2015年3月24日火曜日

乳癌の治療最新情報40 ”トポイソメラーゼI阻害薬Etirinotecan Pegol”

新しい抗がん剤の臨床試験の結果がネットニュースで報告されました(http://www.streetinsider.com/Corporate+News/Nektar+Therapeutics+(NKTR)+Reports+Phase+3+BEACON+Missed+Primary+Endpoint/10380783.html)。

臨床試験:BEACON(多施設共同オープンラベル無作為化フェーズ3)

対象:局所再発もしくは転移性乳がんで、アントラサイクリン系抗癌剤、タキサン系抗癌剤、カペシタビン(ATC)による治療歴のある女性852人。

方法:長時間作用型のトポイソメラーゼI阻害薬Etirinotecan Pegol(NKTR-102)を投与する群と医師が選択した化学療法(TPC)を投与する群を1:1の割合で患者を割付け、NKTR-102は145mg/m2を3週おきに投与した。

結果:医師が選択した治療薬は、ixabepilone、ビノレルビン、ゲムシタビン、エリブリン、タキサン系抗癌剤であった。
主要評価項目であるOSの中央値はNKTR-102群12.4カ月、TPC群10.3カ月だった(ハザード比0.87、p=0.08…有意差なし)。
脳転移歴がある患者グループでは、NKTR-102はOS中央値で5.2カ月延長し、有意な改善を示した。NKTR-102群のOS中央値が10.0カ月、TPC群が4.8カ月だった(ハザード比0.51、 p<0.01…有意差あり)。また脳転移歴がある患者の12カ月生存率はNKTR-102群が44.4%、TPC群は19.4% だった。

試験開始時に肝転移のあった患者グループでは、NKTR-102によりOS中央値は2.6カ月改善した。NKTR-102群のOS中央値は10.9カ月、TPC群は8.3カ月だった(ハザード比0.73、p<0.002…有意差あり)。また12カ月生存率はそれぞれ46.9%、33.3%だった。

副次評価項目である奏効率と無増悪生存期間(PFS)では統計的有意差は示されなかった。

グレード3以上の有害事象は、NKTR-102群48%、TPC群63%で、NKTR-102群で少なかった。NKTR-102群の主なグレード3以上の有害事象は下痢(9.6%)、好中球減少症(9.6%)、貧血(4.7%)、倦怠感(4.5%)だった。NKTR-102群でグレード4の下痢はなかった。 TPC群の主なグレード3以上の有害事象は好中球減少症(30.8%)、貧血(4.7%)、呼吸困難(4.4%)だった。グレード3以上の神経障害がTPC群で3.7%に見られ、NKTR-102 群では0.5%だった。グレード1/2の脱毛はNKTR-102 群では10%、TPC群は23%だった。


下痢が多いのが少し気になりますが、重篤な副作用は少なく、脳転移や肝転移という生命の危機に面している状態の治療選択肢としては期待できるのではないかと思います。これは単剤での報告ですし、この結果を受けて副作用の重ならない他の薬剤との併用の臨床試験にもつながるのかもしれません。国内での認可はまだまだ先だと思いますが、今後の報告を待ちたいと思います。



 

 

2015年3月16日月曜日

ゴセレリンによる卵巣機能保護

かなり以前から、乳がん患者さんに化学療法を行なう際に、ゴセレリン(ゾラデックス®)などのLH-RH agonistを併用すると卵巣機能が温存されるのではないかということは、臨床医の中では信じている人が多かったと思います(私もその1人です)。しかし、それを十分に立証するエビデンスが今まではないとされていました。

今回、クリーブランドクリニックのHalle C.F. Moore氏らPOEMS/S0230研究グループによる無作為化試験の結果、卵巣機能不全を予防し、早期閉経リスクの低下や、妊娠の可能性が向上することがようやく報告されました(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1413204)。

概要は以下の通りです。

対象・方法:手術可能なホルモン受容体陰性閉経前乳がん女性患者257例(18~49歳)を、標準化学療法+GnRHアゴニストのゴセレリンを投与する群(ゴセレリン群)と、標準化学療法のみを行う群(化学療法単独群)に無作為に割り付けた(対象期間 2004.2-2011.5)。主要エンドポイントは、2年時点の卵巣機能不全(評価前6ヵ月間に月経がないことと、卵胞刺激ホルモン(FSH)値が閉経後の範囲値にあること)、副次エンドポイントは、妊娠アウトカム、無病生存率、全生存率などであった。

結果:218例(ゴセレリン群105例、化学療法単独群113例)が適格であると判断され、評価可能であった。エンドポイント分析時に生存していた患者の追跡期間中央値は4.1年であった。
主要エンドポイント評価は135例(66例、69例)が完了した。結果、卵巣機能不全が認められたのは、ゴセレリン群8%、化学療法単独群22%であった(オッズ比:0.30、95%信頼区間[CI]:0.09~0.97、両側p=0.04)。
評価可能であった218例の患者について、妊娠した女性はゴセレリン群のほうが化学療法単独群よりも有意に多く(21%vs. 11%、p=0.03)、無病生存率(p=0.04)、全生存率(p=0.05)についてもゴセレリン群が有意に高かった。

先日の講演会では、受精卵保存や卵子保存、卵巣保存のお話を聞いてきましたが、もしLH-RH agonistで同等の成績が得られるのであれば、治療の遅れや、その後の人工授精の負担などが軽減します。今度はLH-RH agonist併用群とART(Assisted reproducting techniques)群との比較試験を是非とも行なって欲しいと思います。

2015年3月15日日曜日

「18th Breast Cancer UP-TO-DATE Meeting」in Fukuoka

昨日、福岡でNK社主催の「18th Breast Cancer UP-TO-DATE Meeting」が行なわれました。毎年行なわれるこの会ですが、今回は少なくとも私が参加した中では初めての福岡開催でした。飛行機の便の関係で少し到着が遅れましたが、興味深いお話を聴くことができました。

SessionⅠ 「乳癌分子診断の臨床応用」
3題の講演がありましたが、途中から聴いたということを差し引いてもとても難しい話が多くて理解するのはなかなか困難でした(汗)。3題目はHBOCの話でしたので、先日聞いた話と関連があったこともあり、知識の整理に役立ちました。

SessionⅡ 「HER2陽性再発乳癌の治療戦略」
1題目は抗HER2療法の耐性機構の話、2題目はHER2陽性乳がんに対する分子標的薬の治療戦略の話でした。いずれもだいたいは今まで聞いたことのある話が中心でした。ただ耐性(薬が効かなくなること)の話は本当に奥が深いです。今回の講演で知識の整理ができたような気がしますが、数年経てばまた違った解釈になるのかもしれません。いずれにしても日本ではやはりトラスツズマブとラパチニブの組み合わせが保険適用になる見通しはなさそうです。

SessionⅢ 「若年性乳癌患者の妊孕性保持」
産婦人科の先生と腫瘍内科の先生の司会、パネリストによるパネルディスカッション形式の討議でした。若年性乳がん患者さんに対してできるだけ早い段階で、場合によっては繰り返し妊娠、出産の希望を確認しておくことの重要性や、年齢が進むに従って健常者でも卵子の機能が低下し妊娠率が低下するので、場合によっては数年かかる乳がん治療終了後の人工授精(Assisted Reproduction techniques: ARTと言い、受精卵保存、卵子保存、卵巣保存の3種類があります)による妊娠率は年齢によっては期待するほど高くはならないことや高齢出産のリスクも伴うことがあること、特に受精卵保存や卵子保存の場合は、抗がん剤治療の開始が少し遅れてしまうことのリスクもあること、そしてこれらの情報を迅速にかつきめ細やかに生殖医療医に伝達するためのネットワークやコミュニケーションの構築が重要であることなどを学びました。

終了後は懇親会に参加し、KS病院のT先生や名古屋の友人のK先生とディスカッションしながら楽しい時間を過ごしました。

そして今日は帰りの便を午後にして太宰府に行ってきました。たまたま乗った列車が、1年前から投入された観光列車の”旅人”という特別列車だったらしく、”にわか撮り鉄”たちが何人もカメラを向けていました(私も…笑 写真)。



今回どうしても太宰府に行きたかった理由は、花が咲いている飛梅が見たかったからです。今まで2度太宰府に行っていますが、6月とか11月だったため、花は咲いていませんでした。HPでは2/1に飛梅の見ごろという記事が出ていたのでもう間に合わないかと思ったのですが、なんとかまだ花が残っていてくれました(写真)。良かった!(笑)



その後、いつものお茶屋さんで梅ヶ枝餅と抹茶のセットをいただました。焼きたての梅ヶ枝餅は本当に美味しいです!それからは少し早めに空港に向かって、とんこつラーメンを食べてから帰ってきました。自宅に着いたのは18時すぎだったので疲れましたが、勉強もできて観光もできたので大満足です!

2015年3月8日日曜日

北海道HBOCネットワーク第2回ミーティング〜PARP阻害薬による合成致死療法

今日の午後、市内のアスティ45 12Fの会議室で”北海道HBOCネットワーク第2回ミーティング”が開催されました。HBOCとは、遺伝性乳がん・卵巣がん症候群(Hereditary Breast and Ovarian Cancer)のことです。主にBRCA1、2という遺伝子の変異を有する人に発生する遺伝性乳がんの1つで、アンジェリーナ・ジョリーさんの件で広く認知されるようになりました。

昨年は私とG先生、N先生の3人で参加しました。今回、両先生は都合が悪かったため乳腺外科医は私1人でしたが、外来主任看護師のOさんが一緒に参加してくれました。

今回は一般演題として下記の4題と特別講演が行なわれました。

<一般演題>

1.HBOCの拾い上げ:院内の取り組み(札幌医大 産婦人科 寺本瑞絵先生)
2.HBOCの遺伝カウンセリングについて(北海道大学 遺伝子診療部 柴田有花先生)
3.HBOCのリスク低減手術について:北海道がんセンターの体制(北海道がんセンター 乳腺外科 高橋將人先生)
4.HBOC総合診療制度について(がん研有明病院 遺伝子診療部 新井正美先生)

1、2に関しては、HBOCを疑う患者さんの拾い出し、特に家系図の作成をなんとかしなければと感じました(昨年も思ったのですが、なかなか実現できていません…)。これは医師だけでは困難な面もありますので、今回外来主任が参加してくれたのは大きいと思いました。昨年も何人かHBOCを疑う家族歴のある患者さんがいましたので他院での遺伝子カウンセリングを勧めたのですが、結局実際に受診した患者さんはいませんでした。その背景には、やはり院内にカウンセラーがいないということが大きいように思いました。まずはカウンセラーの人的確保が急務ではないかと感じました。

3に関しては、がんセンターではすでに数人予防的乳房切除(+再建)を行なっているというお話でした。形成外科医との連携で慎重に行なわれているようですが、この手術は健常な乳腺にメスを入れるという性質上、がんに対する手術とはまた違った配慮が求められ、十分な説明が必要であると感じました。

4は現在検討されているHBOCのネットワーク制度のお話でしたが、これからは日本におけるHBOCのデータ蓄積が必要になってくることと、予防的治療を慎重に行なうという側面などから、HBOC診療の認定制度を立ち上げようとしているようです。認定施設には、基幹施設、連携施設、協力施設の3種類あり、基幹施設と連携施設には臨床遺伝専門医の常勤が条件となり、民間病院ではかなりハードルが高いです。私たちの病院は、今のままでは協力施設にしかなれません。

<特別講演> 「PARP阻害薬開発の現状」 東京医科歯科大学 難治疾患研究所 三木義男先生

トリプルネガティブ乳がんの治療薬として期待されながら、臨床試験でその効果が証明できなかったPARP-1阻害薬ですが、BRCA1/2の変異がある患者さんのみに対象を絞るとかなり有効であることがわかってきています。今日の三木先生のお話は、その作用機序と治療効果だけではなく、そこから発展したさまざまな可能性についてまでわかりやすく解説して下さいました。特に”合成致死療法”のお話は大変わかりやすく、勉強になりました。

とは言っても一般の方にわかりやすく解説するのは私には難しいです(汗)。BRCA1/2は、DNAの2本鎖の障害を修復する役割を持っており、PARP-1は、DNAの1本鎖の障害を修復する役割を持っています。BRCA1/2遺伝子変異を有する人のがん細胞は、もともとDNAの2本鎖の修復能力が欠如または低下しています。この状態の患者さんに抗がん剤などを投与して1本鎖のDNAに傷がついた場合、通常はPARP-1が働いて修復するのですが、PARP-1阻害薬を投与されていると修復できないために、がん細胞はわざと2本とも切断してBRCA1/2で修復しようとするそうです。しかし、BRCA1/2の変異がある人ではこれができないのでがん細胞が死んでしまうというような理屈です。それぞれ単独ではがん細胞は死なないけれど、同時に2つ(BRCA1/2とPARP-1)をブロックするとがん細胞を殺すことができる、このような治療を”合成致死療法”と呼びます。簡単に書くとこんな感じでしょうか?

今日のお話を聞いて、最近勉強不足だったことがすぐわかりました。少しでも気を抜くと科学の進歩についていけなくなります。もっと勉強しなければだめだと感じた一日でした。

2015年3月5日木曜日

CLEOPATRA試験の最終報告(ペルツズマブ=パージェタ®の有用性の報告)

ペルツズマブに関しては、承認時に触れましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/07/blog-post.html)、その全生存率(OS)も含めた最終報告が論文化されました(http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa1413513#t=abstract)。

概要は以下の通りです。

臨床試験名:”CLEOPATRA試験”(日本を含む多国籍ランダム化二重盲検フェーズ3試験)

対象:HER2陽性で化学療法歴または生物学的療法歴がない、18歳以上の転移性乳がん患者808人。

方法:トラスツズマブ+ドセタキセル+ペルツズマブの3剤併用を受けるペルツズマブ群と、トラスツズマブ+ドセタキセル+プラセボの投与を受ける対照群にランダムに割り付けて、2014年2月11日まで追跡した。患者登録期間は、2008年2月12日から2010年7月7日まで。追跡期間の中央値は、ペルツズマブ群が49.5カ月(幅は0-70カ月)、対照群が50.6カ月(0-69カ月)。

結果:
・主要評価項目 独立審査委員会が評価した無増悪生存期間(PFS)…1回目の中間解析で有意差が示された。ペルツズマブ群のPFSの中央値は18.5カ月、対照群は12.4カ月で、前者で6.1カ月長かった(ハザード比は0.62、P<0.0001)。

・副次的評価項目 
①全生存期間(OS)…ペルツズマブ群が56.5カ月、対照群が40.8カ月(ベルツズマブ群で15.7カ月有意に長かった)、ハザード比は0.68(0.56-0.84、P<0.001)。患者を治療歴、居住地域、年齢、人種、エストロゲン受容体の発現量などで層別化し、サブグループ解析も行ったが、ペルツズマブの併用によるOS延長効果が一貫して示された。プラセボからペルツズマブに切り替えた(クロスオーバーした)48人の患者に関する補正を行っても有意性に変化はなかった。
②医師が評価したPFS…ペルツズマブ群で6.3カ月長かった(18.7カ月と12.4カ月、ハザード比0.68、0.58-0.80、P<0.001)
③独立審査委員会が評価した奏効期間…ペルツズマブ群における奏効期間の中央値は20.2カ月(16.0-24.0)、対照群は12.5カ月(10.0-15.0)で、ペルツズマブ群が7.7カ月長かった。
④安全性…有害事象の多くは、両群ともにドセタキセル投与期間中に発生し、同薬の使用を中止すると改善した。左室機能不全の発生率はペルツズマブ群の方が低く(6.6%と8.6%)、心臓に対する長期的な安全性が示された。

予想通りペルツズマブの有用性が証明された結果となりました。HER2陽性乳がんの治療法は日進月歩です。問題はやはりトリプルネガティブですね…。

2015年3月1日日曜日

超音波検査室の懇親会

一昨日は、KT病院から乳腺超音波検査の研修に来ていたM先生を囲んだ懇親会がありました。

場所は病院最寄りの地下鉄駅の近くにある居酒屋でした。G先生は出張、N先生は体調不良で参加できず残念でしたが、KT病院のM先生と指導医のK先生、技師5人と私の9人で楽しい時間を過ごしました(飲み放題の赤ワインは悪酔いしそうな感じでしたが…)。

それぞれの病院での乳腺診療の現状も語り合いましたが、私たちの病院は技師さんたちが症例検討会も含めて積極的に乳腺診療に取り組んでくれているので乳腺外科医にとっては幸せな環境であることがあらためてわかりました。

また、途中で実は今日がM先生の結婚式であることがわかり、そのあとの二次会のカラオケではみんなで代わる代わるお祝いの歌を歌って盛り上がりました(なぜか上司のK先生が選択した歌はことごとくハッピーなようで結果的には悲しい結末の歌ばかり…でもかえってウケてました 笑)。早く終わる予定が結局23時くらいまで飲んでお開きになりました。

他の病院での医療を知ることは自分たちの勉強にもなります。KT病院とは、これからもK先生をはじめ、外科の先生方、そして技師さんたちとも交流を続けて行けたらと思っています。