2010年7月30日金曜日

第7回 With You 北海道~あなたとブレストケアを考える会~


初回からこの取り組みに関わってきて、もう今年で7回目になります。患者さんとご家族、そして医療従事者が集まって勉強したり、悩みを話し合う場として年1回行なってきました。毎年、私の病院の患者さん、職員も多数参加しています。

概要は以下の通りです。

日時:2010年8月28日(土)
場所:札幌医科大学研究棟1階 大講堂
テーマ:『コミュニケーション~目を見て話し合うこと・・・それは未来がひらけること~』
対象:乳がん患者さんとご家族、乳がん関連の専門家、医療関係者
主な内容:
講演1  「乳がん患者とコミュニケーション」保坂 隆先生(東海大学医学部 精神医学 教授)
講演2  「実際の上手なコミュニケーション」堺 なおこさん(フリーアナウンサー)
講演3  「乳がんの方が利用できる社会保障制度、乳がん診療における医療費」高橋 由美子さん(札幌医科大学看護部 師長)
参加者グループワーク 

今まであまり疑問も感じずに参加してきましたが、どうやらかの有名な腫瘍内科のW先生はこういう集まりはお嫌いなようです(ブログに書いてありました)。たしかにW先生がおっしゃる通り、グループワークと言っても結局、患者さんから医師への医療相談(画像のないセカンドオピニオン?)のようになってしまうことも多いのです。ですから「中途半端な患者会議」とおっしゃる意味は理解できます。患者さんとの医療相談は本来医師と患者さんが1対1で話し合うべきものだからです。

なるべくそうならないようにと、私たち医療従事者がファシリテーターとしてなんとか患者さん同士の会話に戻そうとするのですが、今まではなかなかうまくいきませんでした。ですから今年はうまくグループワークが進行するように、ファシリテーターの学習会を行なってくれることになりました(残念ながら私は所用で参加できませんが…)。

W先生がおっしゃるような問題はあるかもしれませんが、通常の市民公開講座よりは、患者さんと医療従事者の距離は近いと思いますし、患者さん同士が知り合いになったり、さまざまな運動のきっかけづくりの機会にもなります。ですから、この会の存在意義は十分にあると私は思っています。

参加ご希望の方は、実行委員のいる病院の外科外来で申込書付きのパンフレット(写真)をもらうか、札幌医大のHP(http://web.sapmed.ac.jp/jp/news/event/03bqho0000001ph8.html)をご覧下さい。

2010年7月28日水曜日

乳癌の治療最新情報19 アブラキサン認可!

現在、進行再発乳癌の治療や術前化学療法として使用されているパクリタキセルは、溶解性が極めて悪いためポリオキシエチレンヒマシ油(クレモホールEL)という特殊な溶解剤とエタノールを使用しなければなりません。

そのため,過敏症反応の出現が問題になり,ステロイド,H1拮抗薬,H2拮抗薬による前投薬を行わなければなりませんでした。また,投与に当たっては,特殊な点滴セットを使用しなければならないという問題もありました。

アブラキサンは,パクリタキセルをアルブミン結合することにより溶解性が向上し,クレモホールとエタノールを必要としないナノ粒子化した懸濁製剤で,欧米の臨床試験で,従来のパクリタキセル製剤に比較して有用性が高いことが証明され,既に欧米で承認されています。
日本では,大鵬薬品が臨床開発を進め、今年の3月に厚生労働省に承認申請をしていましたが、今回正式に認可されたということです。

アブラキサンはパクリタキセルに比べ投薬作業を簡便にできるほか、点滴時間を縮められるため患者さんの負担を減らすことができます。また、パクリタキセルの場合には含有するエタノールによって酩酊状態になる方もいましたので、外来で投与する場合には自家用車では来ないように指導してきましたが、アブラキサンの場合はその心配も不要です。

一定数が集積されるまで全症例を対象に使用成績調査が必要ですが、外来で投与するにはとてもありがたい治療薬になりそうです。

2010年7月27日火曜日

タモキシフェンとアロマターゼ阻害剤の使い分け

同時期にタモキシフェン(TAM)とアロマターゼ阻害剤(AI)の使い分けについて二つのニュースが入ってきました。

一つ目は米国臨床腫瘍学会(ASCO)が発表したホルモン療法に関する新しいガイドラインです。

これによると、ホルモン療法の効果に関する体系的レビューの結果、閉経後女性ではTAMにAIを追加またはAI単独のほうが、TAMに比べて再発が明らかに減少(無病生存期間が改善し、癌の転移リスクも低減)したとの報告を受け、ガイドライン作成委員会では、ER陽性乳癌に対しては全員TAMの使用前後いずれかにAIを使用するよう勧めているとのことです。また、癌の再発リスク低減のため、同薬はTAM投与後5年間使用できるとしています。なお、現在使用されているAIの3剤(アリミデックス、アロマシン、フェマーラ)の間には明らかな有益性の差はないとしています。


一方、東大の中村祐輔教授らは、TAMを代謝する酵素の遺伝子解析によって、TAMが有効な群と無効な群をあらかじめ選別できる可能性があることを報告し、臨床試験を始めることを発表しました。

TAMは体内で分解され、がんに効く成分ができます。遺伝子の微妙な違いで、分解酵素の働きが「弱い」患者は、酵素の働きが「正常」「やや弱い」患者に比べ、再発の危険性が2.2-9.5倍高かったとのことです。

酵素の働きが弱いのは患者の2割ですので、このグループにはAIを投与し、残りの8割にTAMを投与すれば再発率を10%未満に抑え、効果が高いと予測しています。これによって年間110億円を節約できると試算しています。患者さんにとってもTAMがAIと同等の効果が予測されるとあらかじめわかったら、TAMのほうが安価ですので経済的にかなり助かると思います。この研究がうまくいくといいですね。

2010年7月25日日曜日

新しい乳房照射法〜乳房温存術中のターゲット単回照射の効果

現在、日本の乳房温存療法ガイドラインでは、乳房温存術後の乳房照射に関して、”接線方向に総線量45-50.4Gyを5-6週間で照射することが標準”とされています。

今回報告されたTARGIT-A試験の結果によると、術中に切除部位周囲に放射線を照射する方法が、従来の方法とほぼ同等の効果があったということです。報告の概要は以下の通り。

研究者:Jayant S Vaidyaら(イギリスUniversity College London外科研究部門)

臨床試験名:TARGIT-A試験(前向き無作為化非劣性試験)

対象・方法:乳房温存術を施行された45歳以上の浸潤性乳管がんの女性。対象症例を術中ターゲット照射群(n=1113)と全乳房外照射群(n=1119)に無作為に割り付けた。主要評価項目は、温存乳房における局所再発率。

結果:術後4年の時点で、術中ターゲット照射群の6例、外部照射群の5例が局所再発をきたした。4年時点におけるKaplan-Meier法による温存乳房の局所再発率は、術中ターゲット照射群が1.20%(95%信頼区間:0.53~2.71%)、外部照射群は0.95%(同:0.39~2.31%)であった。両群間の差は0.25%(同:-1.04~1.54)であり、有意差は認めず同等であった(p=0.41)。
重篤な毒性の頻度は術中ターゲット照射群が3.3%、外部照射群は3.9%と両群で同等であり(p=0.44)、合併症の頻度にも差は認めなかった。grade 3(Radiation Therapy Oncology Group)の放射線毒性の頻度は術中ターゲット照射群が0.5%と、外部照射群の2.1%に比べて有意に低かった(p=0.002)。

結論:早期乳がんの中には、術後の数週にわたる外部照射に代わり術中ターゲット照射法を用いた手術時の単回放射線照射が有効な患者がいることを考慮すべきである。


この報告が日本の乳がん患者さんにも当てはまるなら、総治療期間を短縮できるのでとても魅力的です。

しかし、私自身はこの結果をそのまま日本の治療に取り入れることについては少し疑問があります。

この研究の根拠になっているのは、欧米では”乳房温存術施行後の局所再発の90%は指標とされる四分円内に起こる”というデータです。これはいかに欧米では断端陽性率が高いかということを示唆しているように感じます。本来、完全に切除断端に癌が存在していないなら(病理学的に完全に切除できているということ)、断端からの再発は0%なので、あとは多発癌のみです。であれば、乳房内再発は均等に起きるはずです。切除した4分円のみに高率に再発するということは、それだけ癌の遺残が多いことを意味しています。

欧米では切除の方法が日本で推奨されている方法(癌研で行なわれてきた、腫瘍から一定距離をおいて胸壁に垂直に切除する方法)とは異なりあまり腫瘍から距離を取りませんので、局所再発率も日本に比べると少し高い傾向にあります。

以前、癌研で行なわれていた非照射の乳房温存術(扇状切除、断端陽性は再手術)における局所再発率は、欧米の照射併用の温存術の局所再発率よりも低かった記憶があります。断端を陰性にするというのはそれだけの効果があるのです。その上で放射線治療を加えれば、多発癌の発生も抑制できるのでさらに局所再発率は低下します。

ただ、最近の国内の傾向はだんだん欧米式に傾いてきているように感じます。美容を重視しすぎるため、もしくは乳房温存率を高めるために、腫瘍からの距離を十分におかなかったり、化学療法後の乳房温存術が増えてきたり(これを否定するわけではありません)、ということで、癌が断端に遺残する確率が高くなってきているような印象を受けます。”どうせ放射線治療するんだからいいんだ”という過信があるのなら、局所再発率はおそらく徐々に高くなっていくでしょう。

話がそれてしまいましたが、2つの治療法に差が出なかったのは、もともと断端に癌の遺残が多かったからかもしれないので、断端を重視する乳房温存術を行なった上で行なう照射法としては適していないのではないか?というのが私の推論です。

2010年7月24日土曜日

希望のちから

以前J.POSHの知人の方に教えていただいた「希望のちから」という映画のDVDをようやく見ることができました(あれこれ行事が重なってこんなに遅くなってしまいましたが…)。

とても興味深い作品で感動的でした。

これはHER2陽性乳がんに対する分子標的薬、ハーセプチンの開発に情熱を注いだある医師の実話です。いま多くの患者さんに投与しているハーセプチンですが、この新薬開発に携わる医師たちや患者さんの苦悩が、とてもリアルに描かれていました。そして新薬開発における臨床試験の重要性と資金面や対象患者さんを選択する際の難しさなど、私たちが普段何気なく投与している薬剤がここまで来るのに多くの困難を乗り越えてきたんだということをあらためて感じさせてくれました。

シリアスな部分が多いですので、すべての患者さんに見た方が良いとは言えないところもありますが、ハーセプチン投与中の患者さんや、臨床試験に参加している、または参加を検討している患者さんなど、興味ある方にはおすすめの作品です。

なおNPO法人キャンサーネットジャパンの公式ブログ(http://blogs.yahoo.co.jp/cancernet_japan/42886696.html)にも紹介されていました。

2010年7月22日木曜日

アバスチンの乳がんへの適応遠のく…

ベバシズマブ(商品名 アバスチン)は,血管内皮増殖因子(VEGF)ヒト化モノクローナル抗体製剤(分子標的薬)で,血管新生阻害作用を介し腫瘍増殖を抑制します。

国内では進行再発大腸がんや非小細胞肺がんで保険適応となっています。乳がんに対してはいまだ未承認ですが、2008年に米食品医薬品局(FDA)は進行性の未治療HER2陰性乳がんに対し,パクリタキセルとの併用による一次治療を迅速承認されたため(第Ⅲ相試験で同レジメンによる無再発生存期間の改善が認められていた)、販売元の中外製薬は2009年10月16日に乳がんに対する適応追加の承認申請を厚生労働省に行っていました。

しかし、7月20日,米食品医薬品局(FDA)の抗悪性腫瘍薬諮問委員会が進行性乳がんに対するアバスチンの承認を審議し、12対1で取り消しを可決したことが明らかになったのです!

この判定の根拠は、その後行なわれた追加の二つの臨床試験(AVADO,RIBBON 1)の結果によるものでした。
アバスチン+抗がん剤併用群vs抗がん剤単独群の比較において、多く発生した有害事象は高血圧(10.4% vs. 1.2%),蛋白尿(2.6% vs. 0%)、重篤な有害事象は動脈血栓塞栓性イベント(1.9% vs. 0.3%),出血(1.6% vs. 0.4%),発熱性好中球減少症(5.0% vs. 3.5%)と、ともに併用群に多かったにも関わらず、その全生存率には有意差がなかったということです。結局、有効性より有害性が全面に出てしまったという結果になってしまいました。新たな治療薬として期待していただけに残念です。

この結果を受けて厚生労働省がどういう反応を示すか、中外製薬が申請を取り下げるのか注目しています。非常に高価な薬剤ですので、有効性がなければ認めるべきではない(少なくとも保留すべき)と私は考えています。

2010年7月19日月曜日

8/6(金)はピンクリボンin SAPPORO 2010 夏休みフェスティバル!

今年もピンクリボンin SAPPORO 夏休みフェスティバルが8/6(金)に札幌大通公園のホワイトロックで行なわれます(13:00-20:00)。

イベントの詳細はピンクリボンin SAPPOROのHP(http://pinkribbonsapporo.web.fc2.com/)に書いてあります。参加料は1000円です。

主な内容は、夕方までは「家族大発表会」、夕方からはゴスペルコンサートです。昨年は夕方までのイベントを見ることができませんでした。今年は午後から年休を取って参加したいと思っています。今回のライブは、乳がんと闘うゴスペルシンガーKiKiさんと、この日のために結成されたピンクリボンクワイヤ(乳がん患者さんや医療従事者などが一生懸命に練習していました)によるゴスペルコンサートです。昨年のジャズも良かったですが、今年もすごく楽しみです!

昨年はホワイトロック内で食べ物や飲み物(アルコールも)の販売があり、飲食しながら楽しみましたが、今年もきっとあるんじゃないかと思います(HPには記載がないようですが…)。もちろん今年もテレビ塔とホワイトロックはピンク色に染まります。点灯は19:30~22:00の間です。

乳がん検診とピンクリボン運動を多くの方々に知っていただける機会になればいいなと思っています。近隣にお住まいの方は是非、お友達やご家族とご一緒にこのイベントにご参加下さい。

2010年7月15日木曜日

再発巣完全消失後の治療継続期間

一般的にがんが再発すると完全治癒は困難と言われます。たしかに簡単なことではないのですが、中には治療が非常に良く効いて、長期にわたって再発が消えた状態を維持できることがあります。

このような場合、治療(すなわちがんの消失に非常に有効だった治療)をいつまで継続するか迷ってしまうことがあります。患者さんにとっても高額な治療薬の継続はできれば避けたいという思いもあるでしょう。でも、薬をやめたらまた再発するのではないかという不安も同時にあるのです。それは私たちにとっても同様です。このようなケースでいつまで治療を継続すべきかという明確なガイドラインは存在しないからです。

一応、私はがんのタイプによっておおむね次のように考えています。

①ER(+)、HER2(-)
一般的に進行が遅いため、再再発も遅い可能性があります。再発巣の完全消失後、最低5年はホルモン療法を継続(アロマターゼ阻害剤ならできれば10年、タモキシフェン投与中に閉経したら5年投与後にアロマターゼ阻害剤をさらに5年、若年者ならLH-RH agonistを閉経年齢まで継続または卵巣摘除)します。

②ER(-)、HER2(+)
ハーセプチン+抗がん剤で完全消失した場合、抗がん剤の基本的な投与回数を最低継続(例えばドセタキセルなら4-6回以上)した上で、ハーセプチンのみを完全消失後5年間継続。

③ER(+)、HER2(+)
①と②を併用(症例によってはハーセプチンをもう少し早く終了する可能性もあり)。

④ER(-)、HER2(-)(トリプルネガティブ)
抗がん剤しか効かないため、有効な抗がん剤をできるだけ投与。その後は無治療(XC療法などの経口抗がん剤の投与が有効な場合もあるため、2年間投与しても良いかもしれません)。このタイプは再発する場合は早いため、2年間再再発しなければ治癒している可能性があります。

現在、①でもう1−2年で薬をやめれそうな患者さんが2人、②で秋にハーセプチンを終了予定の患者さんが1人いらっしゃいます。また、すでに治療を終了してお元気に過ごされている患者さんも複数いらっしゃいます(トリプルネガティブで放射線治療と抗がん剤で2回の再発を乗り越えて完全に治癒したと思われる患者さんもいらっしゃいます)。再発しても治療が奏効するとこのようなケースもあります。治療も日々進歩しています。再発しても怖くない時代が一日も早く来て欲しいですね。

2010年7月13日火曜日

乳癌の治療最新情報18 ハーセプチンADC 

また新しいタイプの治療薬が開発されました。

HER2陽性乳癌に対する分子標的薬としては、現在ハーセプチン(一般名 トラスツズマブ)、タイケルブ(一般名 ラパチニブ)が使用可能です。一般的にはこれらに抗がん剤を併用することによって治療効果を高めています。

今回スイスのロシュ社が米国食品医薬品局(FDA)に承認申請した薬剤T-DM1は、ハーセプチンと抗がん剤(DM1)を結合させた新しいタイプの薬剤です。このようなタイプを抗体-薬物複合体(ADC)と呼びます。選択的ながん細胞攻撃を可能にするADC技術は次世代がん治療としての応用が期待されています。

すでに日本でも乳がんの適応でフェーズ1試験を実施しているそうです。T-DM1は、ハーセプチンがDM1をがん細胞まで送達し、DM1が悪性腫瘍のみを選択的に攻撃する作用機序を持つため、分子標的薬と抗がん剤が効率的に作用し、既存薬に比べ副作用が少ないのが特徴と言われています。

申請には、治療歴のあるHER2陽性患者を対象とするフェーズ2試験などで得られた結果が添えられています。少なくとも2種類のHER2を標的とする分子標的治療(ハーセプチンとタイケルブ)と化学療法を受けたのちに進行した110人の患者を対象に行われ、T-DM1は、平均7種類の治療を受けてきた進行乳癌患者の33%に腫瘍縮小効果をもたらすことが示されました。
日本ではまだ先になりますが、米国ではFDAの優先審査対象に指定された場合、早ければ来年にも上市できるとのことです。

このほかにもT-DM1を単剤で投与、もしくは他の癌治療薬(カペシタビン、ペルツズマブ、ドセタキセルなど)と併用した場合の有効性と安全性を、ラパチニブやトラスツズマブなどと比較するフェーズ2試験、フェーズ3試験も進行中、または計画されているようです。

分子標的薬やこれを応用した薬剤の開発は世界中で行なわれています。今は難治性のタイプのがんであっても、近い将来には副作用も少なく有効な薬剤が開発されることを期待させてくれるニュースでした。

2010年7月10日土曜日

第19回北海道乳腺診断フォーラム

昨日ホテルポールスター札幌で乳腺診断フォーラムが行なわれました。この会の運営委員になっていることもあり初回から参加していますが、いつのまにか19回…。いつもうちの病院からも乳腺外科医、病理医(今回は欠席しましたが…)、超音波検査技師、放射線技師の10人ほどで参加しています。当初年2回でしたが昨年から年1回になってしまい、少し寂しく思っています(終了後の懇親会を心待ちにしている職員も多いんです…笑)。

この会は、症例検討を2例(たまに3例)行なったあとで、全国の著名な先生をお招きしてご講演をいただいています。

<症例①>
マンモグラフィ上、FAD(局所性非対称性陰影)に構築の乱れを伴っているように見え超音波画像上も悪性(非浸潤癌)を疑う所見でしたが、結果的には乳管内乳頭腫だったという1例でした。

<症例②>
境界明瞭な腫瘤を3個マンモグラフィ上認めましたが、2個は外側、1個は内側でかなり離れていました。一見嚢胞などの良性を考える所見ですが、超音波画像上は内側の1個は嚢胞性部分をわずかに伴う境界明瞭な軽度高エコー腫瘤(粘液癌様)、外側は嚢胞内腫瘍と不整形の腫瘤でした。一連のものと考えるかまったく別ものと考えるかが難しいところでしたが、結果的には全てが乳管内で連続している非浸潤癌主体の浸潤性乳管癌でした。

<講演>
「乳腺画像診断の変遷-自動超音波とMRIを中心に-」
亀田総合病院乳腺科部長の戸崎光宏先生のご講演でした。最新の診断技術についてと欧米の診断基準や検査の進め方と日本の考え方の違いについて詳しくご説明していただきました。欧米のいわゆる”世界基準”が日本人にとってベストなのかどうかという疑問は抱きましたが、欧米のデータに基づくクリアカットな考え方については勉強になりました。

自動超音波やMRが乳がん検診として普及するかどうかはいろいろな問題点をクリアしなければなりません。その有効性については間違いないと思うのですが、費用や検査時間、診断基準の標準化などまだしばらく時間がかかりそうです。また、これらによってマンモグラフィ検診がなくなるかもしれませんし、超音波診断技術も今まで積み上げてきた経験の半分くらいが役に立たないものになっていくかもしれません。そのうち診断もコンピュータがすべて判定してくれる時代が来るでしょう。アナログ世代、巨人の星をみて育った根性世代の人間としては少しさみしいような気もします。

2010年7月8日木曜日

価値観の違いと事実誤認

今日、喫茶店で昼食を食べながら週刊Gを読んでいました。

その中に現代医療を否定するような記事が掲載されていました。有名大学教授(医学部も含む)などが数名、がん検診は無意味どころか有害であるような意見を述べていました。たしかに一部の検診でそういうデータがあるのも事実ですが、すべてのがん検診が有害であるかのような書き方は正しくありません。国民の不安をあおったり、不確かな情報を植え付けるのは良くないと思います。当然、反対の意見もあるわけですから、一方的な意見を載せるのではなく、双方の意見を紙上で闘わせるのが正しいマスコミのあり方ではないかと思います。

その上で例えばマンモグラフィで浴びる放射線がわずかでも有害なので検診を受けないというのも一つの考え方だと思いますし、多少の被爆を受けてでも乳癌を早期発見したいというのも一つの考え方だと思います。これはもう価値観の問題ですよね。

ただし、正しい判断をするためには正しい情報が不可欠です。この記事の中に、”ごく早期のがんを検診で発見しても大部分は悪性にならない”というようなことが述べてありました。まだ”がんもどき”理論は通用しているのでしょうか?根拠がまったくないかなり意味不明な書き方です。やむを得ない状況で手術をせずに経過観察をした早期癌の患者さんのほとんどは次第に進行していきます。多くのがん患者さんの治療に携わっている医師は、この「早期癌のほとんどは”悪性”ではないので命に関わらない。検診ではこのような”がんもどき”を見つけて治療しているだけなので意味がない。」という考え方が正しくないことを知っています。これは価値観の違いではなく、明らかに事実誤認です。

自分で乳癌だと知りながら、死んでもいいから病院に行って標準治療(手術や化学療法など)を受けるのは嫌だと我慢される方が今でもいらっしゃいます。本当にそういう信念を最後まで貫かれるならそれは価値観の違いなのでやむを得ないと思います。でもそういう患者さんのほとんどは、いずれ悪臭や出血、痛みに悩まされ、結局病院に受診せざるを得なくなります。そして早く受診しなかったことを後悔しながら標準治療(治癒は当然難しくなりますが)を受けていらっしゃるのです。こうなると結局このような患者さんたちは本当の意味での十分な知識がなかったために、事実を誤認していたんだということになります。

このような悲しい結果を招かないように、私たち医療従事者は正しい知識を広く世の中に伝えていかなくてはならないといつも感じています。

2010年7月6日火曜日

乳がん検診〜要精査フォロー

いま乳癌検診学会の準備も兼ねて、過去5年間の「要精査」となった検診受診者のカルテチェックをしています。

調べてみてあらためて思うことがありました。

①「要精査」となった受診者で精査を受けていないと思われる人が多い
→たまに来院をお勧めする電話をかけると、”どうしても検査しなきゃだめですか?”と言われてしまうことがあります。何ともないと言われることを期待しているお気持ちはわかりますが、検診はがんの早期発見の為に受けるものです。再検査が必要と言われたら、念のためきちんと受けるべきです。

②「要精査」受診者のフォローが不十分
→まったく受診していないのに問い合わせのフォローがされていないケースが思いのほか多いことがわかりました。健診課の業務なのですが、体制が不十分なことと、システム上の不便さもあり、検診を拡大することに手一杯でフォローまで手が回らない状況が続いていました。今後見直しが必要だと痛感しました。

③「精査依頼書」の返事が来ていないことがある
→「要精査」でお返しした場合、当院以外の病院にも受診できるように、検診結果を書いた「精査依頼書」という用紙を同封しています。もし他の病院で精査を受けた場合、複写になっている一部を一次検診機関に返送することになっているのですが、送られて来ないことも多いようです。逆に当院に精査にいらっしゃる方もいますので、検診機関に対して失礼にならないように気をつけなければなりませんね。

現在、超音波技師、放射線技師と手分けしてカルテチェックをしていますが、「要精査」対象者は約700人くらいいるため、なかなか大変です。明日中には終わらせて、検診学会の抄録締め切りまでに間に合うように頑張ります。

2010年7月2日金曜日

学会参加とチーム医療

先週(6/24-25)、ようやく乳癌学会総会が終わったと思ったら、10/9の乳癌学会地方会(札幌)の締め切りが今日、そして乳癌検診学会総会(福岡)の締め切りが7/13…。

今週に入ってからあわてて二つの演題申し込みの準備をしていました。そして準備期間4日間で地方会の抄録を昨日の夜に提出し、今日から乳癌検診学会の準備に入りました。検診学会は技師さんに発表してもらおうと思っていますが、時間がないので下準備を手伝っています。

私の病院では、医師は年2回(発表し論文化すれば3回まで)公費で学会参加できます。しかし技師さんや看護師さんたちにはそのような規定はなく、技師や看護師全体で年間に与えられた予算と自分たちの会費の範囲内で交代で学会に参加しています。もちろん発表する人が優先ですが、予算を超えたり連続して発表する場合には、やむを得ず私費で参加せざるを得ないのが現状です。

私はもうずいぶん前から技師さんたちの全国学会の参加や発表を後押ししてきましたが、この予算の壁によってなかなか困難な面がありました。それでも検診学会にはここ数年、連続で演題を複数発表してきており、ようやく軌道に乗ってきたところです。せっかく意欲があるのですから、なんとか金銭的にもバックアップできないものかと考え、学会発表をする技師さんや看護師さんたちに公費の補助を拡充するよう、近いうちに病院の管理部に働きかけるつもりです。

医療は医師だけで行なえるものではありません。正しい診断・治療のためには、技師さんたちや看護師さんたちの知識と技量の向上が不可欠です。乳腺チームのさらなる進歩のためにも学会参加の予算拡充、頑張りたいと思います!

2010年7月1日木曜日

ホルモン療法の副作用5 脂質異常と脂肪肝、NASH

中性脂肪が上昇したり、脂肪肝による肝機能障害が出るのもタモキシフェンでよく見られる副作用です。軽度のものも含めるとかなり高率です。薬物療法が必要になったりタモキシフェンを中止しなければならないこともそれほど多くはありませんが時々あります。年齢的にも肥満になりやすく、閉経の影響も加わるとなおさらこれらの副作用は起きやすくなります。

治療は運動療法と食事療法が基本ですが、なかなか改善しないことも多いです。
あまりひどい場合は閉経前ならトレミフェン(商品名 フェアストン)に変更します。トレミフェンの適応は原則的には閉経後となっていますが、タモキシフェンと同様の抗エストロゲン剤なので効果としては問題ありません。同じ抗エストロゲン剤ですがタモキシフェンに比べると中性脂肪の上昇や脂肪肝の発生は少ないと言われています。閉経後であればアロマターゼ阻害剤に変更するのが良いと思います。

一般的には脂肪肝は起きても軽度の肝機能障害程度ですむことが多いのですが、中には重篤な肝障害を起こすことがあります。
高知医大の根本禎久先生らの研究の要旨を以下に示します。

“治療開始後2カ月〜3年以内に日本人女性乳癌患者の実に36%で、高度で急速に進行する脂肪肝が生じる。その病態を明らかにする過程で、高度の脂肪肝を生じた患者さんは肥満に乏しいにもかかわらず全身性の脂質代謝異常を生じていること、その半数が肝障害をきたすこと、検索し得た症例では病理組織像がnon-alcoholic steatohepatitis(NASH)の所見に合致することを我々は明らかにした“
“そこで、私はエストロゲン欠損マウスを作成し、その病態を解析したところエストロゲンは脂質のβ酸化に深く関与しており、その欠損により脂質のβ酸化能が著しく低下し高度の脂肪肝を生じることを明らかにした”

36%の発症率は少し高すぎるような気がしますが、肥満でもないのに超音波検査で高度の脂肪肝が見られることは実際あります。
非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝細胞変性・壊死と炎症・線維化を伴う予後不良と言われる肝疾患です。超音波検査での鑑別は困難ですが、血液生化学検査で、単純性脂肪肝かNASHかの鑑別はある程度可能です。NASHの多くは線維化を伴い、炎症や肝細胞変性・壊死も存在するので単純性脂肪肝に比べ炎症を反映する血清トランスアミナーゼ(ALT値)がより高値で、線維増生のために血小板低下や線維化マーカー(ヒアルロン酸やⅣ型コラーゲン)高値例が多く、インスリン抵抗性の指標であるHOMA-IR(空腹時血糖 x 血中インスリン値/405)高値、鉄蓄積の指標である血清フェリチン高値例が多くみられると言われています。

なお、最近、私の患者さんでトレミフェン内服中にNASHと診断された患者さんを経験しました。タモキシフェンに比べ、副作用の少ない薬であり、NASHの報告は今まではないようですが一応注意は必要です。アロマターゼ阻害剤ではNASHの報告は聞いたことがありませんし、経験もありません。

ホルモン剤内服中の患者さんで、肝機能の急速な悪化が見られる場合にはNASHの可能性を考えなければなりません。このような副作用の可能性があるため、私はホルモン剤処方中の患者さんには3ヶ月に1回は血液検査をしています。乳癌の術後に定期的な血液検査は不要と言うDrもいますが、ホルモン剤内服中には定期的な副作用のチェックは必要だと私は思います。