2013年5月22日水曜日

乳癌の治療最新情報35 高齢者乳がんに対する重粒子線治療

乳がんに対する手術以外の局所治療としては、ここでも何度も取り上げましたが、国内で臨床試験が行なわれているラジオ波焼灼術(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/03/blog-post_22.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/01/rfa.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/05/rfa.html)、国際間での臨床試験が行なわれているMRガイド下FUS(集束超音波手術)(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2009/11/mr.html)などがあります。

今回、それらに加えて新たな局所治療の臨床試験が開始されると発表されました。今回の局所治療は「重粒子線」を用いた治療です。重粒子線はお聞きになったことがある方も多いと思いますが、専用の加速器で作られた放射線をピンポイントで病巣に照射するもので、切除不能な悪性腫瘍に対して繰り返し治療ができるという利点があります。一方欠点としては設備が非常に大がかりになるために全国でもごく限られた施設でしか行なえないこと、費用が非常に高額であることが挙げられます。

放射線医学総合研究所が発表した臨床試験の概要によると対象は以下の通りです。

年齢:60歳以上
腫瘍の大きさ:2cm以下で広範な乳管内進展がない
進行度:リンパ節転移や遠隔転移がない早期乳がん

最近では高齢者の乳がん患者さんは少なくなく、合併症で手術が行えない方もいらっしゃいます。そのような方に対する局所療法としては期待できるかもしれません。ただ広く普及するためには上に述べた欠点の解決が必要です。また2cm以下の乳がんなら局所麻酔での手術でも切除可能ですのでそれを上回るメリットがあるのかどうかの検討も必要でしょう。ただいずれにしてもこのような臨床試験が新たな局所治療の道を切り開いてくれる可能性はあると思いますのでその成果に期待したいものです。

2013年5月19日日曜日

PEM(Positron Emission Mammograohy)のお話

昨日は市内某ホテルにて製薬会社主催の研究会がありました。

この会はもう年々も続いている研究会で、毎回トピックな内容の講演を聴くことができます。今回の講演のテーマは、
①「PEM(Positron Emission Mammograohy)について」(ゆうあいクリニック 小澤幸彦先生)
②乳癌骨転移-BONE-Modifying Agentsの最適な使い方を目指して」(国立がん研究センター東病院 向井博文先生」
の2つでした。

PEMというのは、乳房専用のPET検査だと考えれば良いと思います。通常のPET-CTでは、小さな乳がんの検出率はあまりよくありませんでしたが、PEMではマンモグラフィのように乳房を挟んだ状態でさらに検出器を乳房に近づけることによってより明瞭な画像を作ることができるようになったそうです。マンモグラフィや超音波検査、MRとは異なり、PETやPEMは糖代謝が盛んな部位(がん細胞もその一つ)に核種(FDG)が集まることを利用した生理的機能を画像化した検査です。

いろいろな症例を見せていただきましたが、若年で乳腺濃度が高い方のマンモグラフィではまったく見えない腫瘤が明瞭に描出されていたり、指摘されていなかった多発病巣が発見されたりとなかなか優れものの器械だと思います。ただ、本当の早期(微細石灰化で発見されるような非浸潤がんなど)の検出率(感度)がどのくらいあるのかなどの検討はまだ不十分です。また一人あたり両側乳房で約40分かかること、被爆線量の問題(2.4mSv)、費用の問題(自費で3-4万円とのことですが、現状では必ず全身PET検査にオプションの形で追加されることになりそうですので自費で総額約13-14万円くらいになる見込みいうことです)など通常の乳がん検診としてマンモグラフィより適しているとは言い難いのが現状のようです。

ただMRと同様にある特定の対象(若年者、マンモグラフィでdense breastだったり人工乳房の入っている方)に対する検診としてや遺伝性素因のある方に対する追加検査として、乳がんと確定した患者さんの術式決定のための補助的検査や乳房温存術後の局所再発検索目的などにおいては有用性が期待できそうです。

骨転移の治療に関するお話は今までもここで何度か取り上げています。今回は技師さんたちが参加していたこともあり、骨転移とBone-Modifying Agents(ゾメタやランマーク)について基礎からわかりやすく説明して下さいました。ゾメタからランマーク(逆についても)への変更のタイミングや有益性などについて検証する臨床試験が計画されているというお話はとても興味深かったです。

2時間の講演会終了後は懇親会に参加して帰宅しましたが、とても勉強になりました。

2013年5月16日木曜日

ピンクリボン in SAPPORO 理事会&懇親会

昨日市内某ホテル地下の中華料理店にて「ピンクリボン in SAPPORO(旧ピンクリボン in SAPPORO 実行委員会)」の 第1回理事会が行なわれました。

今までの実行委員会をもう少しきちんとした形にするということで今回初めて理事会が結成され、規約の改正や今年度の活動などについて討議されました。

理事会結成の経過の詳細や規約については割愛しますが、地方自治体や企業から寄付や協賛金をいただきながら活動しているので、様々な点に留意しなければならない大変さを知りました。三角山放送局の皆さんをはじめ中心になって会を運営して下さっている皆さんには本当に頭が下がります。

今年度の活動として、まずは夏のピンクリボンイベントがあります。今年も大通の歩行者天国を使用して8/25に開催されます。詳細は後日アップしますが、今年もまたにぎやかなイベントになりそうです。これに関連して、いつか札幌駅と大通を結ぶ地下歩行空間を利用したイベントが何かできないかというような意見が出されました。パネルを用いた乳がん啓発活動などができれば良いと思うのですが、予約がかなり先まで埋まっているようで簡単ではないようです。

また、ピンクリボンコンサートという催しも行なっているのですが、今年度はまだどこで行なうかは決まっていません。私の病院でもいつかできれば…と思いましたが、あの場では言えませんでした(泣)

そして昨年まで行なわれていた日本ハムファイターズの田中賢介選手の乳がん検診イベントですが、賢介選手が移籍してしまったために後継者の選択が行き詰まってしまっているようです。賢介選手の意向や球団がどこまで関わってくれるかという課題があり、なかなか簡単ではないようです。個人的には、選手個人にお願いするより、ファイターズにお願いして「1勝につき1人の乳がん検診をプレゼント」みたいにすると良いのでは?と意見を述べたのですが、1つの団体にOKするとさまざまな団体から同じような依頼が来る可能性があるので難しいようです。誰か後継者になってくれると良いのですが…。

理事会が終わってからは懇親会がありました。私は高名なS医大のH教授の隣りでしたのでかなり緊張しましたが、H教授は気さくな先生でいろいろと話しかけて下さり、私と同じ高校の大先輩であることもわかりましたので楽しくお話しさせていただきました。また、ちょうど昨日、アンジェリーナ・ジョリーが予防的乳房切除を受けたニュースが大々的に報じられていましたので、遺伝性乳がんや予防的乳房切除、乳房再建の話で大変盛り上がりました。

18:30に始まった会でしたが気がつくといつの間にかすっかり遅くなってしまいましたがとても楽しい時間を過ごすことができました。また、中華料理(なんとなく洋風な印象でした)も紹興酒もとても美味しかったです(笑)リニューアルしたこの会をさらに発展させて、乳がんの啓発活動を盛り上げていければと思いながら帰ってきました。



2013年5月11日土曜日

乳がん検診実施医療機関以外で精検を受ける場合の注意点

検診で精査が必要と判定された場合、その施設によって通知方法は様々です。対がん協会からのご紹介の場合は、検診の判定用紙、精検医療機関宛の紹介状、精検結果報告用紙そして返却不要のマンモグラフィフィルムを持参して来院されます。こういう場合は非常に対応がしやすいです。

最近増えてきたビル内にあるような検診専門のクリニックでの乳がん検診の場合は、所見には比較的細かく書いている場合もありますが(「カテゴリー3:右UにFAD」 など)、フィルムは持参されない場合がほとんどです。

しかし、乳腺外科のある一般病院での検診の場合は、要精検と判定された場合は自施設に来院することを前提と考えているためか要精検の通知内容が不十分で、マンモグラフィフィルムも持参されないケースが多いようです。

先日、市内の病院で乳がん検診(企業検診)を受けて要精検となった方が精査を希望されて私の外来に受診されたのはまさにこのケースでした。検診結果には「右カテゴリー3」のみしか書かれていません。所見の部位も内容(石灰化なのか腫瘤なのかFADなのか構築の乱れの疑いなのか)もまったく記載がありませんでした。もちろんフィルムの持参はありませんでした。

こういう場合は非常に困ります。通常、マンモgフラフィ検診で要精検になった場合はまずは超音波検査を行ないますが、微妙な病変の場合(淡い石灰化の集簇や構築の乱れなど)部位も所見内容もわからない状況で観察するのは技師にとってはかなりのストレスであり、見逃しの可能性も出てきます。

以上について受診者にお話しし、やむを得ず以下の選択を提示しました。

①当院ではなく検診を受けた医療機関に戻って精査を行なう
②検診医療機関に連絡をしてフィルムを送ってもらってから(もしくは取りに行ってもらってから)再度受診して当院で検査を行なう
③当院でマンモグラフィをもう一度取り直して再度判断する
④とりあえず超音波検査を行ない、同時に検診機関にフィルムの借用を依頼し、後日超音波検査結果と整合性をこちらで判断し、場合によってはもう一度来院してもらって追加検査を行なう

①は何かあった場合の通院の利便性から患者さんは希望しませんでした(検診は企業の指定があったためその施設で受けたようです)。③については本来不必要な被爆と費用が生じてしまうため、私はお勧めしないとお話ししました。②か④かというところでしたが、忙しい方のようでしたので、今回は④を希望され超音波検査を受けてお帰りになりました。同日その検診機関にマンモグラフィフィルム借用の依頼状を送り、後日再検討の予定です。

他の医療機関では③を選択している所が多いようです。しかし上に述べた理由で私はあまり望ましいとは思いません。本来、検診機関できちんとフィルムをご本人にお渡しするべきなのですが、なかなか実際にはそのシステムがうまくいっていないように思います。

検診はやりっ放しではやはりまずいですね。結果通知はもう少し受診者がわかりやすいような工夫が必要だと思います。要精検結果の通知の用紙に、「他施設に受診する際はフィルムをお渡ししますのでご連絡願います」と記載するだけでも良いのではないかと思います。また、検診受診者も検診施設以外の医療機関で精査を受ける場合、フィルムの持参がなければもう一度同じマンモグラフィ(本来受ける必要のない)を受けなければならないかもしれないことを知っておく必要があります。検診施設に問い合わせればなんらかの形でフィルムを渡してくれるはずですので無用な被爆と出費を避けるようにした方が良いと私は思います。

2013年5月8日水曜日

第10回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会〜実行委員会

今日、第10回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会〜の実行委員会がありました。

午後の手術開始が遅れたため間に合わないかと思いましたが、少し早めに手を下ろさせてもらってなんとか19時からの会議に間に合いました。

今年度初めての実行委員会でしたが、すでに札幌医大関連の先生方がほとんどの下準備をしていて下さっていますので、内容の確認と意見交換が主でした。もう講演の内容や演者もほぼ決まっていますが、詳細はポスターが完成してからまた報告します。

現在のところ公表しても差し支えなさそうなのは以下の内容です。

日時:2013.8.24(土) 12:30-16:30
場所:札幌医大研究棟1F大講堂(いつもの場所です)
参加費:1000円
申し込み方法:市内の乳腺疾患を扱っている主な病院に置いてある(以前住所を書いた参加者には直接郵送)チラシにあるハガキを切り取って返送
チラシ配布(申し込み開始)時期:2013.6上旬予定

もし札幌市外在住などでチラシを受け取ることが難しい方は、以下の問い合わせ先に6月上旬以降に連絡してみて下さい。

問い合わせ先:東札幌病院内 With You Hokkaido事務局 TEL: 011-812-2311 FAX: 011-823-9552(受付時間:月曜日-金曜日 9:00-17:00)

2013年5月6日月曜日

明日はいよいよ新病院オープン!

今日は新病院移転後初めての回診当番でした。

外科病棟の乳腺患者さんは引越の関係もあって非常に少なく、緩和病棟にいる2人も含めて落ち着いていましたので回診自体はすぐに終わりました。創処置のために1人外来受診したので中央処置室で診察しましたが、新しい処置室は広くてなかなかいいです(笑)

そのあとまた病院内を探索してみましたが、まだオリエンテーションがつかず、迷子になりそうでした(汗)それにしても休日だというのに、今日も多くの職員が来ていて、明日の開院のための準備をしていました。まだすべての機器の準備が整っていないようです。明日までに間に合うのかちょっと心配です。

化学療法室も覗いてみましたが、誰もいませんでした。荷物の搬入は終了し、無事明日の開院を迎えられそうです。今度からベッド数は6床から10床に増えますので受け入れ患者数に余裕ができます。新しく面談室もできますし、全体的にかなりスペースは広くなります。

また、新しい化学療法室には診察室あります。他の医師の診察の時に私が居場所を失うこともなくなりますのでうれしいです(化学療法室長とは名ばかりなのです 笑)。

いよいよ明日開院です。でも私は午前中は関連病院の外来のため開院セレモニーには出れません(泣)
せっかく建物をリニューアルしましたので、内容もさらに充実させて、多くの患者さんにここにかかりたいと思っていただけるような病院にしていきたいものです。

2013年5月3日金曜日

豊胸術と乳がん術後の予後

豊胸術後に乳がんと診断された患者さんの予後に関する研究結果が報告されました(BMJ 2013; 346: f2399 http://press.psprings.co.uk/bmj/may/breastimplants.pdf)。

北米では,美容目的で行われる豊胸手術がこの10年間で増加の一途をたどっているそうです。その一方で,豊胸のために用いられたインプラントがマンモグラフィによる乳がん検診の妨げとなる可能性も指摘されています。日本における精中委の見解では、インプラントを挿入している患者さんへのマンモグラフィ検診は、圧迫による破損の可能性なども考慮して原則的に推奨できないとされています(http://www.mammography.jp/mammo/oshirase16.html)。

今回の報告は、1990年以降に発表された、豊胸手術が乳がんと診断されたときのステージと診断後の生存に影響するか否かに関する12の研究についての系統的レビューとメタアナリシスです。

結果は、
①豊胸手術を受けていない女性を基準とした場合,豊胸手術を受けた女性で乳がんの診断が遅れるオッズ比(OR)は1.26(95%CI 0.99~1.60)で,リスクは上昇傾向にあった。
②乳がんによる死亡のORは1.38(同1.08~1.75)で,豊胸手術を受けた女性で有意に高かった。
というものでした。

しかしこの研究の発表者は、この解析にはいくつかの問題もあるため、今回の結果はあくまで警告レベルにとどめるべきとしているようです。ただ実際に豊胸術後の患者さんには検診マンモグラフィは施行できない(または施行しても診断精度が落ちる)ため、この問題を解決する手段を考えなければなりません。先日参加した乳房再建の研修会でお聞きした話では、インプラント挿入後は少なくとも2年に1度のMRまたは超音波検査の実施が推奨されていました。これはインプラントの破損をチェックすることが主な目的ですが、豊胸術後の女性に対する乳がん早期発見のための基準作りも必要なのではないかと私は思います。

2013年5月1日水曜日

新病院引っ越し完了!

今日は新病院への患者さんの引っ越し日でした。

新病院移転に関しては数年かけて計画を立て、何度も変更を繰り返してようやく今日の日を迎えました。特に患者さんの移送に関しては万が一のことが起きないように綿密に計画を立ててきました。しかし、なにせ病院としては初めてのことですし、もちろん私たちスタッフも未経験のことですので、実際に患者さんの移送を行なうとなかなかうまくいかないこともあったようです。午前の移送は30分遅れになってしまい、午後もずれずれになってしまいました。新旧病院の配分がうまくいかなくてスタッフの弁当が足りなくなったり、スタッフが多すぎてなんだか手持ち無沙汰な人がいたり…。でも患者さんの移送中の急変やトラブルもなく、なんとか無事終了しました。

患者さんがいなくなってしまった病棟は、物品もほとんどなくなってしまって閑散とした状態でした(写真)。

私が研修医としてこの病院に来てから24年…いろいろなことがありましたが、これでお別れです(泣)

新しい病棟に移った患者さんは、真新しい病室に大変満足しているようで、良かったです!(ちょっと新築独特の臭いが気になりましたが…)まだまだ新病院の中は、物品の整理が終わっていなくてごちゃごちゃしていますが、明日1日と4連休中にそれぞれのスタッフが整理をして、5/7の開院に向けて準備する予定です。医局の机の上も大量の段ボール箱を開けて整理してようやく片付きました。

明日からは新病院に出勤です!