2014年4月27日日曜日

乳腺術後症例検討会 32 ”2014年度初!”

先週の水曜日はいつもより1週早い症例検討会でした。本当はG先生にマンモグラフィ診断の基礎についての話もしてもらう予定だったのですが、1週早まったためにG先生の予定と重なってしまい今回は3症例の検討だけになってしまいました。

そんなこんなで今回は参加人数は少ないかと思っていたのですが、関連病院の技師さんたちの参加人数もいつもより多く、他施設の技師さんたちも多く参加してくれたので結構な人数が集まりました。

今回の症例は、皮膚肥厚を伴った硬がん症例、非浸潤がんのような超音波画像を呈した高齢者の陳旧性線維腺腫の症例、淡い微細石灰化の出現で検診発見され、当初非浸潤がんも疑われた硬がん症例の3例でした。特に珍しい組織型ではなかったのですが、活発な意見交換で盛り上がりました。

今回初めて参加してくれたK病院の放射線技師さんたちは、とてもよく勉強しているようで積極的に的確な意見を述べてくれました。K病院と言えばH大同期のH先生が乳腺外科医をしている病院です。次回は是非H先生もご一緒に参加して下さいとお伝えしました。ちなみにH先生はE先生のいるD病院の院長のH先生の弟さんです(笑)。

来月はG先生のマンモグラフィ診断の話と症例検討です。また今回のように多くの参加者が集まることを期待しています。

2014年4月18日金曜日

乳癌の治療最新情報36 T-DM1(カドサイラ®)ついに発売!

以前から何度かご紹介してきましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/07/18adc.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/10/adc.html、http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2013/04/t-dm1-vs-trastuzumabdocetaxelphase.html)、HER2陽性乳がんの新規治療薬T-DM1(カドサイラ®)がようやく4/17に薬価収載され4/18に発売になりました。

カドサイラはハーセプチンにDM1(エムタンシン)というチューブリン阻害剤(抗がん剤の1種)を結合させて、HER2が発現している細胞(主にがん細胞)に集中的に効果を発揮する薬剤です。

効能・効果は、HER2陽性の手術不能又は再発乳がんとなっていますが、添付文書には2次治療以降での有効性しか臨床試験で証明されていないと記載されており、実質的に2次治療以降で使用されることになります。投与方法は、1回3.6mg/kgを3週間間隔の点滴静注です。薬価は100mgバイアル製剤が23万5108円、160mgバイアル製剤が37万3945円と非常に高価ですのでほとんどの方が高額医療の対象となります。

HER2陽性乳がんの新規治療薬、特に分子標的薬の開発は目覚ましいものがあります。高額なのが難点ですが、それでもそれに見合う効果が期待できるのであれば新薬の発売は患者さんにとっては朗報です。今、私たちの施設にもこの薬剤の発売を待っていた患者さんたちがいます。ただ血小板減少などの副作用もありますので、十分に注意しながら投与していきたいと考えています。

2014年4月15日火曜日

”第37回 北海道を歩こう”でピンクリボンイベント!

先日、ピンクリボン in SAPPOROの担当者から、”北海道を歩こう”というイベントで乳がんの啓発活動をするので手伝ってもらえないか?という依頼が来ました。特に予定もなかったのでお手伝いさせていただくことになりました。

日程は5/25(日)。”北海道を歩こう”の大会概要はHP(http://www.shsf.jp/walk/about/)、ピンクリボンイベントに関しては、ピンクリボン in SAPPOROのHP(http://pinkribbonsapporo.web.fc2.com/)をご覧下さい。

まだ打ち合わせはしていませんが、私は10kmコースのゴール地点のブースで自己検診の模型を使って自己検診の方法などをご説明したり、ご質問にお答えする予定です。自己検診の模型は私の病院のを持っていく予定でしたのでさっそく今日探してみましたが、3つのうち古い1つしか見つかりませんでした(汗)明日にでもまた探してみるつもりです(乳腺センターの予算で買ったものですのでなくなるとまずいです…泣)。

札幌近郊で最近運動不足だなと感じている方は是非このイベントに参加してみて下さい(参加申し込み締め切りは4/25)。そしてピンクリボンのブースを見かけたらお気軽にお立ち寄り下さい!

乳房切除術+腋窩リンパ節郭清後の放射線治療〜”リンパ節転移1-3個でも有効!?”

乳房切除+腋窩リンパ節郭清後に胸壁および所属リンパ節(鎖骨上、胸骨傍)に照射を加えるべきかどうかについては、長い乳がん治療の歴史の中でさまざまな変遷がありました。

かなり昔(私が医師になる前)には、乳がん術後にはかなりの症例に対して放射線治療を行なっていた時代もあったようです。しかし徐々に全例に対して照射をすることに対して疑問を呈する報告が出されるようになり、EBCTCG(Early Breast Cancer Trialist's Group)が発表した1995年のメタアナリシスにおいて、全ての乳がん患者に対して乳房切除+腋窩リンパ節郭清後に放射線治療を加えても局所再発率は低下させても全生存率は改善しないという報告が出されてからは、腋窩郭清後に放射線治療をするケースは稀になってきました。その後の2000年のメタアナリシスにおいても20年生存率には差がないという結果でした。

しかし、これらは”(リンパ節転移がない症例を多く含む)全ての乳がん患者さん”に対して予防的に照射する有益性はないということです。その後リスク別の解析が行なわれ、2001年のASCOにおいて、リンパ節転移4個以上の再発リスクの高い患者さんにおいては放射線治療が推奨され、リンパ節転移が陽性かつ腫瘍径が大きい(5cm以上)患者さんにおいては放射線治療が考慮されるというガイドラインが発表されてからは、これが多くの施設の標準的な考え方になっていました。

さて、ではリンパ節転移が1-3個(腫瘍径を問わず)の場合についてはどうでしょう?やはり照射した方が良いのではないかという意見が最近では多いような印象ですが(乳癌診療ガイドライン2013年度版でも推奨グレードBになっています)、実はまだ完全なコンセンサスが得られていません。今回EBCTCGがこのことに関する新たなメタアナリシスの結果を報告しました(http://pmc.carenet.com/?pmid=24656685&keiro=journal)。

概要は以下の通りです。

目的:リンパ節転移が1~3個と少ない患者における放射線治療の効果について評価する。

対象・方法:オックスフォード大学のEBCTCGによる1964-1986年に行なわれた無作為比較試験22試験に参加した8135例の患者データのメタアナリシス。乳房切除術+腋窩リンパ節郭清後に放射線治療を受けた、または受けなかった患者さんにおける再発または死亡について10年間(または2009年1月1日時点まで)追跡し、参加試験、個々の追跡年、試験開始時年齢、リンパ節の病理所見で層別化して分析。

結果:
①リンパ節転移0個(700例)→放射線療法は局所再発(両者の有意水準[2p]>0.1)、全再発(放射線療法群vs. 非療法群のリスク比[RR]:1.06、95%信頼区間[CI]:0.76~1.48、2p>0.1)、乳がん死亡(同:1.18、0.89~1.55、2p>0.1)に有意な影響を及ぼさなかった。
②リンパ節転移1-3個(1314例)→放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.68、95%CI:0.57~0.82、2p=0.00006)、乳がん死亡(同:0.80、0.67~0.95、2p=0.01)を抑制。1314例中1133例が全身治療(シクロホスファミド、メトトレキサート、フルオロウラシルまたはタモキシフェン)を試験中に受けており、これらの症例では局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.67、95%CI:0.55~0.82、2p=0.00009)、乳がん死亡(同:0.78、0.64~0.94、2p=0.01)を抑制する効果がより高かった。
③リンパ節転移4個以上(1772例)→放射線療法は局所再発(2p<0.00001)、全再発(RR:0.79、95%CI:0.69~0.90、2p=0.0003)、乳がん死亡(同:0.87、0.77~0.99、2p=0.04)の抑制がみられた。

以上の報告からは、”リンパ節転移が少なくても放射線治療をした方が良い”という結論のように受け取れます。しかし、よく見てみると、今回示された死亡率は、”全死亡率”ではなく”乳がん死亡率”となっています。最初に述べたように、昔よく行なわれていた放射線治療が行なわれなくなった理由は、局所再発率は下げても”全生存率”は変わらなかったからです。2000年のEBCTCGの解析においても20年局所再発率(照射なし30% vs 照射あり10%)とともに乳がん死亡率も低下させてはいましたが、他病死が増加したためにその効果が相殺され全生存率(同36% vs 37%)の改善は見られなかったと報告されています。今回の論文すべてにはまだ目を通してはいませんが(インターネット版のみなので)、乳がん死亡率の低下のみで有益性を判断するのは不十分だと思います。少なくとも今回の検討の対象になっているのはかなり古い時代の患者さんですので他病死の影響は無視できないのではないかと思います。ただ現在の放射線治療は以前に比べると心臓など他臓器への影響は著しく低減しているため、現在の治療とこの報告は同列には考えられません。仮に全生存率で有意差がなかったとしてもあまり参考にならないかもしれません。エビデンスを考える際に、いつの時代の症例を対象にしているのかをよく考えないと謝った判断をしてしまうことがあるので注意が必要です。

結局リンパ節転移が1-3個の場合に放射線治療を行なうかどうかは私はまだ判断を保留にしておきます。

2014年4月10日木曜日

STAP細胞、本当にあるといいですね!

今月に入ってなかなかブログを更新できませんでした。緩和病棟の患者さんの状態が悪くて落ち着かなかったのと乳腺センターの総括会議や乳腺指導医の書類を作っていたりなど雑務が多かったこともありますが、なんとなく気力がわきませんでした(汗)男の更年期でしょうか?(泣)

巷ではSTAP細胞があるのかないのかなどが話題になっていますが、個人的には割烹着とか小保方さんが理研の懲罰対象になるかどうかよりも将来の医療の役に立つSTAP細胞が本当に誰でも簡単に作ることができるのかどうかに興味があります。科学者としてその論文作成作業に問題があったことは確かですのでそれはきちんと反省する必要がありますが、科学的な立証がいま一番必要なのだと私は思います。万能細胞が実臨床に応用できる日を待ちこがれている人が世界中にたくさんいますので、STAP細胞が実在することを私は願っています(乳がん領域への応用は難しいかもしれませんが…)。

さてそろそろ7月の乳癌学会の準備をしなければなりません。でもまったくやる気が起きません(泣)
今回は症例報告(e-POSTER)ですので事前に登録してしまえば終了です。週末から重い腰を上げて頑張ります!