2010年9月29日水曜日

乳腺術後症例検討会7 マンネリ化防止

今日は月1回の症例検討会の日でした。

今回から新たなメンバー(他院)2人も参加していただき、熱い討議が行なわれました。

症例は4例。

①マンモグラフィでは異常なし(カテゴリー1)でしたが、触診で乳腺症があったため念のためお勧めした超音波検査で発見された3mmの非浸潤癌。微小で、一見乳腺症のムラのように見える病変でしたが細胞診を施行。ClassⅢ(鑑別困難)だったため針生検を行ない、うまく診断できた症例でした。

②乳管腺腫(ductal adenoma)の症例。前回の超音波で指摘されていなかったため精査になった症例。細胞診はClassⅢ(鑑別困難)。MRでは悪性パターン(ductal adenomaではあり得ます)を呈していた症例でした。

③マンモグラフィで4cm近くのFAD(局所的非対称性陰影)で発見された、大部分が非浸潤癌だった症例。超音波画像では一見、硬癌様の陰影欠損を呈していました。

④自覚から7年経過した高齢者乳がん。超音波画像的には粘液癌か嚢胞内癌の嚢胞外浸潤を伴ったものか意見が分かれる症例でした。結果的には嚢胞内癌の嚢胞外浸潤症例でした。

今回のミニレクチャーは「ダイナミックMRの造影パターンと良悪の診断〜悪性所見を呈する良性腫瘍」についてでした。毎回毎回、この会を準備してくれる超音波技師、放射線技師の皆さんには頭が下がります。4例とはいえ、診療の合間や時間外(自宅でも)にカルテ内容のコピー、画像の取り込みやスライド作り、そしてミニレクチャーの勉強など、毎月準備するのはなかなか大変な作業なのです。

せっかく技師さんたちが頑張って準備してくれる会なので、なんとか参加者が「来てよかった!」と思ってくれるような会にしていきたいと思っています。

私がこの準備に関わってずいぶん月日が経ちましたが、技師さんたちからも意見が出たように、だんだんマンネリ化してきているのではないかというのが今年の春先課題でした。その後彼女たちのアイデアと工夫(超音波動画の導入や超音波写真の提示、フィルムリーディング形式の記入用紙の準備、外部からの講師の依頼など)でこの半年の間でかなりバージョンアップしたと思います。

ただ、同じ人間が指導者として長く関わるとマンネリ化の原因になってしまうのではないかという危惧もあります。一度この任を離れて、新しい風をG先生に入れてもらい、外から見てみるのも悪くないかな…なんて思っています。

2010年9月28日火曜日

マンモグラフィ検診の実質的死亡率低下はわずか10%!?

2002年に世界保健機構(WHO)は,ランダム化比較試験(RCT)の結果から,50~69歳を対象にしたマンモグラフィ検診は乳がん死亡率を25%下げると結論しました。しかし,他のRCTで報告されたマンモグラフィの診断能を巡って,今なお検診導入に対する議論が続いています(以前ここでも書きました)。

今のところ、日本乳癌検診学会(http://www.jabcs.jp/)の見解としては、従来通り40才以上の女性に対する隔年のマンモグラフィ検診を推奨する立場をとっています。

ところが今回ノルウエーから興味深い報告が発表されました。概要は以下の通りです。

N Engl J Med9月23日オンライン版によると、ノルウエー乳がん検診プログラムの結果から検診導入地域の乳がん死亡率は同地域における導入以前の死亡率に比べて28%低下しましたが、検診未導入地域においても18%死亡率が低下していたため、実質的な死亡率の低下はわずか10%に過ぎなかったという結果でした。

検診未導入地域でも乳がん死亡率が低下したのは、乳がん治療の進歩や乳がんに対する認識の普及およびそれに伴う早期診断と治療などが影響(time effect)したものと考えられるということです。

「実質的10%の乳がん死亡率低下」というのは本当に少ないのかどうか、という疑問もあります。また、マンモグラフィ検診の普及によって、検診未導入地域においても自主的に医療機関で乳房検査を受ける人が増えたから乳がん死亡率も低下したのかもしれません。もしそうであればそれはマンモグラフィ検診の効果とも言えるのではないでしょうか?ですからこの研究結果をもって、マンモグラフィ検診の効果は乏しいとは言えないでしょう。分析の方法によって、考察や結論は変わる可能性があるのです。

これから先もこの議論は続くと思います。早く決着をつけたいものです。

グルコサミン、コンドロイチンそしてフコイダン

乳がんとは直接関係ありませんが、最近、サプリメント、民間療法薬のエビデンスについて報告が続いています。

まず、テレビCMで鬱陶しいほど放送している関節痛に良く効くかのような印象を与えるサプリメント、グルコサミンとコンドロイチンについてです。

今回の研究は英国医師会誌「BMJ」オンライン版に9月16日掲載されたものです。
この研究は3,800人強の膝または股関節の関節炎患者を対象とした10件の無作為化臨床試験の結果を分析。いずれの試験もサプリメント使用者群と非使用の対照群を比較したものでしたが、全データの検討の結果、コンドロイチンおよびグルコサミンには、関節痛または関節腔狭小化に臨床的に意義のある効果はないことが判明したとのことです。

ただし、現在服用中で効果を感じている人については、服用をやめなければならないような有害事象はないということで、お金がかかる以外の不利益はないので服用中止を勧告する必要はないということでした。もしアロマターゼ阻害剤の副作用による関節痛に、これらのサプリメントを服用している、もしくは服用を考えている方は参考にしてみて下さい。

次に、ネット上でがんに効果があると宣伝している(本来は薬事法違反の可能性があります)フコイダンについてです。乳がんに対する効果の大規模な無作為比較試験結果は聞いたことがありませんが、今回タカラバイオから発表されたのは、富山大学大学院医学薬学研究部の林利光教授との共同研究で、ガゴメ昆布由来のフコイダンに、抗インフルエンザウイルス作用のあることが確認されたという報告です。

ただ、これはマウスの実験でウイルス量を減少させたというだけであって、人体に対して臨床的に有効であることを確認したわけではありません。動物実験で、ある効果が確認されても臨床的にはまったく無効である例は星の数ほどあります。タカラバイオではサプリメントとして売り出すようですが、どのような効果をうたって発売するのでしょうか?どうせならきちんと人体における効果も比較試験で確認して欲しいものです。

最近はサプリメントの市場が大きな利益を上げているようです。この中には、その効能の表現の仕方が薬事法違反すれすれのものが多いのが気になります。「特定健康補助食品」という位置づけがあいまいなため、一般市民にとっては医薬品の代わりになると誤解されがちです。やはりサプリメントの類は、きちんと医師の診断を受けた上で相談してから服用すべきなのです。

2010年9月27日月曜日

乳腺センターという考え方

乳腺疾患を主に扱うのは外科です。しかし、外科の中でも乳腺は長い間、虐げられていました。以前は乳房切除は外科のがん手術の入門のようなものであり、誰にでもできるものとして軽んじられていたのです。私が研修に行ったがん専門病院でも、いまだにそのような言い方をする消化器外科医がいました。

乳腺疾患は外科の中でも特別です。外科の、特にがん診療において、乳がんだけは診断から手術、補助療法、再発治療、終末期まで外科で診るからです。他の領域でもすべて外科で診ている場合もありますが、乳がんだけは他科に委ねることは稀なのです(病院によっては、一時期腫瘍内科や緩和ケア科が乳がん患者さんを診るケースはありますが)。

ですから乳腺疾患を扱う専門医は、「乳腺外科専門医」ではなく、「乳腺専門医」なのです。このことに私は魅力を感じて乳腺外科医になったわけですし、その診療内容に誇りを感じて仕事をしてきました。一身上の都合により、手術からは離れていますが、それでも長くおつきあいする患者さんとの関係に生き甲斐を感じています。


いま新病院建設に向けて、会議を繰り返しています。この新病院のテーマの一つは、「センター構想」という考え方です。今まで消化器内科、消化器外科と分かれていたものを消化器センターとして同じ病棟で診療を展開する、というような考え方です。患者さんにとっても、病棟を移動することなく、専門の内科医、外科医がいる病棟で診療を受けられるのは大きなメリットだと考えています。

今の病院では乳腺は呼吸器外科、リウマチ内科、腎臓内科との混合病棟で診療しています。新病院では、呼吸器内科、外科と一緒になります。当初、「胸部疾患センター」という呼称にする話がありましたが、わかりにくいということで見直すことになりました。私としては、「呼吸器・乳腺センター(もしくは呼吸器センター・乳腺センター)」という呼称の要望を出していたのですが、なぜか「呼吸器センター・乳腺外科」という形になっていることが判明しました。

この間、センター構想についての展望や紹介を各領域の担当者が書くように言われ、私が「乳腺センター」について書いてきましたので、当然、乳腺もセンターなのだと思っていたのですが…。この点についてある責任あるDrに意見を聞いたところ、「乳腺はセンターじゃない」と言われました。

Googleで「乳腺センター」を検索すると約 381,000 件 ヒットします。この呼称が一般的になってきたのは、やはり乳腺診療が外科的な診療だけではないからだと思います。私たちの病院においても消化器や呼吸器のように内科と外科が結合しなくても、乳腺領域は最初から「センター」的な役割を果たしてきたわけです。

いまだに乳腺領域は「外道」だと思われて軽んじられているような非常に悲しい気持ちになりました。罹患率の増加とマスコミの報道によって、乳がんに対する世間の認知度は非常に高くなりました。しかし、医療関係者においてはまだまだステータスを得るには至っていないようです。もっと努力していかなければだめですね…。

2010年9月24日金曜日

定期検査で発見される乳がん

乳腺症などで定期的に乳房検査していると、一定の確率で乳がんが見つかります。

そういうときに、
”どうして前の検査では見つからなかったんですか?”
と患者さんに言われる事が時々あります。

お気持ちはわかりますが、冷静に考えてみると、もし半年(1年)前に発見できたとしてもやっぱり
”どうして前回は見つからなかったんですか?”
と言う気持ちになったはずです。どんなに注意深く観察しても検査には限界があるのです。

そういう時には、
”定期的に検査をしていたから、こんな小さな状態で自覚症状が出る前に見つかったんですよ!”
とお話するようにしています。

以前調べた「発見契機別の乳癌の特徴」の結果では、発見時のがんの平均の大きさは、「有症状群」>「検診発見群」>「定期検査発見群」の順番でしたので、やはり定期検査、特に超音波検査は小さな腫瘤の発見には非常に有用です。定期的な検査をする場合、治癒率が非常に高い1cm以下の状態で発見することを目標にしています。もちろん非浸潤癌の状態で発見するのがベストですが、がんの性質もありますのですべてを非浸潤癌で発見するのは困難なのです。

しかし、定期的に検査していても1cm以上で発見されることはあります。それでもほとんどは2cm以下ですので90%程度は治癒しますが、この場合は前回の検査で本当に指摘できなかったのか反省することもあります。もちろん、増殖スピードが早いタイプ(トリプルネガティブやER陰性・HER2陽性の場合など)の場合には、1年の間に検出困難な5㎜以下から2cm近くまで増大することもあります。

この手のタイプのがん全てを早期発見(特に1cm以下)するのは、通常の2年に1回のマンモグラフィ検診ではもちろんですが、年1回の超音波検査を併用しても困難かもしれません。だからと言って検診対象者全員に対して半年に1回の超音波検査を併用するわけにもいきませんから難しいところです。とりあえず今できることは、小さな腫瘤や引きつれなどの微妙な変化を見逃さないように検査技師と医師の読影力を上げる努力を継続することしかありません。症例検討会や研究会、学会を通して力量アップにチームで取り組んで行きたいと思っています。

2010年9月22日水曜日

乳房再建2 乳房再建患者さんの写真集

今朝の読売新聞に掲載されていたニュースです。

乳房再建手術について知ってもらおうと、手術を経験した患者さんたちが、再建した乳房を映した写真集を制作しているそうです。

以前に比べれば、若い方を中心にかなり乳房再建手術について認知されるようになってきましたし、手術を希望される患者さんも増えてきました。それでも乳がん患者さん全体に情報が十分に行き渡っているわけではありません。子供とプールに入ったり、家族や仲間で温泉に行きたいという気持ちは乳房切除術を受けたほとんどの患者さんは持っていますが、お金がかかる、手術が怖い、術後満足できるのか不安、などの気持ちが再建手術を受けるのを躊躇させるようです。

そこで乳がん手術、乳房再建術を経験した真水さんらが、複数の医師の協力を得てモデルになる女性を募集し、写真家の荒木経惟さんに依頼して今回の写真集制作を企画したということです。モデルとして乳房再建手術を受けた30-50代の女性が19人も集まり、7月に都内で撮影を行いました。

写真集は「いのちの乳房―乳がんによる『乳房再建手術』にのぞんだ19人」というタイトルで、再建した乳房の写真のほか、手術の感想や、手術方法の解説なども盛り込んでいます。11月に赤々舎(03-5620-1475 予約受付中)から出版の予定(4625円)とのこと。なおこの代金には、医療機関などに写真集を配布する費用として2000円の寄付金を含んでいます。

手術後のからだを人目にさらすということはとても勇気のいることです。でもこの患者さんたちは、自分たちの経験を踏まえて、一歩踏み出せないでいる多くの患者さんたちに勇気を与えることでしょう。

さっそく私もこの写真集を予約しようと思います。写真集は病院に置いて乳がんと告知された患者さんたち、術後乳房再建を迷っている患者さんたちに見てもらおうと考えています。

2010年9月21日火曜日

夏休み明けの外来

今日は週2回行っている関連病院の乳腺外来の日でした。

いつものようにまだ誰も来ていない朝7:45に外来に入ったのですが、先週の金曜外来を休んだのと土曜日が特診日(集団検診日)だったため、マンモグラフィの読影が山積み状態(46人分)…。しかもカルテ診(外来患者さんのデータチェックや手紙書き)が10冊ほどあったため、マンモグラフィに取りかかるまでに時間がかかってしまい、結局読影が全然終わらないまま外来が始まってしまいました。

今日の予約と検診の患者さんは30数人…。検査で患者さんが途切れた時間も読影しながら何とか1時前に外来を終わらせることができました。思ったより順調に終わって良かったです(笑)。

休みはうれしいけどそのあとが大変なので長期休暇は怖くて取れません(泣)。

2010年9月20日月曜日

沖縄でピンクリボン見つけました!




夏休みの後半を連休に合わせて沖縄に行ってきました。
私の息子には脳症後遺症の障害があり、車椅子ということもあって今までなかなか飛行機での旅行は難しかったのですが、娘が来年受験生になるため、今年がラストチャンスと思って思い切って沖縄行きを決断しました。

台風11号の接近で天気が心配でしたが、二日目にスコールが何度かあっただけで十分に南国の暑さを堪能でき、海水浴もできてリフレッシュして帰ってこれました。結局心配した飛行機での移動は、ANAのスタッフのみなさんのおかげで大変スムーズでした(乗り継ぎはかなり時間がかかって大変でしたが…)。沖縄での観光はどこに行っても現地の人々は大変親切で、特に首里城内でのスタッフの方々の身障者に対する行き届いたサービスには驚きました。本当にありがとうございました。

一方、観光客の一部には残念な人も見かけました。美ら海水族館で帰るときのことですが、すぐ横にエスカレーターがあるにもかかわらず、なぜか1機しかないエレベーターの前にたくさんの人が待っていました。その後ろに私たちが並んだのですが、車椅子に気づいてもみな知らないふり。結局3回待ってようやく乗れました。健常者なのに、なぜそこまでして混んでいるエレベーターに乗ろうとするのか理解できませんでした。現地の人々の親切さに触れるとよけいに観光客の一部の人たちの冷たさが印象に残りました。

今回は全然乳がんと関係ない話ですみません。病と闘っている人、ハンディキャップを持ってしまった人、それぞれ大変さがあるのに、立場が違うと気づこうとしない限りその大変さには気づかない、というお話でした。

最後にちょっとだけ乳がん関係の話です。写真は沖縄で初めて見かけた(沖縄のみ?)Coco!というコンビニと、そこに貼ってあったピンクリボンのキャンペーンのチラシです。うれしくなって写真を撮ってきてしまいました(笑)。

2010年9月15日水曜日

両側乳がんと家族性(遺伝性)乳がん

片側の乳房にがんができた場合、対側にも乳がんができる確率は約5%と言われています。このうち同時に発見されるのがだいたい1/3(同時両側乳がん)、時間をおいて発見されるのが2/3(異時両側乳がん)です。

私は15年以上、乳がん診療に携わっていますので両側乳がんの患者さんをたくさん経験しました。両方とも乳房切除になる場合も片方ずつ乳房切除&乳房温存術になる場合も両側乳房温存術になる場合もあります。同時両側乳がんで両側乳房温存術を行ない、5年近くたってから片側の別な場所に新たながんができて乳房切除になった患者さんもいました。

一般的には、異時両側乳がんの場合には、第1癌よりも第2癌のほうが早期に発見される場合が多いと言われています。これは、患者さん自身が乳房に関心を持つようになったために自己検診で早期に発見されるということと、定期検査によって無症状のうちに早期に発見されるということが理由に挙げられます。

しかし、まれに第2癌が進行して発見される場合もあります。これは以前学会でも報告しましたが、高齢者であったり術後長期間たったために定期受診をしていなかったケースに多いようです。ですから何歳になっても、また術後何年たっても乳房の定期検査はしたほうが良いと思います。

定期受診している患者さんの対側に乳がんが発生した場合には、担当医としてはできるだけ早期に発見してあげたいと思っています。ベストは小範囲の非浸潤癌で乳房温存術(+センチネルリンパ節生検)だけで治癒可能な状態で発見してあげることです。でも乳がんにもいろいろなタイプがありますので、6ヶ月ごとに検査をしていても必ずしも非浸潤癌で発見できるわけではありませんし、思いのほか広がりが広くて全摘になってしまう場合もあります。こればかりは残念ながら癌の性質にもよりますので仕方ありませんが、できるだけ1期(2cm以下でリンパ節転移がない状態)の中でも1cm以下で見つけるように努力しています。

両側乳がんの場合に注意が必要なのは、家族性(遺伝性)乳がんの可能性があることです。特に若年発生の場合や母親や姉妹さんも乳がんの場合には家族性の可能性がありますので、お子さんの乳がん検診は通常より早めに(遅くても30才、できれば20才くらいから)始めた方が良いと思います。遺伝性かどうかを正確に調べるためには遺伝子検査が必要です。専門のカウンセラーがいる施設でしかできませんので、もしご希望の方は主治医にお聞きになってみて下さい。

米国では遺伝性乳がんに対して予防的乳房切除(+乳房再建)や卵巣切除を行なって良い成績が報告されています。日本では保険適応ではないこともあり、一般的ではありませんが、遺伝性乳がんが増加したら考慮しなければならない時期が来るのかもしれませんね。

2010年9月11日土曜日

乳がん検診に触診が必要な理由

触診、マンモグラフィ、超音波検査のうち、おそらく最も有効な検査手段の組み合わせは、マンモグラフィと超音波検査です。

マンモグラフィは微細石灰化の描出に優れています。もちろん腫瘤も映りますが、小さな腫瘤、特に若年者のように濃い乳腺の場合には描出能が劣ります。一方超音波検査は微細石灰化の描出能は劣りますが、若年者の乳腺においても小さな腫瘤を発見しやすい利点があります。

触診は微細石灰化はもちろんわかりません。腫瘤もある程度の大きさ(腫瘤のある深さや乳房の大きさ、硬さによります)にならないとわかりません。ですから、ある病院では乳がん検診受診者に対して、触診を行なうかわりに超音波検査をマンモグラフィに併用しています。

ではマンモグラフィと触診、どちらが腫瘤の描出能に優れているのでしょうか?もしマンモグラフィが明らかに優れているなら触診は不要になるはずです。しかし現行の乳がん検診では、視触診+マンモグラフィとなっており、触診の併用が必要とされているのです。

その理由として考えられるのは、以下のような点です。

①厚い(硬い)乳腺の表面にある小さな腫瘤は、マンモグラフィでは映らず、触診ではわかる場合がある
②上記の乳腺において、腫瘤を触知しなくてもえくぼ症状で乳がんが発見できる場合がある
③乳頭分泌のみの乳がんは視触診でしかわからない
④マンモグラフィにはブラインドエリア(撮影範囲外になる部分…1方向では内側上部が欠けやすい)があり、逆にここは触診でわかりやすい乳腺の薄い部分である

特に④は重要です。実際にマンモグラフィの撮影範囲外に明らかな腫瘤を触知することがたまにあります。

その他に私が個人的に触診が有用だと考えている理由は、触診で乳腺の硬さや厚さがわかるのでマンモグラフィ上の乳腺濃度が濃いかどうかが推測できるため、あらかじめ超音波検査を勧めることができること、触診しながら自己検診の仕方を同時に指導できること、などがあります。

また、自己検診を指導したり、乳がん罹患率が増加していることや早期発見の重要性、40才代のマンモグラフィ検診では30%近くが映らない問題点があることなどをお話ししながら触診することは、検診受診者の緊張を和らげ、乳がんに対する関心をもっていただくことにもつながり、ひいては乳がん検診受診の継続や周囲の人々へのお誘いにもつながると思っています(ただ、検診受診者が多いと話しすぎて疲れてしまいますが…)。

2010年9月10日金曜日

マンモグラフィ撮影時の制汗剤使用は要注意!

今年の夏は暑かったですね〜。札幌はようやく朝晩は涼しくなってきました。道外ではまだ残暑が厳しいのでしょうね。

ところで暑い夏、女性にとって必須のアイテム、制汗剤。最近ではS社製の銀(Ag)イオン入りのものが人気だそうですが…。

実はこの銀イオン入りの制汗剤はマンモグラフィ撮影時には要注意です。先日も疑わしい症例が1例あったのですが、このタイプの制汗剤は、マンモグラフィで見ると、まるで微細石灰化のように見えるのです。両側に均等にかかると、制汗剤ではないかと疑いますが、片側だけ残っていると、要精密検査と判定されてしまうことがあります。両側だったとしても、逆にその中に本当の石灰化が紛れ込んで写ってしまうと判断を誤ることにもなりかねません。

ですからマンモグラフィ撮影時には銀イオン入りの制汗剤は使用しないようにして下さい。

その他に、マンモグラフィ撮影時に留意したほうが良い点は、

①脱ぎ着しやすい服装にする(ワンピースは避ける)
②ネックレス(特に長いタイプ)はあらかじめ外しておき、髪が長い場合にはまとめておいて撮影の妨げにならないようにする
③狭心症などに使用するシールタイプの添付剤は胸部に貼らない(狭心症の薬であったとしてもおなかに貼っても胸に貼っても効果は同じです)
④ペースメーカー、人工乳房などの人工物が埋め込まれている方は主治医に許可を得ておく(基本的にはペースメーカーを埋め込んでいる方は断線の恐れがあるためマンモグラフィは推奨されません)
⑤妊娠の可能性がある場合は、はっきりするまで見合わせる

などです。

また乳房形成を受けた方(脂肪注入も含む)、良性腫瘍の摘出手術や乳腺炎の切開術を受けたことがある方は、診察医に必ず知らせて下さい。これらが、悪性の所見と判断されてしまうことがあるからです。

2010年9月8日水曜日

ついにホメオパシー関連会社に立ち入り検査!

ここで以前も書いたように、やはり薬事法違反容疑で捜査が始まったようですね。

「日本ホメオパシー医学協会」が、いくらHP上でレメディは薬剤ではない、病気に効くとは書いていない、と言っても、実際は病気の治療としてホメオパス(ホメオパシーの教育を受けて、1000種類以上あるというレメディを症状に合わせて選択して勧める人)が患者さんにレメディを紹介しているのは事実です。会長の講演でも、効果のあった実例として紹介しています(http://www.jphma.org/topics/topics_63.htmlやhttp://www.homoeopathy-books.co.jp/introduction/hadonosekai_4.htmlなど)。ただ、後者に書かれている「乳がん患者」の実例は、どう見ても効果があったとは言えないものです。こういう症例を「効果があった」と言っているなら、まったく科学的とは言えないおかしな話です。

今回の東京都の立入検査(関連の販売会社「ホメオパシージャパン」)が入った理由も、同社の商品広告に、特定の病気に対する効き目をうたったとみられる表記がみつかったためです。当然、医学協会側は反論しているようですが…。

ホメオパシーを信じる人はすでに国内でもかなりいるようです(芸能界にも…E.SとかS.Nとか…)。少なくとも自分の病の治療のためにホメオパシーを信じる人たちには罪はありません。問題は勧める側に法的な問題がないかどうかです。

今後もこの問題がどうなるのか見守っていきたいと思っています。

2010年9月6日月曜日

乳房再建1 乳房再建術の種類

先日、高校時代の知人で、形成外科医のE先生と飲みに行った話を書きましたが、先週の土曜に2回目の同期会をしました。そしてせっかくの縁なので、乳房再建についての講演をお願いしたところ快く承諾して下さいました。今のところ11月くらいの土曜日に病院の会議室で患者さん、職員を対象にお話ししていただく予定です。

乳房再建には様々な種類があります。私も詳しくはありませんが、簡単に書くと以下のような種類があります。それぞれに利点欠点がありますので、形成外科医とよく相談した上で術式を決めるのが良いと思います。もし乳がん根治術の際に乳房再建を考えているのであれば、そのことを主治医ともあらかじめよくご相談しておくことをお勧めします。

1.人工乳房を使用する方法

①単純人工乳房挿入法
十分な厚みをもった皮下組織と大胸筋がある場合、特に一期的(乳がん根治術と同時)に乳頭乳輪を温存した皮下乳腺全摘術に併用すると一回の手術で終了し、新たな傷も生じません。乳がん根治術後比較的早期の場合にも適応になりますが、時間が経つと組織が収縮してうまくいかなくなります。また、この場合、混合診療が禁止されているため、乳がん根治術も原則保険適応外になってしまいます。

②組織拡張法(ティッシュ・エキスパンダー法)
大胸筋は残っているものの、反対側の乳房の大きさに合う人工乳房を覆うのに十分な皮膚がない場合(通常の乳房切除術後)に行ないます。まず、全身麻酔下で乳房切除術の傷跡に切開を加え、皮膚と筋肉の下に、生理食塩水を少量入れた袋状のエキスパンダーを挿入します(エキスパンダーを根治術を受けた際に挿入しておく場合もあります)。術後1~3ヶ月くらいかけて、1~2週間に1回の割合で外来でさらに生理食塩水を加え、徐々にエキスパンダーを大きくします。十分なまでに皮膚が伸びた後3~4ヶ月ほどそのままおいてからエキスパンダーを抜去し、人工乳房を全身麻酔下で挿入します。この手術は日帰りでも可能です。乳頭乳輪はその後局所麻酔で形成します。

*人工乳房を挿入する手術は原則保険適応外です。片側で約100万円くらいはかかるようです。

2.筋皮弁法

①広背筋皮弁法
この手術法はより根治的な手術により大胸筋と広い範囲の皮膚に欠損を来たし、鎖骨下やわきの下に凹みができてしまい、人工乳房だけでは再建が難しい方などに用いられます。手術は背中の皮膚と脂肪、筋肉(広背筋)を乳房切除術がおこなわれた部位に血管(胸背動静脈)をつけたまま移植します。しかし背中の筋肉はうすいため、乳房の大きな女性には適しません。ドレーン(貯留液の排出用のチューブ)を手術後数日間留置します。背中には新たな傷ができます。手術には数時間を要し、約1週間~10日間の入院が必要です。

②有茎腹直筋皮弁法
この手術法は広背筋皮弁より大きな組織を用いることができるため、ほとんどの症例に適応可能です(腹壁瘢痕ヘルニアを起こすことがあるので妊娠希望者には不適)。腹直筋の一部を血管(上腹壁動静脈)とともに、紡錘状に切除した腹部の皮膚と脂肪をつけて乳房の領域に移植します。この方法では、胸部の乳房切除術の傷跡に加えて、下腹部を横断する水平方向の傷跡を残します。この傷はパンティの中に隠れますが、なくなることはありません。この方法は体力的な負担が大きく、出血も多量なことがあります。入院は最低2週間。通常の生活に戻るにはさらに1~3カ月を要しますが、できあがった乳房はとても柔らかく、自然です。

③遊離腹直筋皮弁法
②と似ていますが、これは血管をつなげたままではなく、一度血管(下腹壁動静脈)を切り離して移動し、顕微鏡下に胸部の内胸動静脈と吻合するという方法です。上腹壁動静脈に比べると下腹壁動静脈のほうが太くて血流が良いため、②より広い組織を採取しても皮弁壊死になりにくいと言われていますが、高度の技術を要し、手術時間もかかります。

④深下腹壁穿通枝皮弁法
③と同様ですが、これは腹直筋を犠牲にせずに腹部の皮膚、脂肪組織と下腹壁動静脈を移植するという方法です。③よりさらに時間を要します(10時間くらい)が、腹直筋を温存しますので、腹壁瘢痕ヘルニアになりにくいという利点があります。E先生が得意としている方法です。

*筋皮弁法の場合も、乳頭乳輪の再建は、通常二期的に行ないます。一期的に行なわない理由は、再建した乳房は、術後少し形が変わるため、最初に乳頭乳輪を作ってしまうと後で位置がずれてしまうためです。

とりあえずこんな感じです。
私も乳房再建は素人なので、これからE先生にいろいろ教わりたいと思っています。また新しい情報があればここにアップします。

2010年9月3日金曜日

代替補完療法7 波動療法(浄波療法)

(2010.9.8 追記  くどいかもしれませんが、以下の内容はこの治療が効果があると言っているわけでも、この治療を推奨しているわけでもありません。)
(2010.10.28 追記 新事実について最後に追加しています。)

今までここでも何度か取り上げてきましたが、少なくとも私がこれまで経験した代替補完療法使用患者さんの中で明らかに有効だと判断できた症例は1例もありませんでした。アガリクス、メシマコブなどのキノコ類(βグルカン)、キチンキトサン、漢方薬(乳癌自体に対する効果)、鉱石から抽出した液体(大学の研究所から入手)、サメの軟骨などなど…。

唯一、少しだけ効果があったかもしれないのは、鎖骨上リンパ節再発した患者さんに、転移リンパ節摘出後、化学療法を拒否されてハスミワクチンのみ投与した方が10年以上経過した今も他の再発を認めず存命中というケースのみです。ただし、これもまれに鎖骨上リンパ節に単独再発する症例もありますので外科的切除で根治していた可能性も否定できません。

そして今回ご紹介するケースは不可解と思いつつ、代替補完療法が有効だったのかもしれないと一時は思わせた症例です。もちろん、この1例をもって、この治療が乳がんに一時的にでも有効だと言うつもりはまったくありませんので誤解されないようにお願いします。その理由は後述します。

この患者さんは数年前に乳がんと診断され、手術を勧められましたが決断できず、とりあえず波動療法を希望され、外来で検査のみ行なっていました。標準療法はホルモン療法も含めて何もしませんでしたが、腫瘍は徐々に縮小したように見え、しばらくはそのままの状態で経過していました。

結局その後、数個ある腫瘍のうちの一つが徐々に増大したため、ようやく決意して手術することになりましたが、この間の経過はもしかしたら波動療法(浄波療法)が効いたのではないかと思わせるような印象でした。

しかし念力のようなこの治療が本当に効いたのでしょうか??にわかに信じがたいのでちょっとここで考察してみます。

①乳がんは波動療法で縮小したのか?
→この世の中には、科学で解明されていないこともあるので、ひょっとしたらそうなのかもしれません。一般人が聞いたらそう思うでしょう。しかし、他に理由はないかと言えばないわけではありません。この患者さんの腫瘍はその後の検査でホルモン受容体が強陽性でした。そして、発症したころに閉経を迎えていました。ですから女性ホルモンの減少によって腫瘍が一時的に縮小した可能性は十分にあります。また、ホルモンとは関係なく自然にがんが縮小することも時にあると言われています。ですから、この1例をもって、波動療法ががんを縮小させるとは言えません。

②波動療法は患者さんに利益をもたらしたのか?
→短期的にはご本人の希望通り手術せずに生活できたわけですのでメリットはあったと思います。しかし、長期的に見ると結局手術しなければならなかったのですから、治癒はしなかったわけです。そして、初診時より進行していない保証はありません。極端な話、最初から手術しておけば完全に治癒できたのに、波動療法に頼ったために治癒できない状態になってしまった可能性もあるわけです。このあたりの判断は難しいです。最終的には患者さんの生き方や価値観によりものだと思います。

③波動療法は信頼できるのか?
→これはまったくわかりません。ただ、HPを見ると、現在ではかなり手広くやっているようで、その姿勢に少し疑問がわいてきました。この治療の創始者はもともと僧侶出身で、以前に霊的な経験をしたことがあるという人です。実際に腫瘍が縮小した時には、もしかしたらこの方は科学で説明できないような特殊能力を持っている人なのかとも思いました。しかし、最近ではけっこう高額の講習会で治療者を養成したり、有料で患者さんのための講演会を開いたりと、利益主義に走っているような気がします。こうなってしまうと、波動療法の信憑性は疑わしく思えてしまいます。

以上から、波動療法は、もしかしたら特殊能力を持った人のみ、一定の効果を与えることができるのかもしれませんが、少なくとも今回の患者さんは治癒はしませんでしたし、治癒できる乳がんが治癒できなくなる危険性もありうるため標準療法の代わりに初期治療として行なうことはお勧めできない、ということになります。


2010.10.28 追記
その後この患者さんが入院し、再度経過を確認したところ、新事実がわかりました。
実はこの患者さんは、最初に急速に増大したしこりを自覚する前に、ホルモン補充療法を行なっていたそうです。乳がんと診断されてからやめたということでした。このことは担当医のH先生には話していませんでした。

つまり、こういうことです。

ホルモン感受性の強い乳がんが、HRTによって急速に増大→乳がんと診断されたためHRT中止→閉経後のため、急速にエストロゲンが減少(つまり、閉経前患者に卵巣摘出したのと同じこと)→自然にがんは縮小→3年くらいは効果が持続したが、徐々に効果が減弱し、再増大→手術

科学的に説明がつきました!波動療法はおそらくまったく関係していなかったものと思われます。民間療法で効果があったとされている症例のなかにはこのような症例も混在している可能性があることに注意しなければならないとあらためて感じさせてくれた患者さんでした。