2010年2月25日木曜日

術前のMR検査は乳房温存術後の再手術率を改善しない??

Lancetの2010年2月13日号に、「早期乳がんの術前にMR検査を追加しても再手術率は改善しない」というイギリスのCOMICE試験の報告が掲載されました。

今までの通説では、視触診、マンモグラフィ、超音波検査に造影MR(またはCT)を追加することによって乳房温存術後の断端陽性率(癌の遺残率)を低下させることができるとされてきましたので、まったく正反対の報告です。

この臨床試験の概要は以下の通りです。

対象・方法:トリプルアセスメント(視診/触診、X線マンモグラフィ/超音波、穿刺吸引細胞診/コア生検)施行後に乳腺部分切除術が計画され、生検で原発性乳がんが証明されている18歳以上のイギリス人女性1623例。これらの症例をトリプルアセスメントにMRIを追加する群(816例)とトリプルアセスメントのみの群(807例)に無作為に割り付けた。

主要評価項目:割り付け後6ヵ月以内の再手術の施行率、もしくは初回手術時の病理検査で切除術は回避可能との評価(切除断端の陰性率を意味すると思われる)。

結果:再手術率は、MRI追加群 19%(153/816例)、MRI非追加群 19%(156/807例)であり、両群で同等であった(オッズ比:0.96、p=0.77)。

結論:「早期の原発性乳癌の診療にMRを追加しても、再手術率は低減しない」「高価な検査法であるMRが不要なことが確認されたため、医療資源の観点から国民保険サービス(NHS)にはベネフィットがもたらされる。NHSの利便性の改善に役立つ可能性がある」


時として欧米の臨床試験結果は、日本国内の実臨床とかけ離れた結論が出ることがあります。今回の結果もそのまま日本人に当てはめることはできないかもしれません。理由は以下の通りです。

①日本では(施設によりますが)、MRで広範な乳管内進展が疑われた場合には、最初から乳房温存術を避け、乳房全摘を選択しているケースが多い可能性がある(つまり、MRによって無益な乳房温存術施行を回避できているため、MRは有用)。
②大きな欧米人の乳房に対しては、MRで進展範囲がわかっても適切にその範囲を切除することは日本人に比べると難しい可能性がある。
③そもそも日本における標準的な乳房温存術の切除の方法と欧米のそれとは若干異なっている(欧米では乳房が大きいこともあり、日本のようなケーキを切るように乳腺を垂直に切除するような方法はあまり行なわれていないため断端から距離を取るのが難しい→ただし、最近では美容的効果を重視する傾向が強くなってきたため欧米式の切除法を行なう施設も増えてきている)。


少なくとも私たちの施設では、MRを導入してから断端陽性率と再手術率は明らかに低下しています。どんな優れた診断装置があっても、使い方を間違えば誤った結論が出る可能性があります。美容的な要素も大切ですが、やはり根治性を損ねないようにするのが大前提だと私は考えています。

2010年2月24日水曜日

乳房温存術後の短期間放射線照射法の無作為比較試験結果

乳房温存術後には、局所再発予防目的で温存乳房に放射線治療を行なうことがガイドラインで推奨されています。

現在主に行なわれている照射法は、50Gy(グレイ)という量を25回に分ける方法です。週4回照射すると約6週間かかります。日本ではあまり問題になってはいませんが、北米では治療回数の多さや費用を理由に放射線治療を受けない患者さんも出てきているようです(最大30%!)。

そこでカナダ・マクマスター大学Juravinskiがんセンターでは、少分割・短期間照射の有用性についての無作為化試験を実施し、その成績が報告されました。

追跡期間:中央値12年
対象・方法:1993年4月~1996年9月の間に、浸潤性乳がんで乳房温存術を受け、切除断端(-)、腋窩リンパ節(-)で放射線治療を受けた1,234例。対照群(標準線量50.0 Gyを25分割で35日間かけて照射、612例)と少分割照射群(42.5 Gyを16分割で22日間かけて照射、622例)に無作為化し追跡。

結果:追跡10年時点の局所再発リスクは、対照群6.7%だったのに対して、少分割照射群は6.2%と効果に差は認めず。美容的アウトカムは、良好(good)もしくは優良(excellent)が対照群では71.3%、少分割照射群では69.8%と有意差なし。


つまり、「少分割照射療法は標準照射療法と比べて、10年時点でも劣らない」という結論だったということです。しかし、北米での成績が日本でも当てはまるかどうかは今のところ不明です。もう少し多施設の臨床試験もしくは国内の臨床試験の結果が出なければ安易に照射法を変更することは勧められませんが、もしこの結果が正しいのであれば、患者さんにとっては身体的、経済的な恩恵は大きいと思います。

2010年2月23日火曜日

東京家政大学でのピンクリボン運動の取り組み

読売新聞からのニュースです。

東京家政大では、病院に勤務する卒業生がきっかけとなって、昨年9月の理事会で大学としてピンクリボン運動を行うことを決めたそうです。大学全体でピンクリボン運動を展開するというのは今まで聞いたことがありません。

同大学で行なってきたピンクリボン運動をご紹介します。

1.昨年10月の学園祭で、栄養学科の学生たちが乳がん予防に役立つメニューをそろえたカフェを運営。

2.「ピンクリボンデザインコンテスト」を実施。家政学部造形表現学科4年の村嶋杏弥さん(21)がデザインした、胸に大きなピンクリボンをつけた女の子のキャラクターが最多得票で採用。

3.乳がんの早期診断などを呼びかけるメッセージとともに、そのキャラクターが描かれた自販機を1月末から、板橋キャンパスの3か所に設置(写真はhttp://www.yomiuri.co.jp/e-japan/tokyo23/news/20100221-OYT8T00110.htmで見れます)。この自動販売機のデザインの変更は、運動に賛同した飲料業者が無償で引き受け、大学側が得る自販機収入の一部を運動費に充てるほか、推進団体への寄付も行っています。

きっと東京家政大学の学生さんたちは、大学生のうちから乳がんに関する正しい知識を身につけることで、乳がん検診をきちんと受ける大切さを広めていってくれるでしょう。流行だけで終わらせないように、この運動を是非これからも継続してもらいたいものです。

大学に進学する女性が非常に多くなってきていますから、このような運動を全国に広めていって欲しいですね。そしていつかどこの大学でも同じような光景がみられるようになるとうれしいです。

2010年2月20日土曜日

患者会新年会


もう2月ですのですっかり遅くなってしまいましたが、今日、午後から乳癌患者会の新年会がありました。

場所は札幌駅近くの”かに○家”。昼間なので3000円で飲み物付きのお得なコースでした。

最近の新年会はホテルで行なうことが多く、20人以下くらいの参加でしたが、今日は30人くらい集まって大盛況でした。職員も2病院から今までで最高の9人参加して楽しい時間を過ごせました。

秋の温泉旅行は初めての泊まりがけになりそうです。質問攻めがちょっと怖いですが、診察室とは違った雰囲気でゆっくりお話できるのもなかなかいいものです。今から楽しみです!

2010年2月17日水曜日

絵本 ”おかあさん だいじょうぶ?”

乳がんになったお母さんが直面するひとつの大きな悩み、それは自分の小さな子供さんにどうやって病気のことを伝えたら良いのか?ということです。

子供にとってお母さんの象徴でもある大事なおっぱいを失ってしまったり、大きな傷がついてしまったり…、そんな姿を見せたくないという思いもあったと思います。もしかしたらいまだに一緒にお風呂に入っていないという方もいらっしゃるかもしれません。私の患者さんの中にも当時3才くらいだった娘さんと何年間も一緒にお風呂に入れなかったという方もいました。

また、”がん”という言葉が子供さんに死をイメージさせてしまい、不安にさせてしまうのではないかという思いもあるでしょう。

そんな乳がん患者さんの子供さん向けの絵本が発売されました。

”おかあさん だいじょうぶ?”という絵本です。先日朝日新聞でも紹介されたようですが、厚生労働省の研究班(研究代表者=真部淳・聖路加国際病院小児科医長)に参加する医師や臨床心理士ら5人が手がけたもので、挿絵はイラストレーターの黒井健さんが担当しています。

この研究班の報告によると、子供さんを持つ乳がん患者さんのうち半数近くは子供さんへの伝え方に悩み、約7割がその生活や勉強への影響を心配していたそうです。一方、子供さんの方も、8割が母親の病気で中等症以上の心的外傷後ストレス症状を示していることがわかったということです。またこの本には、絵では描き込めない児童心理や医学的な問題を「解説新聞」として織り込んでありますので参考になることが多いと思います。

絵本は書店やAmazonからも購入できますし、小学館のホームページからも注文できるようです。私もさっそく注文しました。
詳細は”Hope Tree~パパやママががんになったら~”のHP(http://www.hope-tree.jp/news/#1266035736-384179)をご覧ください。

2010年2月16日火曜日

”がん患者、お金との闘い”

大腸癌と壮絶に戦って先月亡くなった金子明美さんを取材したドキュメントを元にした書籍、”がん患者、お金との闘い”についての番組を今日の夕方テレビで見ました。

金子さんのことは、STVのドキュメント番組、「命の値段 がん患者、闘いの家計簿」を見て知りました。

元看護師の金子さんは、子供二人とご主人の4人暮らし。進行大腸癌の術後間もなくに再発と診断されて化学療法を繰り返していましたが、家族旅行やマンションの頭金にためていた資金もすべて治療に費やしてしまい、高額な新薬を使うことができないほど困窮してしまいました。彼女は、体調の悪い中、国や役所にかけあったり、街頭でアピールしたりなどの活動を始め、一般家庭の主婦が抗がん剤治療を続けることの困難さを訴え続けました。また、2008年には、リレーフォーライフ北海道の実行委員長として、大腸癌だけではなく、乳癌などのがん検診の啓蒙活動にも力を入れてきました。

残念ながら、闘病もかなわず、2010年1月16日に41才という若さで亡くなってしまいましたが、患者の立場から見たがん治療の問題点を広く世の中に伝えるという大きな功績を残されたと思います。

大腸癌だけでなく、乳癌領域においても、抗がん剤や分子標的薬、ホルモン剤など高額な薬剤を使用します。患者さんからも治療費の相談をされることがあります。でもきっと患者さんたちはぎりぎりまで我慢していたはずなんです。患者さんが私たちにお金の相談をする時はよほどの時なんだと思うようにしています。そういう場合は、すぐに医療相談室に行ってもらって対応してもらうようにしています。

すべてが解決するわけではありませんが、いろいろ使える制度もあります。知らないで黙っていても行政はなにもしてくれません。しこりがあるけどお金がなくて受診できない、治療費が払えなくなったから治療を黙って中断してしまう、薬を間引きして内服する、など実際に経験したことですが、このような状態になる前に病院の相談窓口に声をかけてみて下さい。きっと何か方法が見つかるはずです。


なお、”がん患者、お金との闘い”購入をご希望の方は、書店かSTV store(https://stvshop.jp/shop/item.html?shop=stvstore&m_id=5200)まで。

2010年2月12日金曜日

乳癌の治療最新情報15 ラパチニブとレトロゾールの併用療法が米国で承認

昨年国内でもアンスラサイクリン(FECなど)、タキサン(パクリタキセル、ドセタキセル)、トラスツズマブ(ハーセプチン)の投与歴のある、HER2陽性の手術不能または再発乳癌に対して承認販売されたラパチニブ(商品名 タイケルブ)ですが、今のところ国内の使用法は、カペシタビン(商品名 ゼローダ)との併用のみに限定されています。ですからすでにカペシタビンを使用してしまっている患者さんに対してでも、効果がなくなってしまったカペシタビンを再度投与しなければならないという矛盾があります。

今回米国で承認されたのは、HER2陽性、ホルモンレセプター陽性の閉経後再発乳癌の患者さんに対する、ラパチニブとレトロゾール(商品名 フェマーラ)との併用です。

追加承認に至った根拠になる臨床試験では、ER(+)かつHER2(+)の閉経後転移性乳癌患者219人を対象とした無作為二重盲検、プラセボ対照の試験で、ラパチニブとレトロゾールを併用した患者は無増悪生存期間(PFS)中央値がレトロゾール単独投与群に比べて5.2ヵ月延長したということです。併用投与群における最もよくみられた有害事象(発現率20%以上)は、下痢、発疹、嘔吐、倦怠感でした。

今回の承認においても、ホルモン療法剤が、レトロゾールに限定されています。もし、術後補助療法にレトロゾールを使用してしまった場合にはどうすればいいのか、という問いに対する答えはありません。

もし国内でもこのような形で承認されるのであれば、私ならER(+)かつHER2(+)の閉経後乳癌患者さんの術後には、万が一再発した場合のことを考えてレトロゾール以外のホルモン剤を使用するかもしれません。エストロゲン低下作用はレトロゾールが最も強いと言われていますが他のAI剤と大きな予後の差が証明されているわけではありませんので、再発時にラパチニブと併用できるようにレトロゾールを温存しておくほうが良いと考えるからです。

エビデンスが重視されるのは大切なことです。しかし、エビデンスにがんじがらめにされてしまっていて身動きができなくなっています。できればラパチニブと併用できるホルモン剤をレトロゾールに限定しない形で国内では承認されると良いのですが…。最近の傾向では無理そうですね。

2010年2月10日水曜日

パロキセチン併用がタモキシフェン内服患者の予後を悪化

「ホルモン療法の副作用3 うつ症状」のところにも書きましたが、SSRIというタイプの抗うつ剤は、タモキシフェンの作用を減弱させることが知られています。

今回、これを裏付けるような報告がカナダのSunnybrook Health Science Center、Catherine M. Kelly氏らによって発表されました(BMJオンライン版 2010; 340: c693)。

要旨は以下の通りです。

対象:66歳以上のタモキシフェンを投与中の乳がん患者のうち、1種類のSSRIを服用している2,430例
方法:SSRI内服患者と非内服患者の予後、SSRIの種類別の予後を比較検討
結果:SSRIの種類別ではパロキセチン(商品名 パキシル)内服症例が約30%を占めていた。SSRIを服用した期間が長いほど乳がん死のリスクは増加。パロキシフェン以外のSSRIでは有意差なし。
パロキセチンにおいては、併用期間の割合が25%の場合;補正後ハザード比(AHR)1.24,95%信頼区間(CI)1.08~1.42,同50%;AHR 1.54,95%CI 1.17~2.03,同75%;AHR 1.91,95%CI 1.26~2.89,各群間のP<0.05。

つまり、パロキセチン長期投与群(タモキシフェン投与期間の75%以上の期間、パロキセチンを内服していた群)では、SSRI非内服群に比べ乳がん死亡率が1.91倍になるという報告でした。やはり、タモキシフェン投与中はSSRI(特にパキシル)の併用は避けたほうが良さそうです。

もう既にタモキシフェンの内服を終了してしまった患者さんについては、今からどうすべきかという指針は示されていません。5年内服をさらに延ばすべきかどうかも子宮内膜がんとの関連もありますので一概には言えません。タモキシフェン内服が終了した時点で閉経している患者さんについてはアロマターゼ阻害剤を追加することは考えてみても良いかもしれません。

2010年2月9日火曜日

DCIS症候群

症例検討会をしていると、
”え〜っ、こんなのがDCIS(非浸潤癌)なの?”
というような微妙な症例を目にします。

例えば脂肪みたいな画像や乳腺症のむらのようにしか見えない画像とか…。

ふだんは精査対象にしないように見えるものが癌だったりすると、みんな疑心暗鬼になります(実際には、精査になったことや癌であったことにはそれなりの理由があるのですが、その差は微妙なんです)。

そんな症例検討会のあとは、外来診療が大変です。

”DCIS疑い”や”DCISを否定できず”、”次回もフオローして下さい”という超音波技師さんたちからのコメントが急増するんです。こういう現象を”DCIS症候群”と私は勝手に呼んでいます。まあ、あんな画像を見てしまうと不安になるのもわかりますが…。

早期癌を見逃さないことはもちろん大切です。しかし、要精査率をあまり上げないということも検診をする上では重要なことです。このバランスのとりかたがなかなか難しいんですよね。

技師さんには、超音波検査で何か所見があった場合には、単に”低エコー腫瘤”だけではなく、疑い病名を必ず書くように指導しています。また、私自身も技師さんの所見に対して自分がどう思うかをカルテに書くようにしています。例えば、技師さんが”DCISの可能性あり”と書いていても、”脂肪のようにも見える”などのようにです。そうでなければ自分の診断も技師さんの診断も正しかったのか間違っていたのかがあいまいになるからです。

私は技師さんが気になった場合は、私自身がそう思わなくても基本的に細胞診をするようにしています。その理由は、実際に動画で見ている技師さんが本来は一番よく見えているからです。もう一つの理由は、気になった所見を細胞診で確認させてあげることで、悪性でなかった場合は技師さんが下した判断が読み過ぎだったことがすぐにわかるからです。それをフィードバックすることによって、さらに技師さんの技量が上がると信じています。実際はそう簡単なことではないのですが、検査をやりっぱなしにしないで結果を確認するという地道な積み重ねは絶対に必要なのです。

2010年2月7日日曜日

ホルモン療法の副作用4 子宮体癌(子宮内膜癌)

これはタモキシフェンの有名な副作用なので、ご存知の方も多いと思います。
このような副作用の報告があると、一部の人たちは、“発がん性のある危険な薬剤だ!”と騒ぎ立てたがります。実際、タモキシフェンが子宮体癌の発生リスクを3倍増加させるという報告が出されたとき、そのような主張をする人たちがいました。

しかし、どんな薬剤にも副作用はあります。たしかに子宮体癌の発生率を上げるのは事実ですが、そもそも子宮体癌自体、発生頻度が高い癌ではないので、3倍になっても発生頻度としては投与した患者さんの1%未満と言われています。一方で、タモキシフェンは対側の新たな乳癌の発生を有意に減少させることがわかっています。その効果は子宮体癌発生数の増加より大きいので、新たな癌の発生を考えた場合に、発癌効果より発癌抑制効果のほうが上回ることになります。もちろん、そもそも手術した乳癌の再発予防目的で投与しているわけですし、その有益性(タモキシフェンの5年投与は再発を42%減少させる)はメタアナリシスで証明されています。ですから、“タモキシフェンは、発がん性があるから危険な薬なので、飲まない方が良い”という主張は正しくありません。

定期的な子宮体癌の検査(超音波検査や生検など)をするかどうかは、各施設の判断です。2000年のNIHのカンファレンスでは、タモキシフェン服用患者における子宮体癌の発生頻度は、全員にスクリーニングを受けさせるほど高くないため、無症状の人がこれらの検査を受けることの有益性を否定しています。

ちなみに私は年1回の子宮がん検診時に頸がんと体がんの細胞診を受けるように勧めています。理由は、多少痛みはありますがさほどの負担ではないこと、私の患者さんの中にもタモキシフェン投与後に子宮体がんを発生した方が、覚えているだけでも4人くらいいらっしゃるからです。

2010年2月5日金曜日

さっぽろ雪まつりにピンクリボンブース!

今日から始まるさっぽろ雪まつりのつどーむ会場にピンクリボンのブースが登場します。

ブースでは、模型を使ってのセルフチェックの練習、啓発パネルの展示、パンフレットの配布、DVD上映、そして来場者にピンクリボンを結んでもらうツリーも設置されます。さらにアンケートに記入すると北海道日本ハムファイターズ田中賢介選手のグッズが当たるくじもあるそうです。

残念ながら私は今回のイベントのお手伝いはできませんが、多くの人に乳がん検診の重要性について理解してもらえればいいなと思っています。お暇な方は是非ブースにお立ち寄りください。

なお詳細は”ピンクリボン in Sapporo”のHP(http://pinkribbonsapporo.web.fc2.com/)に書いていますのでご覧ください。

2010年2月4日木曜日

ピンクリボンの名刺

私が勤務している病院では新任の医師には名刺が支給されます。ごく普通のいわゆる”ダサイ”名刺です。

以前は同じ系列の病院に転勤を転々としていてその都度名刺が配給されました。しかし、諸事情で10数年前に札幌から移動できなくなり、今の病院を含む3病院間を移動することになってからは毎回作るのが面倒だったのかはわかりませんがいつも間にか名刺を作ってくれなくなりました。ですから手元にあるのは古い名刺だけで、役職も印字されていず郵便番号も古いままなので普段は持ち歩いていませんでした。

で、先日の東北の病院視察の時に名刺が必要だという話になって慌てて新しい名刺を作りました。

今度名刺を作る時には絶対ピンクリボンマークを入れると前から思っていたので、J.POSHにピンクリボンマークを入れていいか問い合わせをしました。快く了解していただき、ピンクリボンのロゴをJPEGファイルで送っていただきました。校正をチェックしていただき、とりあえず名刺ソフトで作成して視察に出かけました。

ところが…

なんと名刺に入れたE.mailのアドレスが間違っていたんです。せっかく先方にお渡ししてメールをいただいたのに届かないと連絡があって初めて気づきました。今度は病院に依頼して本格的に作ります。もちろんピンクリボンマークは必須です!

2010年2月3日水曜日

乳癌の治療最新情報14 ジェムザールが手術不能・再発乳癌での追加承認へ

再発膵癌などで使用されている抗がん剤”ジェムザール”(日本イーライリリー社:一般名 ゲムシタビン)について手術不能・再発乳癌に対しての効能追加が薬事・食品衛生審議会で認められました。来月中にも正式承認される見通しとのことです。

ジェムザールは、米国では2004年にすでに乳癌に対してFDAでアンスラサイクリン投与後の転移性乳癌治療のファーストラインとして認められていた薬剤です。この時承認にあたって提出された臨床試験の結果は以下の通りです。


対象および方法:
529人の患者において、①ジェムザール+パクリタキセル療法と②パクリタキセル単独療法とを比較。
①群では、21日サイクルの第1日目と8日目にジェムザール1250 mg/m2(静注30分間)を投与、各サイクルの第1日目にはジェムザールの前にパクリタキセル175 mg/m2(静注3時間)を投与。
②群では、単独で薬パクリタキセル175 mg/m2(静注3時間)を各21日サイクルの第1日目に投与。

評価項目と結果:
パクリタキセル併用ジェムザール群では、パクリタキセル単独療法群と比較して、進行までの期間(中央値 TtDPD 5.2ヶ月 対 2.9 ヶ月、 p<0.0001)と全奏効率(RR 40.6% 対 22.1%, p<0.0001)において、統計的有意に良好。ジェムザールとパクリタキセルの併用は、中間生存率分析においても生存率向上の強い傾向あり。

有害事象:
ジェムザール+パクリタキセル群の主なグレード3、4の有害事象は、血液系障害(好中球減少症、貧血、血小板減少症)。グレード3、4の肝臓酵素の上昇も、ジェムザール+パクリタキセル群で多い傾向あり。グレード3,4の検査値以外の毒性症状は、倦怠感、痺れ、筋肉痛。


通常、アンスラサイクリン(EC、AC、FECなど)を術後補助療法として使用したあとの再発に対するファーストラインの治療は、パクリタキセルやドセタキセル、ゼローダなどを単剤で投与するケースが多いのですが、パクリタキセルとジェムザールの併用で奏効率が上がり、奏効期間が伸びるというのはうれしい情報です。ただ、副作用は少し強めになりそうですので、実際に投与してみないと本当に患者さんにとって好ましい治療なのかどうかはわかりません。できることなら単剤での投与や他の薬剤との併用も可能な形で(もちろん裏付けになる臨床試験結果があればの話ですが)承認されると使用する側からすると助かります。

また、欧米ではトリプルネガティブ乳癌の再発治療に対してカルボプラチンとジェムザールの併用がよく行なわれています。今までは両薬剤とも乳癌は保険適応外で使用できませんでした。今回のジェムザール承認を突破口にして、カルボプラチンの保険適応承認につながることを期待しています。

<追加>
薬事日報によると、
”用法用量は、非小細胞肺癌などと異なり、1回1250mg/m2を30分かけて点滴静注し、週1回投与を2週連続し、3週目は休薬する。これを1コースとして投与を繰り返す。”
となっています。
文面から考えると単剤での投与で承認されるようです。

2010年2月1日月曜日

ホルモン療法の副作用3 うつ症状

乳癌術後の患者さんは、外来で不眠、倦怠感、意欲の低下などのうつ症状を訴えることがよくあります。こういう場合、もともと持病があったのか、術後の不安などで発症したのか、薬の副作用なのか迷うことがあります。今回はこのようなうつ症状をきたすホルモン剤についてお話しします。

うつ症状をきたす代表的なホルモン剤はタモキシフェン(商品名 ノルバデックス、タスオミン、アドパンなど)です。アロマターゼ阻害剤でも起こるとも言われていますが、印象としてはタモキシフェンが多いような気がします。

タモキシフェンでなぜうつ症状が出るのかは明らかではありません。タモキシフェンの副作用として起きうる更年期症状の一部分症なのかもしれません。また、再発の不安や乳房にメスを入れるという精神的にストレスがかかる時期に内服することが多いこと、年齢的にそもそも更年期症状に伴ううつ傾向が出やすいことなども関与しているのかもしれません。

私の経験上でも、術後にタモキシフェンを投与してからうつ傾向が強くなって中止せざるを得なくなった患者さんが何人かいます。閉経前の患者さんには、他に内服できるホルモン剤がないため、可能であれば抗うつ剤を併用して経過を見る場合もあります。

抗うつ剤を併用投与する場合には、注意しなければならない薬物相互作用があります。

ルボックス、パキシルなどのSSRI(セロトニン再取り込み阻害剤)というタイプの抗うつ剤は、タモキシフェンと併用するとタモキシフェンの作用を減弱させると言われています。これはタモキシフェンが薬理学的に十分な活性を得るためにはCYP2D6という酵素により代謝される必要があるのですが、SSRIはこの働きを阻害するからです。ですから、タモキシフェン内服中にはこれらの薬剤は避けた方が無難です。

抗うつ剤には、他にも三環系抗うつ剤(トリプタノール、トフラニール、アモキサンなど)や四環系抗うつ剤(ルジオミール、テトラミドなど)などがありますので、主治医の先生と抗うつ剤の変更について相談した方が良いと思います。