2010年10月28日木曜日

緑茶による乳がん予防効果が否定!

緑茶にはカテキンと呼ばれる抗酸化物質が豊富に含まれるため、がんの予防効果があると言われています。胃がんに関してはそのような予防効果に関する疫学研究があると聞いたことがあります(静岡などの緑茶を多く飲む地域では胃がんの発生が少ない)。

今回国立がんセンターの予防研究部から報告されたのは、緑茶が乳がん発症を抑制するかどうかという疫学研究です。概要は以下の通りです。

対象および方法:対象は1990~94年のベースライン調査に参加した女性5万3,793例。ベースライン時と研究開始5年時点(1995~98年)の中間調査での緑茶の摂取習慣に関するアンケートの結果を用い,緑茶の摂取量,お茶の種類をより詳細に分けた検証を行なった。

結果:ベースライン調査対象者5万3,793例のうち,約13.6年の追跡期間に581例が乳がんと新規に診断された。1週間の緑茶摂取量別に乳がんリスクとの関連を調査したところ,週1杯未満の群(全体の12%)を1とした場合の乳がんリスクは1日5杯以上緑茶を飲んでいる群(全体の27%)で1.12(95%CI 0.81~1.56,P=0.60)と有意な関連が見られなかった。
中間調査における解析では,摂取量,お茶の種類をより詳細に分けた検証が行われた。回答のあった4万3,639例のうち,約9.5年の追跡期間で350例が乳がんと新規に診断された。週1杯未満の群を基準として,1日10杯以上の煎茶を飲んでいた人の乳がんリスクを見たところ,やはり有意な関連は見られず(補正後ハザード比1.02,95%CI 0.55~1.89,P for trend=0.48),番茶および玄米茶でも同様であった(AHR 0.86,同0.34~2.17,P for trend=0.66)。

結局、緑茶では乳がんの予防にはならないという結果でした。

2010年10月27日水曜日

臨床試験結果の透明性について

がん領域において、世界中で新薬や新しい薬剤の組み合わせなどの治療法の臨床試験(治験)が行なわれています。私は治験に直接関わったこともなく不勉強のため、詳しくは知りませんので、認識が間違っていたらすみません。ちょっと思うことがあったので書きます。

私自身、臨床医としては、患者さんにプラスになる新しい治療が生まれることを心から期待しています。もちろん傍観者としてではなく、本来は自分も治験に関わらなくてはいけないと思っていますが、なかなかハードルは高いです。

ただ、期待した結果が得られないと治験の途中で判明した場合、今の時代では第三者機関が治験の中止を勧告するようになってきています。米国ではFDAなどがその役割を担っているようです(全てかどうかは知りませんが…)。国内でも途中で中止になったケースは今までもありました。

先日、ある乳がん患者さんから連絡を受けました。この患者さんは、ある術後補助療法の治験に参加していて、以前から相談を受けていた方でした。そのお話によると、比較対象の群が明らかに不利益があるとわかったので治験が中止になったと担当医から説明を受けたというものでした。

この治験は以前から私はとても注目していたものでした。そして好ましい結果が出ると信じていた治験であり、実際今まで報告されていた内容では十分にその結果が期待されるものだったのです。しかし、治験の結果は新しい治療法のほうが従来の治療法より明らかに劣るということだったので、事実関係を確かめるために、当該薬の製薬メーカーの担当者に問い合わせをしてみました。

しかしその返答は、”治験の結果は製薬会社側からは公表できない。治験を担当した医師から聞いて下さい”というものでした。日本中、世界中が注目し、期待していた治験です。実際、保険外診療などでこの治療を行なっている(当然効果を期待して)患者さんもいるのです。良い結果は公表するけど、中止になった理由は公表しないという姿勢には疑問を感じます。治験中の患者さんにはご説明しているのですから、公表しても良いのではないかと私には思えるのですが…。もちろん、製薬会社にとって不利益になる結果は隠したくなるのもわかりますが、なぜ期待できるはずの結果が得られなかったのか?という理由は、臨床医にとってとても重要な情報なのです。

治験については、どんなことを行なっているのかはネットで検索すると知ることができます。新しい治療を期待している患者さん、医療従事者のためにも、良い結果だけではなく、期待した結果が得られなかったという事実も公表するような透明性が必要ではないかと強く感じました。

今回の治験がどんな治験なのか、その内容をここでお話できないのは残念です。内容を書くとどこのどんな治験かがわかってしまうからです…。
とてもじれったいです!
なんとも言えない怒りを感じています!

2010年10月26日火曜日

糖尿病性乳腺症

今日、右乳房にしこりを自覚して受診した35才初診の患者さん。触診では両側に乳腺症の所見がありますが、明らかに右乳房の外上部に5×4cm大の硬いしこりを触れました。徐々に増大してきたという症状からまず乳がんを疑いました。

しかし超音波検査をしてみると…境界不明瞭で強く後方に陰影を引きますが、画像を調整(ゲインを上げる)と内部構造が透けて見えて周囲の乳腺とつながるのが確認できました。超音波診断は”糖尿病性乳腺症疑い”。今まで何例か経験しているベテランの技師さんは、この疾患の特徴をよく覚えていてくれたため、的確に診断してくれました。

実はこの患者さんが受診したのは受付時間を過ぎていたため、慌てて触診をしてから検査に行ってもらったため、カルテを十分に見ていませんでしたが、若いのにかなりコントロールの悪い糖尿病を患っていたのです。超音波技師さんは内科のカルテも確認して、診断に確信をもったのだと思います。結局、確定診断のために針生検をすることにしましたが、もし超音波検査で乳がん疑いと書かれたら細胞診をオーダーしていたかもしれません。この疾患は細胞診ではほとんど細胞が取れないため、診断できないことが多いのです。今日は本当に技師さんに助けられました。

以下、糖尿病性乳腺症について少しご説明します。

臨床的に乳癌と紛らわしい比較的まれな良性病変の一つにfibrous disease というものがあります。線維化、硝子化した基質の増生と、小葉の萎縮、リンパ球浸潤を特徴とし、一種の炎症性変化と考えられる病態で、その一種で糖尿病患者で発生したものを糖尿病性乳腺症(diabetic mastopathy)と呼んでいます。代表的な検査所見は以下の通りです。

触診:硬く不整形で境界不明瞭な腫瘤を触れ、癌が疑われる所見です。
マンモグラフィ:局所性非対称性陰影または構築の乱れなど、やや不明瞭な像が多いと言われています。
超音波検査:不整形の低エコー腫瘤を呈し、後方エコーは強く減弱します。あたかも硬ががんか浸潤性小葉癌のように見えますが、がんであれば、周囲の乳腺とは構造が連続していませんが、この疾患ではゲインを調整すると内部構造が周囲の乳腺とつながることが確認できます。
細胞診:穿刺時の印象は非常に硬く、細胞成分がほとんど採れないのが特徴です。ですからこの疾患を疑った場合には針生検を行なう必要があります。

ホルモン補充療法(HRT)と乳がんの関係〜最近の知見

今まで報告されてきた研究によると,HRTは乳がんの発症を増加させるものの,HRTを受けていない場合と比べその性質は良好で,ステージが低く,生存期間が長いと言われてきました。

しかしランダム化比較試験であるWHI試験では,HRTは乳がんリスクを上昇させるだけではなく、より進行したステージで診断される傾向が示されました。そして今回,さらに長期の追跡により,HRT群ではリンパ節転移陽性が多く,死亡率が高いという結果が出たとのことです。

WHI試験の概要は以下の通りです。

対象:1993-2002年に全米40施設で登録された50~79歳の健康女性1万6,608人。HRT群(結合型エストロゲン0.625mg/日+酢酸メドロキシプロゲステロン2.5mg/日)とプラセボ群に分けられた。

方法:当初の平均介入期間は5.6年(SD 1.3年,3.7~8.6年)で平均追跡期間は,7.9年(SD 1.4年)だった。今回は,その後の積極的追跡に関して同意を得た1万2,788人(生存者の83%)の2009年8月までの追跡に基づき,平均追跡期間の11.0年間(SD 2.7年,0.1~15.3年)の浸潤性乳がんの累積発症数と死亡率を解析した。

結果:すべての試験参加者を含むintention to treat(ITT)解析を行なった。
①浸潤性乳がん発症率:HRT群とプラセボ群で385例(1年当たり0.42%)vs. 293例(同0.34%)発症し,HRT群でハザード比(HR)1.25(95%CI 1.07~1.46,P=0.004)と,有意なリスク上昇が認められた。
②リンパ節転移陽性率:81例(23.7%)vs. 43例(16.2%)とHRT群に多く,HR 1.78(95%CI 1.23~2.58,P=0.03)であった。
③乳がんによる死亡率:25例(1年当たり0.03%)vs. 12例(同0.01%),HR 1.96(95%CI 1.00~4.04,P=0.049)と,HRT群でリスクが有意に上昇していた。
④乳がん診断後の総死亡率:51例(1年当たり0.05%)vs. 31例(同0.03%),HR 1.57(95%CI 1.01~2.48,P=0.045)とHRT群で死亡率が高かった。

プロゲステロンは血管新生を刺激し,このために乳がん死亡や肺がん死亡を増加させる可能性があることが報告されています。総死亡はこれらのリスクが合わさった可能性があり、HRTを選択する場合には十分なリスクとベネフィットの考慮が必要と考えられます。

今まで私は、HRT中の患者さんに、「HRTは乳がん発症率は増加させますが、ホルモン依存性のおとなしいがんが多いことと、注意して乳房検査を受けることが多いため、予後は悪化させないと言われています」とご説明してきましたが、少し改めなければならないと思いました。

2010年10月24日日曜日

乳房再建についての講演会

11/6(土)に私たちの病院の第2別館で、D病院形成外科のE先生をお招きして「乳房再建について」のご講演をしていただくことになりました。

今回の講演会は病院にバックアップしてもらうということで、乳がん患者会主催の形で行ないます。対象は基本的には当院および関連病院通院中の乳がん患者さんとご家族、そして職員の予定ですが、私をご存知の乳がん患者さんは参加していただいてかまいません。せっかくの機会ですので多くの方に聞いていただきたいと思っています。

北海道ではまだまだ乳房再建の希望者は少ないようですが、けっこう敷居が高いと思っている方が多いようです。また、保険適応の拡大などの新しい情報をご存じない方も多いのではないでしょうか?今回はそんな疑問にお答えいただけるような内容になるのではないかと期待しています。また、とても気さくな先生ですので、乳がんと直接関係ない形成外科に関するご質問にもお答えしていただけることと思います。

講演会の内容の報告はまた後日アップします!

2010年10月21日木曜日

ハーセプチン-ADC(抗体-薬物複合体)続報

以前、ハーセプチンと抗がん剤を結合させた新しいタイプの治療薬(抗体-薬物複合体(ADC)製剤)、トラスツズマブ(ハーセプチン)-DM1(T-DM1)について報告しました。今回はその続報です。


T-DM1は、現在HER2陽性進行性乳がんを適応症とする第1-3選択薬などで治験中です。今回スイスのロシュ社が発表した第2相試験データによると、T-DM1投与群の全奏功率(腫瘍縮小効果)は48%で、トラスツズマブ/ドセタキセル群の41%を上回ったということです。グレード3以上の有害事象発生率はT-DM1群が37%、トラスツズマブ/ドセタキセル群が75%で、有効性、安全性ともに既存療法を上回ることが確認されました。

ロシュ社にによると2012年の承認申請を予定しているそうです。他社でも様々なADC製剤が開発、臨床試験中のようです。T-DM1は、今のところ奏効率が高く、副作用が少ないという理想的な薬剤になりつつあります。今後もこのような薬剤が出てきて欲しいですね!

2010年10月19日火曜日

乳がん治療後の妊娠・出産

若年発症の乳がん患者さんにとっての大きな心配事は、乳がんになっても妊娠して大丈夫か、ということです。私もネットを介して何度か相談を受けたことがあります。

昔は妊娠・出産は再発を促すので禁止ということを指導されていましたが、最近の報告では妊娠・出産は乳がん患者の予後を悪化させないという考え方が一般的になってきています。ただ、術後補助療法を中止して妊娠・出産しても大丈夫かどうかまではっきり書かれた報告はないように思います。基本的には術後必要な補助療法を行なった後に妊娠するのであれば予後を悪化させない、と考えるのが正しいのではないでしょうか。

今回、第35回欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2010;10月8~12日,イタリア・ミラノ)でJules Bordet Institute(ベルギー)らが発表した報告もこの考え方を支持するものです。概要を下に示します。

対象:1988~2006年に40歳以下で乳がんと診断され,治療完遂後に妊娠した患者32人中、回答を得た20人。乳がんと診断された当時の年齢の中央値は32歳(27~37歳),出産時の年齢の中央値は36歳(30~43歳)。

結果:授乳を行っていたのは回答者の半数の10人。そのうち4人は出産後1カ月以内に授乳を中止していたが,授乳に関するカウンセリングを受けていた6人は出産後7~17カ月(中央値11カ月)にわたって授乳していた。また,温存手術を含め乳腺切除を受けている場合は授乳期間が短くなる傾向にあり,ボディーイメージが授乳行動に影響することも示唆された。授乳をしない主な理由としては「安全だと知らなかった」,「授乳できないと思っていた」など。進行例は授乳者と非授乳者それぞれ1人ずつであり,出産後の追跡期間中央値48カ月において回答者20人はすべて生存していた。

この報告は比較試験ではなく、観察期間も短く、症例数も少ないのでエビデンスレベルは低いものですが、今後妊娠を希望されている若年乳がん患者さんには心強いデータだと思います。

妊娠可能年齢ぎりぎりで妊娠を希望されている場合には、5年間のホルモン療法はかなり決断のいることだと思います。可能なら補助療法は行なうべきではありますが、再発リスクと秤にかけて主治医とよくご相談の上、慎重に判断されるのがよいと思います。

2010年10月17日日曜日

患者会温泉一泊旅行





10/16-17、病院の乳がん患者会で定山渓温泉に行ってきました。

毎年恒例の秋の温泉旅行ですが今まではすべて日帰りでしたので、今回は初めての1泊旅行でした。今までも何度か話には上がりましたが、なかなか実現できなかったのですがついに、という感じです。

場所は定山渓温泉の「定山渓ホテル」。直前になって、患者会の会長さんが体調を崩して参加を断念せざるを得ないというアクシデントはありましたが、職員を含めて22名の参加で行ってきました。

温泉到着後、夕食までの間に周辺の散策をしてきました。急激に寒くなってきたこのごろですが、紅葉は急激な寒さに追いついていないようです。もしかしたら紅葉しないで枯れてしまうのでしょうか?

1枚目の写真は豊平川上流の川沿いにある「かっぱ大王」。何のご利益があるのかわかりませんが、みんなで頭を触ってきました。
2枚目の写真は、さらに先に行ったところにある「かっぱ淵」。定山渓の「かっぱ伝説」の元になった場所です。定山渓観光協会のHPによると、明治時代にここで溺れて行方不明になった美形の若者が、一周忌の夜に故郷の父の夢枕に立って、「私は今かっぱの妻と子供と一緒に幸せに暮らしている」と語ったというのが「かっぱ伝説」です。以後、ここで溺れる人はいなくなったとか…。

散策後、さっそく温泉につかってさっぱりしてから夕食→二次会。患者さんたちは元気で明るい方が多く、歌も飛び交い話し声が聞こえないほどの盛り上がりでした。ビンゴゲームもとても楽しかったです。
3枚目の写真は、ブログ掲載を承諾してくれた、患者さんたちです。私は翌朝、検診があるので11時前には切り上げて休みましたが、きっと部屋ではまだまだ楽しく過ごしたことと思います(笑)。

4枚目の写真は朝、部屋から見た景色です。遠くに赤い橋(二見吊橋)が見えますが、その下側に見えるあたりがかっぱ淵です。

私はそれから車で病院に向かって乳がん検診をしてから帰宅しました。ちょっと疲れましたが楽しい旅行でした。天気にも恵まれて本当に良かったです。今回の患者さんの感想を集約して、好評であれば来年も一泊旅行を企画したいと思っています。

2010年10月15日金曜日

若年性乳がん患者の家族の発がんリスク

ここは乳がんに関するブログではありますが、人間が罹るがんはもちろん乳がんだけではありません。特に高齢化社会になって、一生のうちにがんにかからない人の方が少なくなるのではないかというのが今の日本です。2003年罹患・死亡データに基づく年齢階級別罹患リスク(厚生の指標)によると、日本人が生涯のうちに何らかのがんに罹る可能性は、男性54.5%、女性40.7%もあります。

ですから、よく患者さんから聞かれることがありますが、乳がん患者さんのご家族が何かのがんに罹っていてもまったく不思議はありません。しかし、今回オーストラリアから発表された報告によると、若年発症(35才未満)の乳がん患者さんの家族の発がんリスクは、他の家系に比べると有意に高いということがわかったそうです(メルボルン大学 John Hopperら「British Journal of Cancer」9月28日号)。

オーストラリアでは乳がん患者の40人に1人が35歳未満だそうです。今回の研究は、オーストラリア、カナダおよび米国の乳がん患者500人(いずれも35歳未満で診断)の親および兄弟姉妹2,200人を対象(BRCA1およびBRCA2などの発がんリスクを増大させることが知られている主要な遺伝子変異をもつ家族は除外)としています。

この解析結果によると、乳がん患者の父親および兄弟は前立腺がんリスクが5倍、母親および姉妹は卵巣がんリスクが2倍、乳がんリスクが4倍、近親者全体で脳腫瘍の発症リスクが3倍、肺がんリスクが8倍、尿路がんリスクが4倍という高リスクだったそうです。

白人と日本人とではまったく同等には考えることはできませんが、未知の遺伝子異常が関与している可能性は否定できません。若年発症の乳がん患者さんのご家族は、乳がんや卵巣がんだけではなく、念のため他の臓器のがんについても注意が必要だということは言えそうです。

2010年10月13日水曜日

今度の日曜はJ.M.Sですが…

10/17の第3日曜日は以前にもご紹介したようにジャパン・マンモグラフィ・サンデーです(http://www.j-posh.com/jms.htm)。

平日は仕事や家事でなかなか乳がん検診を受けられない女性のために、日曜日に乳がん検診を受けれるようにしようとJ.POSHが始めた運動です。私たちの病院も昨年から賛同施設となっています。

しかしもうあとわずかに迫っているのですが、なかなか申し込みがありません…。

もともと私たちの病院ではこの日は地域の方々のための検診日になっていて乳がん検診も一緒に行なっています。こちらの申し込みはいつも通りあるのですが、J.M.Sとしての新たな乳がん検診の申し込みが増えないのです。J.POSHのHPには賛同施設として病院名が掲載されているのですが、情報提供不足なんでしょうか?健診課では、病院のHPにも掲載してアピールを始めたそうです(おそ過ぎ!)。ちなみに昨年、札幌の他の病院(私たちの病院より規模が大きい)の乳腺外科医(大学の友人です)も「せっかく日曜に体制を取ったのにほとんど申し込みがない…」と嘆いていました。

せっかくの試みなのに一般市民に伝わらなくては意味がありません。メディアを使った宣伝をもっとしておけば良かったです…。せっかくこの前、某テレビ局の方とお知り合いになって名刺もいただいたので来年は取り上げてもらえるようにお願いしてみます!

2010年10月10日日曜日

乳がん患者のパートナーとうつ病

乳がん患者のパートナーはうつ病のリスクが高いという報告がデンマークの大規模研究で示されました。

今回の研究は、1994~2006年にデンマークに在住し、乳がんを発症した女性パートナー(妻または同居するガールフレンド)をもつ男性2万538人を追跡したものです。教育レベルなどの因子による誤差のないよう統計値を調整して検討した結果、このような男性は他の男性に比べ、うつ病や不安などの気分障害で入院する比率が39%高いことが判明しました。

突然の乳がんの診断、そして病状が深刻になった場合はなおさら、本人だけではなく、パートナーにも精神的に大きな負担がかかるのは容易に想像できます。今回の報告はそれを具体的な数字で示しています。

私自身の経験でも、術後に切除標本をご主人に見せたら倒れてしまったとか、ご本人は落ち着いて話を聞いているのに「先生、絶対死なないって約束して下さい!」と泣きながら訴えるご主人、十分に説明してご本人は理解しているのに温存術後に断端陽性で再手術が必要とわかった途端、激しく動揺して怒り出してしまったご主人、などご本人以上にパートナーにとっても精神的なダメージが大きいと感じることはよくあります。もちろん表面に出さないケースのほうが圧倒的に多いはずです。こちらのほうが私たちとしてもフォローが十分にできない可能性がありますので注意が必要です。

毎年夏に行なっているWith You Hokkaidoですが、患者さんだけではなくご家族も対象になっているのですが、ご夫婦で参加されているケースは稀です。仕事で忙しいこともあるでしょうが、パートナーに対するフォローは十分に行なえていないのが現状です。なんらかの手だてを考えなければならないと今回の報告を見て感じました。

2010年10月9日土曜日

ホルモンレセプターの陰性化

初回手術時の原発巣のホルモンレセプターが陽性であっても再発巣のホルモンレセプターが陽性とは限らない、というのが今回の乳癌学会地方会での発表内容です。これは最近、世界的にも注目され、同様の報告が発表されています。

今回調べた当院の症例では、約30%の患者さんでホルモンレセプターの陰性化が見られました。もし、再発巣の組織検査をしていなければ、ホルモンレセプター陽性の再発としてホルモン療法が選択されていたはずです。というのは、現在の再発治療の考え方の基本は、Hortbagyiのアルゴリズムというものに沿って行なうことが多いからです。このアルゴリズムでは、ホルモンレセプター陽性乳癌の再発は、生命の危機がないものに対してはホルモン療法から始めることを推奨しているのです。

なぜホルモンレセプターの陰性化が起きるのでしょうか?

実はまだよくわかっていません。

前回の乳癌学会総会では、原発巣と同時に切除した腋窩リンパ節転移巣でもすでに5-10%でホルモンレセプターの陰性化が起きていることを報告しました。この時の検討では、原発巣のホルモンレセプター陽性細胞率が低い症例(弱陽性)で陰性化が起きやすいことがわかりました。これはおそらくモザイク状に存在している原発巣のホルモンレセプター陰性細胞の割合が高い方が転移しやすいという確率の問題だと推測されました。

しかし今回の検討では、ホルモンレセプター陽性細胞率が高い症例(強陽性)においても陰性化が見られており、しかも再発巣の陰性化率が同時に切除された腋窩リンパ節転移巣よりはるかに高いということから、単に確率の問題だけではなく、術後に行なった補助療法の影響があるのではないかと考えられました。

検討した範囲内でわかったことは、術後に化学療法を行なっていた症例と閉経後の症例で陰性化が起きやすいということです。推測ですが、これらの結果から2つの機序が考えられます。

①術後ホルモン療法の効果によるホルモンレセプター陽性細胞の消失(ホルモン療法によってモザイク状に存在していた再発組織の中の陽性細胞だけが消失し、陰性の細胞だけが残った)
→閉経後で陰性化症例が多かったのは、閉経前より閉経後の方がホルモン療法の効果が大きかったからではないのか?ということから推測。

②術後化学療法で生き残ったホルモンレセプター陽性細胞が、生き残る過程で陰性化した
→化学療法施行例で陰性化が起きやすかった事実より推測。

発表の概要はこんな感じです。

言いたかったのは、原発巣と再発巣では、ホルモンレセプターの状態が同じとは限らないということです。再発巣の組織を容易に確認できる場合には確認してから治療方針を決める方が良い、確認できない場合には、特に化学療法施行例、閉経後症例では、ホルモンレセプターの陰性化を念頭において、一次ホルモン療法の効きが悪い場合には早めに化学療法への変更を検討した方が良いというのが結論です。

今回はちょっと難解でしたね(汗)。

2010年10月6日水曜日

乳がん患者さん向けの書籍のご案内


先日アンケートに答えたところ、出版社から「乳がん 最新治療法と乳がんと一緒に生きるあなたへ」(定価 2000円 イカロス出版)という本が送られてきました(写真)。

まだ十分に目を通してはいませんが、乳がんの最新情報も含めて、患者さんにとって必要な情報が見やすくまとめてあります。主な内容を書いてみます。

・患者さんの体験談
・がん患者さんの就労支援
・乳がん治療最前線
・乳がんについての基礎知識
・病院選びについて
・治療スケジュール
・各治療の基礎知識、治療へのアドバイス、副作用対策
・乳房再建の基礎知識
・術後のリハビリ
・当たり前の日常を取り戻すために〜心のケア
・治療中の食生活について
・リンパ浮腫対策
・性生活について
・漢方がん治療
・乳がんの治療費と公的制度
・乳がん情報データベース
・乳腺専門医がいる病院リスト
・綴じ込み付録「乳がん QOLケアカタログ」

とても充実した内容です。学会が終わったらゆっくり読みます。それから外来にでも置いておこうと思います。皆さんもよろしければ参考にしてみて下さい。

2010年10月5日火曜日

統計学は苦手です…

今週の土曜日は乳癌学会の地方会です。いま追い込みの最中です。

もうスライドはほとんど完成しているのですが、有意差検定だけが終わっていません。症例数があまり多くないので有意差を出してもあまり意味がないかと思ってしないつもりだったのですが、やはりやるだけはやっておいたほうが良いと思い直して慌てています(汗)。

私のPCはMacです。以前はStat Viewという使い慣れた統計ソフトで有意差検定などの統計処理をしていたのですが、新しいMac Book Proにはこのソフトは対応していません(絶版になったので新しいバージョンもありません)。

簡単な統計処理はExelでもできるという話も聞いたのでネットで調べてみましたが、さっぱり理解不能…。いつもExelは統計ソフトにデータを移す目的のみで使用していたため、使いこなせません(もともとMicrosoftにはアレルギーがあります)。

どうやら「4 Step Exel統計」という本に付録でついているソフトはMac対応みたいなので明日買いにいってきます。まったく直前になにをやってるんだか…(泣)

今回の発表内容は先日の乳癌学会総会での報告の続編のようなものです。発表後にまたここで報告します。

2010年10月2日土曜日

ピンクリボン月間!

新聞報道などでも紹介されていましたが、「ピンクリボン月間」が10/1から始まり、各地で乳がん検診の啓蒙などの取り組みが行なわれています。

小樽では、「ピンクリボン・ファミリー」企画の乳がん術後の患者さん対象のインナーの試着、販売が、10/11 AM10:15-12:00までウイングベイ小樽1階 5番街 「ネィチャーチャンバー 」で行なわれます(ピンクリボン・ファミリーのTさんからの情報)。

東京では、「ピンクリボン in 東京2010」が10/1に開催され、都庁がピンク色に染まりました。また公式キャラクターに決まったPostPet「モモ」デザインのポストカード配布や都庁内職員食堂、議会棟レストランでピンクリボンランチを提供したり、ピンクリボン電車広告ジャック(10/1-15)など精力的な取り組みが行なわれるようです(http://www.metro.tokyo.jp/INET/EVENT/2010/09/21k9d200.htm)。

名古屋でも10/1-3の期間に名古屋城ライトアップ、マンモグラフィ無料体験、スペシャルトークイベントなどが行なわれています(http://www.pink-ribbon-nagoya.com/)。

鹿児島では、県庁や市役所にピンクリボンツリーが設置され、来場者が乳がん撲滅を願ってピンクのリボンを結びつけられるようになっています。また、ピンクリボン月間のイベントとして、JR鹿児島中央駅ビルの観覧車や鹿児島市の百貨店山形屋の壁を期間限定でピンク色にライトアップしたり、10/24には同市中央公園での「ピンクリボン・ウオーク」や、1500円で検診を受けられる「ピンクリボン・フェスタ」が予定されています。検診は39歳以下先着20人でエコー検査、40歳以上先着30人でマンモグラフィー検査となっているそうですので、若年者にも配慮した内容となっています(http://mytown.asahi.com/kagoshima/news.php?k_id=47000001010020002)。

札幌でも10/1にJRタワーがピンク色にライトアップされました。この日のJRタワーの売り上げの一部は日本対がん協会に寄付されるとのことです(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20101002-00000005-mailo-hok)。

そしていよいよ10/17(日)は、日曜日でもマンモグラフィを受けられるように、との要望に応えるためにJ.POSHが始めたJ.M.S(ジャパン・マンモグラフィ・サンデー)の検診日です。検診を受けられる賛同医療機関はJ.POSHのHP(http://www.j-posh.com/)で検索できます。もちろん私もこの日は日曜出勤です(前日は患者会旅行で温泉に泊まるので早朝に戻ります…笑)。

2010年10月1日金曜日

聾(ろう)の患者さんと手話通訳

外来で週2回行っている関連病院は手話通訳者が常駐している市内でも限られた病院であるため、私が診ている乳がん患者さんの中には聾の方が3人いらっしゃいます。その他にも検診や定期検査中の患者さんを含めるとかなりの数の聾の方を診察しています。

乳がんの患者さんは3人とも再発なくお元気に通院されていますが、乳がんの診断、手術の際はなかなか大変でした。重要なポイントについては、紙に書いてお渡しするので良いのですが、ほとんどの説明は手話通訳さんにお願いしています。手話通訳さんは慣れているとは言っても医学の専門家ではありませんので、こちらの話をうまく伝えられる場合と微妙にずれて伝えてしまう場合があります。経験の長い方は私の説明をうまく翻訳して手話で正しく伝えてくれるのですが、残念ながらうまく伝わらない場合もあります。

そういうことを長年の生活の中で知っている聾の方々は、理解するまで何度も聞いてきます。ですから手術や病理結果、術後療法の説明には普通の倍以上時間がかかってしまいます。患者さんが帰宅してからも、一度理解したはずの内容に疑問を感じて病棟に質問のFAXが届いたこともありました。

また麻酔の際には手話通訳さんはいませんので声をかけても状態の確認ができませんから専用のボードなどを用意して筆談で意思疎通を量る必要があり、麻酔医と手術室の看護師は非常に神経を使います。夜間の病棟など手話通訳者がそばにいない場合には四苦八苦しながらコミュニケーションをとって治療をおこなっています。

周術期にはそのような大変さがありますが、治療が無事終了した時には満足感が倍になります。外来でも時間はかかってしまいますが、長年苦労を積み重ねてきたためか、一定時期をすぎると驚くほどお元気になります。なかなか大変ですが、手話通訳や筆談で楽しくコミュニケーションをとって診療しています。

医学用語を手話通訳するのは本当に大変だと思います。手話通訳の方にはいつも大変なご苦労をおかけしていると思います。ですから診察が終わった時には、患者さんに”お大事に!”と言った後で手話通訳さんにも”お疲れさまでした!”とお礼を言うようにしています。

いつか自分でも簡単な手話ができるようになりたい!と思いつつ、まだ全然できていません…(汗)。