2009年3月31日火曜日

超音波検査の進歩

近年の乳腺領域の超音波検査装置の進歩は著しいものがあります。

例えばHITACHIのElastography。しこりの硬さを色で表示して、癌の可能性が高いかどうかを判定する技術です。特に検診の時に、明らかな良性を除外するのに役に立ちます。
TOSHIBAは、「MicroPure」という、今までマンモグラフィでしかわからなかったような微細石灰化を色のついた点で表示する技術を開発しました。もう少し、改良すれば、若年者の検診においてはマンモグラフィの代用になりうるかもしれません。
GEは、4次元プローブという技術を開発しました。これは、3次元画像の動画を画面表示するものです。超音波で見ながら細胞診をしたり、手術の切除範囲のシュミレーションの際には非常に有用です。

大きくて脂肪が多い欧米女性にはマンモグラフィが適していますが、比較的小さくて硬い、日本人女性にはマンモグラフィは適さない場合もあります。ですから日本では早くから乳房検査に超音波が導入され発展してきました。世界に誇れる診断技術だと私は思っています。侵襲もなく、安価で、繰り返し手軽に行なえるのも利点です。唯一の欠点は、診断は検査をした技師(または医師)の技量に左右されるため、診断精度の管理が難しいことです。しかし、動画の記録装置の導入とダブルチェック、検査者の講習および資格試験の実施によって、近い将来、この問題も解決されるものと思われます。

40歳代の乳癌の3割が、マンモグラフィで診断困難であったという事実を考えると、早急な超音波検診の導入が望まれます。現在、J-STARTという乳がん検診における超音波検査の有用性を検証する臨床試験が実施されていますから、数年後にはきっと超音波検査の併用が行なわれるようになるのではないかと思っています。

2009年3月28日土曜日

猫ちゃん好きの患者さんたち

なぜか私の乳癌患者さんたちに猫を飼っている方が多いような気がします。

たまたまなのか、そもそも猫好き人口が多いだけなのか…。今度アンケートでもとって調べてみようかな。

まあ、犬好きでも猫好きでもペットは癒し効果がありますから精神的にはプラスになるんですが一つだけ問題があります。

それは、猫が引っ掻いたり、噛み付いたりすることです。年を取ると飼い主でも噛むそうです。

爪や歯には細菌がいっぱいいますし、猫の場合は特に深くまで食い込むため、ひどい感染症を起こしやすいのです。乳癌術後(腋窩リンパ節郭清を受けた場合)の患者さんは、手術した側の腕が感染に弱く、リンパ浮腫になりやすい状態ですので、猫にちょっと引っ掻かれただけでひどい感染症と浮腫を起こします。

私の患者さんにもひどい目にあった方がいます。結局、受診が遅れたせいで親指の関節を切除する手術までしなきゃならなくなってしまいました。猫を飼っている乳癌術後の患者さんは、十分気をつけましょう。

2009年3月26日木曜日

がん温熱療法(ハイパーサーミア)

私たちが一般的に、癌と戦う武器として選ぶ手段は、
1.手術、放射線治療などの局所治療
2.抗癌剤、ホルモン剤、分子標的剤などの全身薬物療法
が主です。
最近は、これらに加えて、局所治療としての焼灼療法(集束超音波、ラジオ波、マイクロウェーブなどで癌を焼き殺す治療)や局所+全身に対する温熱療法が行なわれるようになってきています。
これらの新しい治療の問題点は、臨床試験がまだ不十分なため、一部しか保険適応が認められていないことです。

温熱療法の癌に対する治療効果は動物実験レベルでは理論的に十分に裏付けがあります。癌細胞は熱に弱いため42℃くらいで死んでしまうのです。この現象に注目して考えられた治療が温熱療法です。
以前から、手術中の腹腔内を高温水で一定時間還流することで癌性腹膜炎に対する一定の治療効果が得られるという報告はありました。それを専用の加温装置を用いて、体の一部分の温度を上げて治療する方法が現在行なわれている温熱療法です。
まだ、あまり治療を依頼した患者さんはいませんが、抗癌剤の副作用が強くてしばらく休みたい場合や、有効な抗癌剤がなくなってしまった場合など、補助的に行なうには良い治療かもしれません。副作用はほとんど問題になりませんし、繰り返し、頭以外はどこでも治療できますからとてもありがたい治療です。
今後の治療効果の報告に期待したいと思います。

2009年3月25日水曜日

乳腺術後症例検討会2

今日も症例検討会でした。
院外からの技師さんの参加がまた増えたようで、今日は7-8人くらい来てくれました。大変ありがたいことです。

今日の症例は5例。最終病理結果は、良性2例(乳管内乳頭腫の多発1、乳腺症1)、非浸潤癌1例、浸潤癌2例でした。
すべての症例が、典型的ではない画像や病理所見でした。とても勉強になる症例でしたが、乳腺疾患の診断の難しさを再認識させられる貴重な症例だったと思います。

日々の業務が多忙な中、毎回、この会の準備をしてくれる技師さんたちには頭が下がる思いです。少しでも今後の診療にプラスになることを願い、継続していきたいと思います。

(また今月も飲み会ができませんでした…。残念です…。)

2009年3月21日土曜日

ピンクリボンバッジ

先日、ある製薬会社の方が面会に見えて、
”乳がん検診の啓蒙活動のために配ってください”
と、置いて行ってくれたピンクリボンのバッジ。

さっそく、外科外来・化学療法室・病棟の看護師さんと、超音波検査技師さん、放射線技師さんに配ってまわりました。

タイプは2種類。ピンバッジタイプと強力な磁石タイプ。
<↓これは磁石タイプ>



ほぼ半々の割合でありましたが、人気はピンバッジタイプでした。やはり、動きの激しい仕事ですし、万が一落ちるとまずい仕事だからのようです。結局、磁石タイプがいっぱい余ってしまいました。医療関係以外の知人にでも配ろうかと思ってます。

私も白衣の襟のところにピンバッジで止めています。若年者の検診方法やマスコミ報道の偏りなど、まだいろいろな問題もありますが、ピンクリボン運動を通じて検診を受けるきっかけ作りができればいいなと思っています。

2009年3月18日水曜日

慌ただしい1日

いつもは化学療法室でまったりとできる水曜日。
でも今日はなんだかバタバタとしていました。

午前中は、数人化学療法の患者さんがいましたが主治医ではない患者さんなのでこれは問題ありませんでした。ただ、私が診察の約束をしていた2人の他に1人追加になり、やっと終わって病棟の患者さんに病状説明をしている最中に乳がん検診のヘルプを頼まれ外来へ。
昼食後は、看護師さんに呼び出され、臨時のカンファレンス。そのあと退院予定の患者さん2人分の退院準備をして、それからもう1人の患者さんに病状説明をし終わったら製薬会社の人が2人続けて来院し対応。そのあとで、製薬会社の方にいただいた、乳がん検診啓蒙のためのピンクリボンバッジを関係部署に配り歩いてやっと仕事が終わりました。

それほど大変な内容の仕事ではありませんでしたが、なんだかあちこち行ったり来たりで慌ただしい1日でした。

2009年3月16日月曜日

なぜ検診?

今日、マンモグラフィの読影をしていたら、ひと目で乳癌とわかる3cmくらいのしこりが…。
触診は別の医師がしていますが、明らかなしこりが触れていました。

こんなしこりを患者さん自身が自覚していないはずはないので、”しこりを触れたから乳癌かもしれないので乳がん検診を受けに来ました”っていうパターンだと思いますが、本当はあまり望ましくないのです。

前にも書きましたが、検診は無症状の人が受けるものです。自覚症状があって、それが心配な場合には、外科外来に受診するのが正しいのです。

検診ではマンモグラフィは1方向(通常は2方向)なので不十分だし、エコー(超音波)検査やしこりがあれば細胞診も必要です。検診として来院した場合には、すぐにそれらの検査ができない場合もあります。

しつこいようですが、症状のある時は、検診ではなく、外科(乳腺)外来に”受診”しましょう。

2009年3月13日金曜日

乳癌の治療最新情報2”ゾメタ”

ゾメタは、乳癌の骨転移の治療薬です。破骨細胞の働きを抑えて、骨を溶けにくくする作用を持っています。骨粗鬆症の治療薬と同じ種類の薬で強力な作用を持っています。

もともとは、前の世代のアレディアのころから、溶骨性(骨を溶かすタイプ)骨転移による”高カルシウム血症”が適応でした。
しかし、ゾメタになってから、骨折予防や疼痛軽減効果が効能として認められたため、”骨転移”そのものに適応が拡大されました。

発売当初は、癌自体に対する効果は効能にはありませんでしたが、最近注目すべき効果が報告されてきています。
難しい理論は省略して、簡単にその例をあげてみます。

①骨折の予防や疼痛軽減効果だけではなく、骨転移した癌細胞に対して直接の治療効果がある。
②他の臓器転移に対しても治療効果がある(びっくりです!)。
③閉経前のホルモン感受性乳癌に対して、ゾメタを6ヶ月に一度併用すると、骨粗鬆症予防効果だけでなく、生存率も改善する(再発予防効果がある)。
④トリプルネガティブ乳癌にも治療効果がある。

などです。
これからは、骨転移の有無にかかわらず、再発治療でも再発予防でも抗癌剤やホルモン剤と併用するのが当たり前になっていくのかもしれません。

2009年3月10日火曜日

トリプル・ネガティブ(TN)乳癌の治療〜今後の展望

この前、TN乳癌は治療に難渋すると書きました。

TNは、術前の化学療法では他のタイプに比べて癌細胞が完全消失する率が高いのに、再発すると、現在標準的に使用されている抗癌剤が効きにくいという特徴を持っています。

ちょっと変わりもののタイプなので、普通じゃない抗癌剤の効果があるかもしれない、と思ったのかどうかは知りませんが、昔よく使っていた抗癌剤や他の臓器の癌に用いる抗癌剤、そして最近注目されている分子標的薬の臨床研究が行なわれています。

①TNによく見られる、BRCA1(癌抑制遺伝子)機能不全によるDNA修復機能低下を逆手に取った治療(DNAを傷つける薬剤)

1)マイトマイシン…昔、日本ではよくCMcF療法として乳癌の補助療法に使われていましたが、効果はCEFに比べて劣るので今はあまり使われなくなった薬剤。
2)シスプラチン、カルボプラチン…肺癌の標準的な治療薬。乳癌には保険適応はありません。
その他、ブレオマイシン、エトポシドなど。

②分子標的薬(癌細胞膜に多く発現する、細胞増殖に関与する蛋白質やそこから細胞内への伝達経路を選択的に阻害する薬剤)

1)EGFR阻害剤…cetuximab、gefitinib
2)c-KIT阻害剤…imatinib
3)multikinase inhibitor…lapatinib、pertuzumab、sunitinib、dasatinib
4)VEGFR阻害剤…bevacizumab

なんだか難しい話になってしまいましたが、これらのうちのいくつか(またはその組み合わせ)で臨床試験が進んでいます。
個人的には、少なくともシスプラチンやカルボプラチン、bevacizumabは、良い結果が出そうな印象を持っています。

早くTNに効果的な治療法が、保険適応になって使用できるようになれば良いですね。

2009年3月8日日曜日

今日の乳がん検診で

やはり、この前のたけしの番組を見ていた患者さんはけっこういたようです。

”あの番組を見て、怖くなったので受診しました”

という患者さんの言葉にちょっと複雑な気分でした。

受診のきっかけになったというのは喜ばしいことなんですが…。

2009年3月7日土曜日

諦めなかったから起きた、乳癌再発治療の奇跡

”トリプル・ネガティブ(TN)乳癌”というタイプの乳癌が最近注目されています。

これは、ホルモン受容体(ERとPgR)もHER2受容体も陰性の乳癌です。そのため、ホルモン療法もトラスツヅマブ(ハーセプチン)も効果がありません。他のタイプに比べると再発しやすく、治療に抵抗性で難渋することが多いのです。
一般的な抗癌剤もあまり有効でないことが多く、TN乳癌に対しての標準的な化学療法のプロトコール(治療スケジュール)がまだ決まっていません。

ですから、再発患者さんが、TNだった場合は、特別な方法が決まっていないので、一般の乳癌再発治療に標準的と言われている治療法から順番に試すことになります。例えば、FEC療法、タキサン系(パクリタキセル、ドセタキセル)、ナベルビン、5FU系の経口抗癌剤などです。

それでも、すべて効かなかったら…、けっこうこれは厳しいです。

でもあきらめないで治療すれば、時に奇跡も起きるのです。

今回はそんな患者さんに、MM療法という治療を行ないました。
有効性が10-20%と報告されていれば、奇跡ではないと思うかもしれませんが、他のすべての抗癌剤が効かない中での出来事ですから、患者さんはもちろん、治療者側の私たちも大喜びでした。

治療を変えるたびに、期待しては裏切られ…、また期待しては副作用だけ…。いつも頑張っている患者さんに申し訳ないと思いながら、なんとか次こそは効いて欲しいと願った結果、初めて著明な効果が見られました。できるだけ長く効果が持続することを祈りながら、いまも治療をしています。

なかなか良い治療がなくても、ねばって、ねばっているうちに、新しい治療法ができるかもしれない…、そんな期待を持ちながら、あきらめずに治療するのが私の基本方針です。もちろん、患者さんの考え方、生き方が最優先なのは言うまでもありません。

乳癌治療の進歩は速いです。これからも治療はドラマチックに変わっていきそうな予感がします。TN乳癌も近いうちに怖いタイプではなくなるのかもしれませんね。

2009年3月3日火曜日

”最終警告!たけしの本当は怖い家庭の医学”の問題点

”しこりを作らない新しいタイプの乳癌が急増!””この乳癌を早期発見するには?”
なんてことを今テレビで放送しています。

TV番組表を見た時から予想してましたがやっぱり…。なんていうことはない、”非浸潤性乳管癌”の比率が増加しているっていう話です。これがまるですごく怖いことのように報道しています。

”非浸潤性乳管癌”がしこりを作りにくいのは事実です。微細石灰化で見つかることが多く、マンモグラフィが有効です。自覚症状として乳頭分泌で見つかることもあります。最近、私の病院では、マンモグラフィにも写らないタイプの非浸潤性乳管癌がエコーで診断されることもしばしばあります。

つまり、非浸潤性乳管癌は、”まだしこりを作る前のごくごく早期の乳癌”なんです。非浸潤性乳管癌が増加しているのは、マンモグラフィの普及などで、浸潤癌(しこりを作った癌)になる前に早期発見しているから増加しているというだけなんです。

乳がん検診の啓蒙活動はとても重要なことですが、このようは番組の進め方は、一般の人たちに誤解を生じる内容だと思います。おそらく監修しているDrは正しい説明をしているはずですが、TV側が興味を引こうとするあまり、誇大表現の形で放送したものと思います。

医療番組は、不安をあおるだけではなく、正確に伝えてほしいものです。

*3/25 内容を修正しました。

2009年3月1日日曜日

さくらパンダ前線キャンペーン

”『余命1ヶ月の花嫁』乳がん検診キャラバン〜さくらパンダ前線キャンペーン”という企画が、TBSの主催で行なわれているというニュースを今朝見ました。

私はまだこの映画を見ていませんし、乳がん検診の啓蒙活動という面と、若年女性に乳癌についてよく理解してもらうきっかけ作りという点では賛成です。

しかし、ここで行なわれているのは”マンモグラフィのみ”の検診です。

ホームページをよく読むと、以前、ブログで私が述べたような、若年者に対するマンモグラフィ検査の限界についての説明は書いてありました。しかし、”エコー検査の有効性の証明はまだ不十分なので、20-30歳代でまず最初にマンモグラフィを受けた方が良い”とも書いています。ここに書いてある説明がどれだけ受診者に正確に理解されているかはちょっと疑問です。

20-30歳代の女性にマンモグラフィ単独検診を私が勧めない理由は、以下の通りです。

①国内外の比較試験で、40才未満のマンモグラフィの有益性は証明されなかった(マンモグラフィ検診で死亡率は低下しない)。
②癌があっても写っていないだけかもしれないのに、検診で”異常なし”と判断されたら、その直後にしこりを発見しても、検診で大丈夫だったから…と思って受診が遅れる可能性がある。
③若年者は特にマンモグラフィで強い痛みを感じやすいので、この時期に検査を受けて、”すごく痛い検査”という印象を持つと、さらに必要性が高くなる40才以上になってから敬遠してしまう人が増える可能性がある。
④妊娠可能年齢のため、妊娠を知らずに受診した場合、被爆の問題が生じる。

したがって、啓蒙活動は重要ですが、私が若年者に一つだけ乳房検査を勧めるなら、やはりエコー検査です。もちろん、乳腺に慣れた検査技師や医師が行なうことが前提ですが…。さらに、もし希望があって、妊娠の可能性がないと判断されれば、痛みを感じる可能性を十分に説明した上でマンモグラフィを併用します。

現在、乳癌の早期発見にエコー検査が有効かどうかの臨床試験が進行中です。早く、良い結果が出ることを願っています。
そして、若いうちから乳癌に関心を持って、有効な検診を多くの女性に受けてもらえるようになれば、日本の乳癌死亡率も低下してくるんじゃないかと信じています。