2013年4月26日金曜日

T-DM1 vs Trastuzumab+Docetaxel(Phase Ⅱ)続報

トラスツズマブ(商品名ハーセプチン)に抗がん剤のエムタンシンを結合させたHER2陽性乳がんに対する新規治療薬、T-DM1に関してはここでも何度か取り上げました。

①http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/07/18adc.html…T-DM1のFDA迅速承認申請
②http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/10/adc.html…今回の臨床試験(T-DM1 vs Trastuzumab+Docetaxel Phase Ⅱ)の中間報告
③http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2012/12/2012asco.html…カペシタビン+ラパチニブに比べ,生存期間中央値が延長(EMILIA試験 Phase Ⅲ)

今回は②の最終結果が論文化されたというお話です(J Clin Oncol. 2013 Mar 20;31(9))。

”Phase II randomized study of trastuzumab emtansine versus trastuzumab plus docetaxel in patients with human epidermal growth factor receptor 2-positive metastatic breast cancer.(HER2陽性転移性乳がんに対するTrastuzumab Emtansine(T-DM1)とTrastuzumab+
Docetaxelのランダム化第II相試験)”

概要は以下の通りです。

対象: HER2陽性進行再発乳がん患者137人( トラスツズマブ+ドセタキセル=HT群  n = 70、T-DM1群  n = 67) 。1st line(再発に対して初めての治療)に限定。

方法: 病状進行または毒性による治療中止まで治療を継続。Primary end pointは、無増悪生存期間(PFS)と安全性。secondary end pointは、全生存期間(OS)と奏効率(ORR)など。

結果: PFS(中央値) は、9.2ヶ月(HT群) vs 14.2ヶ月(T-DM1群)(観察期間中央値14ヶ月)、ORRは58.0% vs 64.2% 。grade3以上の有害事象発生率(90.9% vs 46.4%)、治療中止につながる有害事象発生率(40.9% vs 7.2%)、重篤な有害事象発生率(25.8% vs 20.3%)といずれもT-DM1群のほうが安全性において上回っていた。また、OSも2群間で同様の傾向であった。

つまり、この臨床試験においては、有効性、安全性ともにT-DM1群が上回っていたということです。

すでにEMILIA試験の結果を受けて、2013.2.22には米国FDAでT-DM1は承認されています。国内でも2013.1.29に中外製薬が承認申請を行なっています。近いうちに承認されそうだという噂がありますがいつなのでしょうか?待っている患者さんがいます。できるだけ早く使えるようになることを望んでいます。

2013年4月23日火曜日

第21回日本乳癌学会学術総会 in 浜松

今年の乳癌学会総会は6/27-29に静岡県浜松市で行なわれます。静岡での学会参加は初めてですので楽しみです。

今回は初めての試みでe-posterというセッションがあります。今までの示説(ポスター)発表は、印刷したものを指定の場所に張り出す(グループに分かれてポスターの前を移動しながら発表)という発表形式のみでした。今回のe-posterは、あらかじめ指定された様式(Power Point)でweb上にポスターを作成しておき、会場で閲覧できるという形式です。通常のポスターを張り出して討論する発表形式もありますが、症例報告は主にこのe-posterでの発表となりました。

私の演題も症例報告ですので、このe-posterで採択されました。通常のスライドはほぼ作成が終わりましたが、慣れないために指定の様式(1枚のポスターに内容を貼付ける)にどうやって貼付けたら良いのかこれから考えながら作業をするところです。締め切りが早いですし、ちょっと手間ではありますが、これさえ作成してしまえば学会当日の発表はありませんので気分的にはとても楽です。連休中にある程度完成させてしまおうかと考えています。

それにしてもここ数年、偶然ではありますが乳癌学会前後に学会開催地が大きな自然災害に見舞われています。2011年はご存知の通り、3/11の東日本大震災があり、仙台での学会が秋に延期となりました。2012年は、学会直後に熊本で大水害が起きました。そして今年は静岡…。ここのところ日本各地、そして世界中で大きな地震が頻回に起きています。ちょっと心配ですね…。念のため地震の備えはしておくつもりです。何ごともなく、無事学会が終了することを祈っています。学会期間中だけでなく、大きな自然災害(+人災)はもう起きて欲しくないですよね。でも自然には逆らえませんから、自分たちの身は自分たちで守る心構えも必要だということを忘れないようにしましょう。

2013年4月17日水曜日

新病院視察

今日、手術が終わってから新病院の視察をしてきました。もうほとんどの職員は一度は見て来ているのですが、私はなかなかチャンスがなくてこんなぎりぎりになってしまいました。

病院の外観は、今の病院とは雲泥の差です。やはり新しい病院はいいですね!駐車場が少し狭くて、職員駐車場が確保できていないのがちょっと問題ですが…。

建物の中で見学したのは、外来、化学療法室、放射線検査室、医局、手術室、病棟、がんサロンなどです。

見に行った職員からの情報を聞いていたのでだいたい予想通りでしたが、更衣室のロッカーが異常に狭いのはちょっと心配です(写真)。冬のコートは入りそうもありません(泣)。
医局の机周りはまあまあでなんとか荷物は収納できそうです(写真)。

化学療法室(写真)は、思ったよりベッドとベッドの間が狭かったですが、まずまずといったところです。カンファレンスルーム&面談室もできましたし、診察室が2つになったのはとてもうれしいです(今は1つの診察室の争奪戦が毎日繰り広げられています…泣)。

がんサロンはまだ設備が十分整っていなかったので雰囲気はあまりわかりませんでした。どんな感じになるのか少し気になります。多くのがん患者さんが集まってくれるような憩いの場になれれば良いのですが…。

今週末は、近隣の医療機関の関係者、そして一般の方々向けの病院内覧会があります。そして急ピッチで引っ越し準備をすすめて、5/1に患者さんの移送、5/7から新病院の一般診療開始です。もう時間がありませんが、なんとか患者さんに支障が出ないように準備を進めたいと思います。

来週はあまり大きな手術はしない予定でしたが、けっこうびっしり手術予定が入っています。そして引っ越し時には患者さんを減らしている予定でしたが、満床状態です…(汗)。患者さんの移送が無事時間内に終わることを祈りたいです(泣)。

2013年4月12日金曜日

デュロキセチン〜抗がん剤による末梢神経障害に対する新たな治療薬

抗がん剤によるやっかいな副作用に、しびれなどの末梢神経障害があります。乳がん領域においては、タキサン系(特にパクリタキセル)やビンカアルカロイド系(ビノレルビンなど)でよくみられます。生命を脅かすような副作用ではありませんが、日常生活においてかなりわずらわしい副作用であり、時にQOLを低下させる原因となります。私たちの病院でもパクリタキセルの反復投与で長く神経障害に苦しむ患者さんたちを経験しています。

この末梢神経障害に対する特効薬はなかなかないのが現状です。以前ここでも書きましたが(http://hidechin-breastlifecare.blogspot.jp/2010/12/10.html)、今まで効果があると言われてきた治療には限界があり、まったく効かないこともよくありました。

このやっかいな末梢神経障害に対して、セロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬のデュロキセチン(商品名:サインバルタ)という薬剤が効果的であったというCALGB-170601試験の報告がJAMA誌2013年4月3日号に掲載されました。この薬剤はもともとうつ病やうつ状態、糖尿病性神経障害に対して保険適応となっている薬剤です。

この臨床試験の概要は以下の通りです。

<CALGB-170601試験>
「化学療法薬誘発性末梢神経障害に伴う疼痛に対するデュロキセチンの効果を評価する二重盲検プラセボ対照クロスオーバー第III相試験」

対象: 25歳以上、化学療法薬(パクリタキセル、オキサリプラチン、ドセタキセル、ナノ粒子アルブミン結合パクリタキセル、シスプラチン)によって誘発された末梢神経障害と診断され、治療終了後3ヵ月以上持続するGrade 1以上の神経障害性の疼痛(NCI-CTCAE ver3.0)を伴う患者。

方法: 化学療法薬および疼痛リスクで層別化したのち、デュロキセチン治療後にプラセボ投与に切り替える群(A群)またはプラセボ投与後にデュロキセチン治療に切り替える群(B群)に無作為に割り付けた。両群とも5週の治療を行い、2週休薬後にクロスオーバーしてさらに5週の治療を行った。投与量は第1週が30mg/日、第2~5週は60mg/日とした。
疼痛の重症度の評価には、簡易的疼痛評価用紙短縮版(Brief Pain Inventory-Short Form)の疼痛スコアを用いた(疼痛なしを0とし、重症度を1~10で評価)。

結果: 2008年4月~2011年3月までに220例(平均年齢59歳、女性63%、パクリタキセル40%、オキサリプラチン59%、乳がん38%、消化器がん56%)が登録され、A群に109例、B群には111例が割り付けられた。フォローアップは2012年7月まで行われた。
最初の5週の治療における疼痛スコアの低下は、デュロキセチン治療(A群)が平均1.06[95%信頼区間(CI):0.72~1.40]と、プラセボ(B群)の0.34(95%CI:0.01~0.66)に比べ有意に優れていた(p=0.003)。低下した疼痛スコアの両群間の差は0.73(95%CI:026~1.20)だった。
最初の5週の治療で疼痛が軽減したと答えた患者の割合は、デュロキセチン治療が59%と、プラセボの38%に比べ高かった。デュロキセチン治療の30%が疼痛は不変とし、10%は増大したと答えた。
クロスオーバー後の治療期間中の疼痛スコアの低下は、プラセボ(A群)が0.41(95%CI:0.06~0.89)、デュロキセチン治療(B群)は1.42(95%CI:0.97~1.87)であり、低下した疼痛スコアの差は1.01(95%CI:0.36~1.65)であった。


この結果から、デュロキセチンは化学療法の神経障害に一定の有効性があると推測されます。ただ、詳細な解析からは、デュロキセチンはタキサン系薬剤よりもオキサリプラチンによる末梢神経障害性疼痛に有効だったそうですので、乳がん領域における神経障害の治療には直接結びつかないかもしれません。タキサン系やビンカアルカロイド系の神経障害に対してどの程度有効性があるのかということに関してはもう少し追加の検討が必要だと思います。続報を待ちたいと思います。

2013年4月8日月曜日

新体制!

東京のG病院からようやくN先生が戻って来て、今日からまた3人体制になりました!

この1年間は、かなりハードでした。N先生のいた2011年度は急激に乳がん症例が増えましたが、2012年度も同じくらいの症例があったため、特に病棟の責任者のG先生はかなり大変だったと思います。なんとかN先生が戻るまでと思いながら耐えてきましたがこれでようやく一安心です。

さっそくN先生希望の患者さんが手術を待っていて今日入院になりました。明日の術前検討会にも私が外来で診ていた患者さんの症例提示をお願いしました。マンモグラフィの読影もたくさんあります。帰ってきた早々でちょっと大変かもしれませんが、若いので大丈夫でしょう(笑)

N先生がG病院で学んで来てくれたことはこれから徐々に病院に還元してくれるものと期待しています。とりあえず、新病院移転後はステレオガイド下生検が開始になります。そして保険適応が通れば、一次再建がいよいよ可能になります。近隣の2施設に新たに乳腺専門医が勤務することになりましたので、ぼーっとしているわけにはいきません。さらなる向上を目指して3人で努力し続けなければならないと思っています。ただ乳腺を専門とする外科医が近くに増えたことはうれしいことです。症例検討会などで交流できればいいなと思っています。

5/1の新病院移転に向けて準備が急ピッチで進んでいます。荷造りも徐々に始めていますが、化学療法室の本棚を整理していたら、カビ?とホコリで気持ち悪くなりました(汗)やっぱりこまめに掃除しなきゃだめですね!

2013年4月4日木曜日

「乳房再建エキスパンダー/インプラント講習会」 in 東京

昨日「第1回 乳房再建エキスパンダー/インプラント講習会」に参加してきました。これは、ティッシュエキスパンダー(皮膚拡張器)とインプラント(人工乳房)挿入を保険適応で行なうための医師および施設要件として新たに定められた講習会です。責任者と執刀医、および指導にあたる形成外科医のいずれもこの講習会を受けなければなりません。実際の保険収載はまだですが、いつでも可能になるようにまずは私が受けに行きました。

午前に検診と化学療法室の患者さんを3人診てから千歳空港に向かったところ、東京が悪天候のために軒並み東京便に遅れが出ていました。14:30発が結局15:50発になって、あやうく19:00開始の講習会に遅れるところでした(遅刻したら受講証はもらえません)。ちょうど形成外科学会に合わせて行なわれていたのでD病院のE先生に連絡をとって一緒に聴講しました。

内容は、
1. 挨拶・概論
2.「使用要件基準(ガイドライン)の概略」(大慈弥裕之先生 福岡大学 形成外科)
3.「製品説明およびインフォームドコンセントについて」(アラガンジャパン 学術担当者)
4.「乳腺切除とティシュエキスパンダーの使用法」(福間英祐先生 亀田総合病院 乳腺外科)
5.一次二期再建ー皮膚拡張後のインプラントによる再建ー」(矢島和宜先生 がん研有明病院 形成外科)
6.「エキスパンダーおよびインプラントを用いた二次再建」(岩平佳子先生 ブレストサージャリークリニック 院長)
7. 質疑応答
でした。

質疑応答も含めて気になったことを書いてみます。

①思いのほかインプラント挿入後の再手術(摘出、入れ替えなど)が多いこと(乳房再建後の再手術は7年で53.3%でインプラント摘出は23.7%)。
②今回採用されたインプラントはラウンドタイプのみで自然な形状のアナトミカルタイプではないこと(特に頭側にくっきりと不自然な隆起が出る)。ティッシュエキスパンダーはアナトミカルタイプなのになぜインプラントがラウンドタイプのみなのか不思議です。岩平先生は、「今回は保険適応でインプラントの再建ができるようになるというだけであって”美しい乳房を作る再建”ができるようになるということではない」ということを強調されていました。
③このインプラントは、穴が開いても内容物が漏れない”コヒーシブタイプ”ではなく、粘稠性はあるけど漏れてしまうタイプであること(なぜこのタイプを認可したのかは不明…)。
④除外条件に”乳癌の再発や残存を認める症例”とあり、乳房温存術後の局所再発で全摘を行なう場合にもこれが該当するのかどうかについての回答が回答者によってばらばらであやふやだったこと。
⑤術後のトラブルでインプラントを入れ替える場合に保険適応になるのかどうかについても同様に微妙な回答だったこと。
⑥施設要件に、”形成外科医が常勤または非常勤(二次再建、一次二期再建は常勤)していること”という部分があり、非常勤の定義に関する疑義や常勤であることの必要性(特に今まで乳腺外科医が普通に二期再建をやってきた施設でできなくなる可能性があります)に関する疑義が出されたこと。

有意義な内容ではありましたが、2時間の講演を聞くだけで10000円、そして施設責任者の義務である日本乳房オンコプラスティックサージャリー学会入会金(年会費)5000円×約800人…。集まったお金は1200万円…。しかもこの講演会は学会に合わせて今年は3回行われます。学会や講習会ってこんなにお金がかかるものなのですね(苦笑)

2013年4月2日火曜日

新年度スタート!

昨日から年度が変わり、2013年度の新体制がスタートしました。ただ、5月に新病院に移転することもあり、なんだか新年度は5月からみたいな感覚です。

今日、昼に医局に行くと東京に研修に行っていたN先生が顔を見せに来ていました。元気そうに見えましたが、ちょっとやつれたような印象が…。短期間の研修で盛りだくさんのことを学んで来たのでちょっと疲れがたまっているのかもしれません。わずかですが休息を取ってリフレッシュしてこれからの乳腺外科を支えていって欲しいと願っています。

外来化学療法室も人事異動に伴ってちょっとごたごたしています。長く化学療法室を支えてくれていた看護師さんが病院の事情によって異動になりそうで化学療法室としては大打撃です…。1年前にも化学療法室の中心になってくれていた看護師さんが異動になり、これで2人目。いろいろ事情があるにせよ、室長としては黙っていられず、かなり抵抗してみたのですが厳しい状況です…。チーム医療を安定的に維持していくのはなかなか難しいです。

それにしても新病院移転に向けての一番の悩みは看護師不足の問題です。さまざまなアプローチをして確保を試みてきましたが、まだ少し足りないようです。女性の多い職種ですので、結婚、出産、育児などによる欠員が常に発生しますので、慢性的な看護師不足状態が続いています。病院としても、国に対してもっと看護師さんを増やして欲しいという活動をしてきましたが、なかなか改善しません。乳腺診療に意欲を持っている看護師さん、うちで働いてみませんか?(笑)