難です。

二つ目は、検査をした技師(医師)の技量によって精度が変わってしまう点です。異常と認識できれば画像にも残せますが、異常と認識しなければ記録は残らないからです。

マンモグラフィは、フィルムが残るので、複数の医師が読影できますし、過去の画像とも比較できます。撮影方法が決まっているので位置関係も明確です。そういった意味でもマンモグラフィは精度管理がしやすく、検診に導入しやすい検査なのです。

これらの超音波検査の問題点を克服するためには、まず検者の技量を上げるための講習や資格試験の導入が必要で、現在すでにJATSという組織が中心になって一部行なわれています。動画の保存も一部の施設では行なわれていますが、すべての動画を保存するのには容量も必要ですし、ダブルチェックをするためには検査時間と同じだけの時間を要しますので、日常診療の中ではかなり困難です。

そこで今年から実地診療で使用可能になった検診用超音波検査装置が、ACUSON S2000 Automated Breast Volume Scanner(ABVS)〔持田シーメンスメディカルシステム〕です。自動的に乳房全体の超音波動画を撮影し、位置関係も含めたデータを保存するため、冠状断(乳房を正面から見る画像)を含めた複数の断面画像で超音波診断ができるという特徴があります。また、過去のデータとの比較も容易ですし、MRやCTの画像と重ねあわせて広がりの診断精度を高めることも期待できます。一人の患者さんに要する時間も10分程度と短く、患者さんにやさしい検査法と言えます。将来的には、自動診断機能の開発も期待されています。

まだ国内に1台、全世界でも13台しか稼働していませんので、まだまだこれからの装置ですが、期待が持てそうな検査装置です。

2009年10月4日日曜日

第7回乳癌学会地方会

昨日(10/3)に乳癌学会の地方会がありました。

一般演題の発表の他、教育セミナー、ランチョンセミナーを聞いてきました。

一般演題:2回ほど質問をしました。今回は諸事情で私は演題を出せませんでした。来年は出さなきゃだめですね。

教育セミナー:琴似乳腺クリニックの超音波技師、白井秀明さんの”乳腺超音波症例検討”と熊本市民病院の西村令喜先生の”進行乳癌の治療(手術の適応について)”でした。

ランチョンセミナー:癌研有明病院化学療法科の伊藤良則先生の”ラパチニブ(タイケルブ)の臨床導入〜癌研有明病院の取り組み〜”というお話でした。
ラパチニブの注意すべき副作用についての説明と、特に頻度が高い下痢と発疹の対策についてわかりやすく詳しく説明してくださいました。癌研では”チームタイケルブ”というグループをつくって、患者さんへのパンフレット作成や対応をしているそうです。下痢は頻度も高く、重篤になると生命を脅かす可能性もあるため、慎重なフォローが必要であることをあらためて認識しました。ラパチニブの臨床応用についてはまだ未解決の点が多くあります。ラパチニブ単剤の有効性、ゼローダ以外の化学療法剤との併用の効果、ハーセプチンとの併用の効果、HER2陽性乳癌の再発治療における、ラパチニブ投与の順序(ハーセプチン+他の化学療法剤のあとにラパチニブ+ゼローダを投与するか、ラパチニブ+ゼローダが先か?)、ラパチニブ+ゼローダの術後補助療法は、現行のFEC(+タキサン)→ハーセプチンより有効か?などです。現在これらの一部は臨床試験が進行中とのことで結果が待たれます。

私用で午後の一般演題は聞けませんでしたが、大変勉強になりました。

2009年10月1日木曜日

抗癌剤の副作用4 皮膚障害

骨髄や粘膜、毛根そして皮膚などの細胞は、細胞周期が早い(細胞分裂が早い)ために、一定の細胞周期に特異的に作用する薬剤である抗癌剤のダメージを受けやすいと考えられています。命に別状のある副作用ではありませんが、悪化すると生活の質(QOL)を低下させる可能性のある、皮膚の障害について今回はお話しします。

抗癌剤による皮膚障害には、①色素沈着②爪甲異常③手足症候群などがあります。

①色素沈着

原因:抗癌剤によって表皮基底層に存在するメラニン細胞が刺激され,メラニン色素産生が亢進するために起こると考えられています。
原因薬剤:乳癌によく使用する薬剤としては、5FU系薬剤(5FU、ゼローダ、TS-1、フルツロン、UFTなど)やドキソルビシン(アドリアマイシン),シクロホスファミド(エンドキサン)が代表的。
好発部位:手足などに限局して色素沈着を起こす薬剤が多く、5FU系によるものは,日光曝露により増悪すると言われています。
治療・対処:治療の継続に支障が出ることは通常ありませんが、美容上、問題になることがあります。有効な予防・治療法はなく,抗癌剤の中止により軽快します。また、悪化予防のため、これらの抗癌剤治療中は日焼け止めクリームを使用した方がよいと思います。

②爪甲異常

原因:抗癌剤により、爪の成長が阻害されることによって生じます。線状の凹凸が形成され、爪甲の剥離や脆弱化が起きることもあります。
原因薬剤:ドセタキセル,ドキソルビシン,シクロホスファミド,5FU系薬剤など。
治療・対処:爪のトラブル予防のために適度に切りそろえておく、マニキュアのベースコートで保護しておく、などの予防が大切です。効果的な治療法はありませんが、これもほとんどの場合、抗癌剤終了後に徐々に軽快します。

③手足症候群

原因:皮膚基底細胞の増殖能の障害やエクリン汗腺から抗癌剤が分泌されることによると考えられています。
症状:最初は疼痛を伴わない皮膚炎(紅斑、テカテカした感じなど)ですが、徐々に疼痛が出現し、歩行困難や潰瘍形成などで日常生活に支障が出るようになることもあります。
原因薬剤:5FU系薬剤(特にゼローダ)、ドキソルビシン、ドセタキセルなど。
治療・対処:ビタミンB6が発症予防や症状の軽減に有効な場合があります。また、保湿剤の使用、長時間の入浴などで温めすぎないようにする、刺激の少ない石けんの使用、過度な手足への負担を避ける、などが予防に有効と言われています。しかし、確実な治療法はありませんので、悪化が見られた場合には早めに原因薬剤を中止することが必要です。

2009年9月28日月曜日

ホルモン療法の副作用2 骨粗鬆症

女性ホルモンの働きの一つに骨吸収を抑制して、骨形成を促進する作用があります。ですから女性は閉経後に女性ホルモンが急激に低下すると骨粗鬆症になりやすいのです。

乳癌術後のホルモン療法のうち、タモキシフェンなどのSERMsと呼ばれる抗エストロゲン剤は、骨に対してはエストロゲン様の作用を呈しますので、むしろ骨粗鬆症に対して抑制的に働きますが、閉経前のゾラデックスやリュープリン(LH-RH agonist)や閉経後のアリミデックス、アロマシン、フェマーラなどのアロマターゼ阻害剤はエストロゲン自体を低下させますので骨粗鬆症が出現します。

骨粗鬆症の有無は、骨密度(骨量測定)検査で調べます。骨に沈着したカルシウム量が、若年成人の平均(Young Adult Mean=YAM)の70%以下になると骨粗鬆症と判定します。また、YAMの70-80%で、脆弱性骨折(軽微な外力で生じた非外傷性骨折)をきたした場合も骨粗鬆症と判定します。骨量は年齢とともに自然に低下し、80歳くらいになると平均値が70%くらいになりますのでこの年齢になればだいたいの人が骨粗鬆症の状態になると考えて良いです。しかし、乳癌術後の患者さんが、上に書いたようなホルモン療法を行なうと、同年齢の平均より骨量が低下してしまう(骨年齢が上がってしまう)ため、通常より早く骨粗鬆症になる危険があるということです。

骨粗鬆症になると、骨痛が出たり、骨折しやすくなったりします。特に骨折は著しく生活の質(QOL)を低下させますので注意が必要です。私は、これらのホルモン療法を行なう患者さんには6ヶ月から1年に1回、骨密度の検査を行なっています。実際は、それほど急激に著しく骨量が低下するわけではありませんが、通常の人の年齢に伴う骨量の低下に比べるとやはり少し減り方が大きいようです。

骨粗鬆症の治療には、以前はカルシウム製剤とビタミンDの併用+運動療法が一般的でした。現在でも軽度の骨量減少の場合にはこれらを投与することがありますが、その効果は不十分と言われており、最近はビスフォスフォネート製剤(ボナロンなど)を投与することが多くなっています。ちなみに骨転移の場合に点滴で投与するゾメタもビスフォスフォネート製剤の一つです。強力な骨吸収抑制作用を持っているため、骨粗鬆症に対しては6ヶ月に1回程度の投与で良いと言われています。内服薬よりも簡便なため、患者さんにとってはこちらの方が楽ではないかと思いますが、残念ながら骨粗鬆症に対しては保険適応外です。また、ラロキシフェンというタモキシフェンと構造が似た薬剤も骨粗鬆症の治療に効果があると言われています。なお筋力の維持が転倒の予防や骨の保護にも役立ちますので、運動療法はいずれにしても大切です。

2009年9月26日土曜日

患者会温泉旅行

来月の半ばに、乳癌術後の患者会の日帰り温泉旅行があります。

この旅行は年1回恒例で行なわれていて、近郊の温泉にみんなで行ってゆっくり温泉につかって食事をして帰ってきます。今まで行った温泉は、新篠津村のたっぷの湯、由仁町のユンニの湯、小金湯温泉、豊平峡温泉、南幌温泉、岩見沢健康ランド…、他にもあるかもしれません。どこもバスを出してくれるので、行き帰りのバスの中でも患者さんたちと歓談しながら楽しい時間をすごします。時々、するどい質問や病院に対する要望も出されてたじたじになることもありますのでちょっと緊張もしますが…。

私たちの病院の乳癌患者会はかなり前(20年くらい?)からあります。設立当初のことは私もあまり知らないのですが、乳房切除をした患者さんが、傷あとが気になって温泉になかなか行けない、という意見が出され、”みんなで行けば怖くない!”と計画したのが温泉旅行のきっかけだったと聞いています。こういう患者さんの気持ちは、当然全国どこでも同じで、患者会設立のきっかけの一つになっているんだと思います。

全国組織の患者会である、あけぼの会や各病院の患者会だけではなく、”1・2の3で温泉に入る会”という、乳癌患者さんみんなで温泉に入ることを目的とした全国組織の会があったことを先日ある集まりで耳にしました。残念ながらある事情でこの会は解散してしまったようですが(詳細はお聞きしなかったのでわかりません)、きっと病院単位の患者会に参加していらっしゃらない患者さんの中には、このような集まりがあればいいのに、と思われている方が多いのではないかと思います。

もちろん、中には傷のことはまったく気にならずに入っているよ、とおっしゃる方もいらっしゃいますし、乳房温存術や乳房再建をされた場合は手術をうけたこともわからないくらいの方もいらっしゃると思います。本当は傷跡があってもまったく気にせずに入れる雰囲気があれば問題ないのでしょうが、中には好奇の目でじろじろ見られて嫌な思いをした患者さんもいたようです。心ない人はどこにでもいるんですね…。患者さんは好きで病気になったわけでもないのに、こういうお話を聞くととても悲しくなります。

北海道は10月にはもう紅葉が見ごろです。昨年の小金湯温泉の露天風呂から見た、山々の紅葉はとてもきれいでした。
今年も天気に恵まれて、みんなで楽しい時間を過ごしてリフレッシュできればいいなと思っています。

2009年9月21日月曜日

ジャパン・マンモグラフィーサンデー

10月の第3日曜日(10/18)は、ジャパン・マンモグラフィーサンデー(JMSプログラム)です(http://www.j-posh.com/jms.htm)。

これは、J.POSHが今年から、平日は仕事や子育てでなかなか検診を受けられない女性のために、年に一度、日曜日に全国どこでもマンモグラフィー検査が受診できる環境づくり実現を目指して始めた企画です。

賛同施設は、9/19現在、全国で218施設だそうです。北海道は10施設ですが、札幌には3施設しか登録していません。やはり、日曜日に検診体制を取るのはなかなか難しいのでしょうか?もっと多くの医療機関で行なえるようになればいいですね。

うちの病院は普段から時々日曜日の検診(対象は基本的に40歳以上)をしています。今回はそれとちょうど日程が合ったのでスムーズでした。来年以降は、40歳未満も対象にした特別な検診の日にできればいいなと考えています。もちろん、その場合は超音波検診も併用できるような体制が取れるように健診課と検討していこうと思います。

私はおそらくこの日も検診当番だと思いますが、せっかくの機会ですので、たくさんの女性に検診を受けに来て欲しいですね!

2009年9月19日土曜日

細胞診と針生検

乳癌の診断をする場合、マンモグラフィや超音波検査に引き続いて行なう検査が、細胞診または針生検(組織診)です。患者さんからの問い合わせやコミュニティの書き込みを読みますと、”医師にClass5と言われたから、末期なんですよね?”などと、かなり誤解されているケースも多いようです。

1.細胞診
23-22Gという細い注射針を病変に刺して、細胞を吸引して調べる検査です。針生検に比べると麻酔も不要で侵襲も少ないため、繰り返し検査可能です。小さな病変や、嚢胞性の病変の検査に適しています。組織を切り取るわけではなく、吸い取ってばらばらになった細胞(細胞集塊)を見て、元の病変がどんなものかを推定する検査なので、この検査単独では確定診断にはなりません。

判定は、以前はClass1-5(1 正常、2 良性、3 境界病変、4 悪性疑い、5 悪性)で行なっていましたが、現在は、「検体適正」と「検体不適正」に大別し、「検体適正」は“正常あるいは良性”、“鑑別困難”、“悪性の疑い”、“悪性”の4 項目に分類しています。ただ、まだ国内ではClass分類で判定しているところが多いようです。

問題は、病変に正しく穿刺されているか、十分な細胞が採取されていて判定可能な検体かどうか、ということです。Class分類では、そのあたりがあいまいなため、例えば画像的には硬癌を疑うのに、穿刺が不十分で脂肪しか採取されていない場合、Class分類では”Class1”になってしまい、場合によっては誤診につながってしまいます。新しい分類では、”検体不適正”となって、再検査が必要と判断できます。

いずれにしても、上で述べたように細胞診は確定診断ではありません。特に乳腺腫瘍は他の臓器より判断が難しいため、誤りが起きうるのです。ですから画像所見と合致した場合にのみ、最終診断とみなされます。施設によっては、慣れた病理医やサイトスクリーナーがいない場合、このような判断の間違いを避けるため、細胞診はやらないところもあります。

なお、細胞診を何度もすると癌が進行するのではないかと聞かれることがありますが、そんなことはありません。


2.針生検
11-18Gという太い針で組織を切り取って採取する検査です。細胞診に比べると針が太いため、局所麻酔が必要です。検査後の出血の可能性もあり、侵襲は少し大きな検査になります。組織診ですので、これだけで確定診断になりますが、中には判断が難しい症例もあります。その場合は、開放生検(腫瘤摘出術など)を行なうこともあります。また、針生検は、良悪の診断だけではなく、ホルモンレセプターやHER2などの検査も可能なため、術前に化学療法を行なう場合には、その前に必ず針生検を行ないます。

針生検の装置には、針が2段階に飛び出して内筒と外筒の隙間に組織を切り取るタイプの従来のものと、太い針の窓から組織を吸引して回転する刃で組織を切り取って採取するマンモトームの2種類があります。採取する組織量はマンモトームの方がはるかに多いので、十分な情報が得られますし、針を抜かずに何度も採取が可能です。従来のタイプで複数回採取する場合は、その都度刺し直しますが、同じ穴に入ってしまうため、2回目以降はあまり組織が取れなくなることがあります。

判定基準は、細胞診と同様です。非浸潤癌を疑う場合には、細胞診では”悪性の疑い”止まりのことが多いため、針生検の方が診断には適しています。また、マンモグラフィにしか写らない微細石灰化の場合は、ステレオガイド下(マンモグラフィでモニターに映しながら)で石灰化が取れるまで何度も生検を要することが多いので、マンモトームが最も適しています。

針生検も、検査によって癌が進行することはないと考えて良いですが、針の穴を手術時に切除しないとそこから局所再発する可能性がありますので、特に乳房温存術の場合には注意が必要です。

2009年9月16日水曜日

乳癌術後の後遺症 リンパ浮腫②〜治療

一度リンパ浮腫になってしまうと完全にもとの状態に戻すのはなかなか困難になります。

ひと昔前の治療は、

①セルフマッサージ…具体的な指導はあまりせず、間違った手法が行なわれていた場合が多かったと思います。
②患肢の挙上…寝るときは枕を横に置いてのせておくなど。
③弾性スリーブ着用…以前は保険も利かず、高価でした。いきなりスリーブを着用するとすぐにゆるくなってサイズが合わなくなることもあったようです。

という感じでした。でもなかなか良くならないとあきらめていた患者さんも多かったようです。細いリンパ管を吻合して流れを良くする手術も一部の施設で行なわれていますが、成績は必ずしも良好とは言えないようです。

乳癌の罹患率が上がり、リンパ浮腫が社会問題になったことによって、本腰を上げて治療に取り組む施設が次第に増えてきました。欧米では日本より何歩も先に進んでいたため、そこで得られた治療法を導入する形でリンパ浮腫治療が普及して来ています。その代表的な治療法が、フェルディ式複合的理学療法(リンパドレナージ)という方法です。

<フェルディ式理学療法>
①スキンケア
②徒手リンパドレナージ
③弾性包帯(→安定したらスリーブ)による圧迫療法
④運動療法

この4つを基本とした理学療法です。
第1段階(集中排液期)は入院または通院で集中的に浮腫の軽減を行ない(週4-5日から毎日)、浮腫が軽減・安定したら、第2段階(現状維持・改善期)のセルフマッサージ+可能な場合は週1−2回の通院で治療を行ないます。

この治療の禁忌は、感染症を併発しているとき、心不全状態、静脈血栓症がある場合などです。癌が浸潤したために起きてしまった浮腫に対しては慎重に適応を判断する必要があります。

一般的に行なわれているリンパ浮腫マッサージは、逆効果のことがありますので注意が必要です。フェルディ式であればだいたい大丈夫だと思いますが、日本医療リンパドレナージ協会(http://www.mlaj.jp/)の講習会を受けた理学療法士や看護師のいる治療施設に受診するのが良いと思います(http://www.mlaj.jp/information/information.html)。

乳癌術後の後遺症 リンパ浮腫①〜リンパ浮腫とは?

乳癌の術後に起きる後遺症でもっともやっかいで、一生気をつけなければならないのがリンパ浮腫です。

リンパ浮腫の一番の原因は、腋窩のリンパ節を郭清することによって、リンパ液の流出ルートが切断されてしまうことです。
例えるならば、高速道路が通行止めになったようなものです。交通量が同じなのに、流れの良いメインルートが遮断されてしまうと一般道で混雑が起きます。これがリンパ節郭清をした状態(浮腫の準備状態)だと考えてください。それでもまだこの状態であれば、時間はかかるけどなんとか目的地に着けるかもしれません。

では、この状態で一般道で事故が起きたらどうなるでしょう?
そう、大変な大渋滞になってしまいます。乳癌術後の患者さんで言えば、この”事故”は、手の怪我(化膿、骨折など)や皮膚炎、日焼け、不適切な医療行為(患肢での点滴や採血、頻回の血圧測定など)なのです。

もちろん、腋窩郭清をした患者さんすべてがリンパ浮腫になるわけではありません。リンパ浮腫になりやすい危険因子は、広範囲のリンパ節郭清(鎖骨下や鎖骨上までなど)、術後の腋窩-鎖骨上下領域への放射線照射、肥満、感染しやすいような皮膚病などです。これらに該当しなくても、ちょっとしたきっかけでリンパ浮腫になってしまうことがあります。

予防のために自分でできることは、手の怪我や日焼けの予防(畑仕事は長袖にゴム手袋着用など)、手術した病院以外で治療を受けるときには、腋窩リンパ節郭清をしていることを告げること(患肢への医療行為の予防)、体重を増やさない(肥満の場合は減量)ことなどです。

それでもリンパ浮腫になってしまうこともあります。その場合にどうしたら良いかは次回に書きます。
なお、センチネルリンパ節生検は、リンパ浮腫の発生を防ぐために考えられた手法ですが、この手技で終わってもリンパ浮腫の可能性はわずかながらあり得ると言われています。

2009年9月13日日曜日

外来担当医とネクタイ

私は普段病院では下は白衣のスラックス、上は検査着とブレザータイプの白衣を着ています。学会に出発する日など、特別なとき以外はネクタイとワイシャツは着ません。どうもネクタイは首が苦しくて苦手なんです。それに、処置をする際にネクタイがぶら〜っと垂れ下がると邪魔だし、傷に触れると不潔です。ですから今はそんな格好をしています。もっと若いころはケーシータイプ(半袖で首のところまでボタンのついているタイプ)の白衣を着ていました。

そんなネクタイ嫌いの私ですが、一時期だけ外来の時だけはネクタイを着用していたことがあります。それにはあるきっかけがありました。

それは乳腺外科の専門研修のために、東京に行っていたころのある日のことです。

仕事が終わったあと、私たち研修医と指導医数人でいつも行く、近くの居酒屋で飲んでいたのですが、そのうちの一人が、
”K先生(その病院の乳腺外科のトップの先生)が○○新報に、外来医はネクタイを着用すべきだって書いていたよ。”
と言いだしたのです。そこで、ネクタイ問題について大議論になりました。
私は、
”ネクタイは医療行為には邪魔なだけだし、普通の接客業とは違うので必ず着用しなければならないものではない!”
という反対派でした。
賛成派は、
”ネクタイをするほうが、患者さんに信頼されるし、社会人の身だしなみなんだから着用すべきだ!”
と主張していました。
”ネクタイ着用と医師の信頼性は別だよ!”
というこちら側の反論が出たので、結局その居酒屋のおばさん2人に、患者としてどう思うかを聞いて決めることにしたのです。

おばさん曰く、
”私はネクタイをした医師のほうがきちんと診てくれるような気がするね。だって初対面じゃその医者がどんな人かわからないでしょう?ネクタイをしていないとだらしないんじゃないかと思っちゃうよ。”
とのこと。

結局、おばさんの意見を尊重し、それ以降はネクタイを着用することにしました。
K先生は私の恩師でもあり、一番尊敬している方ですから、やはりおっしゃるとおりにすべきでした。

その後地元に戻ってからもしばらくはネクタイをしていましたが、途中からは今の服装に変えました。理由は、院内感染の問題が出てきたからです。私たち医療従事者は、腕時計をするのも感染対策上望ましくないと言われています。もちろん私もしていません。ましてやネクタイをぶらぶらさせるのは危険です。長白衣の前のボタンを全部留めればぶらぶらはしませんが、それでなくてもネクタイで苦しいのにそんな格好をするのは私には耐えられませんでした。

結局、恩師の教えを守れなかった私ですが、幸い田舎の病院なのでそのことをうるさく言われることもなく仕事ができています。
逆にたまにネクタイをしていくと患者さんにびっくりされるくらいですので、当面はこのスタイルでいこうと思っています。

でも中には不快に思ったり、信頼できないと思ったりする患者さんもいるのかなあ…。ときどきあの居酒屋での議論を思い出して自問自答しています。

2009年9月11日金曜日

予後調査と中断チェック

いま空き時間を利用して、乳癌術後の患者さんの予後調査をしています。

予後調査というのは、術後の患者さんがお元気でいらっしゃるか、通院を中断していないかを調査する目的で行ないます。最近さぼっていたため、ここ数年は十分な調査ができていませんでした。

方法は、まず、電子カルテを開いて最終受診日を調べます。最近受診された方はお元気であることがこれで確認できます。電子カルテのチェックで大部分の予後調査は終了です。前までは関連病院に通院されている患者さんの通院状況は病院への電話か訪問で調べないとわかりませんでしたが、今はパソコンから関連病院のだいたいの状況は調べることができるようになりました。これで手間はかなりはぶけるようになりました。

カルテの受診状況で確認できなかった患者さんは、関連病院以外の病院に通院されているか、中断されているか、転居されているかなどの方々なので、お電話をかけて調べなければなりません。現在はまだまだここまで達しておらず、カルテをチェックしている段階です。なにせ800人くらいの患者さんを1人で調べているので肩は凝るし目は疲れるし、なかなか時間がかかるんです…。

予後調査をしていていつも感じるのは、いつの間にか通院しなくなっている患者さんが多いということです。理由はいろいろあると思いますが、電話がけをしたときによく聞くのは、”もう10年たったから行かなくていいと思った”という言葉です。私は患者さんが無事10年経過しても少なくとも年1回は乳房検査を受けるようにお話ししていますが、過去に乳癌患者さんを受け持っていた医師の中には10年で終了で良いですと説明していたこともあったようです。

また、うちの病院は医師の移動が多いので、他の医師が主治医の場合に、移動をきっかけに中断してしまう患者さんもいます。一番困るのは、まだ術後5年もたっていないのに突然中断してしまって、中断チェックが漏れてしまった場合です。経済的な理由(検査や薬代は高額なので患者さんにとってはかなりの負担になります)、高齢のため、などの理由が多いですが、このようなことが発覚すると、患者さんの思いを聞き出せていなかったことをいつも反省させられます。

術後10年以上たっても通院していただく一番の理由は、対側(+温存)乳房の新たな癌の検診目的です。対側乳癌は、通常初回の癌より早期で発見されることが多いです。これは、患者さん自身が自己検診をして注意をしているということと、定期的に検査を受けていることに起因します。しかし、たまにかなり進行して見つかる場合もあります。以前、このような症例をまとめたことがありますが、術後10年以上たった患者さんと高齢の患者さんにこのような進行例が多いという結果でした。これは、10年たったからもう大丈夫だろうという油断と、もう年だから大丈夫、とか受診が大変、などの理由で定期的な検査を中断してしまったからなのです。

前回、他の臓器のがん検診の必要性を書きましたが、対側(温存)乳房のがん検診も一生必要です。術後10年経っても、何歳になっても通院できる間は乳房検査を受けましょう!

2009年9月8日火曜日

乳癌術後のがん検診の重要性

たぶん、乳癌と診断され、つらい治療を受けた患者さんは、”乳癌になったんだから、もう他の癌にはならないだろう。私だけ二つも三つも癌になるはずがない!”と思っておられるのではないですか?

お気持ちはすごくわかります。そんなに不幸が重なるはずがない、と思いますよね?でも乳癌になった人もなっていない人も他の癌になる確率は少なくとも同じなんですよ。乳癌は治る可能性が高い部類に入る癌です。そして比較的若い年代でもなります。乳癌治療後の人生は長いのです。だから、対側の乳癌だけでなく、他の臓器のがんについても十分に注意しなくてはいけません。

私の病院でのデータをお示しします。過去10年の間に乳癌の手術をした患者さんが、これまでに他のがんにどのくらいかかっているかをカルテから調べたものです(記載漏れがあるかもしれないので実際はもう少し多いはずです。乳癌の手術前に治療した他臓器がんも含みます。)。

対象:1999.8-2009.7までに乳癌の手術をした患者さんのうち、両側乳癌の患者さんを除いた原発性乳癌患者さん363人
結果:他臓器がん(+) 34人(9.4%)、他臓器がん(-) 329人(90.6%)
他臓器がんの内訳(重複あり):甲状腺 10人、大腸・胃 各5人、子宮頸部・肺 各3人、肝臓・子宮体部・悪性リンパ腫 各2人、卵巣・白血病・皮膚・舌・腎臓 各1人

なんと、およそ10人に1人は他の臓器のがんにかかっています!
観察期間が短いですから、一生涯に他臓器のがんにかかる確率はもっと高いはずです。


私は、患者さんの術後フォローをするときには、がん検診を受けるようにおすすめしています。胃がん(胃カメラ)、大腸がん(便潜血)、子宮がん(頸部の細胞診)については、検診効果が一定認められていますので年1回受けるようにお話ししています。肺がんについては、CTが有効だと思いますが、被爆の問題もあるので意見が分かれています。でも私は自分の患者さんには、再発チェックも兼ねて、年1回のCTを撮っています。甲状腺がんは、触診とリンパ節をエコーで見るときに一緒にチェックしてもらっています。他のがんについては、有効な早期発見法が確立していませんが、かなりのがんは、これでカバーできます。

乳癌を克服することはもちろん重要なことですが、他のがんに対しても注意が必要です。みなさんもがん検診を受けましょう!

2009年9月6日日曜日

ホルモン療法の副作用1 関節痛1

アロマターゼ阻害剤(AI剤=アリミデックス、アロマシン、フェマーラ)を内服した場合に最もよく見られる副作用が関節痛です。

投与後、数週間から数ヶ月で発症することが多いようです。最初は朝に強く、夕方に軽快する手指のこわばりで発症し、徐々に関節の痛みが強くなるケースが多いですが、膝や肩などの大きな関節から発症した患者さんもいます。

消炎鎮痛剤の内服で軽快する場合もありますが、症状が強い場合はAI剤の継続が困難になります。ただ、副作用に対する漠然とした不安が症状を悪化させることもあります。最近、AI剤で関節痛が出た患者さんの方が出なかった患者さんより、有効性が高かったという報告が出ましたので、そのことをお話しするとなんとか頑張って内服してくれるようになりました。

症状は慢性関節リウマチにとてもよく似ていますので、運動療法が症状の緩和に役立ちます。最近アップされた、乳がんJPのHP中にストレッチのやり方がムービーで紹介されていますので、参考にしてみると良いと思います(http://www.nyugan.jp/rehabili/kansetu/index.html)。

2009年9月3日木曜日

新型インフルエンザ~乳癌患者さんが注意すべきこと

いよいよ新型インフルエンザが国内で猛威をふるい始めています。

あの水際作戦は何だったのかと思うほど、今の状況はインフルエンザ感染者が増えることに対しては、仕方ないというあきらめムードになっています。たしかに今となっては国内に安全な場所はないと言ってよいでしょう。いつかはかかるものだと覚悟はしておいたほうがよさそうです。

では、何も注意しなくてもよいのかといえば、そうとも言えません。ワクチン接種が可能になるまでできるだけ爆発的な流行を遅らせる努力は必要ですし、特に高齢者や乳幼児、癌の治療中や重い合併症を持った患者さんにできるだけ感染させないような注意は必要です。

乳癌患者さんのすべてがインフルエンザにかかると危険というわけではありません。他の癌患者さんも同様ですが、手術後時間が経過していて、何の治療もしていない方は一般の人と危険性は同程度と考えてよいと思います。気をつけなければならないのは、抗がん剤投与中の患者さん、合併症として重篤な心臓や肺の病気を持っていたり、ステロイドや免疫抑制剤を内服している患者さん、高齢の患者さん、といったところです。

ワクチンが使えるようになったら、危険性の高い患者さんは接種しておいたほうがよいでしょう。また、インフルエンザ感染が疑われる場合はすぐに病院に連絡して受診すること、感染者が家庭内に発生した場合はタミフルの予防投与(この場合は保険適応外なので全額自己負担です)を主治医に検討してもらうこと、感染予防のために帰宅後は手洗い、うがいをきちんとすること(マスクは周囲にウイルスをまき散らす量を減らすことはできますが、自分が感染するのを予防することに関してはほとんど役に立たないといわれています)が重要です。

代替補完療法5 イソフラボン

大豆製品に多く含まれるイソフラボンは、植物エストロゲンと呼ばれるものの一つです。人間の女性ホルモンと似た構造をしているために乳癌との関連がいろいろ噂されたことでご存知の方も多いと思います。

実際は、イソフラボンの持っているエストロゲン様作用はかなり弱いようですが、エストロゲンは乳癌を発生、増殖させる原因の一つですので、大豆製品を食べると乳癌の発生を促すとか、乳癌術後の患者さんの再発率を上げるという間違った情報が一部で流れました。

しかし、最近のいくつかの疫学的研究の結果では、大豆製品(豆腐やみそ汁など)を多く摂取している地域では乳癌の発生率が少ないと報告されており、イソフラボンはタモキシフェン(これもエストロゲンと構造が似ています)と同様に、エストロゲンがエストロゲンレセプターに結合するのを妨げるのではないかと想像されています。

ただ、いくら大豆がいいからといって、みそ汁を毎日何杯も飲むのは塩分の採り過ぎになりますので注意が必要です。また、サプリメントとして大量にイソフラボンを摂取することが乳癌に対して抑制的に働くのかどうかはわかっていません。場合によっては摂取過剰状態では悪化させる可能性も否定はできません。ですから、ガイドラインでは、”食品ではなく、サプリメントとしてイソフラボンを多量に服用することが乳癌の発症を減らすという証拠はないので推奨しない”ということになっています。

2009年9月2日水曜日

乳癌の治療最新情報7 ソラフェニブ

米Bayer Healthcare Pharmaceuticals社と米Onyx Pharmaceuticals社は、先日、経口マルチキナーゼ阻害型抗癌剤(分子標的薬の一つ)であるソラフェニブ(商品名:ネクサバール)とカペシタビン(ゼローダ)を局所進行または転移性のHER2陰性乳癌の患者に併用したフェーズ2試験で、無増悪生存期間の有意な延長が見られたと発表しました。

ラパチニブ+カペシタビンと同様に、経口投与可能な薬剤の組み合わせは、患者さんにとってQOLをあまり損なわず、有益な治療法と言えます。

ソラフェニブは2008年の米国臨床腫瘍学会(ASCO)で、アリミデックスが無効になった患者さんに同時投与すると、アリミデックスに対する耐性(効かなくなること)が解除されるという報告があった薬剤です。

今回の試験の対象は化学療法歴が1回以下の患者229人。ソラフェニブ400mgまたは偽薬と、1000mg/m2のカペシタビンをそれぞれ1日2回投与する無作為化二重盲検で行われました(カペシタビンは14日間連続で投与、その後7日間休薬)。結果は、安全性と忍容性に問題はなく、ソラフェニブ/カペシタビン併用群において有意に無増悪生存期間の延長が見られたそうです。

その他にもソラフェニブを乳癌治療に用いる臨床開発が行なわれています(ソラフェニブ+パクリタキセル、ソラフェニブ+ゲムシタビンまたはカペシタビン、ソラフェニブ+ドセタキセルまたはレトロゾール、あるいはその両方など)。

本当に最近の新薬の臨床研究のスピードは速くて、ついて行くのが大変です。でも癌と戦う武器は多ければ多いほどいいですよね!

<2009.10.5 追記>
本試験結果は、ドイツ・ベルリンで開催された第15回欧州癌学会(ECCO)・第34回欧州臨床腫瘍学会(ESMO)合同会議で報告されました。
偽薬群に比べ、無増悪生存期間の延長が74%みられ(有意)たそうです。ソラフェニブとカペシタビンの併用において、新たな有害事象は観察されず、概ね忍容性に優れているとのこと。よく見られたグレード3/4 の有害事象は、手足皮膚反応、下痢、呼吸困難、好中球減少症、粘膜炎だったと報告されています。

2009年9月1日火曜日

乳癌の治療最新情報6 ”エストロゲン”療法

通常はホルモン感受性乳癌に対してエストロゲンを投与すると癌はさらに増殖すると考えられています。ところが最近、ワシントン大学のMatthew J. Ellis氏らのフェーズ2試験において、アロマターゼ阻害薬が無効となった転移性乳癌の治療に、低用量のエストロゲン投与が有効であったというパラドックス的治療法(paradoxical strategy)の報告がされました(JAMA)。

実はこのエストロゲン療法というのは1940年代に行なわれていた方法で、私も大量のエストロゲン投与が一部の癌には有効だったということは聞いたことがありました。今回はより低用量のエストロゲンが有効である可能性を証明するため、以前にアロマターゼ阻害薬を使用していて再発した、エストロゲン受容体陽性乳癌患者66例を、エストロジオール(エストロゲン)の1日6mg経口投与または30mg経口投与のいずれかに無作為に割り付けて比較試験を行ないました。

研究の結果、両群の有効性は同様(低用量群29%、高用量群28%)であり、被験者の約30%に腫瘍の縮小または成長抑制が認められました。ただ、高用量群は低用量群に比べて副作用が多く(低用量群18%、高用量群34%)、QOL(生活の質)も低く、全体的に低用量のほうが優れているという結論でした。

また、治療前のPET検査で、腫瘍のuptakeが高いと、エストロゲンが奏功する可能性がはるかに高いという結果が得られ、腫瘍の反応を予測できることも判明したそうです。さらに、エストロゲン療法後に再発した症例に対して再度アロマターゼ阻害薬を投与するとその3分の1の症例で再び奏功したという結果でした。

ホルモン療法は、抗エストロゲン剤からアロマターゼ阻害剤へと進化してきましたが、アロマターゼ阻害剤が無効になると治療は難渋します(MPA=ヒスロンHや高用量トレミフェンを投与することもあります)。やむを得ず化学療法に頼らざるを得なくなります。しかし、これでまた治療選択が増えることになるかもしれませんね。

2009年8月31日月曜日

乳癌の治療最新情報5 化学療法に対するAvastinの上乗せ効果

スイス・ロシュ社は、治療歴のあるHER2陰性の進行性乳がん女性を対象としたAvastinとさまざまな化学療法の併用を検討した第III相臨床試験(RIBBON-2試験)において、Avastinと化学療法の併用群では化学療法単独に比べ、主要評価項目である無増悪生存期間の延長が認められたことを発表しました。

Avastin(bevacizumab)は、VEGFという、腫瘍血管新生に関与するレセプターをターゲットとした分子標的薬(ハーセプチンやラパチニブと同じような作用)です。癌は転移・増殖するときには必ず周囲に血管を増やします。これは癌が大きくなるための栄養分をもらうために必要なのです。これを阻害することによって増殖を抑えてやろう、という目的で開発された薬剤です。Avastinはすでに進行・再発大腸癌に対して保険適応が認められており、今回はその効果が乳癌においても発揮されることが証明されたということです。

RIBBON-2試験は、多国籍多施設共同プラセボ(偽薬)対照無作為化二重盲検比較試験で、転移性HER2陰性乳癌の治療歴のある684名の患者さんが登録されています。試験では、主治医が選択した化学療法(「Taxanes:paclitaxel、protein-bound paclitaxelまたはdocetaxel」「Gemcitabine」「Capecitabine」「Vinorelbine」)とAvastinまたはプラセボの併用を評価しました。

今回の発表によるとAvastin群で無増悪生存期間(PFS)が有意に延長したという結果だったそうです。下記の通り、RIBBON-1試験で1st line(再発に対する初回治療症例)での効果が証明されたのに続いて、今回の臨床試験によって2nd line(既治療症例)でも有効であることが示されたというわけです。

詳細な試験成績は近く開催される医学会で発表される予定とのことです。この結果が日本でも認められ、承認されれば、新たな治療手段が増えることになります。早く承認されることを期待したいものです。

<参考 これまでに発表された乳癌治療におけるAvastinの主な臨床試験>

・E2100試験:2007年3月の転移性乳癌に対するAvastinの欧州承認の基となった臨床試験。paclitaxel単独に比べAvastinとpaclitaxelを併用した場合、がんの進行のない生存期間(無増悪生存期間)が2倍にまで延長する可能性があることが示された(対象は1st line)。

・AVADO試験:docetaxel単独に比べAvastinとdocetaxelを併用した場合、無増悪生存期間と奏効率(腫瘍縮小)が有意に改善された(対象は1st line)。

・RIBBON-1試験:転移性HER-2陰性乳がんの1st lineとして、taxaneベース、anthracyclineベース、またはXeloda(capecitabine)化学療法のいずれかとAvastin(bevacizumab)併用を検討した第Ⅲ相二重盲検試験。Avastin群で無増悪生存期間の有意な延長が確認された。

2009年8月30日日曜日

日曜特診で感じたこと&ピンクリボン運動

今日は日曜特診(月に1回くらい日曜日に行なっている検診)でした。

今日は選挙と重なったためか、あまり数も多くなくて早く終わりました。

その中で気になったのは、今日の受診者のうち70%以上が繰り返し受診者だったことです。きちんと定期的に受けてもらっているのはとても良いことなのですが、乳がん検診受診率がいまだに10%台の現状を考えるともっと初回受診者がいなければならないはずなんです。一部の同じ人たちだけが繰り返し検診を受けても、日本全体の乳癌死亡率は低下しません。もっと受けていない人たちを検診につなげる必要があると感じました。


芸能人の乳癌体験や若年発症の乳癌患者さんなどがマスコミで取り上げられ、世の中で乳癌に対する関心が高まってきていると言われています。ピンクリボン運動もかなり世間に認知され、いろんな場面で見かけるようになりました。

でも私のまわりでは、残念ながらまだその効果が十分に発揮されたという印象はありません。

まず、一番検診の重要性を理解しているはずの病院職員の意識がなかなか高まりません。以前より少しは受診者が増えましたが、まだまだ受診率が低いです。けっこう職員内の乳癌発生が多いにも関わらず、自分の問題として捉える意識が低いようです。30才代のエコー検診も技師さんたちのボランティアで行ないましたが、受診者は対象者の2−3割くらいだったのではないかと思います。

そして、いまだにかなり進行してから受診する乳癌患者さんが減りません。うちの病院が特別なのかもしれませんが、最近とくに目立ちます。乳癌だとわかっていながら、”切られるのが怖い””乳房を失いたくない”と思って受診を先延ばしにしていたり、最近では”生活が苦しくてお金がない””職を失ってしまうから”という理由も増えているかもしれません。

ピンクリボン運動で、乳がん検診の重要性を訴えるのはとても大切なことですが、これからはそれだけの情報量では不十分なのかもしれません。乳房再建や抗癌剤の進歩などの、治療についての正しい知識を提供したり、経済的困難を抱えている人たちでも検診や検査を受けれるような相談窓口を紹介してあげるなどのきめ細かい活動が必要になってきているのかもしれないと感じています。

2009年8月28日金曜日

骨転移1 骨転移による癌性疼痛〜メタストロン注の適応の難しさ

骨転移によって起きる強い疼痛に対する治療の進歩は目覚ましいものがあります。現在行なわれている主な治療を以下に示します。

①鎮痛薬…消炎鎮痛薬、アセトアミノフェン、医療用麻薬(モルヒネ)、鎮痛補助薬(抗うつ薬など)
→痛みそのものを抑える治療です。
②放射線治療(外照射)…最も即効性があります。骨折の予防にもなります。しかし、同一部位に繰り返し行なうことはできません。
③ビスフォスフォネート療法…ゾメタに代表される薬剤で、疼痛軽減、骨折の予防、高Ca血症の治療のほか、癌自体に対する抗腫瘍効果もあると言われています(既述)。

そして2007.10から使用可能になった治療が、メタストロン注(塩化ストロンチウム)です。

メタストロン注は、骨シンチのときに使うような核種と言われる放射性物質を注射して行なう内照射という放射線治療の一つです。1回の静脈注射ですみますので外来での投与が可能です。
疼痛緩和に有効で、外照射と異なり繰り返し行なえる利点があります(3ヶ月以上あける必要があります)。

副作用は、一時的な疼痛の増強(投与後2-5日)、骨髄抑制が主で、ホルモン療法との併用は可能ですが、抗がん剤との併用はできません。

対象患者さんは、骨シンチグラフィで多発性の骨転移を認め、なおかつ鎮痛薬で十分に疼痛がコントロールされない、通常の外照射が行なえない(体位がとれない、頻回の通院が困難など)などです。

大変期待している治療なのですが、残念ながら今のところまだこの治療の恩恵を受けた患者さんは当院ではあまりいません。

なぜなら、この治療の適応基準に”白血球数3000以上、好中球数1500以上、血小板数7.5万以上、ヘモグロビン9.0以上”というのがあるからです。乳癌の再発治療を長く受けている患者さんでメタストロン注を使用したいと考えるような方は、すでに何度も化学療法を受けており、外照射もしている場合がほとんどです。当然、骨髄機能は低下していることが多いのです。ですから、いざ使いたいと思ってもこの基準で断られてしまうケースがあるのです。まだ、使用経験が十分でないこともありますので慎重に行なわざるを得ないのは理解できますが、残念です。

疼痛自体はかなり麻薬と外照射でコントロールできるので、どうしてもメタストロン注は後回しになってしまいます。そしていざ使いたいと思うときには、骨髄機能が基準を満たさない…。この治療の位置づけがなかなか定まりません。タイミングが難しいです。

2009年8月26日水曜日

ホルモン補充療法と乳癌

外来をしていると時々、”私は橋本病で甲状腺ホルモン剤を飲んでいるんですけど、ホルモン剤を飲んでると乳癌になりやすいんですか?”と聞かれることがあります。

乳癌と関係があるのは、ホルモン剤の中でも女性ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン)のことです。

乳癌と女性ホルモンの関係はかなり昔からわかっていました。乳癌患者さんの卵巣を切除すると乳癌が自然に小さくなることがあることから、女性ホルモンは乳癌を大きくする(再発をうながす)作用があるということが推測されたのです。女性ホルモンを抑えることが治療になるとわかり、その後の内分泌療法につながっていきました。

このころから、女性ホルモンは乳癌を大きくするだけではなく、発癌させる作用もあるのではないかと想像されていました。その後、動物実験や閉経後のホルモン補充療法を受けている患者さんに乳癌の発生率が高いかどうかの疫学的研究がさかんに行われるようになりました。

若干異なる結果もありましたが、現在一般的に考えられているのは、
”ホルモン補充療法(エストロゲン+プロゲステロン)は乳癌の発生率をわずかに増加させる(1.2-1.3倍)”
ということです。

ただし、乳癌発生率は上げますが、乳癌死亡率は増加させないとも言われています。これは、ホルモン補充療法を受けている患者さんは、一般の人より定期的に乳房検査を受けていることが多いために、早期癌で見つかる率が高いからだと推測されています。

また、閉経前に女性ホルモン剤を投与する場合に(避妊目的の低用量ピルや子宮内膜症治療のためなど)、乳癌発生率を上げるかどうかについては完全な結論は出ていません。乳癌の発生率を上げるという報告もあるため、一応、低用量ピルであっても注意するように言われてきましたが、私自身は疑問に思っています。なぜなら、低用量ピルを閉経前の女性に投与した場合、卵巣からの内因性の女性ホルモンの分泌は停止します。薬として体内に入る女性ホルモンのみになるのです(もともとの女性ホルモンに薬がプラスされるわけではありません)。低用量の場合、本来自然に卵巣から分泌される女性ホルモンより総量は低下すると言われています。ですから子宮内膜症(女性ホルモンの過剰な刺激で起きる)の治療になるのです。女性ホルモンの刺激が自然の状態より少なくなるのであれば、乳癌の発生率を上げるとはあまり思えないのです。ただ、子宮内膜症の患者さんと健常女性とはホルモン環境が異なるかもしれませんし、単純に女性ホルモンの総量だけの問題ではないかもしれませんので、確かなことは言えません。しかし、閉経後(本来女性ホルモンほとんどゼロに近い)にホルモン補充療法をする場合よりは影響は少ないのではないかと思います。

なお、「疫学・予防ー乳癌学会/編(2005年版)/ガイドライン」においては、「経口避妊薬使用は乳癌の危険因子になるか」というResearch Questionに対して、「エビデンスグレードⅢ 危険因子になるという強い根拠はない」という結論になっています(http://minds.jcqhc.or.jp/stc/0006/1/0006_G0000116_0019.html)。

2009年8月24日月曜日

代替補完療法4 高濃度ビタミンC点滴療法

ちまたではいろいろな効果が確立されていない癌治療が行われているようですが、問題は本当に善意で研究しながら治療を行なっているのではなく、あたかも効果があるかのようなデータを見せながら、金儲けに走っている医者がいることです。

私が学生の頃、ある医学博士の肩書きをもつ人が書いた”ビタミンC大量療法でガンが治る!”みたいな本を読みました。でもその後この治療が標準化されることはなく、その後の臨床試験でも効果が否定されたため、すっかりすたれたものだと思っていました。

ところが最近、再びビタミンCの抗腫瘍効果に注目が集まっているようです。動物実験で抗酸化作用による抗腫瘍効果が証明されたことと、ビタミンC大量投与によって効果が見られた患者さんの報告があったことに起因しているようです。

何度も書いていますが、動物実験で効果があったから人間にも当てはまるとは言えませんし、数人に効果があったということが、その治療が有効であるという証明にはなりません。二重盲検法という手段を用いて多数の患者さんを比較しなければ、その治療が本当に有効かどうかは判断できないのです。

残念ながら、今のところビタミンCの大量投与が乳癌に対して有効であるという科学的な立証はなされていません。むしろ最近の臨床試験でも下に記すように効果がなかったという結果でした。

動物実験では効果があるのに人間には本当に無効なのか?投与の方法の問題?投与量が足りないから?(動物の体表面積あたりの有効量と人間のそれとは必ずしも一致しません)
でもこのようなことは、よくあることなのです。

この結果を覆すためには、投与方法を変えて、有効であることを臨床試験で証明するしかないのです。それまでは、乳癌に対する有効な治療法として高濃度ビタミンC点滴療法を患者さんにお勧めすることはできません。

<参考>
銀座東京クリニックのHP(http://www.1ginzaclinic.com/vitamin.html)
→ページの下の方にある注意書きをご覧ください。
高濃度ビタミンC点滴療法が臨床的には癌の縮小効果はなかったという、2008年に発表された臨床試験(Phase1)の結果(英文ですが)
→http://annonc.oxfordjournals.org/cgi/content/abstract/mdn377v4?maxtoshow=&HITS=10&hits=10&RESULTFORMAT=1&author1=hoffer&title=ascorbic+acid&andorexacttitle=and∧orexacttitleabs=and&andorexactfulltext=and&searchid=1&FIRSTINDEX=0&sortspec=relevance&resourcetype=HWCIT

2009年8月23日日曜日

第6回With you Hokkaido報告

今日、12:30-17:00すぎまで、札幌医大の大講堂で第6回With you Hokkaidoが開催されました。

今回のテーマは、”笑顔のある生活で心に潤いを”でした。

講演1「我々には精神的ストレスを軽減する機序が備わっている」(吉野槇一先生 日本医科大 名誉教授)

リウマチが専門の整形外科医である吉野先生のお話は、とても興味深いものでした。以前から、”笑うと免疫力が高まる”と言われてはいましたが、それを科学的な実験によって証明したというお話です。

落語を聞く前後でいろいろな物質の状態を調べてみると、リウマチ患者のようにストレスがかかった状態の人では、IL-6という炎症の原因物質が有意に低下し、免疫に関与するNK細胞活性が増加する(正常範囲内ではありますが)という結果だったそうです。なお、正常の人にはこのような変化は起こらないので、笑うことは、リウマチなどの病気(癌も)で過度のストレス状態にある人の免疫活性や内分泌の状態を正常に近づける作用があるということです。何度も検証実験をしても同様の結果ですので信頼性の高いデータだと思います。

”笑う角には福来たる”というのは、どうやら本当のようです。

講演2「笑いで健康に」(桂枝光さん 落語家 http://ja.wikipedia.org/wiki/桂枝光)

笑いの効能をお聞きした後で、さっそく落語家の桂枝光師匠が思い切り笑わせてくれました。
札幌市内のホールで定期的に開催されている「平成開進亭」という寄席を開催しているそうなので、今度またゆっくり聞きに行きたいと思いました。

講演3「J.POSHキッズ・ファミリープログラム」(松田寿美子さん J.POSH)
J.POSHの活動の概要と、数年前から開催している「J.POSHキッズ・ファミリープログラム」についてわかりやすくご紹介してくださいました。今回は、前にブログでご紹介したように、患者さんのご家族のケアについての取り組みが全国各地で行われていて、今までに開催された地域では家族の絆が深まった、などの声が聞かれていて好評なようです。札幌では9/26に行われる予定です。

<癒しの時間>
乳癌を体験されたシンガーソングライターの明日香さんの弾き語りを数曲聞かせていただきました。澄んだ歌声に心が洗われるようでした。

<元気と笑顔の時間>
先日のピンクリボンフェスティバルにも出演してくれた、”もえぎ色女学院”のパフォーマンスが炸裂しました。なんとも言えない魅力に、最初戸惑っていた観衆も最後にはすっかり魅せられていたようです。ミュージックが切れてしまうトラブルにもめげずに最後まで音楽を口ずさみながら踊った彼女たちに拍手喝采でした!

<参加者グループワーク>
昨年に引き続き2回目の試みでした。
他のグループはわかりませんが、私のグループ(再発後の不安、治療B-1)では、なかなか患者さん同士の会話にならなくて、医師への質問コーナーみたいになってしまいました。私の司会進行が悪かったのかなあ…。反省です。

最後に全国各地のWith youの活動状況の報告があって、今回の会は終了しました。

日曜日にも関わらず、ご講演や歌、パフォーマンスを披露していただいた出演者の皆さん、大変楽しい時間をありがとうございました。
また、全国から手弁当で札幌まで来ていただいた、代表世話人の霞富士雄先生をはじめ、世話人の先生方に厚く御礼申し上げます。札幌医大の平田公一教授、大村東生先生をはじめ先生方、おつかれさまでした。

来年もまた実りある会になればいいなと思っています!

2009年8月21日金曜日

乳癌術後の性生活について

乳癌患者さんのセクシャリティの問題は、ほとんどの病院で対応できていないのが現状です。乳癌の術後は、乳房にメスが入ったという美容上の変化と精神的ダメージ、そして痛みが生じます。また、術後の化学療法やホルモン療法によって女性ホルモンの変化が起き、肉体的、精神的な影響を及ぼします。患者さんにとっては、とても重大な問題ですが、外来で患者さんから相談されることはほとんどありません。

なぜならいまだに乳腺外科医は男性が多く、こちらからも患者さん側からも聞きにくい問題ですし、女性医師に対しても、”癌の治療中なのにそんなことを聞いたらいけないんじゃないか”という患者さん側の気持ちもあるからです。また、同じ女性だからこそ、”手術していないあなたに私の気持ちがわかるはずない”と思って、聞くのを敬遠する患者さんもいらっしゃるかもしれません。

私の今までの経験上も、この問題に関して患者さんから聞かれたことは数度しかありません。

1.いつから性生活を始めても良いのですか?
2.性的な刺激を与えるような本を読んだら乳癌の再発を促しますか?
3.先日夫とセックスしたら入り口が切れて出血したんです…

思い出せるのはこの3つのケースだけです。

おそらくいろいろな問題を抱えていたはずですが、今まではその気持ちに応えることができていませんでした。実際、外来で唐突にそういう話をこちらからするのは難しいです。なんとか患者さん側からお話していただけるような雰囲気づくりをしていかなければなりません。やはり、外来の看護師が問診でチェックするようにするのが一番なのですが、そのためには患者さんのプライバシーに十分配慮した場所(できれば個室)が必要だと思います。

このブログで具体的な細かい問題点と解決策を書くことは難しいですので、参考になるHPと本をご紹介します。

<ホームページ>
乳がんJP 乳がんの手術後:幸せな性のアドバイス(http://www.nyugan.jp/after/gender.html)
日本性科学会 カウンセリング室(http://www14.plala.or.jp/jsss/counseling/)

<書籍>
がん患者の<幸せな性>  アメリカがん協会編 高橋都+針間克己訳(春秋社) 定価 2000円

*病院に、アストラゼネカ(製薬会社)が作成した”乳がん患者さんとパートナーの幸せな性へのアドバイス”というパンフレットが置いてあるかもしれません。小冊子ですが参考になると思います。

2009年8月20日木曜日

乳腺疾患の自覚症状

乳腺外来にはいろいろな自覚症状をもつ患者さんが来院します。
もちろん、皆さん、乳癌ではないか?と心配なので来院されるのですが、ある程度問診を聞いた段階で、乳癌の可能性が高いか、低いかは想像できることが多いです。

いくつかの例を挙げてみます。

1.数ヶ月前に痛みのないしこりを自覚。徐々に増大してきた。
→高齢者では乳癌をまず考えます。若年者では良性腫瘍(線維腺腫など)もあり得ます。
2.皮膚のくぼみや乳房の変形を伴うしこりを発見。
→乳癌の可能性が高いです。
3.血液混じりの(赤や黒、番茶色)乳頭分泌がある。
→乳癌、または乳管内乳頭腫(良性腫瘍)を疑います。
4.痛みを伴うが皮膚の発赤を伴わない硬結(ごりごり)、しこりがある。
→乳腺症の可能性が高いですがまれに乳癌のこともあります。
5.皮膚の発赤と痛みを伴う硬結、しこりがある。
→乳腺炎や乳輪下膿瘍の可能性が高いです。まれに炎症性乳癌のことがあります。
6.授乳中でもないのに白い母乳様の分泌物が出る。
→薬剤性乳頭分泌(特に多いのは、スルピリドという精神安定剤。他にもいろいろあります。)のことが多いですが、まれに下垂体腫瘍(プロラクチノーマ)が原因のことがあります。
7.両側(または片側)の乳頭のいくつもの穴から分泌物(透明や褐色)が出る。
→乳腺症の可能性が高いです。
8.乳房のかなり内側や外側のふくらみのない部分に痛みがある。押すと痛みがあり、咳や動作(物を持つ、腕を上げるなど)で痛みが誘発される。
→肋間神経痛や筋肉痛(肋間筋や前鋸筋、大胸筋など)を疑います。

もちろん、ここに書いたのは可能性が高いか低いかということで、自覚症状だけですべて正確に診断できるわけではありませんので、自覚症状がある場合は、良性を疑う場合でも一度は乳腺外科に受診したほうが良いでしょう。

2009年8月18日火曜日

乳がん検診無料クーポン券

2年に1回のマンモグラフィ併用検診が少しずつ認知されてきましたが、自治体が検診料金の一部を負担してきたにもかかわらず(札幌では40歳代が1700円、50歳以上が1400円の自己負担)受診率はいまだに満足できるものではありませんでした。

そこで今年度から札幌では(他の自治体ではわかりません)4/1現在で、満40歳、45歳、50歳、55歳、60歳の女性に対して全額を自治体が負担するクーポン券が送付されるようになりました。
この制度を利用すると、例えば44歳で通常の検診を受けた人が、45歳で無料検診を受けて、さらに46歳でも検診を受けれることになります。結局、受ける人はより濃厚な検診を受けるだけで(つまり述べ受診者数の増加)、絶対数(実受診者数)は増えないのではないかと危惧していましたが、今のところクーポン券を受け取って初めて検診を受けるという人たちもけっこういるようです。やはりタダの魅力は大きいということでしょうか?

どうせなら5年に一度の無料ではなく、2年に1回の検診をすべて無料にすれば実受診者数はもっと増えるのに、と思ってしまいます。まあ、このご時世、自治体の財政も厳しいでしょうけどね。

無料クーポン券で今まで受けていなかった人たちの受診につながればいいな、と思っています。

2009年8月12日水曜日

Elastographyへの期待と危惧

先日、外来に受診した患者さんから、”エラストグラフィっていう新しい検査でさらに早期の乳癌が見つかるってTVで出てました”と言われました。どんなTVだったか、どんな内容だったかは見ていないのでわかりませんが、もしかしたら正しく視聴者に伝わっていないのかもしれません。

エラストグラフィ(Elastography)は、筑波大の植野映先生らと日立メディコが中心になって日本で開発された超音波検査の新しい技術です。腫瘤の硬さを超音波画像モニター上で色分けして表示することにより、その腫瘤がどの程度悪性を疑うか、または精密検査が必要かどうかを判断する検査法です。色分けは、軟らかいものが赤、中間(乳腺組織や良性腫瘍)が緑、硬いものが青で表示され、癌は青で表示されることが多いとされています。それらを弾性スコア1-5で判定し、スコア1-2を良性、3は境界、4-5を悪性疑いと判定します。

何度かここでも書いていますように、若年者の乳がんの早期発見にはマンモグラフィ単独では不十分で、超音波検査が非常に有効です。ただ、問題点としては、検査をする医師または技師の技量によってその成果が大きく左右されるということが挙げられています。エラストグラフィはその欠点を補い、若年者の早期発見に役立つということが期待されているようです。

しかし、経験が少なくてもエラストグラフィがあれば超音波検査で早期乳癌が診断できると安易に考えるのは危険だと私は思っています。なぜなら、エラストグラフィはあくまでも補助的な技術だからです。通常の超音波画像(Bモード)を見て、病変があった場合にエラストグラフィを使って硬さを見る、というのが通常の使用方法です。したがって、Bモードで病変を見逃せば結局同じです。また、エラストグラフィで陽性(つまり”硬い”)と判定されない乳癌もあるということを理解した上で使う必要があります。特に腫瘤像非形成性病変(非浸潤癌など)の場合には悪性でもスコア1-2となる場合が時々あります(偽陰性)。ですから早期癌の発見に役立つとまでは言えないのです。また良性(線維腺腫など)でもスコア4-5と判定されることもあります(偽陽性)。

Bモードで明らかに良性と思われる腫瘤(嚢胞など)に対してはエラストグラフィは不要であり、明らかに悪性の腫瘤はエラストグラフィをするまでもないので、有用性があると思われるのは、良悪の判断が困難な腫瘤ということになるのですが、上で述べたような偽陰性の問題もあるため、結局、悪性の可能性が考えられる場合には、私ならエラストグラフィが陰性であっても細胞診を念のために勧めると思います。

ですから、真にエラストグラフィが有効なケースというのは限られてしまいます。良性の可能性が極めて高いけど少しだけ気になる場合に、精査とするかどうかを判断する補助的診断法(つまり検診における要精査率を下げるため)として、この検査法が最も威力を発揮するのだと思います。

エラストグラフィはまったく新しい観点から考えられた素晴らしい技術だと思いますし、うまく使いこなすことによって超音波検診の現場に様々なメリットを与えてくれると期待しています。しかし、エラストグラフィを行なえば簡単に早期乳癌の発見率が上がるわけではなく、やはり超音波検査を行なう医師や技師の技量の向上が絶対不可欠です。新しい技術が導入されることによってそのことが軽視されはしないかということを私は少しだけ危惧しています。

2009年8月7日金曜日

ピンクリボンin SAPPORO 2009 夏休みフェスティバル



今日、13:00-21:30まで、札幌大通公園のホワイトロックでピンクリボンin SAPPORO 2009 夏休みフェスティバルが行なわれました。

昼の部では”お母さんといっしょね!発表会””ドーレくん&リボンちゃん クイズ大会””バイオリン・ミニコンサート””5リボンズデビュー””もえぎ色女学院ステージ”が行なわれました。私は途中からの参加であまり見れませんでしたが、もえぎ色女学院のパフォーマンスステージは強烈でした。ぱっと見の派手さと異なり、ピンクリボン運動を啓蒙するフリーパンフを作成したりしている彼女たちの地道な活動には感動しました。このような活動をしている仲間がいるということを知っただけでも実りのあるイベントでした。

夜の部では、”ピンクリボンジャズ”のライブがすごい迫力でした(写真)。グルーヴィン ハード ジャズ オーケストラという1977年創立の歴史あるバンドだそうですが、素人なので詳しくは説明できませんが、少なくとも私にはとても上手でパワフルな演奏に感じました。特に”星に願いを”のアレンジには感動しました。
そのあと”ピンクリボンシネマ 「Mayu-ココロの星」”の上映がありました。私は今まで見たいと思いながら残念ながら見る機会がなかったのですがやっと見ることができました。今年の5月に亡くなった大原まゆさんの実話です。この映画を作ったときにはまだ再発していなかったはずです。まゆさんが亡くなってから見ると、映画の中の一言一言がすごく切なく響きました。でも彼女のピンクリボン運動への思いは、確かに受け継がれている、と今日のイベントを通じて感じました。

そしてその頃、外ではテレビ塔がピンクに染まっていました(写真)。一人でも多くの人が、なぜテレビ塔がピンクになっているのかを考えてくれればいいな、と思いながら帰路につきました。

来年もまたこのイベントに参加したいと思っています。札幌近郊の方は、また是非協力、参加をお願いいたします。私はあまりお手伝いすることもなかったのですが、多くの方がボランティアとしてこのイベントを支えてくれていました。皆さん、本当にお疲れさまでした!

2009年8月4日火曜日

遺伝性乳癌(家族性乳癌)について

患者さんに乳癌の告知をするときに、”私の家系には乳癌はいないのにどうして…”などと言われることがあります。

このような方には、”乳癌が遺伝と関係あるのは、せいぜい10%くらいまでで、残りの90%以上は関係ないんですよ”とお話ししています。乳癌は今や女性の20人に1人がかかる一般的な病気の一つになっています。家族歴のあるなしに関わらず、検診は必要です。

このように誤解されていることも多いので、今回は、この”遺伝性(もしくは家族性)乳癌について少しお話ししてみます。

遺伝性乳癌に関連する原因として現在わかっている代表的なものには、BRCA1とBRCA2という遺伝子の異常があります。これらの遺伝子は”癌抑制遺伝子”と呼ばれるものの仲間で、細胞が癌化するのを防ぐ役割を持っています。この遺伝子に先天的な異常があると将来的に55-85%に乳癌を生じると言われています。

①遺伝性乳癌の特徴
若年発症が多い、両側乳癌が多い、乳房温存術後の同側乳房内再発が多い。
自分を含めて祖母、母親、姉妹、娘の中に3人乳癌患者がいたら遺伝性乳癌の可能性が高いといわれています。

②乳癌発症の予防
米国などでは、これらの遺伝子異常がある場合に、予防的に両側乳房切除(+再建)を行なうことがあります。この手術によって、将来の乳癌発生を約90%(一部の乳腺が残るため100%にはならない)減少させることができると報告されています。
また、乳癌発生の危険性を軽減させるための手術として、両側卵巣摘除を行なうこともあります。これによるリスク軽減効果は約47%です。また、化学予防として、タモキシフェンの投与も試みられています(NSABP P-1)。この臨床試験における乳癌発生のリスク軽減効果は49%ありましたが(特にBRCA2異常で効果が高い)、子宮内膜癌のリスクが約2.5倍になることや深部静脈血栓症の副作用の問題などもあり、その後行なわれたイタリアとイギリスの試験では明らかな予防効果がないという結果だったことから、現在ではあまり行なわれなくなってきています。

③BRCA1/2の検査
(株)ファルコバイオシステムズ(http://www.falco-genetics.com/brca/medical/index.html)というところで調べることはできます。しかし、”遺伝子カウンセリング”という体制が整っている病院でのみ検査可能です。なぜこんなに面倒かと言うと、もしこの遺伝子異常があったとした場合、それを安易に告げると大変大きな精神的重荷を背負うことになるからです。なぜなら、この遺伝子異常を持っていることを知るということは”あなたは非常に高率に乳癌になります、でも日本では予防的乳房切除も化学予防もリスク軽減の卵巣摘除も保険では認められていません”ということを意味するからです。ですからこのようなカウンセリングが必要なのです。

遺伝性の病気は乳癌に限らず、非常にデリケートな問題を含んでいますので、社会的なサポートとそれを受け入れる保険医療体制の早急な整備が必要だと思っています。

2009年8月2日日曜日

乳癌の治療最新情報4 注目の国内臨床試験

最近は以前に比べるとかなり積極的に臨床試験が日本国内でも行なわれるようになってきています(浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生から見ればまだまだのようですが…)。私たちの施設にも参加依頼されるようになってきています。マンパワー不足と私の怠惰な性格のために、今のところ十分な協力ができていないのが現状ですが、これからは積極的に参加していきたいと思っています。

臨床試験に参加するためには、院内の倫理委員会を通さなければなりません。以前はこのような体制が整備されていなかったことと、私たちの病院の基本方針として、”安全性と有効性が保障された治療を患者さんに提供する”という考え方だったため、今までは臨床試験には消極的でした。しかし、最近の臨床試験は、安全性や臨床試験に参加された患者さんに著しい不利益が生じないような配慮もされるようになってきていることと(もちろんある程度のリスクは背負わなければなりませんが…)、他人まかせでは日本の医療が世界からは遅れてしまうし、そのことが患者さんに不利益を与えることになってしまうということから、現在の院長は、臨床試験への参加を前向きに検討してくれています。

乳癌領域においてもいくつもの国内の臨床試験が行なわれています。私が注目している臨床試験をいくつかご紹介します。

①N-SAS-BC05(AERAS)試験
アナストロゾールを含むホルモン療法を5年投与で終了した群とアナストロゾールをさらに5年投与した群との比較試験。ホルモン療法は5年だけで十分なのかもっと投与すべきなのかを比較した試験です。タモキシフェンでは上乗せ効果は出ませんでしたが、AI剤ではどうなるのか注目です。
②N-SAS-BC06(NEOS)試験
レトロゾールの術前投与の効果を検討する臨床試験です。海外でもER(+)HER2(-)の乳癌に対しては、術前化学療法よりも術前ホルモン療法の方が合理的であるという考え方が一般的になってきていますが、実際には化学療法が行なわれているのが現状だそうです。国内発のこの臨床試験結果が、世界中の乳腺外科医の考え方に大きな影響を及ぼすことになるかもしれないと期待しています。
③SUPREMO試験
中等度の局所再発リスクをもつ患者さんに(T1n+、T2N1、T2n0+ GradeⅢ or ly+)、胸壁照射が有効かどうかを検証する試験。高リスク(腫瘍径5cm以上、リンパ節転移4個以上)に対しては有効性が証明されている胸壁照射の適応が中等度リスクに対しても拡大されるのか注目です。
④BEATRICE試験
トリプルネガティブ(TN)乳癌に対して、標準的な術後補助化学療法にベバシヅマブを追加することの有効性を検証する臨床試験。再発率が高く、再発後の標準的抗癌剤の有効性が低いと言われているTN乳癌に対して再発予防効果の上乗せがあるかどうかを検証します。先日ASCOで発表されたPARP1阻害剤の上乗せ効果を検証する臨床試験には国内からの参加はなかったようですが、ベバシヅマブに関しては国内からも参加できるようです。
⑤J-START
40才代の乳がん検診被検者に対して、マンモグラフィ単独と、マンモグラフィ+超音波検査の2群に分けて、超音波検査の上乗せ効果を検証する日本で行なわれている世界初の臨床試験。
40才代においてはマンモグラフィだけの検診では約30%の乳癌は指摘できないと言われています。今回の臨床試験で良い結果が出れば、30才代の女性に対しても有効な乳がん検診手段を得るきっかけにもなるはずだと私は信じています。

このようにいくつもの注目すべき臨床試験が進行中です。
結果を待つだけではなく、積極的に参加しなくてはいけないと、このブログを書きながら決意を新たにしました。

2009年7月29日水曜日

2009年ピンクリボン キッズ・ファミリープログラム

J.POSH主催の「2009年ピンクリボン キッズ・ファミリープログラム 家族で話そうピンクリボン」が2009.9.27(13:00-16:50)札幌東京海上日動ビル8階で行なわれます。

今年のテーマは「分かち合い」。患者さんとご家族が、医療従事者(乳腺専門医、診療内科医、看護師など)とともに、心のケアについて話し合います。男性(配偶者、お父さん、ご兄弟、息子さんなど)だけの分科会「お父さん分科会」もあり、同じ悩みを分かち合い、話し合うそうです。また、子供たちはプリザーブドフラワーアレンジメント(どんなことをするのか私もわかりませんが…)、シャボン玉作りを習います。そのあと参加者全員で「シャボン玉パフォーマンス」をするそうです。

なお、参加費は無料です。詳細はJ.POSHのHP(リンクのリストからジャンプして下さい)をご覧下さい。
申し込み用紙はhttp://www.j-posh.com/09ksaporo.htmから応募用紙をダウンロードして印刷して送るか、JMS賛同医療機関(これもHPに出ています。札幌市内は、手稲渓仁会病院、勤医協中央病院、NTT東日本札幌病院)に置いてあると思います。

昨年もこのようなイベントがありましたが(たしか音楽鑑賞)残念ながら私は参加できませんでした。今年は可能なら参加してみたいと思っています。

(同様のイベントは、札幌を含めた全国10カ所(札幌・仙台・新潟・・名古屋・金沢・東京・大阪・広島・松山・福岡)で行なっています。札幌以外の開催予定はHPでご確認下さい。)

2009年7月23日木曜日

抗癌剤の開発〜シビアな実態

いま私の働く病院に米国から女医さんが研修(見学)に見えてます。彼女は、長い間基礎研究をしてきた方で、現在抗癌剤(分子標的薬に抗癌剤を結合させた薬剤=ミサイル療法)の研究・開発に携わっている企業で働いているそうです。

今日は午前中に化学療法室を見たいとのことでしたので、私が化学療法室と薬剤部をご案内し、診察にも一緒に入っていただきました。彼女の知っている米国の化学療法専門病院とは比べものにならないほど小規模の質素な施設ですので、ちょっと驚かれたようでした。

そのあと医局でいろいろ米国のお話をお聞きしました。抗癌剤開発についての日米の差、一つの薬剤を開発して人体に対して臨床試験で投与するまでに10年くらいの月日と莫大な費用を費やしていること、それで却下されたらすべて水の泡になってしまうこと…。

その中で彼女から聞いた興味深い話があります。彼女が関わっていた卵巣癌に対する非常に有望とみられていた薬剤についてのお話でした。

この薬剤は、ラットまでの投与ではまったく重篤な副作用などの問題もなくクリアし、癌に対する作用も優れた結果を残していました。ところがサルに対する用量負荷試験で、高用量を投与すると致死的な肺の炎症が起きることがわかったそうです。ただ、その量は癌に対して有効な量の3倍以上多い量だったそうです。安全域が広いので大丈夫ではないかと開発チームは考えたとのことですが、結局臨床試験の会社内の審査で人体への投与は却下されたそうです。ここまで来るのにかかった長い年月と費用、研究チームの努力はすべて無になってしまいました。

おそらく、社内の判断では、有効量で投与した場合は大丈夫だったとしても、長期に繰り返した場合に同様の副作用が出る可能性があること、肺に起きた副作用の機序が不明であることなどから、将来的に臨床試験を進めた場合にもっと多額の費用(賠償金も含めて)と時間が無駄になる可能性を考えたのだろうと思います。効果があるのに副作用との兼ね合いで商品化されない抗癌剤は山ほどあるのだということを実感しました。そして、このような研究チームの長年の努力によって開発され、厳しい審査をクリアし、臨床試験を経たごくわずかな薬剤のみを私たちが使用できるのだということを改めて感じました。

抗癌剤を悪者にしたがる一部の人たちには、一度こういう分野で日々開発に苦労している研究者の実態を見てからそのようなことを主張して欲しいものだと思いました。

2009年7月21日火曜日

抗癌剤の副作用3 悪心・嘔吐

脱毛と並んで、患者さんが最も恐れる抗癌剤の副作用の一つが悪心・嘔吐です。
ひと昔前は、抗癌剤で吐くのはある程度仕方ないと思われていた時期もありました。乳癌の場合は、アンスラサイクリン系(アドリアマイシン=ドキソルビシンやエピルビシン)で高頻度に悪心・嘔吐がみられていました。

その後、5-HT3受容体阻害剤という薬剤が使用されるようになってからは、特に急性期(投与当日から翌日)の嘔吐はかなり予防できるようになりました。現在当院では、高頻度に吐き気を生じる抗癌剤を使用する際には、投与当日、ステロイドと5-HT3受容体阻害剤の注射、その後3日間のステロイド内服を行なっていますが、実際に吐く患者さんはかなり少なくなりました。ただ、投与数日後から、食欲の低下、むかつき、吐き気などの症状はよくみられます。このように抗癌剤投与から遅れて生じる症状を遅延性悪心・嘔吐と言いますが、これを完全に抑えるのはなかなか困難だったのが現状でした。

しかし、ついにこの遅延性の悪心・嘔吐に有効な薬剤が使用できるようになりそうです。これはニューロキニン(NK)1受容体拮抗剤の一つであるaprepitantという薬剤です。年内に国内で承認される予定とのことですが、すでに2003年のASCOで現行薬との併用を推奨されていた薬剤です。最近ではさらに協力なNK1受容体拮抗剤のcasopitantという薬剤の優れた効果が発表されたようです。

このように、抗癌剤による不快な副作用を極力少なくするような手だてが開発されれば、抗癌剤を目の敵にして怪しげな治療に誘い込む悪徳業者を排除できます。これからもさらなる抗癌剤の改良や副作用予防薬の開発を期待したいと思います。

2009年7月18日土曜日

新病院建設〜安全・安心・快適な化学療法室づくり

私が勤務している病院は、もうすぐ築35年を迎えるため、近隣の土地を購入して、新病院を建設する計画に入っています。

先日の科長・室長会議で、”新病院に向けた私の決意”なる文章を書くようにとのお達しがありました。文章を書くことが苦手な私は、ずっと先延ばしにしていましたが、ついに期限になり、やむを得ず、先ほど書き終えたところです。

外来化学療法室ができたのは、約3年前。開設にあたり、基本方針としたのは、

①患者さんにとって、より安全に化学療法を行なえる場所にする
②化学療法や癌そのものに対する不安を和らげる場所にする
③つらい治療をできるだけ快適に受けていただけるような環境にする

ということでした。①に関しては、幸い、今のところ大きな事故もなく経過していますし、②については、看護師さんの頑張りで、患者さんにとっては相談しやすい場所になってきているようです。ただ、③に関しては、特に患者さんが多い日には、待ち合いのソファが足りなくなってしまったり、診察室が一つなので担当医が診察できずにお待たせしてしまったりなど、まだまだ改善する必要があります。新しい病院では、スペースをもっと拡げて、快適に治療を受けられるようにしたいと思っています。

また、後継者対策も課題です。今のところ私が化学療法室長として担当していますが、もともと専門は乳腺外科であり、呼吸器や消化器の化学療法に精通しているわけではありません。また、週2回は別の病院の外来にも出ているため、常駐できる状況でもありません。やはり、化学療法専門の医師(腫瘍内科医)の育成が必要だと思っています。癌化学療法認定看護師は、近いうちに配置される予定です。できれば新病院建設時には複数体制にしたいと思っています。

そんなようなことを原稿に書いてみました。
これからさらにスタッフで時間をかけながら検討していきます。地域の患者さんから信頼され、近隣の病院からもたくさんの患者さんを紹介していただけるような、新病院、化学療法室にしていきたいと思っています。

2009年7月15日水曜日

第6回 With you Hokkaido〜あなたとブレストケアを考える会

毎年、夏に行なわれる、乳癌患者さんとご家族、医療従事者のフォーラム、With you Hokkaidoが、 8月23日(日) 12時30分〜17時の日程で、札幌医科大学研究棟1階大講堂において開催されます。参加費は500円です。

札幌医大第1外科の大村先生を中心に結成されて今年で6回目ですが、私も第1回からお手伝いをしてきました。毎年、様々なテーマのもとで行なわれてきましたが、今回のテーマは『笑顔のある生活で心に潤いを』です。

<プログラム>
1.開会の挨拶(霞 富士雄先生 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センター長)
2.「笑いと泣きの効用」(吉野 槙一先生 日本医科大学名誉教授 リウマチ科)
3.「笑いで健康に」(桂 枝光さん 師匠 落語家)
4.J-POSH キッズ・ファミリープログラム(松田 寿美子さん J-POSH)
5.癒しのコーナー(明日香さん シンガー・ソングライター)
6.参加者グループワーク
7.各地のWith you報告
8.閉会の挨拶(平田 公一先生 札幌医科大学第1外科 教授)

グループワークは、いくつかのテーマごとに、会場で患者さんと医療従事者が一緒に考える企画です。普段なかなか聞けないことや疑問に思っていることなどもお互いに言い合って学習したり親睦を深めたりします。会場には、Wigや人工乳房、スリーブなどの乳腺関連の企業のブースも出展する予定です。

いつもは土曜日の開催でしたが、今回は初めて日曜日に行なわれます。どのくらい集まってくれるか少し心配です。もしこのブログを見て参加したいと思われた方は、下記までお問い合わせ願います(応募申し込み用紙は、With you北海道メンバーのいる病院にも置いてあります)。是非一緒に楽しみながら学習しましょう!

With you北海道事務局
Tel (011)611-2111(内線3281) Fax (011)613-1678
受付時間:月〜金 9:00-17:00

2009年7月13日月曜日

抗癌剤の副作用2 脱毛

”抗癌剤治療が必要です”と言われて真っ先に思い浮かぶ副作用の一つが脱毛だと思います。特に女性にとってはかなりショックな出来事です。今回は、この脱毛に関するお話を少ししてみます。

1.脱毛するメカニズム
抗癌剤は細胞周期(細胞を複製するために染色体を合成・分裂させるサイクル)のある特定の時期に作用して細胞を死滅させます。これは癌細胞に限らず、正常の細胞にも副作用として影響します。ただ、正常細胞は癌細胞に比べて細胞周期が一般的に遅いため、ほとんどの細胞はあまり影響を受けません。ただ、消化管粘膜や毛母細胞、骨髄細胞などは細胞周期が速いため、一定の割合の細胞が影響を受けてしまいます。ですから、口内炎、下痢、脱毛、骨髄抑制などが抗癌剤投与時に起きやすい副作用なのです。特に毛髪は90%が分裂の活発な状態にあると言われているため、高頻度に脱毛が起きるのです。通常、抗癌剤投与の2-3週間後から起きはじめ、抗癌剤終了後3−6ヶ月くらいから再生が始まります(薬剤によってはもっと早くから生えはじめます)。

2.抗癌剤の脱毛頻度(乳癌領域)
・脱毛率50%以上:パクリタキセル(80.4%)、ドセタキセル(71.8-77.5%)、ドキソルビシン(60%)、エピルビシン(65.1%)
→標準的なFECやタキサン系の抗癌剤はすべて脱毛しやすい薬剤です。
・脱毛率5-49%:ビノレルビン(24.9%)、シクロフォスファミド(24.3%)、メトトレキサート(14%)
・脱毛率5%未満:マイトマイシンC(2%)、5FU(2%)

3.脱毛の対策
①頭皮・毛髪のケア:あらかじめ短めにカットしておく、爪などで頭皮を傷つけない、毛根を清潔にする、プロテインリッチシャンプーの使用、ドライヤーを控える、ブラシは柔らかめのものを使用、毛染めは控えるなど。
②頭部冷却法:アイスノンベルトなどで頭部を冷却して、毛根部の血流を低下させることによって抗癌剤の影響を少なくしようとする試みです。以前はさかんに行なわれていましたが、脱毛を予防できるエビデンスに乏しく、頭皮への転移を増加させるという報告もあって(これもエビデンスはないようです)最近ではあまり積極的には行なわれていません。
③Wig、帽子:脱毛しはじめたら毛が散乱しますし、人目も気になりますので、やはり何かで覆う方が良いでしょう。帽子やスカーフなどで覆うのが一番安価です。着脱が簡単で、素材を変えれば夏も蒸れにくいという利点もあります。ただ、抗癌剤治療中であることはだいたいわかってしまいますので、仕事や外出の際のためにもWig(かつら)はあったほうが便利です。Wigには、人毛、人工毛、ミックスがあります。材質、メーカーによって値段は2万くらいから2-30万まで様々です。いくつかのメーカーのパンフレットを取り寄せてみたり、ネットで情報を集めるのも良いと思います。ただ、医療用(抗癌剤治療用)であることは確認して下さい。

一般的に有名メーカーで高額な方がアフターサービスも万全で安心、と思われる傾向があります。確かに一理ありますし、安すぎるものの中には粗悪品が含まれることもあります。

でも以前、ある学会でこんな出来事がありました。
その学会にはたまたま抗癌剤治療中の私の患者さんも参加していて、ある有名Wigメーカーのブース前で女性スタッフに声をかけられたんです。その患者さんは医療関係者と間違われたらしく、女性スタッフは自社製品の良さを一生懸命アピールしていました。

彼女曰く、
”当社の製品は高いとお思いかもしれませんが、女性は毎月1-2万かけて美容室に行くでしょう?Wigを使用する1年間は美容室に行かなくてすむのですから20万は高くないですよ(美容室に毎月1−2万かける人ってそんなにいますか?)”
”安いWigはダメです。すぐにずれますし、見ただけでかつらだってわかっちゃいますからね!”

そばで聞いていた私は吹き出しそうになるのを必死にこらえていました。その患者さんは、比較的安い(4万前後)Wigをかぶっていたんです。そのことに気づかなかったその女性スタッフは、4万くらいのWigでも十分であるということを見事に証明してくれたんです!ちなみにその患者さんは、Wigが思いのほか安かったので、ショートとセミロングの2種類を買って、その日の気分で変えて楽しんでいたようです。

お金に余裕があるのでしたら、名の通ったメーカーのほうがアフターサービスの点からも安心かもしれません。でも、必ずしも高額な製品でなくてもそれほど問題ない場合もあるということです。そこのメーカーは美容室経由で取引されているので、美容室でアフターケアもしてくれたようです。近くに住む患者さんからの情報を参考にして選んでみるのも良いかもしれませんね。

2009年7月10日金曜日

北海道乳腺診断フォーラム

年1回行なわれる、北海道乳腺診断フォーラムに参加してきました。

症例検討は3例。

症例1 多形性(ギザギザしたガラスを割ったような)石灰化の集簇が新たに出現した症例…一見、コメド(壊死)型の非浸潤癌に見えますが、多形性でも丸みを帯びているのがミソ。mucocele-like tumor(MLT)という良性病変でした。同じような石灰化でMLTだった患者さんを何人か経験しているので予想の範囲内でした。

症例2 境界が明瞭な腫瘍…線維腺腫などの良性腫瘍に見えますが、どれも少しずつ所見が合わない。悪性にしても典型的な充実腺管癌や粘液癌とも違う…。結局、特殊型の髄様癌という癌でした。北海道におけるMRI診断の第1人者の放射線科Drが、MRIで髄様癌を鑑別に挙げたのにはさすが!と思いました。

症例3 乳癌術後の対側乳房に多発する境界明瞭な腫瘤が出現した症例…これは同じような症例を2例経験しているのですぐにわかりました。わずかに浸潤部分を伴っていますが、基本的に多発する腫瘤自体は嚢胞内癌が連続したものでした。

いずれも良悪の診断が難しかった症例でしたが、これらのような症例の存在を知っているかいないかは、誤診を防ぐ意味でもとても重要なことです。このような症例検討会に参加する意味はここにあります。いかに多くの鑑別診断が頭に浮かぶか、が日常診療ではとても大切なんです。

その後は、国立がんセンターの病理Drの講演がありました。St.Gallen 2009の変更点についてやHER2についての詳しいお話などを伺いました。乳腺外科医にとっては大変興味ある内容でしたが、画像診断を主に仕事としている放射線技師や超音波技師には、少し難しかったかもしれません。

以前は年2回、このフォーラムを行なっていましたが、2年前くらいから諸事情で年1回になってしまいました。けっこうためになる研究会なので、ちょっと残念です。大学の同期で乳腺外科医が4人いるので、合同の症例検討会を行なうのも良いかもしれない、と考えています。

2009年7月6日月曜日

局所再発に対する治療の考え方

今回の乳癌学会でも局所再発に関してのパネルディスカッションがありました。
局所再発は、再発の中でも少し特殊です。何が特殊かというと、一般的に、乳癌が再発した場合、手術の適応になるのは稀ですが、局所再発だけは、手術という選択をすることがよくあるのです。

局所再発は、大きく分けて3種類あります。

①全摘後の皮膚から生じる狭い意味での局所再発…全摘をしたときに皮下に残ってしまった乳腺や脂肪内に癌細胞が残っていて再発する場合と皮膚のリンパ管内に癌細胞が残っていて再発する場合があります。前者は単発のことが多いので手術の良い適応になり、比較的予後は良好です。後者は多発したり、炎症性乳癌様の再発形式を取るので手術は困難であり予後も不良です。
②所属リンパ節再発…郭清したさらに遠方のリンパ節に再発したり、郭清した周囲組織内の遺残癌が再発したりしたものなどです。腋窩から鎖骨下までの範囲の再発に対しては手術を行なうことがあります。胸骨傍リンパ節に対しては、主に手術または放射線治療が選択されます。しかし、鎖骨上リンパ節に対しては、あまり手術は推奨されておらず、放射線治療が選択されることが多いようです。やむを得ない場合に、手術を選択することはあります。
③乳房温存術後の乳房内再発…初回手術時の癌の遺残が原因の場合と新たに癌が発生した多発癌が原因の場合があります。いずれも手術が第1に選択されます。①から③の中で一番予後は良いのですが、炎症性乳癌型の再発の場合は手術困難で予後は不良です。

問題は、局所治療(手術または放射線治療)後に全身療法をどうするか、ということです。

今回の発表の中に、局所治療のみで経過をみている患者さんの割合が非常に高い施設があったことに驚きました。当然、治療成績は不良でした。局所とはいえ、③以外は(③の一部も)遠隔転移のリスクが高くなる再発ですので(局所再発部位から筋肉内の血管に入り込んだり、リンパ節からリンパ管を介して静脈に流れ込んだり…)、全身療法は不可欠だと私は思っています。局所再発は、治癒する可能性のある再発です。そのためには局所治療と全身治療をうまく組み合わせることが重要だと私は考えています。

2009年7月5日日曜日

第17回日本乳癌学会レポート

今回の学会テーマはHumanity Based Medicine。

初日のワークショップ”Humanityに基づく乳癌実地診療”では、患者さんの立場に立った診療の工夫(プライバシーの保護、待ち時間の短縮、不安な時間をなくすための短時間での診断、満足度調査の実施、クリニカルパスの導入、チーム医療の実践など)、緊密な病診連携の構築、DPC導入病院の改善点(医療の標準化と効率化)と問題点(再発患者さんへの入院での検査・治療の制限)などについて発表されました。個々については異論もありましたが、全体的には患者さんの立場に立った乳腺診療を考えていこうとする雰囲気が伝わってきました。

ランチョンセミナーは乳房再建の話を聞いてきました。私の病院では形成外科がないこともあり、今は同時再建も二期的再建もしていません。最近の患者さんのサイトをみると、やはり乳房再建の要求が強くなってきたように感じています。ナグモクリニックの南雲先生のお話を聞き、写真を拝見すると、やはり同時再建で人工乳房を入れるのが一番きれいなような気がします。無理して温存手術をするより、はるかにきれいです。今の人工乳房は安全性の高いグミみたいな硬さのシリコンがメインになってきていて、生理食塩水よりずっと自然な触感が得られます。ただ一番の問題は、この人工乳房が国内で認可されていないため個人輸入しなければならないこと、そして人工乳房による再建手術は保険適応外のため、乳癌の手術と同時に行なうと、乳癌の手術を含めた入院費すべてが保険外診療になることです。これは日本の医療制度上、混合診療が禁止されているからです。混合診療は必ずしも良い点ばかりではなく、様々な問題点を含んでいますから、混合診療を認めるようにするというより、できるだけ早く人工乳房による乳房再建術を保険適応にしてもらいたいと思っています。

午後は、パネルディスカッション”局所再発に対する集学的治療”を聞きましたが、ちょっと期待はずれだったので省略。夕方はサテライトシンポジウム”第24回乳腺診断フォーラム”を聞きにいきました。3例くらいあるかと思いましたが、今回は1例のみでした。でもかなり診断が難しい症例で、濃厚なディスカッションが行なわれました。各方面の専門家の先生方の読み方の鋭さにはあらためて驚きました。

そのあと、小雨がぱらつく中、レストランの広いテラスでの屋外の懇親会に参加して帰ってきました。
あっ、書き忘れましたが、自分の発表もありました。でも貼りっぱなしのポスター発表なので特になにもなかったです。

2日目は、ポスター会場を見て回ったり、ランチョンセミナーで乳房再建後のリハビリの話を聞いたり、画像診断セミナー
に参加したりしましたが、特に報告するような目新しいことはありませんでした。

今回の学会参加者は5000人くらいだったようです。場所的にはアクセスはまあまあでした。ただ、最近は製薬会社主催のいろいろな研究会が多いせいか、乳癌学会で初めて聞くような目新しいことは少なくなってきたように感じます(全部を見れたわけではありませんが…)。
今回、一番うれしかったのは、懐かしい先生や、乳癌関連のサイトでお知り合いになった方などにお会いすることができたことです。学会の大きな魅力は、こうしたいろいろな人との交流があることと、それによって得られる刺激なんです。
私もこれでまた仕事を頑張る意欲が復活してきました!

2009年6月30日火曜日

こんなところにもピンクリボンが…




職場の同僚が美容室で見つけたトリートメントです。「シュワルツコフ プロフェッショナル ヘンケルジャパン株式会社」製の”フォルムクア プラス ヘアマスク”という商品です(http://schwarzkopf.co.jp/)。

ピンクリボンの箱に入っていて、中には乳がん検診のすすめや自己検診のやり方などが書かれているそうです。幅広い年齢層が来店する美容室にこのような商品があれば目を引きますよね。こんなところにもピンクリボン運動が広がっているなんて感動です。もっといろいろな商品にこのようなパッケージをつけてくれるといいですね!

2009年6月29日月曜日

乳癌と間違いやすい良性病変

乳腺疾患の診断は、実はとても難しいんです。

画像で明らかに悪性だと思ったら良性だったり、良性だろうと思ったら悪性だったり、というのはよくあります。通常、悪性の可能性を疑えば細胞診をしますが、細胞診でも間違いは起きます。以前は、ClassⅠ-Ⅴで判定していました(Ⅰは正常、Ⅱは明らかな良性、Ⅲは境界病変、Ⅳは悪性疑い、Ⅴは悪性)。でもClassⅤで良性だったということも経験したことがあります。注射針にばらばらになって引けてきた細胞をもとに、元の病変が良性か悪性かを人間の目で推測するわけですから、わずかな確率でも間違いは起きるのです。さらに言えば、針生検という、細胞診より太い針で組織を切り取って来る診断方法でも間違えることがあるくらい、乳腺疾患の診断は難しいんです。

良性を悪性と判断されやすい病変の代表を挙げてみます。
①線維腺腫(特に乳腺症型)
②乳管腺腫(ductal adenoma)
③乳管内乳頭腫
④乳腺症(硬化性腺症)
⑤乳頭部腺腫

診断する側として重要なのは、このようなこと(診断の誤り)が起こりうるということを知っていること、画像診断と細胞診断(推定組織型)が一致しているかどうか確認すること、が大切です。
私が経験した症例で、画像診断が境界明瞭な腫瘍で、良性なら線維腺腫、悪性なら粘液癌か充実腺管癌が推定されるのに、細胞診はClassⅤ(推定組織型は”硬癌”)という結果が返ってきたことがありました。画像的にはどう見ても硬癌には見えなかったため、針生検をしたところ、最終診断は良性の線維腺腫でした。

乳腺疾患の診断は慎重を要します。専門的な知識と十分な経験をもった医師が最終診断を下したかどうかがとても重要です。画像検査で言っていた話と細胞診の結果が著しく異なっている場合は、その診断が画像検査と矛盾しないのか再度医師に確かめることをお勧めします。

2009年6月27日土曜日

Humanity Based Medicine

聞き慣れない言葉ですが、今回の日本乳癌学会総会のメインテーマです。EBM(Evidense Based Medicine)に対する造語だそうです。

EBMを基本としつつもいかに心温かい医療が提供できるか…、これは、いつも私が感じていたこと、そのものです。EBMはとても大切です。以前はEBMを無視して、好き勝手な思いつきの治療を行なっていた時代や施設もありました。結果として、患者さんに不必要な苦痛を強いたり、適切な利益を与えることができなかったりということも起きていました。きちんとした臨床試験の裏付けのある標準的な診断や治療を世界中どこの施設でも行なえるようにする、EBMという概念は今もこれからも医療の基本となるのは間違いありません。

しかし、きちんとしたEvidenseがない医療行為は、まだたくさんあります。そしてEvidenseの元になった臨床試験は、今から10年以上前の医療状況のもとで行なわれたものである場合もあるということにも配慮しなければなりません。そしてEBMにこだわりすぎてしまうと、いつの間にか医師と患者さんという人間同士の関係が、理論と患者さんという関係になってしまいがちです。

Evidenseを熟知しながら、一人の患者さんと人として向き合い、一緒に検査や治療を考えていく…。当たり前のことのはずですが、そうではない対応をされた患者さんの話をよく耳にします。癌治療の専門家と言われる医師の中にもそのような対応をする人がいるというのは非常に残念なことです。

2009年6月24日水曜日

乳癌術後の乳房検査

以前、乳癌術後の検査でエビデンスがあるのは年1回のマンモグラフィだけ、ということを書きました。これは、乳癌患者さんは、反対側の乳房にも非常に乳癌が発生しやすいことに由来します(約2-8%)。
では、この検査はいつまで必要なのか?が今回のテーマです。実は今日の術後症例検討会のミニレクチャーで話した内容です。

去年、ある学会でこのことに関して発表をしました。通常、乳癌で手術した患者さんに対側乳癌が発生した場合、第2癌は第1癌より早期で見つかることが多いと言われています。それは、乳癌の手術を受けたということで、自分で気をつけているということと、術後の定期検査を受けているということが原因と思われます。

しかし実際は、非常に進行した状態で第2癌が見つかることがたまにあります。これはどうしてなのかを検討したのが、去年の学会発表でした。

結果は、術後10年以上経過した患者さん、高齢の患者さんなど、定期検査を中断してしまった方に進行例が多いということでした。つまり、”もう年だから…”とか、”10年たったからもう治った。通院する必要はもうない”と思って病院に来なくなってしまうと発見が遅れてしまう可能性があるということです。当院の症例では、最長44年の間隔で第2癌が発生している患者さんもおり、何年経っても、何歳になっても定期的な乳房検査は必要であるというのが結論でした。

遠隔転移は確かに10年が一つの目安です(まれにそれ以上たってから再発することもありますが…)。しかし、乳房の検査は一生であるということを覚えておいて下さい。

2009年6月21日日曜日

激走!ピンクリボンチーム!〜MAMA Cyari 2009





あいにくの空模様の中、4時間のママチャリ耐久レースに参加してきました。
今回は職場関連で3チーム(ピンクリボンチーム、AED普及チーム×2)エントリーしました。それぞれ10人ずつでチームを編成し、1周約4kmのコースを1周交代でリレーしていく耐久レースでした。

病院の院長先生と事務長さんのご理解のおかげで、各チームおそろいのTシャツをつくっていただき、かなり目立つピンクの集団になっていました(写真下)。ピンクリボンチームのTシャツには、”受けよう 乳がん検診”の文字と大きなピンクリボンのマークがかかれており、啓蒙活動を中心に参加したはずでしたが、いざ出場するとみんなゴールしたあとで倒れるほどの激走をみせてくれました(写真上は、2年連続で好タイムを出してくれた病理のK先生)。特に、最高齢(55才?)の外科のH先生は、今回初参加にも関わらず、3周中、2周でただ一人8分台をたたき出す活躍ぶりでした。さすがに毎年フルマラソンに参加しているだけあります。

今日は強風が吹きまくっていたため、かなり消耗が激しく、ピット近辺での激しい接触事故が多発!救急車で運ばれる人も出るほどの激しい闘いでした。私たちのピット前で起きた、接触事故の際にはすぐさま近くにいたピンクの集団が救護にあたったため、大会スタッフから拡声器で名前を呼んで感謝の言葉をかけていただき、少しだけピンクリボンが目立つことができました。

結局、順位は今ひとつでしたが(405チーム中、337位… 注 7/1訂正しました)、大会後のバーベキューも盛り上がって楽しい一日でした。
来年も参加したいと思っています!

2009年6月16日火曜日

第17回乳癌学会総会

今年も7/3-4に東京で乳癌学会総会があります。

乳腺外科医になってから、体調を壊した1回を除いて毎年演題は出すようにしています。今年も症例報告ですがポスター発表をすることになっています。いつもある程度構想をまとめたら、ついつい先延ばしになってしまい、結局直前にばたばたとしてしまうので、今年こそは早めに仕上げようと思っていたのに、やっぱりのんびりしてしまいました。でもあとは考察だけなのでゆっくり(?)仕上げます。

さて、今年の乳癌学会では、何か目新しいトピックが聞けるでしょうか?また化学療法の第1人者のW先生と、私の恩師である、御高名な乳腺外科医のY先生の熱いバトルを聞いてみたいです。それぞれの立場から、信念を持った意見をぶつけ合うのは、大変勉強になります(時々熱すぎて笑いも起こります!)。

久しぶりに一緒に研修した仲間のDrと話ができるのも学会の楽しみです。彼らから刺激を受けると、職場に戻ってからのモチベーションにつながります。学会に参加する一番の意義は、もしかしたらそこにあるのかもしれません。

2009年6月12日金曜日

Oncotype DXによる術後再発予測と抗癌剤

先日触れたSt,Gallenのレポートでも記載されていた、早期乳癌術後の再発危険度を予測する遺伝子解析は日本でも検査依頼が可能です。その一つがOncotype DXです。

適応は、以下の通りです。
①初めて乳がんと診断された患者さんで、主治医の先生と術後の化学療法を受けるかどうかを相談・検討している方。
②ステージⅠまたはⅡの浸潤性乳がんと診断された患者さん。
③エストロゲンレセプター陽性(ER+)の乳がんの患者さん。
④リンパ節転移が無い(陰性)の乳がんの患者さん。
*閉経後でリンパ節転移があり、ホルモンレセプターが陽性の患者さんも適応になりました。

これは検査受託会社の資料に書かれている内容です(http://www.oncotypedx.com/ja-JP/Breast/PatientCaregiver/IsOncotypeRight)。実際は、HER2陽性の場合は化学療法は必須なので除外されるはずです。
つまり、再発危険度を癌細胞の遺伝子検査で判定し、術後の補助療法として、ホルモン療法に化学療法(抗がん剤)を上乗せするメリットがあるかどうかを調べる目的で行なう検査です。

問題点は、今のところ検査材料(手術標本の一部)をアメリカに送らなければならないため、約45万円ほど費用がかかることです。簡単に出せる値段ではありませんので私は未だにこの検査を依頼したことはありません。道内でも今までほとんど依頼はないそうです。

ただ、もしこの検査で化学療法は不要と判定されたら、不必要な化学療法の副作用を避けれるし、化学療法にかかる費用もかからずにすむわけですから、これからは検査依頼が増えるかもしれません。

皆さんはこのような患者さんの立場だったら、45万円払ってでも検査を受けたいですか?
私が患者だったら…、お金があれば受けたいですね。でも高い…。

2009年6月9日火曜日

今年もテレビ塔がピンク色に染まります!

今日、ピンクリボン in SAPPOROの打ち合わせに行ってきました。

去年も新聞などでピンクに染まったテレビ塔が紹介されていましたが、今年も8/7にピンクのイルミネーションでライトアップされます。大通2丁目のホワイトロックというドームもピンクになるそうです。

このドームでは昼から、親子のイベントやジャズ演奏、トークショー、”Mayuーココロの星”の上映など、楽しめるイベントが予定されています。また、医療相談や患者会のブースもつくる予定です。

参加費は大人800円、子供200円で、プレイガイドなどで購入できます。出入りは自由です。映画鑑賞込みでこの値段はお得です。一部の病院にもチラシを置く予定です。

平日ですが近くにお住まいの方で、ピンクリボン運動に興味のある方は是非ご参加下さい!

2009年6月5日金曜日

抗癌剤の副作用1 味覚障害1

抗癌剤投与後に、味覚障害が出ることはしばしば経験します。ほとんどは抗癌剤終了後、数週間から数ヶ月で軽快しますので、患者さんには、”そのうち良くなるからね”とお話ししてきました。

ところがごくまれに長期にわたって症状が持続する患者さんもいます。今日、相談を受けた患者さんもそうでした。ドセタキセル投与中から、”何を食べても味がしない、砂を食べているみたい”という症状が持続。現在、ドセタキセル終了後1年がたちますが、いまだにラーメンの味もカレーライスの味もほとんど感じないそうです。

前にご紹介した、SURVIVORSHIP.jpのサイトを見せてあげて、レシピや食べ方の工夫についてご説明しました。ただ、ここに紹介されている内容は急性期の対処法で、これだけ長期にわたる症状の治療は簡単ではなさそうです。昔、「ザ・シェフ」というマンガの中で、難治性の味覚障害の女性の治療のために、主人公の味沢匠が、舌のそれぞれの味覚を感じる部位に、少しずつ刺激を与えるような食事を作って食べさせていたのを思い出しました。案外、有効なのかもしれません。

帰宅後、ネット検索してみたところ、今年の臨床腫瘍学会で、”胸部悪性腫瘍患者の味覚障害に対して亜鉛製剤が有用”という報告が出されていました(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/sp/jsmo2009/200903/509965.html)。ポラプレジンク口腔内崩壊錠75mg(商品名:プロマック錠)の1ヶ月の投薬で、14人中、13人で改善がみられたとのことです。さっそく、その患者さんにも投与を検討しようと思います。

2009年6月4日木曜日

ASCO2009レポート2 ホルモン剤と認知機能

ホルモン療法(タモキシフェン)によって認知機能が影響を受けるという報告があります。
今回、BIG1-98試験におけるタモキシフェン投与群とレトロゾール(商品名フェマーラ)投与群の認知機能の比較解析結果が報告されました。 今回の解析は、5年間の治療後の認知機能の程度を、精神運動機能の速度や視覚的注意、作業記憶(ワーキングメモリ)、言語性記憶や学習の能力のスコア化で解析したものです。
 結果は、治療開始前の認知機能が測定されていないという解析上の欠点はあるものの、術後治療としてレトロゾールを投与した乳癌患者は、タモキシフェン治療を受けた患者に比べて、認知機能が維持されていた、ということでした。
私には、タモキシフェン投与後の患者さんが明らかに認知力が低下したという経験はありませんが、タモキシフェン投与中の患者さんがうつ傾向になることがあるのと関係があるのかもしれません。
最近は閉経後の患者さんには最初からAI剤(レトロゾールなど)を処方しています。高齢者の場合、骨粗鬆症が問題になりますが、ビスフォスフォネート製剤を併用することで一定予防できます。認知機能の低下があるのであれば、高齢者であってもタモキシフェンよりAI剤のほうが良いのかもしれませんね。

2009年6月3日水曜日

ASCO2009レポート1 トリプルネガティブ乳癌の新たな治療法

6/2まで開催されていた第45回米国臨床腫瘍学会(ASCO)で乳癌治療に関する新たな知見が次々と発表されています。その一つをご紹介します。

「PARP阻害剤BSI-201とゲムシタビン/カルボプラチン(G/C)の併用で転移性トリプルネガティブ乳癌患者の生存期間が延長(http://medical.nikkeibp.co.jp/leaf/all/gakkai/asco2009/200906/510980.html)」

再発した場合に治療に難渋するトリプルネガティブ(ホルモンレセプター陰性、HER2陰性)乳癌に関する新たな治療法の報告です。米国ではトリプルネガティブ乳癌に対してゲムシタビン(ジェムザール)とプラチナ製剤(シスプラチンやカルボプラチン)の併用がよく使用されています(日本ではともに乳癌に対しては保険適応外)。今回は、この治療に、分子標的薬の一つである、PARP阻害剤を上乗せした効果をみる臨床試験の報告です。

結果は、臨床的有用率(6カ月以上の完全寛解、部分寛解、不変の合計)は、G/C群の21%に対して、BSI-201併用群では62%(p=0.0002)、奏効率(完全寛解+部分寛解の合計)はそれぞれ16%、48%であり(p=0.002)、いずれもBSI-201併用群で大きな改善を認めた、というものでした。

まだフェーズ2という臨床試験の段階ですが、生存期間の有意な延長(3.5ヶ月)も確認されており、今後のフェーズ3の結果に期待が持てる内容だと思います。

2009年5月31日日曜日

1ミリの癌を発見できる蛍光分子!?

今日のTVで特集をやってました。

東大薬学部の浦野泰照先生と米国立がん研究所(NCI)が昨年末にネイチャーに発表した内容です。
癌細胞に取り込まれると蛍光を発するような特殊な物質を結合させた抗体を、注射したり散布したりして観察すると、癌の有無や広がりを診断できる画期的な技術です。

もちろん、これが臨床応用されるにはまだ時間がかかりますが、術中の切除範囲や進行度の診断には有用だと思います。ただ、早期発見に応用できるのは、おそらく消化器癌や中枢型の肺癌などに限られるのではないかと思います。直接内視鏡で観察できない、乳癌、膵癌、肝癌などに対しては、もうひと工夫必要だと思います。

今のところ、この蛍光法を乳癌の領域で応用できそうなのは、乳頭分泌症例の乳管内視鏡時の乳管内伸展範囲の診断、乳房温存術時の切除断端の術中診断といったところでしょうか?現在行なわれている検査法以上の効果があるかどうかは不明ですが、これからの癌治療の進歩のきっかけになりそうな技術だと思います。

臨床医だけでなく、このような基礎医学に携わる研究者の方々の努力が医学の進歩に大きな役割を果たしているということをあらためて実感しました。

2009年5月26日火曜日

看護学校講義

昨日、看護学校の臨床講義に行ってきました。内容は、外科看護各論〜乳腺・甲状腺です。

甲状腺はプリントのみでさらっと(話すことがあまりないんです…)、乳腺はスライドを用いて講義してきました。
ところが、講義開始時にトラブル発生。私のMacをプロジェクターにつないでみましたが、全然写らないのです。別のプロジェクターに変えても同じ。事務員が来てくれて、あれこれ30分かかっても改善せず、諦めかけた時に自分でMacの接続部分を差し直してみると映りました!単に差し込み方が不十分だっただけみたいです。やれやれ…。

この間に、学生さんたちに、”余命1ヶ月の花嫁”を見たか聞いてみると、5人ほど映画館に見に行ってました。けっこう若い人たちにもインパクトがあったようです。映画を見た学生さんたちは、乳がん検診の重要性を理解してくれたようです。

そして、ようやく早口で講義を開始。けっこう写真をいっぱい使ったのであまり飽きずに聴いていてくれました(それでも机に伏せて熟睡してた学生もいましたが…)。最近の看護学生さんは昔に比べると授業態度は良くなったような気がします。そういえば浜松オンコロジーセンターの渡辺亨先生が、ブログの中で、大学に講義に行った時に態度の悪い学生がいたので激怒して講堂から出て行かせたと書いていました。気持ちはわかるような気がしますが、私には激怒したあとで、何事もなかったように講義する自信がないので、聞く気のない人は黙って寝かせておきます。結局、そういう姿勢は、看護師になった時に自分が困ることになるわけだし、何の得にもならないですからね。

来週もう1回、別のクラスで講義があります。まじめに聞いてくれるように魅力的な講義をしたいものです。

2009年5月24日日曜日

Breast Cancer Forum 2009〜St.Gallen 2009の報告

昨日、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催されたBreast Cancer Forum 2009という講演会に行ってきました。

プログラムは、①St.Gallen 2009の報告会、②スイスからの招待演者によるBIG1-98というタモキシフェンとレトロゾールの比較試験の報告、③「ホルモン感受性乳癌の標準治療を探る」というテーマのパネルディスカッションで、全国から800人以上の乳腺外科医が集まりました。

ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、St Gallen(ザンクトガレン)という国際会議は、それまでに集積された臨床試験結果をもとに、乳癌の再発リスク分類の方法を決めたり、初期治療の方法を話し合う会議です。最近では2年に1度行なわれています。

St.Gallen 2009のトピックを一部抜粋します。

①ホルモン感受性の判定基準が10%から1%に引き下げられ、より多くの症例にホルモン療法の適応を与えるようになった。HER2は、逆に10%から30%に引き上げられ、適応が厳密になった。
②再発リスクをリスク因子をもとに低リスク、中間リスク、高リスクにまず分けてから、治療法を提示する考え方から、治療法別にその患者さんに投与する妥当性があるかを検討する方法に変更された(これは簡単に説明するのは難しいです)。最終的に問題になるのはホルモンレセプター陽性、HER2陰性の乳癌で、この群に抗癌剤を上乗せするかどうかの判断は、ホルモンレセプターの発現程度や組織学的異型度、腫瘍径、リンパ節転移数、脈管浸襲の程度、増殖能(ki67など)で判断することになった。
③Mamma PrintやOncotype DXなどの多遺伝子発現解析が再発予測因子として認識され、今後の臨床応用に道筋ができた。
④センチネルリンパ節生検は標準的治療法と認定された。ただ、微小転移と取り扱いについては結論は先送りされた。
⑤トリプルネガティブ乳癌の治療については、現在臨床試験が進行中という報告にとどまった(イグザベピロン、プラチナ製剤、PARP阻害剤など)。

こんなところです。ちょっと難しいですね。
興味深かったのは、術前内分泌療法についての招待演者の先生のコメントです。St.Gallen 2009では、ホルモンレセプター強陽性、HER2陰性の乳癌に対しては、抗癌剤があまり有効ではなく、ホルモン療法の投与は妥当であるというvoting(観客がスウィッチを押して質問に答えて集計する方法)の結果であったにもかかわらず、実際の欧米の医師はほとんど術前内分泌療法を行なっていないという招待演者の先生のお話です。効果があるとわかってはいても、慣れ親しんだ化学療法を選んでいるというのが実態のようです。現在、日本で行なわれている術前内分泌療法の結果が出れば、世界的に考え方が一変するかもしれません。

1日だけの講演会でしたが、なかなか勉強になりました。
なお、NPO法人 がん情報局のHPにSt.Gallen 2009の論文の日本語訳が出ています(http://www.ganjoho.org/)。興味のある方は、ご参照ください。

2009年5月20日水曜日

術式の選択〜センチネルリンパ節生検について

つい数年前までは、乳癌の標準術式では腋窩リンパ節郭清が必須でした。理由は、切除して調べなければ微小な転移があるかどうかわからなかったからです。その結果、リンパ節転移が結果的にはなかったのに、後遺症のリンパ浮腫に悩まされる患者さんが多く発生していたのです。

そこで、最初に転移するリンパ節(見張りリンパ節=センチネルリンパ節)を手術中に調べて、転移がなければそれより先のリンパ節に転移はないだろうから腋窩郭清を省略しても良いのではないか、との仮説のもとで始められたのが、センチネルリンパ節生検です。後でも述べますが、色素や核種(放射性物質)を腫瘍周囲に注射して、最初にそれらが流れ着くリンパ節をセンチネルリンパ節として同定しました。この方法を多数の患者さんで検証した結果、良好な成績が得られたため、現在では標準的な手技として世界中で行なわれるようになったのです。

1.センチネルリンパ節生検の適応
腫瘍の大きさは施設によってまちまちですが、おおむね2-3cm以下を適応にしている病院が多いようです。
また、明らかなリンパ節転移がある場合は、適応外です。術前化学療法を行なった場合は、前回コメントの返事で書いたように、適応には注意が必要です。センチネルリンパ節に転移していた癌細胞は消えていて、他の転移リンパ節では生き残っている可能性があるからです。また、診断のために腫瘍を摘出してしまったあとにセンチネルリンパ節生検をしようとすると、傷によってリンパ液の流れが変わってしまっていて、別のリンパ節をセンチネルと誤認してしまう可能性があるため、原則的には適応外になってしまいます。

2.センチネルリンパ節の同定方法
①色素法…インジコカルミンなどの色素を腫瘍直上の皮膚や腫瘍の周囲、乳輪部に注入→腋窩を切開し、染まったリンパ管を探して、一番乳腺に近いリンパ節を同定する。利点は安価で簡便なこと、欠点は、リンパ管の同定が難しい場合があることや、センチネルリンパ節が2個あったり、腋窩以外にある場合に対応できないこと。
②RI法…核種(放射性物質)を色素法と同様に注入。ガンマプローブという放射線探知機で核種が集まったセンチネルリンパ節を同定する。利点はセンチネルリンパ節を見つけやすいため小さな傷ですむこと、センチネルリンパ節が複数あったり、腋窩以外でも同定できること、欠点は放射性物質のため、取り扱いが煩雑なことと高価なこと。

*私のところでは、色素法を行なっていますが、上記の欠点を補うために、術前日にCTリンフォグラフィという方法を併用しています。これは造影剤を少量、色素法と同様に注入してからCTを撮影する検査です。リンパ管やセンチネルリンパ節が明瞭に描出され、立体的な位置関係がわかります。センチネルリンパ節がどこにあっても複数あってもわかりますし、リンパ節の部位をCTを見ながらマークしておけば、翌日の色素注入時には簡単に見つけることが可能です。同定率はいまのところ100%です。

3.センチネルリンパ節生検の問題点
①もし転移があって、リンパ管を閉塞させていた場合には、流れが変わって別のリンパ節が染まってしまい、誤った判断をしてしまうことがある。
②色素法単独では、腋窩外(胸骨傍や鎖骨下)にある場合や複数ある場合にすべてを摘出できない場合がある。
③術中の病理検査の限界(微小な転移は少ない切片では診断できない場合がある)。

以上のような課題はありますが、現在までの報告では、臨床適応はほぼ問題ないと考えられています。この手技の確立により、多くの患者さんがリンパ浮腫の不安から解放されました。ただ、温存手術と同様に適応を拡大しすぎると、せっかくの素晴らしい手技に疑念を与える結果になりますので、慎重に考えていくべきだと思っています。

2009年5月16日土曜日

術式の選択〜乳房温存術か?乳房切除術か?

乳癌のコミュニティを覗いてみると、術式の選択で悩んでいたり、間違った知識を持っていたり、という状況をよく目にします。
そこで今回は、乳癌の術式とその特徴、選択基準について書いてみます。

乳癌の術式には、大きく分けて二つあります。乳房をすべて切除する、胸筋温存乳房切除術(簡単に乳房切除術とここでは書きます)と乳腺を部分的に切除する乳房温存術です。

まず、乳房温存術の主な適応ですが、大きさ3cm以下、1個(ないし一括して切除できる2個まで)であること、諸検査で癌が乳管内を広く拡がっていないこと、術後に放射線治療が可能なこと(重篤な肺合併症や皮膚疾患、膠原病などがない)、患者さんが希望していること、などです。リンパ節転移が多いと予測される場合は、炎症性乳癌型という厄介な再発をすることがあるので、避ける場合もあります。 拡がりは、通常、MRIまたはCTで調べて、温存術で切除可能か判断します。

これらの条件を満たさなければ、基本的には乳房温存術の適応外ということになります。ただ、癌の大きさが3cm以上でも、抗癌剤を先行させて(neoadjuvant chemotherapyと言います)、小さくしてから温存術をする場合もあります。

さて、これらの条件を満たし、温存手術可能と判断された場合は、乳房温存術でも乳房切除術でも選択可能です。乳房温存術の適応があっても乳房切除術を選択される場合もあります。それは、以下のようなmerit、demeritがあるからです。

1.乳房温存術
merit…美容上優れていること、通常のブラジャーの着用が可能であること。
demerit…放射線治療が必要であること。癌が残ってしまう可能性があること(約10-20%。この場合は、再手術または電子線という放射線の追加治療が必要です)。局所再発の可能性が少し高いこと(10年で約10%)。

2.乳房切除術
merit…1回の手術で終了し、放射線も原則不要であること。局所再発は極めて稀であること。
demerit…美容上劣ること(乳房再建術という方法もあります)。特殊なブラジャー(けっこう高価です)が必要になること。

つまり、乳房温存術のmerit、dmeritは乳房切除術のそれと正反対の関係にあります。 ちなみにどちらの術式でも適応を守れば、生存率に差はありません。また術後の合併症・後遺症も大きな差はありません。
患者さんの癌の広がり具合いや進行度、ライフスタイル、考え方に合わせて、最終的に術式を決めています。

乳腺の切除方法とは別に、腋窩のリンパ節を切除するかどうかも大きな問題です。これについてはまた別の機会に書くことにします。

2009年5月14日木曜日

代替補完療法3 フコイダン

フコイダン(フコダインと記載しているのは誤りのようです)は、海草類に含まれる硫酸多糖の一種です。
乳がんをはじめ、進行したがんに効くという評判が一部であるようですので調べてみました。

フコイダンは、1900年代前半に発見されましたが、特に1996年に日本癌学会で制癌作用が報告されてから注目されて研究されていたようです。動物実験では、免疫力に与える効果だけではなく、直接的に癌を自然死(アポトーシスと言います)させる作用があるため、一部の臨床研究者によって患者さんに投与され、その効果が報告されています。

NPO法人”日本がん代替医療情報センター”のHPにフコイダンのアピールが出ていました。吉田医院の吉田年宏先生が熱心に研究されているということです。そこには、学会発表で報告されているという宣伝がなされていますが、信頼できるエビデンスとは言えない、臨床報告のみです。吉田先生が治療されている”末期がん”3例についても、放射線・化学療法を併用した肺癌の症例、術後わずか2ヶ月の胃癌症例、抗癌剤の肝動脈注入を併用した肝臓癌症例であり、フコイダンの効果があると言えるような報告ではありません。

動物実験では、担がんマウスにMekabu Fucoidanを経口投与したところ、生存期間が延長し、正常マウスに投与するとナチュラルキラー(NK)活性やT細胞のIFN-γ産生が高まったという報告があります。しかし、動物実験で効果があったとしても、人間に対して効果があるという保障はまったくありません。動物実験で効果があったのに人間に効果がない、または副作用で臨床応用できない例は山ほどあるのです。
ちなみにフコイダンの人間に対する安全性・有効性についての臨床試験の文献は、調べた範囲内ではないようです。

以上から、現時点では、フコイダンが、乳がん、もしくは他の癌に対して効果があるという証明はなされていないということが言えます。もちろん、可能性はあるかもしれません。しかし、現在国内の一部の医師が投与しているようなやり方では、その効果の立証は不可能です。本当に効果があると考えるなら、なぜ臨床試験をしようとしないのか不思議です。

私は、患者さん、個人個人の判断で、フコイダンを試すのは否定しません。しかし、(人間の)癌に効くと宣伝するのは違法ですし、現在の標準治療をやめてフコイダンのみで治療するのも反対です。現時点では、標準治療がまったく効果がなかった場合であったり、標準治療に併用する形であれば許容されるかもしれません。しかし、安全性の保障もされていないことを考慮して判断して下さい。また、巧妙に患者を装って、mixiなどの乳がん患者さんのコミュニティに入り込んで来る業者もいますので注意しましょう。

2009年5月12日火曜日

訃報…

乳がん闘病記「おっぱいの詩」の著者で映画「Mayu-ココロの星-」のモデルでもある、大原まゆさんが5/9にご逝去されたというニュースを今朝見ました。
きっと、まゆさんの明るく前向きに生きる姿に励まされた乳がん患者さんはたくさんいたことでしょう。それだけに、この訃報のショックは大きいですよね…。

私は、イベントの準備会と講演で2回ほどお目にかかっただけですが、目がきらきらした、明るく素敵な女性でした。
21才で発症、26才という若さで天に召されてしまったまゆさん…、きっとつらいことがたくさんあったと思いますし、もっとやりたいこともいっぱいあったと思いますが、あまり表には出さずに乳がんと必死に闘い、明るく生き抜きました。そして若年者の乳がん啓蒙活動に大きな力を与えてくれました。その意志は、きっと多くの人に伝わったはずです。

まゆさん、本当にお疲れさまでした。心よりご冥福をお祈りいたします。

細胞診練習用キット〜第2弾!




連休前の失敗作を教訓に、技師さんにお願いして作ってもらった第2弾です。

写真2枚目は装置(?)の外観です。表面の白っぽい部分は、皮下脂肪に見立てた牛乳を混ぜた寒天(前回はスポンジに寒天をしみ込ませて失敗)、その下にあるピンク色の部分は、乳腺組織に見立てたスポンジに寒天をしみ込ませたものです。この部分に腫瘤に見立てた消しゴムを削った球を埋め込みました。

写真1枚目はエコーで見ながら穿刺針を刺しているところです。表面の真っ黒な部分が脂肪に相当する寒天、その下の白っぽい部分が乳腺組織のスポンジ、スポンジ内部にある真っ黒な塊が腫瘤のゴムです。
今回は、皮下脂肪内の針は明瞭に見え、乳腺組織部分もかなり実物に近くなりました。しこりはまるで硬癌のような影を引いています。ゴム内部の針先はまったく見えないため、少し改善が必要かもしれません。
今度はグミのしこりやこんにゃくゼリーのしこりなんかも試してみようかと考えています。

普段見ないいろいろなものがエコーでこんなふうに見えるということがわかって、なかなか面白かったです。もちろん、乳腺エコートレーニング中の技師さんに練習してもらい、感覚を覚えてもらいましたし、役に立ちました。
ただ、実用化するためには、寒天はもろいので耐久性を増すことと、生ものなので防腐の工夫が必要だと感じました。またいつかチャレンジしてみます!

2009年5月10日日曜日

ピンクリボン・デー

今日は、道内2カ所でピンクリボン関連のイベントがありました。
札幌ドームでは、日本ハムファイターズの田中賢介選手が中心となって企画、ピンクリボン in SAPPORO実行委員会と北海道対がん協会の協力で、抽選で50名に無料マンモグラフィ検診が行なわれました。試合中は選手たちがピンクリボンのリストバントを身につけ、TVを通して乳がん検診の啓蒙活動を行なってくれたようです。田中賢介選手は、試合の方でも活躍してお立ち台に上がりました!でも残念ながらインタビューでは、ピンクリボン運動については触れてくれなかったようですね…。
一方。小樽では、”ピンクリボン・ファミリー”主催の、「母の日」イベントがウィングベイ小樽で行なわれました。母の日にお母さんの健康を考えてみませんか?というテーマで行なわれたピンクリボン啓発運動です。残念ながら見に行くことはできませんでしたが、乳がんのリーフレットの配布や啓発グッズの販売、お母さんに「ありがとう」のポストカードを送るコーナー、小樽市保健所による健康相談など盛りだくさんのイベントだったようです。
去年は、「ピンクリボン in SAPPORO - さっぽろテレビ塔」の乳がん検診のお手伝いに参加しましたが、今年も諸事情が許せば、是非参加したいと思っています。

2009年5月6日水曜日

ゾメタと下顎骨壊死1

骨転移の治療薬である、ゾメタの有用性については前にも書きました。
今回は、ゾメタ投与時に一番問題になる、下顎骨壊死について書いてみます。

ゾメタに代表されるビスフォスフォネート製剤は、骨の中の破骨細胞という骨を溶かす細胞の働きを抑えて、骨転移した癌細胞が骨内で増大したり、骨折しやすくなったりする状態を改善します。しかし、一方で歯科治療、特に抜歯などの観血的治療をしたあとに、下顎骨の壊死、感染(骨髄炎)を起こすことがあります。私の患者さんでも一人発症した方がいましたが、ずっと頬の部分から排膿して、治療に難渋しました。

下顎骨壊死とゾメタの因果関係にはいろいろな説がありますが、最近では、破骨細胞の働きを抑えることが主たる原因ではなく、ゾメタが口腔内細菌を増やし、バイオフィルムという状態を作り出すことが深く関与していると考えられています。それは、壊死部に口腔内細菌が増殖していること抜歯前に口腔内清掃をしたり、予防的に抗生剤を投与すると下顎骨壊死の発生率が抑えられたというデータから推測されています。

また、ゾメタは血管新生抑制作用もあるため、抜歯後の創部の治癒を遅らせることも下顎骨壊死を起こしやすくする原因と言われています。喫煙者も同様の理由で起きやすいようです。

現在のところ、予防法は完全に確立しているわけではありませんが、とりあえず気をつけること、対処法は以下のとおりです。
①乳癌患者さんは、日常的に歯科で定期的なチェックをしておく。治療すべき歯は抜歯も含めて治療しておく。喫煙は、できるだけ避ける。
②骨転移治療中に抜歯が必要になった場合、休薬が可能な状態であれば、抜歯の3ヶ月前から抜歯後2ヶ月までゾメタを休薬する。実際は5ヶ月の休薬は困難な場合が多いが、可能な限り長く休薬する方が発症率が低いため、主治医と相談して休薬する。
③休薬が困難な場合、口腔内の十分な清浄化(イソジンのうがいなど)、前日からの予防的抗生剤投与の上で抜歯(抜歯創は縫合閉鎖)。

いずれにしてもゾメタ投与中の患者さんは、こういう副作用があることを十分に理解して、主治医と歯科医と口腔内の状態について、よく相談しておくことが重要だと思います。

2009年5月2日土曜日

細胞診練習用キット〜結果報告


これは、先日作成した、腫瘤を埋め込んだスポンジに寒天を吸い込ませて固めたものを横から見た写真です。
3層になっているのがわかりますか?
見た目はつやつやして綺麗だし、触り心地もぷにゅぷにゅしていてなかなかいい感じでした。技師さんの印象も悪くなく、期待しながらエコーを当ててみると…。

全然内部構造が見えません…。十分に抜いたつもりでも細かい空気が残っているためなのか、そもそもスポンジの構造のせいで超音波が散乱するためなのか、両方なのか…。かろうじて中に埋めたゴムの腫瘤は確認できましたが、これも真っ黒。硬癌には見えますが、良性腫瘍には適さないようです。
どっちにしても今回の試作品は失敗におわりました。

さっそく技師さんと、次作の計画を立てました。今度は技師さんに作成をお願いしました。第2作は、乳腺構造に柔らかいスポンジを使って、脂肪部分は寒天に何か混ぜ物(羊羹みたいに)を入れてみようかと思っています。一回の失敗くらいでめげないで頑張ります。

2009年4月30日木曜日

細胞診練習用キット

最近、新しい超音波検査技師さんが乳腺エコーの担当の仲間になりました。いま乳腺疾患のエコー診断の猛特訓?中です。
慣れてきたら、優しい症例から細胞診に入ってもらう予定です。

うちの病院の細胞診は、超音波ガイド下で穿刺するのを基本としています。超音波技師さんにエコーを当ててもらって、穿刺予定線を画面に出して目標に合わせてもらい、医師が針を刺して細胞を採取するんですが、簡単そうでこれがなかなか難しいのです。特にしこりが小さい場合は、ちょっとした装置の当て方で腫瘍から針がずれてしまいます。検査技師さんの当て方にコツがあるので、検査技師さんも穿刺する医師も十分な経験が必要なんです。

そこで、人体に初めて穿刺する前に練習できる模型があれば、技師さんも慣れない医師にとっても良いのではないかと考えて、練習用キットを作成してみることにしました!
でもいいモデルがないので、素材に悩みました…。超音波を通すこと、一定の柔かさがあり、かといってあまりふにゃふにゃじゃないもの…。100円ショップに行って1時間見てまわりました。

とりあえず第1作は、以下のように作ってみました。

①素材のメインは、家庭用のスポンジ。木目が細かく均一な柔らかい部分と硬めの薄い粗な繊維の2層からなるどこにでもあるスポンジです。これを2枚、柔らかい部分は1cm幅くらいに薄くします。
②腫瘤は、柔らかめの消しゴムを削って3種類の形を作りました。
③この腫瘤を2枚のスポンジの粗な面の間に置いて(少し削りました)、はさみます。
④粉の寒天を通常の2倍の濃度になるように熱湯で溶かします。
⑤合わせたスポンジをプラスチック容器の中に置いて、上から溶かした寒天を注ぎます。固まる前にスポンジを何度も押して空気を抜きます。
⑥冷蔵庫に入れて冷やして固まったらラップで包んで終了。

試作品は現在冷蔵庫の中。土曜日にエコーでどんな感じに写るか見てみます。問題は空気が完全に抜けているか(空気があると見えなくなります)、消しゴムがきちんとエコーで見えるかでしょうか?
まあたぶん失敗だと思いますが、何度でもチャレンジしてみたいと思います。

(ちなみに初めて寒天を溶かしてゼリーにしてみましたがなかなか面白かった!はまりそうです。)

2009年4月27日月曜日

乳癌の治療最新情報3 ”ラパチニブ承認!”

ついに正式にラパチニブが承認されました!発売は6月の予定です。

今回取得した適応は、癌細胞にHER2という受容体が過剰に発現している(HER2陽性)乳癌で、アントラサイクリン系抗悪性腫瘍剤(FECやECなど)、タキサン系抗悪性腫瘍剤(パクリタキセルやドセタキセル)、および、ハーセプチン(トラスツズマブ)による化学療法後の増悪または再発の患者に対するゼローダ(カペシタビン)との併用療法という限定したものですが、治療に難渋していた患者さんにとっては朗報です。

この薬剤の特徴は、脳転移にも有効なこと(ハーセプチンは無効なことが多い)、HER2だけではなくHER1(EGFR)という受容体にも作用するため、ハーセプチンとは作用機序が異なること、経口薬剤であること(毎週受診しなくていい!)、ハーセプチンと異なり心毒性が少ないことが挙げられます。問題点としては、ハーセプチン同様に高価であること、今のところゼローダとの併用でしか投与できないことです(販売価格は未定)。

今後は臨床試験を重ねて、早く他の薬剤との組み合わせも可能になって欲しいものです。

2009年4月24日金曜日

ピンクリボンチーム!

今年も6月某日、とある場所でママチャリレースがあります。

去年、初めてこのレースに参加しました。うちの病院では3チーム出場しましたが、私の参加したチームは、主に乳腺診療に関わっている乳腺外科医、病理医、検査技師などでメンバーを編成し、背中に「乳がん検診を受けましょう!」とマジックで書いたゼッケンをつけて出場しました。結果は自慢できるようなものではありませんでしたが、なかなか楽しかったです。

今年も参加するように誘われたので出場予定ですが、今回はもう少し目立つようにTシャツでもそろえて、ピンクリボンマークと啓蒙の文字を印刷してみようかなと思ってます。

成績は二の次。ローカルなピンクリボン運動のつもりで頑張ります!