2014年8月31日日曜日

乳がん検診は何才まで受けるべきか?

検診をしていると時々高齢の患者さんにこう聞かれます。

”もう年だから検診は受けなくても良いのではないですか?”

たしかに100才の方に対して超早期がんを見つける意義はないのかもしれません。では90才では?85才では?80才では?

非浸潤がんをその年齢で見つけなくてもあと10年は生きるとするとプラス10才なら何才になっているのか?というお話になります。たとえば80才の非浸潤がんを放置しても90才まで生きることができるかもしれません。でも乳がんを根治できれば100才まで生きることが出来るかもしれないのです。そして放置した場合には局所にがんが顔を出してしまい、痛みや出血、悪臭に悩まされることになるかもしれません。

そう考えると何才まで乳がんの早期発見は必要なのかという問いに対する答えを見つけることは簡単ではありません。ちなみにいま病棟には80才台の乳がん手術直後の患者さんが2人いらっしゃいます。乳がんの手術は比較的身体への侵襲が少ないのでよほど全身状態が悪くない限り高齢者でも手術可能な場合が多いのです。お二人とも経過は順調でとてもお元気です。

先日、Radiologyという雑誌に、75才以上でのマンモグラフィ検診の有効性に関する報告が掲載されました(http://pmc.carenet.com/?pmid=25093690)。この報告によると、「マンモグラフィで検出された75才以上の乳がん患者では、患者や医師により発見された患者より、早いステージで診断され、受ける治療が少なく、疾患特異的生存率が優れていた」という結果だったそうです。

こういう報告を見ると、そして放置したために露出したがんの処置に困っている高齢の乳がん患者さんたちを診てきた経験からもやはり病院に来れる間は検診を受けた方が良いのではないかと私は思うのです。

2014年8月27日水曜日

乳腺術後症例検討会 34 ”学会報告&超音波研修”

今日は定例の症例検討会がありました。

今週月曜からKT病院から後期研修医のO先生が乳腺超音波検査の研修に見えているため、指導医のK先生と一緒に参加してくれました。その他にも院外からの参加者がたくさん参加してくださり、いつも以上に盛会でした。

今日の症例は3例でした。MRの広がり診断が有用だった浸潤性小葉がんの症例、バコラ生検でも鑑別困難となった神経内分泌染色陽性の非浸潤がん症例、両側血性乳頭分泌で乳管腺葉区域切除術を行なって両側非浸潤がんの診断となった症例の3例でしたが、それぞれの画像診断に関して活発な意見が出されました。

症例検討のあとは先日の乳癌学会で発表した内容をG先生、N先生、私がそれぞれ簡単に報告しました。

O先生の研修は1週間だけですが、KT病院とはこれからもお互いに交流ができそうです。症例検討会には今後も時間があれば参加していただくようにお誘いしましたし、こちらからはN先生がKT病院の手術を見学しにいく予定です。金曜日にはO先生、K先生を交えて懇親会を企画しています。

こんな田舎まで他の施設の皆さんが来て下さるのは本当にうれしいです。これからもG先生中心に魅力ある症例検討会を企画していければと思います。

2014年8月24日日曜日

第11回 With You Hokkaido ”良く知ろう、乳がんの治療” 無事終了!

昨日は札幌医大で第11回のWith You Hokkaidoが開催されました。



幸い心配された天候は回復し、けっこうな数の方が参加して下さいました。ただJRのトラブルのために、道外から来て下さった先生方が2時間も列車内に缶詰となってしまいグループワークに間に合わないというアクシデントが起きてしまったのは残念でした(汗)

今回はまずはじめにグループワークが行なわれました。私は”再発後の不安・治療”のグループでした。参加者は患者さん6人とH病院の看護師さん、そして私の8人でした。今回は部屋の広さ、人数、テーブルをはさんだ距離感がちょうど良かったので活発な会話ができました。人数が多いとどうしても一部の参加者しか話せなかったりするのですが、今回は比較的まんべんなく会話に参加できていたように思います。参加者のみなさんのご協力のおかげでとても有意義な時間を過ごすことができたのではないかと思います。

そのあと大講堂に戻って代表の霞先生の開会のご挨拶(いつも心に響く深いお話をして下さいます)、そして初めての試みの患者さんの疑問にお答えする”パネルディスカッション”が行なわれました。これはあらかじめ一部の参加予定者に質問内容を送っていただいた上でその中のいくつかについて私たちパネリストがお答えするといった内容でした。どうしても時間が限られてしまうため、参加者の皆さんにとってどの程度お役に立てたのかはわかりませんが、寄せられた感想を元に来年はさらにバージョンアップできればと思います。個人的には、少し難しい回答内容になってしまったかなと反省しています。

後半は、特別講演が2題。札幌医大看護部の松田夕香先生による「医師には聞けない治療に伴う性機能障害」は、なかなか私たち医師が患者さんにお話ししづらい内容を看護師さんの視点からわかりやすくお話ししてくれてとても興味深い内容だったのではないかと思います。北大放射線治療科の木下留美子先生による「乳がんの放射線治療」のお話は、放射線治療の基礎から乳がん領域の標準治療のお話、そして最先端の陽子線治療のお話まで時間がもっと欲しいくらいの盛りだくさんの内容でした。参加者の中には放射線治療を受けた方も多かったと思いますが、木下先生のお話をお聞きして、ご自分の受けた治療について再認識できたのではないでしょうか?

そのあとは各地のWith Youの報告、そして札幌医大の平田教授による閉会の辞であっという間でしたが今年のWith Youは終了しました。全体的に見ると例年よりコンパクトにまとまっていて、良かったのではないかと思っていますが参加したみんさんにとってはいかがだったでしょうか?

2014年8月22日金曜日

明日はWith You Hokkaidoです!

札幌はいま雷を伴った雨が降っています。スカパーがつながりにくくなるほどの不安定な状況のようです。明日はWith You Hokkaidoなのですが大丈夫でしょうか…。

以前ここでも書きましたように、今回は初めて最初にグループワークがあります(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2014/06/11with-you-hokkaido.html)。なんとなく予想していましたが、今回もまたもや同じテーマのグループになってしまいました。なんだか最近ずっとこのグループのような気がします(汗)。たまにはなんでもコーナーに参加したいです(笑)。

そう言えば、今回は新聞にずいぶんWith Youの広告が出ていましたがご覧になりましたか?私は何度か道新と朝日新聞で見かけました。今年は例年にも増して多くの参加者がいらしてくれることを期待しています。今回はD病院形成外科のE先生も一緒にグループワークとパネルディスカッションに参加してくれるので楽しみです!

明日は晴れるといいですね!

2014年8月18日月曜日

「ピンクリボン in SAPPORO 2014」 人工乳房作成中!

今年も2014.9.7 13:30-16:00に大通で恒例の”ピンクリボン in SAPPORO 2014”が開催されます。今年は”だいどんでん”というイベントに便乗する形で行なわれますが、場所が少し変わる(南3西4)以外は例年同様の内容です(写真)。




今年も私たちの病院でブースを出すのですが、今回は触診モデルだけではなく、来場者に実際にプローブを当てていただきながらエコー検査がどんな検査かを知っていただくための手作りの人工乳房の作成に取りかかっています。これがなかなか大変なのですが私とG先生はすっかりはまってしまいました(笑)

まずは素材として今回はこんにゃくいもの粉を選びました(以前穿刺用キットを作成した時は寒天を使用しましたが柔らかかったので今回はこんにゃくが良いかなと考えました)。ネットで調べてみるとけっこう手軽に手作りこんにゃくが作れるような粉が売っていましたのでネットでゲットしました。

試作品①
先々週の土曜日に私が1人で自宅で作ってみました。脂肪層をこんにゃく粉に水とカロリーメート(ココア味)を4:1に混ぜて固めたもの(皮膚の色に近くなるかと思ったのですが…汗)、乳腺組織を同じものに胡椒を混ぜて固めたものにしました。ところが初めてこんにゃくいもの粉を扱ったので固まり具合いの予測が立たず、乳腺部分を先にゆでてから脂肪層のこんにゃくで包む予定だったのですが形が思うように作れませんでした。しかも色がかなりグロくなってしまいました。また思いのほか茹でても硬くならず(大きすぎたせいかもしれません)結局茹でているうちに乳腺部分が顔を出してしまい失敗…(汗)あまりにグロくて写真は省略します(泣)
でもエコーで見てみるとまさに乳房そのもの(皮下脂肪がわずかに内部エコーがある低エコーで乳腺が高エコー、しこりとして入れたグミが低エコー腫瘤)で材質的には良い印象でした(エコー写真は②参照)。

試作品②
G先生が息子さんと一緒に作成。私の失敗レシピを参考に工夫をして作り直しました。形はとてもきれいにできましたが(写真)、G先生的には柔らかすぎて手間もかかり、臭いも強いのでこんにゃくはダメとのこと。私は臭いは気になりますが、触感は乳房に近い柔らかさでエコーの見え方も良いと思うのですが…(写真)



試作品③
これもG先生と息子さんの作品。脂肪層はゼラチンにカツゲンを混ぜて固めたもの、乳腺部分はゼラチンにワラビ粉を混ぜたものだそうです。触感はシリコンみたいな感じで弾力性はありますがけっこう硬めでした(写真)。エコーで見てみると脂肪層は無エコーの真っ黒になってしまいましたが、乳腺部分はなかなか良い感じに見えました(写真)。脂肪層に少し混ぜ物をした方が良さそうですがさらに硬くならないか心配です。ただこちらの方がはるかに作りやすいようでG先生はお気に入りです。



試作品②③の前にも牛乳を混ぜたりしてG先生は頑張ってくれていました。N先生は大イベントが控えていたため今回は男の手料理で頑張っています。明日からはN先生が戻るので女性ならではのアドバイスをもらいながら残り2週間でバージョンアップさせて完成予定です!

2014年8月17日日曜日

Wedding Party!

今日はこの夏の大きなイベントの1つ、N先生の結婚式とWedding Partyがありました(写真)。



場所は市内某所の小高い山の斜面にある教会と素敵なレストラン(というより披露宴のためのParty会場)。私は回診当番だったため11:30からのPartyのみの参加でしたが、とても良い天気に恵まれて、多くの人々が集まりました。

最近札幌では、ホテルではなくこのようなおしゃれな結婚式場で式や披露宴を行うケースが増えているようです。ちょっと交通の便が悪いという点はありますが、それぞれ工夫をこらした企画があったりしてなかなか好評なようです。

N先生のPartyも待ち時間に外国人のマジシャンがマジックを見せてくれたり、新郎新婦が待ち合いスペースに階段から降りてきてそのまま新郎からの挨拶とともに乾杯したり、専属(?)の外国人のピアニストやDJ(?)の方が楽しく盛り上げてくれたり、食事が終わった後で場所を移動して立食形式でスイーツを味わいながら、この日のために特別に仲間でバンドを結成したN先生が新郎に向けた歌を歌ったり(写真)、来賓全員でこっそりとバラを隠しておいて一斉にN先生を取り囲んで渡すサプライズがあったり、ここに書ききれないほど盛りだくさんの楽しいPartyでした(笑)。



さて、実はこのPartyで私はN先生からスピーチを頼まれていました。あまりこのような会で話をするのは得意ではないのですが、N先生からのせっかくのご指名でしたのでお受けしました。ただ近づくにつれてどんどん気持ちが落ち着かなくなり、スピーチ原稿も何度も書き直して(今朝も最後の修正をしました…汗)、あっという間に今日を迎えてしまいました。

会場についてからもそわそわしまくり、新郎新婦登場前にすでにカクテル4杯を飲んでしまいました。Partyが始まってからも原稿を見ながらシャンパン1杯とワインを2杯…。まったく酔ってはいなかったのですが、ちょっと赤くなってしまった時にスピーチとなりました(昨日見たスピーチの心得のサイトには、自分のスピーチまではシャンパンだけにするように書いてあったのですが…汗)。

肝心のスピーチは、幸いつつがなく終わり、ようやく落ち着くことができました(笑)。学会発表の方がずっと気楽です!

最近、身辺で悪いことばかりが続いていましたので、今日は幸せそうなN先生の顔が見れて良かったです。旦那さんもさわやかで優しそうな好青年でしたのできっと幸せな家庭を築いてくれることと思います。

Happy Wedding!

2014年8月5日火曜日

初期治療を拒否した乳がん患者さんたちは…

様々な理由で乳がんの治療を受けずに長い間経過を見てしまうことがあります。これには大きく分けて3つのパターンがあります。

①しこりに気づいて”がんではないか?”と思いながら、診断されることや治療が怖くて進行するまで受診しないケース
②一度医療機関で乳がんと診断されながら、治療を拒否して数年後にどうにもこうにもならなくなって受診するケース
③受診して乳がんと診断されながら、代替治療を試したいという強い意志で経過観察のみ行なうケース

ちまたでは”がんは早期発見の必要はない””がんを治療するとかえって命を縮める”などという内容の本が新聞やマスコミで紹介されています。たしかにごく一部の乳がんは一生命に関わらないのかもしれません。しかしそれは一部に過ぎません。経過観察した患者さんのほとんどはその判断を後悔しているのです。

放っておいて良いケースなどきわめてまれな場合しかありません。ホルモン陽性の乳がんは、一般的に進行がゆっくりのために、何もしなくても、または代替医療に頼っても一見進行していないように見えることがあります。私の経験でも③のケースでしばらくあまり変化がないように見えた症例もありました。しかし、それらの症例も経過を見るうちに必ず大きくなってきます。それが悪さをしないという保障は誰にもできません。①でとてつもなく進行していて手の施しようのない状況になってから受診した患者さんはたくさんいます。②のケースは少ないですが、やはり根治的な治療はすでに不可能になっています。

③のケースは私の経験では、3人いらっしゃいます。2人は代替医療を行なったようですが、結局進行してしまい、手術を受けました。もう1人は、食生活の改善、性格の改善を試したいと言って治療を拒否しましたが、やはり9ヶ月の経過で皮膚浸潤をきたしてきたため、ようやくホルモン療法のみ治療を受けることを承諾して下さいました。今のところ奏効し腫瘍の縮小が見られていますが、ここ2ヶ月は縮小の程度が止まってきましたのでそろそろ手術を考えなければなりません。本当はできるだけ早く手術をしたいところですが、あとは彼女の気持ちが固まるのを待つしかありません。ホルモン療法が効いている間に決意してくれることを祈っています。

細胞診/針生検による播種

術後の病理標本で術前に行なった針生検や細胞診の針穴にがん細胞が引きずられて残っている所見が確認できることがあります。おそらく細胞診よりも針生検、特に口径の大きいマンモトームやバコラ生検ではその率は高くなると推測されます。ですから手術する際はできるだけそのルートも一緒に切除するようにしています(乳房温存術で放射線治療を行なう場合は残しても良いのかもしれませんが、可能な限り切除できるように切開線を置いています)。

以前、ある症例検討会で奇妙な症例の発表がありました。術前検査で良悪の判定が微妙だったために患者さんの同意を得て乳腺部分切除術+センチネルリンパ節生検を行なったところ、切除した主病巣は良性だったのにリンパ節に腫瘍細胞が発見されたという症例です。通常リンパ節内の細胞はリンパ球がほとんどを占め、上皮細胞はありません。ですからリンパ節内に上皮細胞があれば転移と考えるのが普通です。このケースの場合、考えられるのは①切除した乳腺以外の場所にがんがあった②良性腫瘍の細胞がなんらかの理由でリンパ管を通じてリンパ節に到達した(転移のように)という2つです。

病理所見について解説して下さったG病院のA先生は、後者の可能性について言及していらっしゃいました。この症例はマンモトーム生検をしていたため、腫瘍細胞(良性)が太い生検針によって損傷を受けたリンパ管内に迷入してしまい、リンパ節に到達したのではないかということです。もしそうであればいわゆる転移とは異なりますので生命予後には影響しません。

当院でもこれと似たような症例を経験しました。細胞診をした際に腫瘍周囲の針穴に播種した腫瘍細胞(良性)が偶然針生検で採取されてしまったために、あたかも浸潤がんの細胞のように見えてしまったという症例です。私は以前、G病院で研修中にA先生に針穴に播種した症例を見せていただいたことがありましたので、その可能性について頭に浮かんだのですが、まさか細胞診のルートに偶然針生検で当たるとは…。A先生にconsultationをお願いしたところ、やはりその可能性が高いのではないかとのこと。念のため主病巣周囲の部分切除を行なって本当に浸潤がんが隠れていないか確認しましたが、標本内にはがんは確認できませんでした。非常に珍しいケースだと思いましたので今年の乳癌学会で報告しました。がんだけではなく良性腫瘍でも針穴に播種することがあるということには病理診断の上では注意が必要です。