2009年7月29日水曜日

2009年ピンクリボン キッズ・ファミリープログラム

J.POSH主催の「2009年ピンクリボン キッズ・ファミリープログラム 家族で話そうピンクリボン」が2009.9.27(13:00-16:50)札幌東京海上日動ビル8階で行なわれます。

今年のテーマは「分かち合い」。患者さんとご家族が、医療従事者(乳腺専門医、診療内科医、看護師など)とともに、心のケアについて話し合います。男性(配偶者、お父さん、ご兄弟、息子さんなど)だけの分科会「お父さん分科会」もあり、同じ悩みを分かち合い、話し合うそうです。また、子供たちはプリザーブドフラワーアレンジメント(どんなことをするのか私もわかりませんが…)、シャボン玉作りを習います。そのあと参加者全員で「シャボン玉パフォーマンス」をするそうです。

なお、参加費は無料です。詳細はJ.POSHのHP(リンクのリストからジャンプして下さい)をご覧下さい。
申し込み用紙はhttp://www.j-posh.com/09ksaporo.htmから応募用紙をダウンロードして印刷して送るか、JMS賛同医療機関(これもHPに出ています。札幌市内は、手稲渓仁会病院、勤医協中央病院、NTT東日本札幌病院)に置いてあると思います。

昨年もこのようなイベントがありましたが(たしか音楽鑑賞)残念ながら私は参加できませんでした。今年は可能なら参加してみたいと思っています。

(同様のイベントは、札幌を含めた全国10カ所(札幌・仙台・新潟・・名古屋・金沢・東京・大阪・広島・松山・福岡)で行なっています。札幌以外の開催予定はHPでご確認下さい。)

2009年7月23日木曜日

抗癌剤の開発〜シビアな実態

いま私の働く病院に米国から女医さんが研修(見学)に見えてます。彼女は、長い間基礎研究をしてきた方で、現在抗癌剤(分子標的薬に抗癌剤を結合させた薬剤=ミサイル療法)の研究・開発に携わっている企業で働いているそうです。

今日は午前中に化学療法室を見たいとのことでしたので、私が化学療法室と薬剤部をご案内し、診察にも一緒に入っていただきました。彼女の知っている米国の化学療法専門病院とは比べものにならないほど小規模の質素な施設ですので、ちょっと驚かれたようでした。

そのあと医局でいろいろ米国のお話をお聞きしました。抗癌剤開発についての日米の差、一つの薬剤を開発して人体に対して臨床試験で投与するまでに10年くらいの月日と莫大な費用を費やしていること、それで却下されたらすべて水の泡になってしまうこと…。

その中で彼女から聞いた興味深い話があります。彼女が関わっていた卵巣癌に対する非常に有望とみられていた薬剤についてのお話でした。

この薬剤は、ラットまでの投与ではまったく重篤な副作用などの問題もなくクリアし、癌に対する作用も優れた結果を残していました。ところがサルに対する用量負荷試験で、高用量を投与すると致死的な肺の炎症が起きることがわかったそうです。ただ、その量は癌に対して有効な量の3倍以上多い量だったそうです。安全域が広いので大丈夫ではないかと開発チームは考えたとのことですが、結局臨床試験の会社内の審査で人体への投与は却下されたそうです。ここまで来るのにかかった長い年月と費用、研究チームの努力はすべて無になってしまいました。

おそらく、社内の判断では、有効量で投与した場合は大丈夫だったとしても、長期に繰り返した場合に同様の副作用が出る可能性があること、肺に起きた副作用の機序が不明であることなどから、将来的に臨床試験を進めた場合にもっと多額の費用(賠償金も含めて)と時間が無駄になる可能性を考えたのだろうと思います。効果があるのに副作用との兼ね合いで商品化されない抗癌剤は山ほどあるのだということを実感しました。そして、このような研究チームの長年の努力によって開発され、厳しい審査をクリアし、臨床試験を経たごくわずかな薬剤のみを私たちが使用できるのだということを改めて感じました。

抗癌剤を悪者にしたがる一部の人たちには、一度こういう分野で日々開発に苦労している研究者の実態を見てからそのようなことを主張して欲しいものだと思いました。

2009年7月21日火曜日

抗癌剤の副作用3 悪心・嘔吐

脱毛と並んで、患者さんが最も恐れる抗癌剤の副作用の一つが悪心・嘔吐です。
ひと昔前は、抗癌剤で吐くのはある程度仕方ないと思われていた時期もありました。乳癌の場合は、アンスラサイクリン系(アドリアマイシン=ドキソルビシンやエピルビシン)で高頻度に悪心・嘔吐がみられていました。

その後、5-HT3受容体阻害剤という薬剤が使用されるようになってからは、特に急性期(投与当日から翌日)の嘔吐はかなり予防できるようになりました。現在当院では、高頻度に吐き気を生じる抗癌剤を使用する際には、投与当日、ステロイドと5-HT3受容体阻害剤の注射、その後3日間のステロイド内服を行なっていますが、実際に吐く患者さんはかなり少なくなりました。ただ、投与数日後から、食欲の低下、むかつき、吐き気などの症状はよくみられます。このように抗癌剤投与から遅れて生じる症状を遅延性悪心・嘔吐と言いますが、これを完全に抑えるのはなかなか困難だったのが現状でした。

しかし、ついにこの遅延性の悪心・嘔吐に有効な薬剤が使用できるようになりそうです。これはニューロキニン(NK)1受容体拮抗剤の一つであるaprepitantという薬剤です。年内に国内で承認される予定とのことですが、すでに2003年のASCOで現行薬との併用を推奨されていた薬剤です。最近ではさらに協力なNK1受容体拮抗剤のcasopitantという薬剤の優れた効果が発表されたようです。

このように、抗癌剤による不快な副作用を極力少なくするような手だてが開発されれば、抗癌剤を目の敵にして怪しげな治療に誘い込む悪徳業者を排除できます。これからもさらなる抗癌剤の改良や副作用予防薬の開発を期待したいと思います。

2009年7月18日土曜日

新病院建設〜安全・安心・快適な化学療法室づくり

私が勤務している病院は、もうすぐ築35年を迎えるため、近隣の土地を購入して、新病院を建設する計画に入っています。

先日の科長・室長会議で、”新病院に向けた私の決意”なる文章を書くようにとのお達しがありました。文章を書くことが苦手な私は、ずっと先延ばしにしていましたが、ついに期限になり、やむを得ず、先ほど書き終えたところです。

外来化学療法室ができたのは、約3年前。開設にあたり、基本方針としたのは、

①患者さんにとって、より安全に化学療法を行なえる場所にする
②化学療法や癌そのものに対する不安を和らげる場所にする
③つらい治療をできるだけ快適に受けていただけるような環境にする

ということでした。①に関しては、幸い、今のところ大きな事故もなく経過していますし、②については、看護師さんの頑張りで、患者さんにとっては相談しやすい場所になってきているようです。ただ、③に関しては、特に患者さんが多い日には、待ち合いのソファが足りなくなってしまったり、診察室が一つなので担当医が診察できずにお待たせしてしまったりなど、まだまだ改善する必要があります。新しい病院では、スペースをもっと拡げて、快適に治療を受けられるようにしたいと思っています。

また、後継者対策も課題です。今のところ私が化学療法室長として担当していますが、もともと専門は乳腺外科であり、呼吸器や消化器の化学療法に精通しているわけではありません。また、週2回は別の病院の外来にも出ているため、常駐できる状況でもありません。やはり、化学療法専門の医師(腫瘍内科医)の育成が必要だと思っています。癌化学療法認定看護師は、近いうちに配置される予定です。できれば新病院建設時には複数体制にしたいと思っています。

そんなようなことを原稿に書いてみました。
これからさらにスタッフで時間をかけながら検討していきます。地域の患者さんから信頼され、近隣の病院からもたくさんの患者さんを紹介していただけるような、新病院、化学療法室にしていきたいと思っています。

2009年7月15日水曜日

第6回 With you Hokkaido〜あなたとブレストケアを考える会

毎年、夏に行なわれる、乳癌患者さんとご家族、医療従事者のフォーラム、With you Hokkaidoが、 8月23日(日) 12時30分〜17時の日程で、札幌医科大学研究棟1階大講堂において開催されます。参加費は500円です。

札幌医大第1外科の大村先生を中心に結成されて今年で6回目ですが、私も第1回からお手伝いをしてきました。毎年、様々なテーマのもとで行なわれてきましたが、今回のテーマは『笑顔のある生活で心に潤いを』です。

<プログラム>
1.開会の挨拶(霞 富士雄先生 順天堂大学医学部附属順天堂医院 乳腺センター長)
2.「笑いと泣きの効用」(吉野 槙一先生 日本医科大学名誉教授 リウマチ科)
3.「笑いで健康に」(桂 枝光さん 師匠 落語家)
4.J-POSH キッズ・ファミリープログラム(松田 寿美子さん J-POSH)
5.癒しのコーナー(明日香さん シンガー・ソングライター)
6.参加者グループワーク
7.各地のWith you報告
8.閉会の挨拶(平田 公一先生 札幌医科大学第1外科 教授)

グループワークは、いくつかのテーマごとに、会場で患者さんと医療従事者が一緒に考える企画です。普段なかなか聞けないことや疑問に思っていることなどもお互いに言い合って学習したり親睦を深めたりします。会場には、Wigや人工乳房、スリーブなどの乳腺関連の企業のブースも出展する予定です。

いつもは土曜日の開催でしたが、今回は初めて日曜日に行なわれます。どのくらい集まってくれるか少し心配です。もしこのブログを見て参加したいと思われた方は、下記までお問い合わせ願います(応募申し込み用紙は、With you北海道メンバーのいる病院にも置いてあります)。是非一緒に楽しみながら学習しましょう!

With you北海道事務局
Tel (011)611-2111(内線3281) Fax (011)613-1678
受付時間:月〜金 9:00-17:00

2009年7月13日月曜日

抗癌剤の副作用2 脱毛

”抗癌剤治療が必要です”と言われて真っ先に思い浮かぶ副作用の一つが脱毛だと思います。特に女性にとってはかなりショックな出来事です。今回は、この脱毛に関するお話を少ししてみます。

1.脱毛するメカニズム
抗癌剤は細胞周期(細胞を複製するために染色体を合成・分裂させるサイクル)のある特定の時期に作用して細胞を死滅させます。これは癌細胞に限らず、正常の細胞にも副作用として影響します。ただ、正常細胞は癌細胞に比べて細胞周期が一般的に遅いため、ほとんどの細胞はあまり影響を受けません。ただ、消化管粘膜や毛母細胞、骨髄細胞などは細胞周期が速いため、一定の割合の細胞が影響を受けてしまいます。ですから、口内炎、下痢、脱毛、骨髄抑制などが抗癌剤投与時に起きやすい副作用なのです。特に毛髪は90%が分裂の活発な状態にあると言われているため、高頻度に脱毛が起きるのです。通常、抗癌剤投与の2-3週間後から起きはじめ、抗癌剤終了後3−6ヶ月くらいから再生が始まります(薬剤によってはもっと早くから生えはじめます)。

2.抗癌剤の脱毛頻度(乳癌領域)
・脱毛率50%以上:パクリタキセル(80.4%)、ドセタキセル(71.8-77.5%)、ドキソルビシン(60%)、エピルビシン(65.1%)
→標準的なFECやタキサン系の抗癌剤はすべて脱毛しやすい薬剤です。
・脱毛率5-49%:ビノレルビン(24.9%)、シクロフォスファミド(24.3%)、メトトレキサート(14%)
・脱毛率5%未満:マイトマイシンC(2%)、5FU(2%)

3.脱毛の対策
①頭皮・毛髪のケア:あらかじめ短めにカットしておく、爪などで頭皮を傷つけない、毛根を清潔にする、プロテインリッチシャンプーの使用、ドライヤーを控える、ブラシは柔らかめのものを使用、毛染めは控えるなど。
②頭部冷却法:アイスノンベルトなどで頭部を冷却して、毛根部の血流を低下させることによって抗癌剤の影響を少なくしようとする試みです。以前はさかんに行なわれていましたが、脱毛を予防できるエビデンスに乏しく、頭皮への転移を増加させるという報告もあって(これもエビデンスはないようです)最近ではあまり積極的には行なわれていません。
③Wig、帽子:脱毛しはじめたら毛が散乱しますし、人目も気になりますので、やはり何かで覆う方が良いでしょう。帽子やスカーフなどで覆うのが一番安価です。着脱が簡単で、素材を変えれば夏も蒸れにくいという利点もあります。ただ、抗癌剤治療中であることはだいたいわかってしまいますので、仕事や外出の際のためにもWig(かつら)はあったほうが便利です。Wigには、人毛、人工毛、ミックスがあります。材質、メーカーによって値段は2万くらいから2-30万まで様々です。いくつかのメーカーのパンフレットを取り寄せてみたり、ネットで情報を集めるのも良いと思います。ただ、医療用(抗癌剤治療用)であることは確認して下さい。

一般的に有名メーカーで高額な方がアフターサービスも万全で安心、と思われる傾向があります。確かに一理ありますし、安すぎるものの中には粗悪品が含まれることもあります。

でも以前、ある学会でこんな出来事がありました。
その学会にはたまたま抗癌剤治療中の私の患者さんも参加していて、ある有名Wigメーカーのブース前で女性スタッフに声をかけられたんです。その患者さんは医療関係者と間違われたらしく、女性スタッフは自社製品の良さを一生懸命アピールしていました。

彼女曰く、
”当社の製品は高いとお思いかもしれませんが、女性は毎月1-2万かけて美容室に行くでしょう?Wigを使用する1年間は美容室に行かなくてすむのですから20万は高くないですよ(美容室に毎月1−2万かける人ってそんなにいますか?)”
”安いWigはダメです。すぐにずれますし、見ただけでかつらだってわかっちゃいますからね!”

そばで聞いていた私は吹き出しそうになるのを必死にこらえていました。その患者さんは、比較的安い(4万前後)Wigをかぶっていたんです。そのことに気づかなかったその女性スタッフは、4万くらいのWigでも十分であるということを見事に証明してくれたんです!ちなみにその患者さんは、Wigが思いのほか安かったので、ショートとセミロングの2種類を買って、その日の気分で変えて楽しんでいたようです。

お金に余裕があるのでしたら、名の通ったメーカーのほうがアフターサービスの点からも安心かもしれません。でも、必ずしも高額な製品でなくてもそれほど問題ない場合もあるということです。そこのメーカーは美容室経由で取引されているので、美容室でアフターケアもしてくれたようです。近くに住む患者さんからの情報を参考にして選んでみるのも良いかもしれませんね。

2009年7月10日金曜日

北海道乳腺診断フォーラム

年1回行なわれる、北海道乳腺診断フォーラムに参加してきました。

症例検討は3例。

症例1 多形性(ギザギザしたガラスを割ったような)石灰化の集簇が新たに出現した症例…一見、コメド(壊死)型の非浸潤癌に見えますが、多形性でも丸みを帯びているのがミソ。mucocele-like tumor(MLT)という良性病変でした。同じような石灰化でMLTだった患者さんを何人か経験しているので予想の範囲内でした。

症例2 境界が明瞭な腫瘍…線維腺腫などの良性腫瘍に見えますが、どれも少しずつ所見が合わない。悪性にしても典型的な充実腺管癌や粘液癌とも違う…。結局、特殊型の髄様癌という癌でした。北海道におけるMRI診断の第1人者の放射線科Drが、MRIで髄様癌を鑑別に挙げたのにはさすが!と思いました。

症例3 乳癌術後の対側乳房に多発する境界明瞭な腫瘤が出現した症例…これは同じような症例を2例経験しているのですぐにわかりました。わずかに浸潤部分を伴っていますが、基本的に多発する腫瘤自体は嚢胞内癌が連続したものでした。

いずれも良悪の診断が難しかった症例でしたが、これらのような症例の存在を知っているかいないかは、誤診を防ぐ意味でもとても重要なことです。このような症例検討会に参加する意味はここにあります。いかに多くの鑑別診断が頭に浮かぶか、が日常診療ではとても大切なんです。

その後は、国立がんセンターの病理Drの講演がありました。St.Gallen 2009の変更点についてやHER2についての詳しいお話などを伺いました。乳腺外科医にとっては大変興味ある内容でしたが、画像診断を主に仕事としている放射線技師や超音波技師には、少し難しかったかもしれません。

以前は年2回、このフォーラムを行なっていましたが、2年前くらいから諸事情で年1回になってしまいました。けっこうためになる研究会なので、ちょっと残念です。大学の同期で乳腺外科医が4人いるので、合同の症例検討会を行なうのも良いかもしれない、と考えています。

2009年7月6日月曜日

局所再発に対する治療の考え方

今回の乳癌学会でも局所再発に関してのパネルディスカッションがありました。
局所再発は、再発の中でも少し特殊です。何が特殊かというと、一般的に、乳癌が再発した場合、手術の適応になるのは稀ですが、局所再発だけは、手術という選択をすることがよくあるのです。

局所再発は、大きく分けて3種類あります。

①全摘後の皮膚から生じる狭い意味での局所再発…全摘をしたときに皮下に残ってしまった乳腺や脂肪内に癌細胞が残っていて再発する場合と皮膚のリンパ管内に癌細胞が残っていて再発する場合があります。前者は単発のことが多いので手術の良い適応になり、比較的予後は良好です。後者は多発したり、炎症性乳癌様の再発形式を取るので手術は困難であり予後も不良です。
②所属リンパ節再発…郭清したさらに遠方のリンパ節に再発したり、郭清した周囲組織内の遺残癌が再発したりしたものなどです。腋窩から鎖骨下までの範囲の再発に対しては手術を行なうことがあります。胸骨傍リンパ節に対しては、主に手術または放射線治療が選択されます。しかし、鎖骨上リンパ節に対しては、あまり手術は推奨されておらず、放射線治療が選択されることが多いようです。やむを得ない場合に、手術を選択することはあります。
③乳房温存術後の乳房内再発…初回手術時の癌の遺残が原因の場合と新たに癌が発生した多発癌が原因の場合があります。いずれも手術が第1に選択されます。①から③の中で一番予後は良いのですが、炎症性乳癌型の再発の場合は手術困難で予後は不良です。

問題は、局所治療(手術または放射線治療)後に全身療法をどうするか、ということです。

今回の発表の中に、局所治療のみで経過をみている患者さんの割合が非常に高い施設があったことに驚きました。当然、治療成績は不良でした。局所とはいえ、③以外は(③の一部も)遠隔転移のリスクが高くなる再発ですので(局所再発部位から筋肉内の血管に入り込んだり、リンパ節からリンパ管を介して静脈に流れ込んだり…)、全身療法は不可欠だと私は思っています。局所再発は、治癒する可能性のある再発です。そのためには局所治療と全身治療をうまく組み合わせることが重要だと私は考えています。

2009年7月5日日曜日

第17回日本乳癌学会レポート

今回の学会テーマはHumanity Based Medicine。

初日のワークショップ”Humanityに基づく乳癌実地診療”では、患者さんの立場に立った診療の工夫(プライバシーの保護、待ち時間の短縮、不安な時間をなくすための短時間での診断、満足度調査の実施、クリニカルパスの導入、チーム医療の実践など)、緊密な病診連携の構築、DPC導入病院の改善点(医療の標準化と効率化)と問題点(再発患者さんへの入院での検査・治療の制限)などについて発表されました。個々については異論もありましたが、全体的には患者さんの立場に立った乳腺診療を考えていこうとする雰囲気が伝わってきました。

ランチョンセミナーは乳房再建の話を聞いてきました。私の病院では形成外科がないこともあり、今は同時再建も二期的再建もしていません。最近の患者さんのサイトをみると、やはり乳房再建の要求が強くなってきたように感じています。ナグモクリニックの南雲先生のお話を聞き、写真を拝見すると、やはり同時再建で人工乳房を入れるのが一番きれいなような気がします。無理して温存手術をするより、はるかにきれいです。今の人工乳房は安全性の高いグミみたいな硬さのシリコンがメインになってきていて、生理食塩水よりずっと自然な触感が得られます。ただ一番の問題は、この人工乳房が国内で認可されていないため個人輸入しなければならないこと、そして人工乳房による再建手術は保険適応外のため、乳癌の手術と同時に行なうと、乳癌の手術を含めた入院費すべてが保険外診療になることです。これは日本の医療制度上、混合診療が禁止されているからです。混合診療は必ずしも良い点ばかりではなく、様々な問題点を含んでいますから、混合診療を認めるようにするというより、できるだけ早く人工乳房による乳房再建術を保険適応にしてもらいたいと思っています。

午後は、パネルディスカッション”局所再発に対する集学的治療”を聞きましたが、ちょっと期待はずれだったので省略。夕方はサテライトシンポジウム”第24回乳腺診断フォーラム”を聞きにいきました。3例くらいあるかと思いましたが、今回は1例のみでした。でもかなり診断が難しい症例で、濃厚なディスカッションが行なわれました。各方面の専門家の先生方の読み方の鋭さにはあらためて驚きました。

そのあと、小雨がぱらつく中、レストランの広いテラスでの屋外の懇親会に参加して帰ってきました。
あっ、書き忘れましたが、自分の発表もありました。でも貼りっぱなしのポスター発表なので特になにもなかったです。

2日目は、ポスター会場を見て回ったり、ランチョンセミナーで乳房再建後のリハビリの話を聞いたり、画像診断セミナー
に参加したりしましたが、特に報告するような目新しいことはありませんでした。

今回の学会参加者は5000人くらいだったようです。場所的にはアクセスはまあまあでした。ただ、最近は製薬会社主催のいろいろな研究会が多いせいか、乳癌学会で初めて聞くような目新しいことは少なくなってきたように感じます(全部を見れたわけではありませんが…)。
今回、一番うれしかったのは、懐かしい先生や、乳癌関連のサイトでお知り合いになった方などにお会いすることができたことです。学会の大きな魅力は、こうしたいろいろな人との交流があることと、それによって得られる刺激なんです。
私もこれでまた仕事を頑張る意欲が復活してきました!