2011年4月28日木曜日

乳腺術後症例検討会10 新年度スタートと「Elastography」

4月からN先生が加わって乳腺外科医は3人体制となり、病棟も乳腺センターとして稼働し始めました。

45回目を迎えた今年度初めての昨日の症例検討会もちょとだけリニューアルしました。

症例は4例。今回はめずらしく良性が3例でがんは1例のみでした。良性のうちの2例は細胞診で粘液が引けたため、mucocele-like tumor(MLT)を疑いましたが、病理結果は線維腺腫とductal adenomaだった症例でした。粘液が引けた場合は、良性ならMLT、悪性なら粘液がんを考えますが、MLTはがんを合併することが多いとされているため、周囲に乳腺組織をつけて切除することが推奨されていますが、今回のような症例を経験すると、細胞診で粘液が引けた場合には、MLTと決めつけないで摘出の前に針生検で確認してから切除する方が良いのかもしれないと感じました。

そして症例検討のあとでミニレクチャーがありました。今までは珍しい症例があった場合にその組織型についてのレクチャーをすることがほとんどでしたが、今回からは症例に関係なく、最近の画像診断のトピックなどを紹介することにしてみました。

昨日のミニレクチャーは、超音波技師(N主任)による「Elastography」についてでした。Elastographyは別に新しい技術ではありませんが、今までは私たちの施設にはなかったのです。私たちも超音波技師もどうしても必要であるという認識にならなかったため、あえて新規購入しようとはしてきませんでしたが、検査機器の一台が老朽化したため、その買い替えにElastographyとMicroPure(firefly)が使えるTOSHIBAの超音波検査装置を購入したのです。

Elastographyは病変の硬さを色や数値で表して良悪の診断の補助にするという装置です。メーカーによってそのメカニズムが異なるため、検査方法も若干違います。検査方法に慣れとコツが必要なことと、悪性でも良性寄りに見えたりすることもあるため、あくまでも補助的な診断法ということになりそうです。Bモードという基本的な画像検査がわかった上で行なわなければ、むしろ誤診を招く危険性もあるかもしれません。これからいろいろな病変に試してみて、その役割を検討していこうと思っています。

2011年4月25日月曜日

第19回 日本乳癌学会総会 延期決定

2011.6.30-7.2に仙台で開催予定だった第19回日本乳癌学会総会ですが、2011.9.2-9.4に延期が決定されました。

3月11日の東日本大震災後、仙台での開催は予定通りには無理だろうとは思っていました。別な場所で行なうか、延期かのどちらかだと思っていましたので予想通りですが、仙台で行なわれることが決まって個人的には良かったです。今回の大震災でどんなふうになってしまったのかとても心配ではありますが、復興の状況をこの目で確認してきたいということと、数千人の学会員が訪れることで少しではありますが地域経済の復興に役立てるのではないかと考えるからです。


発表の準備はきっと延期になるだろうという見込み(延期じゃなかったら危なかったかも…)だったのでこれからです。今回は症例報告なので比較的楽です。でもN先生のバックアップがあるのでちょうどいいです。

仙台は大好きな都市の一つです。都会なのに自然が豊かで食べ物もおいしいです。被災地の復興のために私たちは何ができるのか…なかなか難しい問題ではありますが、とりあえずお酒は当面宮城の日本酒を飲むことにしました!

2011年4月24日日曜日

キャンディーズと田中好子さん(スーちゃん)…

昨日の朝、日本中を驚きと悲しみが包みました。まさかあの田中好子さん(スーちゃん)も乳がんで闘病中だったとは…まったく知りませんでした。とても悲しい知らせにショックを受けられた方も多かったのではないかと思います。私もその一人です。

私はキャンディーズの大ファンでした。ちょうど小学校高学年から中学生にかけて、彼女たちは国民的なアイドルでした。「見ごろ食べごろ笑いごろ」はいつも見ていましたし、レコードも何枚も持っていました(どこに行ってしまったのか不明ですが…)。解散発表後に発売したベスト盤「CANDIES 1676 DAYS」も買いました。

この頃はピンクレディ全盛期でもあり、特に子供たちには大人気でした。キャンディーズはもう少し年齢の高い若者たちに愛されていたように思います。私の小学校でもやはりピンクレディ人気がすごかったのを覚えています。他の子供たちがピンクレディーのものまねをして歌っている中で、私だけが友達にも内緒でキャンディーズの隠れファンをしていたのです。

正直、あの頃の私のファン度は、ランちゃん>ミキちゃん>スーちゃんでした(汗)。それでもスーちゃんの誰からも好かれる人柄の良さ、かわいらしさ、元気さはTVから十分に伝わってきていました。解散後の芸能界では3人の中で一番と言っていいほど活躍が目立っていましたし、誰からも愛される女優さんになっていきました。その演技力はとても評価が高かったと聞きます。彼女にとってはキャンディーズとしての仕事よりも女優としての仕事のほうが天職だったのかもしれません。

報道によると乳がんを発症したのは結婚した翌年、36才頃のようです。子供さんがいらっしゃらなかったのはこの病気と治療の影響だったのかもしれません。その後対側にも乳がんができ(異時両側乳がんだと思われます)、19年もの長い間、マスコミに話すことなく闘病してきたそうです。女優業という大変な仕事をしながらも、まったく病気のことを感じさせなかった芯の強さ…。本当に素晴らしい女性だと思います。

闘病生活を告白してファンから元気をもらったり、逆に同じ病気の人たちに勇気を与えている芸能人は最近多く見かけます。でもスーちゃんは多くの関係者やファンには病気のことを教えずに一人で闘いながら仕事を全うし、最後の別れだけはみんなに送って欲しいと遺言していたと報道されています。スーちゃんの人柄がなんとなくうかがえるような気がしました。きっとみんなには心配をかけたくない、でも闘い終わったらみんなに最後の別れだけはしたい、という心遣いだったのではないでしょうか。

キャンディーズは一度も再結成しませんでした。今となっては再結成は永遠にできなくなりました。でもこれでいいのかもしれません。私の中ではキャンディーズはずっとあの時のままです。

スーちゃん、長い間の闘病生活、本当にお疲れさまでした。心よりご冥福をお祈りいたします。

2011年4月20日水曜日

乳癌の治療最新情報26 カルボプラチン

(*下記訂正をご参照下さい)

トリプルネガティブの患者さんに朗報です!

以前から何度かここにも書いてきましたが、トリプルネガティブ乳がんに有効とされているプラチナ製剤が初めて保険適応になるようです。

今回厚生労働省の検討会議で国内未承認薬の早期承認が決まった薬剤は8種類。その中に乳がん治療に対するカルボプラチンが含まれていました。公知申請というシステムを適用し、国内での臨床試験データは不十分ですが、海外での使用実績が十分でその有効性が明らかであると認められたため、承認されたとのことです。新聞報道によると今月末の薬事・食品衛生審議会薬品部会で承認されれば使用可能になります。

プラチナ製剤(白金製剤)はシスプラチンという薬剤が代表的です。現在も肺がん治療の中心を担っている抗がん剤です。有効な薬剤ではありますが、腎毒性が非常に強く大量の水分負荷をしなければならないため、外来での投与が難しいという問題点がありました。一方、カルボプラチンはシスプラチンの誘導体で腎毒性が軽度のため、水分負荷が不要であるというメリットがあります。ただ、骨髄抑制はシスプラチンより強いため、注意が必要です。

乳がんに対する海外でのカルボプラチンの投与は、主にゲムシタビン(商品名ジェムザール)との併用で行なうことが多いようです。また、この組み合わせはトリプルネガティブ乳がんの再発治療に有効と言われています。将来的にはPARP1阻害剤(inipaibなど)との併用も期待されています。

これで一歩、欧米の診療レベルに近づくことができました。トリプルネガティブ乳がんの再発治療に一筋の光明が見えてきたと言えそうです。

*2011.5.7 訂正
乳癌学会から公知申請結果の報告がありましたが、今回カルボプラチンが保険適応となったのは、タキサン系抗がん剤とハーセプチンとの3者併用のみだったようです。したがってトリプルネガティブ乳がんへの適応は今のところ認められていないままとなっています。期待していただけに非常に残念ですが、PARP1阻害剤との併用などでカルボプラチン、ジェムザールとの併用が認められるようになることを期待したいものです。

2011年4月19日火曜日

コメントして下さる方へのお願い

いつもこのブログを読んで下さり、ありがとうございます。

おかげさまでブログを始めてから2年が経過し、徐々にコメントを下さる方も増えてきました。できる限り早めにコメントをお返ししようと思っていますが、読むのは帰宅後になりますので多少時間がかかることをご了解下さい。またコメントが多数重なった場合、返答に数日かかることもあります。


そこで誠に勝手ではありますが、コメントを書いて下さる場合のお願いが3つほどあります。

1.Bloggerのアカウントがない場合のコメントは、一度スパムの扱いになる場合があります。その際はコメントを入れてもすぐにはブログに反映されません。私が帰宅後にスパムチェックを外しますので、それまでお待ち下さい。よほどの場合以外はコメントを削除することはありません。

2.匿名でのコメントが非常に多いので困っています。アカウントがない場合、匿名でコメントせざるを得ないと思いますが、その場合は本文中にでも区別がつくようなハンドルネームを書いて下さい。匿名のコメントが続くと返答する際に困りますので…。

3.過去の記事にコメントを書きたい場合ですが、古いものだと私が気づかないと思われるかもしれませんが、コメントが書かれるとメールが届きますのでどんなに古くてもわかります。最新の記事にではなく、ご質問したい記事にコメントを書いていただいてけっこうです。

以上、申し訳ありませんがよろしくお願いいたします。

2011年4月18日月曜日

St.Gallen2011 サブタイプ分類と化学療法の適応

St.Gallen 2011が終了しましたが、震災後の自粛に伴い、講演会が次々と中止されたためになかなか情報が入ってきませんでした。最近ようやく少しずつ概要がわかってきました。以下渡辺亨先生のブログを参考にしました。

今回はまずその第1弾として、新しいサブタイプ分類(マイクロアレイを用いた遺伝子発現解析に基づいたIntrinsic subtypeに近い分類)について少し触れます。

以前は、がんの解剖学的な進行度(大きさやリンパ節転移の有無や程度)に重きを置いて補助療法が決められていました。それが前回のSt.Gallen2009から、①内分泌療法の適応があるかどうか(ER) ②分子標的療法(ハーセプリン)の適応があるかどうか?(HER2) ③化学療法の適応があるかどうか?(大きさ、核異型度、Ki-67、ER、HER2、脈管因子、リンパ節転移の程度、遺伝子シグニチャなど)というように、がんの生物学的な性質に重きを置くように変わってきました。今回はそれがさらに顕著になるようです。

サブタイプ分類は、臨床試験によって若干定義が異なっていて、この間はけっこう混乱していました。St.Gallen2011では、Luminal A、Luminal B(HER2陰性)、Luminal B(HER2陽性)、Basal Like、HER2-richの5病型分類に統一されるようです。

その中で、一番注目されるのはLuminal Aの定義と治療法です。

今回の定義では、Luminal Aは、ER陽性(染色強度は関係ない)またはPgR陽性(同)、HER2陰性、Ki-67<14%となりそうです。また、Luminal Aの治療には、原則的に化学療法は行なわない、という治療指針になるとのことです。

おそらく大部分のLuminal Aに対しては、内分泌療法のみで良いのだと思います。化学療法を追加しても上乗せ効果が得られるのはわずかだと思います。

しかし…どうしても釈然としないものが残ります。

この指針に従えば、
「ER5%、PgR0%、HER2(-)、Ki-67 13%、リンパ節転移20個」
の症例でも内分泌療法のみで良いことになります。しかし、以前ここでも書きましたが、再発巣を切除したER陽性症例の病理学的な検討によると、一定の確率でERの陰性化が起きていると報告されています。私たちの検討では、ER陽性細胞率が低い(染色強度が弱い)症例の再発巣においては、ERの陰性化が起きやすいという結果でした。そうすると、上のような症例においては、ER陽性率が低いために転移したリンパ節のERが陰性化している可能性があるということで、微小遠隔転移巣においても内分泌療法が効かない細胞が存在している可能性があるということになります。

Luminal A全体から見ればこのような”化学療法をしておけば良かった…”という症例は多くはないため、化学療法をしなくても良い大多数の症例に埋もれてしまい、化学療法の必要性を論じる時の比較試験の有意差にはなってこないのではないかと思います(ちょっとわかりにくいでしょうか?)。

まだ最終的な合意が得られておらず、論文にもなっていませんので、これから若干の修正があるかもしれませんが、大筋はこういう扱いになりそうです。でも上のような症例を見たら、やっぱり化学療法の追加を考えてしまうのは私だけでしょうか?

最近では、化学療法の判断に迷うリンパ節転移陽性症例には、リンパ節転移巣のER染色を依頼して参考にしています。もしリンパ節転移巣がER(-)なら、微小な遠隔転移巣もER(-)である可能性があるので化学療法を行なう根拠になると思うからです。これからはER(+)HER2(-)のリンパ節転移陽性症例には全例リンパ節転移巣のER染色を依頼することになりそうです。

2011年4月13日水曜日

炎症性乳がん2 治療


炎症性乳がんは、診断された時にはすでに広範な広がりを持っていることが多い病態です。前回書いたように皮膚内をリンパ管を介して広がっているため範囲の特定はなかなか困難です。ですから広く皮膚を切除してもがんを遺残させるリスクがあります。またリンパ節転移も伴いやすいため、いきなり手術になるケースはまれです(後述)。

以前から炎症性乳がんに対しては、集学的治療(手術、放射線治療、化学療法、内分泌療法など)が必要と言われてきました。手術単独だった時代に比べて、集学的治療によって予後は改善しています。最近では分子標的治療も加わり、手術の位置づけは昔に比べるとかなり変わってきているのかもしれません。中には手術は不要と主張する医師もいるようです。

実際、術前化学療法が奏効して一見腫瘍範囲が縮小したように見えても、切除してみると切除断端までがん細胞が残っていることもあり、手術で完全切除することの難しさを痛感することがあります。やはり炎症性乳がんにおいては手術は補助的な意味合いが強いのかもしれません。

NCCNガイドラインによると炎症性乳がん(遠隔転移がない場合)の治療のアルゴリズムは以下の通りです(http://www.jccnb.net/guideline/images/gl_2011_2.pdf)。

術前化学療法(アンスラサイクリン+タキサン±ハーセプチン)→①または②へ
①反応あり→手術(乳房全摘+腋窩リンパ節郭清)+放射線治療(胸壁、鎖骨上リンパ節±胸骨傍リンパ節)±乳房再建→(化学療法)±内分泌量法±ハーセプチン
②反応なし→レジメンを変更して化学療法(放射線治療を考慮)→反応ありは①へ、反応なしは個別治療

「乳癌診療ガイドライン1 薬物療法」(2010年版)においてもほぼ同様の内容が記載されており、「炎症性乳癌に対しては、薬物療法を施行したのち、手術、放射線療法などの集学的治療の施行が勧められる」が推奨グレードB(科学的根拠があり、実戦するよう推奨する)となっています。いずれにしても炎症性乳がんの治療は、化学療法などによっていかに腫瘍量を0に近づけることができるかが鍵になると思います。

写真はINFLAMMATORY BREAST CANCER RESEARCH FOUNDATION(http://www.ibcresearch.org/)のHPから転載しました。

2011年4月10日日曜日

炎症性乳がん1 特徴と定義

「炎症性乳がん」というのは、病理組織学的診断名ではなく、臨床診断名です。ですから、「組織型は硬がんの炎症性乳がん」というように呼ばれます。

炎症性乳がんの臨床的特徴は、乳房の浮腫状の腫脹と皮膚の発赤(橙皮様皮膚 peau d’orange)をきたし、疼痛、熱感がみられることです。進行も早いため乳腺炎と間違われることがあるので注意が必要です。

病理組織学的には、皮膚のリンパ管内にがん細胞の塞栓が見られるということが大きな特徴です。ただし、臨床的に明らかな炎症性乳がんでも組織学的にはリンパ管の拡張のみでその中にがん細胞を証明できない場合もあります。

炎症性乳がんの定義は実は少し曖昧です。現在の乳癌取扱い規約ではTNM分類のところに、「T4d 炎症性乳癌」と書いてあり、その説明に「炎症性乳癌は通常腫瘤を認めず、皮膚のびまん性発赤、浮腫、硬結を示す」と書いてあります(これはUICC分類も同じ)。

では、皮膚所見は典型的な炎症性乳がんなのに、超音波検査で乳腺内に1cmの浸潤巣が描出された場合は炎症性乳がんとは呼ばないのでしょうか?同じく乳癌取扱い規約のT4bには「乳房皮膚の浮腫(橙皮様皮膚を含む)、潰瘍形成および同側乳房に限局した衛星皮膚結節」とありますので、上のようなケースはT4bに入るとも言えますが、これを炎症性乳がんではない、とすることには疑問を感じます。まあ取扱規約に文句を言っても仕方ありませんが、腫瘤を認めるか認めないかが問題なのでなくて、原発巣から離れた皮膚の広範なリンパ管侵襲がこの病態の本体であり治療や予後にも影響するわけですから、腫瘤の有無に関係なく炎症性乳がんと分類すべきではないかと個人的には考えています。

ちなみに、以前は皮膚リンパ管侵襲により上記の特徴を有した乳がんのうち、腫瘤が明瞭でないものを一次性または狭義の炎症性乳がん、腫瘤を伴うものを二次性または広義の炎症性乳がんとして扱っていたと記憶しています。乳腺病理の第一人者である元癌研究会癌研究所長の坂元吾偉先生の著書「乳腺腫瘍病理アトラス」にも、「病理組織学的には乳腺内に明らかな腫瘤状の癌巣がみられないものと、腫瘤状の癌巣形成がみられるものとがある」と書いてあります。またMayo ClinicのHPを見てみても、炎症性乳がんの定義の説明には腫瘤の有無について記載がありません(http://www.mayoclinic.com/health/inflammatory-breast-cancer/DS00632)。NCCNガイドライン2011には「炎症性乳癌は、紅班と乳房皮膚の 1/3 以上におよぶ浮腫(橙皮状皮膚)および触知可能な紅班との境界を特徴とする浸潤性乳癌を有する女性における臨床症候群である。鑑別診断では、乳房蜂巣炎および乳腺炎が含まれる。病理学的には、通常、疾患部皮膚リンパ組織に腫瘍が存在するが、皮膚リンパ組織の関与は、炎症性乳癌の診断にとって必要条件でなく、またそれだけで十分というというわけではない。」と記載されていますが、やはり腫瘤の有無で限定してはいません。また、現在の検査機器は進歩しており、以前では腫瘤を指摘できなかったものが描出可能になってきており、本来必ず乳腺内に浸潤巣があるはずの炎症性乳がんの主病巣が画像的に確認できるかできないかで分けること自体が無意味になってきています。

そこでもう一度乳癌取扱い規約の定義を読み直してみると、「“通常”腫瘤は認めない」と書いています。この書き方であれば、腫瘤を認めてはいけないわけではないようにも取れるのですが…。

こうして考えると、主病巣が直接皮膚に浸潤して皮膚が浮腫状に肥厚した場合は除外されるのは当然ですが、主病巣が皮膚から離れていて、高度の皮膚リンパ管侵襲による浮腫状の肥厚を呈した状態を炎症性乳がんと呼ぶ、と定義した方がすっきりするのではないかと個人的には思います。

2011年4月8日金曜日

乳がん術後の転院について

乳がんは手術や術後の化学療法が終わればそれで通院が必要なくなるわけではありません。ホルモン療法をする場合はもちろん、しない場合でも10年くらいは最低でも経過をみます。定期的に再発の検査をするかどうかは主治医の判断ではありますが、温存乳房、対側乳房の検査(マンモグラフィ±超音波検査)は一生必要だと私は考えています。

術後の経過観察をする場合は、できれば手術した病院に通院するのがもちろんベストです。検査資料がすべて残っていますし、比較も容易です。また、ずっと経過をみてくれているという安心感や信頼感もあるでしょう。

しかし、主治医が転勤したり、折り合いが悪くなってしまい、転院を考えざるをえなくなる場合もあります。ネット上での相談でもよくそういうケースがあります。そういう場合に患者さんが一番心配するのは、転院した場合に、“手術したわけではないのに、きちんと診てくれるだろうか?”ということです。

中には手術した患者さんしか受け入れてくれない病院(大病院に多いようです)もあるようですが、一般病院であれば通常はきちんと診てくれるはずです。私たちの病院にも以前から他院で手術したあとで転院してきた患者さんが多く通院しています。

私の記憶にあるだけでもそのような患者さんは20人以上いらっしゃいます。そのうち約半数は再発後に当院にかかった患者さんです。

転院の理由は様々です。主なものは、

① 近くに転居したため
② 高齢になって手術した病院までの通院が大変になったため
③ 主治医が転勤したため
④ 再発したあとの主治医の対応に不満を持ったため
⑤ すでに通院を中断していて、再発後、または検診目的でに当院に受診した

などです。

いずれにしても他院で手術したからと言って、当院で手術した患者さんと対応に差があるなどということはまったくありません。むしろ他院で手術したことを普段は忘れているくらいです。ですから、転院を受け入れてくれる病院なら、手術した病院じゃないから…ということについてはほとんど心配ないと思います。やむを得ない事情で転院せざるを得ない場合はありますから。ただ、紹介状をもとの病院からもらってくることだけは忘れないようにして下さい。

2011年4月7日木曜日

ベッドがない…

来週からのセンター化に向けて、いま病棟再編中です。呼吸器内科が一緒になり、腎臓内科が他に移動するのですが、患者さんが徐々に移動してきて看護師さんは大忙しです。

そして、乳腺患者さんは今年になってから急増中です。昨年も増加傾向でしたが、関連病院の外科病棟閉鎖に伴う転院と、そもそもの乳がん患者さんの増加によって乳腺センターの協定の病床数を大幅にオーバーしているのです。このままでは手術予定患者さんが受け入れられません!

今日、急きょ会議を開いて、隣の病棟の空きベッドを化学療法の患者さんたちに使わせてもらうことになりました。とりあえずの対処ですが、このペースでは今の協定ベッド数では無理そうな状況です。根本的な解決策が必要です。今まで初回の化学療法は入院でしていたのを今後は化学療法室で導入することも考えましたが、それだけでは足りなそうです。どう考えても乳腺患者のベッド数を増加するしかなさそうですが、病棟をまたぐのはできれば避けたいところです。呼吸器内科分のベッド数が多すぎだと私は思っているのでなんとか回してもらえないか交渉してみるつもりです。

それにしても乳がん患者さんの手術が増加しているのはとてもうれしいことです。ようやく地域から信頼してもらえる乳腺医療ができつつあるのかなと実感しています。これからもさらなる努力で呼吸器センターに負けないようなセンターにしていきたいと考えています。

2011年4月5日火曜日

トリプルネガティブ乳がんに対する5FU系経口抗がん剤の効果

トリプルネガティブ乳がんはホルモン療法、ハーセプチンなどのようなターゲット療法がまだ確立されていないことと、抗がん剤の効果が不十分(特に再発時には効きにくい)なことから、予後の良くないタイプと考えられています。実際は術前化学療法(FECやタキサン)に対する反応は悪くないのですが、組織学的にCR(完全消失)しない場合の再発率は高く、その場合には標準的な抗がん剤(タキサンやナベルビンなど)を投与してもなかなか効果が出にくく治療に難渋することが多いのです。

このような難治性のタイプのため、時には”再発した場合の治療はない”と乳腺外科医から宣告されることもあると聞きます(私は言いませんが…)。副作用が強い抗がん剤を十分な効果が見込めないのにいたずらに継続するのは確かにマイナスにしかならない場合もあります。しかし心情的にはそう簡単に割り切ることは難しいと思います。そういう場合に試してみる価値がある治療があります。

それはXC療法(ゼローダ+エンドキサン)やDMpC療法(フルツロン+ヒスロンH+エンドキサン)などの5FU系抗がん剤の併用療法です。これらは併用することによってお互いの作用を増強すると考えられています。

経口抗がん剤なんて効かないのではないか?と思われるかもしれません。確かに昔から経口抗がん剤を術後に投与していたのは日本だけですし(最近は術後にはほとんど投与しません)、その効果に疑問をもたれていました。しかし、ER陽性乳癌に対してはUFT(5FU系経口抗がん剤)+TAM(タモキシフェン)がTAM単独より良好な成績であることの報告(ACETBC)やUFT+TAMのほうがCMF+TAMより良好な成績だっとという報告(EBCC6)、新しい5FU系経口抗がん剤の登場(ゼローダ、TS-1)などによって再評価されるようになってきました。

ただ、一般的には経口抗がん剤が有効なのはER陽性の比較的増殖能の低いタイプだと考えられていました。しかし、XC療法の進行再発乳がんに対する治療効果を検討してみると思いのほかトリプルネガティブにも有効であることがわかったのです。まだ十分なエビデンスが確立しているわけではありませんが、以下にいくつかの参考になる成績を挙げておきます。

①「HER2陰性進行・再発乳がんに対するカペシタビンとシクロホスファミドの併用療法(フェーズⅡ)」
結果:ORR(全奏効率) 45.5%、CBR(臨床的有効率) 54.5%、PFS(無増悪生存期間) 402日…対象症例数は11例。
(ER陽性例(34例)では、ORR 44.1%、CBR 58.7%、PFS 373日)

②トリプルネガティブ進行再発乳がんに対する九州乳癌研究グループ(KBC-SG)の報告(対象期間:2005年7月から2007年12月)
結果:ORR(全奏効率) 41.7%…対象症例は12例。(ER陽性例(31例)では、ORR 35.5%)

以上は少数例での報告ですのでもう少し追試が必要だとは思いますが、私の患者さんにも一人非常によく効いたトリプルネガティブの患者さんがいらっしゃいます。この方は術後2年で多発性肺転移と診断されましたが、外来での内服治療を希望されたためXC療法を行なったところ部分寛解(PR)となり2年ほど経過をみれました。その後増悪したため今度はDMpC療法に変更したところ、腫瘍は完全に消失し、もうすぐ2年たちます。

欧米ではトリプルネガティブ乳がんに対してプラチナ製剤(カルボプラチンやシスプラチン)とジェムザールの併用がよく行なわれているようですが、日本ではプラチナ製剤は乳がんに対しては適応外です。また、PARP-1阻害剤が有効と言われていますが、まだ臨床試験中で未認可の状況です。経口抗がん剤は副作用も軽度(手足症候群などには注意が必要ですが)ですし、外来治療が可能ですので再発治療の選択肢として考えてみても良いのではないかと思います。

新体制スタート!

昨日から新しく3人目の乳腺外科医のN先生が加わり、ようやく3人体制になりました。

N先生は念願の女医さんです。これからは職員の乳がん検診受診率も上がるのではないかと期待しています。女性が多い職場ということもあり、職員の乳がん患者さんは非常に多いんです。検診をきっかけに発見される場合もありますが、しこりを自覚してびっくりして受診された職員も多いので、検診の重要性を感じていました。これからは職員の乳がん検診はN先生にお任せしようかと思っています。もちろん一般の検診受診者の中にも女医さんを希望される方も多いはずです。検診受診者数増加につながればいいなと思っています。

昨日は初日だったのでオリエンテーションを中心に行ない、午後からは術前症例の打ち合わせをしました。N先生はとても勉強熱心で意欲的で素直なのでとても期待しています。今後は病棟と手術をG先生とN先生、外来化学療法と管理業務を私が担当してチームとしてうまくやっていきたいと考えています。

放射線技師はH.Iさんが出産を控えていて近々産休に入ります。H.Iさんと一緒に中心になって頑張ってくれているJ.Iさんと、ここ2年間かけてH.IさんとJ.Iさんが育ててくれた若手の2人がこれからはマンモグラフィの担当者として頑張ってもらうことになります。これからも妥協することなく厳しい指導を行なって、より優れた技師さんに育てていきたいと考えています。

超音波技師はEさんが転勤して代わりにMさんが関連病院から転勤してきました。経験豊富な技師さんなので心配はしていませんが、症例検討会の準備は他のメンバーも協力しあって頑張ってもらいたいと思っています。

新年度になりメンバーは入れ替わりましたが、これからもより良いチーム医療を目指していきたいと思っています。

2011年4月2日土曜日

乳がん検診の年度総括

関連病院の2010年度の乳がん検診のまとめが健診課から届きました。

・乳がん検診総件数: 2164件
・要精密検査件数: 184件(要精検率 8.5%)
・精密検査受診数(他院21件含む): 168件(精検受診率 91.3%)
・がん発見数: 19件(がん発見率 0.88%)

検診方法は触診+マンモグラフィが基本ですが、乳腺症などで定期的に超音波検査をしている患者さんが、2年に1回のマンモグラフィを検診として受ける場合やマンモグラフィ併用検診の触診時に乳腺症疑いで超音波検査を勧めた方も含まれていますし(これは要精検扱いにはしていません)、件数は少ないですが、主に若年者の超音波併用検診も含まれています。

ですから要精検率の数値はマンモグラフィ併用検診の目標値と比べることはできません。しかし、がん発見率は一般的に報告されている数値より高く、これはクーポン券利用者も含めた初回受診者が多かったことと(発見乳がん19例中クーポン券利用者が8例!)、触診の所見を加味して超音波検査を勧めたことが発見率を押し上げたのかもしれません。

マンモグラフィ検診の精度管理の面から考えると”がんを積極的に疑うわけではない(要精検ではない)”のに触診後に超音波検査を追加することには異論があるかもしれません。しかし私たちはデータを取るためだけに検診しているわけではありません。マンモグラフィには弱点があり、高濃度の乳腺において診断率が低下することは明らかです。ですから触診で高濃度になると思われる所見があった場合に(乳腺症も含めて)超音波検査を勧めることは医師の裁量の範囲内であり、個人的には正しい判断だと思っています。